楽しみにしていた方には本当に申し訳ないと思っていますが、この物語こそは最後まで楽しんでいただきたいです。
二代目風の戦巫女は教師になるそうです
────数年前に交わした約束、それがあるから自分は笑っていられる。
この頃の自分は姉とその恋人の青年の前でしか笑うことのできない、機械のような少女だった。
◆◆◆
姉の言いつけを破り、銀髪の少女は実の姉の想い人を追いかけていたが漆黒のみで塗り潰したような森の中では見失うのも仕方ないのだろう。
あてもなく森の中を歩いていると、明らかに人が住めるとは思えないほどのぼろぼろの小屋が建っていた。
風霊を呼び出し中を調べさせる。
『ナカニ女ノコ、イル』
風霊が言うには女の子がただ一人、座り込んでいるらしい。
その小屋の前には魔術師らしき人物が二人、誘拐事件なのは火を見るより明らかだった。
姉のようにお節介やきではないからどうでもいいし、『正義の魔術師』に憧れているあの人とも違う。
助ける理由なんてひとつたりともないはずなのに、少女の足を小屋へと…………いや、正確には小屋のなかにいる少女へと向けていた。
「…………ちょっといい?」
「あ? なんだ、このガキ」
「おいおい、こいつもべっぴんじゃねえか。どっかの娼館にでも売っちまえば金にな────────」
目の前の男が最後まで言の葉を紡ぐことはなく、宙を舞った首が地に落ちると同時にその断面から血が吹き出す。
剣を振るい刀身の血が周囲に飛び、剣はもとの銀色の輝きを取り戻していた。
「
「ガキ言うな」
子供扱いされたことが酷く気に入らなかっただけだが、感情を面に出さなかっただけで本当に子供だったのだと懐かしく思う。
今でも子供扱いされるとムッとなってしまうけれど、彼曰く『お前はガキなんだから、無理に大人にならなくてもいいんだぞ』だそうだ。
二人の魔術師の死体を小屋の死角に黒魔【ゲイル・ブロウ】で吹き飛ばしておく。
機械のような自分が出来る不器用な気遣い、それだけが精一杯だった自分は返り血には気づかずに扉を開けてしまう。
剣を持ち、返り血を浴びた女の子がいきなり現れて恐怖を抱かない方がおかしいかもしれない。
気づいたときには手遅れで、金髪の少女は大声で泣き出してしまった。
どうすればいいか悩んでいると、ふと姉の笑顔が脳裏を過る。
姉が孤児院の子供たちに見せていた、全ての人を安心させてくれるあの笑顔と声が自分も大好きだった。
姉のように上手く笑顔を浮かべられていたかははっきり言って覚えてはいない、しかしこれが正解だという確かな確信があった。
「私はサラ…………サラ=シルヴァース! さあ、ここから一緒に出よう!」
「…………いいよ。私には誰にも助けてもらう資格、ないから」
金髪の少女は恐怖から言ったのではなく、心からそう思っている様子だった。
「誰かに助けてもらうのに資格なんかいらないよ。私はあなたを助けたい」
────────声が、聴こえたから。
「誰か、助けてって」
風霊が伝えたことでもない、かといって自分が直接言われたわけでもないけどそう聞こえたのだから仕方がないのだ。
「私は、あなたの味方だよ」
「…………でも、私には生きる価値なんてないよ。そこまでしてもらう価値なんて、ないよ…………」
「お母さんに捨てられたから?」
「どうして、それを…………!?」
「私は絶対に見捨てないよ。何があっても守ってあげる、生きる価値がないなんて悲しいことを言っちゃ駄目。あなたが自分を否定しても、私がエルミアナって女の子を肯定する」
金髪の少女…………エルミアナ=イェル=ケル=アルザーノを自分は知っていた。
年齢故に雑用係に回されていた自分に礼儀を学ばせるため、アリシア=イェル=ケル=アルザーノ女王陛下に預けられていたことがあったからだ。
自分で言うのもあれだが、天才肌が幸いしたために一週間ほどで軍に復帰することになり、お別れの挨拶をする直前にエルミアナに言われたことが今尚心に残っている。
『あなた、笑っていた方が可愛いから次に会うときはちゃんと笑えるようになっててね!』
『…………考えておく』
その時に交わされた約束の指切り、彼を探しにいったのはエルミアナとの約束を守りたいと思ったから。
「あなたのお母さんはあなたを今も愛しているって、私が保証する。大丈夫だよ、エルミアナ。私を…………信じて」
そうして自分はエルミアナの額に口づけをして、微笑みかける。
寂しくないように毎夜ごとに姉がしてくれるおまじない、エルミアナにも効果があったようでようやく口元が綻び僅かながら笑顔を見ることができた。
その瞬間、自分ことサラは機械を卒業。
エルミアナを家に帰したあと、彼を見つけすべてを話した。
満面の笑顔で語りかける自分に彼は戸惑っていたようだけど、苦笑しつつ頭を撫でてくれた。
その後、彼とともに帰った自分を待っていたのは姉の半日に渡るお説教だったのは言うまでもない。
◆◆◆
「あぅ…………疲れたぁ」
凄まじい激務に追われ、銀髪の少女ことサラ=シルヴァースはこれでもかという疲れを感じつつ自宅へと帰りついた。
自宅と言っても仮住まいで、師匠の家にやっかいになっているだけなのだが。
「ただいまぁ」
いかにもしんどいですアピールをしながら扉を開けると、妙齢の女性、セリカが優雅に紅茶を傾けている。
「おう、
「
同居しているものなら当然の挨拶、それが何故魔術の応酬に繋がるのかサラには分からなかった。
それに対し、サラの
白魔改【リミテッド・テレポテーション】。俗に言う転送法陣をサラが解析、簡易的なものではあるが自分を含め最大三人は半径十メトラ以内であれば瞬間移動できるというもの。
周囲の被害は目も当てられない悲惨的なものになっているが、二人にとっては日常茶飯事なので気にすることはない。
サラは溜め息をつきつつセリカの正面の席に腰かけ、紅茶を口に含んだ。
「はぁ…………なんで、帰ってくる度に殺しあいしなきゃいけないかなぁ」
「おいおい、殺しあいだって? 師弟の戯れはスキンシップと言うんだぞ? サラ」
「あんな物騒なスキンシップあってたまるもんですか。命がいくつあっても足りないよ」
「お前、結構余裕ありそうだったじゃないか。いや~流石は最年少の
「私が天才だったらあなたは化け物だよ、化け物」
皮肉のつもりで言ってやったのに全く意に介すこともなく、あろうことか腹を抱えて笑う始末だ。
何が面白いのかと問いたくなるが、セリカのこういう態度はいつものことなので無視。
ひとしきり笑った後、真剣味を帯びた表情をするセリカにも何処吹く風。
「なあサラ、頼みが……」
「セリカの頼みだったら聞いてあげたいけど今回だけは空前絶後で嫌な予感がするので無理ですごめんなさい」
言葉を途中で打ち切り、一息に捲し立てたサラにセリカは軽く戦慄さえ覚えた。
「まだ何も言ってないんだが?」
「セリカがそういう顔するとき絶対、何か企んでるときだから。絶対嫌。お断り。お休みなさい」
「ちなみにセラが関わってることなんだが」
「話を聞かせてもらっても?」
「本当にお前のシスコンっぷりには感心するが、それはさておきセラが勤めている場所は知っているな?」
当然知らない訳がない。
アルザーノ魔術学院。魔術を志すものなら憧れざるをえない、最高峰の学び舎であり、アルザーノ帝国を魔導大国としての名を轟かせる基盤を作った国営の魔術師育成専門学校のことだ。
「セリカも教授をやってる学校だったよね。それで私に転校生として潜入任務でもやれってこと?」
「お、いい線いってるじゃないか。だが惜しいな、それだと五十点だ」
「…………まさか」
「そのまさかだ。お前には非常勤ではあるが、講師として学院入ってもらう。あ、ちなみに拒否権はないぞ? サラの上司には話しを通してあるし、私の推薦と権限でどうにでもなるしな」
「いきなりですが問題です、私は今いくつでしょう?」
「十五だろ。ちょうどお前が受け持つクラスの連中とは同じ年だな。よかったな、受け入れられやすくって」
「それは生徒としての話だね。それでなんで私が講師として派遣されることになったのかな?」
スッと真面目な表情になるセリカの纏う雰囲気に、サラは腰を浮かしそうになるがなんとか抑える。
セリカのふざけるような言い回しからの真面目な表情、サラは弟子として彼女が本気なのだと分かるのだ。
「お前の姉以上のお節介が目も当てられない、上はそう言ってな。反省するまで学院に閉じ込めておけだそうだ」
「え~と、つまり?」
「やり過ぎも大概にしろってことだよ!! この馬鹿弟子が!! 一回戦場離れて常識を学んでこい!!」
「あ、明日は花屋のお手伝いの日だった! そろそろ寝ないと! 今度こそお休みなさい、セリ…………」
「《其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離せよ》」
「…………」
サラのかたわらを光の波動が駆け抜け、その方向に目をやると、滑らかな切断面の円形の大穴が空いていた。
「次は外さん…………《其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・象と理を…………」
「ま、ママぁあああああああああああ──ッ!!」
やはり妹は最高ですね。
それでシスコンとかヤバすぎます。