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「「…………」」
見るからに強気な印象を受ける銀髪の少女システィーナと、その場にいるだけで心を浄化してくれるほどの美貌を持つ金髪の少女ルミアはさきほどまで他愛もない会話をしていたはずが、目の前の光景に呆気にとられていた。
「お願い、もっと食べさせて!! まだ本来の三分の一も食べられてないよ!!」
「あんだけ食っといて、まだ食う気かよ!! 店の食糧庫のもん全部食いやがって!!」
「お金払ってるんだからいいじゃん! シロッテの枝でも野草でもいいから!」
自分達と同じ制服を来た少女が、飲食店の前で店長らしき人物と何やら言い争っているようだ。
それだけなら多少意識を向けこそすれ、スルーして登校していただろうが内容が内容だったために仕方がないことだろう。
いかにも小柄で、パッと見少食そうなシスティーナと同じ銀髪の少女を見ている二人の視線に気づいたのかバツが悪そうに口を開く。
「わ、わかった。今回はこれで勘弁してあげる」
「それはこっちの台詞なんだが!? 警備官呼ばないだけありがたく思え!!」
ものすごい勢いで扉が閉められ、完全に閉め出される形となった少女は数歩進んだと同時にぱたんと倒れてしまう。
「あ、あの大丈夫ですか!?」
「ルミア!? あんまり関わんないほうが…………」
いきなり倒れた少女を抱き起こすと、顔面蒼白で具合でも悪いのかと治癒魔術を唱えようとするとぼそぼそと少女は何かを話し始めた。
「…………た」
「え?」
「…………お腹すいた」
◆◆◆
「いやぁ。なんかごめんね、わざわざ買ってきてもらっちゃって。昨日の間にこの辺りの飲食店制覇しちゃって、ほとんどの店出禁にされちゃってね。あの店が、数少ない希望だったんだよ…………」
「そうだったんだ。なんだかすごいね」
「…………そんなヘンテコな娘と普通に話せるルミアの方がすごいと思うわ」
「自己紹介が遅れちゃったね。私はサラ。よろしくね」
「私はルミア。こっちの娘が…………」
「システィーナよ。あんまりよろしくしたくないけど」
「あはは…………」
ルミアが買ってきた(サラ持ち)山積みにされたサンドイッチの傍らベンチに腰掛けサラは満面の笑みでそれをほおばっており、数分もたたないうちにほとんどがサラの体内へと姿を消していた。
「それにしてもあなた見ない顔ね。ひょっとして転校生?」
「むぐ!?」
サラのことを知らないシスティーナたちからすれば当然の疑問ではあるのだが、サラは驚き故か飲み込みかけていたサンドイッチを喉に詰まらせてしまう。
「サラ、大丈夫!? 駄目だよシスティ。あんまり驚かしちゃ」
「え、驚くようなこと言った? 私が悪いの?」
「…………大丈夫。システィーナは悪くないよ。ちょっと不穏な感じというか、命の危機が迫っているだけだから」
サラが上空を指差す方向に目を向けると、鷹と見紛うほどの荘厳な雰囲気を放つカラスがサラを鋭い視線で射殺すように睨み付けていたのだ。
「あれって誰かの使い魔よね? サラを見ているようだけど…………」
『早く来い』と目だけで訴えているカラスを見据え、べっと舌を出すサラ。
カラスのほうから血管がプチッと切れた音が聞こえた気がしたが気のせいだろう。
ところが現実とは非情なもので、カラスはサラの手前へ飛んでくると衝撃とともに三人の周りが真っ白い煙で覆われていく。
「何!? 何なの!?」
「安心して敵ではないから。…………二人にとっては、だけどね」
煙が少しずつ晴れていくと、徐々にその姿があらわになっていく。
「おい、サラ。こんなところで何をしているのか言い訳を聞かせてもらおうじゃないか」
「「アルフォネア教授!?」」
世界が誇る第七階梯、貞淑ながら妖艶な雰囲気を持つ美女セリカ=アルフォネアがこめかみに青筋をたてながら問うた。
「…………」
それに対しサラは柳に風と言わんばかりに無視を決め込み、流石のセリカもキレた。
サラの頭をむんずと鷲掴み、万力の力を込めていく。
「痛い痛い!! セリカそれ止めてって!! 馬鹿になっちゃう!!」
「やかましいわ!! お前はすでに天元突破で馬鹿野郎だろうが!! 厄介なのはシスコンだけにしとけ、この馬鹿弟子!!」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! この人でなし!!」
セリカに文字通り引きずられ、嵐のような少女サラは二人の前から消えていった。
「何だったのかしら、訳がわからないわ」
「さ、さあ…………」
◆◆◆
「…………遅い!」
木製の長机が半円状に取り囲む構造の座席の最前列、その席に腰かけるシスティーナは、苛立ちを主張するように騒ぎ立てた。
「どうしたんだろう。もしかして、何か事故とかに遭われてるんじゃ…………」
「
時を遡ること数分前。
若干疲れた様子のセリカ=アルフォネア教授がクラスに赴き、『 ヒューイ先生の後任を受け持つ非常勤講師がやってくる』と発表した。
セリカが言うには『そいつは第六階梯の魔術師でな、少々…………いや、かなりの変人ではあるが優秀なやつだよ』
彼の
さすがに周囲の生徒たちも心配し始めたのか、教室はにわかに騒がしくなってくる。
件の非常勤講師だけならともかく、このクラスの副担任を勤めるセラ=シルヴァースも来る様子がないためになおのことだろう。
長く美しい銀髪を持ち、羽の髪飾りと顔料で刻まれた赤い紋様が特徴の美しい女性で人当たりもよく、男女問わず人気のある講師で学院のマドンナと呼ばれているほどだ。
生徒の一人が教員室に向かおうと、僅かに腰を上げた瞬間。
「みんなごめんね! 遅れちゃった!」
講師服を着たセラが心底慌てた様子で教室に入ってくるが、それはいい。しっかりしてはいるが抜けているところがあって可愛いと評価が生徒間ですっかり定着しているからだ。
しかし、その直後の光景に生徒全員が驚愕のあまり硬直する。
「あ、あ、あああ──貴女は──ッ!?」
ぼろぼろになった学院の制服。縄でぐるぐる巻きにされ、全身傷だらけになり、一部焼け焦げていたり凍りついている箇所も見受けられる今朝出会ったセラによく似た少女サラがセリカに引きずられながら入室してきた。
「…………システィーナ? さっきはありがとね。それから…………ぎゃん!!」
システィーナの声に気づき朗らかな笑みを浮かべた刹那、セリカの【ショック・ボルト】が十発ほどサラに撃ち込まれた。
ぷしゅーという擬音がよく似合うほどの白煙を全身から発するサラ、対照的にセリカは今までの鬱憤を晴らせたようで肌艶が心なしか良くなっているように見えた。
苦笑しつつもセラは生徒を一瞥し、全員の出席を確認する。
電撃で全身が痺れて動けないサラの代わりにチョークを手に取り、サラ=シルヴァースと丁寧な文字で書かれていく。
「えっと、この娘はサラ=シルヴァース。私の妹でとっても強い魔術師なの。みんなの勉強のお手伝いをしてくれるから、短い間だけどよろしくね」
セラの朗らかな笑顔に男子が癒され、女子が訝しむ視線を送っているなかでルミアがサラの方に視線をやるといつの間にかその姿は消えていた。
「あの…………セラ先生、サラ……先生がいないんですけど…………」
「え?」
喜色満面の笑みを浮かべるセリカを見てセラは一瞬どうしたものかと思考したが、訳ありとはいえサラの為にもこれ以上は姉としても先輩としても看過できない。
「セリカさん、ちょっといいですか?」
「なんだ、セラ。何か問題でもあったか? サラのやつ以外といい授業するじゃないか。見直したよ」
サラがいなくなった、そう報告しようとしてセリカが突如ありえない事象を口にする。
授業を始めるどころかこの場にいないサラがセリカには見えているようで、セリカの紅の瞳を覗き込むと何処か淀んでいた。
「これって…………相当に強力な幻術がかけられてる? 保険ついでに『思考誘導』まで施してあるね。ということは、あの娘が関わってるかな。だったら…………」
「いやーなんだかんだ言って、ちゃんと授業するんだから。分かってはいたさ。あいつはやるときはやる女だってな」
親バカならぬ師匠バカをセリカが発揮している頃、セラは拡声音響術式を起動していた。
『セリカさ────ん!! サラちゃんはここにはいません!! イリアちゃんが連れ去りました!! 早く目を覚ましてください!!』
「どわぁ!! なんだ、急に大声だして。ん? サラガイナイ? イリアガツレサッタ?」
どうやら幻術が解け、真実をようやく理解したらしい。
「ククク…………私を騙しきるとは、本当にやるじゃないか。上等だクソ餓鬼ども!! ぶっ殺してやる!!」
僅かの間呆けた顔をしていたセリカだったが、般若を思わせる形相に変貌すると扉を黒魔改【イクスティンクション・レイ】で消失させ殺意ましましの叫びを轟かせながら教室を飛び出していった。
「えっと、それじゃあ授業を始めます」
心の中で『サラちゃんごめんね』と呟きながら、セラは生徒たちを見据え授業を始めるのだった。
原作と違いうちのイリアちゃんは歪んでいないため普通にいい娘です。
イリアちゃんの力がサラの助けになるために必要でした。
次回に本格登場します。