ありふれた職業で世界最強 ~宿星の導き~   作:山上真

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3話

 レオンが目覚めてから更に数日が経った。その間にローゲンを除いた他の面々も目覚めている。そしてそれは、現状を進め得る一手を齎すこととなった。

 水の安定供給。その目途が立ったのである。

 鍵となったのは、当然の如くハジメと雫だ。その方法は神代魔法の組み合わせ。レオンが考えたのと同じである。

 世の中、何事にも相性がある。それは何も生物に限ったことではない。ハジメが錬成師としてのスキルを活かして水と相性のいい鉱物を選別。次いで雫が“生成魔法”により技能を張り付ければ完成だ。“生成魔法”には然程適性を持たない雫だが、かといって何も出来ないわけではない。技能を張り付けることくらいは可能である。

 そも“生成魔法”の適性とは、張り付ける技能(なかみ)に対して鉱物(うつわ)がそれを受け止めることが出来るのかの見極めにある。錬成師が抜群の適性を誇るのは、技能を張り付ける際に可能かどうかが判断出来るからに他ならない。ハジメの場合は色とゲージで見えるそうだ。中身の要求スペックに対して器のスペックが不足している場合、ゲージは端を突き破って赤色(アラート)を知らせる。現実として失敗する前に失敗するかどうかが分かるのだ。

 まあ流石のハジメも他人の行使に関しては判断出来ないそうだが、張り付けた後、まだ器に余裕があるかどうかくらいならば分かる。それを利用して鉱物ごとに幾らか用意してある。

 雫も雫で流石なもの。覚えたての“空間魔法”だが、こと水に関われば抜群の適性を誇った。自身が知り得る限り、水と水の間による空間移動を可能とする“空間転移・水”、自身の知り得る場所から水自体を移動する“空間転送・水”などが代表となる。

 海や湖、或いは川などが対象となるため使いどころは限られるが、決して役に立たないわけではない。町の付近には必ずと言っていいほど水場があるのだ。それは魔国も変わらない筈で、だとするならば逃走の際にも利用出来るだろう。

 そして現在、ハジメと雫は錬成馬車を駆り一路エリセンへと向かっていた。エリセンは“海上の町”として知られている。水の供給元として海ほど打ってつけなものはない。

 馬車内には公国の重鎮も同乗している。自他共にゴタついた状況だったため、王宮は勿論として近隣の町へも知らせを放てなかったのだ。一応、フリードに事の次第を記した手紙を渡し、ミュウを送り届ける際に兵にでも渡してもらうよう頼んではいるが、アンカジとしても直接に知らせるのが礼儀だ。

 エリセンにも攻略組の報は入っているため、“神の使徒”の身分を以てすれば町に入るのは容易だろう。住居も用意されている筈だ。……が、成否の判明は早ければ早いほど良い。細々とした説明に時間を取られるのは、ハジメたちとしてもアンカジとしても望むところではない。重鎮が代わりにそれらを受け持つことになっている。

 今回の一大計画に当たり、ハジメは色々とアーティファクトを作成した。最たるものは通信用アーティファクトである。正に“空間魔法”様様だ。

 そもトータスには風音という魔法が存在する。周囲の空気に干渉することによって、 音を増幅したり、小さな音でも遠くまで届かさせたりすることが出来る風属性の補助魔法だ。……そう、“距離”という軛があるだけで、既に遠方へと声を届ける事は可能なのだ。

 ならば“空間魔法”にて軛を外し、そこに“生成魔法”を組み合わせれば、簡易的ながらも通信機が出来上がるのは至極当然。流石に一台で個別の連絡先に繋げることが出来る電話ほど便利ではないが、現時点におけるトータスの技術を鑑みれば一大発明に違いはない。“空間魔法”と“生成魔法”に対する慣れと理解、そこにプラスαを加えれば、何れは電話の如きアーティファクトも創れるようになるだろう。

 希望を乗せた錬成馬車は、エリセンへの道をひた走る。“道”と言ってもきちんと整備されているわけではない。アンカジ一帯は広大な砂漠地帯だ。風により砂と石が常に巻き上げられるため、整備のしようがないのである。砂漠の道は大雑把な方向を示す程度のものでしかなく、砂漠に慣れた案内人がいなくば目的地に辿り着ける保証もない。その上で魔物に襲われる可能性もある。

 そういった理由もあり、好き好んでアンカジ近辺を通る者は少ない。精々が商人か物好きな旅行客、或いは先にひっ捕らえた様な犯罪者くらいだ。距離と時間を考えないのならば、砂漠を通らずにエリセンと王国を結ぶ回り道も存在する。危険度でいえば回り道の方が圧倒的に低いため、そちらを通る者の方が大概だ。

 主にアンカジを目当てとする旅行客に対しては、定期的に公国騎士団が砂漠外の町へ赴くことで対応している。騎士団による案内と護衛の下アンカジへと案内されるのだ。必然的に費用も高くなるが、名産の果物とオアシスの光景はそれだけの価値がある。リピーターも後を絶たないのが現状だ。

 しかし、現在肝心の騎士団はその役目を果たせない状態にある。――と言うよりは他の役目に従事している真っ最中だ。

 結果、通行人とすれ違う可能性自体が低いために、錬成馬車はその性能を遺憾なく発揮する。その圧倒的な速度を以て、早々と砂漠地帯を踏破した。

 

「いや、驚きましたな。我らも砂漠地帯に慣れておりますし、騎馬もそのための訓練を積んでいるのに間違いはない。……が、この馬車は遥かにその上を行く。神代魔法で創られたと聞きましたが、これが市井に広まっては我らの立つ瀬がない。収入源も減ってしまいますよ」

「その点は心配しなくていいですよ。この馬車を十全に動かすには“魔力操作”の技能が必須なので。技能がない者には無用の長物です」

 

 公国に残った騎士団。案内役として御者台に座ったその副騎士団長が頬を掻く。

 同じく御者台に座るハジメが、その懸念を払拭する様に答えた。

 

「“魔力操作”ですか……。こちらとしてはそれも驚きなのですがね。差し支えなければお教えいただいても?」

「構いませんよ。今のところ僕が知り得る手段は二つです」

「二つ、ですか?」

「ええ。一つは既に“魔力操作”の技能を得ている魔物を食らうこと。反動が凄まじいですが、これを乗り越えれば確実に得られます。おそらくは弱肉強食の理によるものでしょう。“魔力操作”以外にも、その魔物が持つ技能を何かしら得ることが出来ます。……僕たちの大半はこの方法で得ましたが、正直に言ってオススメはしません」

「確かに、試す気にはなれませんな。此度我が国を襲った症状。あれ以上の反動に襲われるのでしょう?」

「おそらくは、としか言えませんけどね。まあ、もしかしたら生存者の中には“魔力操作”に目覚める者が現れるかもしれませんが……」

「なくはないでしょうが、可能性は低そうですな」

 

 顔を顰め、副騎士団長が零す。

 

「なので、僕がオススメするのはもう一つの方法ですね。一応ながら実証も出来てます」

「ほう、既に実証もされておられる?」

「あくまで“一応”レベルですけどね。それでも、十中八九に死ぬだろう魔物を食べるよりは可能性は高いと思いますよ。……まあ、こちらも実行は至難ですが」

「伺っても?」

「言葉にするだけなら簡単です。常識を認めた上で否定する、極度のストレス下で意思を研ぎ澄ませる、言ってしまえばこれだけです。その都合上、人格形成に変化が現れる可能性は否定出来ません」

「……ふむ。この解釈で合っているかは分からんが、つまりは『より個人としての在り方を重視する』ということだろうか?」

「常識やら何やらは、文明やコミュニティを形成するための要素です。それに従えばこそ、世の中と上手く付き合える。……が、千差万別なのが個人なれば、必ずしもそれに縛られる者ばかりではない。時と場合によっては、敢えて反旗を翻すこともある。

 魔力操作とは、ある意味で唯我独尊の体現者に現れる技能だと思っています。ある作品の登場人物の言葉を借りるなら『私が法だ。黙して従え』と言ったところでしょうか」

「そうでありながら、要となる意思次第ではその後も人付き合いを十分に行える……と。勉強になるな」

「恐縮です」

 

 話している間にも当然ながら錬成馬車は走っている。切りよく終わればエリセンは目に見える場所に迫っていた。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 エリセンに入って間もなく。アンカジの重鎮が町の上役たちに諸々を説明しているその裏で、ハジメと雫は警備兵に用意された拠点へと案内されていた。

 用意されたのは経営破綻したホテルだった。

 海の幸、美しい光景、水泳等々、エリセンもまた人を魅了する要素は十分に存在する。件のホテルは魔人族との戦争のない安定期に建てられた物だ。実際に当時は旅行客も多かったらしい。……が、そもそもにしてトータスは交通手段に乏しく、旅の安全性も保証出来ない。休戦中ならまだしも、開戦してしまえば旅行客は一気に激減した。護衛やらを請け負う冒険者たちが、より稼ぎの良い戦地へ赴いたことも一因だろう。

 旅行客が完全になくなったわけではないので、今でも経営しているホテルは当然ある。だが、全てが全てではない。商売競争に負けたホテルがあって然り。

 開戦暫くは辛うじて経営出来ていたそれらも、時間が経つにつれ経営難に陥るのは自然な流れだ。結果、多少なりとも取り返しのつくうちに、或いは同業他社に、或いは町へと売られた物件がエリセンには幾らか存在する。

 今回、エリセンが“神の使徒”へと用意したのは、そういった経緯で町が保有しているホテルの一つだ。商売に敗れはしたものの設備は上々。ホテルだけあって馬車を置くスペースはあり、海の眺めも十分。……むしろ設備が良すぎたために手放さざるを得なくなった物件だ。定期的な清掃もされているため、“神の使徒”を迎えるに当たっての格は十分にある。

 

「毎度のことだけど、普段使いするには立派過ぎて感覚がマヒしてくるよ」

「こっちではともかく、向こうでは一般庶民だものね……」

 

 案内役の兵士が去ったのを確認した二人は深いため息を吐いた。

 こちらにおける立場やらを鑑みれば、立派な物件を用意されるのも理解は出来る。……が、地球においては小市民だ。如何に“裏”に身を置いたところで、その暮らしぶりは然程変わらない。特定分野に対してならば金に糸目をつけないが、それが豪勢な暮らしとイコールで結ばれるわけではないのである。

 

「じゃあ僕は海に撒いてくるから、ここの確認はお願いしてもいいかな?」

「了解」

 

 いつまでも気にしてはいられない。エリセンに来た目的を果たさねばならないのだ。気を取り直した両者は行動を開始する。

 ハジメは海に行き送信用のアーティファクトを広範囲にばら撒く。近すぎればアーティファクト同士が変な干渉を起こす可能性は否定出来ない。そうでなくとも海に棲息する魚や魔物などに食われる可能性だってある。出来る限りでアクシデントを防ごうと思えば、やはり広範囲にばら撒かざるを得ないのだ。空中を自在に闊歩出来るハジメならではの作業である。

 その間に雫は雫で拠点の確認だ。設備やらもそうだが、忍びとしての観点から警備上の確認もある。いつ何時、神の手が及ぶかも分からないのだ。どこまで役に立つかは不明だが、仕込めるトラップを仕込んでおいて損はない。

 

「お姉ちゃーん! お兄ちゃーん!」

 

 そうして、いざ行動を開始しようとした矢先だった。聞き覚えのある声が徐々に近づいてくる。

 

「あら、ミュウちゃん。今日も元気いっぱいね」

「元気そうで何よりだよ」

 

 助走をつけたまま跳躍して抱き着いてくるミュウを優しく受け止めた雫は頭を撫でてそう返す。その横で冷や汗を流しながら答えるのはハジメだ。……この対応は身体の動かし方に慣れている雫ならではである。抱き着き先がハジメだった場合、ミュウにケガをさせまいと思えば諸共に転んでいた可能性は否定出来ない。

 

「エリセンへようこそ! どのくらい居られるの!?」

「う~ん、今回は仕事の一環でね。そんなに長居は出来ないんだ。僕もこれから海に出ないとならない」

「私はここの確認作業くらいだから、一緒にやりましょうか?」

「うん! お兄ちゃんもお仕事がんばってね!」

「ありがとう。……じゃあ、行ってくるよ」

 

 元気いっぱい、無邪気にミュウは訊ねてくる。

 正直に言うならば、ハジメは子供が苦手である。可愛いとは思うし、微笑ましいとも思う。だが、未成熟であるがゆえに、その表情をすぐに二転三転させるのが大概だ。ある程度成長すれば我慢出来るような事でも、幼い内は我慢出来ない。ふとした拍子に落ち込み、終いには泣き喚く。

 子供の笑顔は好ましいと思うが、泣き顔は好きではない。

 顔を曇らせながらも答えるハジメ。それをフォローする様に雫が続ければ、ミュウは笑顔で頷きハジメへと応援の言葉をかけた。

 逆に慰められた事実にハジメは苦笑を隠せない。ミュウの頭をひと撫でして、すぐにその場を飛び去った。

 幾らかの神代魔法を会得した事実が、手札を隠す必要性を失わせる。いつまでも隠し通せるものではないし、建前も『神代魔法で可能になった』で事足りる。劣化した現代魔法でも強力な魔法は強力だ。詳細の知られぬ神代魔法ならば誤魔化しようはある。それに本命は隠したままだ。

 見せ札は、文字通り見せてこそ効果を発揮する。神代魔法で可能な事柄は、ハジメにとって見せ札でしかないのだ。神代魔法の枠に当て嵌めて考えてくれれば、ともすればそれが足を掬う要因となり得る。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 空を駆け、瞬く間に海上に躍り出たハジメは一先ず通信機を起動した。見た目だけなら折り畳み式の携帯電話に酷似している。……まあ、携帯電話と違って幾つもボタンが付いてたりはしないし、液晶の代わりに魔石が輝いているが。

 素材をケチれば、距離によっては使えなくなる可能性があったために持ち得る中では一級品を使って作成してある。

 試しに幾らか低級素材で創った代物があるのだが、一度に複数台が反応し、距離を離せば聞こえづらくなるどころか、よりよく聞こうと流す魔力を増やせば呆気なく壊れる始末。……有体に言えば失敗作だったのだ。

 それでも、失敗を踏まえた上で一応三組は出来上がった。ハジメ作、レオン作、アレーティア作である。“空間魔法”と“生成魔法”、そして必要な風魔法を使えるのが――迷宮攻略組には――現状三人しかいなかったのだ。天誡は必要な風魔法が使えず、良樹は“生成魔法”がない。

 創り手が異なれば、互いに反応しないことは確認済みである。必然的にハジメの創った物と他二名が創った物での通話も不可能だが、現状においては十分すぎる。

 

「もしもし、聞こえる?」

「あいよ、聞こえてるぜ」

 

 通話に出たのは信治だった。アンカジはアンカジで忙しいが、出来ることは個々人で様々だ。そして現状、炎術師たる信治に出来ることは少ない。書類仕事を手伝えるほど頭はよくなく、水の配給という肉体労働に勤しめるほど身体能力は高くない。一般人よりは高いが、そのステータス値は後衛の枠組みを出ないのだ。

 

「これからA1を投入するから結果を確認してほしい」

「A1ね。了解」

 

 幾らか用意した水を送るためのアーティファクトには、それぞれ記号を振ってある。スペックぎりぎりがA、余裕が増える毎にB、Cとなっていく。前提条件と手持ちの素材の関係上、今回はABCを各五個まで用意した。

 なにせ初の試みであるため、実際にやってみないことにはどこまで出来るか分からないのだ。

 A1からはA1にしか送れないのか? A2やB1にも送れるのか? 送られた水の放水量は? 調節は可能なのか? 簡単に思いつくだけでもコレだけあるし、実際にはもっと多いだろう。その詳細を出来る限り知るためにも、リアルタイムの通話は必須だった。

 音と水。送るものの違いはあれど、“空間魔法”と“生成魔法”を用いたアーティファクトにより距離の隔てを取っ払う部分は共通している。……であるならば、通信機と共通する部分もあるとは思う。ただ、やはり想定でしかないのだ。実際に確かめないわけにはいかない。

 

「A1投下したよ」

「……A1で放水を確認。だが、放水量は弱いな。精々が手洗い程度にしか使えそうにない」

「了解。取り敢えずそのことを書きとめて。それが終わったらA2の確認をお願い」

「あいよ」

 

 信治が書きとめている間にハジメは場所を移動する。

 

「A2確認したぜ。結果はA1と変わらずだ」

「……なるほど。次はB1とC1の確認をお願い」

「……B1とC1で放水を確認。放水量は変化なし」

 

 その後も色々とやり取りを続けた。それに伴い分かったことは多くある。利点から欠点まで様々に。

 各種試行中、信治の手元にあるA型アーティファクトは幾らか壊れている。ハジメに確認する術はないが、おそらく海中に沈めた方も同様だろう。

 結果、放水量とその調節、複数の同時起動などといった諸々を鑑みれば、『やはりスペックには余裕があった方が良い』という結論になった。

 未だ“空間魔法”に慣れていないためか、送受信先を指定するやり方が分からないのが現状だ。複数を創れば、必然的に同時起動の可能性が生まれてしまう。そうなれば送受の量は一定たり得ず、どうしてもどちらかに負荷が偏ってしまうのだ。

 送受の量が一定ならばスペックは低くてもいいだろうが、水量然り音量然り、やはり調節は出来た方が良いのが正直なところだ。

 この先、神代魔法に慣れれば多少なりともマシになるだろう。“生成魔法”に対してもハジメはともかく雫は不得手だし、“空間魔法”に至っては両者共に覚えてから間もないのだ。必要最低限の把握で創った代物なのは否定しようがない。

 それでも、いや、だからこそか。今回得られた情報は大きい。

 神代魔法同士の組み合わせによるアーティファクトの創造。すなわち、より高性能な通信機器に転移装置、陸以外の移動手段となる船。今後の行動において必須となるだろうそれらに対して、此度の検証結果は大いに参考となるだろう。

 必然、神代魔法の模索に時間を取られることとなる。……が、確証こそないものの魔人族の神が大きな動きを見せた可能性が高いのだ。取りも直さず、魔人族の動き自体に変化が訪れる可能性を示している。どちらにせよ増やせる手札を増やしておいて損はない。

 

「取り敢えず、実験は成功ということでいいかな?」

「ああ、今のところC型に問題は見られない。込める魔力で放水量の調節も可能だし、複数起動も大丈夫そうだ。上限はあるだろうが、時間経過で判断するしかないだろうぜ? ……公王様に九角も同じ判断だ」

「了解。通信を終了する。……さて、続いてこっちも試すとするか」

 

 軽く伸びをした後、ハジメは瞳を閉じて精神を集中させる。海上上空に浮かびながらにして、閉じられた瞳の中には確かな光景が映し出された。エリセンに用意された拠点である。“空間魔法”を発動してゲートを開く。潜り抜ければエリセンの拠点だった。

 

「体感的に魔力の消費はそこそこか……。これをアーティファクトに落とし込むのはちょっとキツイかな……?」

 

 瞬く間に移動を完了したハジメは、次なる課題の難しさに溜息を吐く。同じ転移・転送系のアーティファクトでも、水だけ音だけを移動させる物に比べれば、やはり難度は高くなる。現在地と先程までいた海上は、直線距離だけならば大したことはない。それでも、現在のトータス人に比べれば飛び抜けたステータスを誇るハジメが体感として“そこそこ”の魔力を消費したのだ。普通に考えるなら、距離が開けば開くほどに魔力消費は激しくなるだろう。それを賄って余りある魔石など、現状ではオルクス深層の素材しか思い浮かばない。

 しかし、毎回毎回オルクス深層の素材を使用していられないのもまた事実。魔物を狩るのは手間ではないが、都度に赴くのは手間となる。ならば発想を変えるしかない。

 

「やっぱりそれ用に新しい魔法を創るしかないかな……? “そういう魔法”として落とし込むことさえ出来れば利便性は遥かに増す」

 

 元居た世界の娯楽作品。それらに登場する転移系の魔法なりアイテムなりをハジメは思い浮かべる。大抵の作品において、『一度でも行ったことのある町やダンジョン』といった前提条件はあれど、その消費は一律だ。距離に応じて消費が増減することはない。

 見たことも聞いたこともないのであれば、雛形を創るのもおぼつくまい。その点において、たとえフィクションの中のモノでしかないとしても参照元として十分な役目を果たす。『こういったモノ』という“結果”が分かっているのだから、それだけで十分な時間削減になる。

 

「“魔力操作”があって良かったな。陣だとどれだけ時間がかかるか分かったものじゃない」

 

 その点においても“魔力操作”はすこぶる便利だ。陣だといちいち式を書き込まねばならず、一つ一つの確認に時間が取られる。

 現在のハジメは意気軒高だ。そもそもが創り手である彼のこと。多少融通を利かすことはあれ、地球にいた時から基本的には創りたいモノを創りたいように創るスタンスだ。潜水艇であれ飛空船であれ転移装置であれ、創るために必要とあらば“新しい魔法を創る”くらいはやってみせよう。

 拠点へと入ったハジメは帰宅の挨拶もそこそこに早速構想に取り掛かった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 ハジメとの通信を終了して暫く。アンカジには新たな来訪者たちの姿があった。今まで別行動を取っていた“神の使徒”一同プラスαである。

 ウルでの復興作業に精を出していた龍真たちは、アンカジからの増援到達に伴いお役御免となった。王族であるリリアーナとその護衛であるメルドは今もウルで陣頭指揮を取っているが、畑の浄化も終了し騎士団による人海戦術も可能になった以上、いつまでも勇者たちをウルに留め置くのはムダの方が大きい。

 結果、農地改善と合わせ、リリアーナからアンカジ公王に宛てた騎士団派遣に対するお礼の手紙を携えて、龍真らはアンカジ公国へとやって来たのだ。無論、ウィルとティオも一緒である。

 道中をドラゴン形態となったティオの背に乗ってきた彼らは、必然的に移動圏として空に目を付けた。確かに錬成馬車も十分速いが、彼らは立場ゆえに周囲へと気を配らなければならない。一般道でその速度を十全に発揮出来ることは稀なのだ。

 龍真らがアンカジに到着するのと時を同じくして、幸利らもアンカジへとやって来ていた。

 ミハイルとカトレア、二人の魔人族が【オルクス大迷宮】の情報を持ち帰った以上、暫くは魔人族がホルアドに姿を見せることはないだろう。そして次の行動を取るに当たり、幸利らはより詳細な情報交換を求めた。成り行きから行動を共にしたガハルドとアステルが七大迷宮攻略を目的としていることもあり、紹介も合わせて攻略組との合流を図ったのだ。なお、三人娘の一人であるネイビーも同行している。ガハルドがネイビーの同行を希望した面もあるが、ホルアドの冒険者ギルド支部長であるロアの推薦もあった。そしてネイビーもネイビーで断らなかった。何かしら思うところがあるらしい。……他の二人は幸利からの紹介状を携えてガハルドの話を元に勇者領へと発って行った。勇者領にて商人としての地位を確立させる腹積もりのようだ。

 そんなこんなで、目的の違いはあれどアンカジを目指してやって来た一行は検問の待ち時間にて互いの姿を確認することとなったのである。

 

「よお、久しぶりだな、勇者!」

「ガハルド皇帝!? ……なぜ貴方がここに?」

「お前さんに負けたことで触発されてな。今では一介の冒険者よ」

 

 かつて剣を向けあった者たちの会話がなされ。

 

「ん? そなた、純粋な人間ではないのか?」

「そういう貴女も人間ではなさそうだな?」

 

 人間と兎人族の間に生まれたハーフと、既に滅んだとされる竜人族の会話がなされ。

 

「もしかして、クデタ伯爵家のウィル様ですか?」

「確かに私はウィルですが、様はやめてください。様をつけられるほど出来た人間ではないので……」

「失礼しました。私はネイビーと申します。成り行きから“神の使徒”様方と同行させて頂いてます」

 

 トータスに生まれた純粋な人間同士の会話がなされ。

 

「お久しぶりです、畑山先生。……見違えましたね。何かしら覚悟を決めた瞳をしています」

「お久しぶりです、御門先生。……ただ、生徒を連れ戻すことを決めただけです」

 

 教師同士の会話がなされ。

 他にも久しぶりに会った生徒同士で会話に花が咲く。

 

「次の方どうぞ」

 

 そうこうしている内に一行の順番がやって来た。面子が面子なために一騒動起こるのだが、わざわざ語るまでもないことだ。

 大半が“神の使徒”。そうでなくても元ヘルシャー帝国皇帝もいるとあって、一同は揃って謁見の間へと通された。本来ならば検問所で受ける説明も未だされてはいない。湯浴みもなしに謁見の間に通されたことに対して、ちらほらと首を傾げている。一緒に用意された椅子の存在が、より疑問を深まらせた。

 

「いや、お待たせいたした」

 

 入室し、一同の姿を認めるなりそう言ったのは公王ランズィである。その横には天誡の姿もあった。

 椅子に腰かけるように勧めたのち、ランズィはアンカジの状況を語った。

 驚愕そのものの内容だが、否定する要素はどこにもない。公宮ともなれば水を引いているが、現時点でその水には毒素が混じっているのだ。そんな状況では迂闊に湯浴みを勧めるわけにはいかないだろう。

 

「今さっきのことだが、水の供給については確認が取れたところだ。神代魔法で創ったアーティファクトを用い、エリセンの海から水を転送する仕組みでな。数も少なく、安定して続くかどうかという問題もあるが、概ねは解決したと判断していいだろう」

 

 リリアーナからの手紙を渡した後、未だ仕事の残るランズィを尻目に天誡の案内に従い拠点へと移動する。

 

「へえ、立派なもんじゃねえか」

「元々は没落貴族の家だったらしい。おかげで、この人数でも十分に過ごせるだけの部屋はある。特権としてアーティファクトも頂戴してあるから、まずは汗を流すと良い。見ない顔もあるが、自己紹介と情報交換は未だ公宮にいる者たちが揃ってからでも十分だろう」

 

 簡単に住居内の説明をしたのち、天誡はそのまま浴室へと向かった。C型アーティファクトを設置して水を流す。沸かされてないため冷たいが、そもそもにしてアンカジは暑い。水風呂でも特に反感はなかった。

 水浴びする一同を置いて、次は厨房に向かってB型アーティファクトを設置する。C型はともかく、B型を使うのは公宮と攻略組だけだ。いつイカレるとも分からないが、料理に使う程度ならおそらく大丈夫だろう。

 深層水とはいえ海水であるためそのままでは飲用に適さないかもしれないが、何分異世界のために判断がつかない。濾過する必要があるかもしれないし、ないかもしれない。そこら辺を調べるのは学者なりの仕事である。念のため一般公開する前に、そのままでも飲用出来るかどうか調べるようには言っておいた。

 まあ、天職:料理人である優花ならば、もしかしたら飲用に適するかどうかを“鑑定”出来るかもしれない。本人の捉え方ひとつで出来ることの幅が広がるのがトータスの天職だ。一筆認めておけば問題もないだろう。

 

「無作法かもしれんが、大目に見てもらうとしよう」

 

 仕事仕事でそこそこ疲れも溜まっている。リビングに赴いた天誡は、そのままソファでひと眠りすることにした。  

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