Angelbeats!-新しい生命-   作:ミツバチ

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episode 1
始まりに向かう時間


【3月下旬 晶の家】

 

「なんで俺までそんなことしなきゃならねぇんだよっ!?」

 

朧げな感覚に突然飛び込んできた騒音で強制的に覚醒した。ゆっくりと目を開け、寝ている布団の間から出した首だけで時計を確認する。

 

「…………………」

 

午前五時ジャスト。部屋の壁に掛けた電波時計は、今日も正確な時間を知らせてくれている。冬の寒さは既に身を潜め、春の暖かさが縮こまった身体を溶かすように包む三月最後の日は、そんな大声から始まった。カーテンの隙間からは、未だ登らぬ太陽を待ち侘びるように薄い影が差している。

 

「朝っぱらから大声で何を騒いでんのやら……」

 

下にいる者たちが誰なのかすぐに察しはついた。俺も含め、いま下にいる者たちは四月の一日から公立の高校へと進学するのだ。高校生にもなる身が聞いて呆れる。勝手に上がり込んでいる事に驚かない自分自身にもほとほと呆れはするが。

 

「あいつらと居るとどうもなぁ……」

 

苦笑いを浮かべながらも、とりあえずパジャマから部屋着に着替えて声がするリビングに向かう。

 

「あのなぁ、お前ら…」

「おっ、晶!おはよ」

 

リビングのドアを開けると、一番近くにいた青髪の少年がそれに気付いて話し掛けてきた。

 

この青髪の少年は日向秀樹。俺の幼馴染の一人で「バカ」である。小・中と町の野球クラブに所属していたので野球の実力だけは大したものだが、「バカ」である。

 

「ああ、おはよう。で、朝っぱらから何を騒いでんだお前らは?」

「勝手に家に入ってる事には、ノーコメントなのな…」

 

日向に話し掛けるともう一人の茶髪の少年が最もなツッコミをしてきた。

 

この少年は音無結弦。幼馴染第二号。日向とも親友同士。その割りに頭が良く将来は医者を目指しているらしい。両親は二人して外国に出張中で、病弱な妹と共に暮らしている。

 

(だってなぁ……)

 

二人の向かいに座っている少女を一瞥する。

 

この少女は仲村ゆり。幼馴染第三号。三人弟妹たちの長女である。性格は破天荒ながらも裕福な家庭で育っている。仇名はゆりっぺ。

 

「ゆりがいる時点で防犯も何も意味ないだろ?」

「ははは、そりゃそうだ……」

 

渇いた笑いと共に音無結弦は素直に頷く。俺たちの共通認識は『ゆりに防犯は無意味』だ。

だってよ?登校初日から職員室の鍵を普通にピッキングする奴だぜ?況して家の鍵を開けるなんざ、テストより簡単に違いない。

 

「ちょっと!?それどういう意味よ!」

 

ゆりが不本意とばかりに怒りだす。その声がまた大きいこと…。お前ら、まだ早朝だってことを忘れてないか?

 

「そのまんまの意味だろ?」

 

そして、黙っておけばいいものを日向が余計な一言を挟む。

 

「日向くん、何か言ったかしら?」

「イ、イエナンデモアリマセンヨ?」

 

結果、ゆりの違和感バリバリの晴れやかな笑顔で強制沈黙させられる羽目になった。こういう所がバカだと言っている。

 

(…ていうか、ゆりの目が一切笑ってねぇ……)

 

怖っ!!

 

「別に他意はない。それに、まだ早いんだから大声出すと近所に迷惑だ」

「だな。まだ陽も登ってねえし」

「あら?それで逃げたつもりなのかしら?」

「でも結局、鍵開けたのゆりっぺだし───」

 

───拝啓、全人類の神様───

〈こいつには学習能力というものを御与えにならなかったのでしょうか?〉

 

「日向君?」(ニコッ)

「ど、どうもすみませんでしたっ!!」

 

このまま永遠にエンドレスするんじゃないだろうか。ゆりに睨まれて、こんどは土下座へと移項する日向。その日向の姿を見て浮かんだ言葉をそのまま浴びせ掛ける。

 

「日向よ、お前にはプライドというものが無いのか?」

「だってよ~ここで謝っておかないと後で何をされるか分かったもんじゃねえじゃん…」

「へぇ~…そこまで期待されたら『殺らない』訳にはいかないわね~♪」

 

声が震えているのがなんか怖い。

 

「───って何を言わせんなよ、晶!!そして、ゆりっぺ!?字が違いませんかねぇえ!?」

「一回死んどけ♪」

「ま、待てゆりっぺ!?話せば分か───」

「はっ!!」ドカッ!!

「ゴフッ!!!」

 

日向の顔面にゆりの右ストレートが炸裂。日向は顔面に拳の痕を残して、椅子ごと床に倒れた。

 

「なんで…俺…だけ」

「残念ですがご臨終です…」

「いやいや、気絶しただけだから」

 

床で気絶した日向に手を合わせてボケる音無にツッコミを入れる。こいつも何気にノリはいい。だが音無がそれをやると冗談に見えないからやめてほしい。何はともあれ、一人撃沈である。

 

「それよりさっきの質問の続きだが、何の話してたんだ?」

 

(まあ、聞かなくても分かるけど……)

 

過去の既視感からヒシヒシと嫌な予感が伝わって来てるし。

 

「その件は我らがリーダー様から───」

「よく聞きなさい長谷川くん!高校生初のミッションは、始業式を私達の手でぶち壊す、もとい盛り上げることよ!!」

「今何か変なノイズが入らなかったか!?」

「気のせいよ♪」

「満面の笑みが怖ぇよ!!」

 

黒い…笑みが黒いッスゆりっぺ……。ともかく、まあ大体予想通りだ、ノイズ以外……。

 

俺たちは何かイベントがある毎に、ゆりの命令により騒動を巻き起こしてきたのだ。任意ではなく実質強制なので逃れようにも逃れられないのが悲しいところ。なので、言わずもがな教師たちやらに目の敵にされている。噂では「ブラックリスト」なるものに載せられてしまっているとかなんとか。これは俺のもう一人の幼馴染からの情報である。嫌ならば無視すればいい、とは思うが無視したらしたで後が怖い。

 

そんな俺たちも4月から高校生。高校生こそは穏便に過ごしたいという俺たちの切実な願いは、神に届く前にゆりによって叩き落とされたらしい。ゆりに逆らっても無駄だという事は中学生の時に嫌という程思い知っている。

 

(なんかあったな…。神的能力を持った少女に振り回されて学生生活を送る話………)

 

「で、今回は具体的に何をやるんだ?」

「あら。話が早くて助かるわね」

「単に諦めてるだけだよ…」

 

音無の非難を軽く無視し、ゆりは説明を続ける。

 

「ジャンルは問わないわ。基本的に何をやっても自由よ。面白ければそれでいいわ。盛り上げるネタは自分たちで考えなさい。もちろん、一番盛り上がらなかった人には世にも恐ろしいバツゲームを受けて貰うわよ!!」

「やっぱりやるのな、そのバツゲーム方式……」

「当ったり前じゃない♪」

 

そう、ゆりの命令にはこれがある。ハッ○ーセットのオマケ宜しく、もれなくえげつないバツゲームが付いてくるのだ。その内容は様々だが、ゆり自身が世にも恐ろしいと豪語するだけのことはある。一日逆立ちで過ごす(トイレや食事も逆立ちで行う)、ひたすら先生に質問し続ける(それがいくら簡単であっても質問し続ける)などがその一例である。誰もこんな事をやりたくないし、そもそもバツゲームなんて進んで受けたいと思う奴は居ない。俺も嫌だし。というか地味に過酷だし。だから誰もゆりの命令に逆らえないのだ。

 

俺はしばらく考えてからゆりに質問を返す。

 

「なあ、今回は助っ人ありなのか?」

「やる気になってくれたのは嬉しいけど、やっぱりあなたって抜け目ないわね」

「今の言葉をそっくりそのままお前に返すよ」

「やだ、オカマ!?」

「口調じゃなくて意味の方だ!!」

「冗談よ♪」

「お前の冗談は冗談に聞こえないんだよ…」

「まあ、そんなことはどうでもいいじゃない」

「さらっと流しやがった…」

「そうねぇ……四人までならいいわよ?」

「四人、かぁ……」

「多からず少なからず、だな…」

 

ゆりの命令は、こういうルールなんかはしっかりしているから不思議である。

 

「よし!この話はまた後で考えるとして、腹減ったし朝食にするか。お前等も朝ごはんまだだろ?作ってやるから、リクエストあるか?」

 

今更だが時系列を確認しておくと、現時刻5:30。当然ながら、朝食など食べている筈がない。

 

「待ってました!!俺、パンとベーコンと目玉焼きな♪」

 

さっきまで気絶したふりをしていたバカ1名が、朝食という言葉の魔力に負けて我先にと注文を叩きつけてくる。

 

「…ったく。都合のいい時に起きやがって……」

 

全面的に同意する。

 

「はははは!!悪りぃ悪りぃ」

「あっ、俺はフレンチトーストとオムレツな」

 

それでもしっかり注文する辺り、こいつもこいつでちゃっかりしてんな…。

 

「ゆりはどうする?」

「私は御飯に味噌汁、それと焼き魚」

 

洋・洋と来て、まさかの和食だった。

 

「あのなぁ……。ここまで洋食できたんだから合わせようとか思わないのか?」

「知らないわよそんなの」

 

即答だった。

 

「ていうか、なんで和食?」

「ん~、気分?」

 

朝食を作り難くした理由が酷かった。凡用性ナンバーワンの言葉として世界史に残りそうな発言を、可愛いらしい首かしげ付きで暴露してくれやがりました。神様はこいつに社会性というものを御教えにならなかったのだろうか?

 

「はぁ……もういいから、出来るまでテレビでも見てくつろいでてくれ……」

 

とりあえず、怒るだけ無駄なので呆れつつも食事の用意に取り掛かる。

 

さて何から作ろうか……。

 

─────10分後♪

 

「まじで作りやがった…」

「あの短時間で…」

「しかもめちゃくちゃ美味しいじゃない…。あなたって一体何者?」

「ゆりも知ってる通りただの高校生だ。冷めるから早く食べろ」

「ごちそうさん!!」

「「早っ!」」

「いや~あまりにも美味すぎてつい…」

「確かにうまいなけどなぁ…」

「そう言ってくれるのは嬉しい限りだが、ゆっくり食べろよ」

「育ち盛りの食欲を舐めるな!」

「自慢気に言うな」

 

10分後、残りの朝食は跡形もなく俺たちの腹の中へと消えていた。

 

─────────

 

「さて、朝飯も済んだことだし、買い物に行くか」

「そうね……」

 

洗い物を済ませ、時計を確認するとちょうどいい時間帯だった。

 

「今からなら開店時間ぴったしに着くかしら」

「その後はカラオケだったな」

「おう!中学最後の歌い収めだ!派手に騒ぐぜぇ!!」

「騒ぎ過ぎて追い出されるような展開は御免被るがな」

「平気平気!そうなりゃ力づくで黙らせるから、日向くんが」

「そうそう俺が───ってなんで俺!?」

「バカだから」

「アホだから」

「ホモだから」

「ちょい待て!!」

 

示し合わした訳でもないのに、見事にコンボが決まった。いや〜、綺麗に決まると気持ちがいいな〜。

 

「ゆりっぺと晶のはまだ分かる!」

「認めたな」

「認めたわね」

「だあぁぁああ!!もう、うるせえっ!!だがな、音無!お前の発言は誤解だ!俺はホモじゃねえっ!!」

「なんだ、違うのか……」

「なんだ、その露骨なガッカリした表情は!?」

 

今日もバカは元気がよろしい。バカは弄り甲斐があって大変楽しい。そこだけが唯一のメリットである。

さて、実のところ今日は皆でカラオケに行く予定があった。当初は駅前のデパートで待ち合わせをしていたのだが、何故かこうして俺の家に集合してしまっていた。何だろなぁ、この無駄な一体感は……。

 

ガチャ。いつものバカ弄りをしていると、俺らとは二周りほど小柄な少女が目を擦りながらリビングへと入ってきた。

 

「お兄ちゃん、おはよ~…」

「ああ、初音。おはよう」

 

この小さな少女は音無初音、音無の妹である。昨日、音無は医者の勉強、初音は春休みの宿題をするために俺の家に泊まっていた。俺の両親は二人揃って医者なので、家にはバカほど医学の本があるのを話したら音無が是非見たいと言い、それから定期的に家に来ている。初音はつい一週間前まで病院に入院していた。その所為でまだ宿題がかなり残ってしまっていた。そして俺に臨時教師として白羽の矢が立ったという訳だ。音無も頭は相当良いのだが、頼まなかった理由が医者を目指す兄の邪魔をしたくないというのであれば致し方ない。そんなわけで兄妹揃って俺の家にお泊りすることとなったのである。

 

「おはよう、初音ちゃん」

「おはようございます晶さん。昨日はありがとうございました!」

「どういたしまして。全部終わったの?春休みの宿題」

「はい!あれだけの量の宿題を1 日で終わらせられるとは思いませんでした。本当にありがとうございます!」

「俺の方もありがとな?かなり役に立ったよ」

「あんなもんでいいならいつでも見に来ていいぞ?」

「ああ。助かる」

 

正直、俺は小さい頃に大体のものは読み切ってしまっていたから、処分しようと思っていたのだ。捨てずに済んだのだであればそれで良いのだ。

 

「それより初音ちゃんは朝食、何がいい?」

「あっ、それじゃパンと牛乳を…」

「初音ちゃんは良い子だ〜…」

 

誰かさんとは大違い。そんな心の声を乗せてその誰かさんを見やると明から様に知らんぷりをしていた。こんにゃろう……。

 

「え?あ、あの…」

「ん?あ、いやいや何でもないよ。朝食、ちょっと待ってて?」

「は、はい…」

 

俺は初音の朝食を作った後、着替える為に一旦寝室に戻った。

 

─────────

 

「そろそろ行くわよ?」

「えっ?まだ早くないですか?」

「カラオケの前にデパートで買い物するのよ。初音ちゃんの退院祝いも買いに行くのよ?」

「わあぁ……。ありがとうございます、ゆりっぺさん!」

「うんうん、素直でよろしい。ついでにそのあだ名もやめなさい?」

「ゆり、顔が引き攣ってる…」

 

初音ちゃんも朝食を取り終え、デパートに繰り出す為の身仕度を済ませている。今日はデパートの新装開店の日なのだ。混み合うことは簡単に予想できる。デパートの開店は7時。なので空いている今ぐらいちょうどいいだろう。

 

「悪いけど先に行っててくれ。後で追いつくから」

「何よ?用事でもあるの?」

「ま、用事っちゃ用事だな。先に済ませなきゃならないことではあるし」

「ふ~ん……まあいいわ。先に行くわよ」

「急いで来いよ?」

「ああ」

 

手を振ってゆり達を見送った後、俺は自室の前にあるドアをノックする。

 

「お~い起きろ~」

 

中で寝ている筈の少女に呼び掛けるが返事はない。仕方なく、ドアを開けて中に入る。そして案の定、ベッドの上で規則正しい寝息を立てて未だ夢の中にいる少女がそこにいた。

 

「お〜い姫野?そろそろ起きろ。時間だぞ〜?」

 

寝ている少女───姫野の身体を揺すってみるが起きる気配がない。身動ぎ一つしないところを見ると、完全に寝入ってしまっている。

 

ところで、何故ここで姫野が寝ているかというとそれは前日の夜に遡る。

 

─────────

 

音無兄妹が来た後のこと。初音ちゃんの勉強もひと段落付き、俺も部屋で一服していると姫野から着信があった。

 

「もしもし?」

『あ、長谷川くん?いま大丈夫だった?』

「ああ。初音ちゃんの勉強も大方終わって、今は自室で休憩中」

『良かった。それでねお願いがあるんだけど…』

「…いいよ、部屋はまだ開けてあるから」

『うん。ありがとう長谷川くん』

「気にすんな」

 

そんな会話だったが、俺にとっても姫野にとっても、これはいつもの会話だ。

 

しばらくすると、自室の窓がノックされる。カーテンを開けて窓を開けると、カバンを一つ持った姫野がそこにいた。そのカバンの中身はパジャマやら携帯電話やらである。姫野御用達のお泊りセットだ。姫野の家は隣でベランダとの間は近い。だがそれでも結構な幅があり、初めの辺りは俺は気が気ではなかった。

 

「ごめんね?いきなりお邪魔して」

「別に、いつものことだ。小さい頃はよく泊まってたし、そんなに畏まらなくてもいいんじゃない?」

「うん。でも泊めてもらうのは私の方だし、そこはきっちりしとかないと」

「相変わらず律儀だな」

 

これもいつもの会話。そしていつも通り自室の前にある部屋に案内する。ベッドと机以外は何もない、昔は物置として使っていた部屋である。本当はもっとちゃんとした部屋もあるのだが、本人がここでいいと頑として聞かなかった。仕方なしに姫野が来た時はこの部屋に通している。

 

だが、何気にこの状況はまずいのではないだろうか。音無たちは姫野がお隣さんだとは知らない。その姫野を知らないうちに家に上げて、挙句泊めているとなれば大騒ぎになりかねない。さらに、悪いことは重なる訳で、翌朝になってみるとゆり達が不法侵入していた。お陰で起こすに起こせなくなり、結局今までずっと寝させていたのだ。

 

閑話休題。

 

ちなみにこの姫野 桜という少女は折り目正しく恐ろしく真面目だが、一度寝るときっちり8時間寝ないと起きない体質なのである。なんというか、無駄に見本に忠実なのだ。だが、すぐに追いつくと言った手前さすがに時間がまずいので、この眠り姫を起こすことにする。

 

「お~い姫野、起きろ!」

「………すぅ……」

 

ダメだこりゃ……。

 

さすが眠り姫、ちょっとやそっとじ

ゃ起きそうにない。こうなれば最終手段を使うしかない……。後でお叱りでも何でも受けてやるとしよう。

 

「……えいっ!!」

「…っ!?」

 

覚悟を決めて姫野の胸を鷲掴みにする。平均以上の大きさの二つの膨らみは、パジャマの上からでも十分過ぎる程自己主張している。しかも、とてつもなく柔らかい。

 

「長谷川くん……」

 

そして完全に覚醒した姫野が、真っ赤な顔で俺を睨んでいた。相変わらず、この手の行為には耐性がない姫様である。

 

「はい、おはよう。ゆりが集合かけたみたいだから朝食食べていくぞ」

「……ねえ長谷川くん、いきなり寝ている女の子の胸を鷲掴みにするのはどうなのかな?」

 

振り返るとすんごいいい笑顔で姫野が睨みながら、そう言ってきた。姫様、目が怖いです………。

 

「後でちょっとお話しようね?」

「は、はい……」

 

姫野さんのお説教タイム決定……。

 

───20分後。

 

未だにご立腹の姫野を連れてゆり達に追いつき、駅前のデパートに着いた。。

 

「カラオケの予約時間までまだ時間があるから、10分前にまたこの場所に集合しましょ?それまで自由行動よ!それじゃ、解散!!」

『おう!』

「はい!」

「ああ」

「うん」

 

ゆりは、そう言った後真っ先に何処かへ消えていった。その行動の速さは既に馴染みのものである。

 

「お兄ちゃん一緒に行こう」

「ああ、いいよ」

「俺は見たい店があるから」

「私も、少し見たいものあるから」

 

他のみんなも、散々に別れていく。その中で、一人だけ残念な者がいた。

 

「なあ晶、音無。俺も…」

『断る』

 

「まだ何も言ってねえだろっ!?てか、なんで一緒に行ったらだめなんだよ!!」

「キモいからだ」

「バカと一緒に行たら憑るだろ」

 

今回もバカ弄りは息ぴったりである。

 

「あんまりじゃないっすかね友達として!!!」

『はあ?』

「何言ってるのこの人、みたいな反応しないでくれません!!」

『いや、だってねぇ…』

「『俺ら友達じゃないし』みたいな顔もやめろっ!?」

「うるさいから先に行くぞ?」

「私も行くね?」

「ああ」

「はい♪」

 

弄るだけ弄って放置。ひどい奴が居たもんである。僕たちだけど。

 

「大体だな!お前らは俺に対して冷たすぎなんだ…って、ちょっと待てお前らーーーーーーーーっ!!!」

 

なんか後ろが騒がしいが気にしないでおこう。同類と思われたくない。ほら、周りの人がバカを見る目で見ているじゃないか。

 

「さてと、とりあえず…」

 

俺はまず、改装前に常連だった店に足を向けた。

 

────────────

【音無side】

 

俺は初音と一緒に見て回ることにした。いくらそれなりの歳だと言っても、まだまだ危ない感じが抜け切れていない。それに初音はまだ病み上がりなのだ。何かあった時の為に一緒にいた方がいい。

 

そういえば、日向は結局諦めたようだ。まったく、五月蝿い奴である。

 

「初音、まずはどこから見て回ろうか?」

「えーと…それじゃ洋服屋さんに行ってみていい?」

「ああ、いいよ」

 

俺たちは、一先ず洋服を見に行くことになった。

 

「わぁ、綺麗な洋服がいっぱい!!」

 

初音は店に入るなり感激の声を上げた。ずっと入院していた初音にとって綺麗な洋服は珍しいのだろう。お陰様で、俺の事を忘れて洋服に夢中である。

 

(こりゃ、まだまだ掛かりそうだな…)

 

その為、店の外で待つことにした。

 

「のど乾いたな…。コンビニで何か買うかな」

 

少しの間なら大丈夫だろうと判断して、俺は店の向かいのコンビニに向かう。

 

「……………ん?」

 

交差点で待っていると、大勢人がいる中で鼻歌が聞こえてきた。鼻歌なんてそこらへんでいくらでも聞こえるし、何も気に止めることはないはずだったのだが、なぜか聞き入ってしまった。何故なら───

 

(俺、この歌知ってる!)

 

俺は無意識のうちに歌っている人を探していた。その人物はすぐに見つかった。歌っていたのは女の子だった。銀髪で白いワンピースに麦わら帽子をかぶったとても綺麗な子だった為、人混みの中でも一際目を引いた。そして気づいた時には、俺は反射的にその子の肩を叩いていた。

 

「あの…」

 

「……?何かよう?」

 

鈴を転がしたような綺麗な声だった。

 

「あ、いや君が歌っている鼻歌が気になって…」

「そう…?」

 

どうやら口数は少ないらしい。反応が薄い。

 

「その歌、どこで…」

「わからない……。だけど、夢の中で聞こえてきたの…」

「そうなんだ…」

「…」

「…」

 

何故だろう……。直感だが、この子とどこかで会ったことがあるような気がする。

 

「あのさ…俺達どこかで…」

「おーい、お兄ちゃーん!」

 

だが、その答えを聞くことは叶わなかった。買い物を終えた初音が探しにきたらしい。

 

「もう!お兄ちゃんたら、いつの間にかいなくなっちゃうんだもん!びっくりしちゃったよ!」

 

「あ、ああ……ごめん、ちょっと喉が乾いてさ」

 

俺はさっきの女の子の事が気になって周りを見渡して見たのだが、もうどこかに行ってしまったみたいだ。

 

「どうしたのお兄ちゃん?」

「あ、いやなんでもない…」

 

あの子の事が気になったが、初音が次の場所に引っ張って行こうとするので諦めた。それにこれまた直感だが、また会えるような気がしたのだ。

 

(しかし、一体どこで会ったんだろうか……?)

 

それからしばらくあの子の事が頭から離れなかった。

 

─────────

【晶side】

 

俺は改装して一回り大きくなったCDショップに来ていた。音楽はよく聴くので、ここへはよく来ている。

 

「何かいい曲ないかなぁ。」

 

曲を物色していた俺は一枚のCDが目に止まった。

 

(Girls Dead Monster……)

 

聞いたことがある。確か女の子四人組で、中学生でデビューと同時にオリコン一位を獲得した、今人気のロックバンドだ。俺も聴いてみようと思っていたが発売そうそう在庫が切れてしまい、今までずっと売り切れ状態だったし、入荷できるような大きな店は残念ながらこのデパートにしかないのだ。

 

「へぇ、入荷してたんだ」

 

俺は思わず手に取っていた。入ったとは思っていた既に完売していると思っていた為、これは思わぬ収穫であった。

 

「へ~…聴いてくれるんだ」

 

そんな声をいきなり後ろから声をかけられて、俺は咄嗟に振り向いた。

 

「ガ、ガルデモの岩沢まさみさん!」

「お、名前知ってたんだ」

 

なんと、今まさに買おうとしていたガルデモのボーカル、岩沢まさみさんがいたのだ。

 

「なんで岩沢さんがこんなところに!?」

「私もCD買いによく来るんだよ。

そしたら、今日はたまたま君が私達のCDを手に持ってるのを見かけたんだよ」

「そうなんだ…」

 

買うところを本人に見られるのは、なんかちょっと恥ずかしい。だがそんな気分は、岩沢さんの次の一言で完全に消し飛んだ。

 

「それより君、女なのに喋り方が男みたいだな」

「俺は男だーーーー!!!」

 

出たよ、俺が一番言われて嫌いな言葉ベスト1位!!昔から、何故か女に間違われてしまう。確かに中性的な顔立ちだけどさ!でも俺、男だから!男どもに言い寄られた時の俺の気持ちは誰にも分かるまい!!

 

「え!?あ、まじで?外見だけだと見間違えるな……」

「まさか女性にまで間違われるとは……」

 

男性に女だと間違われたことはあるが、女性に間違われたのは初めてだった。軽くショックである……。

 

「ま、まあそんなに落ち込むな…」

「いや、ちょっと無理っす…」

「ははは…それより、なんでそんな他人行儀なんだ?見た感じだと私と同じ中学生だろ?あ、4月に高校生になるけど…」

「へぇ…。んじゃ俺達同級生なんだな。それじゃ岩沢って呼び捨てにしていいか?」

「ああ、いいよ。私もそっちの方が気が楽だ」

「それじゃ、これからもよろしくな岩沢。俺の名前は長谷川晶。晶って呼んでくれ」

「ああ、こちらこそよろしく晶」

「また、どこかで会えるといいな」

「そうだな。あ、そろそろ時間だからいくな?」

「ああ、またな岩沢」

「ああ、またな晶。それと曲聴いてくれてありがとな?」

「これからも、いい曲頼むぜ」

 

俺は岩沢と分かれ集合場所に向かった。きっちりガルデモのCDも買ってある。いや〜、思いがけない出会いがあったな……。 またどこかで会えるといいな。

 

──────────────

 

そして、みんなで集まってカラオケの部屋にいるのだが、何故か俺達(ゆりと初音、姫野を除く)はすでに喉がかれていた。その理由はというと……。

 

(絶対にゆりにうたわせるな!!)

(ゆりに歌わせたらどうなるか、わからないからな!!)

(それじゃ、なんで俺達はカラオケにきたんだ?)

(だって、今の今まで忘れてたんだよ!!)

(なんで、そんな大事なことを忘れてたんだよ!!)

 

「ちょっと、何三人でこそこそやってるのよ!!ていうか私にも早く歌わせなさい!!」

「そうですよ。お兄ちゃん達だけずるいです!!」

「くすくすくす……」

 

当々ゆりがしびれを切らし始めた。そして姫野は状況がわかっているのか、笑いを堪えていた。笑ってないで手伝いやがれ!!

 

(まずい!もう俺歌えねぇんだけど!)

(音無、なんか策ないか?)

(ねぇよ、んなもん!!てかカラオケにいるんだから、歌うしかないだろ!!)

(だな。というわけで日向、よろしく。)

(だから、俺もう歌えねえんだって!)

(俺だってもう歌えないしさ。)

(俺ももう歌うのは嫌だ。)

(だから…)

(日向、よろしく!)

 

「だから、俺もう無理なんだってーーーーーー!?」

 

(あ、ばか!)

(し、しまっ…!)

 

バカが大声で歌えない宣言してくれちゃいました。計画丸つぶれである。

 

「日向君、もう歌えないなら早く私にマイク渡しなさいよ!!」

「い、いや今のは…」

「い・い・か・ら!!早くマイクを渡しなさい!」

『あ……』

 

つ、ついにゆりの手にマイクが!

 

(まずいぞ、おい!)

(ひぃ、お助けをゆりっぺさまーー!!)

(お前の事はどうでもいいが、初音が…)

(ちょっ、さすがにひどくねぇすか!?)

(ああ、そうか。まだ、退院したばかりだから、ゆりの歌聴いたら体壊しかねないな…)

(ああ……確かに、それはちょっと良くないかも……)

(そうなんだよ!そうなったらかなりまずい! )

 

「それじゃ、いくわよー!!」

 

(まずい!!!)

 

それからの俺と音無の動作は早かった。俺は持っていたヘッドホンを音無に渡し、音無はそれを初音の耳にかけた。

 

「初音、歌が終わるまでこのヘッドホンをかけててくれ。」

「なんで、お兄ちゃん?」

「えーと…」

「仲村さんの歌は音が大きいから耳を悪くする可能性があるの。だから終わるまでヘッドホンをかけて小さい音で聴いててね?」

 

「うん、わかった!」

 

(サンキュー、姫野)

(気にしないで。それより私達も…)

 

俺達は初音にヘッドホンをかけた後、備え付けられているヘッドホンをかけた。ただし、数は三つ。と、なると…。

 

「あ、おいお前ら…」

 

聞こえたのはそこまでだった。俺は初音のヘッドホンがつながった音楽プレイヤーの曲をスタートさせる。偶然、ゆりが歌おうとしていた曲が入っていた。

 

(音楽好きで助かったぜ……)

 

「ギャアーーーーーー!!!」

 

日向がのたうちまわっているのを見ながら俺と姫野と音無はヘッドホンをしっかりと握りしめていた……。

 

────────────

 

【夕方】

 

「はぁ〜!気分爽快ね!」

 

カラオケの帰り道、俺達は全国チェーンのファーストフード店に入った。やっぱ良いよな、マッ○。

 

「そうだな」

「ああ」

「はい、とっても楽しかったです!」

「…………」

 

一人だけ、ボロ雑巾のようになって机に突っ伏している奴がいるが気の所為だろう。

 

「それよりさ───」

「無視すんな!!」

「うるさいぞ、ゴミ……いや、日向」

「いまお前、自分の友達をゴミと言いかけなかったか!?というか言ったよな?いまゴミって言ったよな!?」

「何言ってんだ。云われのない言いがかりはやめてくれ」

 

無視して話を進めようとしたが、日向が起き上がってしまった。

 

「お、日向どうした?」

「どうした?じゃねぇ!!姫野はともかく二人だけヘッドホンで助かりやがって……」

 

姫野はいいのかよ。差別だ!差別だ!

 

「いや、だってさぁ…」

「ヘッドホン、俺のいれても4つしかなかった…」

「だとしたら…」

『なぁ?』

「なぁ?、じゃねぇーーーーーーーーーーーー!!」

『うるさい。』

「知るか!!お前らの行為で俺は死にかけたんだぞ!!」

『だってさぁ……』

「だってさぁ、でもねぇよ!とりあえず謝れ!!」

「うるさいわよ、日向君」

「ゆりっぺは黙ってろ!」

『謝れと言われても』

「ごちゃごちゃ言わずにさっさと謝れ!!」

「ごめんちゃい☆キラッ!」

「キラッ!、じゃねぇ!!誠意が皆無だなおい!?」

「すまん、崇めろ」

「こいつさらっと許せ以上の事を求めてきた!?ていうか普通に謝れ!」

『断る!!』

「まさかの断固拒否?!てか、なんで素直に謝れないんだ!?」

『バカに謝る道理などないからだ』

「開き直りやがった!?」

「何やってるんだか…」

「ははは……」

 

ちなみに姫野は必死に笑いを堪えていた。妙なところがツボらしい。今日はここでお開きとなった。まぁ、俺達は基本ばかな事ばかりしている。だからこそ楽しいのだ。こんな生活がいつまでも続けばいいなぁ……続いて欲しくはないけど。

 

────────────────

 

【音無side】

 

俺と初音はゆり達と別れ家に帰ってきた。

 

「今日は楽しかったか?」

「うん!とっても楽しかったよ!」

「そうか、よかった。」

 

いま俺たちはちょっと遅めの晩御飯を食べている。今日の晩御飯は初音が作ってくれていた。ずっと入院していたのに何故か作れてしまう。なんとも俺には出来過ぎた妹である。

 

「それにしても、お兄ちゃんの友達って面白い人ばかりだね♪」

「初音よ。面白いんじゃない、バカなだけだ」

『そのバカと電話しているのを忘れてないか?』

「よ!馬鹿田くん♪」

『誰が馬鹿田だ!!てかさっきも言ったが友達としてひどくね!?』

「何を言っている。お前は俺の友達じゃなくて召使いだろ?」

『俺がいつお前の召使いになった?!』

「あれは、お前が中学生の頃……。車に轢かれそうになったお前は俺に助けられ、俺のために尽くしたくてしょうがなかった。そしてお前は俺の召使いになったんだ。な?」

『な?じゃねぇよ!!何、勝手に俺の過去捏造してんの!?そんな記憶、一瞬たりともねぇよ!!』

「そんなこと言って、本当は俺に恩返しがしたくて仕方がないくせにw」

『ねぇよ!!』

「ちっ」

『おい!いま舌打ちしたろ!?』

「気の所為だ」

『そ、そうか。気の所為…』

「ちっ…」

『てめぇ、絶対わざとやってるだろっ!?』

「なんの事だ?」

『今更惚けたって無駄だ!』

「大丈夫だ、問題無い!」

『何のフラグ立てようとしてんの!?むしろそっちの方が問題ありまくりだ!!』

「何をそんなに興奮してるんだ?」

『お前の所為だ!』

「俺の所為か?」

『どう見てもお前の所為だろ!!』

「何でもかんでも人の行為にするのは良くないぞ?」

「あんたが言えたクチですか!?」

「そもそも話の発端はお前じゃなかったか?」

『そうだけども!!?だからどうした!?』

「バカめが!」

『誰がバカだ!』

「お前に決まってるだろ!w」

「あはははっ!」

『ちょっ、初音ちゃん!?そこまで笑う事なくね?!』

 

やっぱり日向は弄りがいがある。

 

ピンポーン♪

 

日向を弄ってると誰かが訪ねてきた。

 

「はーい」

 

俺はドアを開ける。

 

「どちら様ですか?」

「夜分遅くすみません。お隣に引っ越してきた立華と申します。引っ越しのご挨拶に伺いました。お隣同士、これからよろしくお願いします」

「あ、お隣に……ご丁寧にどうも」

「そしてこちらが娘の奏です」

「あ…」

 

俺は母親らしき女性の後ろからでてきた女の子の姿に息を飲んだ。

 

(あの時の…!!)

 

銀髪に白のワンピース。

 

麦わら帽子はとっているが間違いなく、間違えるはずもなく、今朝交差点で会った女の子だった。

 

「よろしくお願いします…」

「あ、こちらこそよろしく」

「……」

「……」

 

(会話が続かない……)

 

相変わらず口数が少ない上に、昼間のことがあり改めて向き合うと気恥ずかしい。

 

「名前…何て言うの?」

「え?あ、俺の名前は音無。音無結弦だ」

「結弦……綺麗な名前ね」

「はは、ありがと。君の名前も綺麗だよ」

「ありがとう…。名前きれいって言われたの初めて…」

「あ、いや…」

 

彼女が初めて見せた笑顔がとても可愛くて一瞬見惚れてしまった。

 

「あの結弦さんは年はいくつかしら?」

「あ…は、はい!来月から高校生です」

「そうなんですか。もしよろしかったら娘とこれからも仲良くしてくださいませんか?」

「俺なんかでよかったら是非」

「あら、ありがとう。これからよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「ねぇ…?あなたのこと何て呼べばいいかしら?」

「俺のことは結弦でいい」

「そう……私のことは奏って呼んで?」

「ああ、よろしくな奏」

「こちらこそよろしく結弦」

 

最後に今までで一番の笑顔を残して、奏達は帰っていった。

 

(奏、か…。やっぱり可愛かったなぁ…)

 

そんな余韻に浸っているところに忘れていた雑音が聞こえてきた。

 

『おい!いまのはどういうことだ、ちゃんと説明しろ!?』

 

(やべ!?切るの忘れてた!)

 

俺としたことがとんだ失敗をしてしまった。

 

『おい聞いてるのか音無!!』

「うるさいなぁ…」

『うるさいもへったくれもねぇ!!いいからさっきの説明し……』

 

ピッ♪

 

いい加減うざかったので無視して電話を切りマナーモード。それから、家に戻り初音に事情を話した。初音は友達が増えたことにとても喜んでいた。俺もこれからの生活が楽しみだ。

 

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