昔はこの時間に家に帰ってアニメ見るのが楽しみだったのになぁ……視聴率悪そうですけど。
今更ですが、ハジメが使っているAMBAC機動並びにそれらに関する設定は独自解釈を非常に多く含んでおり、原作設定ではないことをご了承いただけると幸いです。
GBNの世界はとてつもなく広い。地球上の再現された都市部や軍事基地、海や山といった人工並びに自然の地形はもちろん、宇宙空間にはガンダムシリーズに登場したコロニーやプラント等様々なフィールドが用意されており、ミッション限定で訪れられるフィールドもあったりと、一説には運営ですら把握しきれていないとも言われている程である。
そのため一部のフィールドで『裏取引』を行うダイバーもいる。リアルマネーを使ったガンプラやデータの取引、そして『ブレイクデカール』の取引にも使われていた。廃墟を進む一人のダイバーは『ブレイクデカール』を扱っているダイバーを探していた。目的である古びたバーを見つけると、その扉を苛立ちから力任せに蹴破る。バーの奥には赤黒いローブを身にまとった男がいた。
「よぉ、遅かったじゃねぇか。どうしたんだ?」
「どうしたんだ、じゃない……っ! マスダイバーが襲撃するなんて聞いていなかった!」
いらだつダイバーに男は飄々と言い返す。
「言ったら妨害しかねないだろ、お前。元々あいつの実力を測るために適当なマスダイバーに襲撃させるつもりだったが、まさかお前の昔の友達がいただなんて予想しきれねぇよ」
「っ……なら、これはどういうことなのかしら」
ダイバーはメニュー欄を操作して一件のメッセージを表示する。ブレイクデカールを扱うプレイヤーに送信された『賞金首』情報であり、それには地球連邦軍のパイロットスーツを纏ったダイバー『ハジメ』の情報が記されており賞金についても詳しく記されていた。
「彼の情報はそれなりにGBNをやってる私でも聞いたことがないし、引退復帰勢のダイバーにこんな額の賞金を賭ける意味が分からない。答えて、一体何が狙いなの?」
「俺はクライアント、お前は部下。必要以上に情報を与える必要はない……が、特別だ。次の仕事をこなしたら教えてやるよ」
取り付く島はないか。小さく舌打ちすると、ダイバーは店から出ていく。その直前、ローブ姿の男が吐き捨てるように小さく呟いた言葉を聞いた。
「強いて言うなら、やり残した仕事に決着を付けるといったところか」
やり残した仕事。その意味を考えながら忍者ルックのダイバー、アヤメは次の仕事──ハジメを誘い出しに行った。
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ハジメさんが立ち去ったことでここには私とロンメルさんの二人きり。なんだかいたたまれない……私も帰ろうかな。パンの包み紙やコップ等を片付けているとロンメルさんが口を開く。
「レイナ君。一つ聞きたいんだが、君はハジメとは何もないのか?」
「えっ?」
「本当に今日偶然出会っただけの初対面の付き合いなのか?」
「ま、待ってください。一体どういうことですか」
「彼が引退してから何があったのかは私も知らないが、どうも彼は何かを隠している気がする。君のことを話している時に少しだけ動揺しているように見えた。長年の付き合い故の勘でしかないんだが、心当たりがあれば聞かせてくれないだろうか」
「そう言われても……心当たりか」
GBNでの知り合いの誰かの副アカウント、あるいは着替えた変装姿だろうか。いや、私の知り合いであんな機動をする人はいない。ではリアルでの知り合いか? 同級生にGBNをしている人は何人かいるし、GBN内でも知り合いだけどやっぱりあんな機動は出来るとは思えない。
……やっぱりダメだ、どれだけ考えても心当たりが浮かばない。
「ごめんなさい、心当たりが出てきません。知り合いや友人の姿を浮かべてもハジメさんのガンダムの機動と被らないんです。別人すぎて変装の類とは思えない」
「その気持ちはわかる。彼が駆るガンダムの機動を超えるダイバーを私も知らないからな……」
ロンメルさんはどこか遠いところを見つめる。その姿が頭の中で誰かと重なった。なんだろう、今の感覚。私はあんな目をしていた人を知っている気がして考え込む。記憶の中の誰かと重なったんじゃないかと思って色々と思い返すと……一人、重なる人がいた。
「お父さん?」
「えっ、お、お父さん?」
「私のお父さんが前にどこか考え込む感じでいたのを見たことがあるんです」
「そ、そうか……お父さん……私は、そんなに老けて見えるのか……?」
悩んでいるロンメルさんを無視して考え込む。あの時のお父さんは悩んでいたはず。その前後の記憶を思い出せ。あの日、あの時、お父さんは何をしていた? あのお父さんを見たのはすごく昔だった記憶がある。きっとあの時もガンプラを作っていたんじゃないのか?
ガンダム好きのお父さんだから大抵悩むときはガンプラ関係のはずだしそんな気がする。どうせガンダム作りで悩んでいた時なんじゃないかな。お父さんの部屋ってほとんど初代ガンダムのプラモデルばっかりだった気が──。そこまで考えると、何かが引っかかった。
「ロンメルさん、ちょっと見てもらってもいいですか」
「もう少し若い人にも受けるようなヒーローとか……ん? 構わんが、何か思い出したのか?」
メニューを開きアイテム欄を漁る。その中から以前ミッション報酬でもらった『HGUC ジム』を取り出す。GBNではミッションクリアの報酬でデータ上のガンプラをもらえることがあり、バトルに使える物もあるが大抵は観賞用で組み上げたガンプラを飾ったりする人も多い。このジムは素組みでそのまま放置していたものだが、説明にはちょうどいいだろう。
「私のお父さんはすごく初代ガンダムが好きなビルダーでした。部屋の中はガンダムのプラモまみれで、ザクやジムのプラモを買ってくることもあるにはあったんですが、そういう時って完成した後全く自慢してきません。だけど、一度だけジムを作って自慢してきたことがあるんです」
──昨日頑張って作ったんだ。レイナ、このジムかっこいいだろう?
「それがこのジムなのか?」
「いえ、このジムではないはずなんです。私の記憶とこれは可動域が違いすぎる」
腕を上に向かって上げようとするが、アーマーが引っかかって上がらない。私の記憶ではアーマーごと上に上がる。膝が90度しか曲がらない。私の記憶だと正座すらできるくらいに曲がる。
「君のお父さんが作っていたのはジムを改造したキットだろうが……いや、もはや別のガンプラを作るレベルだ。如何せんジムのキットは古いから改造するには手間がかかりすぎるし、そこまでの可動域を確保するのは一筋縄ではいかないだろう」
「私もそう思います。だからこそガンダムが好きなのにここまでの改造をジムに施したのが謎なんです。そこまでする理由を考えた時、私は──」
──旧キットも可動域は狭いがこれくらいならなんとかできる。
「ハジメさんが言っていたAMBAC機動を思い出しました」
「あれか、確かハジメは「可動域が広ければ広いほど生かせる機動」と言っていたな。四肢が長いが可動域が狭い旧キットではフルに生かせないし、私のガンプラもそれを生かすために肩部へ多少の改造を施していたが……いや、待てよ? ハジメのガンプラは──」
──ジム乗りって聞いたのにガンダムに乗ってんのかよ。
「ジム、なんですよね? シャア専用ザクに乗っていた人が言っていました」
「その通りだ。かつて第七機甲師団に彼がいた頃に使っていたガンプラは初期はガンダムだったが途中でジムに乗り換えていた。そのジムも思い返してみれば可動域が広かった」
少なくともこのHGではないのは確かだ。ジムを動かして可動域を確かめながらロンメルさんは言った。私と彼は同じ答えにたどり着いていた。リアルでハジメはレイナの父親と何らかの関係を持っていた可能性がある、と。
「君の父親にハジメについて聞いてもらえないだろうか? 戻ってきてくれたのは嬉しかったが、かつて引退した時の決意は固く引き止められなかった。そんな彼がGBNに戻ってくるのは訳アリとしか思えない。リアルを持ち出すのはマナー違反であることはわかっているが、頼めるだろうか」
「私もそうしたいところなんですが……お父さんはつい先日事故で亡くなりました」
「……そうか。それは申し訳ないことを聞いてしまったね」
「大丈夫です、気にしてませんから。日記を書いてるマメな人だったんですが葬式の時に燃やすように言われてましたし、お母さんなら何か知ってるかもしれないけれど今は出かけてて家にいないんですよ。もうちょっとしたら帰ってくると思うんですけど……」
「時間がかかりそうだな。ならちょうどいい──」
少し、昔話をするとしよう。彼に出会い共に過ごした日々、彼と別れたあの日の話を。
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彼に出会ったのはフォース機能が実装されてすぐの頃だった。第七機甲師団というフォースを立ち上げることを決めていた私は知人やレイドバトルで共に戦った仲間、ある時はミッションで火花を散らしながら戦った敵すらも勧誘していた。最初にも言ったが人手が必要だったからね。
ある日、私は大規模イベント『星一号作戦』に参加していた。
星一号作戦とは、君も知っているだろうが『機動戦士ガンダム』の最後の戦い『ア・バオア・クー攻略戦』のことを指している。このイベントでは各ダイバーやフォースが地球連邦軍かジオン公国軍に別れて戦い、連邦軍はア・バオア・クー最深部のフラッグ──総司令部を制圧すれば勝利、ジオン側はタイムアップまで守り抜けば勝利というややジオン側が不利なルールだった。
ある意味史実再現ともいえるし、ジオンを愛しているダイバーは逆に燃えたのをよく覚えている。結成したての第七機甲師団もジオン側へ参加してこのイベントに参加したよ。
「ア・バオア・クーは4つのフィールドに分かれている。Nフィールド、Sフィールドにはドロス級が配備されていることもあって味方NPDの戦力も強大だ。EフィールドにはNPDのカスペン戦闘大隊以外にも有力フォースのいくつかが参加を表明しているため抑えきれると見ている」
「となると問題はWフィールドですな。あそこにはグワジン級が一隻だったはずで、連邦軍もさほど戦力を向けてはいませんが……」
「クルトの懸念通りだ。それを狙ったダイバーが少なからず攻め込んでくると見ている。第七機甲師団はここの防衛を担当しよう。クルトはWフィールド参加を表明しているダイバーに連絡を取ってくれ。ジャックは連邦軍側でWフィールドに参加するダイバーについての情報収集を頼む」
「「はっ!」」
イベント開始までの間我々は戦法を練りに練り、情報収集も欠かさずに行った。各フィールドの防衛担当者とも意見をぶつけ合っていたあの一週間はとにかく忙しかったが、充実した時間だった。そして、リアルでの12月31日17:00。史実での終戦協定が締結された18:00をタイムリミットとした一時間の苛烈な防衛戦が幕を開けた。
『大佐、敵部隊を発見しました! デンドロビウム、ミーティア装備フリーダムをはじめとした大型MA6機、通常サイズのMSを47機確認! 高機動機が先行している模様、接敵まで約2分と推測!』
「了解した、いい仕事をありがとう。引き続き偵察を頼む。さて、Wフィールドに集いし諸君。これから始まる戦いは本来の歴史には存在しなかった戦いでありその結末は誰も知りはしないし誰も予測することなどできん。勝つも負けるも我々次第ということだ。諸君らの奮戦に期待する──」
戦闘を開始せよ!
「「「オオオォォォォ──!!!」」」
第七機甲師団のメンバー、アライアンスを結んでいたフォース、ソロで参加したダイバー達の雄たけびと共にこの戦いは幕を開けた。この戦いには『クジョウ・キョウヤ』や『タイガーウルフ』といった有力フォースのリーダーとなるダイバーも参加していたと聞いているが他のフィールドに参加していたらしく私は目撃していない。Wフィールドには後の有名ダイバーはいなかった。
とはいえ、戦いは決して楽な物ではなく敵味方双方に傷つき倒れるダイバーが出てくる。それは有力なダイバーであっても例外ではなかった。
『大佐、申し訳ありません──先に、戦場を引かせてもらいます』
「ッ……ジャック! 後は任せろ!」
イベント開始から25分。苦戦している他のフィールドへ戦力を回しながらも我々はなんとか防衛線を維持して連邦側の攻撃を防いでいた。その時──彼が現れたのだった。
『こちらゴルフ1、一機撃つ──ぐああっ!』
「何があった、応答せよ!」
『き、奇襲攻撃を受けました! いったいどこに隠れていたんだ、あいつは!』
『速い!? くっ、攻撃が当たらない!』
Wフィールド唯一の補給ポイントであったグワジンを防衛していたゴルフチームが突如攻撃を受けたのだ。残り時間は少ないとはいえギリギリだった我々が補給ポイントを失えば一気に崩壊しかねない。私はクルトに指揮を任せて急遽グワジンへ駆け付けた。
「ゴルフチーム、無事か!」
『大佐! 何とか無事ですが奴は速すぎます、対処できません!』
「手慣れたダイバーというわけか……私が引き受けよう。チャーリーチーム、修復が終わった機体を二機ゴルフチームに回してくれ。ゴルフ4、ゴルフ6は補給に移れ。相手ガンプラはなんだ?」
『詳しい機体名はわかりませんが、恐らくアムロ専用機カラーのガンダムMk-2ではないかと推測しています。でなければああも縦横無尽に動けるとは思えません。ご注意を──来ます!』
センサーが射撃警告音を鳴らす。ビームライフルが三射。私に放たれた一発はかわせたが仲間は追撃の二発目が命中した。一刻も早く撃墜するか、奴の標的を私に集中させなければ被害は拡大するだろう。険しい顔を浮かべながら操縦桿を倒し射撃された方向へ機体を向ける。
グリモアレッドベレーは地上戦よりのカスタマイズがされているとはいえ宇宙戦が出来ない訳ではない。スラスターを吹かしながら漂う隕石や戦艦の残骸を蹴り飛ばし加速させた機体へ──
奴からの射撃が突き刺さる。
「っ!」
シールドを構えては間に合わない。咄嗟にライフルで庇い機体への被弾は避けたがライフルはお釈迦になった。もしも私ならば、この隙を突くだろう。その予想は正しく残骸へ隠れていた敵機が高速で接近してくる。その手に構えたビームサーベルを足に仕込んだシザークロウで弾く。
その時、私は『星一号作戦』最後の相手のガンプラを知った。
白いボディに三色のトリコロールカラー、V字アンテナに輝く黄色い二つ目。ガンダムMK-2ではない。RX-78。そう──初代ガンダムだった。
「まさか、アムロ・レイか!?」
NPDでアムロ・レイが登場するガンダムが存在するという情報は聞いていた。本来彼が戦っていたSフィールドの防衛が厚くこっちに回ってきたのか? その懸念は相手からの通信で溶けた。
『残念ながら私はアムロではない。だが──ガンダムに憧れた者だ!!』
通信に映し出されたのは地球連邦軍のノーマルスーツ姿のダイバー。そのカラーは青を基調として赤いラインが入った物。当時のOPでアムロが着用していた青いノーマルスーツを身にまとったダイバー、それが『ハジメ』だった。
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ロンメル達と別れたハジメは現実の時間に合わせて夕暮れに照らされたコロニーの市街地を歩いていた。初代ガンダム第一話に登場したあのコロニーをモデルとしているここは何度も観光で訪れた経験があり、懐かしさを覚えた。
「……一つ、聞いてもいいかしら?」
「なんだね」
「ヘルメット、取らないの?」
そんなコロニーの市街地を歩いているのは忍者ルックの少女と地球連邦軍のノーマルスーツ姿の男性。前者は言うまでもないが、後者も思いっきり浮いている。
「ああ、これか。表情を隠す目的でもあるんだが、素顔がアレでな……」
ヘルメットを脱いで素顔を晒すとアヤメは目を見開いた。私のアバターはレアなアバターなのだ。
「アムロ・レイのアバター……!」
宇宙世紀0093、『機動戦士ガンダム逆襲のシャア』のアムロ・レイ。それが私のアバターだったがパイロットスーツを交換しボイスを現実での物に変更、さらにヘルメットを常にかぶっていれば気付かれることはなかった。ロンメル大佐にも素顔を見せたことはない。
「息子はガンプラを作るのが得意でね。GBN開始直前に開催されたガンプラコンテストで大賞を取った時の景品を譲り受けたのさ」
「なるほど。ならどうして素顔を隠しているの?」
「私は『ガンダム』に乗る資格がないからだ。そんな奴がアムロ・レイを名乗るなどおこがましいにもほどがある。かと言って変えてしまっては息子の努力を否定する気がしてな。こうして下手な変装をしている誤魔化しているんだよ。最もそれは君にも言えたことじゃないのかね?」
「……何が言いたいの」
「店の外からレイナを見た時の君の表情が曇っていた。君も隠すものがあるのだろう」
「っ!」
少女が足を止める。悩み、迷い、葛藤。瞳の奥で濁っていた物が苦しい感情へと収束していた。
「あの子には私と会ったことを言わないで、お願い」
「君とレイナの関係による」
「っ……昔、同じフォースに所属していた仲間だった。だけど喧嘩別れに近い形で別れたからあの子に会わせる顔がない。これでいいかしら?」
「そういうことか……わかった、黙っておこう。一つ追加質問だ。彼女は最近父親を亡くしたんだが、それ以来どうもGBNにのめり込んでいる。その理由について調べているんだが心当たりはないか」
「ちょっと待って、彼女のリアルの情報を持ち出すとか、あなたいったい何者なの?」
少女の問いへ答えようとした時、一人の男の声が響いた。
──レイナの祖父、アオツキ・ハジメ。
道端に停められていた電気自動車「エレカ」に乗っているローブ姿の男が私のリアルネームを口走っていた。何者だ、こいつは。少女が苦い表情でそれを答える。
「……この人があなたを呼び出すように言った依頼人よ」
「初めましてだな、ハジメさんよ。あんたの話は息子さんからよーく聞いていたよ。色々と言いたいことや聞きたいこともあるだろうがまずは乗ってくれ」
「いいだろう。聞かせてもらうとしよう」
「待って、私もついて行く」
エレカに乗り込もうとした私を少女が引き止めてくる。
「あなたがレイナの祖父なら話さないといけないことがあるの。お願い」
「私は構わんがこのエレカは二人乗りだな……仕方ない、私が荷台に乗るか」
「お前が助手席でいい。こいつ見た目からもわかると思うがが忍者系のダイバーだから身体能力も高い。荷台に乗っけても問題はねぇよ」
「……そういうこと。あなたは気にしないで」
「わかった、お言葉に甘えよう」
颯爽と荷台に乗り込んで腕を組んだ少女を一瞥すると助手席へ乗り込むと、ローブ姿の男はエレカを走らせる。ゲート方向へ走らせているのだろうか。行き先を推測していると男は話を始めた。
「俺の名はアンシュ。まずは息子さんについてお悔やみ申し上げる……柄じゃねぇがな。あいつとは世話になったりいくらか技術を提供したりとビルダーとしての交友関係があった」
「なるほど、君は葬式にいた息子の友人の一人だな。私のリアルネームを知っていたのはそういうことか」
「残念ながらあいつとはそこまでの仲じゃなかったし葬式には呼ばれてすらいねぇよ。お前の名前はあいつが自慢げに語る時に聞かされたから知ってんだ。「父さん以上のダイバーを僕は知らない」って事あるごとに言ってたぜ」
「……そんなに強いの、あなた」
「昔の話だし、息子が過大評価しているだけだ」
「はっ、どうだかな……揺れるぞ」
それなりのスピードのまま大きなカーブに差し掛かる。直感的に体を傾けてバランスを取るとアンシュが口笛を小さく吹いた。
「あいつの死はGBNでの待ち合わせに来なかったから調べてみたら事故で亡くなったのを知った。つまらねえことで死にやがって、馬鹿野郎が」
「……故人に馬鹿っていうのはどうかと思うんだけど?」
「気にするな、嬢ちゃん。綺麗な嫁さんに幼い娘を残して先に逝ったあいつには私も馬鹿息子と言ってやった」
「はっ、気が合うな。まあ実際あいつはとんでもない──」
馬鹿な野郎だ。めんどくせぇ仕事と呪いを残して逝きやがったんだからな。
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『星一号作戦』で出会ったハジメを私は『第七機甲師団』へ勧誘した。彼もフォースには興味があったがどこに入るかちょうど悩んでいたらしく私の誘いを快諾してくれた。そして私は彼の異常なまでの操縦センスを目の当たりにすることになった。
「ハ、ハジメ。同乗を願い出たのは確かに私なんだが……」
「どうかしましたか、大佐」
「……少し酔った。申し訳ないんだが休憩にしないか」
「了解です」
彼が操縦していたのはHGUCで最初に発売された初代ガンダムだ。アニメよりでスタイリッシュなデザインを併せ持つ名キットであるそれに墨入れやマーキングシールといった可能な限りのディテールアップを施した物である。
機動性の強化が特にされていないそれがどうして速く動けていたのか気になった私は、彼のガンプラへの同乗を希望した。そして、彼はマニュアル操作で四肢や腰を的確に振ることでAMBACをフルに生かし、機動力を増加させていることを知ったのだ。その分コクピット内の映像の揺れは尋常じゃなかったがそれに耐えられる彼の才能の凄さを実感していたよ。
そして、同時に彼のそれが諸刃の剣であることも知った。
「大佐。ハジメのAMBACはメンバーに教えないのですか? 新人からも興味があるので教えてほしいとの声がありますが」
「私もそれを考えたが、ダメだ。あれは彼の操縦センスと合わせることで機能している面が強いし、教え込むにしても付け焼き刃程度だとむしろ弱体化してしまう。モーションカスタマイズ機能で一部を取り入れる程度でいい」
「確かにAMBACは一歩間違えばMSが宇宙で踊ってしまいますが……そこまででしょうか?」
「そこまでだ。ハジメは──全ての操縦をマニュアルでやっている化け物だ」
GBNの操作はシステムによるオート制御されている部分が多い。例えば歩く時にバランスを崩さないようにする、スラスターを吹かした時の空中での機体制御、被弾したときのショックを受け止める体勢等。それらを全てマニュアルでやっているのがハジメだった。
例えば、実戦で被弾するパターンを考えるとしても方向、速度、実弾かビームか、またはその威力等々様々な要素が絡み合っている。いつ出題されるかわからない超難問を一秒、否、それ以下の時間で解くことを複雑なマニュアル操作で求められたとして答えられるだろうか?
例えるのなら、オート制御の場合はGBNの高い制御力もあって常に90点の解答をすぐに出せるが、マニュアルの場合は0~100点と出せる解答には非常にばらつきがあり、オート制御に劣る場合も多い。そんなハイリスクローリターンな技術であった。
それがハジメが使っているフルマニュアルのAMBAC機動であり、そしてこの技術にも根本的な問題があった。第七機甲師団に彼が入ってからしばらく経った頃。
──ガンダムが私を拒絶している。
彼はそう言って私に悩みを打ち明けた。曰く操縦桿を握ると抵抗感を感じて、無理やり動かすことは出来るがどうも壁にぶつかっているような感触が抜けない、と。初代ガンダムでもあったアムロ・レイの操縦にガンダムがついていけていないようなものかと思って私も色々と調べてみた。
しかし、当時GBNは始まったばかりということもあって情報が非常に錯綜していたし、情報屋で売られているものも当てにならないこともしばしばあった。そして、彼が限界を迎えた。
「私にはガンダムに乗る資格はないようです。ジムで十分です」
「そんなことはない、君にはガンダムがよく似合う。私だけでなく他のメンバーも──」
「他の人がそう思っていたとしても! 私だって……ガンダムが好きです、愛しています! ですが……!! 好きな機体から拒絶される苦しい日々をこれ以上味わうことに耐えられない!」
そういった彼を止めることは出来なかった。彼がジムに乗り換えてからの成績はまずまずといったところで、ガンダムに乗っていた頃と比べれば少しだけ良かったように記憶していた。
その間も私は調査を続けていて、彼のガンダムが旧型のHGUCだから『可動域が狭く彼の技術を体現しきれない』というところまで掴んだ。そこで私は可動域が改善されているリメイク版のHGUC、通称REVIVE版ガンダムを作成して彼に乗ってみるように促した。
くすぶっていた彼に火を付けられないか、そう思ったが──
『……やはり、ダメですね。申し訳ありません、大佐』
彼の技術にガンダムはついていけなかった。このショックが大きかった様で彼は成績をますます落としていき、いつしか自分はチームの荷物になっているのではないかと考えるようになった。私がわざわざガンダムを作ってくれたというのに、それでもダメだった。尊敬する人が期待してくれたのに答えられなかった──彼はそう考えるようになってしまったのだ。
私の行いはむしろ彼を追い詰めてしまった。
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「これがきっかけでお前は決意した。事実上の最新型であるガンダムでも表現しきれなかったことが原因でAMBAC技術を封印するようになり、成績が落ちたことと世話になったフォースリーダーへの申し訳なさが原因で──GBNを引退した。全部お前の息子から聞いた話だ」
「間違っていないしその通りだ。だがこうして突き付けられると痛い物があるな」
「だが、事実だ」
アンシュが語った私の過去を改めて受け止めなおすと、ちょうどコロニー内を走り続けたエレカはコロニーの端へと到着する。私たちはエレカを降りてエレベーターへ乗り込み、アンシュは宇宙空間へのゲートがある階層のボタンを押すとアヤメが私の方を向いた。
「ねえ、ハジメさん。どうしてガンダムを改造しなかったの? 火力や機動性の改造を施せばきっとまだまだやれたはずでしょうに」
「簡単な話だ。私は純粋にビルダーとしての腕前がなくてどうも不器用でガンプラ作りは上手くいかなくてね。もっぱら乗ることが専門だから改造どころか完成させたこともないんだ」
「だからお前の息子がガンプラを作っていた。息子の方は逆にガンプラを動かすことができなかったが作る腕前は超がつくほどの一流だったからな。そうだろう?」
「その通りだ。その代わりとして息子は一つ頼みごとをした──」
「「RX-78が、初代ガンダムが強いっていうことを世界に見せつけてやってくれ」」
「それが私の戦う理由だった。親子だからというだけじゃない。同じ初代ガンダムを好きになった仲間としてその願いをかなえてやりたかった」
それを見せてやる相手も、もうこの世にはいないが。
「あいつは純正の初代ガンダムではGBNの環境についていけないことは理解していたが、それを認めたくなかった。そんな願いが叶うわけがないってことはあいつ自身もよーくわかっていたがな。お前がスランプに陥って第七機甲師団をやめた時ようやくそれに気付いたんだよ。
当時のあいつは自分のしでかしたことの重大さに気付いてどうしようにもねぇぐらいに荒れてたし泣きじゃくってた。大の大人がなさけねぇったらありゃしない」
「……どこまで行ってもあいつは子供のような奴だったよ。私にGBNを勧めた時も最初は同じガンダム好きである私をガンダムに乗せてやろうという親切心だったのだろう」
だが、皮肉なことに私はとてつもなく操縦がうまかった。あのAMBAC機動も最初はふと試してみる程度だったがいつの間にか体にそれが染みつき、気が付かないうちに精錬させていった。日常生活ではこれと言って役立つ才能がない私が、操縦能力の才能を持っているとは思わなかった。
「私が駆るガンダムの姿を見たものは魅入られるらしい。トランザムを使っているわけでもない、F91のように高速移動するわけでもない、それらの機体と並べばあっさりと追い抜かれる」
「確かにお前のガンダムは綺麗な機動だ。速度は高機動機と比べれば大したことないが流れるように宇宙を駆けていき、相手の攻撃をものともせず切り込んでいく。そんなお前のガンプラ──いや、ガンダムにあいつは叶いもしない夢を見て、お前にどうしようにもねぇ呪いをかけた」
ガチン。ちょうどエレベーターが目的地へ着いた。ローブ姿の男の誘導に従って私はゲート付近の格納庫へ向かっていく。
「だからこそ、あいつは責任を取るためにとあるガンプラを作っていた。生半可な技術では完成しきれないと見たあいつは俺に接触して協力を依頼してきた。普段なら突っぱねるんだが条件付きで受けた──ま、これについてはまたどっかで話してやるよ」
格納庫にはロックがかかっていた。プライベート用のロックをかける機能だ。
「もう既にお前の大事な関係は壊れちまったが、それでも最後に呪いを解く手段としてあのガンプラだけは何が何でも完成させようとして、俺の元を訪ねたのが数か月前。そしてその完成をあいつは俺に委ねた。自分だけではどうしようにもねぇから、とな」
どいてろジジィ、そういってローブ姿の男が解除キーを壁のパネルに打ち込む。
「その直後に事故が起きたわけだが、俺に委ねていたおかげでガンプラは事故に巻き込まれずに俺の手元に残った。こいつを完成させるのが俺のやり残した仕事だ──ほら、見てみろよジジィ」
いいガンプラだろ?
アンシュの言葉と共に開かれた格納庫の中へ入るとセンサーが検知して格納庫内のライトが点灯していく。光に照らされたガンプラの姿には私は驚愕のあまり胸が苦しく、言葉が出なかった。
それは、初代ガンダム。白いボディに赤、黄色、青の三色を纏った鋼の巨体はこれまでに見たガンプラと全く同じように見えて──違っていた。かつて見た実物大ガンダムと同じように装甲が非常に細分化されておりモールドが通常のガンプラの三倍近く存在している。さらに肩や胸、膝に小さなスラスターが追加されており、高い機動力を誇ることが見て取れた。
「──すごい。これ、リアルグレードの『RX-78-2 ガンダム』の改造キットね」
「その通りだ。あまりにも手間がかかることと改造の難易度が高いから、改造がたやすくバリエーションも豊富なHGで普通に遊ぶにもガチでやるにも十分なのがGBNだ。
故に敬遠されがちなRGのキットを元に、媒体によって設定が異なる初代ガンダムの中で一番強いと考えられる『ガンダム THE ORIGIN』の初代ガンダムの後期型をモチーフとして大幅に改修したガンプラ。機体名はガンダムのままだが、あいつは便宜上こう呼んでいた──」
ガンダムR。RにはRemake、Revive、Restart、Refine等々。ありとあらゆる『もう一度立ち上がる』ための意味を込めたガンダム。
その名前を聞いた私は息を吞んだ。
「確かにすごいキットだ。だが、これで呪いを解くとはどういう意味だ?」
「こいつはあいつと俺の改造によって通常のガンプラとは比べ物にならないレベルの可動性を誇る。あいつは「父さんがもう一度宇宙を翔べる」ようにするためのガンプラだと言っていた」
「もう一度……」
宇宙を翔ぶ。この、愛している初代ガンダムのガンプラと共に。見上げた頭部に光は灯っていなかったが、どこか覚悟と力強さを感じた。
「お前が全力を解き放てない問題はこれで解決するってわけだ。そして、呪いの大元である『初代ガンダムが強いことを世界に見せつける』こともできんだろ。なんせこいつはどこまで行っても初代ガンダムの延長線にあるガンプラ。まさにお前にはうってつけのガンプラってわけだ。作った俺がそのポテンシャルを秘めていることは保証してやるよ」
アンシュがローブの影の中でニヤリと笑っている気がした。舞台は整えた、後はお手並み拝見と行こうか、とでもいうかのように。私はそれに同じような笑みを返そうとして──
突如体が、ひきつるのを感じた。同時にエラー音がどこかから聞こえてくる──
ちょうどその頃、ロンメルからハジメの過去を聞き終えたレイナはリアルへと戻っていた。別れ際にフレンド登録してもらったから今後も連絡を取ることは出来る。後は母親に何かしらないか聞くだけだけど……きまずい。大好きなお父さんの火葬場にこれ以上いたくなかった、というのもあるけどおじいちゃん蹴って無理やり逃げ出してきたし。
「……怒ってなかったらいいなぁ」
スマホを取り出して連絡を取ってみる。ワンコールもしない内にお母さんは出てくれた。
「あ、もしもしお母さん?ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
『それどころじゃないのよ! レイナ、GBNでお義父さんに会わなかった!?』
「GBNでおじいちゃんに? え、どういうことなの?」
『お義父さんにあなたの様子を見てきてほしいって頼んでたのよ!向こうで何か変な様子はなかったの!?』
「そ、そう言われても……誰がおじいちゃんだったのかすらわからないよ」
『そう……あ――が来た!ごめんなさい、ちょっと切るわね』
「待ってよお母さん!いったい何があったの!」
その問いに慌てた様子のお母さんは答えてくれなかった。ただ、誰かと話すお母さんの声だけが切り忘れた電話を通して聞こえてきた。
『ありがとうございます、こっちです。お義父さんが──』
心臓発作を起こして倒れたんです!
電話に強く耳を当てる。搬送先の病院の名前を聞き逃さないように。病院の名前を聞くと私は急いで近くのバス停へ向かって走り出した。
アンシュですが、ご存じの通りあの目つきの悪い紫ハロのあの人です。本名で出すべきかと思ったんですが、リライズでダイバーネームが公開されたのでそちらを採用しました。
彼については次回色々と語ります。
ガンプラ紹介
・HGUC No.21 RX-78-2 ガンダム
HGUCで最初にキット化された初代ガンダム。コアファイターが付属していたり、特にアレンジが入っていないシンプルなデザインは今でも人気。可動域は最新のHGに比べるとだいぶ劣るが、こちらのデザインを好むファンも少なくない。
・HGUC No.191 RX-78-2 ガンダム
ガンプラ35周年に合わせてリメイクされた初代ガンダム。関節引き出し機構を始めとしたギミックの調整が入っており可動域は非常に広くラストシューティングを完全再現可能。簡単に作れて奥が深く対象者が幅広いガンプラ。
・RG No.1 RX-78-2 ガンダム
1/144スケールという小型サイズにマスターグレードやパーフェクトグレードで培われた様々な技術を投入しリアルなガンダムを再現することに成功した名キット。リアルグレードの最初のガンプラと10年前のキットだがそのクオリティは現代でも屈指のレベル。
・ガンダムR
本作オリジナルガンプラ。制作過程、機能等詳しい情報は次回。
ハジメがたおれたことがきっかけでついにレイナはリアルでの彼、自らの祖父に出会う。二人が思いを通わせるとき、お互いにある決断をするのだった。
『ガンダムは伊達じゃない』
次回『宿命の出会い』
君は、生き延びることができるか。