その夜のことだ。
晩餐会の後、一同はトータスでの生活のために用意された部屋へと案内された。その際、驚くことに王宮は各自に一室ずつ部屋を準備していたことが判明する。部屋の広さもそこそこあり、ベッドは天蓋付きだ。何とも豪気なことである。
教会と王宮の結びつきの強さ。そしてエヒトへの信仰の強さ。それらの一端がここにも覗えた。
そんな豪奢な部屋の一室に、現在五人の姿があった。部屋の主となった緋勇龍真の他に南雲ハジメ、白崎香織、八重樫雫、永山重吾である。
色々あったために先延ばしにされたが、放課後に予定していたことをやってしまおうということだ。すなわち重吾への説明である。
「さて、教会の大広間での出来事を思い出してほしい。俺とハジメは特に動かなかったが、雫と香織がここにいることから分かると思う」
龍真はまずそう切り出した。そして視線を重吾へ向ける。
「氣やら霊力やらを扱う、という話だな?」
言葉無き問いを向けられた重吾もすんなりと答える。信じがたい話になる、とは言われていたし、それに加えて、大広間での出来事、とくれば、分からない方がおかしい。
広間での出来事は重吾にしても確かに驚きの連続だった。不思議な力を説明するのには――視覚的効果で考えるなら――香織が天之河を癒した光景が一番インパクトがあった。だがそれ以外にも驚く点は多々あった。雫がイシュタルへ刃を当てた際、その瞬間まで気付くことは出来なかった。香織の天之河への暴行も、普段の姿からは決して想像出来ない。
「そうだ。俺たちは氣を扱う。……そしてそれが、お前への説明に繋がる」
「それは分かったが、では他の面々は? 九角の話によれば、各々の性質に左右されるらしいじゃないか。であればこそ、他の面子がいてもおかしくはないと思うが?」
重吾の疑問は当然のことだ。彼自身、今まで氣やら霊力なんぞはオカルトだと思っていたのだ。現在進行形で受け入れざるを得なくなっているものの、それはああまで盛大に分かり易く披露されたからだ。そうでなければ、今もってオカルトという認識だったはずだ。
それすなわち、元の世界では隠されていた、ということを示している。なればこそ説明する人数が少なくても理解出来る。
だが、最早隠す必要がない以上、関係者全員が揃っていても構わないはずだ。才覚に左右される――得意分野が異なる――となれば尚更だ。
「その疑問は理解出来る。――が、現時点において、俺たち以外は邪魔になる」
「……それは一体?」
「永山君は、宿星、という言葉を聞いたことはあるかしら?」
龍真の言い様に疑問を抱く重吾。そこへ雫が声をかける。
「……いや。不勉強ですまないが、聞いたことがない」
暫し記憶を漁り、重吾は答えた。
「まぁ無理もないと思うよ? 私だって
「僕は家庭環境もあって知識として知ってはいたんだけどね。けどまぁ、まさかそれに関わることになるなんて
フォローするように答えたのは香織とハジメだ。
「そう言ってもらえると助かる。――いや待て!」
重吾は二人に礼を告げ、何かに思い至ったかのように声を荒げた。
この春までは、と言う香織。そして、高校生になるまで、と言ったハジメ。……それは、龍真に相談した理由である、自分を悩ませる夢と幻聴。それが起こった時期と一致しているのではないか?
情報を整理する。
夢と幻聴の説明には氣が関わっており、それには更に宿星とやらが関わってくる。そしてこの宿星に関する部分で、この場にいる面子が深く関係してくる。現時点において邪魔になる、という言葉から天誡たち――神の末裔という恵里もだ――は氣や宿星には関係あるものの、今回の話には関与しない。
この場の面々で共通点は? 同級生。それ以外には、強いて言うなら宿星。
宿星について分かることは? 氣に関係あることくらい。それ以外ではハジメと香織が宿星に関わったのは春以降、高校生になってから。――いや、違う! 実感こそないものの、この場にいる以上、自分もまた宿星に関わっている!
逆説。宿星に関わっている以上、自分は氣にも関わっている。今はただ、その扱い方を知らないだけにすぎない。
それを踏まえての仮定。ハジメと香織は春以降、高校生になって――自分が夢と幻聴に苛まれ始めた時期と一致する――から氣の存在と扱い方を知った。その結果として宿星が関わっていることを知った。
考えすぎなのかもしれない。しかし、そうでない可能性は否定出来ない。
ならば、確認しないわけにはいかない。
「南雲、白崎。もしかして……だが、二人は高校生になってから氣を知ったのか?」
意を決して訊ねた重吾の問い。それに二人は、ニヤリ、と口角を変えることで答える。正解だと言わんばかりだ。
ハジメに至っては――
「ちょっと直接的すぎたかな?」
――言う始末。
ここまで言われれば嫌でも分かる。自分は試されていたことを重吾は理解した。僅かに不快な気分を抱く。
「ちょっと悪戯が過ぎた様だが、コレはコレで重要なことだから許してほしい」
察した龍真がすかさず陳謝した。そして続ける。
「お前はいま二人に質問したわけだが、それはなぜだ? 二人のセリフに気になる部分があったからだろう? では、なぜ気になった? それはお前が魘され始めた時期と一致するからだ。……違うか?」
「……いや、その通りだ」
己が二人に質問をした経緯をほぼそのままに当てられた重吾は頷くしか出来ない。
「もし二人のセリフに、この春までは、高校生になるまで、これらが入っていなかったらどうだ? お前はここまで気にしたか?」
言われ、重吾は考える。
『まぁ無理もないと思うよ? 私だって聞いたこともなかったし』
『僕は家庭環境もあって知識として知ってはいたんだけどね。けどまぁ、まさかそれに関わることになるなんて思ってもみなかったよ』
言葉として破綻はない。そこまで気にかかる部分もない。
「……考えてみたが、おそらくは、そういうものか、とただ納得していただろう」
「……だろうな。それが普通だ」
重吾の答えを、龍真はただ肯定する。
「けどね、永山君? この世界、何がどう関わってくるかなんて分かったものじゃないってのは理解出来るでしょう?」
「確かにな。現にこうして異世界にまで来てしまっている。高校生活を送っているだけでこんなことになるとは思ってもいなかった」
「フフ、確かにね。けど、だからこそ、知識は重要だし、物事に注意を払うことを心掛けなくてはならないのよ。……必ずしも即時に効果が出るわけじゃないけどね」
「注意を払う……か」
言いたいことはそれか、と重吾は理解した。
たった一節。それがあるかないかだけで如実に差が現れる。それを自分は認めてしまった。
表向き自分に関係が無くても、自分に関わってくることはある。だから簡単に捨て置くな、とつまりはこういうことだ。
悪戯と称した分かり易い例まで挙げてもらったのだ。そうまでされて理解出来ないほどバカじゃない。
重吾が理解したのを悟ったのだろう。
「本題に入ろう」
龍真が口を開いた。
「人ひとりひとりの運命や根源的性質を司る星。……それが宿星だ」
「名前を知られている星もあれば、知られていない――つまりはそれまで認知されていない星もあるけどね」
「重要なのはここからでね。星によっては互いに干渉しあうものもあるの。共鳴や共振と言ってもいいかもしれないね? 星の関係性によって度合いはまちまちみたいなんだけど……」
「問題なのは、その共鳴は氣に目醒めてるかどうかは関係なく起こるってことなのよ。更に厄介なことに、相手が氣に目醒めない限り――もしくは無意識にでも氣を使ってくれない限り――こっちはまず間違いなくそれに気付けないのよ」
龍真、ハジメ、香織、雫の順に語っていく。……雫に至っては頭を抑えて溜息を吐いている。
当然、重吾は自分に起こっていることを理解した。
「……なるほどな。それはつまり?」
「うん、まぁ、そういうことだ。……すまん」
「ごめん」
「ごめんね」
「ごめんなさい」
四者一斉に頭を下げた。
つまり今までの前振りは、自分への注意喚起であると同時に盛大な自己弁護でもあったわけだ。
自分を悩ませている現象は、彼らからの共鳴によって引き起こされていた、ということだ。ここ最近になって頻度が上がったのは、おそらくハジメと香織がそれだけ氣に習熟したからだろう。
彼ら自身に悪気がないことは分かる。彼らの意志でどうにか出来るものじゃないことも分かった。しかし、もう少しこちらに注意を払ってもらえれば、もしかしたら悩みはもっと早く解決していたのかもしれない。
嘆けばいいのか。それとも怒ればいいのか。正直なところ、重吾としても受け止め方が分からない。
「……頭を上げてくれ」
深呼吸を一つ吐いて重吾は言った。
「さて、言い訳のように聞こえるかもしれないが、重吾に起こった問題は共鳴だけじゃないんだ」
「貴方を含めてこの場に五人。それ以外にもまだ数人。……氣の使い手が一つの教室に集まるにしては多すぎると思わない?」
「……確かにな」
龍真と雫の言葉に、重吾としても頷かざるを得ない。
「実際、異常なんだよ。氣の使い手だけならまだしも、宿星の加護持ちなんてのは中々現れるもんじゃない」
「現れるとしたら、それこそ動乱の時代くらいなものなのよ。……特に私たちの宿星は」
動乱の時代。そして戦争目的の勇者召喚。イコールで結べなくもない。
「……なるほどな。俺たちは呼ばれるべくして呼ばれたわけだ」
「ああ。そしてエヒトの目的次第では地球にも動乱が起こる。いや、地球という世界はそうなることを確信している」
「だからこそ、対抗する力を増やそうとしていたわけね。私たちのクラスに異常なまでに集まっているのもそれが理由。こちらに召喚されたことで、ようやくこの春以降の状況の流れに説明がついたわ……」
「僕と香織が氣に目醒めたのは入学式なんだけどね? それ以降はも~う酷かったよ!」
「氣に目醒めた人たちが次から次へと問題を起こしてくれたからね……」
頭を抑える雫、死んだ目で明後日の方向を見るハジメと香織。……重吾は同情した。
「まぁそんなわけで。遅かれ早かれ、永山君も自然に目醒めていたとは思うのだけどね? 私たちの存在がムダにせっついてしまったのよ」
「うむ。……それで、結局のところ俺の宿星は何なんだ? 勿体ぶられている気がしてならんのだが?」
「西方、及び五行は金行を司る四神の一柱・小陰白虎。それがお前の宿星だ」
四神・白虎。重吾とてその名は当然知っている。メジャーもメジャーな存在だ。現代日本に生活していて、玄武、青龍、朱雀、白虎の名前を聞いたことがない者はまずいないだろう。
「……む、待ってくれ? この場には五人いるが?」
四神の名前は重吾も知っているが、他に関係しそうな名前が思いつかない。……そこまで詳しく調べたこともないから仕方ないが。
「僕の宿星は青龍。司る方位は東方、五行は木行、四象では小陽となるね」
ハジメが。
「私の宿星は朱雀。司る方位は南方、五行は火行、四象では老陽だね」
香織が。
「私の宿星は玄武。司る方位は北方、五行は水行、四象では老陰となるわ」
雫が。
「俺の宿星は黄龍。司る方位は中央、五行は土行、四象はなし。強いて言うなら半陰陽か? ……黄龍は四神の長とされている」
そして龍真が告げた。
「黄龍。……初耳だな」
「まぁ無理もない。……さて、これから俺たちの氣を以てお前に干渉する」
「放っておけば目醒めると同時に暴走しかねないからね」
「そうならないように私たちの氣で抑えるから」
「平常心を心掛けてちょうだい」
何やら暴走だのと怖い単語も聞こえたが、ここまで来たら四の五の言っていられない。
正座を組んで、深呼吸をし――
「やってくれ」
――意気を新たに重吾は言った。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
そして翌日。
兵士たちの鍛錬場に龍真たちはやって来ていた。
召喚された勇者たちが最初から戦えるとは限らない。エヒトの思惑はさておき、神官や王宮には、上位世界からの召喚者は例外なく強力な力を持っている、ということしか伝わっていないからだ。強力な力を持っている=戦う術を身に着けている、とはならないことぐらい少し頭を働かせれば分かる。
また、召喚対象が最初からこの世界のことを知っているとも限らない。召喚の際に付与される可能性もあるが、確実に付与されると伝わっているのは言語理解の技能くらいだ。言語の壁さえなくなれば、後はこちらの努力次第でいくらでも詰め込める。
そんなわけで、王宮は騎士団と宮廷魔法師から、訓練における教官を用意していた。その教官たちのトップに立つのが現役の騎士団長メルド・ロギンスである。
無論、騎士団長ともなれば座学も相応に出来るが、やはり得意分野は戦闘となる。そのホームフィールドに相応しいのは、当然ながら講義室よりも練兵場だ。
「まずは、皆にこれから身分証となる物を配る。全員素直に受け取ってくれ」
一同の前に立ったメルドが口を開く。その横にはレオンハルトの姿もある。
身分証と聞いて素直に受け取らない者はいない。全員に配られるまでそう時間はかからなかった。……なぜか針も一緒に配られたが。
龍真は受け取った身分証を見た。十二センチ×七センチくらいの銀色のプレート。一つの面に魔法陣が刻まれている。
確認している間に配り終えたようでメルドの説明が続く。どうやらこのプレートはステータスプレートといい、魔法陣に血を垂らすことで所持者登録されるらしい。神代のアーティファクトの類だとか。
アーティファクトに関してはそう驚くこともなかった。魔法の道具、というだけならば霊場で簡単に手に入る。強力な物になれば奥深くへ潜らなければならないが、そうでないなら低階層でも十分だ。道具の種類にもよるがハジメも作れる。――それでも、複製するアーティファクト、というのには驚いたが。
ともあれ、魔法陣に血を垂らすと一瞬淡く輝いた。
(……なるほど?)
表を確認し、龍真は首を傾げた。
名前、年齢、性別、レベル、天職、筋力、体力、耐性、敏捷、魔力、魔耐、技能が表示されている。身分証という言葉に間違いはないし、これに数値が並ぶのなら、客観的ステータス、というのも頷ける。
だが、龍真のステータスプレートの表示はどこかおかしかった。
名前、年齢、性別……これは問題ない。現在の龍真をそのまま表している。
しかし、だ。
レベル:測定不能。天職:救世主。そして筋力から魔耐まで軒並み測定不能が続く。……これはどう考えてもおかしいだろう。
それでも、天職だけならばまだ分からないでもない。一説によると陽の黄龍の器とは、動乱の時代、大地の氣が乱れた際にそれを治めるべく産まれる、とある。大地の氣とは世界の氣と同義だ。世界の乱れを治めるとあらば、救世主と称しても間違いあるまい。
技能に関しては分からない。古武術や全属性適正など、流派を思わせる記載はある。その一方で氣や宿星に関する記載はない。世界合一という記載もある。
結論としては、おかしい、と言わざるを得ない。
ともあれメルドの説明を待つ。
(……なるほど)
先ほどよりは理解出来た。
レベルは人間が到達出来る領域の現在値を示す。上限は100。100まで行けば人間としての潜在能力を全て発揮した極致に他ならない。――しかし、それがあくまでもトータスの人間を基準としているのだとしたらどうだろうか。如何に作られたのが神代とはいえ、ステータスプレートはトータス産だ。その可能性はあり得るだろう。
(上位世界云々はてっきりエヒトの戯言かと思っていたが、どうやら真実そうである可能性が出てきたか……)
天職は才能。技能と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。
世界が、世の乱れを治めろ、と望んだ結果生まれてくるのだから、世界を救うことに関してこれ以上の才能はあるまい。
戦闘系は千人に一人。ものによっては万人に一人。非戦闘系は百人に一人。十人に一人のものもある。天職持ちは少ないとのことだが、あくまでも戦闘系に限った話の様だ。
果たして自分の天職はどちらに分類されるのか。
珍しさの割合で考えるなら戦闘系だが、戦闘だけ出来ても世は救えまい。その逆もまた然り。治安だけ上手くともかかる火の粉は払えない。
結論としては、一挙両得か一石二鳥の類となるか。
また、技能には先天技能と派生技能の二種類あるらしい。大枠が先天技能で、その中にプラスされる形で派生技能が表示される。派生技能=後天的技能らしいが、ものによっては先天技能に分類されている。
例えば足運び。武術という大枠で見れば派生技能だろう。だが足運びも細かに分かれているものだ。その結果、先天技能として表示されている。
そして技能として表示されるのは、この世界の神代で分かり得るもののみ、と思われる。氣や宿星に関する記載がないのはそのためだ。
その一方で、神代の言葉で表せられるのなら、自動的に分類して記載されるようだ。世界合一などはその代表だろう。
おそらく世界合一は黄龍の器としての特性だろう。龍穴を自在に操るのであれば、それは世界との同一化と捉えられても不思議はない。
そして各ステータス。
トータス人におけるレベル1の平均は10くらい。日々の鍛錬で上昇する。表示されるのは魔法や装備による諸々の補正を込めた数値。
これもレベルと同じ理屈だろう。地球から召喚された者は、ただ生活しているだけの高校生ですら規格外と評されるのだ。幼い頃より氣を学び、鍛錬を欠かしていない自分は、そこらの学生を軽く凌駕するのは間違いない。そこに諸々の補正効果を足すとなれば、この世界に生きる者たちの想定を超えてもおかしくはないだろう。
そも客観的とは具体的な数字や前例などから物事を考えたり判断したりすることだ。そうである以上、その基準はトータスのものが絶対となる。人間の作ったものであれば、果たしてどこまでなら捉えらえるものだろうか。仮に神を測ったところで、数値化など出来る筈もない。
つまりステータスプレートで表示される数値の上限は、神代に生きた人間の極限値。それを超えれば測定不能になると考えていいだろう。
(身分証としてはともかく、それ以外ではあまりアテにならなさそうだな……)
それが龍真の偽らざる感想だった。
さて、そうこうしている内に龍真の順番がやって来た。訓練内容の参考にするらしく、メルドがステータスプレートの内容を確認しているのだ。
「はあッ!?」
そしてこの反応だ。驚愕の声を上げた後は固まっている。
「メルドさん?」
「……あ? ああ、スマン。しかしこれは……?」
言葉を失くして考え込むメルドに、龍真は大雑把に憶測を語る。世界合一については自分でも分からないとした。
「フゥム、なるほどな。イシュタル教皇から報告は受けている。勇者一行の中には上位世界由縁の御業を扱う者たちがおり、それを教えて頂ける……とな。聞いた当初は、果たしてどれほどのものか、と思っていたが、いやこれは心強い! お前以外には誰がいるんだ?」
どうやらイシュタルから前もって説明を受けていたらしい。メルドは存外すんなりと納得していた。
龍真の呼びかけに続々と現れる面々。その中には、昨夜、無事に氣を会得した重吾の姿もある。
遠藤浩介――天職:暗殺者。特筆すべき技能は死神。
神夷京弥――天職:剣聖。特筆すべき技能も同じく剣聖。
九角天誡――天職:裁定者。特筆すべき技能は剣鬼。
清水幸利――天職:傀儡師。特筆すべき技能は無し。
白崎香織――天職:治癒師。特筆すべき技能は炎帝。
園部優花――天職:料理人。特筆すべき技能は薬膳。
谷口鈴――天職:結界師。特筆すべき技能は無し。
永山重吾――天職:重格闘家。特筆すべき技能は金剛帝。
南雲ハジメ――天職:錬成師。特筆すべき技能は嵐帝。
比良坂恵里――天職:降霊術師。特筆すべき技能は神言。
八重樫雫――天職:トリックスター。特筆すべき技能は水帝。
ステータスは優花と重吾は軒並み数値が載っている。測定不能は一つもない。それ以外の面々は数値ありと測定不能が混在。全てが測定不能なのは龍真の他には天誡だけだ。
また、特筆技能は今のところその人物しか持っていない技能である。
天職と技能名は、自分たちがそれぞれの人物を見た場合には、関連付けられるし想像のつくものばかりだ。
例えば天誡。彼の宿星は閻羅。すなわち閻魔大王だ。地獄の裁判官として知られる彼の者の名を宿星に頂くのであれば、裁定者という天職にも納得がいく。それに彼の剣は陰氣を込めたものばかりだ。剣鬼という技能名も已む無しだろう。
その一方で、それぞれ個人をよく知らない者にとっては疑問を覚える組み合わせのものもある。天誡、香織、ハジメ、雫はその最たるものだろう。人によっては裁定者と剣鬼など真逆の組み合わせに思えるだろうし、治癒師と炎帝に錬成師と嵐帝、トリックスターと水帝だのは、とても連動しているようには思えない。
というか、そもそも剣聖やトリックスターは天職と呼べるのだろうか。どちらかと言えば称号の類に思えてならない。……まぁ、それを言ったら救世主だの勇者だのも同じだが。
「うぅむ、これは……。いや、驚きには違いないのだが……」
メルドも例に漏れないらしく、天職と技能の組み合わせに対してしきりに首を捻っている。
「ああ、そうだ。忘れてた。……メルドさん、コレ役に立ちますか?」
そんな中、優花が思い出したように折り畳んだ紙を取り出してメルドに渡す。
「ん、何だ? ……こ、これはッ!?」
紙を広げて確認したメルドは、再度驚愕の声を上げた。
「一応、私たちの使う基礎的な文字をこちらで使う文字に照らし合わせてみました。よく分かりませんけど、軍部では必要かと思って……」
どうやらそういう事らしい。文字の翻訳・変換範囲については既に話を聞いている。それを利用して作ったようだ。
元の世界と違い、この世界に電話などは普及していない。電子メールも然りだ。遠方の者に対しては、直接赴くか手紙を認めるしかないのだ。
軍部についてもそれは同じだ。いや、魔人族との戦争を行っている今現在においては、情報のやり取りはより重要度が高くなる。
そこにコレだ。
優花の用意した文字が平仮名か片仮名かは分からないが、どちらにせよこの世界の者にとっては読むことが出来ない。文字と認識出来たところで、内容が分からなければ意味がない。そこに種族の違いはない。
そんな状況で、人間族だけが分かる文字があったらどうなるか。結果は簡単に想像出来る。
騎士団長ともあって、メルドもそれは同じらしい。
「正直言って助かるが、本当に良いのか?」
「ええ。恥じない使い方をしていただければ、としか私からは言えません」
例えば包丁。料理に必要なそれだが、使い様によっては凶器ともなる。これで事件が起こった場合、作った者よりも使った者の方が責任を大きく問われる。
今回用意した文字についても同じだ、と優花は言いたいのだろう。
「……分かった。殿下、すみませんが後をお願いいたします。自分たちは今しがた受け取ったコレについて至急協議せねばなりません」
「了解した。……とはいえ、出来るだけ早く頼むよ? 僕が人に教えたのなんて、リリィやランデルの他は新人冒険者くらいなんだからさ」
「ハッ、感謝いたします! 行くぞお前ら!」
レオンハルトとやり取りをした後、メルドたちは颯爽と去っていった。
「ま、とりあえず続けようか。よろしく頼むよ?」
呆気に取られる大半を余所に、レオンハルトは微笑を浮かべてそう言った。
ステータスの数値を考えるのが面倒。→なら考えなければいい。……というこじつけの結果です。
清水と鈴の特筆技能が浮かばなかった。