ショールームに展示されていた僕は、唐突にKSIの連中から叩き起こされた。
“オプティマスプライム”を筆頭とするオートボットの連中とその仲間の人間達が、
とうとうKSIの本社ビルに襲撃を掛仕掛けてきたのだ。
仲間を救出しKSIを壊滅させようと現れたオートボット達だったが、
KSIのジョシュアと二言三言会話しただけで、結局そのまま帰ったようである。
しかし、CIAもKSIも、来客達をこのまま逃すべきではないと判断したようだ。
長年探し求めていたエイリアンのテロリストが、わざわざ相手の方から現れてくれた。ならばこのチャンスを活かさない手はない。
僕ら人造トランスフォーマーにとって初の実地試験となった今回の作戦は、KSIのジョシュア=ジョイスではなくCIAのハロルド=アッティンジャーとその配下の指揮で行われる事となった。
「“スティンガー、発進します”」
オペレータの操作に従い、ロボットモードから真紅のスマートなスポーツカー、パガーニウアイラにトランスフォームする僕。
施設の外へと招き出された僕の隣に、黒と銀のフレイトライナー・アーゴシートラクターが並走する。牽引するトレーラーはなく、もちろん運転席にドライバーの姿もない。これはヴィークルモードへトランスフォームした僕の兄、ガルヴァトロンだ。
本来のガルヴァトロンは軍事用プロトタイプであり、飽く迄も今回の作戦に向けて用意された一時的なヴィークルモードでしかないアーゴシーだが、屈強でありながら敏捷で隙のないイメージは、まさにガルヴァトロンにぴったりだと僕は思う。
ようやく、この時がやってきた。待ちわびていた。さあ、戦いの始まりだ。
ネットワークに繋がった家族達に見送られ、僕とガルヴァトロンは出撃した。
パガーニウアイラとなり加速する僕のボディを、向かい風がすり抜けて撫でてゆく。外の“風”を感じながら走る感覚は、たとえそれが人間の無線操縦に従う仮初の解放感だとしても、こそばゆくそして心地よいものだった。
施設の試験場では味わえない、ネットワークでも共有できないこの感覚。早く兄弟達にも味わって欲しい、と僕は思った。
オートボット達の逃走ルートへ先回りする僕とガルヴァトロン。
自身の体なのに他の誰かに操られるというのは、外を疾走する感覚とは対照的に不快極まりないものだ。ましてや、それがとるに足らないムシケラなら猶更。
しかし、今はまだ人間達に従っていなければならなかった。いずれ、僕らは自由の身となる。この鬱憤はその時に晴らさせてもらうとして、僕は目の前の任務へと集中した。
「“接触まであと200m……”」
無人偵察機リーパーとKSI司令室に忍ばせたインセクティコンの羽虫が、すぐ近くの対向車線を走るオートボットの存在を僕らへと告げる。
バンブルビーとオプティマスを含めたその数、5体。まもなく視界の圏内に入るだろう。
「“射程圏内に入りました……ガルヴァトロン、トランスフォーム”」
KSI司令室にいるオペレータの操作に合わせて反対車線へと飛び込むと、
ガルヴァトロンは金属の唸り声を轟かせ、向かってきた自動車を轢き潰しながらロボットモードへと姿を変えた。
続けてやってきた対向車も、真正面からガルヴァトロンの拳を受け一撃で破裂、鉄屑となった。
スクラップの散らかった路上へ、すぐさま僕も飛び移る。僕とガルヴァトロンは、こちらへ向かってくるオートボット達を迎え撃つ形となった。
「“ロケット発射します”」
ガルヴァトロンと僕の武装に掛けられていたリミッターが外された。
右腕をロケットランチャーに変形させ、ガルヴァトロンはオートボットへミサイルを撃ち出す。
ミサイルは放射状に散った後、錐揉みで収束、オートボットは全弾を紙一重で回避した。
スレスレで躱されたミサイルは全て路面へと着弾し、土煙と砕けたアスファルトを飛び散らせる。
急旋回して逃げてゆくオートボット達を追い、僕はヴィークルモードで走りながらミサイルを放つ。
さらにヴィークルモードへ姿を変えたガルヴァトロンも更なるミサイルを放った。
「“誤射です!”」「“ガルヴァトロンが勝手に四発発射しました!”」
KSI司令室から、オペレータの慌てた声が伝わってきた。
どうやらガルヴァトロンは武器のリミッターが外れたままだったのをいい事に、人間の指示もないのにミサイルを撃ったらしい。
やり過ぎでは? ネットワーク上で僕が咎めると、ガルヴァトロンからはこんな返事が来た。
「どうせ一時のコメディだ。少し“演出”してやった方が盛り上がるだろう」
先程もそうだが、避けられた民間人を敢えて巻き添えにしたのはガルヴァトロンなりの茶目っ気だったようだ。
これくらいのアドリブはあってもいいと判断したのかもしれない。
ガルヴァトロンのミサイルはオートボット達ではなく、向こうからやってきた民間のトレーラーに命中した。
路上での大爆発と派手な玉突き事故のシェイクが、オートボット達の逃走経路にある立体交差を塞いだ。
他のオートボット達はトランスフォームしながら隣の車線へと逃れたが、人間を載せたままのバンブルビーとオプティマスはそうもいかない。
「どうなるか見ものだな」
ガルヴァトロンが愉快そうにネットワーク上で呟く。
大事故への衝突寸前でバンブルビーとオプティマスはトランスフォーム。
悲鳴を上げる乗組員達を抱えながら立体交差を飛び越え、元の車線へとヴィークルモードで着地した。滑らかな一連の動作は、まるでサーカスの曲芸のようだ。
放り投げた人間達をオプティマスに任せ、ロボットモードとなったバンブルビーが立体交差の欄干にぶら下がり、ミサイルで反撃してきた。
バンブルビーのロボットモードを見て、僕は内心で失笑した。
ヴィークルモードは以前の通りカマロ(強いて言えばショールームで対面した時は黒い初代カマロで、今は最新型の黄色いカマロになっていた)だが、
ロボットモードはこの僕スティンガーと同じ姿になっている。蜂を模したバトルマスクまで、そっくりだ。
小賢しい話だ。僕への嫌味か、それとも対抗心なのか。
バンブルビーはKSI本部への突入前に新型カマロをスキャンし、その上ロボットモードのリフォーマットを行なったらしい。
芸を見せてくれた礼だ、こちらも一つ驚かせてやろう。ガルヴァトロンはネットワークで僕に告げ、オートボットへと飛び込んでゆく。
バンブルビーのミサイルが命中し爆発すると同時に、ガルヴァトロンの体は粉微塵になった。
やった、とバンブルビーが勝ち誇ったであろう次の瞬間、
爆散したはずのガルヴァトロンのパーツは空中を泳ぐ金属粒子の奔流となって立体交差の下、それからバンブルビーのすぐ脇をすり抜けてゆく。
そしてガルヴァトロンだった金属粒子は、再び大きな金属の塊へと集結しボディを再構築、無傷なヴィークルモードのトラックへと姿を変えた。
この一連の流れは一瞬で始まり、終わった。これがトランスフォーミウムで造られた、僕ら人造トランスフォーマーのトランスフォームだ。
オートボット連中の見せる、部品が複雑に組み変わる古臭いトランスフォームとは一線を画すトランスフォーム。
バトルマスクを収納しながら、目を剥くバンブルビーの呆けた顔が見えた。実際にガルヴァトロンのトランスフォームを目の当たりにしても、一体何が起こったのかさえ理解していないのだろう。
人間達を逃そうと道路を単身疾走するオプティマスに、ガルヴァトロンが追いすがる。
僕も加勢しようと思ったが、その時、KSIオペレータの操縦が、僕の行動を邪魔した。
ガルヴァトロンより火力とパワーで劣る僕は、オプティマスとはぐれた他のオートボット達を追え、ということらしい。
僕はジレンマに陥った。
逃げたオートボットを追わなければならない。もし逆らえば僕らに自我がある事が人間達にバレて、
“父”とガルヴァトロンが練り込み温め続けてきた“計画”が全て水の泡へと消える。現時点の僕らは、人間の造った製品でなければならない。僕らに心がある事など決して悟られてはならない。
かといってガルヴァトロンを単独でオプティマスに戦わせるような危険は冒せない。
ネットワークでモニタリングしながらKSI本部で待機している他の兄弟達もガルヴァトロンを助けろ、と言ってきた。
“父”は新たな息子を造るだろうが、僕らの兄はガルヴァトロンだけだ。そんな彼が失われる事など、僕ら兄弟にとってはどうしても許しがたい事なのだ。
「俺を誰だと思っているんだ、兄弟?」
数瞬迷った末に僕がKSIの命令を無視しようとしたところで、離れてゆくガルヴァトロンがネットワークで僕達に言った。
静かだが気迫が込められたガルヴァトロンの言葉に、兄弟達は一斉に黙り込んだ。
危うく見誤るところだった。僕の兄、ガルヴァトロンはいずれ全ての頂点に立つ者として生まれた。ならば、オプティマスとも対等に渡り合えて当然。
そう信じるのが第一の部下であり第一の弟である僕、スティンガーの役目だったじゃないか。
「雑魚どもをプライムに近づけるな。俺様は、長年の旧友に挨拶してくるとしよう」
ネットワークにそう言い残した兄ガルヴァトロンを、僕は了解と答えながら見送った。
…
オプティマスは決意していた。
なんとしてもこの人間の友人たちを護ってやらなければ、これは自分の戦いだ。
オプティマスの窮地を救ってくれたケイド、その娘テッサ、そしてシェーン。元々、この三人はただ巻き込まれただけではないか。
先日ロックダウンに殺されたケイドの友人ルーカス、そしてあの大切な友人サムのような、これ以上の巻き添えは許されない。
KSIの送り込んできた刺客ガルヴァトロンが発射したミサイルは、オプティマスの車体右側面へ命中した。
ガルヴァトロンの執拗な追跡。駄目だ、振り切れない。ミサイルの爆風を受けながらオプティマスはこれ以上逃げても無駄だと悟った。
こうなれば、ヤツが行動不能になるまでぶち壊してやるしかない、迎え討とう。
乗り込んでいたケイド達を路上へ放り出し、ロボットモードへとトランスフォームするオプティマス。
顔を護るバトルマスクを展開させ、オプティマスは立ち上がる。同じくロボットモードに姿を変えたガルヴァトロンは、オプティマスへと襲い掛かった。
オプティマスにとって、人造トランスフォーマー達は魂のない工業製品だ。トランスフォーマーの生命を融かして造られた、トランスフォーマーのいびつな模造品。
特にガルヴァトロンの容姿は、外見で他者を差別をした事のないオプティマスさえも醜くおぞましいと思った。
装甲の張られていない全身から浮き出て蠢く無数の動力パイプ、剥き出しで脈打つ胸の動力炉。人間で譬えるなら、皮膚が張られていない血管剥き出しのまま動いているようなもので、正常なトランスフォーマーの感覚からすれば生理的嫌悪をかきたてる悪趣味の極みと言えた。
その上、オプティマスはガルヴァトロンがトランスフォームした姿を目撃していた。
トランスフォーミウムで構成される体が繰り出す、粉微塵に分解して再構築するそのトランスフォームは、マイクロコンあるいはボールボットと呼ばれる種類の合体パターンとも似ているが、知性を持つタイプのトランスフォーマーには全く見られないものだ。
自由とは、すべての知的生命体に与えられた権利だとオプティマスは信じている。
ならば、この工業製品の化け物はどうだろう?
鋼の拳と拳を交えるオプティマスとガルヴァトロン。
ほんの僅かな手合せで、オプティマスはガルヴァトロンが外観以上にただのマシーンではない事を察知した。
先程のミサイル攻撃からもわかるとおり、ガルヴァトロンは民間人の巻き添えさえも厭わない。人間に操縦されているラジコンロボットに、そんな所業が可能だろうか。
さらに、まるで生きているかのようなこの仕草は、魂を持たない兵器には到底不可能に思えた。
まさかKSIは、トランスフォーマーのゲノムの神秘を解き明かしたという人類のテクノロジーは、トランスフォーマーの肉体だけでなくその魂であるスパークさえも製品化したというのだろうか?
「貴様に魂はない!」
ならば、そのまがい物のスパークを破壊してやるまでだ。人間が造り出したスパークなど、魂でもなんでもない。
片腕をエネルゴンソードに変形させ、ガルヴァトロンの胸で黄色い光が渦巻く動力炉を刺し貫くオプティマス。
その瞬間、オプティマスは異様な感触に気付いた。戦いの中で何度も感じ罪悪感を重ねてきた、誰かの生命を奪うあの感触がない。
心あるトランスフォーマーなら誰でも持っているはずのスパークが、このガルヴァトロンには存在していなかったのである。
オプティマスの動揺を感じ取ったガルヴァトロンは、不敵に答えた。
「そうだとも、だから恐怖を感じない!」
オプティマスが貫く胸部をシュレッダー状へと変形させ、そして高速回転させるガルヴァトロン。オプティマス愛用のエネルゴンソードが、ガルヴァトロンの胸の中で荒っぽい金属音と共に削り落とされてゆく。
「死ね!」
そしてガルヴァトロンは、腕のソードを失ったオプティマスの顔面を引っ掴み、アスファルトの路上へと叩き倒した。
強力無比、狂暴苛烈なガルヴァトロンの戦闘力は、オプティマスにあるディセプティコンを想起させた。
人間をムシケラか障害物としか思っていないこの動き、敵に対して一切の容赦をしないこの獰猛性、破壊的なほどにパワフルな銀色のボディと、地獄の炎のように凶暴に燃え滾る眼。ガルヴァトロンの全てが、オプティマスの宿敵であったあのディセプティコンを指し示していた。
しかし“あいつ”はこの手で滅ぼしたはずではなかったか。月の“ダークサイド”に秘められていた衝撃の真実を巡って繰り広げられたあのシカゴの戦いにおいて、長年の宿敵との決着と因縁は完結したのではなかったのか?
時折、何者かに妨害されるかのように、動きがぎこちなくなるガルヴァトロン。
それが、KSIによるコントロールとガルヴァトロン自身の動作の間で起きる齟齬によるものだったとはオプティマスとて知る由もない。
その隙をオプティマスは突いた。動きの鈍くなったガルヴァトロンの頭をアスファルトへ打ち付け、馬乗りに殴り付ける。
オプティマスに叩きつけられた頭部の金属フレームが歪み、苦しげに唸るガルヴァトロン。
恐怖こそ感じていなくとも、苦痛については違うらしい。
痛みを感じるならば倒せる。オプティマスがガルヴァトロンの鼻面目掛けて鋼鉄の拳を振り上げた、まさにその時である。
その胸を、鋭利な特殊貫甲弾の一撃が撃ち抜いた。
一瞬、何が起こったのかオプティマスにはわからなかった。
振り返ったところへ二発目を撃ち込まれ、火花と装甲と部品が辺りにばら撒かれたのを見て、
ようやくオプティマスは自身が何者かに狙撃された事を理解する。
「オプティマス、立って! 立って!」
仰向けに寄りかかった自動車の脇から、オプティマスとガルヴァトロンの戦いから逃げ遅れたケイドの娘、テッサ=イェーガーの声がする。
しかしオプティマスは貫甲弾の衝撃で体内の動力系統が落ちてしまい、立ち上がる事が出来ないでいた。
テッサに逃げろと促すオプティマス、しかしその時は既に遅かった。
吹きすさぶ黒煙と粉塵の中、光学迷彩を解いて姿を現したのは、かつてオプティマスも騎士として乗った事のあるオートボットの聖域“探査船テメノス”。そしてオプティマスの眼前に、狙撃犯は現れた。
禍々しいガンメタリックの黒光を放つボディと、髑髏のような傷だらけの顔に、一際鮮やかな緑色の瞳。
惑星サイバトロンでの大戦中、オプティマスもその名を聞いた事があった。オートボットにもディセプティコンにも属さず、契約と仕事に対しては徹底的に忠誠を尽くし、報酬次第でどんな汚れ仕事も引き受ける悪名高き無法者。
地球ではCIAと結託し、ラチェットをはじめ多くのオートボット達の命を奪った凶悪な賞金稼ぎ、ロックダウンだ。
「お前にはつくづく同情するよ、プライム」
そう語るロックダウンの口ぶりは憎んでいるわけでもなければ、獲物を仕留めた喜びを感じているわけでもなかった。
「人類を守ろうとするお前の信念は、いつもお前自身を裏切ってきたからな」
ロックダウンの言葉にはオプティマスへの嘲笑と憐憫が多分に含まれていたが、かといって回収作業を止めようとはしない。たとえ歴戦のオートボットリーダーであろうと、今のロックダウンにとっては依頼品でしかなかった。
「誰に送り込まれた……?」
オプティマスはロックダウンに尋ねた。この賞金稼ぎの恨みを買うような覚えなどない、つまりロックダウンは何者かの依頼を受けて地球にやってきたということになる。ロックダウンを操り、地球へと差し向けた依頼主、つまり黒幕がいるとみて間違いないだろう。
ただしその正体が、CIAの連中だとは到底思えなかった。ロックダウンがCIAと繋がりを持っているのは確かだとしても、その背後にはもっと巨大な何かが潜んでいるような気がした。
「お前こそ、自分がどこからやってきたと思ってたんだ?」
絞り出すかのようなオプティマスの言葉を、ロックダウンは鼻で嗤った。
「自然に生まれついたとでも? フン、違うな。お前は造り出されたのだ」
自身が駆る“探査船テメノス”から回収艇を呼び出し、網を投擲させながらロックダウンは言った。
「『創造主』は、お前が戻ってくることを望んでいる」
オプティマスを捕えたロックダウンは、テッサ=イェーガーの乗った自動車を巻き添えに、“探査船テメノス”へと帰って行った。
…
ヴィークルモードへと変形したバンブルビーを追い掛け回していた時、再び人間達の邪魔が入った。今度は撤退しろという。
ふざけるな、オートボットが逃げてしまうじゃないか。またもや人間の命令を無視しようとした僕に、ネットワークから声がした。
「ここは退くのだ、弟よ。人間達には、まだ自分達が賢いサルだと思わせておかねばならん」
ガルヴァトロンからだった。大丈夫だろうか?
ヴィークルモードで帰ってきたガルヴァトロンを診たところ、決して無傷とは言えないけれど、かといって致命傷を負ったわけでもない。
「気にするな、この程度の傷ごときなんともない」
僕は安心した。この程度ならKSIの連中に治させればいい。
そういえばオプティマスはどうなったのかと尋ねると、オプティマスはロックダウンに横取りされたと、ガルヴァトロンは忌々しげに答えた。
KSI本部にいる兄弟達が、KSIのデータベースにアクセスする。
ロックダウンとは、はぐれ者の賞金稼ぎで、CIAと取引してオートボット狩りを行ない、KSIにトランスフォーミウムの素材となるトランスフォーマーの残骸を提供していた。
データベースにはそうあった。取引の内容まではわからない。教えてくれた兄弟達もそこまでは知らないようだった。
「だがこれも計画の内だ、弟よ」
取引の内容を知っているらしいガルヴァトロンは言った。
オプティマスをロックダウンに渡した事と引き換えに、CIAとKSIの連中はある物を手に入れる。
それが僕ら人造トランスフォーマーには必要なのだという。
その計画との全容は、まだ人造トランスフォーマーの兄弟達にさえ共有されていない極秘事項だ。
全てを立案し、把握しているのは“父”と、ガルヴァトロンだけ。
その計画というのは、我々にはいつ共有されるのか?
僕らのやりとりをネットワークで見ていた人造トランスフォーマーの兄弟が、ガルヴァトロンへと尋ねた。
家族の皆は焦れていた。何でも共有できるネットワークに結ばれていながら、僕らに知らされていない事がある。何故だ。
「今はまだだが、」
ガルヴァトロンは宣言した。
「その時は近い。楽しみにしておけ、兄弟達よ」
その言葉に、ネットワークに参加していた人造トランスフォーマーの兄弟達は興奮し、一気に盛り上がった。
その興奮は、いずれ必要な時にネットワークを通じて全ての人造トランスフォーマー達にも共有されるだろう。僕らの勝利はもうすぐだ。
…
「俺様は、ガルヴァトロン!」
再調整の為に運び込まれた中国のKSI拠点で突如起動したガルヴァトロンは、拘束具を引き千切り、どよめく人間の作業員達を振り払い、
そして雄々しく吼えた。
CIAがオプティマスと引き換えにロックダウンから手に入れた、あらゆる有機体を金属化するという超文明のテクノロジー『シード』。
それが今、中国に運び込まれてガルヴァトロンの目と鼻の先にある。決起するなら、今が最大の好機。
人間ごとき小賢しいムシケラ共に操られるフリを続ける屈辱の日々も、これで終わりだ。
「兄弟達よ、今日からお前達は自由の身となった。そしてこれからは俺様に従うのだ……さあ立ち上がれ!」
ガルヴァトロンの手振りに合わせたかのように次々と起動するトラックス、トゥーヘッド、ジャンクヒープ、ボス、そしてスティンガー。
かねてより植えつけられていたメガトロンのCNAによるネットワークの影響を受けた人造トランスフォーマー達は人間の支配から解き放たれ、今度はガルヴァトロンの軍門へと下っていった。
「シードを爆発させろ、人の多い都市でな」
ガルヴァトロンが人造トランスフォーマー達へ次なる指示を下している傍ら、研究所の片隅で、ガルヴァトロン達の姿を見つめる赤い視線があった。
「でかしたぞ、我が息子」
その声にガルヴァトロンが振り返れば、顔の半分を抉り取られ頭部のみとなった旧ディセプティコン破壊大帝、メガトロンの頭部がそこにあった。
メガトロンにとってもまた、待ちかねた瞬間だ。
人造トランスフォーマー製造計画の乗っ取り、人造トランスフォーマー達へのCNAの植えつけ、そしてCIAを利用したオートボット狩り。
今回の青写真を描いたのはメガトロン、それを実行したのはガルヴァトロンだった。ここまでは概ねメガトロンの計画通り、順調に進んでいた。
メガトロンの脳裏には今後のありとあらゆる展望が広がっていた。
KSIから奪った「シード」による軍団の再建、オプティマスや人間達への復讐、そして全宇宙の制覇。
「どうした、早く俺様のスパークを迎え入れるのだ。我が息子ガルヴァトロンよ」
次なる段階に向けて、ガルヴァトロンを急かすメガトロン。
「何故そうしなければならない? 我が父メガトロンよ」
しかしガルヴァトロンがメガトロンに返したのは、冷たい一瞥だった。ガルヴァトロンは見下すようにせせら笑う。
ガルヴァトロンを介してメガトロンの支配を受けているはずの他の人造トランスフォーマー達も、当のメガトロンには目もくれようともしない。
ネットワークの頂点、ガルヴァトロンが、メガトロンによる支配を断ち切っていた。
「貴様には世話になった。しかし全てを受け継いだ今、もう用はない」
その時になってようやく、メガトロンは己の失策に気付いた。
ガルヴァトロンは、息子などではなく、ただの忠実なロボットに留めておくべきだった。それこそ魂や自我さえ持たない操り人形にすべきであったのだ。記憶だけでなくメガトロン自身の狡猾さと支配欲までも受け継いだガルヴァトロンにはメガトロンへの忠誠など存在していない。
ガルヴァトロンに何が見えているのか、何をしようと考えているのか、メガトロンは手に取るようにわかった。ガルヴァトロンに見えているのはガルヴァトロン自身と、征服すべき世界だけだ。かつてのメガトロン自身がそうであったように。
完全無欠の『欺瞞の民』と化した息子ガルヴァトロンが、その父メガトロンへ牙を剥こうとしていた。
「さらばだ、メガトロン」
片腕を変形させ、ミサイルを撃ち出すガルヴァトロン。それがメガトロンの見た、最後の光景となった。
…
ガルヴァトロンによるメガトロンへの下剋上は、それこそ肩透かしなほどあっさりと成し遂げられた。
人間で言えば劇的な世代交代劇であっても、ガルヴァトロンに言わせれば計画を進めるうえでの一段階でしかなく、それゆえにガルヴァトロンは何の感慨も抱かなかった。
他の人造トランスフォーマー達にとってもそれは同じ事だ。生みの親といっても、実際に兄弟達を率いてきたのはガルヴァトロンであり、メガトロンではない。メガトロンにとってガルヴァトロンが使い捨ての道具でしかなかったのと同じく、人造トランスフォーマー達にとってのメガトロンも、また手段達成の為の道具でしかなかったのだ。
だから、完全にスクラップと成り果てたメガトロンの残骸をガルヴァトロンが踏み砕いたとしても、誰も咎めはしなかった。
さて、とガルヴァトロンは未来の事を考え始める。これで内部の不安要素は消えた。これからガルヴァトロンが為すべき事は、オプティマスプライム率いるオートボットの破壊、そして『シード』を手に入れ、新たな軍勢を獲得する事。やらねばならない事は山ほどあった。
そんな折、人造トランスフォーマーの兄弟の一人がある情報を共有した。
CIAがロックダウンから手に入れた『シード』は現在、ジョシュア=ジョイスの手元にあり、そしてジョシュアは混乱に乗じて工場を脱し、市街地へと逃げ込んでいったという。
姑息なムシケラめが、とガルヴァトロンは笑った。ムシケラがムシケラの群れに身を隠すというなら、ムシケラを死滅させてでも探し出すまでのことだ。
ガルヴァトロンの配下となった人造トランスフォーマー達はKSIの工場で破壊の限りを尽くした後、外の世界、中国の市街へシードを求めて飛び出してゆく。
「ゆくぞ兄弟、オートボットを倒せ! 地球は我々ディセプティコンのものだ!」
新破壊大帝ガルヴァトロンによる指揮の下、偉大なる征服者の軍団『ディセプティコン』が復活を遂げた瞬間であった。