サイド6フラナガン研究所への片道切符を進呈します。
土曜日の夕方五時半。いつも通りに仕事を終えて妻と息子が待つ家に帰ったその日のことを私は忘れることはないだろう。妻はいつものように夕食を作りながら私にねぎらいの言葉をかけてきたが、息子はいつものようにテレビに夢中で私が帰ってきたことに気付いていなかった。
「またお前はアニメ……ダイタンなんとかか? いつも飽きないなぁ」
若干の嫌味を込めて言うと、息子はむっとしながら言い返してきた。
「ダイターン3は先週終わったよ。今日からは新しい番組なの。めっちゃ面白そうなんだよ?」
「ふーん、そうか」
当時の私はアニメには興味はなく、テレビから流れる軽快なアニメのオープニングソングを聞きながら新聞を読んで時間を潰していると壮大な音楽が耳に入った。アニメの音楽にしてはちょっと頑張ってるんじゃないか、などと思っていると──
『人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、既に半世紀が過ぎ──』
ふと、アニメの設定を語るナレーターの言葉が気になった。それは、人類が宇宙移民を果たした世界で独立戦争を挑んできた宇宙都市と地球軍の戦いを描いているアニメで、普通のアニメと雰囲気が違っている気がして、新聞を読む手を止めるとじっとテレビを見つめていた。
宇宙空間を武骨な緑色のロボットが動いていると、巨大な建造物──最近何かの媒体で見たスペースコロニーらしきものに入っていった。そしてロボットから緑色の宇宙服らしきものを着た人が降りてきた。コロニーの住人が避難しようとしているシーンが流れ、次に目にしたのは……
『私もよくよく運がない男だな』
仮面をつけた青年がコロニーの外に泊めている戦艦から呟くシーンが出てきた。
「……人間?」
これまでのロボットアニメといえば敵は宇宙人や化け物ばかりで子供らしくて見る気がなかった。だが、敵が人間だって? これまでのアニメにはない描写に驚いてつい呟いてしまった。それからの描写には驚きの連続だった。爆発に戸惑う軍人、落ちてくる銃弾の空、避難シェルターに避難する民間人、次々に殺されていく人々の姿、そして──
『こ、これは……連邦軍の、モビルスーツ』
偶然、何かのマニュアルを手にしたアムロという少年。アニメチックな展開ではあったがここまでの一連の流れを私は引き込まれるかのように見ていた。
「父さん……ハマったね?」
一旦放送が中断して流れ始めたCM中、ニヤリと笑って問いかけてきた息子に、似たような笑みを浮かべて返した。
「ああ、ハマったよ。しばらくはこの時間までに仕事を終わらせて頑張って帰らないとなぁ……」
「お仕事頑張ってね、父さん。僕もガンダムのグッズとか欲しいし」
「はいはい、わかったよ。お小遣い弾んでやるよ……ガンダム?」
「このアニメのタイトルだよ、ちゃんと見てなかったの?」
ほら、そろそろ出てくるよ。息子がテレビを指さす。流れていたCMがちょうど終わり、ジングルと共にアニメのタイトルが映し出された。
『機動戦士ガンダム』
白いボディに赤、黄色、青の三色を纏った鋼のロボット、モビルスーツの戦いを描いたそれは、私の人生を変えることになったアニメのタイトルであり──自分の生涯をかける存在となった。
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それから数年、数十年もの時が流れた。機動戦士ガンダムはシリーズ化して様々な続編や世界観が異なる作品が誕生し、私と息子はその度にこの作品はここがいい、あのMSのこういうところが好きといったように談義していた。しかし、どんな作品が出てきても一番好きなのは『初代ガンダム』であることはお互いに変わらなかった。
ガンダムの始まりの作品であるから? ガンダムのデザインが一番好みだから? いろんな理由があるが、やはり親子で初めて一緒に楽しんだ共通のコンテンツであったことだろうか。
時が流れて成長した息子を送り出して私と妻がすっかり年老いた頃。かつてのような気力はなくその日その日をぼんやりと過ごす日々が続いていたある日、息子がある提案をしてきた。
「父さん、俺ガンダムのガンプラを作ってきたんだ。こいつでさ、やってみないかい──GBN」
GBN。正式名称はガンプラ・バトル・ネクサスオンライン。ガンダムのプラモデル、ガンプラを読み込んでデータ上の世界でそれに乗り込んで戦うことができるオンラインゲーム。いつかガンダムを操縦してみたいと思っていた私はそれをやってみることにした。そして、私はその世界にのめりこんだ。ついついやりすぎてしまって数年ぶりに妻に叱られるくらいにやりこんでいて──ある出来事がきっかけで、引退した。
それがきっかけで息子との仲に亀裂が入りしばらく話す機会もなかった。そんなある日息子の近所のショッピングモールでかつて見た『劇場版機動戦士ガンダム』が再び上映されるとの話を聞き、息子を誘って見に行くことにした。
昔のようにガンダムの映画を見ることで関係を修復できないか。息子も同じようなことを考えていたらしく、誘いに乗ってくれた。そして──亡くなったという連絡が入ったのはその日の夕方。映画を見た帰り道で別れてから数分後に交通事故に巻き込まれたのだ。
「……お義父さん。そろそろ帰りましょう」
「ん? ああ。帰るか」
交通事故から数日が経った。息子の葬儀は終わり、火葬場でぼんやりと骨壺を抱えていていると息子の妻が声をかけてきた。あの頃、ガンダムを見ながらニヤリと笑っていた息子がすっかり年を取りあの頃の自分に似た社会人となった頃に彼女を連れてきた時はとんでもない美人で驚いたものだ。そんな嫁さんを若くして泣かせるとは……
「……本当、バカ息子め」
「えいっ!」
「あだっ!?」
「こらレイナ! お義父さんに何してるの!!」
「うるさい! お父さんを馬鹿にするな!!」
小さな女の子に足を蹴られて思わずうずくまる。蹴ってきた女の子は素早くどこかへと消えていった。あの子、レイナはほんの数回しか顔を合わせたことはないが、私の孫である。葬儀の時は全くといっていいほど泣かず、年の割に強い子だと思っていたが……自分の父親をバカにされて蹴りつけてきた当たり、やはり年相応なのだろう。
「ちょっと、どこ行くの!」
「ガンダムベース! 定期券でバス乗って行ってくる!」
「もう! 夕飯までには帰ってきなさいよ!! ……全く。すみません、あの子夫が亡くなってからちょっと様子が変で……」
「構わんよ、別に気にしてない。まだ父親に甘えたい年頃だろうに、ショックも大きいのだろう」
「そう言ってくれると助かります。もう、家に帰ったらガンプラ没収してやろうかしら……」
ガンプラ。その言葉に棺に入れようとして戸惑ったある箱をバッグから取り出した。色褪せた箱にはビームライフルとシールドを装備したガンダムとアムロ・レイが描かれており、その中にしまっていた10㎝程の小さなガンダムの模型を慎重に取り出して眺める。
「あら、それって確か……」
「世界初のガンプラ、小サイズの300円で買ったガンダムさ。昔はあの子と一緒にテレビの前で一緒にガンダムを見ていてね。これが発売された時は急いで買って帰ったものだよ」
「夫から聞いたことがあります。誕生日プレゼントに買ってきてくれたけど接着剤がついてなかったり色がなかったりとかで喧嘩したことがあるって」
「あいつめ、そこまで話していたか。その通りだよ、当時の私はプラモデルには全く詳しくなかったから接着剤がいることも知らなかったし色も塗られているものだと思っていてね。息子が怒りながら接着剤を買ってきて頑張って組み立てたのさ。色は美術系学校出身の妻が塗ってくれたよ」
「へぇー……綺麗ですね。お義母さんが病院で来られなかったのが残念です」
「そうだな。火葬する時こいつも一緒に燃やすべきかと思ったが……その気になれなくてな」
青空に掲げると、ガンダムの白いボディがよく映える。ギリギリまで迷っていたが、どうしてもこいつを燃やすと妻も息子も悲しむのではないかと思っていたのだ。
「私もそれで正解だと思います。あの人も大切にしていてほしいと思うはずですから」
「……そうか。なあ、これ持っていってくれないか? あいつの仏壇にあった方が喜ぶだろう」
「うーん……あっ、そうだ。お義父さん、ちょっとお願いがあるんですが……」
周囲を見渡して聞いている人、恐らく娘がいないことを確認すると耳元である提案を囁かれた。その提案がきっかけとなり、私はあの場所──GBNへ再び帰ることになるのであった。
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私はおじいちゃんのことが苦手だった。会いに行けばいつもお父さんと楽しそうに話していて、お父さんを取られたような気がしたから。そんなおじいちゃんがお父さんを馬鹿にしたのを聞いた時どうしようにもない怒りを覚えた。
いつもいつも楽しそうに話してたくせに、亡くなったら馬鹿?そんな言い方はないだろうに!……落ち着けばおじいちゃんの気持ちもわかるはずだったけれど高ぶった感情が抑えられない。
行き場のない感情をGBNの世界で吐き出そうと考えた私──レイナはいらついていた。
「──っ、ああっ!!」
迫りくるリーオーNPDの攻撃をかわし切ることができず機体の盾が吹き飛ばされ、ひるんだタイミングで集中攻撃を受けて一気に耐久値が削られる。立て直そうにも弾薬はすでに底をついていて、ビームサーベルしか使える武器がない。なんとか距離を取って逃れようとしたが……
爆発でコクピットが揺れる。相手の攻撃で頭部が爆散したのだ。メインカメラをやられたことで視界も一気に狭くなり、どうしようにもなくなる。あの『アムロ・レイ』なら「たかがメインカメラをやられただけだ!」というのだろうが、私はただのダイバーにしか過ぎない。
私の機体は──RX-78-2、ガンダムは無様に敗北した。
「ちくしょうっ! こんなもんじゃ……いつまでたっても私はぁっ!!」
ガァン、と操縦パネルと殴りつける。私はもっと強くなって、お父さんの願いを適えなきゃいけないのに。こんなところで躓いていられるものか。自ら課した高難易度の練習ミッションへの再挑戦のボタンを押そうとすると、外部から通信が入った。
『レイナちゃん、熱くなりすぎよ。普段のあなたと比べたら精細を欠いてることが見て取れるわ』
「ですがっ……!」
通信相手に反論しようとすると、相手はじっと見つめて言い聞かせるように口を開く。
『あなたが強くなりたいという思いもよくわかるけど、集中力を欠いたトレーニングは力にはならないわ。一旦こっちに戻ってきて休憩したらどうかしら? お姉さん、一杯おごっちゃうわよ』
「むぅ……わかりました。でも、代金はちゃんと払いますから」
『ふふふっ、相変わらず素直じゃないわねぇ』
「硬いパンとうまい水だけでいいです」
『ガンダム19話のあれね。わかった、注文しておくわね』
メニューを言っただけで察するとは。やっぱりあの人はパイロットとしてのセンスやビルダーとしてのテクニックだけではなく知識も桁外れだ。私みたいな未熟者なんかとは、本当に格が違う。コクピットからロビーへ戻ってバースペースへと向かうと、カウンター席で紫色の髪のあの人がひらひらと手を振って出迎えてくれた。あの人の前には私が注文した硬いパンと水が一杯と……
「チーズ?」
「パンだけじゃ寂しいでしょ? こういうパンと水だけじゃなくてチーズもつまむとお腹も大満足よ。これはお姉さんのサービスだから、受け取ってちょうだい、ね?」
「……わかりました。いただきます」
不愛想に返事を返し、水で口を潤して硬いパンにかじりつく。GBNは味覚の再現度は低いが、まずまずの味といったところか。軽くお腹を満たすくらいにはちょうどいい量と味だし、チーズも相性がいい。なかなかやりますね、と視線で伝えるとニッコリ笑ってウインクを返された。
「おや、マギーさんじゃないですか。久しぶりですね」
「あらぁ~、アズマちゃん! 元気そうで何よりだわぁ! 愛機のザクは元気かしら?」
「おかげさまで今も昔も絶好調! 向かうところ敵なしだぜ!」
あの人こと、ムキムキ筋肉を見せつける独特なファッションの男性アバターのオネエ系ダイバー、マギーさんは店に入ってきたダイバーと親しそうに会話を始めた。着崩したジオン兵士風のダイバーを見た私はうえっ、と嫌そうな顔になる。
「……何しに来たの、アズマ」
「何しにって。普通に休憩だけど。お前が俺をライバル視してるのは知ってるけどそんなに露骨な態度取らなくてもいいじゃねぇか」
「うるさい、こっちだって色々あるの。しばらく構わないでくれるかな」
「へいへい、わかりましたよっと」
ケラケラと笑うこのダイバーは私にとって腐れ縁のライバル、アズマ。昔彼に負けたことがきっかけで彼をライバル視するようになり、いつの間にか向こうも私をライバル視するようになった。リアルでも関係がある彼はどうも私の扱いになれているからちょっとむかつく。
「そういやさっきフィールドを探索してたら面白い物見つけたんだ。ほら、これ見てくれよ」
「あら、これって……レイナちゃんもちょっと見てみてよ」
マギーさんに促されて渋々アズマが表示している画面を見せてもらう。画面内では録画された宇宙空間の戦闘が流されており、一機のガンプラが三機のリーオーNPDと互角に戦っていた。
『ほおー、上手いな。あのガンプラは……ガンダムか?』
映像はアズマのガンプラから撮影された物で、映像内のアズマが思わず感嘆の声を上げて戦っているガンプラをズームする。それは初代ガンダムだったけどどこかおかしい気がした。最近のキットと比べるとなんだマッシブで、スラスターの光が少ない。
「……旧キット?」
「そうね。顔や体が太くてアニメよりのデザインだし、バックパックのスラスターしか使ってないけれど当時のキットは足の裏にスラスターがないのよ。GBNでも時々コレクターやビルダーが使っているのは見かけるけれどバトル向きじゃないわね」
「なのにこのダイバー尋常じゃなく上手いんだよ。スラスターの吹かし具合に合わせて四肢を振って上手く機動できてるんだが、旧キットは四肢の可動域がめちゃくちゃ狭い。あのエリアのリーオーNPDは最弱とはいえ三機相手に互角に立ち回れるのは並みのダイバーじゃないぞ」
映像の中でガンダムは相手の攻撃をうまくシールドで防ぎながら三機のリーオーの死角へと滑り込み、ビームライフルを数射。少しずつリーオーの戦闘能力を奪っていき、一機撃墜する。そのまま流れるようにビームサーベルを引き抜くと残りの敵へと襲い掛かった。
戦闘はまだまだ続いているけれど、私はあることを決心して映像の再生を止める。
「……アズマ! このガンダムを見た場所、どこ!?」
ガンダムを見てみたい。パイロットに会ってみたい。こんなに強くガンダムを駆る人に、1人のガンダムファンとして会ってみたくなったのだ。
「えっ? い、いいけどよ。確か──サーバーの──エリアだぜ」
「ありがとう、ちょっと行ってくる!」
「行ってらっちゃ~い。ガンダムに会えたらお土産話よろしくねぇ」
マギーさんの見送る声に手を振って返すと、メニューを操作して格納庫へ移動して修理が終わった愛機のガンダムに乗り込む。操縦桿を握って大きく深呼吸すると、メニューを数回タップしてカタパルトへ機体を移動させる。カタパルト内のランプが緑に灯ったのを確認して──
「レイナ、ガンダム……行きまーす!!」
操縦桿を倒し、機体が射出されるGを味わいながらガンダムはGBNの空へと飛び立った。
「これで良かったんですかね、マギーさん」
「ええ。わざわざ役者みたいなこと頼んじゃってごめんなさいね」
「いやいや、気にしなくていいっすよ。あいつは俺にとっても特別な人ですからこれくらいはね」
「へえー……あの子はほぼ無改造の初代ガンダムしか使わない筋金入りの初代ガンダムファン。そしてあなたはガンダムのライバルであるシャアザクのカスタム機使い。ここから考えられる特別な関係ってもしかして……ラブ!?」
「ちゃ、茶化さないでくださいよ! しかしあいつ最近腕前が伸び悩んでて困ってるっぽいんだよな。良かったらアドバイスしてくれたら助かります」
「私も彼女から頼まれて久しぶりにいろいろと教えてるところよ。でも、強くなるんだったら機体を乗り換えるのが手っ取り早いのよね。あの子の気持ちを踏みにじるようで悪いけれど──」
無改造の初代ガンダムって、そんなに強くないからねぇ……
GBNでは様々な作品のガンプラが使われているが、無改造の初代ガンダムを使っているダイバーは意外と少ない。その原因はマギーの指摘通り、初代ガンダムが強くないからだ。初代ガンダムは最初の作品のMSであり原作の設定では後の作品の機体に性能が劣るが、GBNはほとんどの機体をなるべく同じレベルの性能に調整しているため、後の作品の機体と性能差はほぼない。
ただしそれは性能上の話であり、それ以外の面で問題がある。『特徴がない』のだ。
例えば、ユニコーンガンダム。デストロイモード化による高い機動力。
例えば、ストライクガンダム。フェイズシフト装甲による質量兵器への高い防御力。
例えば、ガンダムエクシア。GN粒子による機動力とトランザムによるブースト機能。
例えば、ガンダムバルバトス。ナノラミネートアーマーによる射撃武器への高い防御力。
これらの機体が持つような特殊機能がなく、武装面も種類こそ多いが癖が少ない初代ガンダムは無改造の他の機体に比べるとやや弱い立ち位置にあった。
だが、裏を返せば特徴がない故に様々な方向へのカスタマイズが可能ということであり、初代ガンダムの強みはそこにある。ハイグレードやファーストグレード等ガンプラの数が多いから素体には困らないし、GBNはゲーム内で入手したパーツデータを店舗で成型して改造に使える。
ジャベリンやブースターを装備した前線強襲型、スナイパーライフルやキャノンを装備した後方支援型、巨大シールドや追加装甲を装備した重装防御型など様々な方向性へ改造ができる初代ガンダムは組みやすさと合わせて初心者向けの機体として紹介されることも多いし、上位ダイバーの中には初代ガンダムのカスタム機を使っている人も少なくない。
改造した初代ガンダムは決して弱くはない。むしろ強い部類に入るのだ。
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しかしレイナは自らのガンダムにそういった改造をしていなかった。
「この辺りのはず……だよね。やっぱり宇宙の探索はこのガンダムじゃ大変だなぁ。こんなことになるんだったらGファイター持ってくればよかったかな……」
彼女が使っている初代ガンダムに施された改造はゲート跡処理に合わせ目消し、墨入れやマーキングシールといった元々のガンプラのディティールを上げる改造のみ。純粋な初代ガンダムを愛している彼女のプライドがガンダムに特徴を付け足すことを拒んだのだ。
そんな彼女がせめてもの改造、と言ってもいいのか。一つだけ施していることがあった。周囲をきょろきょろと見まわしているのが気になったのか、同じく周囲を探索していたダイバーのガンプラが彼女のガンダムに近づいて通信を入れる。
『……何か探してるんですか?』
「わっ、ごめんなさい! お邪魔でしたか?」
『俺も機体のテストしてるだけだから気にしてないよ。探し物だったらこの辺はそれなりに長くうろついてるし力になれると思う』
「助かります。実はさっきこの辺で旧キットのガンダムが戦っていたって話を聞いたんです。それでどんな人が乗ってるのか気になったんですけど……ご存じないですか?」
『……あの機体か。ほんの少し前までこの辺りで戦ってたけど、さっきあそこの鉱山衛星基地に行ったよ。ログアウト目的かもしれないけれど、エネルギーの補給目的だったらまだいると思う』
「本当ですか! 情報助かりました、行ってみます!」
『これくらい別にいいよ。気を付けて』
お礼を言うと、彼女に声をかけたガンプラはどこかへ飛び去ろうとした。通信が切れる前に彼女は一声かける。
「ありがとうございました! その紺色とG-3カラーのガンプラ素敵ですね!」
ガンプラを操縦している少年は褒められたことに少し戸惑いながらも。
『君のSDガンダムもすごいよ、良く作りこんでるね』
と、褒め返して星空の中へと飛び去って行った。
SD。スーパーディフォルメの略称であり、頭身とデザインをアレンジした小型版ガンプラと言っていいジャンルで、現実でも様々な種類のガンプラが発売されており初代ガンダムも当然発売されている。GBNでは小型故に攻撃が当たりにくいことと通常のキットよりも運動性能が高くなっているのが特徴でありSDを使っているダイバーもかなり存在している。
ガンプラを大きく改造することを拒んでいる彼女にとってSDの初代ガンダムを使うことは苦肉の策でもあったが、そうでもしなければほぼ無改造のガンダムで勝つことは厳しいのだ。
初代ガンダムを愛するSDガンダム使い。それがレイナというダイバーであった。
そして。
「ふむ。久しぶりに乗ってみたがまずまずといったところか……」
鉱山衛星基地、補給ポイントでエネルギーと装甲の修理が行われているガンダムを見上げている青と赤のノーマルスーツを着た一人のダイバーがいた。ダイバーネームは『ハジメ』。奇しくも孫と同じくリアルネームをそのままダイバーネームに使っている老人である。
「……まさか、戻ってくるとはなぁ」
息子の妻から「夫が亡くなってからGBNにのめりこんでいる娘の様子を見てきてほしい」と頼まれた彼は、かつて息子と妻が制作した旧キットの初代ガンダムで腕前を磨きなおしつつ、古い友人のマギーに自分の情報を娘に流すように頼んでいた。噂では孫のレイナも初代ガンダムが好きだという。錆びついてはいるが自分の腕前と旧キットを組み合わせれば気を引けると考えたのだ
そして、つい先ほどその友人から娘がこちらに向かっているという連絡が来た、が。
「機体の抵抗感はあの頃と変わらずか……旧キット以前に、やはり私はガンダムに嫌われているのだろうな」
その表情は晴れなかった。彼がガンプラを操縦しているとガンプラが抵抗しているかのような反応を返すのだ。それは愛する初代ガンダムに乗っていても同じで、彼がGBNを引退した原因であった。好きなものに拒絶されること。こんなに悲しいことがあるだろうか。
かつてHGのガンダムを操縦していた頃、それに絶望していたのを見かねた息子がジムを用意してくれたが、あれに乗っていた頃はまだ抵抗感はマシだった。しかし、こうして旧キットとはいえガンダムに乗り込むと抵抗感がやけに強い気がする。私はガンダムに乗る資格がないのだろうか。
「……っ。来たか」
補給ポイントの入口に一機のガンプラがやってきた。情報通りのよく手入れされたSDガンダムが──孫であるレイナが駆るガンダムが、やってきた。
老人は孫の様子を確認するために。娘はもっと強くなるために。
お互いに違う目的を抱きながらもお互いのガンダムを見た二人の思いは同じく。
「「やはり、ガンダムはいい」」
SDと旧キット。作られた時代とスタイルは違えど同じモビルスーツをモチーフにしたお互いのガンプラを心の中でほめたたえあっていた。
そんな二人を陰から見つめるダイバーが一人。
「見つけたわ。彼が例のダイバーで間違いないのよね」
『ああ、そうだ。だが、ガンプラが旧キットとはな……想定とは違うが、監視を続けろ』
「了解」
息をひそめながら、ダイバーは二人を見つめていた。
ガンプラ紹介
・ベストメカコレクション1/144ガンダム
宇宙大帝ゴッドシグマ等当時の様々な作品のメカをプラモデルにした『ベストメカコレクション』として1980年7月19日に発売された最初のガンプラで、価格は300円と破格。
その分現代のキットに比べると欠点も多いが、低価格で発売されたことで多くの人々が手に取ることができたこのキットはガンプラブームを広げることに大きく力を発揮した名キットと言っていいだろう。
このガンプラが持つ魅力は現在も生産されているという事実が物語っている。
宇宙フィールドの鉱山衛星基地を訪れたプレイヤー、レイナは旧式のガンダムを駆るプレイヤーに出会う。だが、彼を探していた人は一人だけではない。レイナはそこで思いもがけぬ人物に出会い、そして戦いへ巻き込まれることになるのだ。
『ガンダムは伊達じゃない』
次回『ガンダム破壊命令』
君は、生き延びることができるか。