ありふれた職業で世界最強 ~宿星の導き~   作:山上真

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3章:オルクス真迷宮
1話


 階段から見る下階層は、こことは違い真っ暗闇だ。どうやら緑光石も無いらしい。立場や天職柄夜目の効く浩介と雫だが、この二人を以てしても見通せないようだ。

 

「それじゃあ、私がまず降りるから。皆は後から降りてきて?」

 

 その暗黒へ真っ先に足を踏み入れたのは香織である。手札が限られるこの状況下、それは最良の手段だ。

 香織はその身に炎を纏う。技能的に言うならば炎纏か。それにより彼女の周囲が明るくなり、暗闇の中も見通せる。

 当然ながらそんな真似をすれば目立つことこの上ない。この階層に潜む魔物からすれば恰好の的だろう。さりとて朱雀の宿星を持ち炎帝の技能を有する香織が纏う以上、ただの炎である筈がない。彼女の意の下、それは害あるモノのみを灼く鎧でもある。

 進むこと暫し。

 数メートルは離れた壁に張り付いて、その魔物は姿を現した。体長二メートルほどの灰色のトカゲだ。薄闇暗闇の中では目立たぬだろうこの存在も、この真昼の如き明るさではそうもいかない。奇襲は奇襲たり得ない。

 だが、そんなことは関係ない、と言わんばかりにそのトカゲは金色の瞳を光らせた。結果、香織の周囲の岩がボロボロと崩れだす。その様はまるで風化だ。

 

「なるほど、石化ね」

 

 しかし、真の標的たる香織には何の支障も現れてはいない。だが、それも当然である。そも物体しか灼けないのでは片手落ちもいいところだ。実体の在る無しを問わず害あるモノ全てを防ぐからこそ、仲間たちも香織の先行に文句を言わないのだ。無効化軽減化するのにも限度はあるが、上階の魔物を参考にすればまだ大丈夫と判断出来た。

 更には攻撃のタネに見当を付けて呟く始末。視線を介した石化能力は日本でも有名だ。ゴルゴーンやバジリスクなどが最たるものだろう。様々な作品の乱立により、元ネタは知らないが名前と能力は知っている、というのはありふれた話である。

 

「クゥア!?」

 

 予期せぬ結果にトカゲは驚き、困惑の声を漏らす。――それは隙以外の何ものでもない。無手のまま、香織は弓を持つが如くに構え、矢を放つが如くに指を動かす。その意に従い、炎は鋭き一条の熱戦となってトカゲの頭を貫いた。

 

「お見事!」

 

 喝采を上げたのは果たして誰だったか。

 

「これ食べる?」

 

 それには頓着せず、香織は嫌々ながらもトカゲを摘み優花に訊ねた。爬虫類など好んで食べたくはないが、技能が手に入るとあっては一考の余地はある。それも先の攻撃からして石化に関するもの。攻撃系技能か防御系技能かは分からないが、特に後者はあって困るものでもない。しかしてそれも、優花が食材と認識出来るかどうかによるのだ。香織の知る限り、地域によっては食べる、という話もテレビか何かで聞いたことがあるので多分大丈夫だとは思うが、優花が食材と認識出来ねば氣の効果も働かず、食べるとすれば毒のままだ。――まあ、流石にその場合は食べる気などないが。

 

「食べられなくはない筈だし、一応持っていきましょ。……それこそ、本当に食べる気の湧かない魔物だっている筈だし」

「了解」

 

 そう言われれば、香織としても頷かざるを得ない。経験や状況の諸々を鑑みて、このトカゲはまだ食べられる範囲、と判断してしまったのだ。であるならば、食べない道理はない。本当に無理、と判断せざるを得ない魔物だって何れは出てくる筈だし。

 話が決まったならば、これまたハジメの作った未食用のカゴに入れ、更に歩を進める。進んで行くと、更に他の魔物に遭遇。フクロウ型と猫型だ。これまたアッサリと仕留め、カゴに入れて先を急ぐ。

 広大な迷宮であればこそ、ゆっくりしている暇はない。進みがてらに鉱石をもぎ取ったりはするが、基本的に足を止めることはない。

 進みに進んで、階段を見つけたらようやく小休止だ。健太郎が壁を立てることで一応の安全を確保し、優花の料理が出来るまで各々が思うままに時間を過ごす。

 大半が身体を休める中、ハジメは錬成に精を出していた。トータスに来てからは専ら風を武器としているハジメだが、その本来の得物は銃である。名を青龍。実弾と氣弾の両方を撃てる優れものだ。……とはいえ実弾は消耗品である以上、補充しなければ打ち止めが来る。そしてトータスには銃が存在しないため、補充手段は限られる。自分で作るか、仲間に作ってもらうかだ。その二択なら、天職も相俟って自分で作るより他にない。

 精密品であるために、一発作るのにも手間と時間がかかる。今までも時間を見て作ってはいたが、ライセンに赴いたり素材の問題もあったり最初はスマホに手を出したりで、現時点で成功品は一つもない。失敗品ばかりが積み重なっている。

 正直なところ、氣弾だけでも現時点では事足りる。何も無理に実弾を使う必要はない。――ただし、あくまでも現時点において、でしかないのだ。この先を考えるなら、必ずと言っていいレベルで実弾は必要になるだろう。持ち込めた手持ち分だけで事足りるならいいが、その保証はないのだ。

 だからこそ、使える時間はムダに出来ない。素材もそこらに溢れているので尚更だ。安全面はともかくとして、試行錯誤する分には最適な環境なのである。

 そうやって失敗品を量産していると、やがて食事の用意が整った。ハジメも錬成を止めて箸を手に取る。

 

「しかしまぁ、この中に優花がいたのは不幸中の幸いだったよね」

「……む? まぁ確かにな。よもや魔物を食せる日が来るとは思いもよらなかった」

 

 静かに食事が進み、誰もが食べ終える頃合いで恵里が零した。メルドもそれに相槌を打つ。

 

「若や香織がいる以上、食べるだけなら何とかなったかもしれないけどね。――たぶん、その場合は技能の獲得やステータスの成長は望めなかったんじゃないかな?」

「それは、どういうことだい? 同じ解毒なら、起こる効果も同じじゃないのかな?」

 

 更なる言葉にレオンが訊ねる。

 

「そこだよ。――これは推測だけどね?」

 

 前置きしつつ、ピッと人差し指を立てて恵里は続けた。

 一口に毒といっても、その種類は様々にあり、正に千差万別だ。研究者でもあるまいし、細かな違いなど分かるわけがない。たとえ研究者でも未知の毒にはお手上げだ。経験による推測である程度まで見当をつけることは出来ても――そこ止まりなのだ。実証されるまでには相応の試行錯誤が必要となる。

 しかして氣を用いた解毒――のみならず、石化、麻痺、呪詛、凍結の解除等々――は百発百中の効果を出す。

 氣とはある種の力技だ。ゆえにこそ毒と思しき効果を手当たり次第に消している可能性も無くはない。

 だが、同じ力技ならそれより遥かに簡単な方法がある。

 それこそが時間遡行だ。

 天誡や香織の解毒は治しているのではなく、あくまでも正常な――毒を受ける前の状態に戻しているだけなのだ。即座に反映されるが、だからこそ毒への耐性が出来ることもない。結果、場合によっては何度も同じ状態に陥るハメになる。同時に、あくまでも解毒として行っているからこそ、受けたダメージが戻ることはない。……まあ、術者同士の力比べな面もあるので力量差次第では手も足も出ないのだが。

 また、香織が氣を用いて行使する最上位の治癒術は生命力の回復と状態異常の回復を一緒にやってのけるが、やはりこれも同じ理屈だ。万全の状態に戻すがゆえに、両方の効果が表れているに過ぎない。

 それらを加味した上で考えると、おそらく魔物の毒とはその魔物が持つ固有の魔力である。食べれば魔力操作の技能が手に入ったことから、全身に魔力が廻ってることはまず間違いない。別の魔物を食べてるのに固有の魔法しか使ってこないのは、変な形でラインが定着しているか、そもそも他の魔法を使うだけの知恵が無いかだろう。

 さて、ここで天誡等の使う浄化を当て嵌めて考える。そも魔物とは固有の魔法を使うが故に魔物であり、これに浄化を行ったところで魔物であることに代わりはない。食べたところで、魔物の魔力、という毒を受けることは確実だ。

 だが、魔物を魔物として捉えず、変質した動物として捉えるなら話は変わってくる。この場合、浄化を行えば、おそらくは変質する前――元となった動物まで状態が遡行する。しかし、そうなったら所詮はただの動物だ。魔力という毒は無くなるが、それに伴い技能も無くなるのは自明の理だ。……なお、浄化の疲労度合いは考えないものとする。

 食べた後に浄化を行ったとして、さてどこまで作用するか。反動が来るとはいえ、技能の取得にステータスの向上という複数の利点も同時に出ているのだ。いくら氣が幅広い万能性を持つといっても、扱う人物に左右されるのは否定出来ない。魔物の肉、という要因が同じな以上、徒労におわる可能性の方が大きい。

 比較して優花だ。

 基本的に彼女の能力は料理関係にしか働かない。しかし特化型な分、その分野に関しては凄まじい効果が発揮される。そして彼女の場合、魔物を魔物として捉えながらも――同時に食材としても捉えている。だからこそ、利点を生かし(魔物のままに)同時に欠点を殺す(魔力のみを無効化する)という離れ業が出来ているのだ。

 したがって、同じ魔物でも彼女が食材と捉えられない場合は、能力は働かないと見て間違いないだろう。

 

「魔力操作を覚えた以上、もしかしたら魔物の毒への耐性も出来ているのかもしれないけど――とてもじゃないが試してみる気にはなれないね」

「……なるほど。たしか優花の先天技能には薬膳があったな。以前に医者が言っていたが、薬と毒は表裏一体なんだそうだ。毒をも食材として扱い、結果として薬に変える。……うむ、これ以上相応しいものはあるまい」

 

 推測を聞いたメルドは納得したように頷いた。

 さて、小休止を終えたら探索行の続きである。

 次の階層は真っ暗闇ではなかった。しかし、代わりに地面が真っ黒だ。おまけにどこもかしこも粘着いていて、歩きにくいことこの上ない。まるでタールだ。

 一行はすぐに空力で空中を進むことに切り替えた。その際に近接戦闘系と術師系でユニットを組むことにした。近接戦闘系は――特に龍真を始めとした――氣の扱いに慣れた者から組んでいく。

 空力は扱いが難しいため、個人差もあるだろうが慣れるまでは時間がかかる。あまり身体を動かさない術師系は尚更だ。しかし龍真等にとってはその限りではない。似たようなことは何度もやっている。……初めの内はバランスを崩しダイブを繰り返した光輝たちも、持ち前の運動神経によって遠からず慣れた。

 そうやって進むうち、見覚えのない鉱石を発見した。艶やかな、それでいて階層各所の粘着きを思わせる真っ黒な鉱石だ。

 

「……うわぁ」

 

 鑑定をかけたハジメがゲンナリとした表情になる。

 

「あまり聞きたくないが――どうした?」

「火気厳禁。このタール、摂氏百度で発火して、熱さは摂氏三千度に達するってさ」

「ふぅん。ならこうしましょう。――凍りなさい

 

 天誡が問いかけ、やはりゲンナリとしたままハジメが答え、それを聞いた雫が命令した。

 四神・玄武を宿星とする雫は水の支配者と同義である。そして水は空気中にも水分という形で存在している。結果、タールは瞬く間に凝固した。多少肌寒くはなったが、歩く分には問題もなくなった。 

 更に進んで行くと、所々にオブジェの如く壁から上半身を生やしたサメを何体か発見。雫がタールを固めた結果、動くに動けなくなったようだ。ありがたく命を刈り取り、糧にさせてもらうことにした。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 果たして今は何階層か。

 最初の内は数えていたが、最早数えるのもバカらしい。――というか、そんな余裕はない。

 

「まったく、何だってんだこの迷宮はよッ! 霊場籠りでいろんな環境に慣れてる俺たちにとってもシャレにならねぇぜ! 密林はともかく、階層全体毒面ですって何考えてんだ!?」

 

 憤懣やるかたないとばかりに京弥がぼやく。

 それも無理はなかった。溶岩流れるフィールドだったり雪山だったりと、霊場は霊場でシャレになってない。――それでも、この【オルクス真迷宮】と比較したら天国と言えた。全面が毒に覆われたフィールドなど霊場には存在しない。  

 

「まぁ、確かに……」

 

 誰ともなしに同意して、一際強烈だった階層を思い返す。

 その階層は一面が薄い毒霧で覆われていた。

 最初はハジメの風で吹き払おうとした。――しかし効果があるのはほんの僅かな間のみで、すぐに毒素が蔓延した。

 そこで階層全体に毒素が混じっていることに気付いた。階層のどこかに清浄な空気があるならば、それを持ってきて周囲に固めることが出来たのだ。当然そのつもりで風に命令したハジメは、予期せぬ結果に愕然とした。ならば上階から空気を運ぼうとしても、結界か何かで区切られているのか効果はない。如何なハジメとて氣を用いて命令しないことには毒と清浄な空気を分けれない。そして効果を継続しようとすれば、氣の消耗はバカにならない。それでも自分一人なら何とかなるかもしれないが、パーティー全体は流石に無理だ。全然現実的ではなく、その試みはすぐに頓挫した。

 降りたばかりという事もあり、一度上階に戻って対策を練ることになった。時間は惜しいが仕方ない。

 

「しかし、参ったね……。然程強力な毒でないのは救いだけど、ダメージがあるのも確かだ。何かしらの対策を考えないと、長くはもたないね」

「根本的解決にはならないけど……」

 

 一息ついたレオンの言葉に、そう言って雫が札から取り出したのは四つの装飾品だった。すなわち、独鈷杵、聖杯、五龍符、狼の紋章である。……その光景にメルドとレオンは目を剥くほど驚きを示していたが。

 独鈷杵は攻撃力と防御力に若干の補正をかけ、状態異常を無効にする効果を。

 聖杯は生命力に大幅な補正をかけ、祝福、孔雀、金剛の効果を。

 五龍符は特にバフ効果こそないものの、生命力、攻撃力、防御力、精神力に大幅な補正をかける。

 そして狼の紋章は行動力に大幅な補正をかけ、祝福の効果を持っている。

 これを見たハジメはムンクの顔になったが、それはさておき。

 どれもこれも、この状況下ではありがたい効果だ。特に独鈷杵がありがたい。

 話し合った結果、料理当番の優花が独鈷杵を持ち、それ以外を治癒師の二人で分けることに決まる。ステータス的に香織が狼の紋章を持ち、綾子が聖杯と五龍符を持つことになった。

 これ以外の対策としては、正直なところ魔物の捕食くらいしか思い浮かばない。あんな毒まみれの階層にいる以上、耐性は持っていて然るべきである。問題なのは、優花が食材と認識出来るかどうかだ。未だ魔物の姿は見ていないため断言は出来ないが、無理な可能性も考えねばならない。

 装飾品の配分はそれを踏まえてのものだ。

 すぐに魔物を発見でき、それが食材と認識出来たなら、戻ってきて食べればいい。――だが、当然ながらすぐに見つからない可能性もあれば、食材として認識出来ない可能性もある。その場合、次の階層に着くまでひたすら彷徨わねばならないのだ。メンバーの中には自己回復の手段を持つ者もいるが、持っていない者も当然いる。……である以上、その生命線はやはり治癒師となる。そのため、祝福を治癒師に集中させたのだ。

 そして案の定、優花は食材として認識出来なかった。何せその階層の魔物というのが、毒の痰を吐き出す目にも毒な虹色蛙と、麻痺の鱗粉を撒き散らす蛾である。優花のみならず他の面々も流石に無理だった。

 こまめに回復しながら階段を探すことになり、その間に何度も戦うこととなった。結果、階段を発見した時には優花以外の全員が毒と麻痺の耐性を得ていた。

 

「毒階層はもうゴメンだけど、密林ならまた行ってもいいかもしれないな」

 

 頭を振ってそう言ったのは光輝である。

 密林の魔物は巨大なムカデと樹だった。

 そして重要なのは樹の方だ。この魔物、追い詰められると頭部から赤い果物を投げつけてくるのだが、それが殊の外美味なのだ。例えるならスイカである。迷宮に潜って初の、魔物肉以外での新鮮な食糧だ。――ムカデの気持ち悪さや環境の不快さなど、それに比べれば然したるものでもない。

 当然、幾つかストックして持ち歩いている。ハジメ作の容器に入れ、更には雫の命を受けた水が薄く霜を張っているため保存もばっちりだ。

 

「うん、あれは……?」

 

 過去を振り返りながら歩いていると、それを見つけた。

 装飾の施された荘厳な両開きの扉。高さは三メートルほどだろうか。扉の脇には一つ目巨人の彫刻が二対。さながら門を守護する阿吽像の如しだ。

 今までの階層と比べても、この階層だけで比べても、明らかに異質である。

 

「記憶違いか? 流石にもう百層に着いたということはないと思うんだが?」

「間違ってないと思うよ? 途中からは数えてもないけど、感覚的には大体半分ってところじゃないかな?」

「取り敢えず下層への階段を探すとしよう。ここが百層かどうかはそれで判断出来るはずだ。――あの奥にでもない限りはな……」

 

 誰ともなしに口を開き、一先ずは後に回すことになった。

 

「さて、どうしようか?」

 

 再び、門前の廊下にて。

 鈴の言葉に、即座に答えられる者はいなかった。

 下層への階段は既に見つかった。ならば、とっとと降りて先へ進むべきだ。――本来ならば。

 よくよくこの階層を探索したところ、異質なのはこの扉だけでないことが分かったのだ。探索した範囲だけでの判断になるが、この階層に魔物は存在しなかったのだ。少なくとも、今までの様に徘徊する魔物には会っていない。

 いわゆる休憩スペースなのか? だが今までを振り返るに、そんな気の利いたものは考えられない。

 

「考えられるとすれば、後からこの様に作り替えたのが濃厚か……」

「確かにその可能性はあるね……」

 

 一同がこの階層の異質さに悩む中、天誡とハジメが頷きあった。

 

「あくまで可能性でしかないが」

 

 前置きして天誡は語った。

 七大迷宮を攻略することで神代魔法が手に入るのは間違いない。現に【ライセン大迷宮】を攻略したことで天誡とハジメは重力魔法を手に入れている。当然ながら個人個人で適性も違うが。

 どの迷宮でどんな神代魔法が手に入るかは分からない。……おそらく、魔人族の攻勢からして【雪原洞窟】で手に入るのは魔物への干渉系の神代魔法だとは思われるが。

 しかし、だからこそ、迷宮に干渉して作り変える様な神代魔法があってもおかしくはない。たとえ単体では不可能でも、神代魔法同士の組み合わせ次第では可能かもしれない。実際、錬成で壁に干渉して安全スペースを作ることだって出来るのだ。迷宮の特性上、それは一定期間で消えてしまうが――もしそれが、同じ神代魔法によるものだったらどうだろうか? 

 

「複数の神代魔法を手に入れた何者かが、それらを組み合わせることによって敢えてこの階層をこの様に作り替えた。――すなわち、それは迷宮全体の作り手たるオルクスとの差異に他ならぬ。

 結果として、それがこの階層の異質さに繋がっているのだと、俺は思う」

「だが、攻略者の情報など王国にもギルドにもないぞ?」

「その情報は何年前まで遡れる? 百年前やそこらなら情報が残っていても、二百三百と遡って行けば……細かな情報など残ってはおるまいさ」

「うぅむ。そう言われたら、否定は出来んな」

 

 天誡の述べた仮説にメルドが反論し、続く言葉で納得せざるを得なくなった。

 実際、上の【オルクス大迷宮】だって、六十五層までは到達した、当時最強の冒険者も歯が立たなかった、という情報は残っていても――そこまでの地図、名前を始めとしたパーティーメンバーの個人情報、そういった諸々は残っていないのだ。

 その当時の情勢次第では、もっと大きなニュース――例えば一国が崩壊した――とかに塗り潰された可能性だって否定は出来ない。

 

「だからこそ、俺はこの先が気になって仕方がない。最奥に到達するまで抜け出せない危険地帯。その入り口付近でもなければ、出口付近でもない、ほぼ中央。そんなところを作り替えた、その者の思惑がな。

 何かを封印したかったのか。それとも守りたかったのか。或いは託したかったのか。……そういった諸々が積み重なったが故の、この中途半端な階層なのだと俺は睨んでいる。

 先を急ぐ分にはムダ足かもしれんが――最終的にはムダにならんと思う」

 

 そして、一同は天誡の意を酌み、寄り道をすることに決めた。

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