機動戦士ガンダム ーRebuild Generationー   作:イング・ディライド

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砕け、弾け、吹き飛べ

 たび重なる「外」からの攻撃を受けたケンロクエンからは徐々に空気が失われていく。特に、攻撃を受けて空いた大穴の近くは流出が激しく、相当の重量をもつMSですら内蔵コンピュータが姿勢制御のためにフル稼働を始めるほどの暴風が吹き荒れている。パイロットであるシェイルが気を失って動きようのないEガンダムは、なす術なく宇宙へと放り出された。

 

「ああ、もう!! エルフは勝手に攻撃するわ面倒くさそうなMSが出てくるわ、どうなってんのよ、まったく!! 」

 

 ぶつくさとぼやきながらも少女は手を止めない。乗機を器用に操ってコロニーから漏れ出す乱気流からいち早く脱すると、落ち着いて状況を見極めることに徹する。

 本来は月近辺で散見される海賊の実態を把握することで自警団が今後どう対応していくのかを決める、単なる偵察任務に過ぎなかったのだ。それが突然、エルフが暴れだすわバックスが出撃命令を出すわで訳が分からない。

 

「艦長が言うには、コロニー内に未確認の機体がいるらしい」

 

 だからって、いきなりコロニーに穴を空けるなんて正気の沙汰とは思えない行動をとったエルフを咎めもせず、こうも柔軟に対応できるものなのか。さすが第二次ネオ・ジオン戦争から戦い抜いてきた猛者は違う、ってそういう話でもない。とにかく。

 

「分かってるわよ、私はソレを拿捕してくればいいんでしょ」

 

 自分はMSに乗って戦うことしか能のない存在なのだから、中身のない頭を空回りさせたって仕方ない。命令に素直に忠実であることが自分の取り柄なのだ。

 愛機『マグナ・マティ』のショットランサーを構え、臨戦態勢に入ったトオノの目の前に、それは“降ってきた”。暴風に流されるがままに穴から飛び出して、『マグナ』の前を横切って遠ざかる。間違いなく「未確認の機体」だろう。

 

「テストパイロットだなんてよく言うわよ、ただの雑用係じゃない!! 」

 

 トオノは自分の技量に確固たる自信を持っていた。最新鋭の試作機を任されたことも、最前線で戦う実働部隊に配属されたことも自分が認められたからこそだと思っている。その初仕事がこのざまだ。抵抗する素振りもなく、パイロットが乗っているかどうかも怪しい、見た目だけ『ガンダム』の威光を借りて着飾った機体の鹵獲。チームを組まされたのはネオ・ジオン系最初期の出来損ないニュータイプ。愚痴が出るのも当然だろう。

 

「さっさと終わらせて帰艦するわ。エルフはそっちでどうにかして」

 

 返事を待たずにスラスターを吹かす。第二期MSの機構も模索段階にある中『マグナ』に採用されているのは外付けのブースターパックで、推進材のタンクとミサイルポッドも内蔵したユニットの全長は『マグナ』本体のそれに比しても大差ないほど巨大なものだ。当然、その大きさに見合った出力を備え、『マグナ』の出力は第四、第五世代の20メートル級MSをもゆうに凌ぐ。

 あっという間に『ガンダム』に追い付いたトオノだが、敵がビームライフルを背負っているのを見て念を入れることにした。『マグナ』のミサイルでライフルをマウントした腰だけを狙う。

 

「ダメっ!! 」

 

 照準を合わせて引き金を引く直前、エルフの『マグナ』が射線上に割り込んだ。慌てて照準をずらしたミサイルはあさっての方向に飛んでゆく。

 

「何やってんのよ、このっ・・・」

 

 機体を蹴り飛ばして失神させてやろうか、とすら考えるほどいら立ったトオノの目に映ったのは、自分に向けてライフルを構える『ガンダム』の禍々しい姿だった。

 がつん、激しい衝撃がコクピットを揺する。エルフに蹴られたのだ、と気づく前に、コンマ一秒前まで自分がいた場所にビームが刺さった。自分も反作用でしっかり離脱する辺りは、流石エルフも強化人間といったところか。

 攻撃はやまず、エルフの機体は次々と被弾箇所を増やしていく。テスト中だかなんだか知らないが『ガンダム』がビームライフル以外の飛び道具を携帯していないことは幸いだった。やや出力が高いとはいえライフルひとつで強化人間2人を相手に戦えるはずがない。現にトオノはことごとく攻撃をかわしている。

 形状がこれまでに見たどのライフルとも一致しないことには微かに不安を抱いたトオノだったが、しばらく様子を見ているうちに『ガンダム』が単調な攻撃パターンの繰り返しを行っていることに気付くとそれも消え失せた。全く読めない動きをするエルフは放っておいても、自分1人でやれる。操縦桿を握る手に力がこもった。ミサイルの一斉射、今度は仕留めるつもりで。

 漆黒を背景に爆音轟く炎が広がる。オレンジ色のフィルター越しに、3つの影が浮かび上がった。

 

「やっぱりか、間に合って良かったぜ」

 

 聞き慣れない声が耳を打つ。警戒を怠ったことを悔やみながら慌てて目をやったポップアップモニターには、2機の所属不明機が表示されていた。機体形状は『ドワッジ』に『ヅダ』と一目で分かる伝統的なデザインだが、どうやら中身を相当いじくっているらしい。第二世代MSに分類される『マグナ』と比べても遜色ない機動力で迫り来る。

 

「流石は腐れ縁、思考パターンはある程度推測できるようだな」

 

 『ヅダ』が構えるのはピストルのような小型の飛び道具がふたつ。格闘ビーム兵器の柄らしきものも確認できる。

 

「そんなに大層なものじゃない。ただ、食いつきそうな餌だと思っただけさ」

 

 『ドワッジ』の武装は内蔵式が多く判別しづらい、と早々に事前確認をあきらめた。

 ともかく、トオノは本来の目的である海賊野郎と巡り会えたわけだが、任務達成帰投せよ、とはならないのがつらいところだ。暴走するエルフ、活きのいい『ガンダム』、頭の悪そうな海賊。『マグナ』にファンネルがないのが悔やまれるが、そう愚痴ばかり言ってもいられなかった。

 

「とにかく、『ガンダム』だけでも・・・」

「そうはさせるか、ってね」

 

 流石は高機動が売りの機体、次世代のスタンダードと評される小型MS『マグナ』にもぴったりと追随する『ヅダ』はトオノのテクニックをもってしても振り切れない。

 

「うっとうしいやつ、落ちろっ!! 」

 

 『マグナ』の肩に備えられたビーム砲が火を噴くが、関節部分を狙った射撃は僅かに反れて当たらない。お返しとばかりに降り注ぐビーム・ピストルの弾幕がバックパックに無数の弾痕を穿つ。次の瞬間、ミサイルポッド内の残弾が一斉に放出された。同時に火花を上げるバックパックを切り離す――追いすがる『ヅダ』の目の前で爆発。視界がホワイトアウトしたところに、一瞬遅れて全方位からミサイルが襲いかかる。好機と悟ったトオノが機体を翻し、ショット・ランサーをしごいて突っ込んだ。

 

「ふぅ。なかなかやるねぇ」

 

 ビームで形成された斧状の刃が、巨大な槍の質量をがっちりと受け止めていた。第二次ネオ・ジオン戦争期の標準装備、ビームソード・アックス。ソード形態の最大出力で刀身を伸ばし、ミサイルが自機にたどり着く前にすべて叩き落としていたのだ。

 一連の攻防は、瞬きをするほどのスピードで進む高速機動の中で行われている。並みのパイロットなら、目で追うことすら難しいだろう。

 

「しつこいんだよ・・・」

 

 未だ経験したことのない強敵の出現にいら立つトオノのリミッターは、もはや解除寸前だった。

 

「マズい、例のヤツが来るぞ。一旦距離を取れ」

 

 水を差したのは、『ドワッジ』のパイロット。すぐに『ヅダ』が反転して遠ざかっていく。「逃げるな!! 」威勢よく追いかけたのも数秒、あっという間に距離が開いて追いつけなくなる。くそっ、と舌打ちしてスピードを緩め、冷静さを取り戻して辺りを見回すトオノの背後に存在を忘れかけていた『ガンダム』が迫る。

 

「お前がいなければ、こうも面倒なことにはならなかったんだよ」

 

 双眼のメインカメラの輝き、その奥にどす黒い何かがちらついた。なまじ優秀なゆえにそれを感じ取ってしまったことは幸か不幸か、その気持ち悪さに刺激されたトオノは怯んで距離を取る。

 

(力、現状を変える力が)

 

 ショット・ランサー基部のガトリング砲が回転し、毎秒100発あまりの弾丸を吐き出す。しかしそれらはすべて、『ガンダム』に当たることなく勢いを削がれ鉄くずと化した。まるで目に見えない何かが『ガンダム』を守っているかのように。

 

(自分を守る力、他人を守る力が)

 

 途端、『ガンダム』のビームライフルが「形状を変化させた」。連邦軍の標準的なデザインだったそれは薄く広がり、引き延ばされて『マグナ』の進路を遮る壁となる。うすぼんやりと光を発しながらもぞもぞと蠢くさまはスライムのようで、いら立つトオノをさらに刺激する。

 

(圧倒的で絶対的な力が・・・欲しい!! )

「ぶつぶつうるさいんだよ、ガンダムもどきっ!! 」

 

 『マグナ』の全推力と質量を乗せた渾身のショット・ランサーの刺突は生半可な盾で防ぎきれるものではない。どう見ても軟質な「ライフルだったもの」へ穂先が深々と突き刺さる――ガクン、とコクピットブロックが震えた。刺さったと確信したランスはスライムに届く前に止まり、暴力的なまでの速度が真正面から受け止められて打ち消された『マグナ』は跳ね返ってきた自分のスピードに殴りつけられた。

 意識が飛ぶのをかろうじてこらえたトオノ、そこに一拍遅れて次の衝撃が襲う。焦点がぶれる視界の中で、真っ直ぐ自分を追いかける『ガンダム』が見えた。右手に携えるのは『マグナ』のショット・ランサーに似た長大なハルバード。鈍く発光するさまはまるで死神の得物のように禍々しく、そしてその刺突はトオノに向けて鋭く放たれる。

 

「『アポロニアス』は軟質サイコフレーム製の複合兵装。その特徴は、パイロットの意思に応じてその姿を変えることだ」

 

 敵、とおぼしき機体が一方的に『ガンダム』に蹂躙される様子を遠巻きに眺めるサディンの脳裏に、アルドネの言葉がよみがえる。

 

「危機を感じれば盾、敵意や殺意を抱けばそれに呼応した武器になる。対艦刀クラスの実体剣から、果てはファンネルまでな。そこに質量なんて関係ない」

 

 彼の言う通り、『ガンダム』は頻繁に手持ちの武器を変えて戦っている。ライフルをシールドに、そしてハルバードに、さらにはヴェスバーにまで。そのどれもが常識の範疇を越えており、攻撃的で殺意を剥き出しにしたような形状をしている。

 

「制御プログラムはパイロットの攻撃性を高める洗脳装置みたいなものさ。対してパイロットはプログラム内のAIが求める思考を引き出すための部品の一部に過ぎない。敵として立ち向かうなら・・・そうだな、機体とパイロットの接続を切断するのがいい。機体に組み込まれたサイコフレームもバイオセンサーも、すべての制御は『アポロニアス』で一括管理しているから、それさえ取り上げてしまえばどうってことはない、ただのでく人形さ」

 

 トオノの操る『マグナ』は未だ無傷だった。初手の一撃を返された時の物理的ダメージは機体を軋ませはしたが、電気系統が無事だったお陰でそう痛くもない。しかしトオノ自身は、戦闘の進行に伴っていら立ちを加速させていた。

 『ガンダム』が狙うのは一貫してトオノである。そしてその攻撃のほぼすべてを、エルフが身を挺して防いでいた。自分より未熟で、そもそもの出来も悪く、普段から軽蔑しているエルフに守られているという実感が、トオノに形容しがたい焦燥と屈辱を与えていた。

 

「やめて、トオノじゃない。さっきのは、私だから・・・」

 

※※

 

 不思議な感覚だった。何も感じられず、何の刺激もない世界の中でまどろみながら、言われるがままに感情を作り出す。何をされたわけでもないのに怒り、憎み、殺意を抱く。なのに、藍色と深紅の対照的な2機が自分に銃口を向けてもまったく感情が動くことがない。自分の心が自分の制御を離れたような、味わったことのない感覚。

 その静かに凪いだ世界の中で唯一、シェイルの耳を打つ声があった。

 

「その機械から降りて。話がしたいの。謝らせて、ゆっくり話をさせて」

 

 夏風に揺れる風鈴のように、ころころと心地よい音色がした。出どころの分からない自分の感情を振り切って手を伸ばしてしまいたい、衝動は激しくシェイルを揺さぶる。

 しかし、一瞬のノイズがそれを遮った。

 

「行くぞ」

「応」

 

 戦場の端から傍観を決め込んでいた『ヅダ』と『ドワッジ』が動く。銃口を向けるのが遅れ、『アポロニアス』が薄く広がって防御に徹する。

 

「後ろ、とったぞ」

 

 咄嗟のことに臆病になりすぎたのだ。瞬時に展開した『アポロニアス』はモニターを埋め尽くし視界を奪い、敵に付け入られる隙を生んだ。

 ごんっ。骨の髄まで震えたかと錯覚させる衝撃が脳に直接浴びせられ、再びシェイルは意識を失う。

 

「撤退する。『アポロニアス』の回収は頼むぞ」

 

 『ガンダム』を担いで離脱する『ドワッジ』の姿を尻目に、トオノはエルフの『マグナ』を牽引して帰艦する。作戦目標は果たせず僚機はボロボロ、トオノの経歴とプライドに傷がつく結果にはなったが、深追いできる状況ではなかった。

 

「そこのMS、所属と目的を明かせ。素直に応じなければ、無事には帰さんぞ」

 

 どこから嗅ぎ付けたのか、連邦軍の駐留艦隊が駆けつけていた。旧式の『ジェガン』相手なら殲滅できる自信はあったが、今の段階で連邦を敵に回す訳にはいかない。その程度のことはバックスやセルダンに言われるまでもなく分かっていた。

 背中に備えつけられたビーム・フラッグを最大出力で振り回し、敵が怯んだ隙に全力で逃げる。エルフの機体を引っ張ってなお『ジェガン』を上回るスピード、改めて次世代MSの性能の凄まじさを実感する。

 

「覚えてろよ、この賊どもがァ!! 」

 

 負け犬の遠吠えであることは自覚していた。しかし、全身を震わせる味わったことのない感情を振り払うには、そうする他なかった。

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