だって妖精だもの   作:酸味一体

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最終話です。予定通りにあそこから三話で終わりましたね


彼女はもういない

秋。何をするにしても最も良い季節として広く認められている。

ある者は田畑で作物を収穫し、またある者は家で読書をする。他にもスポーツや芸術に打ち込んだり。いわば秋は完璧な季節なのだ。

 

つまりそれらを司っている私たちこそ完璧な神であると言えるのではないだろうか。………まあそんなことは無いんだけど。それにもうすぐ秋は終わるし。紅葉の季節は一年で一番好きだが落葉の季節は一年で一番嫌いだ。

 

たった二ヶ月しか変わらないというのは人間や普通の妖怪、神から見た感想だ。私たちなどのように季節を司る力を持つ者はたった数週間でも気分が大きく変わる。

私もそろそろ気分が落ち始めるころだ。私の気分は紅葉とともに落ちてゆく。

 

今もシロの手によってどんどん葉は落とされている。彼女が悪いわけではないが間接的に見れば彼女が私の気分を落としているとも言えるのではないだろうか。自分で全て葉を落として自分で勝手に落ち込むよりかはまだ幾分かマシな気がする。

 

シロの仕事ぶりを見るのは好きだ。葉の落とし方が本当に美しい。誰とも共有できないのが本当に惜しいくらい。

 

「彼女の仕事はいつ見ても派手ね。本当に何年見ても見飽きないわ。貴方もそう思いません事?」

「貴方は一体?それに見たところ妖怪だけどシロの葉の落とし方がわかるの?」

 

「申し遅れました。私八雲紫と申します。この幻想郷の賢者をやっておりますわ」

 

八雲紫。聞いた事はある。曰く胡散臭さが服を着て歩いているようなもの。曰く邪魔な時にいて邪魔な時にいない面倒な奴。曰くその能力は神にも劣らない。ここで言う神は私たちみたいな八百万の末端のような神ではなく山の上の神社に住んでいる高名な神の事を言うのだろう。

 

つまるところ戦いを挑んでも勝ち目はないという事だ。厄介な妖怪に目をつけられた気がしなくもないが、感情を逆なでするような事を言ってしまえばそれこそ命はないので慎重に言葉を選ばなければならない。

 

「それにしてもシロ、か。なかなか親しみのある呼び名になったものね」

「まるで昔のシロを知っているような言い方なのね。それにあの落葉のさせ方が見えている。貴方は本当に何者なの?」

 

「だから言っているでしょう?私はただ賢者をやっているだけの妖怪ですわ。でも彼女の事を昔から知っているというのは本当。その辺りも彼女と最も関係の深い貴方にだけは特別に教えてあげましょう。でもその前に貴方は彼女の事をどう考えているのかしら。それを教えていただいても?」

 

シロについてどう考えているか、か。確か去年色々考えたはずだ。冬になってすっかり忘れていたがあの時は確か彼女の容姿や能力から色々派生させていたはず。

 

「シロはシロよ。それ以外の何者でもない。彼女だけがシロなのよ」

 

「ふむ。よくわかっているようですわね。ならば全てをお教えしましょう。

 

彼女が生まれたのは貴方たちと同じ時です。八百万の神は純粋な信仰によってのみ存在できます。これは貴女もご存じの通り。貴方たちが生まれたのは人間が秋に関係する神を欲したからにほかなりません。ならばどうして同時に生まれた彼女は秋を司っていないのでしょうか。何故彼女はどの季節でも元気に活動しているのでしょうか。貴方に()()はわかるのではなくて?」

 

そうだ。よくわかっている。彼女が秋に全く関係の無い妖精である事。それどころか本来なら私たちと相性は最悪であるはずの妖精であることも。

 

「彼女の髪は雪のように白いものね」

 

「そう、そこに彼女最大の秘密があるわけです。彼女が秋に関係ないのに葉を落とせるのは?彼女が寒さを好むのは?簡単な事ですね。彼女が秋ではなく冬に関係する妖精だからです。

冬に関係すると言っても季節一つを司るわけではない。彼女の友人の氷精に近いものでしょうね。

 

さて、ここからが本題です。では何故冬に関係する妖精が秋に関係する神様たちと一緒に生まれたのでしょうか。貴方にももうお判りでしょう」

 

私は自然が彼女を生んだと考えていた。色を塗る私と色を消す彼女。その関係を作り出すための自然調和のようなものだと思っていたのだ。

 

「彼女は正式に人間に望まれて生まれてきた存在なのです。彼女の能力が何か知っていますか?…流石に知りませんか。彼女を知っている者は皆彼女の能力を『葉を落とす程度の能力』だと思い込んでいます。実際彼女自身がそう思ってしまっているので仕方ありませんね。

 

しかし残念ながらその能力は彼女の本来の能力の派生でしかありません。本来の彼女の能力は『冬を呼ぶ程度の能力』なのです。しかしこの能力も使い勝手はあまり良くないようですね。できることといえば葉を落とすことと初雪を降らせることくらい。

 

何故私が知っていて彼女が知らないのか疑問に思いましたか?」

「ええ」

 

エスパーか何かなのだろうか。口にも(恐らく)顔にも出ていないのに私の心を読んでくるとは、なるほどこの妖怪が賢者をやっていけている理由がよくわかるというものだ。

圧倒的な力に加えてこの頭脳。敵う者は非常に少ないだろう。

 

「実は私は彼女と古い知り合いなのです。先ほど言いましたね?彼女が人間に望まれて生まれた、と。つまりどういう事か説明しますと彼女は元々八百万の一柱だったのです。貴方は知らないでしょう。生まれてからすぐに別れていたようですから。

 

彼女が神でいられなくなったのもそのせいです。神としてこの世界に来たくせに来た当初から人間をあまり好いていなかったようですわ。今はもっとひどくなっているようですけど。

神に頼るだけ頼って自分たちでは何一つしない。そんな人間の望み通りに動くのは嫌だったようですね。神ならば頼られる事こそが生きがいのように私は感じるのですが。

 

私が彼女に出会ったのはまだ神として存在できていた時でした。彼女はまあぶっちゃけそんなに強くはなかったのですが当時の私から見れば魅力的でした。私の知らない事を知っていたり私のできないことができたりしただけなのですが。

 

結局出会ってから数十年ほどで別れることになってしまいました。そう、神としての死です。信仰が皆無になった時、八百万の神であった彼女は消滅してしまう運命にあったわけです。

本来ならばそこで終わりなのですが彼女はそうではなかったのです。彼女は自然という物に信仰された。

 

信仰と言うのは少し違うかもしれません。しかし今の彼女を生み出したのは自然なのです。神としての短い生を終え、妖精として生まれ変わった。見た目も性格も私の知っている物とはかけ離れていましたが私はすぐに彼女の生まれ変わりだと気づきました。

 

あの特徴的な白い髪と綺麗な目。あれは彼女にしかないモノです。ほとんどの場合白髪と言っても少し銀髪が混じっていたりして色ムラがあるものですね。しかし彼女はそうではなかったのです。彼女の髪色は純粋なまでの白。先ほど貴方が言っていたように彼女の髪も雪のように白かったのですよ。

 

そして一番はあの目の色です。彼女の目の色は俗に言うターコイズブルー。氷ほど冷たくはなく、かといって暖かくもない。皆が心地よいと感じる夏の海のような色なのです。

 

どうやら妖精に至る過程で記憶は失ってしまっているようなので彼女は私を覚えていない…いや、知らないのです」

 

シロが自然に気に入られたのは神の中の誰よりも自然寄りな神だったからだろう。私たちに限らず神はほとんどの場合人間寄りだ。信仰を失えば即ち消滅だからである。

人間のためには自然を減らしてしまうような神も多く存在する。山の上の神はまさにその典型だろう。外の世界の人間の技術と幻想の力を組み合わせて電気を恒常的に生み出そうとするくらいだ。

 

時代の関係もあるのだろうが、彼女は人間に依存することを良しとしなかったのだ。それがたとえ自身の消滅に繋がるとしても。神としてはあまりにも異端。神失格だ。

 

「記憶は失ってしまったようだけど今のシロは彼女の望んだ通りの姿なのかもしれないわね。貴方なら彼女の記憶を取り戻させる事くらい簡単にできるのではないの?」

 

「えぇ私なら恐らくできるでしょう。しかしそれを彼女は望むでしょうか。神だった頃の記憶など持っていない方が彼女は自由に生きられるし楽しめます。今の彼女を見ればそう思うでしょう?」

 

確かにそうだ。今の彼女が記憶を取り戻してしまったらシロの友人たちとは付き合いにくくなるだろう。ならば記憶が無い状態で彼女の理想の生き方をしている方が良い。恐らく彼女と一番長く共に生活した八雲紫が言うのだから間違いない。

 

「確かにその通りね。そういえば貴方は初めに『随分と親しみやすい名前になった』とか言っていたけれど彼女の神名を知っているのかしら?」

 

私の名前、秋静葉であったり秋穣子であったり、八坂神奈子や洩矢諏訪子などは全て人間が親しみやすいように付けた仮の名であり、神名とは別物である。

神名の方が威厳はあるのだが如何せん呼びづらいし覚えづらいものが多い。

 

かなり高位の神になると神名であっても人間から親しみを込めて呼ばれていたりする。有名どころであれば天照大神、須佐之男命なんかだ。

神は全て神名を持つ。ならば神であったシロも神名を持っているはずなのだ。そしてそれが彼女の本名となる。

 

「知っていました。でも忘れてしまった。消えてしまった神の名は思い出そうにも思い出せないのです。彼女の事は覚えていますし彼女の名前に無駄に威厳があったのも覚えています。ですが名前はどうしても思い出せないのです。

 

彼女の記憶を戻し、当時の彼女と触れ合えば思い出せるかもしれません。でも私にそれをする気はありませんわ。

今日の話も彼女…シロには言わないでくださいね。きっと大きな負担になるでしょう。

 

だって今の彼女は妖精だもの」




実は結構ちょこちょこ伏線もどきはありました。わかりやすいのは三話、四話、設定資料あたりですかね

これにて完結となります
短い期間でしたが呼んでくださった方、評価をつけてくださった方、感想を書いてくださった方本当にありがとうございました
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