だって妖精だもの   作:酸味一体

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狂いの落葉

今日も今日とてみんなと遊ぶ…とはいかない。昨日ついに静葉さんから連絡が入った。この前塗った葉をもう落としてしまうらしい。

静葉さんの塗った葉はとても綺麗。同じ色は一つとして無いし、赤ではなく黄色っぽかったりもする。一枚一枚塗るのは大変らしいけど毎年頑張ってやってくれる。

 

静葉さんが葉を色付けしているのは山に住む妖怪や妖精ならみんな知っている事。でも里の人間は知らない人が多いんだって。そのせいで信仰が集まらないと言って嘆いていた。

 

妹の穣子さんは、信仰は集まるけど本来の力は発揮できないと言って嘆いていたような気がする。最近の人間たちは穣子さんを秋の収穫直前に呼んで豊作を願うとか。

いや阿保でしょ。もう既に育ち切っているのにご利益など受けられるはずが無いじゃないか。普通に考えてわからないのだろうか?

 

形式上穣子さんも人間に合わせているらしいけど正直面倒なだけらしい。昔は人間もそんなことをしていなかったはず。少なくとも五百年前くらいまではそうだったような気がする。

 

そんなわけで静葉さんも穣子さんも人間が関わる事での困りごとが多いみたいだ。それでも人間の事が好きらしい。

私にはそれがよくわからない。自然の敵を好く必要などあるのだろうか。私は無いと思うんだけどなあ。

 

でも妖精みんなが人間を嫌っているか、と聞かれるとそうでもないと答えるしかない。私の周りにいるチルノちゃんたちは人間を嫌ってないみたい。人間の巫女が住む神社によく遊びに行っているのがその証拠。私は祭りがあってもあそこに長居する気にはなれない。

 

それにみんなはいたずらが成功した時の反応が面白いと言ってるけどそうだろうか。私的には天狗さんをひっかけた時の方が面白いと思うけど。

だって天狗さんたちは空までも追いかけてきてくれる。人間は飛んで逃げたらすぐに追いかけるのを諦める。

 

確かにいたずらをした後安全なのは人間相手の時だろう。でもそんなのは面白くないじゃないか。一回休みになる事を恐れていると楽しみは減るんじゃないかな。まあチルノちゃんは無謀すぎるときもあるけど。

 

 

 

「まだシロちゃんは来ないの?」

「えぇ、また天狗で遊んでいるんじゃないかしら」

 

毎年秋になったら私を手伝ってくれる妖精、シロ。彼女は私たちが生まれたのと時を同じくして誕生した妖精だ。人間の紅葉に対する思いが私を生み、それを散らすために自然が彼女を生み出した、と私は考えている。

 

これが正しいのか間違っているのかはわからない。だって彼女は絶対に覚えていないから。でももし私の仮説が正しいのだとすると、葉を散らすのは彼女だけの役割となる。私が葉に色を塗り、彼女がそれを散らす。それが本来あるべき姿なのかもしれない。

 

彼女は木にも触れずに葉を落とす。私は蹴ってしか落とせない。これも私の仮説を支持する事実なのではないだろうか。生まれた時代とこの事実。そして秋になればほんの少し彼女のいたずらが過激になる事。これらを踏まえて考えると彼女は私たちに少なからず関係のある妖精であるはずだ。

 

しかしこのせいで私の仮説はあくまでも仮設止まりになってしまうのだ。

 

すなわち秋に増す力が微量すぎるのだ。妖精とは自然の具現。事実、春告精は春になると異様なほどに力をつけるという。それは彼女が春を司る妖精だからだ。

ならば秋を司る私たちと関係の深いシロも秋にはかなり力をつけるはずではないか?しかしそうではないのだ。

 

彼女は確かに秋に特化しているように見える能力を持っている。しかし実際それは秋以外でも問題なく行使することができる。ならどうして私たちと同時期に生まれた?その能力の真髄はなんだ?

 

生まれ、能力、容姿…まさか彼女は………「こーんにーちはー‼」「あら、いらっしゃい」

 

ようやくシロが来たようだ。いくら妖精でも毎年同じことをしていれば流石に忘れないものらしい。しかし考え事の最中に来るとは何とも間の悪い。

 

「それじゃ、今年もよろしく頼むわね」 「うん」

 

私一人ではなかなか大変だから彼女がいるとかなり助かる。落とすより塗る方が大変なのだがそれは誰かに手伝ってもらって良いものではない。疲れて違う色を塗ってしまうこともあるがそれもまた味があると思う。

 

神への畏怖の欠片もないが妖精なので言うだけ無駄だろう。そもそも恐れという物を知らない彼女たちが畏れを理解するとは思えない。決して馬鹿にしているわけではない。

 

シロも来たし毎年のごとく手分けして落としていこう。彼女は確か人里付近の落葉担当は嫌っていたはず。子供に捕まった事でもあるのだろうか。よくわからない。

 

「じゃあシロはこの山の頂上から順に落として行ってくれる?私は里の方から上がってくるわ」

 

妖怪の山全体の葉を落とすと言ってもシロなら大した労力ではないだろう。彼女の落葉のさせ方は遠目から見るとかなり美しい。でも残念ながらそれを他人と共有することはできない。

 

彼女の仕事の様子を見られるのは同じことをしている私と、自然そのものの妖精たちだけだ。人間、妖怪はおろか穣子にとっても『気づいたら落葉している』くらいにしか感じられないらしい。シロは時間をかけて葉を落としているのに、一瞬目を離せば落葉しきっているとか。

 

ごく自然に落葉しきったように見えるらしい。彼女が落としている間は他人にはどう見えているのだろうか。紅葉が広がっている幻想が見えるのか、それとも落葉しきった幻想が見えるのか。

 

 

 

「あれ?今日はシロのやつ出てこないぞ?どうしたんだ?」

 

シロちゃん今日何かあったかな。えーとえーと…あ、そうだ!

 

「今日は確か静葉さんに呼ばれてたんじゃなかった?」「静か?誰だっけ」

 

「静葉さんだよ、し・ず・は。ほら、秋の神様よ」

 

毎年言ってる気がする。まあチルノちゃんにとってはいらない情報だろうし記憶から消えていてもおかしくは無いのかも。

 

「ん?んー…あぁ、分かった分かった。あの冴えない奴か。金髪で赤い奴でしょ」

 

合ってはいるだろうけどその覚え方はかなり失礼だと思うよ。というかその覚え方だったら妹さんと区別がつかないような。

 

「う、うん。多分チルノちゃんが想像してる人であってるよ。それよりシロちゃんはいないっぽいから次に………あ!チルノちゃん見て!山の方」

「お、おー!すっげーな。誰がやってるんだろう。あたい見てくるよ!大ちゃんも来る?」

 

山から一斉に色が失われてゆく。頂から麓にかけて少しずつ、浸食するように。

 

誰がやっているのか。チルノちゃんは忘れているのかもしれないけど、覚えている者からすれば一目瞭然だ。毎年この時期にしか見れないシロちゃんの芸術である。まさに絶景と呼ぶにふさわしい、見た者の心を奪うような光景。あの中にいる彼女は一体何を思っているのだろうか。

 

「うん。私も行くよ、チルノちゃん」

 

その気持ちを知るためなら危険な山にだって入ってやろうじゃないか。危険を顧みずに自分の思う通りに行動する。だって私も妖精だから。




紅葉も綺麗なのですが、それが徐々に散ってゆく様も美しいと思います
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