ポケットクリーチャー   作:近眼

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ご覧いただきありがとうございます。

GOTCHA!のムービーがとても良い…良いけど場面転換が早すぎて追えない。ゆっくり見させて。


というわけで、どうぞご覧ください。




1-6:オツキミ山クライミング(しない)

 

 

 

 

 

 

 

ニビシティの復興がある程度済んだ。

 

 

まあ休ませてもらったし食料も補充させてもらったからそのお返しとしても頑張った。しかし3日間ひたすら整地したり瓦礫運んだりは疲れた。

 

 

「これから山登りだっていうのに」

「…トンネル抜けるんですよね?」

「登った方が早いと思うんだけどなぁ」

「いくらなんでも、テンガン山みたいに整備されてない山を登りたくないです…。いえテンガン山も嫌ですけど」

「残念。腹いせに道中のクリーチャーは皆殺しにしよう」

「うう…クリーチャーのみなさん、怨むならヒロさんだけを…私は怨まないでください…」

「酷いなぁ」

 

 

俺たちは今からオツキミ山を抜けてハナダシティに向かう。ハナダシティを南下してクチバシティにつけばもうそこは港町だ、シンオウにも帰れる。多分。

 

 

そしてオツキミ山を登って越えようと思っていたら、ニビシティの市長とかいうやたら目の細いおっさんが中抜けた方が早いと教えてくれた。クリーチャーはいるけど、むしろそれは討伐隊としては丁度いいんじゃないかって。余計なお世話だ。とても丁度いいですありがとうございます。

 

 

というわけで現在オツキミ山目指して歩いている。

 

 

「とはいえ…やっぱり山は山ですね…。結局山登りしてるみたいな道のりです…」

「そうかな」

「そうですよ…ヒロさんは平然と段差を飛び越えないでください…」

 

 

ナミエは山にたどり着く前からハァハァ言ってるけど、そこまで大変な道のりじゃない。クリーチャーもいないし、観光地だった頃の名残で道もちゃんとしている。月がよく見える山だって評判だったらしい。

 

 

ナミエがおっそいから、オツキミ山の麓にあるトンネルの前で一枚の写真を取り出した。先日アカヤ…『レッド』が投げてよこしたものだ。

 

 

写真に写っているのは、壁画。

 

 

見たことがある。確かカンナギタウンにあるやつだ。何が書かれているのかさっぱりわからんってどこかの考古学者が言ってた気がする。

 

 

「だからこれが何なんだって話なんだよなぁ」

 

 

アカヤがクリーチャーを従えた理由がこれだと言っていた(言ってないけど)。ヒントが写真一枚とか不親切すぎる。まあ、あいつの不親切は今に始まったことじゃないけど。

 

 

割と歴史好きなアカヤだけど、この壁画からクリーチャーに関する何かを読み取ったのだろうか。いや大昔からある壁画と数年前から現れ始めたクリーチャーが関係あるわけないんだけど。

 

 

だめだ。やっぱりわからん。

 

 

「は、はひぃ…置いてかないでくださいぃ…」

「ああ、やっと着いたの」

「『ああ』じゃないですよ…私重火器背負ってるんですからね…リュックも…」

「どうせリュックの中身は大量のおやつでしょ」

「………………………………」

「太るよ?」

「太りませんっ!!」

 

 

写真のことを考えてる間に、へろへろなナミエがやっと追いついたようだ。重火器はともかく、リュックはニビシティに着いた時よりはるかに膨れ上がっている。色々食べ物を分けてくれたからそれを律儀に詰め込んだんだろう。ナミエ大食いだからね。実際太らないから別にいいけどさ。

 

 

胸も太らないけど。

 

 

「…ヒロさん、今失礼なこと考えませんでした?」

「俺が失礼だったことなんてある?」

「たくさんあります」

「そうか」

 

 

ちなみに本人に言うとめっちゃ怒る。

 

 

「じゃ、休憩も済んだことだし早速行こうか」

「私はまだ全然休憩してませんよ?!」

「俺にこれ以上休憩しろと?退屈で死んじゃうよ」

「マグロか何かですかあなたは…」

 

 

そんなこと言われても。それにさっさと行かないと日が暮れるよ。夜の山とか暗すぎだから危ないと思うんだけど。

 

 

でもナミエを置いてくわけにもいかないから、リュックから大量の木の実を取り出すナミエを眺めて待つことにした。

 

 

リスとかハムスター見てる気分だ。

 

 

「あ、あの…」

「ん?」

「そんなに見つめられると照れちゃいます…」

「は?」

「いえ何でもありません今のリアクションで全部冷めました」

 

 

表情が忙しいやつだな。

 

 

「食べながらで悪いけど、この後の予定を話すよ」

「はむはむ」

「この山…オツキミ山には昔使われていたトンネルがあって、真っ直ぐではないけど比較的楽な道のりで早くハナダシティまで抜けられる。だけど今はクリーチャーが湧くから危ないっちゃ危ないそうだ。まあクリーチャーを殲滅できるならむしろ利点ではある」

「ほむほむ」

「だからクリーチャーは見つけ次第討伐。ついでに、ニビシティとハナダシティの行き来が楽になるように塞がれている道とかは積極的に開いていこう。まあ一般人がここを通れるようになるのがいつかって話ではあるけど」

「ほむっ」

「何食ってんのそれ」

「ナナシの実です!すっぱいですけど美味しいですよ!」

「食い過ぎじゃない?」

「まだ18個目です!」

「食い過ぎじゃない?」

 

 

未だに口いっぱいに木の実を頬張るナミエ。よくそれでちゃんと話せるね君。

 

 

てか話ちゃんと聞いてただろうね?

 

 

「いい加減行くよ。日が暮れて暗くなるのが一番めんどくさい」

「松明なら持ってきてますよ?」

「松明で明るくしてもマイクラみたいにはならんよ?」

 

 

松明があろうと無かろうと、明るいうちに抜けるに越したことはないでしょうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中は真っ暗、ということはない。

 

 

先人が置いていった松明が燃えているからね。まあいくつか消えてしまっているものもあるけど、さほど支障はない。松明自体は僕らも持ち歩いてるしね。

 

 

「光り輝くクリーチャーとか居たらもうちょい見渡しが良くなるのに」

「何ですかそれ…さすがに眩しいほど光る生き物なんていませんよ。ぼんやり光るくらいならいそうですけど」

「オヤジのハゲ頭は光るって言うじゃん」

「なんて失礼なこと言うんですか」

 

 

そんだけ強い光源は大事ってことだよ。

 

 

「せっかくだから消えちゃってる松明にも火をつけながら行こう。光源確保にもなるし」

「油残ってるんでしょうか…」

「それは知らない」

 

 

今も燃えてる松明はいいとして、消えた松明はクリーチャーに消されたのか燃料切れなのかの二択だ。燃料切れの場合は諦めるしかない。こっちも油は有限だからね。

 

 

「懐中電灯持ってこればよかったねえ」

「電池の調達が面倒だからって言ったのヒロさんじゃないですかー!」

 

 

ちなみに電池は雷を操るクリーチャーが寄ってくるのであんまり持ち歩かない。発電所とかは仕方ないにしろ、常に厳重警戒態勢だしね。シンオウでも毎日コリンクやパチリスを追い払ってて大変そうだったし。

 

 

だから電気にはあまり頼れないね。まあそもそも懐中電灯持ってきてないわけだけど。いやだってカントー地方に来る予定なんて無かったし。

 

 

「それにしても、案外静かだね」

「山のトンネルの中が騒がしくても困りますが…確かにそうですね、クリーチャーも見かけませんし」

「イワークとかいるかと思ったのに」

「イワークの群れなんて冗談じゃないですよ…」

「戦うのは俺なんだからいいじゃん」

「よくないですよ?!私だってハラハラしながら援護してるんですから!精神衛生上よくないです!!」

 

 

喋りながらそれなりの距離を歩いたけど、今のところクリーチャーには出くわさない。ズバットくらいいそうなものだけど…いるけど隠れてるのかな。そもそもズバットがカントー地方にいるのかどうかも知らないけど。

 

 

あ、ユキナリくんノートに書いてあるかも。

 

 

「ナミエ、ユキナリくんノート出して」

「えっ今ですか?暗くて読みにくいと思いますけど…」

「ズバットがいるかどうかだけ確認。あーいや、ついでに暗闇に住むタイプのクリーチャーの情報も見ときたい」

「…それ、出発前に見ておくべき情報じゃないですか?」

「後悔先に立たずってね」

「まぁそうですけど…はぁ、ヒロさんそういうとこありますよね…」

「何か言った?」

「何でも無いですー!」

 

 

確かに先に見ておけばよかった。というかなんだかんだでタイプ相性くらいしか見てないんだよね。これは反省案件。しかし反省しすぎて立ち止まるわけにもいかないのだ。これが向上心というやつ。

 

 

周囲の警戒は赤外線レーダーに任せて、ナミエに渡されたノートを開く。松明を近づけて見てみると、おお、バッチリ色んなクリーチャーの情報が書いてある。100ページ以上ありそうなレベルでびっしり。すごいね。クリーチャー情報だけでノート一冊。ちなみにタイプ相性がどうのこうのってやつとは別のノートだったりするから研究者すげーって感じだ。

 

 

「えーっと…ああ、ズバットはちゃんといるんだね。おっ地域別で見つけたクリーチャーもまとめてある」

「まさに研究者って感じですね。しかし彼、単身でここやトキワの森を抜けたのですね…」

「どうだろう。彼のことだからクリーチャー従えてたのかもしれない」

「…やっぱりクリーチャーを味方に

「やだ」

「まだ言ってる途中なのに…」

 

 

だからリスクが大きすぎるって言ってんでしょうに。戦力としての有効性はわかってるよ。

 

 

いや言ってはいなかったかな?

 

 

「まあとりあえずいるってことはわかったね。タイプは毒・飛行…ん?2種類?」

「2種類のタイプを持ってるクリーチャーもいるようですね。そうなるとタイプ相性ってややこしくなっちゃいますね…」

「めんどくさー。てゆーか大半2種類持ってない?イワークも岩・地面って書いてあるし。水タイプが二重で弱点だけどどうなるの?水かけたら死ぬの?」

「さあ…?大抵のイワークの処理方法は砲弾やヒロさんみたいな物理兵器だったのでわからないですね」

「待って、俺を物理兵器に加えないで」

「え?」

「え?」

 

 

勝手に人を兵器扱いしないの。

 

 

「…まあいいや。とにかくオツキミ山にいるクリーチャーは…ズバット、イシツブテ、ピッピと…パラス?こいつは知らないな」

「パラスっていうの以外はシンオウでも見かけるクリーチャーですね。なら対処は難しくないかと」

「ことごとく火炎放射が効きにくいやつらだなぁ。ナミエ、実弾兵器は持ってる?」

「一応ガトリングは標準装備ですけど、12インチ砲は持ってきてないです…」

「…まあアレは砲弾が調達できないからいいよ」

 

 

主に生息しているらしいズバットやイシツブテは、シンオウでも暗い岩場によくいたから納得だ。ピッピは標高の高いところにいるみたいだからそれも合致。おおよそ生息地はシンオウの個体と変わらないみたいだ。

 

 

ナミエの装備は重火器だけど、可変式だからさまざまな役割を持たせられる。オニスズメの群れと対峙した時のナパーム弾、スピアーを追い払った火炎放射器の他、標準装備のガトリング、対物ライフル、白兵戦用のチェーンソーがある。確認してみたら、今はショットガンと簡易式レーザーも搭載してるらしい。ナミエが言ってた12インチ砲みたいなのは決戦兵器みたいなものだから無くても仕方ない。

 

 

どっちかっていうとナミエの方が物理兵器じゃない?

 

 

「火炎放射器の燃料とかナパーム弾の中身はニビシティで補充できたからよし。ガトリングとかは弾はある?」

「もちろんです!いつでも使えます!」

「ならいいか。うーん、水圧カッターがあればよかったんだけど」

「あれは水源が近くにないと使えませんから、テンガン山ならともかくここでは役に立ちませんよ」

「そうか。まあどっちにしろ今手元にある武装でどうにかするしかないか」

 

 

水鉄砲ですら効くかもしれないわけだけど、そもそも飲み水以外に水はないからね。飲み水使って脱水症状になるとかバカらしいし、それはできないな。

 

 

べつに面倒なだけで対処できないわけじゃないし。

 

 

「レーダーの反応はどう?」

「遠いですが、ズバット2匹とイシツブテ3匹がいます。でも寄ってこないですね?」

「強敵と思って逃げてるのかもしれない。ゴルバットもゴローンもいないみたいだし、ここにいる個体はあんまり強くないのかもね」

「そういうことなら楽に進めそうですね!」

「クリーチャー殺せなくてつまんない」

「えぇ…」

 

 

ナミエがドン引きしている。クリーチャー討伐隊なんだから当然でしょ。クリーチャー殺すのがお仕事なの。

 

 

まあでも襲ってこないものは仕方ない。下手に刺激して囲まれても面倒だし、ここは引いてあげよう。

 

 

若干高低差があるものの、それなりに整備されたトンネルだから歩きやすい。過去の偉大な誰かさんに感謝しよう。たまにイシツブテがゴロゴロ転がってるけど、こっちに気づくと逃げていく。ズバットに関してはおそらく超音波でこっちの位置を把握しているのだろう、見かけすらしない。

 

 

「で、このキノコくっつけた虫がパラスと」

「パラ」

「敵意は無さそうですねぇ」

「パパパラ」

「キノコむしり取ったら怒るかな」

「やめてくださいね?!」

 

 

しかし唯一見かけたクリーチャーがこのパラスだ。生きたまま冬虫夏草になったみたいなクレイジー生命体だし、敵意も警戒心もないようで不用心極まりない。焼けば殺せるだろうし刀で真っ二つも簡単だろう。まあハサミがそれなりに大きいから油断はしないけど。

 

 

「1匹殺して背中のキノコいただいていこう」

「うわぁ…相変わらず躊躇のカケラもないですね…」

「群れで襲ってきたら焼き払っといて」

「えぇ〜…」

 

 

というわけでスパッと真っ二つにしてキノコ回収。動きがノロいから余裕だったし、周りにいる他のパラスもノーリアクション。よく生き残ってるなこいつら。

 

 

「…襲ってこないですね?」

「仲間意識とかは少ないのかな。それか本体はこのキノコなのか」

「どういうキノコですか…」

 

 

そういうキノコもあるかもしれないじゃん。

 

 

「食料源になるかな」

「そのキノコ食べるんですか…?」

「いや虫の方」

「いやっえっ待っ虫食べる気ですか?!」

「蜂の子とか美味しいし」

「やだやだやだやだ絶対やめてくださいせめて私に見えないところで食べてください!!」

「ほら断面クリーミー」

「いーーーーーーやーーーーーー!!!」

「危ねっ」

 

 

パラスの断面を見せつけたら重火器の砲身を振り回された。こわっ。あんな鋼鉄の塊で殴られたら下手すると死ぬぞ。下手しなくても死ぬかも。

 

 

「殺す気かよ」

「ほんっとにやめてください!いつまで経ってもデリカシー無いですねもう!!」

「そんな遥か昔からデリカシー無いみたいな言い方しないで」

「遥か昔からデリカシー無いですッ!!カマキリを頭に乗せてきたり目の前で鶏を解体したりパンツ勝手に洗ったり!!」

「待って待ってカマキリは悪かったと思うけど、鶏は食料だしパンツは血がついてたから洗ってあげたんだし」

「百歩譲って鶏は許すとしても!女性のパンツをそもそも勝手に触らないでください!!」

「だって血

「女の子は時々出血するんですッ!!!!」

 

 

何故かものすごい怒られた。パラスの断面見せただけなのに。セミの断面みたいなもんじゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激おこプンプン丸なナミエを連れてオツキミ山内部を進み、2時間ほど経過した。途中何度か命知らずなズバットやイシツブテが向かってきたけど、即座に真っ二つにしておいた。イシツブテは硬いけど、イワーク同様一閃をぶちかませば切れる。

 

 

とにかくここまでは順調だった。

 

 

「ストップ」

「?」

「いっぱいいる」

 

 

ナミエを片手で制して岩陰に隠れる。お互い武器を構えて、俺だけ少し頭を出して様子を見る。

 

 

少し広くなっていて、天井に穴が空いて外が見えるようになっている場所。そこに沢山のクリーチャーが集まっていた。

 

 

ピンクの体、尖った耳、小さい羽。ずんぐりむっくり妖精といった感じの見た目をしたそいつはクリーチャー。ピッピと呼ばれているやつらだ。

 

 

「…テンガン山でよく見かけるやつらだ」

「ピッピですね。ピィはほとんどいないようですが…」

「それはテンガン山でも同じでしょ。幼体っぽいし、隠れてるんじゃない?」

 

 

数は少ないが、時々見える小さい個体を俺たちはピィと呼んでいる。見た目が似ているし、おそらくピッピの幼体だ。姿を見かけることはほぼ無いが、稀に見かける。

 

 

しかしテンガン山ではこんなにピッピが集っているのは見たことないな。

 

 

「何してんのかな。真ん中らへんに集まってるみたいだけど」

「何かを囲んでる…?儀式か何かでしょうか?」

「テンガン山のピッピも満月の日は踊ってるもんねぇ。まあ一箇所に集まってくれるのは殲滅しやすくてありがたいけど」

「ヒロさんの頭の中は殲滅しかないんですか…??」

「他に何かいる?」

「ヒロさん…」

 

 

まあとにかく、せっかくいっぱい集まってるんだし一気に潰しちゃいたいところだよね。道端のイシツブテなんかは下手にちょっかい出すと囲まれそうで嫌だったけど、まとまってくれてるなら囲まれる前に粉砕できる。まさにチャンス。一網打尽ってやつだ。

 

 

「ナミエ、ガトリング用意。撃ち漏らしを掃除して」

「火焔弾や火炎放射器でなくていいのですか?」

「閉所で炎は窒息するよ。実弾兵器使って」

「そっか…了解です」

 

 

さて、一気に仕留めようか。

 

 

ナミエが静かに重火器の準備をしている間も監視を続ける。すると、ピッピの群れの隙間から群れの中心にいる何かが見えた。

 

 

ピッピより一回り小さい、似た色の生き物。ピィだ。しかし変だ、普通のピィは耳の先は茶色なのに、あのピィは緑色をしている。

 

 

それに何というか、やたら傷だらけだ。

 

 

周りのピッピ達の表情も険しい。何かに襲われたのかとでも思ったが、どうもそうでは無いらしい。

 

 

そう思った理由は明白だ。

 

 

ピッピが変な色のピィにビンタをかましているのが見えたからだ。

 

 

「…ふん。人もクリーチャーも、異端を迫害するのが好きなのは変わらないのか」

「ヒロさん」

「君は見なくていい。奴らの殲滅だけ考えろ」

 

 

ナミエもその光景が見えたのか、俺に何かを訴えようとしてきた。言いたいことはわかってる。あの虐められているピィを助けたいんだろう。

 

 

だけどそういうわけにはいかない。俺は、全部、殺すのだ。

 

 

「一閃で可能な限り斬り捨てる。残りを可能な限り処理して。危なくなったら逃げるか俺を呼べ」

「…はいっ」

 

 

ためらわない。一瞬の躊躇が命に関わる世界なんだから。

 

 

合図はしなかった。そんなものなくともナミエはわかってくれるから。

 

 

無音で岩陰を離れ、どろりと液体の如き動きで、静かに素早く群れの外周に近寄る。

 

 

そして間合いに入った瞬間、刀の柄を掴む。

 

 

一呼吸。

 

 

 

 

 

「一閃」

 

 

 

 

 

無音だった。

 

 

ただ、一瞬遅れて3体のピッピの上半身がずり落ち、鮮血を垂れ流しだしただけだ。

 

 

たかが3体。しかし、その3体から血が噴き出る時には既に刀は鞘に戻り、俺は移動している。

 

 

一閃は抜刀術だ。一度刃を納めなければ使えない。刃を鞘の中で滑らせる過程がなければこの速度が出せない。

 

 

でも、抜くのが神速なら納めるのも神速。抜刀術だけでなく納刀術も完璧にしてこそ至高の居合に辿り着く。

 

 

だから、ピッピの群れが異常に気づく頃にはゆうに10回以上居合を食らわせ、30体近い死体が出来上がっていた。

 

 

ピッピ達は、鮮血の雨に濡れ始めたところでようやく危険を感知したらしかった。蜘蛛の子を散らすように逃げ出すずんぐりむっくり妖精を、近くを通った奴から切断していく。

 

 

そして、俺から距離を取るピッピに対しては、

 

 

「こちらは通しません、お覚悟を!!」

 

 

ナミエが処理してくれる。やっぱり集団戦では重火器は頼りになる。ガトリングで掃射すれば並の耐久力の生き物は吹き飛んでいく。

 

 

まあクリーチャーは並の耐久力の生き物ではないから吹き飛びはしないんだけどさ。ダウンまで追い込めるなら十分だ。

 

 

「ナミエ、前線上げていいよ」

「はいっ!!」

 

 

合図を送ると、ナミエは大きく跳躍して前に出る。重火器抱えたまま。あんまり気にしてないけど、こういう時はナミエの怪力具合を感じるよね。

 

 

「敵影残り8体です!」

「そっち任せた」

「はい!」

 

 

ナミエのレーダーがクリーチャーの居場所を教えてくれる。もっとも、奇襲に遭って混乱しているピッピどもを捉えるのは難しいことじゃないけど。

 

 

あとは消化試合だ。

 

 

「あっ」

「何?」

「いえ、何でも…っ!ヒロさん後ろ、迎撃が来ます!!」

 

 

ナミエに気を取られた瞬間だ。後ろにいたピッピの1匹が、手を上げて構えていた。

 

 

咄嗟に防御体制を取ったその時、ピッピの頭上から謎の光が発せられた。それと同時に、これまた謎の衝撃波に見舞われる。クリーチャーによくある謎現象攻撃だ。そんなんよくあってたまるかって話だけど、実際よくある。銅鏡みたいな見た目のドーミラーとかよく謎光線とか謎の念力を使ってくる。

 

 

だが、こちらも伊達にクリーチャーと戦っていない。ピッピ自体との戦闘経験は少なくないし、謎光線も何度も受けてきた。余波を食らったナミエも防御に成功している。

 

 

シンオウの個体より全然弱い。

 

 

ならば苦戦すらすることはない。

 

 

目前、2体。

 

 

謎光線を放ったピッピと、その隣にいた別のピッピに向かって不可視の抜刀術を喰らわせる。刀を鞘に納めると、そのタイミングで奴らの上半身はズリ落ち、血溜まりを作り出した。

 

 

「ヒロさん、こちらも終わりました。…敵影、ありません」

「はい。お疲れ様。損傷が少ない肉は少しだけ持っていこうか、後で焼いて食べよう」

「私人型のクリーチャーのお肉は食べる気しないんですけど…」

「虫も食えないのに何食べる気なのさ」

「ムックルとかドジョッチとかいるじゃないですかー!!カントーにはポッポとかオニスズメとかー!!」

「豚とか牛のクリーチャーいないかなぁ」

「…ヒロさん、ゴースとかも食べたりしないですよね?」

「あんな煙みたいなの食えるわけないでしょ」

 

 

ともかく、軽く全滅させることができた。ナミエの援護がよく効いてるね、ありがたい。あと食えるものは出来るだけ持って帰ろう。血抜きして塩漬けにすれば大抵のものは食える。多分。カラナクシみたいに溶けたりフワンテみたいに爆発しなければ。

 

 

「じゃ、先に進もうか。もう結構暗くなってきたし」

 

 

穴の空いた天井から見える空は既に赤みを帯びてきている。もう夕方近くだろう。

 

 

暗くなる前にハナダシティに着きたいからね、サクサク行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒロさんには弱点があります。

 

 

クリーチャーの気配をレーダーよりも敏感に察知するヒロさんですが、それは実は完璧ではありません。自身に敵意を向けるものに対してのみ、その鋭敏な第六感は発揮されます。だから近寄ってこないイシツブテやズバットに気づけなかったんです。

 

 

だから、ヒロさんは気付きません。気付けません。

 

 

 

 

 

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戦闘中に、混乱するピッピの群れに弾き飛ばされたピィを見つけて思わず匿ってしまいました。今はボングリの中に隠れているようです。

 

 

(大丈夫…)

 

 

私はヒロさんみたいにはなれません。

 

 

ヒロさんみたいに、迷わずクリーチャーを殲滅する非情さは持てません。

 

 

私もヒロさんと同じように昔から変わらず、たとえそれがどんなに非合理的でも、虐げられる何者かを見捨てることはできないんです。

 

 

(あなたは私が守るから。あなたを虐める子は、近づけないから…!)

 

 

もしこっそりクリーチャーを匿ってるだなんてヒロさんが知ったら、もう一緒にいられないかもしれませんが。

 

 

それでも、やっぱり見捨てられない。いつか後悔することになったとしても。

 

 






最後まで読んでいただきありがとうございます。

Q:一閃強すぎない?

A:一閃ははがねタイプ判定です。

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