ポケットクリーチャー   作:近眼

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ご覧いただきありがとうございます。

ポケモンって案外ブラックな成分があるので妄想が捗ります。


1-1:遠く離れた地で

 

 

 

 

 

「うっ…」

 

 

目が覚めたら見慣れない天井が目に入った。

 

 

何がどうなっているのか、記憶を整理してみる。カントー地方まで飛ばされた俺たちは落下位置をズラして海に着水。何とか浮上したはいいが、重い装備を持ったまま近くの陸地には辿り着けず、そのまま溺れてしまった…はずだ。

 

 

今俺はアトランティスにでもいるのだろうか。笑える。いや笑えないな。

 

 

「げほっ」

 

 

起き上がろうとしたら咳がでた。風邪、というわけでは無さそうだが、肺が弱っているらしい。口の中も塩辛い。溺れたことに間違いはなかったのかもしれない。

 

 

咳の音を聞いたのか、どたどたという足音が聞こえてきた。流石にクリーチャーに介護されるようなことは無いはずだし、この家の持ち主だろう。

 

 

扉を勢いよく開けて入ってきたのは一人の青年だった。いかにも理系ですみたいな白衣を着た割には髪の毛ツンツンで色々尖っている。

 

 

「ああ、よかった!目が覚めたんですね!!」

「…君が助けてくれたの?」

「はい、海岸であなたと女性の二人が倒れていらっしゃったので」

「そう。ありがとう」

 

 

運良く波に乗って海岸に打ち上げられたか。いや装備的には沈んでてもおかしくないんだけど…まあいいか。

 

 

「…ナミエは?」

「あ、一緒にいた女性の方ですか?隣の部屋にいます。まだ目は覚めていませんけど、眠っているだけです。今は母さんが面倒を見ていると思います」

「そっか。よかった」

「はい。お二人とも無事でよかったです」

 

 

とりあえずナミエも無事みたいだ。よかった。

 

 

「よっと」

「ちょっ?!何起き上がってるんですか!!ダメですって、まだ起きたばかりなんですから!!」

「俺は丈夫だからいい。ナミエのところに行く」

「大丈夫ですって!!寝ててください…って力強っ?!」

 

 

俺を押し留めようとする青年を力ずくで振り切って隣室に移動する。扉を開けると、ベッドで寝かされたナミエがいた。隣には看病している女性もいる。

 

 

「あら、目が覚めたんですね!」

「ナミエは大丈夫なの?」

「はい。眠っているだけですよ」

「だから言ったじゃないですか…」

 

 

目立った外傷もなさそうだ。安心。

 

 

「何かお礼しないと」

「いいですよ、お礼なんて。困った時はお互い様です」

「そういうわけにはいかないので。俺の武器はどこにあります?クリーチャー討伐隊として恩返しの無償労働でもしてきます」

「それよりもまずは休んでくださいな。働くなら万全の体調でなきゃ」

「うむむ」

 

 

まあ一理あるといえばある。仕方ない、ナミエが起きるまでは大人しくしておこう。

 

 

「…………」

「どうかした?」

「えっ……いえ、なんでもありません…」

 

 

青年は微妙な表情をしていた。あれか、グロいの苦手な類か。討伐は彼が見ていないところですることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に何から何までありがとうございました…!」

「いえいえ、2人とも元気になってくださったようでよかったです」

「畑を荒らす鳥クリーチャーは殲滅しておきましたので」

「あら心強い。本当に無償でいいの?」

「むしろ命を救っていただいたので」

 

 

数日後、俺もナミエも無事全快した。俺たちは身体が丈夫だからな。骨が折れたりしていなければ回復は早い。

 

 

「じゃあ今日も、最後に一仕事していきますよ」

「はい、お願いします」

 

 

そして、恩返しはしつつ、俺たちは早くシンオウまで戻らなければならない。カントー地方は無線が届くような位置にはなく、本部に連絡もできないのだ。

 

 

「それにしても…どうやって帰りましょう?」

 

 

クリーチャーが出るという畑に向かいつつ、ナミエが不安そうに溢した。本当は飛行機があれば1日もかからないのだが、クリーチャーが席巻する今飛行機を飛ばそうなんていう頭おかしい奴はいない。どう考えても様々なドラゴンや鋼の鳥とかに叩き落とされて死ぬ。

 

 

海路が安全かと言われれば全くそんなことはないのだけど、まあ迎撃できる分空よりマシ。時間かかるけど。それに運が良ければ落とされても生きてられる。

 

 

それにカントーなら海路はギリギリ許容範囲内だ。ホウエン地方とかだとかなりキツいし、ジョウトでも割としんどい。イッシュとかカロスとかガラルとかだったらもう帰るの諦める。空路ですら10時間とかかかるのに。

 

 

でも海路だって簡単じゃない。そもそも船出してくれる人がいるかどうか。

 

 

ならばこうだ。

 

 

「船をもらおう」

「…………え?」

「船をもらおう。使わなくなった漁船とか、もう漁は諦めた人のとか」

「…ヒロさん、船操縦できるんですか?」

「たぶんいけるでしょ」

「ヒロさん…」

 

 

そんなに白けた目をするんじゃない。割と本気だ。いけるって。

 

 

「だからとりあえず港町に向かう。クチバシティだっけ?遊覧船とか客船も来る港なんだから何か船あるでしょ」

「そ、そうですね…私も何か別の手段考えておかなきゃ…」

「ん?なんだって?」

「何でもないですぅ…」

 

 

何でもないと言う割には死んだ魚みたいな目してるけど。

 

 

どうしたんだろなーと思っていたその時だ。

 

 

「ッ!!来るぞ!!」

「えっレーダーには何も」

 

 

鋭い殺気。しかも一つや二つじゃない、大群だ。最近この辺りで殲滅した鳥…オニスズメだろう。小鳥のクセに好戦的でガンガン人を襲ってくるやつら、らしい。シンオウにはいないクリーチャーだからほとんど伝聞情報しかないが、数日狩って体感した。確かに好戦的だ。

 

 

しかしこんな大群があるとはな。

 

 

「れ、レーダーに反応多数…ひ、ヒロさん!大きな反応が複数!おそらく話に聞いていたオニドリルです!!」

「了解、見えた。でかいな」

 

 

視認できる距離まで近づいたオニスズメの大群、その中に明らかにでかい鳥が数匹見える。たぶん、大群のボスたるオニドリルだろう。物騒な名前しよって。顔は似てるけど本当にオニスズメの成体なのか?中間サイズの個体もいないし、別種の可能性もあるな。

 

 

ケムッソ、カラサリス、アゲハントみたいな完全変態を果たすクリーチャーもいるにはいるが、やつらはまんま虫だ。オニスズメは鳥だぞ。鳥が完全変態するのか?クリーチャーならあり得るか??

 

 

「火焔弾の制空圏に入ります!」

「オッケー、畑の収穫は終わってるらしいし、多少荒らしても構わないらしいから派手にいこう」

「いや派手に荒らすのはダメですよ?!」

 

 

知らんな。

 

 

弾の届く距離まで近づいたオニスズメの大群に向かって、ナミエは大砲のような重機で弾を打ち出した。放物線を描いて飛ぶ弾は中空で爆発、さらに小型の爆弾をばら撒き、爆弾はさらなる爆発を引き起こす。広範囲滅却用の火焔弾、さすがの威力だ。

 

 

だが。

 

 

「多すぎます…落としきれません!!」

「だろうね!!」

 

 

それでも狩り尽くせないほどの大群だ。火炎の嵐を抜けた鳥たちがこちらをめがけて突っ込んでくる。やはり、オニドリルの生存率が高いようだ。デカいだけあって生命力も高いと見える。

 

 

だが問題ない。

 

 

「抜けてくるなら、素っ首を落とすのみ!!」

 

 

先頭のオニスズメが俺を貫く寸前。刀を鞘から一瞬で抜き放ち、オニスズメを真っ二つにする。

 

 

いわゆる居合い抜きだ。

 

 

次。猛然と突っ込んできたもう一匹を横薙ぎに一閃。ついでに後続の一匹の頭も刎ねる。

 

 

三匹を始末する、その間は1秒を切る。その程度のスピード感じゃ俺は殺せない。迫る後続とは距離があったから、拳銃を抜いて撃ち落とす。

 

 

一通り後続を始末し、再び拳銃をしまって鞘に刀を納めたその時だ。

 

 

「ドrrrrrrrrrリィィィイイイイイ!!!」

 

 

火焔弾を抜けてきたオニドリルのうち一匹。そいつが雄叫びをあげながら、凄まじい横回転をしながら突撃してきた。

 

 

「なるほど、だからオニドリルか」

 

 

最初に名前を考えた奴のネーミングセンスに感心しながら、柄に手を添える。

 

 

何度でも見舞ってやろう。この必殺の居合い抜きを。

 

 

ドリルの如き嘴を直撃の瞬間に横に避け、同時に一閃。

 

 

「ドリっ」

「今夜は焼き鳥かな」

 

 

細い首をスパッとやられたオニドリルは、突っ込んできた勢いのまま地面に突撃。畑の土を抉って足だけ覗かせていた。頭は完全に埋まったが、まあ微生物の栄養になればいい。本体が無事ならいい食料になるだろう。

 

 

その後も順調だった。ナミエの火焔弾が大半を焼き払ってくれているのが何よりありがたい。撃ち漏らしを切り落とすだけでいいのだから。

 

 

そうしてほぼ全ての鳥たちを始末したところで、ナミエの火焔弾が尽きたようだった。

 

 

「ご、ごめんなさい!これ以上打てません…!」

 

 

「十分だ。ありがとう、後は俺が片付けるよ」

 

 

残っているのは十匹前後だ。そのうちオニドリルは三匹のみ、同時に来たとして遅れは取らない。

 

 

火炎の壁がなくなったのを確認した鳥どもは、チャンスとばかりに飛び込んできた。多少賢い個体だったのだろうが、結局飛び込んできたなら結果は同じ。一瞬の間に丸ごと切り捨てていく。

 

 

「さあ、あと一匹」

 

 

唯一突っ込んで来なかった一匹を残して全てを切り捨てた。後はあの一匹を仕留めれば全滅だろう。逃しはしない。

 

 

が。

 

 

「ヒロさんっ!何だか様子が変ですよ!あのオニドリル、陽炎みたいなのが…!」

 

 

ナミエの言う通りだ。何か様子がおかしい。なんかオーラみたいなのがオニドリルの周囲に漂っていて…。

 

 

「っ、ナミエ!撃ち落として!」

「はい!!」

 

 

何かしようとしているのは明白だった。だからその前に撃ち落とすように指示した。

 

 

しかし遅かったようだ。

 

 

「ドリィイイイイイイ!!!!!」

「あっ」

「っ」

 

 

まさに一瞬。

 

 

揺らめく鳥のような神々しい姿になったオニドリルが、叫んだ瞬間には半分以上距離を詰められていた。

 

 

咄嗟に刀を抜き放つ。

 

 

抜き放つが、相手も恐ろしい速度で向かってくる。間に合うか?!

 

 

 

 

 

 

 

「ピカチュウ!!10万ボルト!!」

「ピカァ!!!」

 

 

 

 

 

 

後ろからだ。

 

 

誰かの声と、俺を追い抜く雷撃、そして雷撃に貫かれて怯むオニドリル。

 

 

降って湧いたチャンスを逃すわけにはいかない。俺は抜きかけた刀を迷わず抜き放ち、若干焦げたオニドリルの頭を真っ二つに切り裂いた。

 

 

勢いを殺されたオニドリルはその場にドサッと落ち、ピクリとも動かない。

 

 

「ヒロさんっ、大丈夫ですか?!」

「…うん、大丈夫」

 

 

奇跡的に俺は無傷だ。それはいい。

 

 

「…それよりも」

 

 

俺は後ろを振り向く。背後には、看病してくれた青年が立っていた。

 

 

それだけではない。

 

 

「…()()()()()()()()()()()()()

 

 

彼の後ろには、なんと四匹。四匹ものクリーチャーが勢揃いしているのだ。

 

 

「助けてくれたからすぐには切り捨てないでおくけど。まさか君、クリーチャーを手懐けているのか?そんな化け物を」

「…違う、違います。こいつらは、僕の友達です!悪いやつらとは違います!!」

「君の言うことを聞いているうちはそうかもしれないな。だがさっきの雷撃は何だ?あんな威力の攻撃ができるクリーチャーを友達と呼ぶには危険すぎるだろ」

 

 

黄色いウサギのようなネズミのようなクリーチャー、尻尾が燃えるトカゲのようなクリーチャー、デカい亀みたいなクリーチャー、背中に球根のようなものを背負った四足歩行のクリーチャー。黄色いやつはシンオウでも見たことがある。ピカチュウというやつだ。生態的にはネズミに近いそうだ。

 

 

その四匹が揃って青年の前に立ち塞がっている。まるで青年を守るかのようにだ。

 

 

「ひ、ヒロさん!」

「何さ」

「私たち、助けていただいたんです。あまりむげにするのは…」

「だからって見過ごす?まさか。クリーチャーは残らず殲滅する。それが使命だ」

「でも!」

「でもじゃない。例外は許さない」

 

 

制止するナミエを無視して刀を抜く。そこに立っているだけなら居合いを使うまでもない。すぐにこの世から旅立たせてみせよう。

 

 

一足。

 

 

並の人間を超えた脚力が高速の突進を可能にする。目の前の4匹のクリーチャーを葬るべく、構えた刀を

 

 

 

 

 

 

 

振り切れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「…大したもんだよ」

 

 

攻撃されたわけではない。

 

 

現に4匹のクリーチャーは強く目を瞑って目の前の死を直視しないようにしていた。

 

 

では、何故構えた刀が振り払われなかったか。

 

 

青年が、クリーチャーの前に飛び出して盾になったからだ。

 

 

生憎、俺は人殺しをする趣味はない。一直線に殺しに向かった先に人がいたら、それはもう止まるしかない。

 

 

「自分の身を張るほどクリーチャーが大事?」

「…全てのクリーチャーが善良だなんて言いません。実際、さっきのオニスズメとオニドリルの大群はこの町の人々からしたら災害でしかなかったんですから。…でも、この子たちは違います。僕を助けてくれた、守ってくれた友達なんです。見殺しにするわけにはいかない」

 

 

俺は、絶大な死の刃を前にして目を逸らさず、そう言い切る青年の姿に負けてやることにした。少なくとも、この場では。

 

 

刀を鞘に納めつつ、その意志を確かめる。

 

 

「となると、いずれ君は俺たちの敵になってしまうけど?」

「いいえ、そうはなりません」

「へえ、何で?」

「これをお渡しします」

 

 

青年が懐から取り出したのは、数冊の分厚いノートだ。受け取って中を見てみると、クリーチャーの性質や食性、分布なんかが沢山書かれている。どうやって調べたのか。

 

 

「カントー地方の、クリーチャーの情報をまとめたものです。少し前まで、僕は仲間たちとカントー地方全域を調査していたので」

「…なんだ、白衣は伊達じゃなかったんだ」

「もちろんです。その情報、きっと討伐隊の皆様の役に立ちます。僕はこれからも調査を続けますから、あなた達の敵に回ることはきっとありません」

「どうかな。討伐隊には頭おかしいのも沢山いるし」

「…ヒロさんがそれ言います?」

「何。ナミエは僕の頭がおかしいと言うの?」

「頭も含めて大概おかしいです」

「頭も含めてってどういうこと」

 

 

急にディスられたんだけど何でだ。

 

 

「電波も無線も使えない環境ですから新しい発見があっても簡単には伝えられませんけど…そのノートの分だけでも、お役に立てたらと思います」

「そうだね。電波が復旧したら、その時はきっと君の研究ももっと評価されるんじゃないか」

 

 

クリーチャーの中には、先程のピカチュウのように電撃を操るやつらもいる。そのせいで今はあらゆる電波が妨害され、無線も距離が離れると使えなかったりする。そもそも発電所自体がクリーチャーに襲撃されたりするから、区域によっては電気の供給すら危うかったりする。

 

 

だからこそ、できるだけ早くクリーチャーを殲滅しなければならないんだ。

 

 

…だけど、目の前にいる青年は違う解決策に向けて動いているようだ。

 

 

すなわち、「共存」。

 

 

話の通じるクリーチャーと共に生きる選択。

 

 

別に無理だとは言わない。現に目の前には互いを守り合う姿が在るのだから。

 

 

俺はきっとその選択はしないだろうというだけの話。

 

 

「名前は?」

「へ?」

「君の名前。聞いてなかったよね?覚えておくべきだと思うから、教えて」

 

 

ただ、その選択肢を選んだ人間の名は聞いておくべきだと思った。だから俺は何も持たない右手を差し出してその名を聞いた。

 

 

青年は俺の手を握り返し、答えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

「…ユキナリ。オーキド・ユキナリです」

「ユキナリ君ね。覚えたよ」

 

 

 

 

 

 

 

俺はまだ知らない。

 

 

クリーチャーと人間が共存する道を選び、その先で彼が偉大な研究者として讃えられることを。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

オーキド博士、降☆臨

アニポケ1話とか君に決めたとかを見てる人なら誰だってオニスズメは人を襲うって認識します。多分。

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