所々で光が弾ける。魔法の発動光だ。そうして出来上がるのは形の整えられた石材や木材。それが各所へ運ばれて建材として用いられている。“勇者領”の第一歩となる村づくりは、様々な困難を迎えつつも好調に進んでいた。
魔人族の魔法は人間族のそれに比べて練度が高い。種そのものとしての適性もあるのだろうが、魔法に対する取り組み方、考え方の違いによる部分が大きい。結果、同じ天職持ちの使う同じ魔法であっても、出来上がる結果には大きな開きが存在する。“敵”として相対する限りにおいては大きな脅威となるそれも、同じ目標に向かって進む“味方”として見れば大きな助けとなる。
発動者にしてみれば、その実力の開きに優越感や劣等感を抱きかねない危険性は確かに在る。それでも、全員が全員そうなるわけではない。片や『ついて来れるか?』と、片や『追い越してやる』と一層の奮起をする者も少なくはない。同じ陣営に属するからこそ新たな発見をしやすくもあり、翻ってはそれが魔法の向上に繋がっている。
それは何も魔法に限ったことではない。魔法に頼らぬ手作業においては人間族や亜人族に軍配が上がる。そこでは逆に魔人族が作業のやり方を学んでいる。
敵対しているだけでは分からない、味方であればこその姿がそこにはあった。
そうして動いている者たちの中には光輝を筆頭とした“神の使徒”の姿もある。
結局のところ、“神の使徒”はその全員が“勇者領”に集まっていた。何とか取り戻したとはいえ、一度均衡は崩れてしまったのだ。最早いつ何が起こってもおかしくはないということであり、元々高かった地球への早期生還の難度が更に上がったことを意味している。
こうなっては今後を話し合わないわけにはいかない。亡命救援組は“勇者領”におり、国境戦線組もまた“勇者領”へ向かうという。それを聞いた留守番組もまた“勇者領”へ向かうことを決めたのだ。
合流した彼らはオスカーの隠れ家にて話し合い、最終的に早期生還を諦めた。……そうせざるを得なくなった理由がある。それこそが国境戦線に姿を現した“アルヴの使徒”の存在だ。レオンの実力は迷宮攻略組の中でも上位に位置する。その彼が何ら有効打を与えられなかったと聞けば、別行動を取り続けるのは逆に危険だ。対策が神代魔法にあるとなれば尚の事。
既に得ていても練磨が足りない。もしくは未だ有効な神代魔法を得ていない。可能性だけならいくらでも考えられるが、使徒たるアルヴィス自らが七つの神代魔法を集めるように言ったのだ。その言葉を鵜吞みにするわけではないが、それだけのポテンシャルが神代魔法にあることもまた事実。
そして“使徒”に過ぎぬアルヴィスらに通用しなかった以上、今のままではアルヴにもエヒトにも通用する筈がない。神を名乗り幾多の信仰を受けているのだ。その実力は間違いなく“使徒”を凌駕するし、そう何度も慢心に付け込めるわけがない。生還の可能性を高めようと思えば、全員が全員全ての神代魔法を会得する必要がある。
だが、現実としてそう簡単にはいかない。何よりネックなのが西の果て、大海の中にあるという【メルジーネ海底遺跡】の存在だ。挑むだけでも相応の強度を誇る潜水艇が必要となる。発注することも出来ないので自分たちで創らねばならないのだ。
どれだけの時間が掛かるかも分からず、時間が掛かれば掛かるだけエヒトへの警戒も強めねばならなくなる。既に召喚されてから数ヶ月が経過しているのだ。元々の実力差を思えば、最早いつ封印が解けてもおかしくはない。エヒト自身は動けなくとも、その手足たる“真なる使徒”を嗾けてくる可能性は大いにあった。
結果、まずは確固たる地盤を用意することを決めた。寄る辺なくしては生活も戦闘も出来ない。
幸いにして土地はある。村づくりもスタートしている。全員が一丸となって取り組めば、防衛能力を高めることも、生産能力を高めることも、決して不可能ではない筈だ。その大半の天職が戦闘系である“神の使徒”の面々だが、使い様次第でどうとでもなる。
たとえ周囲の全てが敵になったとしても、『ここだけは』と言える絶対拠点。時間が掛かろうとも用意しておかなくては、地球への生還など夢のまた夢だ。“アルヴの使徒”の実力、明らかになったその一端だけでも、念を入れる必要性を十分に感じさせた。
アルヴとエヒト、戴く主に違いはあれど、同じく“使徒”の名を冠するからには、エヒトの“真なる使徒”も同等の実力を有している可能性は高い。その総数も分からないとあれば、慎重に慎重を期しても足りない可能性もある。それでも、やれるだけのことをやっておいて損はない筈だ。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「はああ!」
「うおお!」
セリスの聖剣とアレスの魔剣が振るわれる。その威力に間違いは無し。Ⅹ字状の斬撃は往く道を阻む巨大な魔物を呆気なく斬り捨てた。
「フッ!」
二人の間を駆け抜ける一つの影。勢いのままに繰り出されるは神剣だ。古より連綿と継承せしその武技は、正に連撃にして剛撃。シャナンは取り巻きの魔物どもを瞬く間に斬滅する。
「風よ!」
「炎よ!」
かと思えば風が奔り、重なる様にして炎が荒れ狂う。……セティとサイアスの魔法である。
「見事なものだ。傭兵団“英雄の系譜”、噂には聞いていたがこれほどのものとはな……」
「全くだ。上には上がいるってことを、否応なく痛感させられるぜ。帝国皇帝つっても、井の中の蛙でしかなかったってこったな……」
その光景に、或いは感嘆を、或いは諦観を込めて息を吐く二人の男――ガハルドとアステル。
此処は【オルクス大迷宮】の深層である。現在、“英雄の系譜”の一部と“神の使徒”や攻略組の一部は、村づくりにおける素材や“生成魔法”の獲得を目指し協力して攻略に臨んでいた。
七大迷宮の攻略は、“英雄の系譜”としてもその目的を果たす上で避けては通れぬ事柄となった。その最終目的を果たすために、彼らは“神の使徒”と共同で当たることを選択したのだ。
一方の“神の使徒”は地球への早期生還を諦め、じっくりと腰を据えて臨まねばならなくなった。そのためには“勇者領”の開発が急務である。拠点が出来上がらない事には動きたくとも動けない。それだけではなく、【メルジーネ海底遺跡】の攻略を挑むにあたり、潜水艇を用意する必要もある。各所の移動を簡略化するために転移装置も欲しいし、全体的な移動速度向上のために飛空艇も欲しい。……構成員の大部分が“神の使徒”を含む攻略組もその動きに同調せざるを得なくなり、彼らもまた村づくりに精を出している。
以上の事から、現状最優先で当たるべきは村づくりの完成だ。一応とは言え完全なる独自拠点が用意出来れば、それだけで今後の憂いが大分減る。しかして、無から有を作れる筈もなく、必然的に多くの物資が必要となる。ましてその重要度を思えば防衛面にも力を入れざるを得ないし、潜水艇にしろ転移装置にしろ希少な素材が数多く求められるのもまた事実。
財源とて無限にあるわけではない。スポンサーがいるわけでもない以上、資金もまた自分たちで用意する必要があるのだ。現状は作業員への賃金、全体の食事代や衣類、一部物資の購入などでお金が湯水の如く消費されていく。
そういった諸々を解決するための方策の一つがこれだ。
暫くの間――少なくとも『衣』『食』『住』の全てが丸々賄えるだけの設備が整うまで、“神の使徒”は“勇者領”から離れられない。……が、当然ながら時間が掛かる。いつになるかの算段もつけられないのが現実だ。
ならば、『その間に神代魔法を得ていない者たちでローテーションを組み、七大迷宮の攻略を済ませよう』となるのは特段おかしな話ではなかった。
その第一弾が【オルクス大迷宮】である。距離だけでいえば【ライセン大迷宮】の方が近いが、得られる素材が雲泥の差だ。上層の素材であれば換金も簡単だし、深層の素材はいくらあっても困らない。それにオルクスならば、出口の関係上攻略したことがすぐに分かる。前準備として毒やら石化やらへの耐性技能を込めたアーティファクトを持たせてやれば、他の者たちは村づくりに励みつつ出てくるのを待てばいい。
他者と比べて比類なき実力を有する“神の使徒”と“英雄の系譜”ならばこその荒技であり、“宝物庫”があればこそ方策であった。
勿論、彼らが攻略に勤しんでいる間は村づくりの人員が減るわけだが、それを加味してもメリットの方が強い。
そもそも深層の素材ともなれば、並の術者では加工するだけでも一苦労だ。元よりハジメや幸利でもなければまともに扱えない代物となる。そのような物、一般住宅の建材としては不適切なことこの上ない。
しかし、強度は折り紙付きだ。領主館、“神の使徒”用の住居、“英雄の系譜”用の住居、そして村の防壁用と、あって困ることはない。それ以外にも使い道は色々とある。
深層の素材が集まるまでは残った者たちも地盤整備や住宅建設などに勤しみ、段々とシフトしていく仕組みだ。現時点ではハジメと幸利くらいしかまともに扱えない深層素材だが、“生成魔法”の適性次第では加工要員が増える可能性もある。……その点においては、真央が加工要員として扱えないのが残念ではあった。適性の方向がハジメたちとは異なり、彼女は“付与”というただ一点でのみ比類なき適性を有しているのだ。
ともあれ、その危険性は音に聞こえた七大迷宮である。特にハジメたちが攻略した際は、状況も相俟ってマッピングをしていない。そのため、一組目のメンバーは厳選に厳選を重ねている。超級アーティファクトを武器とするセリス、アレス、シャナンの三人、神炎と神風を操るサイアスとセティ、そして主に冒険者視点からダンジョン攻略の注意点を告げる役目としてガハルドが選ばれ、主にマッピング要員としてアステルも選ばれた。
迷宮攻略において、マップの在る無しは大きな違いを生む。その都合上、一組目はマッピングをしながらの攻略になるので自ずと時間も掛かるだろう。しかし、二組目以降はその恩恵を大いに受けることが出来る。
「ま、だからって負けてばかりもられねえよなあ!」
「同感だ……ッ!」
戦闘要員と言うよりは支援要員として選ばれたガハルドとアステルだが、だからと言って黙って見ているだけではない。実力差を痛感しつつも、意気を新たに魔物へと向かっていく。
現状では“英雄の系譜”に劣れど、ガハルドとアステルも確かな実力者であることに違いはない。むしろ、一応でもついて行けるだけの地力があればこそ選ばれたのだ。
ガハルドは他より年長であるが故の経験を以て当たる。一撃必殺とはいかないが、淀みなく攻撃を繰り出し、ついには一撃ももらうことなく魔物を仕留めて見せた。
それに比べればアステルは一枚落ちるが、その身に纏う氣がそれを補って余りある。また他より未熟であるが故の成長性の高さも譲れない。上層からここまで来るにあたり、一戦ごとに動きを良くしていくその様は“英雄の系譜”をして目を瞠るものがあった。また、納刀時と抜刀時でガラリと変わる戦闘スタイルにも驚きを隠せない。
「ガハルド殿の相手はやり辛いだろうな……。正統派の剣かと思えば、途端に奇剣へと変化する。その逆もまた然り。武器自体の性能もあって攻撃力だけならこちらの方が上だが、彼の場合はその戦闘スタイル自体が一種の武器と化している」
「戦闘スタイルなら、アステルのヤツも見事なものだ。納刀時は鞘をも武器として主に徒手格闘を用い、抜刀時は多彩な魔法を織り交ぜた剣術を扱っている。俺も剣の補助として格闘を用いる時はあるが、あそこまでの練度はない。魔法も同様だ」
「それですが、どうも魔法のような感じがしません。見た感じでは魔法にしか思えないのですが……」
「もしかしたら、魔法ではないのかもしれない。淳史もそうだったが、“神の使徒”の中には魔法と似て非なる力を振るう者がいる。彼の技もそうである可能性は否定出来ないだろう」
「朧気でしかないが、ポゼッション状態の魔法と近い感じがする」
ガハルドとアステルの戦闘を見ながら銘々に感想を述べる。
「ポゼッション状態の魔法と?」
「ああ」
ポゼッションとは一種の神降ろしだ。“英雄の系譜”の中でも、現状はセティにしか扱えない。――もっとも、決して自由に扱えるわけではないが……。
そもそもの原因は十二聖戦士が神の祝福を受けた瞬間にある。彼らはそれぞれ異なる神から祝福を受けたのだが、その最も重要な部分は“血”の授受である。文字通りに神の血をその身に受け入れることで、彼らは神でなくば扱えぬ武器や魔法を扱うことが出来るようになったのだ。
基本的に神は人の世に干渉することを良しとしない。十二聖戦士に祝福を授けたのも、彼らの相手もまた神の祝福を受けていたからに他ならない。例外があったが故の特例だったのだ。
そんなスタイルなので、大半の神は祝福を授けるだけで良しとした。後はもう人の世の問題である……と。
しかし、その中においても例外がいた。それこそが“風使い”セティに魔法を授けた風神――フォルセティである。授けた魔法が自身と同じ名を宿すという親和性もあったのかもしれないが、彼は血を授けた際に、その意思をも織り交ぜたのだ。
その経緯から、
神を降ろした際の戦闘力は常とは比較にならないほどに跳ね上がる。その反面、負担も凄まじい。ポゼッション時には個人としての意識がハッキリしなくなるし、終了後には暫くの間身体をまともに動かすことも出来なくなる始末だ。……人に対して好意的な風神でさえそうなのだ。――いや、むしろ好意的であるからこそ、その程度ですんでいると言えた。
さて、ルール違反的な行いをした風神であるが、後にその行為が神にも人にも一筋の希望を抱かせることとなった。
そう、エヒトの暗躍だ。
エヒトは神のルールを破ると同時に逆手に取ったのだ。他の神々が住まう世界と人の世界の狭間に新たな世界――神界を築いたのである。
人の世に属するからこそ他の神もおいそれとは干渉出来ない。力ある神ほどルールに縛られるため尚更だ。
同時に、神の世界でもあるため人もまた容易には干渉出来ない。
そうして、永い時をかけて双方の力を削ぎ取っていったのだ。時間の流れの中、他の神の名は忘れ去られ、エヒトの名が取って代わる。その信仰の矛先もまた同じ。
そんな中、条件次第とはいえ一足飛びに人の世に状況を伝えられる神がいた。それこそが風神フォルセティである。彼の神は時のフォルセティ継承者を介することで注意喚起を促した。
かつて人の世に祝福を授けた神々もそれに倣った。フォルセティ以上に難しくはあったが、血というマーカーがあればこそ可能だった。
それはやがて実を結び、人の世の中にもエヒトに疑問を抱き、反旗する者が現れる。……それこそが解放者であり、“英雄の系譜”なのだ。
さておき。
実際にポゼッションを行えるセティが、アステルの力を近しいと感じた。その感覚は、決して気軽に捉えていいものではない。
「……どうかしたか?」
難し気な顔で何事かを思案する傭兵たちに、戦闘を終えたアステルが問いかける。
「いや、ちょっと気になることがあってね。ただ、現状では考えたところで答えが分かるものでもない。そんな類のものさ」
「そうか。……まあ悩むのは自由だが、取り敢えずは先に進まないか?」
「そうだね。そうしようか」
何でもないと答えるのは簡単だが、それで誤魔化せるようなものでもない。そもそも誤魔化す必要がない。
気軽に捉えられるものではないが、答えを出すには情報が足りなすぎる。その事実もあって、概ね正直にセリスは答えた。
それが良かったのだろう。アステルは然程気にすることなく先に進むことを提案し、セリスもまた同意した。
そうして一行はマッピングをしつつ、【オルクス大迷宮】の深層を進んで行く。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「まあ、まだまだ先にはなるだろうけどさ。やっぱ決めるだけは決めておかないと。……領にどういう防護を敷く?」
ある日のことだ。オスカーの隠れ家、その一室にて開口一番、鈴はそう言った。
集められた面々はすぐに答えることが出来ない。そもそも集合理由を聞かされていなかったので、答えることが出来る筈もなかった。
集合理由は分かったが、次はこのメンバーである理由を考えねばならない。鈴を除けば、龍真、天誡、ハジメ、光輝、幸利、重吾、淳史、亮、ウィル、フリード、カリオン、リーフ、香織、雫、恵里、愛子、アレーティア、シア、ティオがこの部屋にいる。……各々が周囲を見渡し、自分が呼ばれた理由を考える。
そんな中、ウィルが真っ先に手を挙げた。
「その前に質問をいいですか? 自分がいる理由が分からないのですが?」
「私も同感ですぅ」
紛うことなき本音を語れば、シアもまたそれに続いた。
「はあ……鈴、説明不足にも程がありますよ? まあ、私もハッキリと分かるわけではありませんが、推測することは出来ます。
私たちが主に使う氣と、この世界の魔法は似て非なる力です。そしてこの“勇者領”は、その名の通り天之河君が頂戴した領地ですが、この世界に根差す土地であることに違いはありません。
何れは去る以上、何から何まで私たちで決めることは出来ず、必然的にこの世界に住まう者の意見を聞かないわけにはいきません。同時に、『氣による防護と魔法による防護は重複するのか』を確認してしまおう。……おそらくはそんなところだと思います」
亮が言って、『違いますか?』とばかりに視線を鈴に向ければ――
「さっすが先生。代弁感謝します!」
体よく亮を使った鈴が笑みを浮かべて答えた。
理由が分かれば、ウィルにシアも納得を示す。防護案を述べるのではなく、防護案に対してどう思ったかを述べる。それが自分の役割である……と。
他の面々もそれぞれに納得を示した。今は行動を共にしているが、元来属する組織はそれぞれに異なる。だからこその意見が欲しいのだ……と。
何故ならこの領は『種族による差別をしない』のだから。
それでも、全員を全員呼ぶことなど到底不可能なので、種族代表や組織代表という態でこの場の面子にお鉢が廻ったのだ。本来ならレオンらにも参加してほしいところだったが、現在領にいない以上は仕方がない。
「んでまあ、私としては“五神結界”なんかが良いんじゃないかと思うのよ。そりゃあ難度は高いだろうけど、それでも“黄龍の器”に四神の宿星持ちがいる以上、普通にやるよりは難度は下がる筈だし……。
ハジメンとユッキーに五神の形代を創ってもらって、それぞれの氣を注入。その後、愛ちゃん先生に龍脈と重なる位置を見つけてもらってそこに設置。東の青龍、西の白虎、南の朱雀に北の玄武、そして中央には黄龍。適切に配置し、その上で術式さえ間違えなければ、後は言霊の効果と相俟って龍脈を流れる氣を利用することで半永久的に効果が持続するって寸法だね。……まあ、現状では机上論だけど」
鈴の説明を聞き、納得の表情を浮かべる者と首を傾げる者に分かれる。主に地球から召喚された面々が前者、トータス生まれが後者だ。
如何に地球生まれとは言え、一部の面々を除いてはそこまで専門的な知識はない。それでも、雑学に溢れる日本という土壌、宿星からの加護、そういった諸々が積み重なれば、何とはなしに想像することは出来る。
一方、そういった前提知識に欠けるトータスの者たちは、その多くが首を傾げざるを得ない。例外はアレーティアとシアぐらいだ。二人はこの中でも“神の使徒”に出会ってからの時間が長く、それでいて鈴や龍真、浩介から色々と聞いてもいる。
「う~む、いまいちよく分からぬ部分もあるが、そちらの言う言霊とは『先達に倣う』ということかの? 伝説に名高き英雄の如くなってほしいと親は子にその名前を付けたりする。二つ名や魔法も然りじゃ。
そうして名付けられたモノの中には、時折新たに謳われるモノが現れる。伝説は新たな伝説に塗り替えられ、統合され、そうして後世へと伝わっていく。……良くも悪くもな」
ティオが鈴の説明に対して言及した。自分なりに嚙み砕いたのであろうその内容は、概ね間違ってはいなかった。
「……驚いた。前提知識なしによくそこまで分かったね?」
「ま、ただただ齢を重ねているわけではないという事じゃよ。何であれ、共通点や類似点というものは少なからず存在する。そういった点から突き崩していくのが、未知への対応策の一つじゃな」
鈴がティオの言葉を認めたことで、フリードたちも理解の表情を浮かべた。専門用語では分からなくても、言い換えれば分かる部分も存在するものだ。
「すみません、こちらからもいいですか? 宿星というものについてお訊きしたいのですが?」
今度はリーフから質問が上がる。それに対して答えを返せば、納得したように頷いた。
「……なるほど。もしかしたら、僕たちも宿星持ちと言えるのかもしれないな……」
「と言うと?」
リーフの言葉に、今度は天誡が訊き返す。
「僕たち“英雄の系譜”は、文字通りに英雄の末裔で構成されている。ただ、より詳しく言えば『神の祝福を受けたとされる』英雄に限られているんだ。理由はただ一つ。そうでなければ理解も納得も得られないからさ。
セリスやセティを始め、色濃くその血を継ぐ者の中には神の声を聞く者がいる。セティに至っては、限定的ながらも風神フォルセティをその身に降ろすことが出来る。そして僕を始めとした血の薄い者は、そこまでハッキリと声を聞くことは出来ない。それでも、朧気ながらも感じ取れるんだ。少なくとも『神が警鐘を鳴らしている』ことくらいはね。
英雄の子孫という点では同じでも、神の祝福を受けていなければそれが分からない。勧誘したところで眉唾物として受け止められるだけだし、そこまでの危機感を抱くこともない。……足並みを合わせることが出来ないのさ」
それを聞けば、確かに宿星と共通する部分はあった。セティの神降ろしはハジメたちの“四神覚醒”と言えなくもない。まあ、あくまでも『そう捉えることも出来る』といった程度でしかないが……。
「ま、そこら辺の真相は後廻しでもいいだろうさ。……んで、たぶん俺がいるのは『結界に仙術を組み込めないか』ってところだと思うんだが、だとしたら悪いな。技量も知識も、まだそこまで習熟してないんだ」
そう言うのは淳史だ。中国の神秘――仙術。
氣に精通する者もいる“神の使徒”だが、仙術を扱えるのは淳史だけだ。
日本独自の術理もあるが、中国を始めとした海の向こうから伝わってきた術理もまた多い。時の流れの中、融合を重ねた術理も然り。そんな中で『原初の術理』と表現してもいい仙術を扱える者が身近にいるのだ。その意見を伺うのは自然と言えた。
「まあ、無理もあるまいな。元々が宿星頼みなのだ。時間をかければともかく、現状ではいくら何でも高望みが過ぎようというものだ」
そもそも、仙術に限らず何事も奥深いものだ。表面の触り程度ならともかく、その深奥まで触れ、学ぶとあれば、時間がいくら必要かも分かったものではない。モノによっては一生を費やしても足りないことなどザラにある。
確かに淳史は仙術を扱えるが、幼い頃から時間をかけて学んだものではなく、あくまでも宿星の加護によるものだ。必然的に『先代が修めた部分まで』という上限もあるし、それとて一朝一夕に扱えるものではない。相応の時間をかけて習熟する必要がある。かかる時間だって術の難度や本人の資質、優先して学ぶ傾向によってバラバラだ。
そして淳史は主に戦闘面で使用する部分を優先して取り込んできた。その中には癒しの技もある。それであれば結界技と共通する部分もあるかもしれないが、その知識が今の淳史にはない。礼星から引き出すことは可能だが、それだけでは上っ面の知識に過ぎない。己がものとして落とし込まない限りは、問題が起きた時に対処のしようもない。仙術に対する根本的な知識が他の面々にはない以上、その部分において頼ることも出来ないのだ。
「予想は出来てたけど、仕方ないか……。確認しないわけにはいかなかったし……」
軽い溜息を吐いて、アッサリと鈴はその現実を受け入れた。言葉通り、予想はついていたからだ。予想を裏切られたなら儲けもの……仙術についてはその程度の気持ちしかなかった。まあ、落胆が無いと言えば嘘になるが。
その後も、時間の許す限り色々と話し合った。直接的に防護結界に関わる事柄から、そうでない事柄まで、文字通り様々に。
種族的に譲れぬ事柄というモノも存在する。多種族が共生する以上、“勇者領”においてはその点にも他に比べて注意を払わねばならない。結界を敷いた結果、それらに抵触するとあれば問題だ。互いに譲歩しあい、それで解決するようならば良し。解決しないならやり方を見直さなければならない。
たとえ結界には問題がなくても、『種族的にこういう環境が欲しい』という要望は少なからず存在する。
吸血鬼族は現状確認出来ているのがアレーティアだけだから、その意向を吞める部分で吞めばいい。彼女自身、元王族であるし、実力はともかく勢力としては個人に過ぎないので、通せる我儘についての機微も分かる。
しかしそれ以外の種族――人間を始め亜人族に魔人族、竜人族はそうもいかない。領である以上、住人がいなくてはお話にならないのだ。必然的に住人の数を占める種族には、より譲歩しなければならない部分も出てくる。無論、反対にこちらの意見を吞んでもらう部分も多くなろうが……。
未だ村として、町として、街として、明確なカタチが出来上がっていないからこそ、そしてそんな状態であるにも拘わらず、多種族が集っているからこそ対応可能な点もある。
そういったあれやこれやを話し合っていけば、日にちはどんどんと過ぎ去っていくのであった。