Angelbeats!-新しい生命-   作:ミツバチ

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Girls Dead Monster

【晶side】

 

カラオケでバカ騒ぎした次の日の明朝。

 

「……」

 

寝起きの瞳にまず映った映像は、青い空とカモメだった。

 

「…いや、嘘だけどね」

 

ここ自室だし、見えてるの白い天井だし。起き抜けに寝ぼけた頭でボケてみたが、なんともキレがなかった。若干朝が弱い我が身が恨めしい。

 

(眩し…)

 

カーテンから漏れた朝日が目に突き刺さる。

 

「こらー!起きろー!」

 

太陽の光を隠すように、一人の女性が目前に出てきた。

長谷川柚鳴。俺の従姉であり、家が隣同士で大学生の幼馴染みでもある。この如何にも気の強そうなお姉さまは、毎日気ままに世界中を放浪しており、気紛れに帰って来ては容赦無しに俺をこき使ってくる。俺が会いたくない人物ワーストを堂々と飾るの一人である。

 

「なんでお前がいるんだよ……」

「あら、私だって長谷川姓よ?いたって別に不思議じゃないじゃない」

「そうなったら全国の六万人の長谷川さんが不法侵入になりかねないがな」

 

確か、約5万7千人だったか。姫野がそう言っていたのを何処かで聞いた気がする。あいつはなんでも知っている。

 

「まあ、何でもいいんだけど。用が済んだらさっさと出てけ」

「あんたねぇ…そんなんじゃ高校に行っても人付き合いとかできないわよ?」

「大丈夫だって。俺の体の八割は純水でできてるんだから」

 

ガッツポーズをして柚鳴に言う。

 

「『だから何なの!?』ってツッコミはあり?というか、残り二割は何よ?」

「汚水」

「汚なっ!」

 

ばっ!、と柚鳴が離れた。嘘だっての。だがら、その反応はちょっと傷つくからやめて。ホントに。

 

「眩しい…」

 

そして、太陽光が再び俺の瞳を攻撃する。

今日の朝は、テンションを大きく下げてのスタートとなった。

 

─────────

 

兎にも角にも、一緒にいるだけで生気がガクリ、どころかガックリと削られる感じがした従姉を送り出した後、俺は買い物がてらに明日から通う高校を見に行くことにした。

ホントは始業式のはずだったのだが、何故か1日ズラされた。どうせゆりの奴が手回ししたんだろうことは容易に想像できた為、深く考えなかった。

で、思わぬ予定の空きが出来てしまった俺は、視察も兼ねてのいい機会だと思いここに来たのだ。

実際のところ、毎度行こうとしては障害に絡まれ、ずっと先伸ばしになっていただけなのだが。

 

(よく考えると、あの頃からこれを計画してたんだろうな、ゆりの奴…)

 

用意周到にも程があった。少しは真面目なことにその情熱を費やして貰えないだろうか。特にテストとかテストとかテストとか……。毎回毎回テスト勉強を見る此方の身にもなって欲しい。

と、極めて正当な言い分を陳じてみた訳だが、しかし今日はゆりに邪魔される心配が無い。

今日はゆりの両親が揃って仕事らしく3人のお守りをしている。普段あんなだが、これでもしっかり者のお姉さんなのだ。本人はそれを他人に見られるのが嫌いらしいが。

 

「さて、買い物も済んだし高校の方に行ってみるか」

 

高校の前に、従姉の所為で少なくなった冷蔵庫の中身を補充する為にデパートによった後、買い物を終えた俺は学校に足を向けた。マーケットから歩くこと約3分。

 

「へぇ…写真で見た時にも思ったけど、やっぱりでかいなぁ…」

 

俺たちの通う予定の高校は市内でもかなり大きい。

 

(室内プールにテニスコート、陸上トラックにラグビー場とその他諸々etc…。色々規模が企画外なんだよ、この学校……)

 

これで県内1位じゃないんだから、世の中恐ろしい。

見えてきた実際の高校の敷地の広さに驚きながらも、正門の方に周る。さすがに従姉のような不法侵入は良くないので、ちゃんと許可は貰う。

 

「ま、貰えない場合は強行突破だけど」

 

やはり、この男もまたゆり達の仲間である。選択の方向が歪んでいた。

 

と、

 

「や、やめてください!」

 

正門とは逆の方向で女の子の悲鳴が聞こえた。

 

(何だ…?)

 

声のした方、つまりは今来た道を戻ってみると、女の子が1人、見るからにヤンキー風の3人の男性に言い寄られていた。

 

(身体付きからして二十代前半、それなりにスポーツをやってる、と……)

 

声のする方へ、一本道を歩きながら観察する。幸い眼はいい方だ。両目は何方も2.0である。

 

「ほ、本当にやめてください…!」

「そう言わずにさぁ♪」

「俺たちと遊ぼうぜ?♪

「愉しませてやるからよぉ♪お嬢ちゃん?」

 

ギャハハハ!と下衆な笑いを挙げるヤンキー共。女の子はといえば、涙目になりながら必死に抵抗しているものの、男たちは諦める気配が全くない。

 

「ああもうめんどくせぇなっ!!さっさと来いよっ!!」

「…ひっ!?」

 

そして、ついに痺れを切らしたヤンキーの1人が、頓に女の子の手を掴み無理やり連れていこうとする。

 

(さすがにこれ以上はまずいな…)

 

男たちの目に危ない影が見えたので、すぐに女の子を助けに向かう。だが、あくまで冷静に。偶然を装う形で───。

 

「あんまし俺達を怒らせない方がいいぜぇ?」

「ひっ…!?」

 

(うわぁ…女の子相手に脅しかよ。しかも、ご丁寧にナイフまで用意してくれちゃって……)

 

なんか、こういう光景見てると怒りよりも情けなさが先に出てくる。女の子1人に大の男が大勢で掛かってしかも刃物で脅さないと、何も出来ないのか?情けない、実に情けない。いつから世の男性はここまで情けない生き物に成り下がってしまったのか。

 

「ま、そんなことはどうでもいいんだけど」

「ぐっ!?」

 

女の子を掴んでいる男の背後に歩み寄り、手を掴んでガラ空きとなった右腹に肘鉄を当てる。

 

「あぁっ!?誰だてめぇっ!!何しやがる!?」

 

近づいてみて改めて分かったが、やっぱりもろにヤンキーだった。ピアスやら鎖やらが服中についていて見るからに不良だった。昔、不良の格好が流行っていたが、今見るとかなりダサい。

 

「おい!誰だって聞いてんだよ!!」

 

「邪魔すんなら……」

 

そう言ってヤンキー二人がナイフを手にこちらに向けてきた。

 

(おお怖…。安易にこっちに向けんなよ……。刃物を人に向けてはいけません、って習わなかったのか…?)

 

俺はナイフを両手の人差し指と中指で、それぞれ白羽取りにしながら飄々と言い放つ。

 

「別に?ただの通りすがりだけど?」

「なっ……」

「くそっ!!」

「へっ!だったら邪魔すんじゃねぇ!!」

 

もう一人のヤンキーがナイフを握りしめて俺に向かってくる。

 

「死ねやーーーー!!!」

「はぁ…」

 

が、さっきの光景に腰が引けたのかナイフの軌道が単純過ぎる。

 

ガンッ!ヒュン!ドカッ!

 

「なっ!?」

「ぐっ、がはっ!」

「ぐっ!!」

 

一人目のヤンキーのナイフを足ではたき落とし、指で挟んでいたナイフを楔にして二人のヤンキー共々、地面に叩きつけた。

 

「何しやがる!!」

「先に手を出したのはお前等だし、何よりナイフを持った男に襲われれば正当防衛も成り立つ。つまりだ、俺はお前等を正当で殴り飛ばすことができるって訳だ。Are you ok?」

 

気取って言ってみたが、かなり恥ずかしいな……。漫画の真似をするのはやめとこ。

 

「ふ、ふざけんなーーーー!!」

 

再度、ただし今度は素手で向かってきたヤンキーをさっきと同じように、だがさっきよりも素早く叩きつける。

 

「あんたら、学習しろよ……」

「くっ…!」

 

さっきの早回し映像を見てるみたいだ。

 

「さてまだやる?」

「な、舐めるなぁぁあああああっ!!!」

「わぉ…」

 

二度も叩き付けられても尚威勢がいいヤンキーの1人が、何処に隠していたのか小太刀と先が丸い棍棒のような物を取り出した。…ていうか大きさおかしくね?どう見ても隠しきれる大きさじゃないんですけど。

 

「あ、危ない!?」

 

ヤンキーが取り出した武器を見て、少女が悲鳴をあげる。

 

「オラァーーーーーー!!」

「おっと!」

 

その声に思考を止め、ヤンキーのこん棒を軽く避けて向き直る。

 

「危ないなぁ、全く…」

「避けるなぁぁあああああっ!!」

 

避けられて頭に血が昇ったのか、両の手の武器をやみくもに振り回す。

 

「いや、普通避けるよ!?」

「うるせぇ!なんで当たらねぇんだよっ!?」

(そりゃあ、そんな適当に振り回してたら当たらねぇだろ、っと!)

「なっ……」

 

俺は三度、ヤンキーの小太刀を指で挟んで止めた。これぞ変則真剣白羽取り。

にしても、いい加減面倒だな…。人も集まってきたし。そろそろ決着着けるか。

 

「本当の刀の使い方、見せてやるよ!」

「ひっ!」

 

指で挟んだ小太刀を捻るようにして奪い取り、真っ直ぐヤンキーに突っ込みながら棍棒を刀の柄で叩き落とす。そのままの勢いでがら空きの右肩を刀の峰で叩きつけた。

 

「ギャーーーーーーー!!!」

 

手加減はしたがどうやら肩が外れたらしい。

 

(にしてもうるさいなぁ…。男ならそれぐらい我慢しろよ)

 

世の男共の現状に、本気で危機感を覚え掛ける。ホントに大丈夫か?世の男性諸君よ。

 

「もう二度と、この子に手を出すな」

「くそっ!貴様覚…」

「覚えねぇよ、バ〜カ!」

「ぐっ…」

 

最後の捨て台詞も打ち砕かれ、ヤンキー3人組は逃げるように消えていった。

 

「あっ……」

 

そして、ヤンキー達が武器を残していったことに気付いた。

 

────────────

 

「君、怪我なかった?」

「は、はい!」

 

「そう、よかった…」

 

無事女の子も怪我せずに済んだので(もちろんヤンキー共は無視)、俺はその場を立ち去ろうとした。

 

「あ、あの!」

「っ!?」

 

と、突然手が柔らかい感触に包まれた。俺は手の方に向き直る。

 

「どうしたの?」

「え…あの…あ、あわわわ!?す、すみません!!」

 

顔を向けると少女は顔を真っ赤にして慌てて手を離した。

 

(改めて見るとかなり綺麗な子だな…)

 

雰囲気もどこか弱々しく、守ってあげたくなる。

 

「別にいいよ、気にしないで」

「そ、そうですか…」

 

俺が笑顔で言うと女の子はまた顔を真っ赤にして俯いた。さっきから顔が赤いが、風邪だろうか?

 

「顔が赤いけど、大丈夫か?」

「…ッッッ!?!?」

 

俺は心配して下から顔を覗き込んだが、突然目が合って驚いたのかまた俯いてしまう。

 

「ご、ごめん。大丈夫?」

「い、いえ平気ですっ!」

 

さっきから俺と目が合う度に顔を赤くして俯いている。

 

(えっと…なに、この雰囲気…?)

 

沈黙が重い。なんとなく喋りにくい状況が続いた。

 

と、そこへ。

 

「みゆきちーーーーっ!!」

「あっ!しおりちゃん!!」

 

どうやら友達らしい。それならば後は友達に任せることにして、俺はこの場を離れ───

 

「あれ…?」

 

る前に気づいたのだが。

 

(なんか、こっちに向かってきてる!?)

 

「みゆきちから離れろーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 

しかも、何故か壮絶な思い違いをしている模様で……。

そこで自分の格好を思い出す。今の俺は、ヤンキーが置いていった小太刀と棍棒、ナイフを手に持っている。

 

(あ。こりゃあ疑われて当然だわ……)

 

そんなことを茫然と考えながら、突進してくるどうにかする事に考えを巡らす。

 

(とりあえず、避け……っ!)

 

そして再度気付いた。俺は助けた女の子の横で電柱を背にして立っていたのだ。構図としては電柱の前に俺と少女がいて、そこに友達らしき少女が猪よろしく猛突進してきている状況だ。

俺が避ければ、間違いなく女の子の方が怪我をしてしまう。

 

(ええい、ままよ…!!)

 

そして、俺は土手っ腹にもろに頭突きを喰らった。あの小さな見た目に反してかなり痛いです……。

 

「ちょ、ちょっとしおりちゃん!?何してるの!?」

「何って、みゆきちに絡んでる奴を懲らしめて…」

「か、絡まれてたんじゃなくて、その人は───」

 

(あ、ヤバい。意識が…)

 

そこで、俺の意識は途切れた……

 

───────────

 

目を覚ましたら知らない天井だった…ていうネタをしようと思ったらホントに知らない天井だった件について。え、何?俺は何故に来ないな場所で寝とっと?

 

(まあ、お巫山戯はここまでにしておいて)

 

本気で事態が飲み込めていなかった。俺は確か絡まれていた女の子を助けて、そんでもって、その友達らしき女の子に突進されて───。

 

(なんか消毒薬の匂いがする…)

 

さっき受けた痛みを思い出し、現実逃避をしてみるが時既に遅く、一度蘇った痛感の記憶はすぐには消えてはくれない。仕方なしにそのまま身体を起こす。

 

(どこだ…ここ…?)

 

寝ていたのはどこかのベッドの上だった。ぱっと見の推測だが、高校の保健室といったところか。

 

「ええ。ここは天王学院の保健室ですよ」

 

すると、ベッドの横から声がした。

振り向くと、見知らぬ制服───胸のエンブレムから見て天王学院の制服───を着た金髪の少女がいた。

 

「入江さんは今ライブの最中です」

 

どうやら俺がいるのは天王学院───要するに俺が入学予定の高校の保健室らしい。なんか入学前にまさかのお世話になるとは、なんだか縁起が悪いというか…。

 

ん?それより、入江って誰?それに、ライブって───

 

「晶さんが先程助けて下さった少女の名前です。彼女はガルデモのドラマーなんですよ」

「へ?」

 

助けた女の子がガルデモの入江さんだったなんて思いもよらなかった。ていうか───

 

「人の心を読むな、遊佐」

「すみません」

 

反省しているのか全くわからない無表情で返してきた。

遊佐と呼ばれたこの少女は小学生の頃に俺たちと連んでいたメンバーの1人で、実は誰1人として本当の名前を知らない。本人が常にドライで淡々としている為に聞きにくいというのも1つの原因だったりする。

 

「久しぶりだな。小学校以来か?」

「はい、お久しぶりです。」

 

相変わらず無表情なのは変わってないが、3年も会っていないのでかなり容姿が変わっていた。

 

「それにしても、晶さんが私の名前を覚えていたなんて意外でした」

 

突然、遊佐が顔を近づけてきたのでちょっと戸惑った。てか、顔近い近い!

 

「あ、いや俺も顔見るまでわからなかったよ。3年も経ってるから身長も変わってるだろうし…。でも、遊佐みたいな可愛い女の子の顔は忘れるはずないしな。まあ、それはともかくとりあえず離れて……」

 

「…ッッ!?」

 

───とかなんとか言い終わらない内に俺から距離をとった。あ、なんかデジャヴが…。

 

「わ、私が…か、かか、可愛い…?」

 

そして、明朝の出来事を思い出して気分がどんどん降下していく俺の横で、何故か遊佐が顔を赤くして俯いていた。入江もそうだったが、この頃は風邪でも流行っているのだろうか。体調管理には気を付けた方が良さそうだな。

 

「それにしても綺麗になったよなぁ……」

 

ついと言った感じで言ってしまったが、確かに以前とは比べものにならない程に綺麗になっていた。あの頃は今みたいに髪は結んでなかったし、男子とは殆ど喋っていなかったし。特に俺なんか挨拶されるだけだったし、嫌われてるのかと思ってたしな。それが髪を結んだだけでここまで変わるものなのか。はっきり言って別人である。

 

「ふぇ!?き、綺麗っ!?私が…ですかっ!?」

「ああ。おとなびた」

「私が…綺麗…可愛い…」

 

遊佐はさらに顔を真っ赤にして俯いてしまった。俺的には、綺麗になった遊佐をもう少しこのまま見ていたかったのだが…。いや、こんなことを思うのは遊佐に失礼だ。邪念退散、邪念退散。

 

「別にいいのに……」

 

小さな声で何か言ったが、俺の耳には入らなかった。

 

「それよりなんで遊佐がここに…?」

「私も明日からこの学校に通うことになっています」

「へぇ……」

 

遊佐とまた同じ学校に通うことが不思議だと思うが、これはこれで何かの縁だ。

 

「本当は今日のはずだったのですが、いきなりの予定日変更に少し戸惑いました」

「はは、はははは……」

 

ウチのリーダーがすんません、ホント!後で絶対説教してやる。

 

 

「…それじゃ、これからよろしく遊佐」

「えっ…は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

遊佐は少し顔を赤くして、震える手で差し出した手を握ってきた。

 

(え〜と…なんで顔赤くしてるんだろうか?)

 

さっきは自分から顔を近づけてきたくせに、何とも女心は気まぐれだ。

 

それにしても感情を前より表に出すようになったな。今でも笑ったり、驚いたり、照れたり?と、表情の変化は小さいが遊佐の感情もだいぶ分かりやすくなった。

 

(…で、だ)

 

俺たちはいつまで握手しているつもりなんだろうか。もう2分以上こうしている気がするんだが…。

 

(でも遊佐の手、柔らかくてもう少し握っていたいし…。でもさすがに恥ずかしいし……)

 

「あのー…遊佐?そろそろ…」

 

「え?あ!すすす、すみません!?」

 

慌てて手を離し、そのまま顔を手で覆い俯いてしまった。

 

(えーと?これはどうしたらいいんだろうか……?)

 

女の子との会話は姫野のとで慣れているつもりだったが、あれはあれで練習とは言わないわな。互いが互いの思考を読め過ぎて言葉を考える必要すらなかった。だからいくら姫野と喋った回数が多くても、女の子と喋ったことなど殆どないに等しかった。

長谷川晶。若干のコミュ障持ちである。

 

そんなこんなでお互いに話しかけずらい雰囲気が続いていると廊下から話し声が近づいてきた。

 

「………根が……やまる……」

「……かったか…そん……」

「入江さん達がきたようですので、私はこれで…」

「あ、おい…!」

 

遊佐は止める暇もない内に、駆け足で保健室出ていってしまった。

 

そして、入れ替わりに助けた入江と俺を気絶させた見るからに活発そうな少女───うろ覚えだが関根だったか───、それに岩沢と茶髪で頼れる感じの少女が入ってきた。

 

「遊佐ちゃん、どうしたんだろう…。あんなに焦って……」

「ゆさリンがあんなに慌てるなんて珍しいなぁ……。やっぱ保健室と言ったら…」

「え?な、何…!?」

「ふふふ、それはねゴニョゴニョ…」

 

関根が入江に何か耳打ちする。

 

「ふぇぇぇーー!?」

 

そして耳打ちされた入江が耳まで真っ赤にしてしまった。何を言われたのか聞きたかったが、嫌な感じがヒシヒシするのでここはスルーする。俺は何も見なかった。

 

「こらっ!あんまり入江をかからかうな!!」

 

「うぅ…痛いですひさ子さん…」

 

ひさ子と呼ばれた少女が活発少女の頭に拳骨をお見舞いした。

 

(…てことは、頼れる感じの少女がひさ子で、今げんこつされたのが関根で合ってたか)

 

そろそろさん付けは面倒なのでやめた。だって同い年だし。ファンブック調べby日向

 

「それよりも関根、先に言うことがあるだろ」

 

岩沢が関根に話の続きを促す。

 

「そうだったそうだった!先に謝っておいたほうがいいよね。え~と、長谷川くんで合ってるかな…?」

 

なんで俺の名前を、って岩沢か入江から聞いただろうな…。昨日一回会ってるし。

 

「ああ、合ってるよ」

「よかったー、間違ってな「……」…謝るほうが先ですね……」

 

ひさ子が話が反れそうになった関根を睨み付けた。元々目付きが鋭いだけあって、睨み付けるとかなり恐い。

 

(ゆりといい勝負だな……)

 

「いやー、ごめんね?せっかく助けてもらったのに頭突いちゃって……」

 

頭突つちゃって…、ってそんな言葉ないぞ?頭大丈夫かこいつ。

 

「別にいいよ、わかってくれたなら。それに友達を助ける為だったなら仕方ないよ、ね?」

「い、いい人だ~~!!」

 

そういって関根は、俺の手を握ってきた。別に手を握るのはいいのだが、そのキラキラした目で見るのはやめてほしい。心臓に悪いから。

 

「し、しおりちゃん!」

 

その様子を見ていた入江がいきなり俺と関根の間に入りこんできた。

 

「どうしたんだよみゆきち~♪そんなに慌てて~」

 

(う〜ん…。助かったが顔が真っ赤なんですが…?)

 

それに何故か俺と目が合うと目を背けてしまう。

もしかして俺って嫌われてる…?

 

(私、どうしてこんなことしちゃったんだろ……。しおりちゃんと晶くんが手を握ってるの見てたらなんだか胸がもやもやしてきて……そしたら、身体が勝手に動いて…)

 

(さてはみゆきちのやつ、この男に惚れたなぁ……?切っ掛けは不良から助けられたからか……?なんつーベタな……)

 

そしてそして、その二人が黙ったまま膠着状態に移行いたしました。ホントどうするよ、これ…。

 

「あんたいい奴だな!普通あんなことされて、簡単に許せる奴なんてそうはいないぜ!!」

 

ひさ子が俺の背中を叩きながら、笑いかけてきた。いやこの場合、笑いながら俺の背中を遠慮なく思いっきり叩いてきた、か?とりあえず助かりましたが、痛いです……。

 

「これからライブの反省と練習やるんだけど、お詫びとして一曲弾いてやるよ!」

「お、それいいですねひさ子さん!!岩沢さんとみゆきちもそれでいいっすか?」

「私は別に構わないよ。入江は?」

「わ、私は…」

「(ここでかっこいいとこ見せれば、みゆきちに惚れるかもよ?)」

「私もやります!!」

 

(しばらくこの話題で弄れるな、うししし…)

 

関根が悪そうな笑みを浮かべニヤついた。

 

「俺なんかがいっていいのか?」

「ああ、むしろ大歓迎だ。」

「むしろ来てくれないと困る人が約一名───」

「え?」

「し、しおりちゃん!」

 

なんか入江が慌てて関根の口を押さえつけているが、どうしたのだろうか?それにしてもさっきから1つ気になっていたことがあるんだが。

俺、ひさ子とどこかで会ってね?

 

「ん?私の顔に何か付いてるか?」

「あ、いや……」

「まさか!ひさ子さんに一目惚れをっ!!」

「ふぇぇぇーー!!?」

「いや、そうじゃないから……って、ああっ!!」

「な、何だ…?」

「思い出した!!二年前、俺の自転車を借りパクした奴!」

 

「二年前、自転車って……ああっ!!まさか、あの時の少年か!?」

 

ひさ子の方も思い出したらしく、二人して互いの顔を指差し驚いた顔をしている。残りの三人は話についてこれないのかポカーンとしている。いやまあ、当たり前だけど。

 

「えーと、お二人は以前会ったことがあると…」

「あ、ああ…そうなるな……」

 

いやー、あの時の女の子にまた会えるとは……なんたる偶然!!

俺は虚ろな目で外の景色を見ていた。

(今日は天気がいいな……)

 

「あ、いや…なんかごめん。ライブが盛り上がって、すっかり忘れてて……」

 

両手をあわせて謝るひさ子。

 

「別に気にしてないさ。それに女の子を恨むほど小さな男ではない」

 

俺はひさ子にニコッと微笑んだ。

 

「そ、そうか…ま、まさかとは思うが……ずっとあの場所で待ってたのか?」

 

ひさ子は恐る恐る若干震える声で訪ねてきた。それに対し俺は無言で微笑み返した。

あの日は寒かったなぁ……もう少しで凍死するんじゃないかと思うほどに……。

 

「なんかごめん…本当にごめん……とにかくごめん……」

 

俺の顔を見て何かを感じ取ったらしい。俺は何も言ってないよ……?

 

「なんか面白そうだから詳しく話聞かせてよ~、晶♪」

「なっ!」

 

関根が親しげに肩を寄せてきた。

 

そして、いきなり呼び捨てだった。まぁ、構わないけど。

 

「私も聞かせてくれ。ひさ子があんなに謝ってるとこ初めて見るしな」

 

意地の悪そうな笑みを浮かべて岩沢は俺の隣に座ってきた。

 

まあ、その、なんだ。別に話をするのは吝かじゃない。俺も会ったら一度きっちりと話を着けようと思っていたんだ。それはいい。だが、その、岩沢さんや。貴方はもう少し女の子としての自覚を持たれた方がよろしいですよ?こう、女の子特有の甘い香りが座った瞬間に、ね?内心ドッキドキですよ?

 

ボーイッシュな感じの岩沢でも、ちゃんとした女性なんだな…と認識させられたタイミングであった。

 

「しおりちゃん、岩沢さん。長谷川くんが困ってるよ…」

 

入江が目に涙を浮かべながら関根と岩沢を説得しようとしてくれた。うん。それは嬉しいんだけど、顔を近づける理由はないよね?

 

「ふっふっふ…そんなこと言ってもみゆきちだって聞きたいくせに~♪」

 

関根がニヤニヤといやらしく笑って言った。女の子としてその笑い方はどうかと思う。

 

「そ、そんなことないよ…」

 

そして何故か弱気になる入江。頼む、もうちょっとがんばれ。ひさ子もそんな眼差しを入江に送っている。

 

「(晶のことをもっとよく知ることができるかもよ?)」

「!!」

 

岩沢が入江にそっと囁いたのが聞こえた。聞こえないよう言ったつもりだろうがこの距離じゃ意味がない。何ちゅうことをしてくれたんや岩沢さん。

 

「私も知りたいです!!」

 

(これはもう無理だな…)

 

そんな入江の反応も総じて、俺はもう潔く諦めることにした。ひさ子が愕然としているがそんなもんは知らん。ただの自業自得だ。

 

「別にいいけど、そんなに面白い話じゃねぇぞ?」

「いいって、いいって!!たぶん面白いだろうし♪」

「関根ーーー!!」

「ひゃーーーー!?」

 

追いかけっこ勃発。こんな狭い場所でよく逃げられるよなぁ、関根のやつ…。

 

「あんまり暴れるな。面白いかは置いといて、私も興味があるから聞かせてもらっても構わないだろ?」

「岩沢まで…」

「そうですよ~、聞かせてくださいよ、ひさ子さ~ん♪」

「……ブチッ」

「へ?……きゃぁーーーー!!」

 

関根が余計なことを言った所為でまた追い掛けっこが始まった。とりあえず無視。岩沢と何故か一番乗り気の入江が熱い視線を送ってきている為、それどころではない。

 

(そんなに期待されても困るんだがな…)

 

そこまで面白い話じゃないし。ひさ子にも一応視線を送ってみるが、関根を追いかけるのに夢中で気づいてない。二人の視線に耐えきれずに話すことにした。

 

「あれは…二年前、俺が中二の頃、忘年会の帰りのことだった…」

 

───────────

 

「いや~、遅くなっちまったなぁ……それにしても寒みぃ…」

 

一年ぶりの友達との再会にすっかり話し込んでしまった。朝の8時から忘年会だったのだが今や夕方の5時である。それもこれも、日向とゆりが悪乗りして即興で曲を聞かせろとかなんとか言いやがった所為だ。

 

集まった同級生の中にはベースやドラムができる奴がいた。それに気づいたゆりがいつもの悪知恵を発揮し、即興バンドを無理矢理結成させたのだ。

 

いや、気づいたのではなく気づかせた。

 

ゆりの発言に誰ひとり苦言を呈さない時点でバレバレだった。それから皆見事な連携プレイで粛々と準備は進み、見事に俺は皆の前でギターを披露することとなってしまった。

 

「いや、なんで俺なんだよ?それにギターもねぇぞ?」

「ふふふ…私に不可能なことなんてないわ!!」

 

そして、何故か家にあるはずの俺のギターがゆりの手に握られていた。

 

「おい、ゆり…。やっぱりお前、この展開仕組んだだろ!」

 

他の人達もちゃっかり自分の楽器を用意してやがる。おい、そのニヤニヤ笑いやめろ。めっちゃムカつくから。

 

「あはははっ!!!」

「たくっ…」

 

そんなこんなで、見事にゆりの思惑に嵌ってしまった俺は今の今まで歌わせ続けられる羽目になった。

 

(日向の野郎…悪乗りしやがって)

 

そう、日向に助けを求めたのだが、止めるどころかゆりに加勢してさらに歌わせやがったのだ。

 

「お陰で喉と指が痛いぜ……」

 

さすがに4時間も歌い、弾き続けたら誰だってこうなる。

 

「それにしても本当に寒いな……絶対氷点下いってるよ…」

 

今から家に帰るとなると自転車でも2時間はかかる。今はまだ夕方だが、夜になると絶対雪が降りそうだ。手袋してないしマフラーも持ってない。

 

(早く帰ろ……)

 

早く帰るために公園の中を通ることにした。ここを通ると十分程度ショートカットできる。普段は通ることは出来ないが、夕方で寒いし誰もいないだろう。

 

そう思っていた頃が俺にも有りました。

 

「あぁっ!?くそっ、なんでこんな時に…!!」

 

そんな声が聞こえてきたのは、公園のベンチを通り過ぎようとした時だった。

 

(なんか、やな予感がする!)

 

俺の直感がこいつには関わるなと告げている。こんな時は近寄らないほうが、得策だ。てなわけで、Uターンして来た道を戻ろうとしたのだが、何故か前に進まない。

 

さて、どうしてでしょう?

1、タイヤがパンクした。

2、チェーンが外れた。

3、得体の知れない誰かが後ろに引っ張っている。

 

さあ、答え合わせだ♪

 

タイヤは見たところ異常はない、チェーンも外れてない。さて、どうして前に進まないのだろう♪

はい…もう現実逃避は止めますね。

 

Uターンしたはいいがそのまま進もうとしたところ、後ろから、

 

「そこのあんた!!ちょっと待ってくれ!!」

 

と声が聞こえたのだ。

 

まさか自分のことだとは……思っていたが無視して、走り去ろうとした訳だ。

 

「待てや、コラァーー!!」

 

次の瞬間、何故かハイキックが跳んできた。俺がいったい何をした!?まあ案の定避けられず、そのまま背中に直撃。そして今の状況である。何故か俺はハイキックをぶちかましやがった少女に自転車ごと引きずられております。いや~自転車から落ちなかったことが奇跡なぐらいマジで痛かったっす。女の子の脚力じゃないね絶対。お陰でハンドルにおもいっきり突っ込んじまったがな!!

 

背中と腹、両方同時に攻撃するとは、女の子恐るべし…。

 

と、まぁ冷静に分析してる場合じゃないな。

 

「お~い、なんで俺はハイキックされた挙げ句、引きずられにゃならんのだ?」

「あ、いやー止まらなかったもんだからつい…」

 

長い髪のボーイッシュな少女がさすがにハイキックはまずかったと思ったのか、さっきまでの勢いが萎えている。

 

「はぁ……それで俺に何の用っすか?」

 

なんか怒る気になれず止めた理由を尋ねる。少女は俺の言葉に目を丸くしていた。何か変なことでも言ったのだろうか。

 

「あんた、いきなりあんなことされたのに怒らないんだな…」

 

「まぁ、何か理由があってやったんだろうし、気付いてて無視しようとした俺も悪いし怒っても仕方ないだろ。それで何か用か?」

 

女の子は心底驚いていたが話を先に進めてくれた。

 

「あ、ああ…率直に言うと君の持っている自転車を貸してほしい」

「………」

「………」

「…………………?」

 

いきなり何をぬかしているのだろうかこの子は?

 

「…とりあえず理由を聞いておこうか?」

 

さすがに知らない奴に、大切な自転車を貸すわけにはいかない。

 

「これから大切なライブなんだけど、練習してたらアラームの電源切れてたみたいでさ。それで大急ぎで向かってたんだけど、今度はタイヤがパンクしちまってな……。困ってたところに君が通りかかったという訳だ」

「…聞いてて同情するほどの悪運だな。」

 

「それは言うな……。でも、君が通りかかってくれたんだ、私の運も尽きてない。」

「俺は運気回復グッズか?」

 

ドン・キ○ーテで売ってそうだな。

 

「い、いや、そういう訳じゃ……それよりライブが迫ってるんだ頼む!ライブが終わったら必ず返すから!!」

 

土下座しそうな勢いで頼んでくる。必死に頼んでいるみたいだし、返してくれるならいいか。

 

「…わかったよ。貸してやる」

「本当かっ!?私は見ず知らずの奴なんだぞ!?」

 

さっきからそわそわしてて見捨てられなかったしな。

 

「いいから持ってけ。時間ないんだろ?」

 

俺は手に取った鍵を女の子の方に差し出した。

 

「そ、そうだな……遠慮なく借りさせてもらおう」

 

女の子は自転車を受け取り走っていった。その傍ら、

 

「この礼は後で必ずする!!」

 

と言い残していった。

 

「…てちょっと待て!!俺この場所で終わるまで待つのか!?」

 

そう叫ぶも女の子は既に彼方だった。まぁ、貸しちまったもんは仕方ない。

 

(とりあえずkeyコーヒーでも飲むかな……)

 

────────────

 

「まぁ、だいたいこんな感じだ」

 

苦笑いしながらみんなを見渡すと、何とも言えない気まずい雰囲気が流れていた。皆ジト目でひさ子を見つめている。

 

「ひさ子さん……毎回怒られてる私があまり人のことを言えた義理ではないですが、いきなり跳び蹴りしといて自転車を貸してと言い出し、それで貸して貰ったまま借りパクしてしまうとはどうゆうことですか!!」

 

関根に詰め寄られてひさ子がどうすればいいか困惑している。自転車を借りパクしたのは事実なので言い訳できないんだろう。

 

それより関根……若干楽しんでないか?怒っている顔はしてるけど、微妙に口の端が引き攣っている。このままだとさすがにひさ子が可哀想なのでフォローすることにした。

 

「別にもう気にしてないよ、ギターも新しいのを買ったしな。」

「だ、だけど…!」

「その代わりにガルデモの演奏を聴かせてくれるんだろ?なら、それでチャラだ」

 

これでも俺はガルデモのファンなのだ。そのガルデモの演奏を生で聴けるなんて、思ってもみないチャンスだ。

 

「…そうだな、その代わり全力でやらせてもらうよ。いいよなみんな!!」

「ああ!」

「は、はい!」

 

…と、これで全部丸く治まるはずだったのだが、約1名がまた余計なことを口走る。

 

「ちっ……日頃のお返しにもう少し弄りたかったのに…」

 

「せ~き~ね~~っ!!!」

 

そこに鬼がいた。完全に怒髪天。髪が怒気で揺れている。メッチャ怖えぇ……。

 

「ギャアーーーーー!!割れる!割れる!割れる!割ーれーるーーーー!!」

 

ひさ子が関根にヘッドロックをかましている。関根の頭からメキメキと音が聞こえてるしかなり痛そうだ。関根も余計なこと言わなきゃいいのにね。岩沢は二人を見て苦笑いしており入江は止めようと試みるが止められずオロオロしている。

 

「だーれーかー!!たーすーけーてー!!(ゴリッ)ギャアーーーーー!!!」

 

これ以上騒ぐと迷惑なので仕方ないけど助けるとしよう。

 

「なぁ?演奏する前に自己紹介とかしといたほうがよくないか?」

「ん、それもそうだな」

「晶く~ん、ありがとうございます(泣)」

「あ~…ほら泣くな。」

「いや~暴力女の力はえげつないぜ…(汗)」

 

どうして君は人の好意を一発で無駄にする。

 

「関根?後でお仕置きな?」

「ヒッ(涙)」

「はぁ…」

「ははは…」

 

─────────

 

適当に自己紹介を済まし、今はバンド楽器がある空き教室で演奏を聴いている。

 

(やっぱ生の演奏は凄いな……)

 

それにしても普段とはみんな別人だな。

岩沢も去る事ながら、ひさ子や関根に加え入江まで別人みたいに堂々としてる。自己紹介の時に俺がこの学校に入学するって言ったらみんな驚いていた。

あの時、入江が妙に嬉しそうだったのはなんだったんだろうか?

 

ちなみに最後の曲はMy songだ。

 

…といつの間にか後ろにたくさんの一般生徒がいて割れんばかりの拍手の喝采が起こっていた。何処から湧いたんだこいつら。それに何故休日なのにこんなに生徒がいるんだろうか。暇なんだろうか。

 

だけど、ここまで大騒ぎしたらやばいんじゃないだろうか……休日だし。アンコール、アンコールと観客達が叫びだし、ガルデモもそれに答えるようにもう一曲歌いだした。俺も聴きたいのは山々だが、この熱狂ぶりはちょっとまずい。岩沢たちには悪いが、入学早々騒ぎを起こしたくないので早々に退散するとしよう。

 

そっと人混みをわけて…ちょっ、そこの男子!俺の足を踏むな!!て、そこの女子!俺の顔引っ掻くな!!

 

「こっちです……」

 

曲の音や生徒達の叫び声がある中で、その声はすんなりと聞こえてきた。声の主が俺の手を掴んで観客達を掻き分けていく。お陰でやっと観客達から抜け出せた。

 

(───んにしても本当に人気があるんだな、あいつら……)

 

熱狂の渦が渦巻く教室を振り返りながら、本気でそう思った。

 

「サンキュー…助かったよ、遊佐」

「いえ、別に気にしないでください。無事でなによりです」

「まぁ、無事には程遠いがな」

 

助けてくれたのは遊佐だった。さっき出ていったきり戻ってこないから、てっきり帰ったとばかり思っていた。今まで何処にいたのだろうか。

 

「ずっと部屋の外で見張りをしていました」

「見張り?なんでまたそんなこと」

「ほっておくとさっきみたいなことになりますから」

「納得…」

 

それは先程身をもって経験いたしました。顔やら手やらとにかく身体中が擦り傷だらけだ。

 

こんだけ怪我するなら教師に取り押さえられてもおかしくないが、今まで騒ぎにならなかったのは遊佐のお陰らしい。

 

「お前、凄いな…」

「いえ…そこまで大変という訳ではないですから」

 

(そこまで大変じゃない、ねぇ…)

 

「まぁ、やるのは勝手だけど余り無理するな」

 

俺は徐に遊佐の右手を掴んだ。

 

「…痛っ!?」

 

それを反射的に逃れようとして、思わず口から漏れたのは辛そうな声であった。

 

「さっきから庇ってるのは分かってんだ、見せてみろ」

「あ…い、いえ別になんともないので…」

「庇ってる時点でなんともない訳ないだろ。いいから見せてみろ、消毒するから」

「い、いえ自分で出来ますので…」

「いいから見せろ」

「……はい」

 

やっと折れた遊佐が右手を差し出してきた。案の定、二の腕あたりに血が滲んでいる。袖をめくって見てみると擦過傷ができていて血の量からみて、ちょっと深い。早く処置した方がいいだろう。

 

俺は遊佐を連れて再び保健室へと戻ってきた。

 

「ちょっと染みるぞ。」

「きゃっ!?」

 

消毒液がかなり染みたらしく涙を浮かべながら必死に耐えている。

 

「とりあえず処置はしたけど傷が思ったより深かったし、今日はあんまり右手は動かさない方がいいだろ」

「…」

「遊佐?」

「は、はい!わかりました!!」

 

返事したはいいが俺と目が合うと何故か俯いてしまう。あれ?なんかさっきもこんなことなかったか?

 

「あ、あの!手…」

「あ!ご、ごめん!」

「い、いえ…」

 

遊佐は顔を赤くして手を握りしめている。え~と…何、この雰囲気…?二人とも黙ったまま何も喋らないので非常に気まずい。

と、そこで扉の前に気配を感じた。

 

「なんかあの二人いい雰囲気だねぇ♪」

「えっ!!」

「もしかしてあの二人、付き合ってたりして…」

「ふぇーーーーー!!!」

「五月蝿い」

「はわっ!!」

 

いつの間にか四人が帰ってきていたらしい。今の会話を聞かれていたらしい。俺が勢いよく扉を開けると、一番近くにいた関根の頭に手刀を喰らわせた。

 

 

 

「普通に入ってこいよ……」

「いや~……それで実際のところどうなんですか?お二方♪」

「何の話だ?」

「だ~か~ら~」

「お、お二人は付き合ってるんですか!?」

「ふぇっ!?」

 

何故いきなりそんな話を……てか、どっからそんな話が出てきた!?

 

「ちょっと待て、いったい何の話だ?いや、その前に何故そんな話になった?ていうか、それよりなんで俺達がここにいることを知ってるんだ?」

 

俺は思いつく限りの疑問を片っ端から投げ掛けてみた。全部、自分が知っている。

 

「演奏していたら、もみくちゃにされながら遊佐に手を引かれて出ていく君が見えたんだ」

「で、たぶん怪我してるだろうから保健室にいくだろうな、と思ってきてみたら…」

「なんと、二人が手と手を取り合い誓いの口づけを…」

「ありもしない事実を盛り込むな!」

「痛っ!?」

 

二度目の手刀が炸裂。今度は威力二割増しだ。

 

「「く、口づけ…」」

 

遊佐が真っ赤になって俯いてしまった。そして何故か入江まで真っ赤になっていた。遊佐は分かるが何故入江まで?女心は謎だらけだ。

 

「まあまあ、そんな怒らずに……で、本当に付き合ってるんですか♪」

「だから、それは違うって!」

「え~……と言っときなが本当は」

「ふぇっ!!」

「しつこい!!」

 

俺は関根に、今度こそ全力で手刀をお見舞いした。

 

「痛っ!!(涙)」

「自業自得だな」

「たく……」

 

岩沢が苦笑いしている。

 

「付き合って……」

「お~い、遊佐?」

「私と…晶さんが……」

「だめだこりゃ」

 

遊佐がまだ放心していた。

 

「ここは姫に目覚めの口づけを!!」

「まだ言うか!!」

 

二度目の全力手刀が直撃した。

 

「痛いですよ~(涙)」

 

「何度も言うがお前の自業自得だからな」

「岩沢さんが冷たいよ~(涙)」

「いや、事実だろ…」

「はははは!」

「あ、あの皆さん!」

 

今まで静かだった入江が突然口を挟んできた。

 

「どうした、入江?」

「あ、あの皆さんが騒いでた時に…」

「ん?」

 

と、気付いた。そういえば遊佐の姿がない。いや知ってたけど。真っ赤な顔で出ていったのは見えていた。

 

「遊佐ちゃんが元に戻って、慌てて帰っていっちゃいました」

「そうか、よかった…」

 

遊佐はそのまま帰ったみたいだし、俺もそろそろ帰るか。

 

「それじゃあ俺も帰るか」

「ああ、またな晶」

「ああ、じゃあな岩沢」

 

今日はここでお別れだがこいつらとは長い付き合いになりそうだ。

 

…まぁ、帰る時にちゃかり入学式で一曲演奏してくれる約束をしたんだがな。これでゆりのノルマはクリアだ。ちなみに俺と音無の名前で約束させた。友達だし、あいつは高1で医者を目指してるからな。出来る限り協力したいし。帰ってそれを音無に伝えたら、無茶苦茶感謝された。誰だってバツゲームは受けたくないからな。何はともあれ高校生活が楽しみである。

 

波乱満載だけど──────

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