風の戦巫女を継ぐもの   作:レイラレイラ

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大反省戦巫女

 

 放課後、黄昏の日が世界を赤く染めているなかでサラは真っ白になっていた。

 

 システィーナとの一件以降、イリアとともに学院東館の屋上のバルコニーにいた。

 

 ただ、体育座りの体制で一連のやり取りを思い返してはうちひしがれるを繰り返していた。

 

「…………やっちゃった」

 

「そうですね~。しかし、いずれは彼女たちも知ることになっていたことです。あまり重たく考えすぎなくてもいいのでは?」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! あれ、絶対嫌われたやつじゃん!! 何がくだらないだよ!! みっちりと叩き込んであげるとか私何様!? もうやだ、お家帰る!!」

 

 体育座りの状態から立ち上がり、このままだと本当に帰りかねないなと思ったイリアはサラの頭を包み込むように抱きしめた。

 

「はい、そこまでです」

 

「むぎゅ」

 

「言ったでしょう? 重く考えなくてもいいと。昔のあなたのようにシスティーナさんに傷ついて欲しくないから、あんな風に嫌われるような言い方をしてまで魔術の汚い部分を教えたかった。それは優しさから来るもの、私はそう思いますがどこか間違っていますかね?」

 

「…………」

 

 イリアの言葉は全てが正しかった。

 

 サラはあくまでもセリカのやり方に腹を立てたのであって、システィーナの思想を貶す意図など微塵も無かった。

 

 魔術はただ綺麗なものではなく、闇が深い一面もあるといことを伝えたかっただけだ。

 

 セラやグレンのように一人でも多くの人を救いたい、それだけを思って帝国宮廷魔導師団特務分室の魔導師として動いてきた。

 

 理想だけを掲げていた結果、取り返しのつかない行いをしてしまった。

 

 せめて自分のようにはならないで欲しい、そういった強い願いが『狂乱の魔女』としての自分を表に出してしまった。

 

 やり方を間違えた、ただ自分は優しく諭してあげるべきだったのだのに。

 

「…………落ち着きましたか?」

 

「…………うん。ごめんね、大分楽になったよ」

 

 イリアの身体から離れようと力を込めようとすると、それをイリアはさらに強く抱きしめることで制止させる。

 

「イリアちゃん?」

 

「そう言えば、まだサラさんがこれからどうしたいのか聞いていませんでしたね。それを言ってくれるまで絶対に離してあげません」

 

 この拘束が長く続かないことはイリアが一番に理解していた。

 

 イリアとサラは長い付き合いだ。

 

 教室に向かった時点でサラの意志が固まっていることなど、親友たる自分が察していなくてなんとしようか。

 

「…………私はあの娘たちに教えてあげたい。これから後悔なんていくらでもするかもしれないけど、それでもちゃんと前に進んでいけるようになってもらいたい。…………みんなの先生に、なりたい」

 

「それでこそ、私の大好きなサラさんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サラとイリアは帰路に着くために学院の昇降口に向かうため、談笑混じりに校舎内を歩いていると、魔術実験室を通り過ぎようとしたところで扉が僅かに開いていることに気づく。

 

 隙間からこっそりと覗き込んでみると、水銀で描かれた五芒星と教科書を見比べては試行錯誤しているルミアの姿があった。

 

「流転の五芒…………法陣上に流れている魔力を視覚的に理解するための学習用の魔術でしたっけ」

 

 ふと、イリアはサラの方を流し見してみれば、中で作業をしているルミア以上にあたふたしているではないか。

 

「あっ、第七霊点が綻んでるよ? あわわ水銀が、水銀が流れちゃってる…………触媒の場所も違うよ…………あ、よかった気づいてくれてる」

 

(仕方ありません、不肖イリアが一肌脱ぐとしましょうかね)

 

 イリアは苦笑すると、乱暴に扉を開いてサラを押し込んでいく。

 

「ちょ、ちょっとイリアちゃん!?」

 

「え、サラ先生とイリアさん…………? ど、どうしてここに…………?」

 

「それはこちらの台詞ですよ、ルミアさん。生徒の個人での魔術実験室の使用は原則禁止となっているはずですよ?」

 

「ご、ごめんなさい! すぐに片付けますから!」

 

 大慌てで片付けを始めるルミアだったが、いつの間にかルミアの傍らに移動していたサラによって腕を掴まれていた。

 

「止めちゃ駄目。もう少しで完成だから、最後までやっちゃおうよ」

 

「でも、全然上手くいかなくて…………」

 

「教科書をよく見て、自分の描いた法陣と何処が違うのかを落ち着いて考えてみて」

 

 サラの指示に従い教科書と法陣をゆっくりと見比べていくと、作業中には発見することの出来なかった見落としに気づく。

 

「そっか、水銀が足りてなかったんだ」

 

「正解。他にも修正箇所があるから一つずつ直していこう」

 

「はいっ!」

 

 そのままルミアはサラのアドバイスを受けながら、要所を細かく修正していく。

 

 ルミアの顔がサラに近づく度にいらっとくるものがあったが、サラの嬉しそうな顔を見ているとそれを塗り潰すぐらいに幸せな気持ちになるからか何も言わなかった。

 

 数分と経たずに法陣が完成し、ルミアはもう一度それの前に立ち、詠うように唱える。

 

「《廻れ・廻れ・原初の命よ・理の円環にて・路を為せ》」

 

 法陣を魔力が縦横無尽に駆け巡るその光景は、言うなれば七つの光と輝く銀が織り成す幻想光景というところか。

 

「うわぁ…………綺麗…………」

 

「私も昔はよくこれで遊んでたから。よくわかるな、その気持ち」

 

「…………あの、サラ先生…………」

 

「いいよ、無理に先生って呼ばなくて。敬語もいらない」

 

「じゃあ…………サラ。えっと、ありがとね、教えてくれて」

 

「私はルミアが自分で間違っている部分に気づくように誘導しただけ、特別なことはしてないよ」

 

 その言葉を皮切りに、サラはルミアから離れると扉を開いて実験室から出ようとすると、後ろから声がかけられる。

 

「…………その、サラはもう帰るとこ?」

 

「へ? まあ、うん。そのつもりだけど」

 

「だったら…………途中まででいいの、一緒に帰ってもいい?」

 

 内心では断りたくて仕方がないが、今朝の自分の態度を思い出すと罪悪感でいっぱいになるため、しぶしぶではあるがルミアの提案を受け入れることにした。

 

「…………いいよ。もう遅い時間だし、一人で帰られる方が心配だからね。イリアちゃんもそれでいい?」

 

「サラさんと放課後デートというのも捨てがたいですけど、年上の私が駄々をこねるわけにもいきませんから」

 

 嘘である。

 顔にこそ出してはいないが、心の内ではクレープの食べさせっこや恋人繋ぎを敢行しようとしていたところを邪魔され泣き叫んでいるのだ。

 

「あ、ありがとうっ! じゃあ、ちょっともったいないけど急いで片付けるから待っててね!」

 

 無邪気な笑みを浮かべるルミアを見ていると、つられて固くなっていた顔が自然といつものように微笑んでしまう。

 

 流れるようにルミアの片付けに参加し、イリアにも手伝うように促す。

 

「イリアちゃんも片付け手伝って、私たちどうせ暇人なんだから」

 

「あ、私も手伝う流れですか。了解しました、サラさん」

 

 そうして三人は早々に片付けを済ませ、帰路に着くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 燃え上がるような夕陽によって天蓋が真っ赤に染まる頃、サラとイリアとルミアはフェジテの表通りを歩いていた。

 

「今朝はごめんね? 私、あんなきつい言い方でみんなの考え方を否定しちゃって。それにだいぶ怖がらせちゃったみたいだし」

 

「サラは何も悪いことはしてないでしょ? システィ…………システィーナやみんなだって戸惑っていたけど心の何処かで理解してると思うの。セラ先生も言ってたよ。『魔術は綺麗事ばかりじゃない、使い方によっては簡単に人を殺してしまう怖いものなの』って」

 

「さすがセラ先輩ですね。もしやとは思いますけど、サラさんのお話もされてましたか?」

 

「はい。サラが沢山の悪い魔術師を倒して困っている人を助けていたことや、経緯によっては罪人の人にも手を差しのべていたことも聞きました」

 

 イリアはぽんとサラの肩に手を置くと、優しげな笑みでこれで不安がる必要はないと言外に告げる。

 

 ルミアの話を聞くにつれ、羞恥に顔を俯かせていったサラは決意を固めるように空を見上げると空間が震えそうなほどの大声で宣言する。

 

「やってやる────ッ!! みんながちゃんと自分で道を選べるように導いて、私ももっとたくさんの人を助けられるそんな先生になれるように頑張るぞ────ッ!!」

 

「出ましたね、サラさんの頑張る宣言」

 

「頑張る宣言…………ですか?」

 

「こうなったら、きっとサラさんは大丈夫です」

 

「そうですか…………よかったです」

 

 サラは宣言を終えると、ルミアと出会った直後の晴々とした笑顔に戻っていた。

 

 ルミアがそれを微笑ましく見守っていると、サラが自分の方に歩み寄ってくることに気づく。

 

「ありがとうね、ルミア。あなたのおかげで覚悟が決まったよ」

 

「あはは…………私は特に何もしてないんだけどな」

 

「それでもだよ…………ありがとう、エルミアナ」

 

 サラはルミアのこっそり耳打ちをした後、彼女の頬に口づけをする。

 

「なっ!?」

 

「…………!?」

 

「また明日学校でね! 私、頑張るから!」

 

「サラさん!! さっきの行いについて聞かせてもらいましょうか!! こら!! 待ちなさ────いッ!!」

 

「…………」

 

ルミアは呆然としながらもサラに口づけされた左頬に手を当て、決して夕陽によるものではない僅かに赤くなった顔を隠すように俯くと、ポツリと呟いた。

 

「ちゃんと笑えるようになってたんだ。…………また会えたね、サラ…………」





サラは距離感が極端に近いので、思春期男子の9割が勘違いしてしまいます。

ちなみにサラは可愛いもの好きであって、女の子好きというわけではありません。…………この時点ではね(ボソッ)。
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