ありふれた職業で世界最強 ~宿星の導き~   作:山上真

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5話

 火山に入ってから最も広大な空間。形状は自然そのままに歪。各所からマグマが滝のように流れ、地面の大半はマグマの海だ。道らしい道は海をグルリと覆う壁際のみ。所々に飛び出す岩石が、海の中での僅かな足場を提供している。そして何より目立つのは、海の中央にある小さな浮島。

 高さは海面から十メートルほど。小さいとはいえそこそこの広さは見受けられる。……が、何より異様なのはその頭上に存在するマグマのドーム。

 これを見ては最奥と判断せざるを得ない。そして最奥である以上は 最終試練が待ち受ける。今はまだそれらしい兆候はないが、ドームに近付けば姿を見せるだろう。

 ドームに近付くに当たり足場たる岩石は中々に多いが、この人数で一度に動けば遠からず行き詰まる。“空力”を持つ者はまだマシだが、持たない者も当然いる。何名かはこの場からの支援に徹する必要があるだろう。

 

「鈴はこの場で結界を維持。信治と良樹もこの場から支援だ。それ以外で海を渡る。“空力”を持つ者は持たない者に足場を譲れよ」

 

 天誡の指揮の下、一同は一斉に動き出した。

 しかし、天誡、京弥、礼一、カリオン。この四人はその実囮だ。場所を鑑みればマグマからの襲撃は簡単に予想出来る。……が、だからこそどうやっても先手は取れそうにない。

 ならば発想を逆転させればいい。世の中にはカウンターという戦法があるのだ。

 試練とはいえ、所詮は遥か昔に作られた式によって動いているに過ぎない。その動作に関して複雑な、或いは臨機応変な命令など出来るわけがない。出来たとしても『ドームの一定範囲内に標的が入ったら仕掛けろ』とか『近場の敵を狙え』とか最低限の命令の可能性が高い。

 標的が分かっているのなら、逆奇襲も容易い。上手くいくとも限らないが、試してみる価値はある。

 マグマの海を浮島に向かって進めば――

 

「来るよ! 気を付けて!」

 

 ――響き渡る香織の警告。あらゆる感知系の技能――“熱源感知”、“気配感知”、“魔力感知”――に引っ掛かることはなかったが、その程度で炎の支配者を誤魔化せる筈もない。 

 そして警告直後、海中から魔物が姿を現した。そのターゲットもまたこちらの狙い通り。

 マグマを纏った巨大な蛇は、無防備に進む囮の四人へ大口を開けて襲い掛かる。マグマに呑まれれば一巻の終わりだ。氣や魔力を纏えば即座にお陀仏することもないだろうが、どこまで保つかなど分かったものじゃない。

 そして香織の警告は遅すぎる。囮の四人には反撃も叶わない。遮二無二回避するのが関の山だ。――だからこそ、香織の言葉は奇襲役への合図に他ならない。

 シア、浩介、雫、大介の四人は、気配遮断に関して一行の中でも群を抜く。だが、マグマ相手に普通の攻撃は意味を成さない。こちらがダメージを負うだけだ。ダメージを負わないためには、氣や魔力を用いて干渉する必要がある。奇襲を得手とするからには一瞬の内にトップギアへ持って行くことも可能だが、やはり一瞬の間が必要になるのだ。目視してからでは間に合わない。

 だが、目視せずとも戦闘態勢へ移行できるのならばその限りではない。香織の声が響くや否や、四人は気配の遮断を解除。目立つ囮に引っ掛かった蛇へ一気に襲い掛かる。 

 

飛燕連脚! からの、鷹爪蹴撃! ですぅ」

 

 シアは跳躍して回転蹴りを食らわせ、それでは足りぬとばかりに落下の勢いを乗せて蹴りつける。装備の効果で水を纏った蹴りは容易く蛇の頭を粉砕し、胴体を縦に割く。過たず岩石に着地すれば、蛇は見事に四散していた。

 

龍落踵!

 

 浩介もまた連続蹴りを食らわせ、踵落としへと移行。水氣を宿した蹴撃は蛇を粉微塵と帰して余りある。

 

流槌斬!

 

 雫は蛇の頭上から縦一閃。その手に握るは忍び刀“玄武”。それ自体が尋常ならざる水氣を宿しているため、氣による武器強化をせずともマグマ蛇の両断は容易い。

 

意志の刃よ、燕の如くに飛び立て。――飛燕刃!

 

 大介が武器を振れば、その軌跡に沿って魔力の刃が放たれる。――無属性魔法の一つ、飛燕刃だ。

 二刀流、かつ短剣の利点を生かして振りまくれば、刃の実面積以上の魔力刃が蛇の身体を切り刻む。属性変換を行わないため魔力消費は少なく、それに応じて威力自体も軽いが、それもステータスによりけりだ。今のステータスなら十分な威力を期待出来る。

 大介自身は“魔力操作”を持っていないので詠唱を行う必要こそあるものの、一度詠唱を行えばイメージ保管により暫くは鍵語だけでも発動する。

 四人の攻撃が終了すれば、蛇の姿はどこにもない。肉片の欠片すら残っておらず、いたかどうかすらあやしいものだ。

 

「どうやら、試練の番人はここまでと異なりマグマそのもので出来ているようだな。……とすると攻略条件はどうしたものか。よもやマグマが無くなるまで戦う筈もあるまい」

「今のを百体撃破すればいいみたいだよ。浮島の岩壁が光ってる。……ただ、単純に倒すだけじゃダメみたいだね。仕留めたのは四体、それに対して光点は三つ。おそらくはコアの破壊が条件だと思う」

 

 自身は宙に浮き続けながら、浮島の岩壁を見つつハジメが天誡の疑問に答えた。

 自分一人だけであれば、空中に停滞し続けることなどハジメにとって造作もない。基本的には重力に縛られる他の面々とは余裕が違う。

 

「事も無げに言ってくれるッ! この巨体相手にコア破壊など難題以外の何ものでもないぞ!」

 

 跳躍を繰り返しながら、ハジメの言葉を聞き咎めたフリードが舌を打つ。

 マグマの海にマグマで出来た存在だ。この中から核をピンポイントで破壊するのは、砂漠の中から一本の針を探すが如き難行だ。狙っての破壊は不可能と言っていい。

 頭上より流れる滝は鈴の結界によって遮られている。その分だけ動きやすくなっているのが救いだが、それとていつまで保つかも分からない。

 この状況下、理論上、一番容易なのは面破壊だ。巨体そのものを消し去ってしまえば、必然的にコアも破壊される。

 しかし、あくまで理論上であり、現実的にはこれも難題だ。

 まずは炎魔法。場所柄発動は容易だが、生半な使い手では効果が無い。炎で効果を出そうとすれば――香織は例外として――信治レベルには炎に特化している必要があるだろう。

 次に風魔法。効果は望めるだろうが、生半可な風では逆に危険だ。鋭さであれ勢いであれ、繰り出す風には相応の強さを持たせる必要がある。

 水魔法は論外だ。効果自体は最も高いだろうが、消費と効果が割に合わない。この場所では水を出すこと自体が一苦労だ。巨体を飲み込むほどとなったら、フリードでも両の指分も放てまい。

 大地魔法。壁際には材料が山ほどあるので、乱れ撃ちすれば効果は出るだろう。しかし、味方への被害も甚大となる。放たれた石や岩の弾が砕くのは魔物だけとも限らないのだ。足場を破壊したり、跳び廻る味方を撃ち落とす可能性は決して否定出来ない。

 光魔法も効果ありだ。天爪流雨のように光を砲撃として放つ魔法であれば、根元から頭頂部へと振り上げることでコア破壊は十中八九可能である。

 闇魔法は不可能と言っていい。基本的にはバッドステータスを齎す魔法である。優れた闇術師は魔物を支配下に置くことも出来るが、この蛇はマグマと直結しているのだ。明確な個としての意思がなく、これでは支配下に置きようがない。式に干渉すれば可能性もあるが、神代魔法が絡んでいる以上はまず不可能だ。

 どれを選択するにしても、ある種の強さと繊細さを両立させる必要がある。方向性なり収束性なり、考えて使わなければならない。

 グリューエンの手が加えられているのは、あくまで火山内部のみ。おそらく火山自体の耐久性はそのままだ。上層の掘削痕がそれを物語っている。挑戦者が後を絶たないとはいえ、そのスペースはゆっくりだ。もし火山自体に手が入っているのなら、掘削痕は修復されていなければおかしいのだ。――静因石により効果が及んでいない可能性は否定出来ないが。

 試練の内容上、この場に限っては手が加えられている可能性もあるが、それとて上限はある。鈴の結界による補強もそれは同じだ。

 今回、鈴は半円状に結界を展開しているが、道中と違い万能型の結界を張っているのだ。万能ゆえにあらゆる攻撃への耐性を持つが、だからこそ各属性への耐久限界は特化型に及ばない。

 考えなしに高威力の技なり魔法なりを放てば、攻略前に火山が崩壊する可能性は否めない。常識的に考えれば一笑に付す話だが、それを可能とするほどの実力者がここには揃っているのだから。

 

「だが、やってみせようさ!」

 

 それら諸々を踏まえた上で、フリードは力強く宣言した。跳躍しつつ、その拳に魔力を溜める。

 自由の利かない存在など恰好の獲物だ。マグマ蛇は大口を開けてフリードへと襲い掛かる。

 

「さあ、受けよ。剛・魔人拳!

 

 迫りくるマグマ蛇を、フリードはその拳で迎え撃った。拳が当たった瞬間に溜め込んだ魔力は衝撃へと変換され、マグマ蛇を内部から崩壊させる。拳がマグマに触れてはいるが、溜め込まれた魔力が結界の役割を果たしているので実際のダメージは少ない。

 フリードが選択したのは、言うなれば無属性魔法だ。魔力刃を飛ばしたり魔力の衝撃波を放ったりなどは、そう珍しい技でもない。大介が使用したように、一つの魔法として体系化されてもいる。

 とはいえ、何事にも効率があるのは道理だ。

 例えば飛燕刃。短剣と大剣では連射性に大きな開きが出るのは自明の理だ。遠距離攻撃としては貴重だが、その威力は魔力に左右される。大半は武器で斬り付けた方が高威力だ。

 そして魔力刃を飛ばす技があるのなら、魔力を武器に纏わせたまま放つ技があるのもまた道理。射程こそ短いものの、威力に限ってはこちらの方が高効率となる。

 フリードが行ったのもそれと同じだ。斬るか殴るか、衝撃に変換するかしないか、違いはその程度のものでしかない。

 しかし、基本的に無属性魔法は属性魔法に比べて威力が低い。例えば火炎魔法であれば、魔力が低くとも火という現象そのものが相手に火傷を負わせる。無属性魔法にはそういった“付加要素”がなく、その威力は発動者の魔力に否応なく左右される。

 それがこの世界の常識である。――そのような常識などフリードにとっては如何ほどの価値もない。

 そも常識に縛られる程度の者に七大迷宮の攻略など成し得ない。迷宮の悪辣さは、肉体的にも精神的にも挑戦者を追い詰める。それを撥ね退け、乗り越えればこその攻略者だ。

 そして【氷雪洞窟】を攻略する過程で、フリードは己がエゴを剥き出しにされた。建前による美辞麗句など何の役にも立たない。目を背けたくなる負の一面を否応なく叩き付けられたのだ。それはフリードに壁を超えさせる要因となった。

 そう、フリードはその時に“魔力操作”を獲得し、それにより正規ではない手段で攻略を遂げたのである。

 常人には成し得ぬ偉業を達成した時点で、常人の理など意味をなす筈がない。今のフリードにとっては無属性魔法こそが最優だ。

 そも今回の目標はあくまでもコア破壊。その全身に衝撃を浸透させることが可能であるならば、その方が手っ取り早い。わざわざ属性に変換するなど手間でしかないのだ。

 

「ちくしょう、面倒くせえ!」

 

 だが、人とは差があって然るべき存在だ。誰もが誰も、効率よくマグマ蛇を倒せるはずもない。――いや、正確には『コア破壊』と言い換えるべきだろう。

 礼一は槍術師だ。武器の特性として点での攻撃には優れているが、面での攻撃は不得手である。それでも、既に何体かは倒しているので見事なものだ。

 

我が意よ、衝撃となり隼の如く撃ち抜け。――隼撃衝!

 

 その種こそがこの魔法、隼撃衝だ。無属性魔法の一つで、武器や拳を突き出す造作に合わせて魔力を衝撃波として放つ。

 礼一はこの魔法を繰り返すことでコア破壊を成し遂げているのである。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとはこのことだが、その実これ以外に取り得る手段がないのだ。“魔力操作”が出来なければ氣にも目醒めていない礼一と大介では、纏ったところで効果はたかが知れている。全身マグマの塊に近付くなど自殺行為に等しい。その中で安全を確保しようと思えば、遠距離攻撃に頼るしかないのが実情だ。

 さりとて所詮は運任せ。おまけに“鎗を引いては突き出す”という単純動作だけでも、繰り返せば疲労が溜まって然りだ。既に何百と繰り返している以上、もはや礼一は限界に近い。

 普段であればまだやれるが、何分ここは場所が悪い。可能な限りの対策を取ってはいるが、押し寄せるマグマの熱気が否応なく体力を奪う。

 

「わりぃ、俺はもう限界だ。下がらせてもらう!」

「こっちもだ。すまねえが、後は頼む!」

 

 そして、更に一体の蛇を仕留めたところでとうとう限界を迎えた。礼一は謝りつつも鈴、信治、良樹のいる後方へと戻る。

 限界を迎えたのは大介も同じである。そもそもにして、軟禁されていた大介のステータスは一行の中でも低い。ここまで耐えられたのも装備の軽さがあってのことだ。

 

「応よ! 無理せず後は任せておきな!」

 

 下がる二人へ返したのは京弥だ。戦闘時、かつ剣を握っているという限定条件下において、彼は技量を乱すことなく十全な戦闘力を発揮出来る。……技能“剣聖”の効果だ。

 そも神夷京弥という人物は、その生い立ちからして特殊である。

 彼の父、神夷京士浪は、その本名を蓬莱寺京悟という。幕末龍閃組の一員たる彼は戦いの後、修行の旅の途上でひょんなことから“時の狭間”へ落ち現代へとタイムスリップしてしまったのだ。その果てに生まれたのが京弥である。

 元々我流の剣士だった京悟は一連の戦いの最中、外法により甦させられた剣の達人――宮本武蔵と柳生十兵衛から教えを受ける。武蔵からは“二天一流”を、十兵衛からは“剣の心”を。それだけでなく、当代の神夷京士浪からも戦いを通して法神流を学んだ。特に法神流とは肌が合い、現代に降り立って以降は法神流伝承者が継ぐ“神夷京士浪”を自ら名乗るほどである。

 そんな京悟――京士浪の剣を京弥は受け継いでいるのだ。英才教育極まれり、である。名を継いでいないのは父親自身が未だ現役であるからに他ならない。資格自体は既にあるのだ。

 他の面々とは違い、京弥だけは“末裔”という枠には括られない。幕末から現代までの時間の流れの中で否応なく失われたモノを、彼だけは失うことなく継いでいる。……雫も直接京士浪から法神流を学んではいるが、彼女の本命は飛水流であり八重樫流だ。他の面子よりはしかと受け継いでいるだろうが、流石に京弥ほどではない。

 

「食らいな、円空旋!」 

 

 考えることは皆同じか。やはり京弥もまた繰り出すのは衝撃波。

 練氣法と呼吸法によって高めた勁力を、剣先から遠間へと放つ氣功術。これを総称して“剣掌“という。

 遠心力を懸けて竜巻状の衝撃波を放つ剣掌技――(つむじ)

 かつて京士浪が京悟だった頃、これに龍斗より齎された円空破の要訣を混ぜ合わせることで見出された技こそが円空旋だ。清冽なる氣によって練られた、幾重にも放たれる竜巻状の衝撃波は全てを薙ぎ倒す。その様は剣掌の奥義に相応しい。

 京士浪の剣を継承している以上、剣掌奥義もまた然り。マグマ蛇の数は多いが、京弥はただの一振りで一度に数体を仕留めてのける。

 そして剣掌を放てるのは何も京弥だけではない。

 

『剣掌奥義……鬼氣群雲!

 

 京弥とはまた違う剣掌の奥義が、天誡と浩介から放たれる。

 乗せるは殺意。込めるは陰氣。幾重にも放たれる闇の衝撃波は、立ちふさがる存在を許さない。マグマ蛇は現れた端から昏き闇に呑みこまれる。

 剣掌奥義を用いる三人によって、キルカウントは見る間に溜まっていく。

 

「セイッ、ハッ! 頼みます!」

「任されましたぁ!」

 

 キルカウントで負けていないのはシアとカリオンも同じである。

 シアはその技能によって未来を視ることが出来る。思いがけぬ危機が訪れる際には勝手に発動し、それによって助かることもある。……が、基本的には使い勝手が悪く、魔力消費もバカにならない。普通なら然程の役にも立たない技能だ。――しかし、それも使い方次第である。

 狙いはあくまでもコア。マグマ蛇丸ごとの中からコアを見出そうと思えば、“未来視”も使えて一度か二度だろう。未来とは無数に枝分かれする以上、それは仕方のないことだ。

 コア破壊に成功、蛇を倒すもコア破壊には失敗、攻撃に失敗するも蛇の攻撃からは逃れる、攻撃に失敗し蛇に呑まれる。……大雑把に挙げるだけでもこの程度は簡単に出るし、実際には更に細分化する。

 常人にはその全てを視ることなど出来はしない。まず間違いなく精神が保たない。その中から都合の良い未来だけを視ようとするならば、余分な情報のシャットアウトに力を削がれるのは自明の理だ。

 だが、未来が無数に枝分かれするならば、やり方次第で“都合の良い未来”を視やすくすることも十分に可能である。

 一人であればこそ可能性は狭まるが、複数であるならば可能性は広がるのだ。必然的に都合の悪い可能性も増えるが、そこら辺は“未来視”の発動タイミング次第である程度の調整は出来る。

 蛇一体丸ごとの中からコアを砕く未来を視るのは至難だ。

 しかし、その蛇が分割されたならばどうだろうか? コアを砕かぬ以上は復活するだろうが、それにも僅かに時間を必要とする。その間に“未来視“を発動。求める未来を“コアの破壊”に絞れば、コアが含まれていない分割体にはそもそも“未来視”が発動しない。

 例えば蛇を三分割したとして、上中下の何れにコアが含まれているかさえ分かれば良いのだ。全てを見通す必要もない。発動した瞬間に“未来視”を解除すれば魔力消費も僅かなもので済む。

 コアの含まれている範囲さえ分かれば、後はそこを重点に攻撃すればいい。攻撃役はカリオンでもシアでも構わない。狙いやすい方が狙えばいいのだ。

 

「中央、任せましたぁ!」

「了解しました!」

 

 カリオンもまた隼撃衝を放つ。一体丸ごとには点に等しい攻撃でも、分割されているならば面相当の攻撃となる。コアの破壊は十分に可能だ。

 

「まったく、負けてられないよねえッ!」

 

 そんな二人を見て、意気軒高と技を放つのはレオン。

 繰り出されるは天爪流雨と天落流雨。

 聖鎗に集束させた光を、その穂先から砲撃として放つ。蛇の巨体を根元から頭頂部にかけて光が呑みこみ、ついには空中で炸裂。光は雨と化して次々と襲い来るマグマ蛇を撃ち貫く。マグマの海へと沈み込む前に光は再びレオンの元へと戻る。

 天爪流雨で一体は確実に仕留め、続く天落流雨でも運が良ければ仕留められる。

 聖鎗もまた聖剣と同じ効果を持つ。その特性を活かすことにより、これが延々と続くのだ。消費は最初の一発こそ大きいが、それ以降は微々たるものである。

 

「何ですかそれは!? バグ技ですか!?」

 

 レオンにツッコミを入れつつ、次々と魔法を放つのはアレーティアだ。

 繰り出されるのはひたすらに風球だ。“魔力操作”を持ち、元より魔法特化型のアレーティアが扱えば、下級魔法とて侮れない。突き出した手からはマシンガンの如くに風の球が放たれる。

 戦法としては大介や礼一と同じだが、その消費は二人に比べて圧倒的に少ない。実体無き弾丸が、次から次へとマグマ蛇を滅多打ちにする。

 

「アンタにそれを言う資格はないと思うんだがなぁ……」

 

 鈴の傍で、自身もまた同じ戦法を取りながら良樹がボヤく。

 同じ魔法、かつ同じ戦法を取っているのに、その効率はアレーティアに遥かに劣る。使っているのは風魔法なのにだ。魔法の扱いに関して、それだけの差があるという事実を如実に表していた。

 

「いやあ、良樹はまだマシだろうよ」

 

 ゲンナリとした表情で言うのは信治。彼はまだ一体しか倒せていない。それとてかなりの労力を使ってのことだ。もはや攻撃は諦めて防御支援に専念しているのが現状である。

 そんな信治の視線の先には香織の姿。何をすることもなく岩場に陣取っている。

 

「…………」

 

 しかし、香織の様子はいつもとは違っていた。髪は朱に染まり、その背には炎の翼が広がっている。

 それもその筈。今の香織は変生している。“四神覚醒・朱雀変”により――時間制限付きではあるが――その権能をフルに使用出来る状態にあるのだ。

 マグマ蛇は棒立ちの香織を呑みこもうと大口を開けて接近するが、その身を構成するのはマグマ――炎である。そして炎である以上、“大いなる意思”に歯向かえるわけがない。如何にマグマ蛇がグリューエンの制御化にあるとはいえ、所詮は一昔前に作られた式を介しての命令によって動いているに過ぎない。長期的な効果を望もうとすれば、なるほど、式は確かに便利だろう。しかし、その効果は定められた範囲を出ない。現在進行形で意思による干渉を行わない限り、軍配は香織に上がる。

 その結果、香織に近付いたマグマ蛇は、意志ともいえる命令(プログラム)と身体を構成する(マグマ)が齟齬を起こし、何をすることも出来ずに自壊する。

 

「理不尽にもほどがあるでしょうに……」

 

 余りの理不尽さに、さしもの雫もボヤかずにはいられなかった。

 彼女は自身の氣そのものが水属性を帯びているので、技を繰り出す際に変換する必要がない。そのためこの状況でも強力な水術を放つことが出来る。

 その反面、氣の回復は他の面子より手間がかかっている。この場所には炎氣が満ちている。自然の氣であるために汲み込むこと自体は出来るが、正反対の属性であるため染め直すのに時間がかかるのは否めない。

 なので基本的には武器に任せた斬撃中心。時たまに水氣の奔流――玄流掌を繰り出している。

 後者はともかく、前者はよほど運が良くないとコア破壊は望めない。

 そのため雫のキルカウントは少なめだが、最早そんなことは関係がない。

 

「これで終わりだよ、トルネードショット!

 

 言葉と共にハジメはその引き金を引く。霊銃“青龍”から放たれた氣弾は一直線にマグマ蛇へと向かい、ぶつかった瞬間に圧縮された風の氣を解放。竜巻と化してその全身を切り刻んだ。

 それと同時に百個目の光点が付く。

 マグマのドームはその姿を隠し、代わりに漆黒の建造物が現れる。傍らには地面から数センチほど浮遊している円盤。そしてひっきりなしに姿を見せていたマグマ蛇も現れなくなった。

 

「試練は終了……か」

「……そのようだな」

 

 万感の思いを込めて、誰もが大きく息を吐いた。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 漆黒の建造物に入り口らしき入り口は見えない。少なくとも、一目でそうと分かる箇所はない。だがグルリと建物を一周すれば、壁の一部には解放者の文様が刻まれている。

 

「……ここか」

 

 文様の前に立てば、音もなく壁がスライドする。全員が中に入れば、再び音もなく扉が閉まる。

 室内で真っ先に目が向くのは複雑精緻な魔法陣だ。それ以外に目立つものはなく、殺風景なことこの上ない。オルクスのような生活感が、この部屋には見受けられなかった。

 

「……あれ、何かおかしくないですかぁ?」 

「おそらく、外から見た建物と中から見た建物の面積比だろうな。外から見るより間違いなく広い」

 

 そんな中、シアが首を傾げて言葉を漏らす。

 それに対してフリードが答えた。

 殺風景すぎるからこそ分かりにくいが、この部屋はかなりの広さを持つ。仮に生活道具が置いてあった場合、外から見た広さだと動くも儘なるまいが、実際にはそんなことなどなさそうなほどである。

 

「とすると、空間への干渉か。マグマも宙を流れていたし、おかしくはないな……」

 

 言いつつ、天誡が一足先に魔法陣へと入った。……どのみち人数が人数だ。描かれている魔法陣の広さ的にも、一度に全員が入ることは出来ない。精々が三人から五人といったところだろう。

 天誡が入れば魔法陣は煌々と光を放つ。記憶の精査中なのだろう。

 

「無事に攻略は認められた。やはり“空間魔法”のようだ」

 

 魔法陣の輝きが収まれば、音を立てて壁の一部が開いた。更には正面の壁に輝く文字が浮かんでくる。

 

『人の未来が、自由な意思のもとにあらんことを、切に願う。――ナイズ・グリューエン』

 

 浮かび上がったメッセージはこれだけだ。神に対する言及もなく、オスカーのような映像もない。

 

「これまた随分とシンプルな……。まあ、考えようによっちゃ分からんでもないけどな」

 

 一面によっては京弥の言う通りでもある。

 生きていく以上、何の干渉も受けないのは不可能だ。情報、人物、体験、ありとあらゆる物事を通して、人は己の行動を確定させていく。

 盤上の駒という事実に対する注意喚起。これもまた度が過ぎれば自由意思の尊重からほど遠くなってしまう。事実を知らぬ者にとっては自由であることに違いはないのだから。

 ただでさえ解放者は七人いるのだ。その誰もが誰も神に対する言及をしてしまえば、半強制的に神殺しを行わせるに等しい。そんな有り様で述べる“自由意思”など説得力が何もない。

 真に自由意思による行動を願うのならば、この一文だけでも事足りるのだ。

 神を殺すも殺さないも、解放者を信じるも信じないも、その全てが受け取り手の意思次第。それがナイズ・グリューエンの考えなのだろう。

 

「いや~、良かった良かった。もしかしたら蛇を倒さないと手に入らないかもって、内心ちょっと不安だったんだよね」

 

 開いた壁から攻略の証となるペンダントを取り出しながら鈴が言った。

 ペンダントは魔法陣の起動ごとに一個手に入る仕組みのようだ。フリード、大介、礼一の三人が一度に魔法陣に入ったところ、一個しか手に入らなかったことで判明した。……である以上、折角なので一人ずつ魔法陣に入っている。

 そして最後にカリオンが入った際に変化が起こった。“空間魔法”とペンダントの入手、グリューエンのメッセージ自体は同じだ。――だが、カリオンの持つ家宝たる鎗と小剣。その柄に嵌められた宝石が光り、壁に更なるメッセージが浮かんだのだ。それだけではなく、ペンダントとは異なる場所の壁も開いた。

 

『我が子孫の道行き、その一助とならんことを』

 

 これが新たに浮かんだメッセージだ。

 そして壁の中には鎗と剣が一振りずつ。元よりカリオンが手にしているそれと似通った意匠をしている。違いがあるとすれば、長剣と短鎗ということだ。

 

「……ありがたく使わせていただきます」

 

 カリオンは一礼した後、それらの武器を手に取った。初めて触った筈なのに、しっくりとくる。

 

「……いい機会です。私のことを少し話させていただきましょうか」

 

 振り向いたカリオンは一同の顔を見渡して告げた。

 正式な名前はカリオン・リブ・グリューエン・リベラール。

 武器と同じく先祖伝来の言伝や手記が伝わっている。『自由意思のもとに行動せよ』……大半がこの一言に集約される。

 また、幾らかある手記の一つによるとナイズ・グリューエンはその名前の最後に“カリエンテ”がつくらしい。カリオンの名前はこれをもじって付けられた経緯がある。

 その一方で、グリューエンの名は“反逆者”として知れ渡っている。なので基本的にミドルネームを表立って名乗ることはない。

 

「まあアーティファクトや手記はともかくとして、それ以外に子孫と言えるような部分は特にないんですが。神代魔法を使うことも出来ませんし。――ああ、今は使えるようになったんでしたね」

 

 その内容は本当に簡潔的だ。だが、“ナイズ・グリューエンの子孫”という部分に関しては補足されている。武器の意匠も合わせれば信憑性は十分だろう。  

 

「時の流れ。その中において変わるモノと変わらぬモノ。……確かに“力”は継がれなかったのかもしれない。しかし、その“想い”は継がれている。それは誇るべきことだ」

「……ありがとうございます。素直に嬉しく思います」

「けど、双鎗双剣の騎士か。神話の英雄、ディルムッド・オディナを彷彿とさせるね」

「破魔の長鎗“ゲイ・ジャルグ”に不治を齎す呪いの短鎗“ゲイ・ボウ”、一撃必殺にして初撃必勝の長剣“モラ・ルタ”に護りを齎す小剣“ベガ・ルタ”。これで異性を魅了する黒子があれば、まんまディルムッドね」

 

 何の気なしに呟いたハジメの言葉に雫が相槌を打つ。

 霊場では伝説や神話に謳われる武具が手に入ることもある。運次第ではあるが複数入手出来ることもあるのでオリジナルその物ではない。おそらくは世界を巡る過程で龍脈に集積された、人々の想念や概念が結晶化した物であろう。だが、その威力や効果は謳われる伝説に負けず劣らずだ。

 そういったこともあり、雫は興味の赴くままに神話や伝説の本を読み漁ることがあった。

 ハジメが知っているのは家庭の事情である。神話や伝説の登場人物やその武器などは、ゲームにしろ漫画にしろ使われやすい。

 

「ほう、それは奇縁ですね。私が元々持っている剣と鎗も同じような効果を持っているんですよ。もしかしたら、新しく手に入った方も似た様な効果を持っているのかもしれませんね。……うん、折角ですし、これらの武器にはその名前を付けさせて頂きます」

「ま、それも良かろうよ。……さて、いつまでもここにいるわけにいくまい。ミュウも待っている。そろそろ脱出するとしよう」

 

 試練の後ということもあり疲れはある。攻略過程で溜まった疲労も抜けきってはいない。だが、どうせ休むのならばアンカジの方が疲れも取れるのは間違いない。

 反対意見はなく、全員が部屋を後にする。

 

「おそらくはこれが脱出用の装置だと思うが……」

「王国と【神山】を結ぶ昇降装置を彷彿とさせるし、間違いないとは思うけど……」

 

 昇降装置にしては、上を見ても天井が蓋をしている。行き止まりなのだ。

 

「悩むのならば先に行かせてもらう。行くぞ、大介、礼一」

「応よ」

「ああ」

 

 三人が乗れば、フリードの持つペンダントが輝くと同時に円盤が上昇を始める。

 それを見届ける一行の視線の先で天井が左右に開く。それが繰り返され、とうとう空が見えた。視界から三人が消えても天井は開いたままで、暫くすると無人の円盤が戻ってきた。

 種さえ分かれば悩むことはない。一度に全員は乗れないので再び分割することになるが、乗れるだけ乗り込む。

 下からでは分からなかったが、天井が近付いた際に再度ペンダントが輝く。それよって天井が開く。円盤はそのまま上昇を続け、かと思えば横に移動し、砂嵐を超えた先にある適当な岩場――おそらくはその様にプログラムされているのだろう――の地面付近で停止した。

 近くにはフリードら三人の姿もある。

 

「うん? てっきり先にアンカジに戻ったものと思ったが……」

「そうしようかとも思ったがな。ミュウはお前たちの仲間が面倒を見ているのだろう? 場所も分からぬし、会うためにはどの道お前たちを待つことになる。……ここで待っていた方が確実だ」

 

 言いつつもフリードはその姿を変えた。一見しただけでは人間族と見分けがつかない。

 

「それが【氷雪洞窟】の神代魔法か」

「ああ」

 

 言葉を交わしている間に残りの面子もやって来た。

 

「さあ、戻ろうか。アンカジへ」

 

 ハジメが“宝物庫”から錬成馬車を取り出しつつ言った。

 誰にも異論はなく、銘々に馬車へと乗り込んだ。




再び書き溜め中です。
オリジナル技を考えるのが面倒ですね。書いてて実感しました。
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