そこは正に地獄だった。
兎型の魔物、狼型の魔物、熊型の魔物が互いに互いを攻撃しあっている。兎は天を踏みしめ空中からその足で以て強襲する。狼は尻尾から雷を放ち、或いはその身に雷を纏う。熊が――所々欠け罅割れてはいるものの、未だ鋭くも肥大化した――爪を振るう度、風が刃となって襲いかかる。しかも、熊は一体だからまだいいものの、兎と狼に至っては徒党を組んでいるのである。ヘタに動くことも出来ない。
そして、そんな地獄に彼らはいた。緋勇龍真、永山重吾、玉井淳史である。水に飲まれて流されて、吐き出された場所は川の最下流。すなわち魔物たちの水場だった。服を乾かす暇があったのは幸運だが、離れる前に洞窟の奥からやって来た魔物とかち合ったのは不運に間違いない。
最初に現れたのは狼型。数は五匹といったところか。水と餌となる魚を求めてきたらしいその魔物は、魚よりも食いでのある得物――龍真たち――を見つけた途端、嬉々として襲いかかってきた。
判断は即時。話し合う暇もなく、龍真は迎撃を選択した。詰められるよりも先に、こちらから打って出る。
その選択は必然だった。
龍真自身はやられるつもりなどない。重吾も大丈夫だろう。彼は目醒めたその経緯から四神覚醒・白虎変を会得している。文字通り、変生することによって常に四神白虎の力を現す規格外の技だ。その危険性の高さから長時間は無理だが、逆に言えば欠点はそれくらいだ。この数相手ならば問題にもならない。
だが、この場に残るもう一人。すなわち淳史の存在が決定打となった。宿星の声を聞き氣に目醒める兆候の出ている彼だが、言ってみればそこ止まりだ。未だ目醒めているわけではない。こればかりは個人差があるため仕方がないが、力不足は否めない。
仮に目醒めていたとしてもそれは同じだろう。氣に目醒めたとしても、向き不向きを始め己の力を確認して修練を積まなければ、結局のところ役には立たない。優花を霊場ブートキャンプに参加させたのもそのためだ。目醒めて早々にして曲がりなりにも戦力たり得るのは、同時に宿星の加護を受けた者に限られるのが実情だ。
ゆえに、淳史の安全を考えるなら魔物の思うままにさせるわけにはいかないのだ。その出鼻を挫く必要がある。
「うおおッ!
繰り出すは拳撃と蹴撃の連続技。あまりの速度と威力によって生まれる風と衝撃波。それによって龍真と魔物は徐々に宙へと上昇していく。そして最頂点に達した時、相手の身体を地面へと叩き落す。緋勇流は基本技の最秘奥に位置する技であり、その威力は天をも砕くと謳われる。
謳い文句が正しいかはさておき、龍真は先に戦ったベヒモス亜種くらいならば一撃で死ぬだろう威力で技を放った。生憎とダンジョンだけあって本来より高さは稼げなかったが、込めた威力に間違いはない。
これで相手の意気を挫き、その隙に退散するのが龍真の狙いだった。何も無理に自分たちを狙わなくとも、すぐそこには餌となる魚がいるのだ。こちらが退散すれば、最初は警戒しても執拗に追っては来まい。本能で生きる獣なればこそ、容易に食えぬ餌よりは容易に食える餌を狙うだろう……と。
誤算があるとすればそこだった。
無事仕留め、龍真たちが退散しようとしたところで――
「グルゥアアアアン!」
――残った狼が雄たけびを上げたのである。
応えるように、洞窟から更に狼がやって来る。その数も多い。更に十匹はいる。狼だけあってその速度も速い。龍真だけならまだしも重吾と淳史もいるのだ。見る見るうちに囲まれた。
こうなっては最早応戦するしかあるまい。
「チッ、すまない。どうやら裏目に出た様だ。俺が出来る限り相手取る。
重吾は玉井の護衛を頼む。――無理に攻めなくてもいい。
玉井は回避と防御に専念してくれ。――どちらかと言えば回避重視で頼む」
「分かった」
「お、おう」
龍真が矢次早に指示を出し、重吾と淳史がそれに応える。
そこで更なる問題が起こった。
「ギャン!」
狼の悲鳴が響く。見れば、いつの間に現れたのか、そこには新たな団体客の姿。その団体客――兎型の魔物は、即座に狼へと襲い掛かる。……どうやら狼の行動に異常を感じ、そこを狙って現れた様だ。
これ幸いと逃げようとするも――
(速いッ!? そして重いッ!?)
――兎は目敏く襲いかかってきた。その速度は狼よりもなお速い。
幸いにして兎の狙いは龍真だった。その速度には意表を突かれるも、緋勇流
だが、無意識に発動するからこその欠点も存在する。威力に対する備えが取れないのだ。無論、修練を積んだ龍真の身体は並大抵の攻撃ではビクともしない。一流の使い手は身体全体に氣を流すのを自然体としている。龍真も例に漏れずとあっては尚更に硬い。しかしどうしても、無意識下ゆえの限界点が存在するのは間違いないのだ。
かくして、兎の攻撃は並大抵の域を超えていた。速度も威力も今までに戦った魔物など比較にならない。この無意識の一瞬、兎の攻撃は確かに龍真の防御を超えたのである。
意識が追い付くや即座に力を込めたので、然程の支障はない。多少痺れる程度だ。しかし、痺れを齎されたのもまた事実。
龍真だからこそこの程度ですんでいるが、淳史が喰らえばどうなることか。程度は分からずとも、ケガを負うのは間違いない。
今の一撃で仕留められず、その五体も満足とあってか、兎は龍真への警戒を強めた様だ。
狼もまた、龍真に仲間を一匹やられている。兎の例に漏れない。
龍真以外を狙おうとも、まずは龍真を超えなくてはならない。だが一匹では超えられない。数に任せて龍真を超えたとて、そこには重吾が控えている。瞬間瞬間に白虎の力を引き出すだけならば、何も白虎変を行う必要はなく、それ故に危険性も低い。しかして確かに白虎の力が込められているので、その威力は高い。龍真を超えて安堵した瞬間、そこに白き猛虎の力を込めた蹴撃なり爪撃なりが叩き込まれるのだ。間違いなく十中八九に命を落とす。
そして魔物にとっての敵は、何も龍真たちだけではない。狼にとっては兎も、逆に兎にとっては狼も、等しく敵なのだ。一方に掛かりきりになれば、間違いなくもう一方に狙われる。
淳史の身の安全を思えばその場を動けない龍真だが、特に問題はない。氣の使用を前提とする緋勇流だけあって、遠距離攻撃の類もある。すなわち勁技だ。……四神の型の最秘奥もその威力ゆえに遠距離まで届かせることは出来るが、自然、動きが激しくなるので候補からは外れる。
龍真は迎撃のみではなく、隙を見つけては勁技を叩き込む。ときには一体を、ときには複数をまとめて。
そんなことをしていれば、次第に動きは膠着する。間もなく、動くに動けない三つ巴の盤面が出来あがった。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「………………」
睨み合いのまま、経った時間はどれほどか? 短くも思えれば、長くも思える。
しかし、一行は何もそのまま棒立ちだったわけではない。警戒は解かぬまま、ジリジリと、しかし確実に距離を離している。
「ぐわああッ!」
新たな乱入者が現れたのはそんな時で、その不意打ちを喰らった淳史が生き延びられたのは幸運以外のなにものでもない。
飛来したのは実体無き刃。風の爪。
「嫌な予感がした」
後に淳史はこう語るが、その感に従い彼は曲刀を構えたのだ。
風の爪は曲刀を粉砕するも、結果として威力を減衰。淳史は一命を取り留めたが気絶を余儀なくされた。
「……ッ!?」
「玉井ッ!?」
仲間の、突然の叫び声。
龍真は振り向くのを堪えた。淳史の状態は気になるも、それをする余地はない。
一方、重吾は振り向いてしまった。トータスに来て相応の場数は踏んだが、やはり相応でしかない。仲間の安否に針が傾くのは仕方のないことだ。
だが、乱入者にはそれを見逃す道理などない。油断を見せた重吾へと、再びの風の爪が放たれる。
「させるかッ!
自分が狙いでなかったこともあり初撃は許してしまった龍真だが、二度目を許す道理はない。相手が空を裂く攻撃を仕掛けてくるのなら、こちらも同じ手段でやり返すだけだ。
放たれるは発勁の秘奥義。祖先、緋勇龍斗が時の徳川幕府相談役である円空和尚より授けられたという――彼の者の名を冠す――謂れのある技だ。
遠心力を懸けて放たれた発勁が、波紋状の衝撃波となって空を裂く。その一撃は重吾を狙った風の爪をかき消すのみならず、他ならぬ乱入者――熊型の魔物へも確かなダメージを与えるに至った。その熊を畏怖たらしめる代名詞にして先の攻撃の発生器官であるその爪を、或いは欠けさせ、或いは罅を入れたのである。無傷な爪も中にはあるが、弱体化したことに違いはない。
「グルゥアアアアアッ!?」
響き渡る熊の絶叫。
魔物も恐れる魔物の弱体化。その瞬間、幾多の同胞を食われた恨みもあり、狼と兎の狙いは熊へと完全に移り変わった。
一時の安全を得た龍真たちだが、それもいつまで保つかは分からない。
淳史の生命もそれは同じだ。刻まれた傷とそこから流れ出る血が、否応なくその深さを分からせる。如何に氣を操れど、龍真と重吾には彼を癒す技が無い。揃いも揃って癒しの技の対象は自分のみなのだ。止血をしたところで、果たしてどこまで効果があるか。
しかし、捨てる神あれば拾う神あり。今まで敵の登場ばかりだったが、ここに来て彼らの味方が登場した。
「天恵よ、彼の者に今一度力を……焦天!」
響くのは辻綾子の声。唱えるは単体を大回復させる癒しの魔法だ。天職:治癒師に偽りなし。生命を危ぶまれた淳史の傷は、見る間に癒されていく。
「どういう状況だ、龍斗――いや、龍真?」
登場したのは綾子だけではない。野村健太郎も一緒である。
彼らにしてみれば、淳史はダメージを負っており、その割に魔物は魔物同士で攻撃しあっている状況だ。疑問に思うのも無理はない。
「お前、野村……だよな? いや、とにかく辻さんもだが無事でよかった」
問いかけられた龍真は、答えるよりも先に疑問を返してしまった。あまり交流はないが、それでも自分の知る健太郎と目の前の健太郎はどこか違ったためだ。どこがどう、というわけではないが、微かな違和感が離れない。――すぐに頭を振り払って、無事を喜んだが。
「ハハッ、流石にお前には分かるか? 何やかんやあって前世に目醒めてな。どうしても多少の影響は出る。……ちなみに、気になるだろう前世は鬼道衆の泰山だ。これも因果かね?」
逆に問われた健太郎は笑って返す。目の前の龍真と、泰山の記憶にある龍斗は、見れば見るほどそっくりだ。故にこそ、然程付き合いのない自分よりも、付き合いの濃かった泰山としての面が強く出てしまい、最初に龍斗と問いかけてしまったのだ。親近感も口調に現れてしまう。
「この分じゃ、遠藤はともかく九角相手は怪しいかもしれないな。神夷は……どっちだろうな?」
更に笑って健太郎は言う。
笑い事じゃないのは龍真である。前世に目醒めるのは別にいい。この界隈、そういった存在は珍しいがいないわけじゃない。だが、その前世が鬼道衆の泰山とあっては楽観視も出来ない。龍閃組の末裔に鬼道衆の末裔、加えて前世が鬼道衆だ。一つの教室に集まり過ぎである。いったい緋勇の持つ因果因縁はどこまで広がりどこまで絡むのか? 異世界ゆえに有り得ないと分かっているが、味方のみならず敵にも出てきそうな勢いだ。
ともあれ、長く困惑しているわけにもいくまい。龍真は気を取り直して説明する。
「……なるほどな。辻と玉井の護りは任せろ。――お前たちはアイツ等の始末を頼む」
言って、健太郎は――
「土流壁!」
――と叫びつつ、足を強く踏み鳴らした。
するとどうだろう。健太郎の声に応えるように大地が隆起する。それも綾子と淳史を囲む――つまりは魔物を遮る形でだ。高さも十分にある。飛び越えるにせよ回り込むにせよ、二人に攻めかかろうとすれば、必然的に魔物は多大な隙を生むことになる。隆起した大地から睥睨する健太郎がその隙を見逃すことなど当然あるまい。
「よし!」
「これなら!」
これなら遠慮なく攻めかかれる。意気を新たに龍真と重吾が声を上げた。
「せ~の、落雷閃! からの――」
そこに新たな登場人物の声が響き渡る。
少女――奈々は天を闊歩する兎の、更に上空より急襲。五行は金行、雷氣を帯びた杖をその頭に叩き込む。勢いと威力も相俟って、その様は正に落雷そのものだ。兎は一撃で頭部を粉砕され、それでは物足りぬと身体も一刀両断された。
「――轟雷ッ! 旋風~輪!」
奈々は尚も止まらない。魔物の群れの真っ只中に降りた彼女は、すかさず頭上でその杖を旋回させる。
たかが杖と侮るなかれ。
『突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀。杖はかくにも外れざりけり』
と謳われるように、杖はそれぞれの要素を兼ね備えているのだ。
無論、真の意味で十全に使いこなそうとすれば、それは無理難題に等しい。だが、それぞれの得物に慣れた者が代用武器として扱う分には十分に機能する。
雷氣を帯びたままに旋回した杖は、その勢いを以て真空の刃をも生み出す。奈々の周囲にいた魔物は、或いは雷にその身を焼かれ、或いは真空刃で切り刻まれ、更には旋回する杖を叩き込まれる羽目となる。如何に下層深層の魔物といえど、それに耐えられる道理は無し。物皆全てが粉砕された。……端から見れば、それは嵐そのものだ。
「う~ん、私、絶好調ッ!」
宣いつつも、奈々は杖を構える。軽いセリフと裏腹、そこには油断も隙もありはしない。
思わぬ人物の思わぬ活躍に一瞬呆気に取られた龍真だが、その
如何な天職:杖術師とて、普通なら相応の経験を積まねばこの領域には至れない。だが、それを覆す裏ワザが存在する。それこそが宿星の加護。今の奈々は、その宿星が以前に加護を与えた人物の動きを手本として、無意識下で模倣しているのだ。
宿星の声に応えるという事は、それすなわち並ならぬ戦いへの参戦表明に他ならない。融通の利かないところもある宿星だが、短時間で鍛え上げるために支援は惜しまないのだ。奈々へのこれもその内の一つに過ぎない。とはいえ、これは彼女が素人の域を出ていないからこそでもある。師に学びある程度自分の動きを確立させた者にとっては、後は時間が解決するしかないことくらいは宿星も分かっている。
支援の一つと言ったが、そも宿星が重視するのはその人格傾向だ。戦い方は自然と二の次三の次になる。そんな中で、そう毎回都合よく――氣の操作に対する支援ならばともかく――戦闘方法への支援が出来る筈もないのだ。
二つの意味で、奈々は運が良かったのである。――必然、運が良い者ばかりである筈がない。
「張り切るのはいいけど、ある程度形は残しておいてよね! でないと食べられないよ!」
「あ、私たちも入れさせてもらうね、野村くん?」
つまりは彼女と行動を共にしていた残りの二人――優花と妙子だ。
優花は奈々へと注意して、妙子は健太郎に断りを入れて、そそくさと壁の中に入っていく。宿星の加護を受けた彼女たちだが、運よく参照元があった奈々と違い、得物の扱い方は未だ手探りで探っていかなくてはならない。優花はともかく、如何にステータスが上昇したとはいえ、妙子がこの乱戦に割って入るのは無理があろうというものだ。ヘタすれば――というか間違いなく同士討ちになる。変則的かつ割と広範囲を攻撃可能なのが鞭だ。天職が示す通りに適性があっても、それと動体視力は別物である。今現在の彼女では、特に龍真の動きを捉えきれないのだ。
過程はともかくとして、橋から落下した全員がこれで集まったことになる。同時にそれは、離れ離れになった仲間に対する安否の念――どこかで働き、結果として微かにでも動きを阻害していた支えが無くなったことを意味していた。
そうなってはこの面子――特にこの男を止めることなど、この場の魔物に出来る筈もない。龍真は縦横無尽に駆け回り、或いは拳撃を、或いは蹴撃を叩き込んでいく。同時に、身体を砕かれた魔物の亡骸が量産される。優花の言葉が効いているのか、叩き込んだ箇所はともかく他の部分は綺麗なものだ。
重吾も続く。速度は龍真に及ばずとも、白虎の力を込めた蹴撃――虎蹴で以て前方の魔物を、同じく爪撃――虎爪を駆使して左右の魔物を着実に仕留めていく。
奈々も負けてはいない。先ほどまでの派手さはないが、基本に沿った攻撃を次々と放つ。薙刀の如くに或いは打たれ、太刀の如くに或いは砕かれ、槍の如くに或いは貫かれ、魔物はその身を躯へ変える。
自然、魔物が全滅するまで然程時間はかからなかった。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
魔物を全滅させた一行は、再会の喜びもそこそこに後始末にかかった。なにせ魔物の量が量だ。比例して血の匂いもまた凄い。今は鼻が麻痺しているからこれでもマシな方だ。
幸いにしてすぐそこに川がある。放り込むだけで大分違うだろう。最下流とはいえ、川自体は未だ流れている。ただ、格子によって一定以上の大きさを持つ物は強制的に止められるのだ。
この場合、それは別の意味でもありがたい。これだけの量の食糧だ。水に漬けておくだけでも、腐敗の面で大分違う。また、暫くの間はいちいち狩る必要がなくなる。
ある程度片付け終えたら、肉を持ちつつその場を上流へと離れる。川に血の匂いが流されるといっても、やはり時間は必要になる。好き好んで居続ける必要はない。
そして、改めての話し合いだ。……なお、片付けの最中で淳史は目を覚ましていた。
それぞれの内容に驚きはあれど、同時に喜ばしくもある。特に魔物が食えるのは重要だ。優花が料理する必要こそありそうだが、何分流されてきた彼らだ。食料の心配がなくなったのはそれだけでありがたい。多少の問題には目を瞑るも止む無しだろう。
優花等三人以外は空腹もあり、早速に食らいつく。まずは狼の肉からだ。先の戦闘を振り返るに、その強さは熊>兎>狼のようだった。弱い方から食った方が、問題が起こるにしろその反動も少ないだろう。
龍真、重吾、健太郎は無事だったが、案の定A.Tコンビは洗礼を受けた。実体無き力が身体の中を駆け巡る。身体は熱を持ち、息は荒くなり、やがて絶叫を上げて気絶した。
程なくして目を覚ました二人から話を聞くには、これ幸いと宿星が声をかけてきたとのこと。ここまで来た以上、当然の如くその声に応じたそうだ。
綾子が応じたのは仁星。そして淳史が応じたのは礼星だ。この星には共通性がある。南総里見八犬伝に名高い八つの霊珠――すなわち仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌だ。この星を持つ者が揃うことで、霊珠の力を借り受けた方陣技を放つことも出来るとされている。……時折例外もあるそうだが。
ちなみに優花が加護を受けたのは
洗礼を乗り切った後は、続いて兎と熊にも手を付ける。一種のパワーレベリングだ。数値が上がれば、それだけ死から遠ざかる。やっておいて損はない。……ステータス面で龍真には効果が無いが、それでも先天技能は手に入る。
その後はこの後の方針を話し合った。
まずはこの階層の探索だ。それによって次の行動も変わってくる。大迷宮ならば上層を目指し、真迷宮ならば攻略する以外に道はない。また後者の場合、何日かはこの階層にとどまり様子を見ることにした。
落ちた人数が人数だ。一人二人なら切り捨てられるのも止む無しだが、五人以上となればそうもいくまい。強さに対するこの世界の常識を思えば、それでも切り捨てられる可能性はなくもない。だが、この状況を真っ先に知ることの出来る立場ある人物はメルドだ。その人柄を鑑みれば、そして常識で測れない強さを身を以て知る彼ならば、たとえ真迷宮に落ちたと判断しても救援を寄越す可能性は高い。それが可能だろう人物に心当たりがあるなら尚更だ。
その間の寝泊りには健太郎の土術を用いることにした。ただ壁を立てるだけでも僅かな時間は稼げるし、常に警戒を働かせる方向も減る。また地面を真っ平にすることで一応の寝心地も確保できる。本当の意味で安全確保も心身を休めることも出来ないが、この状況で高望みもしていられまい。
方針を決め、一行は階層の探索へと赴いた。