機動戦士ガンダム ーRebuild Generationー   作:イング・ディライド

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束の間の平穏。そして、また・・・

 ハンガーにかけられたEガンダムとライフルの形状に戻ったアポロニアスを見て、アルドネはぶんぶんと腕を回した。

 たった十数分、しかも後衛という立ち位置にありながら、かなり多めに見積もって持たせておいたエネルギー・パックをすべて使いきるとは驚くほかない出力だが、それにしてはガ・ゾウムの損害は軽微なものだった。Eガンダムに持たせたEパックは、かつてユニコーンガンダムに装備されていた艦砲並みの出力を持つビーム・マグナムに換算して20発は撃てるほどのもので、これをすべて使いきるほどのビームならMS1機程度は跡形もなく消し飛ばせてもおかしくない。ハイ・メガ・キャノンだって複数回撃てる、そのくらいに過剰な余分を持たせておいた。

 

「こりゃあ、まだまだ分かんねぇことが山積みたな・・・」

 

 歴戦のメカニックらしい粗野な言葉で自分に活を入れて、アルドネは仕事に移った。

 

 またしても医務室のベッドの上、用途のわからない無数の管に縛られるようにして寝かされたシェイルの傍らに、アイオライトMS隊の面々が腰かけていた。

 

「俺の指示はあくまで後方支援、ミクタと協力して敵を排除しろと言ったはずだぞ」

「すみません」

 

 厳しい口調で問い詰めるサディンの圧力から逃げるように身をよじる。しかしこの狭い部屋のなか、身動きも取れない自分に逃げ場などないのだと悟ってシェイルは目を伏せた。

 

「アポロニアスは危険だ、ってのはアルドネから聞いてたな。なぜあそこまで派手に使った? 危うくミクタを失うところだったんだぞ」

「よく・・・分かりません。気がついたら勝手に動いてて、勝手に撃ってて。あの時、ジュドーさんに止められなかったら本気でミクタさんを殺すつもりだった。なぜだかわからないけど、殺さなきゃいけないと思ってたんです」

 

 霧のなかを歩くように言葉を探しながら、シェイルはゆっくりとしゃべる。それは自己の保身以上に、傷つけてしまったミクタに対しての謝罪の念が深いがゆえのものだった。

 

「何をふざけたこと言ってるんだ、敵味方の区別もつかないのか。ここが軍隊ならお前は極刑だぞ。ミクタ、お前も何か言ってやれ・・・おい、ミクタ? 」

 

 アイオライト最ベテランで、時にはサディンをも若造と罵るトリニトの激しい剣幕はトルミーをも含めた場の全員を怯ませる。彼の信条は仲間を死なせないことなのだ。自分が最も優れているとの自信からくる責任感は、決して戦歴をかさに威張り散らすような年寄りなどではない。

 しかし、実際に銃口を向けられた当のミクタは口を開くのを渋っていた。ジュドーの乱入がなければ確実に死んでいた、その恐怖からパニックになっているのかと皆が心配したがそうではない。もっと得体の知れない何かに対して怯えているのだ。

 

「実際に撃たれてみて分かる、あれは人の意思なんかじゃない。あの時ガンダムは、俺を撃つことに何の躊躇いもしなかった。あれは普通じゃない・・・」

 

 まだ若いとはいえ多くの死線をくぐってきたミクタはかなり優秀なパイロットである。経験を重ねれば、細かな動作から相手のことがある程度分かるようになる。サーベルを抜くにも左右で動作がコンマ一秒ずれていれば利き手が分かるし、スラスターの吹かし方からも咄嗟の判断力や行動パターンが読み取れる。そしてベテランのパイロットでも、命を奪うことには多少なりとも抵抗があるのだ。殺らなければ殺られる、理性が分かっていても本能が一瞬、ブレーキをかける。エースと呼ばれるパイロットは生来あるいは感覚の麻痺からそのブレーキが効かない者がほとんどだ。

 まして新兵以下、民間人に毛が生えた程度のシェイルにそのブレーキが備わっていないはずがない。何より、ミクタはあの時人の意思を感じなかった。無感情、無関心の射撃。あんなものは感じたことがない。

 

「ニュータイプみたいなことを言うんだねぇ」

 

 けらけらと笑ったトルミーだが、パイロット組が鉄面皮を崩さないのを見てすぐにやめた。ミクタの言うことはよく分かる、サディンたちはその感覚を身をもって体験してきているのだから。

 

「とにかくだ、トルミー。一通りの治療を終わらせたら連絡をくれ。ガンダムが云々、なんて原因はよく分からないが結果があれだ、処罰がないと示しがつかない。一週間の営倉入りだ」

「了解っす」

 

 妙におどけた口調でトルミーが返事をした。シェイルはこの待遇に不満こそあれど、自責の念に苛まれているうえ完全アウェーで味方のいない状況に反論する勇気もなかった。

 頼んだぞ、とトルミーに念を押して退室するサディンたちを見送った直後、入れ替りでやって来たのはジュドーだった。Eガンダムを止めた後、大破したガ・ゾウムをZZで搬入したジュドーは、そのままアイオライトに乗船していたのだ。

 

「オレはサイド1を離れるわけにいかないから長居できない。だから最低限、言っておかなきゃいけないことだけ伝えておくぞ」

 

 神妙な顔つきで切り出したジュドーは、カーテンを閉めてトルミーの視線を遮った。「カメラで見えてるよ~」と茶化す部屋の主の声に深く息を吐いたが、結局そのまま話し出した。

 

「サイコミュってのは未知の領域が大きいから気をつけろ、ってのは散々聞いてると思うが、あれは使ったヤツにしかわからない感覚がある。自分の感覚を拡大してくれる反面、意識を持っていかれそうになる・・・いや、あの場合は既に持っていかれてたか。ともかく、あれは諸刃の剣だ。周りの大人は諭すだろうがあまりマトモに受け取るな、彼らは本当の意味でサイコミュってものを知らない。そして使いこなせるようになるんだ。ガンダムが現れたってことは、時代が変わるってことだ。絶対に、あの力が必要になる」

「そんなこと言われたって・・・」

「悪いが、これ以上の手助けはしてやれない。だがオレに代わってお前を助けてやれる人間を知っている。ニュータイプのことだってよく知ってる、頼れる人だ」

 

 有無を言わせぬ強い言葉だった。その後、ジュドーはサディンたちと今後の話をしてデトロリトルに戻っていった。一度火がついた民衆を鎮めるのはそう簡単ではない、と笑いながら。

 ジュドー・アーシタは凄い人だ。シェイルはそう思った。旧式の機体で最新鋭のガンダムと渡り合い、戦いを止めることに力を注ぐ。自分の力を知り、制御して、できる最大限のことをやる。年老いてなお衰えることのない強い意思とその生き様に、憧れを抱いた。

 殺風景な営倉で考えることと言ったらそのくらいしかない、というのもあるが。このような状況にあっても両親のことを想う暇などないくらいには家庭事情をこじらせているシェイルにとって、今見えているのは過去でも遠い未来の話でもなくただ目の前の現状だけだった。

 

「疲れたな・・・」

 

 昼食を持ってきてくれた小さな子どものことが少し気になったが、無意識に自分の口から出た言葉に気力を奪われたシェイルはそのまま眠り込んだ。

 越えるべき存在というものに出会って人生の岐路を迎えたことにまだ気付かず、意味のない思考をぐるぐると巡らせるシェイルを乗せてアイオライトは加速してゆく。目的地はサイド3。いまやロンデニオン重工、ひいてはアナハイム社の心臓部とも言えるサイコミュ関連技術の運用開発を極秘裏に行う研究所が存在しているところだった。

 

※※

 

「フロンティア・サイドに行ってくる」

 

 サイド3自治議会の会期が終わり帰宅したゾルフ・アルフレッドは執事に身支度をさせ、あっという間に出かけてしまった。普段なら歳には敵わないとかなんとか言いながら冷凍睡眠カプセルに入って一週間は出てこないのに、と不審がりながらソルは親の背中を見送る。今日のワイドショーはサイド1での暴動について取り上げていた。上辺だけの薄い情報を基に感情論ばかりのコメンテーターに辟易したソルはすぐに電源を切る。

 やはり、自分の知る範囲で得られる情報には限界がある・・・。

 

「マグシー、ロンデニオン行きのチケット取って。なるべく早いやつ」

 

 畏まりました、とパソコンに向かう執事を尻目に急いで外出の準備を整える。どうせ監視つきだろうが、動かないよりマシだ。

 そういえば外出などいつ以来だろうか。別に出るなと言われている訳ではないが、自分の存在のイレギュラーさを認識しているソルは知らず知らずのうちに外に出ることを避けるようになっていた。こうやって足を動かそうと思えたのも、かなり久しいことのように思える。

 ゾルフの出立から半日と経たず、ソルは監視役の執事とともにサイド1行きのシャトルに乗った。目の前に広がる宇宙に、ひどく気分が高揚した。

 

※※

 

「クソ、こんな旧式だから、あんな賊に遅れを取る・・・」

 

 訓練飛行を行うジェガンのコクピットの中で、ビリー・ザルキッドは悪態をついた。「そりゃお前さんの腕の問題だろうよ」けらけらと笑う上官のジェスタが吹かしたスラスターの爆炎がビリー機のモニターを一瞬、ホワイトアウトさせる。編隊を維持したまま仮想敵の反応を探してレーダーのディスプレイを睨んでいたビリーは、突然のフラッシュに焼かれた目を瞬きさせた。

 

「そりゃあ、コンペイトウ直属の隊長たちは良いですよ。ジェスタ、グスタフ・カール、まだいくらかはマシな機体だ。僕だって、デルタプラスに乗ってれば“猫目”なんかに負けるわけないのに」

 

 彼が相手をした機体、トオノのマグナはサディンやトリニトとの戦闘で破損し、そのうえ手負いの僚機を抱えて手持ちの武装もほぼ空になっていた。そんなことは露知らず、思ったことを口に出したビリーはまたしても上官に笑われてムッとした。

 

「バカ野郎、デルタプラスが猫目の機体に敵うかよ。せいぜいジェガンより少し寿命が伸びるくらいだ。マトモに戦えるわけがねぇ」

 

 サイド6での戦闘から一週間、事前から聞いていた人事異動でコンペイトウ直属部隊へ配属されていた。流石は地球連邦宇宙軍の重要拠点だけあって各コロニーの駐留部隊よりはマシな機体が配属されてはいたが、それでも20メートル級の第4世代MSが大半で、最新型の第2期MS、ヘビーガンなどはごく一部のエリートたちにしか配備されてはいなかった。

 確かにビリーの言う通り、ジェスタやグスタフ・カール、デルタプラスなどはアナハイム社の黄金期を支えた傑作機であることに疑いはない。しかしサナリィの台頭から10年以上が経過した今、よほどの腕利きパイロットでなければクロスボーン・バンガードだのゲリラだのを相手取ることはできない旧式である。

 

「隊長たちには、誇りってものがないんですか? 泣く子も黙る地球連邦軍が海賊やゲリラにいいようにあしらわれて、それでもいいって言うんですか」

「構わねぇよ」

 

 冷めた声だった。目の前で急制動をかけたジェスタに追突しかけたビリーは、慌てて自分のジェガンを隊長機に倣わせる。次いでビリーの後方についていたもう1機のジェスタが滑らかに相対速度を合わせた。

 

「連邦軍はジオンの残党を狩っていりゃあいい。最近流行りの海賊なんかは宇宙の人間だけで独立しようってんだろ、それなら放っておけばいいさ、奴らは地球の人間なんか眼中にないんだからな。そこら中で戦線を展開してるジオンを倒していればスペースノイドへの恩は売れる。奴らは地球に本気で手を出さない。Win-Winってやつだろ」

 

 それはコンペイトウのような安全地帯にいるから吐ける台詞だ、と口に出すほどビリーは理性を失ってはいなかった。ただ、怒りを通り越して呆れを感じただけである。連邦軍の中でも中枢に近い人間、あるいは連邦政府すらもこんな日和見的な見解をしているのだろう。

 

「そうですか」

 

 できるだけ感情を込めずに返事をして、ビリーは本来の仕事に全力を尽くすことにした。駐留部隊にいた頃から乗っているジェガンはコンペイトウで改修が行われ、カタログスペックが大幅に上昇している。しかし、OSにまで手が加えられたせいで操縦の感覚は別機体と言っても差し支えないくらいに変わってしまっていた。

 早く慣れなければならない。楽観に染まる周囲に引き摺られることなく、せめて自分だけは市民を守る高潔な軍人の本分を忘れずにいたいと思った。

 

 

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