ありふれた職業で世界最強 ~宿星の導き~   作:山上真

14 / 63
奈々の天職はオリジナルです。自分の探し漏れかもしれませんが、記載が見つからなかったので。……なので、本作はこれで通します。


4話

 川沿いに、三人の少女が歩いていた。園部優花、菅原妙子、宮崎奈々である。

 橋から落ち、水に飲まれたその時に健太郎と綾子が離れ。加えて流される中、その勢いによって龍真たちとも別れてしまった。

 それでも、いや、だからこそか。

 離れるものか、と三人はより強く、互いに互いを握りしめた。

 その甲斐あってか。

 三人一緒に投げ出されたのだ。……そう、今まさに沿って歩いている川の上流に。

 とはいえ、身体は濡れ鼠。おまけに疲労も溜まっているとあって、つい先ほどまで三人揃って眠りこけていたわけだが。

 目が覚めたときには愕然としたものだ。どうやら、火種を起こし、服を絞ったところで限界が来たらしい。警戒も何もあったもんじゃない。命があったのは、正に幸運だ。

 何故ならここは水場である。基本、水は生きる上で必要不可欠だ。それは魔物も変わるまい。

 そんなわけで幸運を噛み締めた三人は、これからの方針を話し合った。

 投げ出された地点が川の最上流だったこともあり、候補は少なかった。すなわち、川沿いに進むか、横から延びる洞窟に入るかである。

 結果、三人が三人とも川沿いに進むことを選択した。まあ、当然と言えば当然だ。橋から落ちて以降、仲間と離れ離れになったのは水に飲まれたのが原因だ。合流を第一に考えれば、川沿いを進む以外に選択肢はない。

 唯一の不安は、このメンバーの戦闘力だ。ここが何階層かは分からないが、下層域であるのは間違いない。ともすれば、正規のルートを通らずして真迷宮に入り込んだ可能性もある。

 さて、改めて三人の天職を確認する。優花は料理人。妙子は操鞭師で奈々は杖術師だ。料理人はさておき、本来、戦闘職が二人なら希望はあるように思える。

 

「まず、通用しないよね……」

 

 しかし、三人の意見は逆の意味で一致した。

 何階層登ってあの橋まで着いたかなど覚えてないが、十階層以上は登ったことは確実だ。そして妙子と奈々の攻撃が通用したのは、あの橋のある階層の五階層下くらいからが精々だったのだ。あれだけの落下をした挙句に水に流されて、よもやその枠内に収まっていることなど有り得まい。

 つまり、二人の攻撃は確実に通用しない。

 では優花は? といえば論外だ。如何に氣を使うことが出来ようと、彼女のそれは料理特化。身体能力の強化は出来るし、霊場ブートキャンプに連れて行かれた経験から、種類にもよるが魔物を相手取ることは可能だろう。しかし、それらの事実と攻撃力は=で結ばれないのだ。

 これには優花の氣質も関係している。彼女にとって、得物は獲物――つまりは食材を解体するための道具なのだ。彼女が食材と思えない物には、いくら氣を込めたところで攻撃力を発揮しないのである。

 だからこそ、こと戦闘における優花の攻撃手段は専ら徒手格闘だ。とはいえ、別段彼女は格闘技を習っているわけでもない。力任せが精々だ。トータスに来てからは龍真や浩介に基本を教わりはしたものの、未だ付け焼刃の域を出ない。

 結論として。

 合流を第一に、魔物には出会わない様に注意して、出会ったら逃げの一手のみ、ということになった。

 

「お腹すいたね……」

「……そうね」

(無理もないか)

 

 ポツリと奈々が呟き、妙子もそれに同意した。優花もまた、注意するよりも先に納得した。――せざるを得なかった。

 歩く分には体力の消耗はそれほどでもない。ステータスの恩恵だ。しかし、現状は精神的な疲労が大きい。大きすぎると言っていい。弱音が出るのは当然だ。……むしろ、罠によって下層域に飛ばされた時でさえ弱音を零さなかったことの方が、つい最近まで学生だった現実を思えば異常なのだ。

 そうして。

 遅々と進むことどれほど経ったか。

 彼女たちはそれを見つけた。咄嗟に物陰に隠れ、慎重に覗き込む。

 

あれ、何だろ?

魔物、の様だけど……?」 

どうやら死んでいるみたいね?」 

 

 起きてからここまで進む中、一度も見なかった魔物の姿。しかしピクリとも動かない。寝ているだけかと思いきや、微かに残る鉄の臭いが否定させる。

 考えられるのは、死骸だ。

 

「………………」

 

 互いに顔を合わせ、無言で頷く。

 慎重に、されど意を決して近づく。

 案の定、それは死骸だった。二つの尻尾を持つ、狼のような魔物だ。

 顔のあたりは酷い有様だが、それ以外は綺麗なものだった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

(もしかしたら……?)

 

 そのとき、優花に一つの天啓が舞い降りた。

 狼のような、魔物の、死骸。それはすなわち肉であり、食材だ。

 第一、座学の中でも習ったではないか。

 

「魔物の肉には毒があり、食べれば死ぬ」

 

 それはつまり、実際に食べられたことがある、という事に他ならない。ただ、毒があるから、食べられていないだけなのだ。

 そこに、自分の氣を組み込めばどうなるか。――すなわち問題などない。各種調味料は小瓶に入れてベルトポーチで持ち運んでいるし、各種得物も足に括りつけている。流石に凝った料理は出来ないが、切って焼いて味を付ける程度なら十分に可能だ。

 

(善は急げってね)

 

 優花は颯爽と得物を取り出す。

 本来、自分たちが食べる肉は血抜きやら何やらがされているものだが、今回は省略する。そもそも魔物の肉に血抜きをして、効果が出るかも怪しいものだ。故に臭みやらは力技で押し流す。

 どこが美味しいかも分からないし、部位は適当でいいだろう。流石に三人でも一頭丸ごとは多すぎる。

 獲物に氣を込めて、食材へと刃を入れる。それによって毒を始めとした不快な成分が中和される。

 実際、香織にしろ天誡にしろ、解毒に解呪、石化の解除くらいなら軽々とやってのける。一言でいえば状態異常の治療。正常状態へと戻すそれは、一種の時間遡行に当たる。普通に考えれば毒等のデメリットのみならず、メリット効果さえ消えてしまいそうなものだ。しかし現実として、彼らのそれはデメリット効果のみを打ち消す。そしてそこに理屈は関係ない。ただ、彼らがそう望んで氣を行使しているからだ。平たく言えば力技である。

 ならば、こと料理に関する限り、優花にそれが出来ない筈がない。

 適当な大きさに切ったら、更に細かく切り、後は串に刺して焼きと味付けだ。火は魔法を使えば簡単に用意出来る。

 

(後は焼き上がるのを待つだけね)

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 魔物の死骸を確認した妙子と奈々は、その原因を考えることにした。

 死因と思しき顔の傷はともかくとして、魔物同士の争いの結果であれば、こんなに綺麗な状態で残っているのは不自然だ。少なくとも、食い荒らされたような痕跡があっていいはずだ。

 そしてよくよく見れば、顔の傷は指のように見える。ならば、これを行ったのは人間の――自分たちの仲間の可能性がある。候補としては重吾が思い浮かぶ。体格のいい彼ならば、やって出来ないこともなさそうだ。

 そう思い至った二人は、何らかの痕跡が残ってないか、注意して周囲を確認する。

 遠からず、それは見つかった。

 

『A.T&K.N生存。川沿いに向かう』

 

 岩に刻まれたメッセージである。

 

「ねえ、これ?」

「でしょうね。……少なくとも二人、生存していたことを示すわね」

 

 A.TにK.N……間違いなく名前のイニシャルだろう。この二人は、川沿いに進んだらしい。自分たちと会わなかった以上、どうやら下流に向かったようだ。

 次に考えるのは、それは誰か、だ。妙子と奈々は魔物の死因を合わせて考え、出来そうな者、生存していそうな者から口に出していく。

 

「永岡重吾……J.N――違う」

「緋勇龍真……T.H――違う」

「玉井淳史……A.T――玉井くんかしら?」

「いやでも、綾子の可能性もあるよ? 辻綾子……A.Tだ」

 

 ともあれ、A.Tの候補は出た。残るはK.Nだ。しかし、もしこれが綾子の方なら、K.Nは考えるまでもない。

 

『野村健太郎――』

「――イニシャルはK.N――」

「――どうやら、ここにいたのは綾子と野村君の様だね」

 

 二人は同時に名前を挙げ、次いで――ドラマのワンシーンの如く――順に口を開いた。

 解せないのは、魔物の死因とこの二人が結びつかないことだ。健太郎は土術師で綾子は治癒師である。その天職はどちらも後方タイプ。間違っても肉弾戦闘型ではない。

 

「他にも誰かがいるなら、そのことを書いてあってもよさそうだけど……?」

「う~ん。けど、ここダンジョンだし。深さを思えば考えづらいけど、通りすがりの冒険者に助けられた可能性も……?」

 

 どこかモヤッとしたものは残るが、そもそも手持ちの情報が少ないのだ。そういうことにしておくしかない。

 頭を突き合わせる二人の鼻に、いい匂いが漂ってきた。

 

「この匂いって――」

「――焼肉ッ!?」

 

 そう、正に焼肉の匂いだ。気付くと同時、妙子と奈々はバッと音を立てて振り向く。お腹の空いてる状況下、こんないい匂いを出されたら無理もない。

 視線の先には、魔法で生み出された火によって炙られている串焼き。手頃な岩を下敷きにして、何本か並べられている。傍では優花がポーチから取り出した調味料――あれは塩だろうか――を振りかけている。

 だが、どこにそんな肉が? と考える二人の脳裏に、同時に浮かぶ魔物の死骸。

 見やれば、案の定その魔物は一部がカットされている。

 

「え? 魔物食べるの?」

「っていうか、魔物って毒あるんじゃ?」

 

 ようやく現実に意識が追い付いた二人の先では、優花が串を口に運んでいた。止める間もない。彼女はそのまま肉を噛んで嚥下した。

 

「ちょッ!? 優花、大丈夫なの!?」

 

 妙子と奈々は同時に駆け出し優花の傍へ。

 

「あ、二人も食べなよ? 割とイケるよ」

 

 しかして優花は二人の心配をよそに呑気に返した。呆気に取られる二人を尻目に、更に口へと運んでいく。その表情は幸せそのもの。実に美味しそうに食べている。

 ゴクリ。妙子と奈々は息を呑む。

 座学では毒があると習った。だが現実として優花は魔物の肉を食らっている。しかも伝聞などではなく目の前で。そして、特に問題があるようには見受けられない。

 常識と現実。果たして正しいのはどちらか?

 悩みに悩む二人だったが、やはり空腹には勝てなかった。恐る恐ると、だが確実に串を手に取り口へと運んでいく。

 パクリ。モキュモキュ。ゴックン。

 

『美味しい~!!』

 

 妙子と奈々の歓喜の声が響き渡った。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 変化は唐突に現れた。

 パクパクもぐもぐと串を口に運んでいた三人だったが、妙子と奈々が串を落として胸を抑え始めたのだ。

 

(胸焼けでも起こした?)

 

 それを見て思った優花だが、どうも様子がおかしい。

 

「あ、熱い……」

「たえ、られない……」

 

 妙子と奈々は胸を抑えるだけに収まらず、横たわり、発汗も凄まじい。おまけに目は虚ろで呼吸も荒い。……どこからどう見ても問題がある。

 

「ちょ、ちょっと、どうしたのよ!?」

 

 流石におかしいと思ったのか優花が声をかける。

 しかし、彼女にはこれといって心当たりがなかった。串焼きを食べてからこうなった以上、やはり問題は串焼きにあるように思える。だが、それもおかしい。何故なら串焼きは彼女も食べている。それも真っ先に。問題が起こるなら、彼女から起こらなければおかしいのだ。

 毒の線はない。氣によって中和されている。そも、その自信があるから食べたのだ。

 ならば、次に考えられるのはアレルギー類だ。だが二人も同時に起こり得るものだろうか。

 考え込む優花の前で更なる変化が起こる。

 

『うああぁぁぁぁッ!?』

 

 妙子と奈々が同時に叫び、次いでその髪が真白に染まっていったのだ。いや、髪だけではない。よく見れば、瞳の色彩も変わっている。

 

(まさか……変生ッ!?)

 

 優花にとってその現象は、まさに変生を思わせた。多くは氣の暴走によって起こる、人ならざるモノへの変化。まさか、二人はこのまま堕ちてしまうのか?

 だが、優花の杞憂をよそに、二人の変化はそれで終わった。いや、それどころか髪も瞳も次第に元へと戻っていく。あれだけ荒かった呼吸も、今は落ち着いている。気を失ってはいるようだが、見た限り大事はなさそうだ。

 

(いったい何だってのよ……?)

 

 優花は自分のステータスプレートを取り出して確認する。単に自分が気付いていないだけで、変化は起こっているかもしれないと思い至ったためだ。二人に起こった変生じみた現象が、それを思わせたのだ。

 案の定、見覚えのない技能があった。“魔力操作”と“纏雷”、“胃酸強化”という三つの先天技能である。また、よく見ればステータス値も僅かながら上昇している。それも全体的にだ。

 それを見て、朧気ながら理由が分かった。思い返せば、自分も氣の操作を覚えたときには、身体が熱くなり、意識を失った。一種の通過儀礼らしい。身体全体に氣の通り道を新しく開拓するために熱を持つのだとか。無意識に氣を扱っていた者の場合、一部とはいえ既に開拓されているので相対的に気絶時間は短くなるらしいが……。

 次に、魔物の場合はやはり敵性生物として認識されるのだろう。故にそれを食らうことで、より強く弱肉強食の理が働く。文字通り、血となり肉となれ、というやつだ。結果、その魔物の固有能力を得ることができ、相手と自分の強さ次第でステータスが跳ね上がる。

 いくら毒――結局、その正体は分からないが――を中和しても、これだけ一度に連続パンチを喰らえば、そりゃあ問題も起ころうというものだ。優花が無事だったのは、起こった効果が僅かだったためだろう。おそらく、氣や魔力を始めとした実体無き力の通り道は全て同じなのだ。そう思えば納得もいく。

 道は既に出来ている。ステータス値は妙子と奈々よりは圧倒的に高いため、上昇幅も少ない。ここまでくれば、先天技能を刻まれたところで微々たるものだろう。

 しかし、優花が冷静に理由を考えていられるのもそこまでだった。次の瞬間、彼女の身にも変化が起こったからだ。どこからともなく聞こえるのは“目醒めよ――”という声。……そう、彼女自身は一度として聞いたことのない宿星の声である。

 そしてそれが、まるで目覚まし時計の如くにがなり立ててくるのだ。

 

「冗談でしょ、何だってこんな時に……ッ!?」

 

 二つの意味で耐えられず、優花は苦悶の声を上げる。

 聞いた話、宿星の声に応えたときにも、身体は熱を持つらしい。か細かった結びつきが、これまた一気に拡張されるためだとか。当然、起きていられる筈がない。

 しかし、この状況で三人揃って意識を失うと、今度こそ生命を失いかねない。一体とはいえ魔物の死骸があるのだ。二体目三体目が来ないとも限らないのである。

 

「分かったからちょっと待って! 流石にこの状況で気絶すると、今度こそ死にかねないから!」

 

 優花は思いのままに叫んだ。するとどうだろう――

 

「チッ、仕方ねぇな。だが言質は取ったからな?」

 

 ――と言わんばかりに、声は聞こえなくなった。

 落ち着くこと暫し。

 優花は今になって宿星の声が聞こえた理由を考えるが、そんなもの考えるまでもない。共鳴以外にはあり得ない。妙子か奈々か、或いはその両方が、宿星の声に応えたのだ。一種のショック療法だろう。二人の髪やらが元に戻ったのも、それが理由に違いあるまい。宿星が氣を利かせたのだ。……である以上、やはり二人ともが応えたことになる。

 それにそう考えれば、不思議と自分たちのウマが合ったのも納得出来る。共鳴を起こすほどに近しい宿星だ。微々たる程度とはいえその影響を受けているのなら――宿星の関係性にもよるだろうが――互いに惹かれあうものがあったとしておかしくあるまい。

 そうこうしている内に妙子と奈々が目を覚まし――

 

「よし、もういいな?」

 

 ――入れ替わりで今度は優花が気絶することとなった。

 説明する暇も何もない。後には何も分からず困惑する二人だけが残される。 

 その後。

 説明をしつつもも用意だけして焼いてなかった肉を平らげて、一行は下流へと向かった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。