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今回で一巻が終わりです。
そびえ立つ白亜の塔がその威容を現したとき、塔への最後の並木道に不自然な動きを見せる大量のゴーレム達がサラの眼前に蔓延っていた。
無数のガーディアン・ゴーレムを前にサラは臆する気配すら見せず、思考を働かせていた。
(…………うーん。魔術でぶっ壊すのが一番手っ取り早いけど、この先何があるのかわからないし、あんまり魔力は使いたくない…………だったら!!)
サラは右手を空に掲げると周囲の空間がモノクロに染まり、数秒後世界に色が戻った時、サラの手には柄から帯状の何かを生やした両手用の剣が握られていた。
左目が銀色に、服装は先程までの生徒用の制服ではなくウェディングドレスを思わせる衣装に変化していた。
魔術など比ではないその力と美しさに見るものがいれば全員が呆けていただろうが、あいにくサラを見据えていたのは無機質な視線を送るゴーレムだけだ。
「いささかズルをしている気分ではありますが、生徒のため…………押し通ります!!」
サラは大剣を大きく薙ぐと、一瞬のタイムラグがあった後に上半身と下半身が徐々にずれていくとやがてズシンと鈍い音をたててお別れを果たした。
それからはあっという間であった。
襲いかかるゴーレム達をものともせず、どこまでも鮮やかに美しく斬り伏せるその姿は言うなれば…………天使、その一言に尽きるだろう。
◆◆◆
塔の最上部を見上げ、サラはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
そして、サラはあろうことか大剣を塔の最上部へと投げつけたのだ。
大剣が塔に触れた刹那、最上階の部屋を残して塔の先端は何処かに落ちるでもなく、跡形もなく消え去っていた。
「…………見えました!」
部屋の様子を屋外からでもはっきりと捉えられるようになると、サラはルミアらしき少女と優男を思わせる何者かが驚愕のあまり目を剥いているのをはっきりと確認する。
そのままサラは両足に
「え、サラ…………なの?」
「ええ。他のだれでもない、正真正銘のサラ=シルヴァースですよ」
「…………なるほど。話には聞いていましたが、まさかこれほどとは…………」
「あなたがヒューイですか?」
「はい、僕がヒューイです。今はテロリストをしているものです」
ヒューイと呼ばれた男は一瞬だけ息を飲むと、どこか安心したような声音で肯定する。
サラはルミアとヒューイの間に何かの魔術が敷かれていることに気づくと、悲しげに目を伏せる。
「白魔儀【サクリファイス】、あなたは…………」
「さすがは
「…………この術式起動すれば、あなたは…………」
白魔儀【サクリファイス】。
ルミアの方に仕込まれた術式は、決まった時間を越えると同時に事前に指定した座標に目標を送るもの。
しかし、ヒューイの方に仕込まれた術式は…………人道的とは到底言えず、サラは大粒の涙をポロポロと溢させるには充分すぎるものだった。
「…………ルミアさんは組織に送られ、それを起点として僕の魂と直結した法陣も発動、自らの魂を触媒として莫大な魔力を得ます。それだけあれば、この学院を爆破するには充分なぐらいでしょうね」
何処か自嘲気味に微笑むその姿を見て、サラは覚悟を決めた。
ルミアだけでは足りない。
目の前の男、ヒューイも『救う』ことが自分の成すべきことだと。
「…………ルミア」
「…………サラ?」
「もしも、あなたたちに教える人がもう一人増えたら…………それはとても素晴らしいことだと思いませんか?」
ルミアはサラの言葉の意味が理解できず、何度もその言葉を反復してようやく悟った。
「…………うん!! これ以上ないくらいにとっても素敵なことだね!!」
「─────いったい、何を…………」
「《■■》」
サラが発した謎の言語が紡ぎ終わると同時に硝子が砕ける音がしたかと思えば…………全ての術式が消し飛び、大剣をヒューイの心臓へと深々と突き刺すサラの姿があった。
「ヒューイ先生!!」
「…………大丈夫ですよ、ルミア。彼はこれから…………本当の人生を歩むことができるようになるのです。組織の傀儡でも生きた爆弾でもない、本当の『彼』に…………」
「《■■■■■・■■■■■■■■・■■■■・■■■■》」
サラは先程のように人間には発することのできない言語を発し、魔術の詠唱のようなものを詠う。
詠唱が終わるとヒューイの身体をオーロラのような光が包んでいく。その光が晴れると、髪の色こそ黒く変色し顔立ちも僅かながらに若返っているように見える。
「…………」
「…………僕は、いったい…………」
ヒューイは少しずつ目蓋を開いていき上半身だけを起こすと、自分の拳を握っては開きを繰り返すと人間業とは思えない現象の答えをサラに求めた。
「あなたを『ヒューイ』のままでは帝国宮廷魔導師団や天の智慧研究会から『救う』ことはできない。…………なのであなたには元の名と人であることをやめてもらう他なかった。…………殴られることも、罵倒されることも覚悟の上です。私を如何様にしてもらっても構わな…………ッ!?」
サラは『素』の状態で、初めて困惑を露にした。
どこかサラと似たような笑みを浮かべる男がとった行動がサラの頭を撫でることであったのだから、当然と言えば当然かもしれないが。
「…………まったく、仮にも女性の貴女が好き勝手してもよいなどと…………とても淑女の取る言動とは思えませんね」
「…………気づいているはずです。今のあなたがどのような状態であるのか…………」
「ええ。超人的な力を持ち、魔術の使用こそ不可能なものの並みの魔術師など相手にもならない。…………まさしく魔物とでも言うべき存在」
「…………」
「もともと僕は…………いいえ、わたしは人でなしに成り下がった身です。それが本当に人間ではなくなったというだけのこと…………貴女はわたしを『救い』、生きる意味を与えてくれた。感謝こそすれ、貴女を罵倒するなどあり得ないことです」
男はサラの下に跪き、サラの指先に口づけをした。
さながら、姫に忠誠を誓う騎士であるかのように。
「…………あわわわ!!」
ルミアは顔を手で覆っていたが、指の隙間からはっきりと見ていた。
「わたしはサラ様の従者であり、手となり足となることを誓います。…………どうか、生きる意味を与えてくれた貴女様のお側にいることをお許しください」
「…………もう二度と私から離れられないとしても?」
「覚悟の上です」
「…………たくさん我が儘を言うと思いますよ?」
「どんとこいです」
ルミアは新たな主従の誕生に滝のような涙を流し、いくら手で拭いても嬉しさのあまりに涙は止まる気配を見せなかったが、隣からハンカチが差し出されお礼を言うために振り向くと凄まじい戦慄を覚えた。
そこには満面の笑みを浮かべているはずなのに、目がちっとも笑っていないイリアがいたからだ。
「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「ぐはっ!?」
イリアが男に近寄ると、大きく足を上げて踵落としを食らわせた。
「はぁはぁ。…………サラさん!! この変態紳士に何かされてませんか!? もし、何かされていたのでしたらベッドの上で延々と慰め…………て…………」
「私は大丈夫だけど…………イリアちゃんが何でここにいるのか、教えてもらってもいいかな?」
「え、えっと…………」
左目が元の色彩に戻り、口調も砕けた状態に戻り尚且つ無表情で迫るその迫力にイリアは言葉を続けることができず、手もしっかりと握られ逃げ出すことも叶わない。
「…………『お話』しよっか?」
「い、イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
『お話』の際ヒューイであった男は、サクヤ=トゥエルハートとサラに名付けられたことをここに記す。
後日、サラとイリアとシスティーナはルミアの関係者であるということで帝国政府に呼び出し受けていたが、イリアは終始上の空であったとシスティーナは語る。
◆◆◆
「…………やれやれ、酷い目にあいましたよ。…………まあ、サラさんとの約束を破った私の自業自得なんですけど」
満月と星たちが暗闇の象徴たる夜を照らしている中、通信の魔導器を起動した。
ほとんど間を置かず、すぐに相手は出た。
「…………イリアか?」
イリアの通信の相手はグレン=レーダス。帝国宮廷魔導士団特務分室執行官ナンバー0《愚者》に籍を置くイリアにとっての先輩であり、とある話題において唯一信用できる人間だ。
「はい…………帝国宮廷魔導士団特務分室執行官ナンバー18《月》のイリア=イルージュです。今回は…………」
「ああ、分かってる。おおかた
「…………その通りです」
「無理はすんなよ。サラに悟らせないように自分の記憶を弄って、通信の時だけ戻す。そんなやり方、いつか壊れちまうぞ」
「…………」
イリアは数秒沈黙するが、それだけだ。
尊敬する先輩の一人とはいえ、サラが関わるとなれば従うつもりはない。
小さい頃にサラに救われてから、イリアはサラのために生きると決めたのだから。
「…………はぁ。とにかく、だ。サラにこれ以上『例の力』を使わせるな。もしも、完全に力が目覚めちまったら…………今日はここまでにする。お前はひとまず休め…………いいな?」
グレンが通信を切ったのを確認すると、イリアは月を見上げぼそりと呟いた。
「大丈夫ですよ、サラさん。例え何があろうと、私がずっと側にいますから…………」
グレンにサラがどう呼ばれているかなって考えたら、すぐに白兎と浮かんだ自分がいます。
本当はグレンは5巻まで出る予定はありませんでしたが、やっぱりちまちま出していこうかなと思いました。
サラの正体、早く言ってしまいたいですが我慢我慢。