ポケットクリーチャー 作:近眼
ご覧いただきありがとうございます。
あんまり人目にふれないようだったらやめてしまおうかとも思ってましたが、お気に入り登録をいただいたので続けます。ありがとうございます。
ただし不定期です。そして今作の私は作品の空気に合わせてローテンションです。
知らんわって思った方挙手。
というわけで、どうぞご覧ください。
俺を助けてくれたピカチュウが目の前で倒れた。
「ぴ、ピカチュウさん!」
ナミエが思わず駆け寄る。遠目からでもわかる重症度だ。おびただしい量の出血だけでなく所々刺し傷が紫色に変色しているのは、まず間違いなく毒の影響だ。ケムッソやロゼリアのトゲに刺されるとあんな風になったはず。加えて毒の主はスピアー、いわゆる成虫。強力な毒であることは間違いない。
それにしてもなんという頑丈さ。キャタピーは一撃で串刺しだったというのに、ピカチュウは肌に刺し傷を作りつつも俺たちが群れを追い払うまで耐え抜いたんだ。
「ヒロさん、まだ息があります!!」
俺は動けずにいた。
ナミエが言いたいことはわかる。まだ息がある、恩もあるんだから助けようと。そういうことだ。
でも、やつはクリーチャーだ。まごうことなき。
殺さなくてはいけないはずだ。
そのための討伐隊のはずだ。
「ヒロさんっ!!」
恩があるのはわかっている。だが、倒すべき相手だ。その命が尽きようとしているのに、
「ヒロさん…あなたが止めても、私は助けますからっ!!!」
ナミエがリュックから包帯や塗り薬を取り出し始める。どうあっても救う気のようだ。
その姿を見て、討伐隊の友人の姿がチラついた。討伐隊の中でも極めて異端なあいつの姿が。
ああ、俺も覚悟を決めよう。
右手を刀の柄にかけ。
一気に倒れたピカチュウまで突っ込む。
ナミエが反応する暇もなかった。
そしてそのまま、刃をボロボロの背中に突き刺して。
背中に埋まっていた毒針の破片を抉り出した。
「っ、ヒロさ
「馬鹿、針が埋まったまま包帯をするんじゃないよ」
「……あ、えっ」
「毒抜き用にモモンの実を持ってきてある。傷そのものには、その毒消しを塗った包帯でいいと思うけど…体内のものはこれが一番効くはず」
「…っ、はい!」
一瞬ナミエは戸惑ったけど、すぐに作業に戻った。
俺が持ってきたモモンの実は一般的に売られている甘い木の実だけど、実は結構な強さの解毒作用がある。料理に使われる方が一般的だし、そうそう毒に侵されるような事態にはならないから周知されてないけど、俺たち討伐隊の間では常識だ。チーゴの実に抗炎症作用があるのも同様。一般的に薬効が知られている木の実なんてカゴの実の覚醒作用くらいだろう。…まあ、あれはどっちかっていうとものすごい渋さのせいで飛び起きるって感じだけど。
ともかく、解毒は可能だ。
食ってくれれば。
「気を失ってる場合かよクリーチャーのくせに…!」
「ヒロさん、砕いて直接口に入れるのは…」
「あーくそっ、そのタイミングで起きて噛みつかれたら腕を失うぞ…!!」
そうは思うけど、ナミエが言う方法しかないだろう。木の実を真上にぶん投げ、刀で木の実を微塵切りにする。粉末とまではいかないけど、このくらいなら直接飲み込めるはずだ。
「頼む、起きるなよ…」
口をこじ開け、右手を突っ込む。一瞬喉に押し返されたが、人間と同じような反射だろう。手が入るギリギリまで突っ込んで、後は胃まで届くことを祈るのみだ。
「はぁ、とりあえず突っ込んだ。包帯は?」
「半分くらい巻けました!」
「オッケー、上半身は俺がやる。頬袋には触らないようにしないと」
「はい、お願いします」
ナミエから毒消しを浸した包帯を受け取る。ぶっちゃけ人間相手にこんなの巻くと逆に炎症起こしたりしそうだけど、まあクリーチャーは丈夫だし。
とりあえず応急処置はこれでいい。
「さて…この後が問題だな。このままニビシティに連れて行くのもアレだし」
「そう、ですね。傷だらけとはいえクリーチャーですし」
「…そのリュックの中に入らない?」
「ええ…本気で言ってます…?」
「マジマジ」
問題はどう連れ歩くか。一応ナミエのリュックにできた空きスペースに入らないかと思ったけど、さすがに無理かな?
「押し込んだら入るんじゃない?」
「いやいやいやいや絶対入らなっ…」
試しにぐいぐいやってみた。そしたら事件が起きた。
突然ピカチュウが赤く光り、リュックの中に消えていったのだ。
「「………………え?」」
さすがに驚いて動けない。ついでに顔を上げてナミエと目を合わせる。すごい間抜け面だ。
で、急いで行われるのは捜索業務だ。
「ちょっ、ちょちょちょちょっと?!?!そんなことありますぅ?!」
「いやこれはびっくり。ピカチュウにこんな能力があったとは。もしかして他のクリーチャーもこんな能力あるのかな?」
「わかんないですけど!もしかして虫もいなさそうな茂みからクリーチャーが飛び出してくるのってこういうことだったりします?!」
「わぁ大発見」
「わぁじゃなくてですね!!ピカチュウどこ行ったんですかー!!」
ナミエがものすごく慌てふためいているからこのまま眺めて「ヒロさん手伝ってくださいよ!!」あっはいすみません。
リュックの中身をひっくり返してみてもピカチュウは見つからず。まさか成仏したとか言うなよ?いやそれはそれでいいか。クリーチャーだし。
ナミエがリュックに頭を突っ込んでいる時に、視界の端で何かが動いた。
ふと見てみたそれは…ボングリだ。ボングリというのは…なんていうか、でかくて硬い木の実だ。食用にはならないけど、やたら頑丈だから器に使ったり、僕ら討伐隊は薬や他の木の実を入れるのに使ったりしている。
そいつが微妙にごろごろ動いている。
「…まさか?」
「ヒロさ〜ん。どこにも見当たりません〜」
「いつまでリュックに頭突っ込んでんの」
バカやってるナミエはほっとこう。
ちょっと警戒しながらボングリの中を覗いてみる。暗くて見にくいが…お、いた。ボングリに収まるサイズまで縮んだピカチュウがそこにいた。ご丁寧に元々中に入っていたオレンの実は食い散らかした模様。おかげでちょっと元気そうだ。いや勝手に食うな。
「ナミエ、見つけたよ」
「えっ?!どこですか?!」
「君はまずリュックから頭を出しなさい」
まだやってんのかよ。
「…ボングリの中にいるんですか?」
「ほら」
「うーん、暗くてよく見えな…あっ!本当だ!いますねピカチュウ!あっでもおやつ用のオレンの実が食べられた!!」
「おやつ用だったのあれ」
クリーチャー討伐に出てるのにおやつとは呑気なものだ。
まあそういうのもナミエのいいところかもしれない。
「とにかく、瀕死のピカチュウをほったらかしにする必要は無くなったね」
「はい!…このまま連れていくのは…」
「だめだよ」
「ですよねぇ…」
それはだめだよ。ボングリの中にいれば安全だなんて確証は無いし。今回助けたのは特殊な例だからね。
「まあ、カントーならそいつを預けられるやつがいるから大丈夫だよ」
「え?」
「まあ生きてるかどうかは知らないんだけど」
「えぇ…」
とりあえず当面はこっそり面倒を見る、程度でいこう。襲いかかってきたら即斬り捨てる。それでいい。
ニビシティに向かう道すがら、一旦ヒロさんをはじめとしたクリーチャー討伐隊についてご説明させていただきます。
あっ、わたしはナミエと申します。クリーチャー討伐隊第一班火力支援担当です。
まあ、第一班は私とヒロさんしかいないんですけど。討伐隊は人手不足なんです。亡くなってしまわれる方も多いですし…。
その中でもヒロさんは特別活躍されてきた方です。現在22歳、身長は170cm後半くらい。痩せ型で綺麗な短い銀髪が特徴的です。刀の扱いを得意とされている他、遠距離攻撃用の拳銃も扱うことができる万能隊員です。
目つきは鋭いですが、意外と話し方がゆったりとしていて親しみやすい方です。ただ、融通はあまり効きませんが。私は幼馴染なのでよく話をしますが、初対面の方には警戒されることが多いですね。
先程も申し上げた通り、ヒロさんはとても活躍されています。討伐隊では、大きな功績を挙げた方にはコードネームを授与しており、ヒロさんは「最多救助人数」の功績をもとに、コードネーム「ヒーロー」を頂いています。ヒロさんがヒーローなんです。名前で遊ばれてるみたいだって、ヒロさんはちょっと不服そうですけど。
他にも、シンオウ地方には「最多討伐数」の「スレイヤー」さんや、「最優研究貢献」の「ドクター」さんがいらっしゃいます。他の地方にもコードネームを持った方々はいらっしゃるようですが、私はあまり知りません。ヒロさんはほとんどの方と面識があるそうですが。
とにかく、ヒロさんは討伐隊の中でも最上位の実力者だとわかっていただければ充分です。
ヒロさんは沢山のクリーチャーを討伐していますが、討伐数では「スレイヤー」さんに及びません。ヒロさんの戦闘スタイルが1対1に特化しているからです。単純な数だけでいえば支援している私の方に軍配が上がり、1対多による殲滅戦闘が主体の「スレイヤー」さんは更に上を行きます。
しかし、討伐したクリーチャーの「質」で言えばヒロさんは群を抜きます。強力な竜であるガブリアスをはじめ、砂嵐を巻き起こすカバのようなクリーチャー・カバルドン、硬い甲殻を持つ大蠍・ドラピオンなど、並の人では大勢で囲んでも太刀打ちできない相手をヒロさんは単独で討伐した功績があります。
先日相対したパルキアのような規格外でなければ、たいていのクリーチャーに打ち勝つ実力をお持ちです。
ただ、ちょっとクリーチャーへの殺意が強すぎるのが怖いですが。昔から一度決めたら一直線な人ではありましたけど、ほんとに筋金入りというか、なんというか。
仲良くできるクリーチャーもいると思うのですけど…。
まあ、そんなちょっと頑固なヒロさんを諫めるのも私の役割です。ふふん。
「なんだ、意外と近かったねニビシティ」
おや、もう着いてしまったようです。ニビシティはユキナリさんのお話によると、隣にオツキミ山から化石などが取れるそうで、そういった歴史的に価値のあるものを展示した博物館もあるそうです。
今日は一旦ここでお休みして、明日オツキミ山を越えたいですね。
「じゃあ休めるところを探そうか。俺は先行ってもいいんだけど」
「置いてかないでくださいよ?!」
もう夕方なんですから素直に休みましょうよ。
ちゃんと休めるところがあるといいなぁって思いながら街に入ると…すぐにヒロさんの表情が険しくなりました。
「…待って」
「え?」
「静かすぎない?」
「え…まあ、言われてみれば…?」
確かに人気がありません。クリーチャーが席巻しているこのご時世で無闇に外出する人はそんなにいませんが、そういう問題ではありません。
人はいます。
でも、何故か足音すら忍ぶようにして歩いているのです。
「何かあるね、これは。話を聞きたいところだけど…」
「迂闊なことはできない、ですか」
「そうだね」
街の中がここまで静かな以上、今の会話さえも何か危険なのかもしれません。どうしましょう。
「あえて騒音を上げてリアクション見てみたいけど」
「やめてください…」
「やんないよ」
ご迷惑になるようなことをしないでください。
と、その時。
「あっ!討伐隊の人だ!」
「っ」
近くの民家から子供が出てきました。しかもこちらに気づいたようで、大きな声を出してこちらを指差しています。
「まずいかも。ナミエ」
「はいっ」
「やったあ!討伐隊が来てくれた!」
ヒロさんが刀の柄を握り、私は火器を構えました。私たちの心配をよそに、子供はこちらに駆け寄ってきました!
「おーいっ討伐隊の人ー!」
「だめっ待ちなさい!外に出ちゃだめ、早く戻ってきなさい!」
「お母さんっ!討伐た
ゴリっという音がしました。
音源は、下。地中。
そして、音がした瞬間には、地中から何が飛び上がってきていました。
足音を察知してきたのであろう巨大な体が、子供と、子供を連れ戻そうとした母親を、突撃の勢いで空中に吹き飛ばしました。
ヒロさんの舌打ちの音、目の前の巨大な岩の体、そして降り注ぐ血と肉の雨。
「…なるほど。地中を掘り進み、音で外敵を察知する。シンオウでも見かける…面倒な相手だ」
岩でできた蛇のようなクリーチャーが、血を滴らせてこちらを見下ろしていました。
岩蛇・イワーク。
見ての通り並の攻撃が通らない、非常に頑丈で厄介な相手が私たちの前に立ち塞がりました。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
不思議、イワークがこんなにも強そう。A種族値はポッポと同じなのに。
続ける元気が出たのでヒロさんの見た目を公開しておきました。ナミエちゃん?ヒロさんのやる気が出たら教えてくれるよ。