ありふれた職業で世界最強 ~宿星の導き~   作:山上真

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5話

「いや、確かに何か起こるとは思ったし、心構えもしたつもりだよ? けどさ――」

「――流石にこれは、想像出来る範囲を超えてると思うの……」

 

 仲良くそう言ったのは、南雲ハジメと白崎香織の二人だ。その表情は心なしげんなりとしている。

 目の前の現実。今しがた起こった現象。それに対する思いを、口にせずにはいられなかった、と言わんばかりだ。

 それも無理はないだろう。

 晴れの高校入学式に、不思議現象に巻き込まれ、かと思えば自分も超常の力を扱える(そうだった)ことが判明し、長年の親友は遥か前からどっぷりと浸かっていたという衝撃の事実。それにも何とか前向きに折り合いをつけようと決意した途端、巻き込んだ人物が目の前で――比喩でも何でもなく――文字通り(・・・・)鬼へと変貌したのである。身体自体も大きくなり、二メートルは超えているだろう。

 見てしまえば、まぁ確かにあり得ない事じゃないよね、と納得することは出来る。某人気アニメだって大猿に変貌するキャラクターがいたりするのだ。そう思えば、現実として鬼に変貌する人物がいてもおかしくはないだろう。

 しかし、それは見たからこそ抱ける思いでもある。超人的な身体能力、風を操る、炎を操る、人を操る、とハジメと香織が共通して知り得た能力はこれだけだ。

 このラインナップで鬼への変貌を思い浮かべろ――しかも他ならぬ鬼に変貌した人物の能力は人の操作である――と言われても、それは無理だ、としか返しようがない。

 

「これを現実として受け止められているだけ上出来だっての」

 

 二人に近付き幸利が言う。軽い口調だが、その表情は険しい。

 

「流石に目醒めたてで変生したヤツを相手にすんのは危険度が高すぎる。……俺たちの側から離れるなよ?」

「まぁ、そういうことだね」

「安心してくれていいよ。私の護りはちょっとやそっとじゃ砕けないから。……ただし、油断だけはしないでちょうだい?」

 

 恵里と鈴もやって来る。鈴が二人の正面に立ち、幸利と恵里が側面を固めている。

 

「護法童子よ、その加護を我らにッ! 護法童子招守!

 

 扇子を構え、鈴が高らかに叫ぶ。途端、それに応えるかのようにハジメたちを光が包み込む。どこか心強さを感じる光だ。

 

「……これは?」

「護法童子招守。その名の通り、護法童子の守護を――物理的、精神的の両面で――受ける術さ。……ちょっとした陰陽道と思ってくれていいよ」

 

 疑問を抱くハジメに対し、簡単に答える鈴。詳しく知りたい気持ちもあるが、この状況下では名前と効果が知れただけでも十分とすべきだろう。

 

「それで、君たちの力がどういったものなのか、簡単にでいいから教えてもらえないかな? 知っての通り、ボクたちは肝心な部分を目にしていないんでね。目醒めた事は分かっても、それがどういうものなのかが分からないと、フォローの度合いが変わってくる」

「見た限りでは、南雲が風、白崎が炎を扱っていたな。南雲はその銃を介することで風を一点に固め、またその身を風で包むことで迷彩効果を発揮していた。一方の白崎は炎に浄化属性を付け、ヤツの呪を焼いていたな。白崎を抱いていた南雲が熱がっていなかったことからも、ある程度焼く対象は選べると思ってもいいだろう」

 

 恵里の質問に対し、答えたのは浩介だ。視線を油断なく鬼へと向けたまま、見て取れたことをそのまま述べる。

 

「なら話は簡単だ。ハジメはヤツに対して風を起こし、白崎はその風を受けて炎の威力を高めればいい。木、火、土、金、水……五行において風は木行に分類される。一種の相生だな」

 

 なるほど、とハジメと香織は頷いた。五行は詳しくもないが、風で火を煽る、と考えれば分かり易い。無論、威力の程によっては逆に風が火を吹き消すだろうが、考えすぎるとキリがない。そういうもの、と程々に捉えておいた方がいいだろう。

 そういったやりとりをする彼らの姿は、正に新人と熟達者のそれだ。

 だがその一方で、情けない姿を見せるベテランもいた。

 

「なぁ、雫?」

「何よ?」

「啖呵を切ったはいいが、得物がねぇ……」

「はぁッ!?」

 

 神夷京弥である。その内容は中々に情けない。特に彼は剣士だ。不良相手ならまだしも、剣を持たぬ剣士などこの状況下で一体何の役に立つというのか?

 言われた雫も、思わず叫んで詰め寄ってしまった程である。

 

「いや、な。今日は入学式だけの予定だっただろ? 部活説明会があるわけでなし、そんなところに竹刀袋を持って行って変に目立つのもアレだなと思ってよ……」

 

 頬を掻きつつ弁明する京弥の言葉は尻すぼみだ。

 その言には、雫をして、確かに、と納得出来る点はある。実際、雫とて今日は竹刀袋を担いではいない。

 

「いや、それでも脇差くらいならどうとでも持ち運べるでしょうが……」

 

 それでも、やはり雫としては指摘せずにはいられない。事実、彼女自身は実際に得物を持ち込んでいる。故にこそ京弥の言葉に対して必要以上に驚いてしまったのである。

 

「まったくもう……」

 

 溜息を吐き、雫はその手を振るう。真新しい制服の袖口から現れたのは鞘に納まった短刀である。袖口から出てくるだけあって、一般的な短刀よりなお短い。

 雫は京弥と違って刀術だけを修めているわけではない。体術に投擲術、忍術も相応に手を出している。むしろ忍術の中に体術と投擲術が含まれている、と言った方が正しいか。……器用貧乏感は否めないが、それでもその引き出しの多さが武器になることは否定しようがない事実なのだ。

 そして忍術を学ぶにあたり、暗器の持ち運びを修めるのは必須事項と言える。今しがた取り出した短刀以外にも、雫は色々と隠し持っている。

 

「コレ使う?」

「いや、短刀は合わねえ」

 

 対し、京弥は刀術一本である。血統を考えれば素養はある筈だが、磨かれなければ意味はない。

 

「はぁ……。コレを使え」

 

 言葉と共に、京弥へと脇差が飛んでくる。

 

「俺の予備だが、無いよりはマシだろう。……それでダメならもう知らぬわ」

 

 最低限の認識阻害くらい身につけておかんか戯け、と天誡は呆れを隠さず言い放つ。その手には打刀が握られている。言葉通り、今まで認識阻害をかけていたのだろう。

 

「へへッ、悪いな」

 

 軽く謝り、京弥は借り受けた脇差を抜く。瞬間、彼を中心として一帯が清冽なる空気に染まった。そこには先程までの情けなさなど微塵も感じられない。

 

「フフッ、大したものだ。剣聖の子は、自身もまた剣聖であったか……。俺も負けてはいられぬなッ!」

 

 天誡が吼え、刀を抜く。瞬間、彼の周囲は凄烈な空気に包まれる。

 京弥を剣聖とするならば、天誡は正しく剣鬼と言えた。

 陽の京弥と陰の天誡、そう言い換えることも出来るだろう。

 そしてここには、もう一組、陰陽関係にある者たちがいた。

 龍真と浩介である。

 

「はあああ……ッ!」

「ふううう……ッ!」

 

 静かな呼氣に応じるかのように、二人の周囲の空気もまたその闘氣で塗り替えられる。

 

「■■■■■■■■ーーッ!」

 

 龍真ら魔人が戦支度を整える横で、鬼もまた支度をしていた。……とは言え、既にこの鬼には黒田としての意識などない。あるのは、ただ眼前の魔人たちを討たんとする本能だ。

 そしてその本能に従い、鬼はかつての部下たちをその氣で染め上げる。元が下種な輩であるため、容易く鬼の陰氣に順応。結果、そこには三体の小鬼――元黒田に比較しての話であり、成人男性ほどの大きさはある――が出来上がった。

 ここに、魔人と鬼の戦いが幕を上げる。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「まずは雑魚を狩るッ! 糸術・蜘蛛網!

 

 先手を取ったのは幸利。すぐ近くには小鬼が一体。まずはこれを倒さぬことには安全確保もままならない。

 幸利がその場で手を振りかぶる。そこから放たれるのは氣によって練られた糸。それはさながら蜘蛛の巣の如く小鬼を絡めとる。

 小鬼も当然振り払おうとするが、動けば動くほどに糸がその身を縛り付け動きを阻害する。

 

「ナイスだよ、清水クンッ! さあ怨霊よ、哀れな獲物を食らうがいいッ! 降霊術・黄泉稲光(よみのいなびかり)

 

 続くは降霊術士たる恵里。

 恵里の命令に従い、怨嗟の声を上げて瘴気と共にどこからともなく怨霊が現れる。

 人間ではないが、小鬼もまた確かに生きている。それが故か、生者は許さぬ、とばかりに怨霊は小鬼へと襲いかかる。……恵里に縛られている苛立ちもあるのだろう。そこに容赦は微塵もない。

 怨霊の瘴気も相まって、ハジメと香織は見ているだけでも気分が悪くなった。護法童子の護りがなければ、気絶していたかもしれない。

 同時に、鬼道衆が掲げる理念の一端を理解した。外法を用いても外道を討つ。これを表すのに目の前の光景ほど分かり易いものもそうはあるまい。

 

「ダメ押しと行こうかッ! 符咒・剪紙兵!

 

 これもまた陰陽道によるものか。鈴の下から人型に切った紙が多量に放たれ、小鬼に纏わりつく。如何なる原理かは分かる筈もないが、紙の群れは明滅を繰り返しながら確かにダメージを与えているようだ。

 

(あ、何かテレビで見たことあるかも……)

 

 凄惨な光景とは裏腹にハジメと香織は揃って呑気な感想を抱いた。

 それから間もなく、小鬼は断末魔の叫びを上げて滅び去った。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 幸利に僅かに遅れ、雫もまた動いていた。

 目配せは一瞬。京弥を鬼へ向かわせ、自身は窓際の小鬼を標的とする。

 

飛水十字!

 

 繰り出すは飛水流忍術が一つ。相手の身体を十字に射貫くよう、隠し持っていた手裏剣を神速が如き連続で投げ放つ。

 それだけでは終わらない。手裏剣を追うように雫も駆け、その身を捻りつつ跳躍。

 

地天斬!

 

 手裏剣が小鬼を射貫くに合わせ、真上から襲いかかる。

 落下の勢いに任せて短刀による第一撃を頭部へ、そのまま脚部へと第二撃を叩き込む。それは正に天地を同時に絶つが如き連撃。故に名を地天斬。……飛水流が基本技たる如影斬(じょえいざん)を応用した二連撃であり、幾つかバリエーションがある。雫が繰り出したのは如影斬の上位技たる流槌斬(りゅうついざん)から繋げたものだ。

 そして尚も雫は動きを止めない。

 

玄流掌(げんりゅうしょう)

 

 相手の背後へと降り立った雫は、その氣を込めた掌打を繰り出す。飛水流が技の一つ、流掌のアレンジにして、現在は雫のみが使用を許された技だ。……いや、むしろこちらが本来のものであり、流掌は下位互換でしかない。

 雫のみが使用を許されたその理由。それこそが彼女の持つ“宿星”にある。

 宿星とは、人ひとりひとりの運命や根源的性質を司る星とされている。名を付けられている――つまりは存在を確認された――ものもあれば、未だ名を付けられていないものもある。

 そして雫の宿星は“玄武”。北方を司る水の神にして四神が一柱である。

 そも飛水流とは玄武の守護の下で水術を発展させてきた一族だ。幕末の折、当時の長と長候補が揃って里から姿を消し存続も危ぶまれたが、名を変え形を変えてどうにかこうにか存続し続けたのが、現在の八重樫家に連なる一族なのだ。

 そして名と形を変えても、その理念は失っていない。飛水の理念。すなわち邪妖滅殺である。

 そんな中、現代において久方ぶりに玄武の宿星を得た者が現れた。それこそが雫である。

 その事実は一族に喜びと疑念をもたらした。

 喜びは、玄武に見放されていなかった、という確信を得られたこと。

 疑念は、再び何かしらの動乱が起こるのではないか、それに雫が関わるのではないか、ということ。……長年現れなかったものが突然に現れれば、抱いて当然の疑念であった。

 そういった一族の想いが態度や所作にどことなく現れていたのだろう。宿星の影響もあろうが、結果として雫は飛水流を学ぶことを選択したのである。

 そしてここに、正統なる担い手の一撃が繰り出されたのだ。その身の内に眠る玄武の力を呼び覚まして放たれた掌底は、水流の如き氣の奔流を以て小鬼を貫いた。

 飛水十字、地天斬、そして玄流掌。三種もの飛水流の連撃を受けた小鬼は、何をすることも出来ずに呆気なく滅び去った。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 雫たちとほぼ同時。浩介もまた動いていた。

 その方針もまた同じ。龍真を鬼へと向かわせて、自分は小鬼を始末する。

 

「さあ、鎮魂歌を聞けッ! 龍閃脚!

 

 まずは飛び蹴りで距離を詰める。中空を飛翔して一直線に襲いかかるその様は、正に閃光の如し。

 陽の龍の技である緋勇流古武術に四神を冠する型があるように、陰の龍の技である風祭流古武術にも同様に四霊を冠する型が存在する。この龍閃脚こそ正にそれ。陰の龍の技、風祭流古武術・鳳凰の型が初伝である。……ちなみに、先の不良へ繰り出した昇龍脚は応龍の型の初伝だ。

 炎氣を纏った襲撃は抗い様もなく小鬼の頭部へ叩き込まれた。

 

「お次はこれだ。龍落踵(りゅうらくしょう)

 

 飛び蹴りを叩き込んだ反動を以て中空にいるまま態勢を整える。そして地に降りるまでの間に連続蹴りを浴びせ、最後には踵落としを叩き込んだ。麒麟の型の中伝であり、その攻撃は水行の氣を宿す。……本来は地に足を着けた状態で繰り出す技だが、この程度の応用を熟してこそ、修めた、と言えよう。

 

「これで止めだッ! 鬼獄掌(きごくしょう)

 

 倒れた小鬼にダメ押しとばかりに放たれる一撃。陰の氣を込めた発勁。すなわち鬼勁に、更なる螺旋を練りこみ、手首の捻りをも加えて放たれたその氣弾は、小鬼の全身を余すことなく飲み込み滅ぼし尽くした。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 仲間たちに小鬼を任せ、龍真、京弥、天誡の三人が鬼へと向かう。

 そこに様子見はない。する余裕はない。

 元来、変生した存在はそれだけで一線を隔す実力がある。目の前の鬼は自身の意志で変生したわけではなく、陰の氣を制御出来ず呑まれた故の変生――つまりは暴走体――であるため、その思考は攻撃に寄りがちな分まだマシである。……が、その膂力だけでも問題だ。変生元となった人物の能力も使ってくるため、難易度は更に増す。

 流石に一撃二撃でやられる程やわではないが、そも普段とは状況が違いすぎる。

 戦力だけで見れば問題はない。十分すぎる、と言ってもいい。……が、だからと言って普段通りの実力が発揮出来るわけではない。

 仲間の動きを知らない(・・・・・・・・・・)のだ。鬼道衆同士、龍真と浩介、京弥と雫など一部だけなら問題はないのだが、如何せん初期位置が悪かった。何よりも小鬼を生み出されたのが悪かった。

 位置的に動きをよく知る者同士が分散せざるを得ず、結果として動きを知らない者同士で鬼に当たらなければならなくなったのだ。

 仲間たちの実力を以てすればすぐに小鬼は屠るだろうが、その間鬼を放置するわけにもいかない。放置してしまえば何をしてくるか分からない。

 故にこそ、まずは確実にダメージを与える必要がある。それでやっと様子見出来るだけの余裕が作られるのだ。……しかし大技を繰り出すわけにはいかない。仲間の動きを知らぬ以上、巻き込んでしまう可能性がある。

 そして互いの動きこそ知らぬものの、踏んできた場数もあり三人はそのことを理解していた。

 

鬼道・高心(こうしん)

 

 まず動いたのは天誡。

 元は邪馬台国の女王卑弥呼が用いたとされ、いつからか代々九角家が継承している一種の妖術たる鬼道。その術の一つである高心を使い、龍真と京弥へ高揚感を与えることでその攻撃力を上昇させる。……ダメージを与える必要があるとはいえ、選択肢は何も攻撃だけとは限らない。

 

「ありがてえッ! 追風(おいかぜ)・虎走り!

 

 援護に対する礼を告げ、京弥がしかける。その姿は、さながら獲物を追う虎の如く。繰り出された一撃は確実に鬼の足を斬り付けた。間違いなく、鬼はその動きを鈍らせるだろう。

 

「はあッ! 深雪!

 

 そして龍真。

 放たれるは緋勇流古武術・玄武の型中伝・深雪。……何の因果か、京弥の母と同じ名前であった。

 雪中の雪をその名に冠す、凍氣を宿した掌打が鬼を捉えその身を凍てつかせる。

 京弥の一撃と相俟って、鬼の動きが更に鈍ることは否定しようがない。

 

「…………」

 

 両者ともに即座にその場を離れ、無言のまま様子を見る。ヘタなセリフは言わない。言霊の影響を考えれば言えないのだ。娯楽の発達やネットの影響もあり、言霊が力を持つ速度は一昔前とは段違いだ。まかり間違っても“やったか!?”を言ってはならない。“やったか!? =やれてない”はフラグとして認知度が高い。言ってしまえば確実に相手は――無傷かはともかく――動くのに支障がないレベルで無事だ。

 二人が繰り出した技は大技ではないが、小技でもない。そして鬼道による援護、狙った部位と技の性質を考えれば――極度の耐性でも持っていない限り――確実に動きは鈍ったはずだ。

 

「■■■■■■…………ッ」

 

 果たして効果はあった。片足を引き摺るその姿を見れば、間違いなく鈍っている。

 しかし油断は出来ない。言い換えれば、動きが鈍ったに過ぎないのだ。

 

「■■■■■■――――ッ!」

「チィッ」

「くッ」

「おっとッ」

 

 功を奏し、三人はそれを感じ取った。言うなれば攻撃の予兆。迷わず回避行動を取る。

 だが無意味だった。鬼の攻撃は三人の身体に直接作用する。軽くバックステップをしてから次の動作に移るつもりが、意に反し身体はどこまでも中空を後ろに下がり続ける。その速度も速い。

 

「念動力かッ!?」

 

 下がりながらも、鬼の攻撃にアタリをつけた龍真が叫ぶ。手を触れずに対象を操作する、という点において変生前と共通している。

 しかし能力が分かっても、影響下にある三人に取り得る手段は少ない。氣を纏うことで身を護ることが精々だ。それでも、このまま壁なりにぶつかればダメージは免れない。

 故にこそ――

 

「風よッ!」

「炎よッ!」

糸術・蜘蛛網!

飛水八相!

 

 ――小鬼を仕留めた面々がフォローに入る。

 ハジメと幸利がそれぞれ風と糸で三人を受け止め、香織と雫はそれぞれ炎と手裏剣で鬼の邪魔をする。

 結果、ダメージを受けることもなく三人は自由を取り戻す。

 

「ありがとう! 浩介――」 

「――皆まで言うな」

 

 その中で真っ先に動いたのは龍真だ。礼を告げ、鬼へと向かいながら浩介に声をかける。

 浩介もまた、わかっている、とばかりに鬼へと向かう。

 別方向から鬼へと肉薄し、ついには挟み込む。

 

陰たるは、天昇る龍の爪……

 

 浩介が構えるは応龍の型初伝・昇龍脚。

 

陽たるは、星閃く龍の牙……

 

 一方の龍真が構えるは青龍の型初伝・龍星脚。

 

これが、伝えられし表裏の龍の技だ――」 

――秘奥義・双龍螺旋脚!!

 

 言霊と同時に放たれる二種の龍技。ぶつかり合った陰の氣と陽の氣が荒れ狂う。その軌跡は、まるで二頭の龍が螺旋を描くかの如く。

 仲間同士が力を合わせて放つ大技。総じてこれを“方陣技”と呼ぶ。

 

「よっしゃあ、俺たちも続くぜ雫!」

「……いや、無理でしょ」

「あん? なんでだよ?」

「得物得物。流石に短刀(これ)で合わせられる自信はないわ」

 

 秘奥義の威容を目にした京弥が、俺たちも、と雫を誘う。合わせ技ならば、京弥と雫も持っている。……その名も“剣聖・阿修羅活殺陣”。阿修羅神の善神としての威を借り受け放つ大技だ。

 しかし雫は素気無く拒否。不思議がる京弥へと至って現実的に告げる。そも二人の合わせ技は剣術を用いたものだ。脇差ならばまだしも、短刀ではリーチが違いすぎて技が技として機能しない。

 

「ならば神夷よ、一つ俺と合わせてみぬか?」

「お前とか、九角?」

 

 それを見て、天誡が京弥を誘う。無論、理由があってのものだ。

 

「普通ならば無理であろうがな。奇しくも俺たちはそれぞれが鬼道衆と龍閃組に縁があり、剣術を得手とする。そして俺たちの繰り出す技の氣質。……それらを踏まえれば、放てるであろう方陣技に心当たりがある」 

「……“二天鬼王殺”かッ!」

 

 聞き返す京弥へと天誡が理由を述べる。そして、お前はどうだ、と言わんばかりに視線を投げた。

 暫し考え、思い至った京弥が叫ぶ。

 

「おもしれえッ! よし、やるぜ九角!」

「ああ、ぬかるなよ神夷!」

 

 陰と陽、二人の剣士が鬼へと駆ける。

 

陽光断ち割る鬼道の剣!

暗天切り裂く無双の剣!

陰と陽の剣氣、今ここにまみえん! 二天鬼王殺!!

 

 神氣を込めた剣と鬼氣を込めた剣が繰り出される。再びの陰の氣と陽の氣の合わせ技。剣閃が交差し、中心から氣の爆発を起こす。

 その結果を確認する前に、教室の床が抜けた。……それまでの技による蓄積に加え二度の方陣技である。結界で護られているわけでもないごく普通の校舎が耐えられる筈もなかったのだ。

 それぞれの方法で皆が皆無事に降り立つも、濛々と埃が舞い上がる。――が、ハジメの風によって即座に掃われた。

 

「チィッ、タフな野郎だぜ!」

 

 ようやく目にした結果に対し、京弥が舌を打つ。見るからに瀕死だが――追風・虎走り、深雪、双龍螺旋脚、二天鬼王殺、と都合四度の技を受けて――鬼は尚も生きていたのだ。

 

「白崎さん!」

「うん、南雲くん!」

 

 その事実を確認し、真っ先に動いたのはハジメだった。どうしてかは分からない。しかし、どうすべきかは分かった。香織へと声をかける。

 香織もまた理由こそ分からぬものの、自然とすべきことが分かった。ハジメへと頷き返す。

 

風よ……

炎よ……

 

 それは二種の方陣技を見たが故か。

 

合わさりて、灰燼と化す嵐となれッ! アッシュストーム!!

 

 二人が繰り出したのもまた方陣技だった。ただ鬼のみを標的とし、灰燼と化すべく炎の暴風が巻き起こる。

 三度目の方陣技に対しては流石の鬼も耐え切れず、文字通り灰燼と化して消滅した。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「さて、二人には散々だっただろうが、今日のところはこれで終いだ。後日また面倒をかけるが、帰ってゆっくりと休めてくれ」

 

 校舎から出たところで、天誡がハジメと香織へ言った。確かな労りが感じられる。

 

「そうしたいのは山々だけど――」

「――後始末はどうするの?」

 

 無論、二人も素直に頷きたいところではあったが、やはり後始末が氣にかかる。

 犠牲になった女性たち、校庭で倒れ伏す不良ども、そしてボロボロになった教室。女性たちへの見舞費は出せるだけでも出したいと思うが、不良どもの治療費は出す気も湧かず、校舎の弁償は流石に無理だ。

 

「そう心配しなくていいぜ。そろそろ――」

 

 幸利が言ってる途中で、何台ものトラックに救急車、乗用車やらがやって来た。

 

「――と、来たようだな」

 

 乗用車を降りたスーツの人物が離れた場所で天誡、龍真、雫とやりとりをする。それを遠目に幸利が説明をする。

 スーツの人物は政府の関係者であるらしい。

 神秘は隠匿するのが基本であり、鬼道衆を始め大抵の場合は組織的に管理されている。……が、どうしても悪行に耽る外道はいるもの。故にこそ、発覚した時には被害がバカにならない場合がある。また、そもそもとして隠匿のルールを知らない者がコトを起こす場合もある。

 政府や警察などに任せた方が、あらゆる意味で後始末は面倒がなくていい。そういった理由もあり政府や警察、医療機関などには裏の事情を知る人物が何人かいる。スーツの人物もその一人であり、それ用の表向きは閑職として知られている部署に所属しているらしい。

 天誡、龍真、雫の三人が向かったのは、それぞれ所属している組織が異なるため。

 説明を聞いている内に、天誡たちの話は終わったようだ。スーツの人物の指示を受け、三々五々に散っていく。

 

「すまんな、どうやら待たせた様だ」

「香織と南雲君には悪いけど――」

「――勝手ながら、俺たちの組織に所属していることにさせてもらった」

 

 戻ってきた三人が各々口を開く。

 

「……て言うと?」

「それぞれが大元の組織に所属している事実に変更はない」

「ただ、高校に入学して早々、別組織の者や独覚者――この場合は香織と南雲君ね――と顔を合わせることとなったわけで」

「その事から、俺たち学生組だけで一つの組織を作った方が今後は色々と楽だろう、という話になってな。まぁこの業界は実力主義で、そこに年齢は然程関与しない。そんなわけで申請してきた。……組織名は鬼龍会。一応トップは俺。補佐として九角、八重樫、南雲の三名。これは各々が別組織に所属しているためだな。そんなわけで今後ともよろしく頼む」

 

 ハジメの疑問にそれぞれが答えていく。

 

「ええええええッ!? ちょっ!? はああああッ!?」

 

 最初はフムフムと頷いていたハジメだが、徐々にその表情が変わっていく。

 沈黙すること暫し。言葉の意味を理解したハジメの驚声が校庭に響き渡る。

 それを受けて皆が笑い、やがてそれぞれの帰路につく。

 波乱万丈な日々の幕開けとなる高校生活初日は、こうして幕を下ろしたのだった。  




これにて序章は終わりです。
次からは原作に入りますが所々改変が入ります。
また書き溜めてからの投稿になるため時期は未定です。
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