機動戦士ガンダム ーRebuild Generationー 作:イング・ディライド
「RX-78E、開発コード『Eガンダム』。我々アナハイム・エレクトロニクスが社運をかけて開発した最新鋭のMSだよ」
船長、アルドネ・スクートニヒは言わずと知れた地球圏最大の重工業企業、アナハイム・エレクトロニクス社の再雇用社員なのだという。
宇宙世紀も130年を越え、地球圏の環境は大幅に変わっていた。一年戦争以降ずっと地球圏の重工業・兵器産業を一手に担っていた人類史上最大の企業は時代に乗り遅れ、海軍戦略研究所――通称『サナリィ』に業界最大手の座を譲っていた。互いの開発する兵器の性能差は、コスモ・バビロニア建国戦争で証明されたこともあって公然の事実と化している。そのため、アナハイムの顧客がサナリィへ乗り換えるのは世界的な気運となっているのも仕方のないことだ。アナハイムが連邦軍の正式採用MSコンペでサナリィに敗北したのはもう20年以上も前のことで、そこからのアナハイムはサナリィが設計したMSを製造する下請けとしてしか存在意義がないため、いざサナリィが自前で生産設備を持ってしまえばいつ連邦軍との契約が取り消されるか分かったものではない。自社で新型MS開発を行おうとする動きは当然のことである。
「まだ運用されてるジェガンだって、一年後の連邦軍再編計画ですべてサナリィ製のMSに変えられる予定になってる。『ガンダム』は、アナハイムの希望の星なんだよ」
ふっと息をついてコーヒーを口に含んだアルドネは、顔をしかめながら「落ち着く味だ」と呟いた。どこか達観したような様子の彼に、サディンはいらだちを募らせる。
「アンタら企業の利益競争なんてどうだっていいんだよ、あの『ガンダム』を血眼になって追っかける理由を聞いてるんだ。上司に怒られる程度で済むものじゃないだろう? 」
アルドネが羽織るジャケットはロンデニオン重工の企業ロゴが大きくプリントされた社員用のものだ。再雇用社員をアナハイムから出向の形をとって別会社名義で輸送する、そんな面倒くさい手間を踏んでいるのだ、どう考えてもただ事ではない。
「サナリィだけじゃない、今や兵器開発の分野に手を挙げる民間企業は掃いて捨てるほどある。新型を安く仕入れたい連邦軍が競争を促すために、MSの情報を売っているからな。その中でアナハイムが唯一連邦にも知らせず秘匿を守り通してきたアドバンテージ、その集大成があの『ガンダム』に備えられた最大の武器――サイコフレーム製の、複合兵装『アポロニアス』とその運用プログラムだ」
サイコフレーム、機体の操縦に 精神感応波を利用する技術『サイコミュ』のコンピューターチップを分子レベルで埋め込んだ装甲材質。第二次ネオ・ジオン戦争でアクシズ・ショックを引き起こし、ラプラス事変ではコロニーレーザーの直撃をも凌いだ。未知の領域が大きすぎる故に表立っての開発は禁止されたが、それが建前であることはRX-0、ユニコーンが証明している。
「サイコフレームの武器ってことは、要するにファンネルの発展型だろう。そんなの今どき大した問題じゃあないさ」
「複合兵装と言っただろう」
ぴしゃりと制されたサディンがふて腐れるのも構わず、アルドネの語りに力がこもる。
「そんなわけないだろう、それじゃ人間の技術レベルを超えてるぞ・・・!! 」
いよいよ事の重大さを認識した『アイオライト』のクルーに緊張が走った。
「最大船速だ!! 何としても、先を越されるんじゃねぇぞ!! 」
※※
成り立ちとしてそもそもサディンの人脈から構成されているだけあって、単なる乗組員どうしというだけではない結束を感じさせる海兵隊だが、その中でもサディンと『彼ら』との関係性はかなり特別なものだ。
「スティグ、メカニックの話はちゃんと聞いてるか? ラパーシィ、マリーがちゃんとメディカルチェックに来いって怒ってたぞ。イオナ、オレも手伝ってやるから自分の部屋の片付けはキチンとしなきゃ駄目だ。っと、あとは・・・」
「「お帰りなさい、パパ!!」」
「ああ、ただいま」
居住区内で最も破損想定部位から遠い、要するに一番安全な部屋で暮らす3人は、とある事情で『アイオライト』に乗り込んでいる数少ない非戦闘員である。
スティグ・スティングレー、ラパーシィ・ロメオ、イオナ・ミヨナ。年端もいかない小さな子どもたちだが、その技量は外見から想像できる範囲を越えている。何せ、3人はかつてサディンがとある公的職務を務めていた時に拾った強化人間なのだから。
「ねえ、あの船は美味しい食べ物積んでた? 」
「かわいいぬいぐるみは? 」
「ゲームはないのー? 」
年相応の無邪気な振る舞いをみせる子どもたちをあやしながら、サディンは会話の中でそれとなく探りを入れていく。体調、感覚、クルーとのコミュニケーション。軍艦(賊艦? )という大人ばかりの場所に子どもを乗せるという事態のデリケートさを理解しているゆえの確認でもあるが、本質はそこではない。子どもたちがニュータイプ的素質の片鱗を見せるのなら厳重に慎重に対応を考えなければならないし、そうでないなら普通の子どもとしての日常へ馴染ませることに力を入れなければいけない。
「あの『ガンダム』格好よかったね」
ばくん、と心臓が跳ねた。貨物船から『ガンダム』が飛び出した時、3人はこの部屋にいた。一瞬の後ろ姿を見られたクルーたちはおろか、外で何が起こっていたのかさえ知っているはずがない。
「『ガンダム』なんてどこで聞いたんだ? 」
「聞いたんじゃない、見たんだよ」
やはり感覚の鋭さが違うのだろうか。俗に第六感などと呼ばれる眉唾なものをアテにするイメージのある強化人間だが、戦争に特化させるために身体のあらゆる器官に薬物などでの強化が行われている。サディンたち一般人が何も気付かないところからでも重要なヒントを拾ってこられるほどの感性を持つからこそ、サディンはこの3人を頼りにしている。
「『アムロ』より穏やかだったよ? 」
「『カミーユ』より苦しそうだった」
「『ジュドー』より明るい感じがしたー 」
抽象的すぎてまったく分からなかった。そもそも3人の知るアムロ、カミーユ、ジュドーは研究所のデータだから本人の印象と同じだとは限らないのだ。
「悪いが、少し仕事が溜まっててな。いい子で待っててくれるか? 」
はあ、と重々しくため息をつくサディンの背中に元気のいい三重唱が降り注ぐ。重い身体を引き摺って、サディンが次に向かったのはブリッジである。
「あと半日もあれば着きますよ」
確かに聞きたかったのはその件についてだが、敷居をまたいですぐにぶっきらぼうに言われたらそれは腹も立つだろう。仮にも隊長であるはずのサディンの抗議は一切相手にしてもらえなかったが。
「MSの整備も終わってます。そもそも前の仕事じゃ大して動かしてませんし」
「定期のメディカルチェック終わりました。あとは隊長とラパーシィだけです~」
「艦内システム異常なし。空調航行砲撃カタパルト運用その他全部、正常だ」
「だから、まとめて言うなって言ってんだろうが!! 」
定時連絡を終わらせたクルーは、各々自分の仕事に戻っていった。ひとり放置されたサディンが大きくため息をつく。
とうに消えてしまった『ガンダム』の放つ光の軌跡を追う海兵はこのとき、導かれた先に何があるのかを考えもしなかった。そもそもの『ガンダム』が何を意味していたのかも分からないままに。