風の戦巫女を継ぐもの   作:レイラレイラ

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お気に入り(13~25)ありがとうございます。

イリアちゃんが闇抱えなかったら、理想的な後輩キャラだと思うんですよね。




相棒と戦巫女

真っ白い空間にただ一人、ぽつんと立っていたサラ。

 

ここは何処だ、などとは考えない。

 

何故ならサラはここを知っていて、これからどうなるのかを分かっているからだ。

 

確認するように一度目を閉じてからゆっくりと開いていく。

 

するとさっきまで自分以外に何もなかったはずのこの場所に、空色の髪をぼろぼろにした幼い少女が目の前に立っていたのだ。

 

「私に魔術を…………教えて」

 

「…………」

 

サラは何も答えることはない。

 

自分がこの娘にしたことを忘れることはできないし、仮に過去に戻れたとしても結末は変わらない、気にするなと何度自分に言い聞かせてきたか。

 

「教えて?」

 

「…………」

 

「教えて?」

 

「…………」

 

「教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて」

 

無限に繰り返される無邪気な『教えて』という懇願。

 

そうしてサラはかわいそうだと、すぐに魔術の詠唱を教えてしまう。

 

「《らいせいよ・しでんのしょうげきもって・うちたおせ》!」

 

たどたどしい口調で詠唱を始める少女、それを何も写すことはない透明な瞳で見続けるサラ。

 

光輝く力線が放たれる刹那。

 

全身の穴という穴から血が吹き出し、少女の倒れ伏す音だけが二人だけの空間に虚しく響く。

 

「ごめんなさい」

 

ぽつりと呟かれた謝罪の一言、一度起きたことは変えられることもできなければ謝ったことで罪悪感が増すだけだ。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

先程の少女とは違う無限の謝罪。

 

その少女を見据えてただ無機質に紡がれる自分の言葉を聞いてサラは、心のなかで願うのだ。

 

『殺して』と。

 

その一言を皮切りに視界は血のように染まり、ここで『夢』は終わる。

 

現実でもそうしてくれればいいのにと思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サ…………さん…………」

 

「…………ん…………?」

 

「サラさん、起きてください!」

 

「…………イリアちゃん?」

 

身体を揺すられ、大声で呼びかけられてようやくサラの意識は浮上する。

 

徐々にはっきりしてくる思考で目の前の少女について思い出す。

 

後頭部でひとつに纏めた亜麻色の髪と金色の瞳を持った美少女、イリア=イルージュはサラの親友であり相棒だ。

 

自分は何をしていたのか、何故ここにいるのかとにっこりと笑いかける少女イリアに問いかけようとする前に相手の方が早く口を開いた。

 

「はいっ! あなたの可愛い可愛い相棒! 帝国宮廷魔導師団特務分室所属、執行官ナンバー18《月》のイリア=イルージュ! ここに推参しました! 何故イリアがここにいるかについては、こちらをお読みください!」

 

イリアに封筒らしきものを手渡され、開いてみると筒型の羊皮紙が入っていた。

 

びっしりと細かい文字で書かれた指示の終わりのあたり、鷹の紋が金で箔押しされたものなどサラのなかで心当たりがあるのはたったひとつだけだった。

 

秘匿階級がとにかく高い女王陛下公認の帝国政府公文書であり、イリアが関わるとなればそれが軍の人事異動に関する最重要機密文書であると分かる。

 

内容についてもいちいち見なくて察しがつく。

 

ようは、お前一人じゃ心配。監視つけるから変なことしたら首跳ねるということだ。

 

しかし、それだと納得がいかない。

 

監視の任務が目的ならもっと堅物な面子を寄越しそうな気がするが、上の考えが分からない。

 

「あ、何故イリアが選ばれたかについてですけどグレン先輩が色々手回ししてくれたからなんですよ!」

 

「え!? あのグレン君が!?」

 

グレンと言えば任務中でもなければいつも気だるそうにしていて、セラに仕事を押しつけていたことからもとても信じられなかった。

 

ただひとつ例外があるとすれば、サラが体調を崩す度にセラ以上に心配してくれていたことぐらいだ。

 

イリアは嬉しそうな笑みを浮かべると、このような都合のいい結果に結び付いたのかを話していく。

 

「グレン先輩は私がどれだけサラさんとの任務達成率が高いかを上層部に進言したりしたのも驚きましたけど、何よりもあの室長に土下座までしたんですよ」

 

「…………そんな、なんでそこまで」

 

「グレン先輩にとってあなたは大事な妹ぶんで、私にとっても大好きな親友のサラさんのためなら、私たちは何でもしますよ。…………二人ともあなたに救われたんですから」

 

「嘘だッ!!」

 

『救った』その一言に、サラは強い憤りを覚えた。

 

突然豹変したサラの叫びにビクッと身体を震わせるイリアだが、それでも愛おしげに見つめる目だけは変わらなかった。

 

帝国宮廷魔導師団特務分室所属、執行官ナンバー3《女帝》サラ=シルヴァースが救ったものはあまりにも多い。

 

今まで人助けのつもりで救ってきた人々に感謝され続け、舞い上がっていたことで起きたあの惨劇。

 

魔術を教えた少女はそれがきっかけで死んだ。

 

劇薬や度重なる実験の影響でぼろぼろになっていたことに気づいていれば、短いながらも平和な人生を遅れたかもしれないのだ。

 

今回の任務擬きもそうだ。学院の生徒にも魔術を教える気など最初からなく、最悪の場合は軍から抜けてやろうかとも考えていた。

 

セラがいれば少しは変わるかもと来てみたものの、気持ちはちっとも変わらなかった。

 

どんなに誰かを助けてもひとつの大きなトラウマが晴れることはなく、まして誰かを教え導く教師などに自分がなっていいはずがない。

 

自分が余計なことをして滅茶苦茶にしたくない、自分に相応しくない、そんな思考が常に脳裏を過る。

 

そんな思考を消し去るかのように、いきなり暖かい何かに包まれサラは困惑する。

 

イリアが宝物を大事にする子供のように、サラを抱きしめていたのだ。

 

「嘘なんてつくものですか。私が言うのも変ですが、あなたがしてきたことは全て真実です。いいことばかりではないでしょうが、それでいいんです。私がいつまでも側にいますから、あなたは絶対に…………大丈夫です」

 

イリアの紡ぐ一文字一文字が、胸のなかに染み渡ってくるのをサラは感じていた。

 

気づけばイリアをこれでもかと抱きしめ返し、彼女とのやり取りがどれだけ自分にとって『救い』になっていたことかを思い出す。

 

「私が…………誰かに教えても、助けになっても…………いいのかな?」

 

「はい。あなたがそうしたいのなら相棒として、親友としてお供させていただきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人のやり取りから一週間が経っていた。

 

学院の屋上からサラがイリアとともに、遠見の魔術で二年次生二組の教室を覗いていた。

 

じとっとした目線向けられ、サラは気まずそうに片目だけイリアから背ける。

 

「あのやり取り、完全に説得されてた流れでしたよね? なんで私たち、まだ屋上で教室の覗きなんてやっているんですか?」

 

「だ、だって怖いんだもん! 私が教えてたらいきなりテロリストがやってたり、魔術を使わせたら爆発四散しちゃうかもしれないじゃん~~~~~~~~~~~~!!」

 

「後者はあり得ませんし、前者のテロリスト云々の話もそうそう起こりませんよ」

 

強く決心していたサラは何処に行ってしまったのか。

 

口でこそ咎めるように言ったが、イリアにとっての最高のヒーローであり、最愛の少女との二人きりでいられる時間は幸福以外の何ものでもなかった。

 

サラのためならば自分はなんでもやる、教師の手伝いでも血生臭い任務であろうともだ。

 

それがイリアにとっての幸せであり、『救い』なのだから。

 

(眠ってるサラさん、可愛かったですね~~。あ、寝起きのボーッとした感じも究極の癒しといっても過言ではありませんでしたね。びくびくしているサラさんも守ってあげたくなっちゃいます。ああ~~~~~~~~~~触れたい、抱きしめたい、なでなでした~~~~~い!!)

 

「イリアちゃん」

 

「ひゃ、ひゃい!!」

 

変態的な思考の渦に呑まれ気絶に近い状態にありながら、サラの声を聞き逃すことはなかったイリア。

 

声音はいつも通りでありながら、猫のように鋭い目つきに変貌しているサラを見てイリアは冷や汗が止まらなくなった。

 

イリアは知っていた、この目つきのサラはあのイヴでさえ恐怖するほどに憤慨している時だからだ。

 

「教室行くから、着いてきて」

 

「親友の頼みとあらば、どこへでも」

 

学院の生徒たちを哀れに思いながら、イリアはサラの背中を追っていく。

 

余談だが、帝国宮廷魔導師団特務分室ではサラは『お人好し魔女』という二つ名で親しまれているが、もうひとつの二つ名から恐れられてもいる。

 

『狂乱の魔女』と。




イリアちゃんは完全にサラにベタ惚れですね。

サラがイリアちゃんを救うところはかなり先になってしまいますが、待っていていただけると助かります。

ちなみに『救い』という言葉がサラという人物にとってものすごく重要な意味をもってこの物語に関わってくるので注視して欲しいですね。
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