ガンダムは伊達じゃない   作:あおい安室

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実はこの時点でダイバーズ杯に合わせてエピソードをいくらかカットしてたり。
打ちきりによる短縮みたいなことしてるとか、そこまで初代ガンダム再現狙ってない……


宿命の出会い

「──ーっ! 、ーっ!」

 

 ビルダーに必要な物は技術力、発想力、そして体力というのがお父さんの信条。年頃の女の子である私も体形の維持──って今はそれは関係ない。ともかくその教えに従って体を鍛えていたとはいえ、急いで病院まで走り抜いた体はまともに呼吸できないほどに疲労していた。

 

 汗が体中から噴き出て視界がよく定まらない。倒れないように膝をついて荒い呼吸を整えようとするのが精一杯な私の背を何者かが掴んで無理やり立ち上がらせる。私を立ち上がらせた赤黒いパーカーを着た青年が問いかけてきた。

 

「テメェがあいつの娘、あるいは孫のレイナか?」

 

「ー、お、お父さ、んの、知り合……?」

 

「ちっ、瀕死じゃねえか。こんな状態になってまだきやがったのか……バスを使えよ、馬鹿野郎」

 

「ちょう、ど、出たばっか、りで……」

 

「タクシーは」

 

「……ガン、プラ買った、から、お金な、い!」

 

「父親がアレなら娘もコレか、親子そろって計画性がポンコツとかどうしようにもねえな! ジジィのところに連れてってやるから肩を貸せ」

 

 お父さんを馬鹿にされた気がして怒ろうとしたけれど体に力が入らない。されるがままに手を伸ばすと青年が私を病院の中へ運んでくれた。受付の手続きを済ませた後エレベーターに載せられる。ここまでくれば何とか呼吸を整えることができたから、青年に「もう大丈夫です」と伝える。

 ぶっきらぼうに放り出された。この人雰囲気から想像してたけど大分荒っぽい……。

 

「あ、あの。あなたはお父さんの知り合いなんですか?」

 

「昔のビルダー仲間。さっき病院に運ばれたジジィと直前までGBNで話していた。これでいいか」

 

「は、はあ……あの、お名前は」

 

 フードの影から鋭く赤い瞳を覗かせて睨まれた。小さく悲鳴を上げると青年はそっぽを向く。お父さん、こんな人とビルダー仲間とかどんな交友関だったの?

 戸惑っていた私に救いの手を差し伸べるかのようにエレベーターが目的の階層へ着く。どこへ行けばいいのか戸惑っていると青年がこっちだ、とお祖父ちゃんの病室の前へと案内してくれた。

 

「レイナ……!」

 

 そこにはお母さんが立っていて、小さな声で私を呼ぶと駆け寄ってきた。

 

「よく来たわね。えーっと……その、お父さんのお友達さんわざわざすみませんね。あの子多分入り口で立ち往生するんじゃないかと思って……」

 

「それくらい別にいい。ほら、行けよ。俺の用事はお前の後で済ませる」

 

「……わかりました。あの、ありがとうございました」

 

「礼なんざいらねぇよ」

 

 壁にもたれかかって腕を組むと我関せずといった態度をとる。小さく頭を下げて礼をしてから病室へ入ると、眠っているお祖父ちゃん──そして。

 

「おばあちゃん……!?」

 

「久しぶりね、レイナちゃん……まさかこの人のことで会うとは思わなかったわ」

 

 苦笑いを浮かべるおばあちゃんがいた。お祖父ちゃんのことが苦手だった私はいつもおばあちゃんに遊んでもらったり絵の描き方を教えてもらったりしていたから、おばあちゃんのことは好きだった。そんなおばあちゃんは数か月前から持病の治療でこの病院に入院中だった。

 

「あの、なんでお母さん外にいたの?」

 

「この人とちょっとだけ内緒の話があったから外で待っててもらったの。ああ、そうそう。あの人があなたに見せたいものがあるって言ってたわね」

 

 えーっと、この引き出しに入れたかしら。おばあちゃんがタオルの塊を取り出し、それをほどいてあるものを取り出す。ここ最近、いや、ずっと前から何度も見てきた初代ガンダムのガンプラだった。だけどこのガンプラのことを私はよく知ってる。

 

「ハジメさんの、ガンダム」

 

「そう、ハジメさんのガンダム。これを見せればあの子は気付いてくれるはずだって薬を飲む前のあの人が言ってた。私にはよくわからないのだけど、何のことかわかる?」

 

「……はい」

 

 そのガンダムは今日の昼過ぎに出会った旧キットのガンダムだった。ガンプラを等身大サイズにするGBNではガンプラのわずかな傷や塗装具合などもよくわかる。記憶の中のそれとこのガンダムを照らし合わせると一致した。ロンメルさんと私の予想は当たっていたんだ。

 

 リアルでハジメはレイナの父親と何らかの関係を持っていた可能性がある。関係を持っていたどころかまさかの親子関係だったなんて。おじいちゃんがGBNをしてただなんて全く気付かなかった。

 

「ハジメさんが、おじいちゃんだったんだ……」

 

「? 何を言っているのかしら。この人の名前は本名もハジメよ。知らなかったの?」

 

「えっ……?」

 

「その顔は……もしかしてレイナちゃん、この人の本名知らなかったの?」

 

 おばあちゃんの問いに頷く。おじいちゃんのことこれまでずっとは「おじいちゃん」って呼んでいたから下の名前を全く知らなかったのだ。私が一方的に嫌わずにちゃんとおじいちゃんのことを知ろうとしてたらもっと早く気づけたのに! 

 

「あははっ、そんなこともあるものね。ちなみに私の名前はユミよ、レイナちゃん」

 

「……覚えておきます、ユミおばあちゃん」

 

 照れくさそうに笑った私にユミおばあちゃんは微笑ましそうに笑って返してくれた。旧キットのガンダムを棚に飾るとユミおばあちゃんはふとおじいちゃんを見つめる。クスリ、と笑うと席を立って病室を出ていった。突然の行為に思わず引き止める。

 

「え、どうしたのユミおばあちゃん!?」

 

「ダメよ、病院で大声は厳禁。後はあの人から聞きなさいな」

 

 ひらひらと手を振ってユミおばあちゃんは病室を出ていった。振り向くと──おじいちゃんが、申し訳なさそうに起き上がっていた。

 

「……寝たふりしてたんだがユミに速攻でバレた」

 

「何やってるのおじいちゃん……」

 

 ため息を吐くとさっきまでユミおばあちゃんがいた椅子に座っておじいちゃんの瞳を見つめる。

 

「あー、そのー……怒って、ないか?」

 

「どうして? 何を?」

 

「……わざわざ他人の振りをしてGBNでお前に会いに行ったことをだ」

 

「んー……怒っているといえば怒っている。怒っていないといえば怒っていない、かな。私でもよくわからないよ。今日一日でたくさんのことがあったもん。お父さんの火葬があって、GBNで猛特訓したり、旧キットのガンダム使いに会ったり、ブレイクデカール使いに襲われたり、伝説上の人に出会ったり……たくさんのことがありすぎて私疲れちゃった」

 

「そうか……すまなかったな」

 

「謝らなくていいよ。別におじいちゃんのせいじゃないし。だけど私色々と聞きたいことがあるんだ。ロンメルさんからおじいちゃんが昔何をしていたのかも聞いたしね」

 

「何、大佐が私の過去を?」

 

「うん。ロンメルさんおじいちゃんのこと凄く気にしてた。自分の知りうる限りのおじいちゃんの話をしてくれた後に出来ることなら力になってあげてほしいって頼まれたよ」

 

「大佐。あなたって人は……」

 

 おじいちゃんは目元を覆って天を仰ぐ。しわにまみれて笑みを浮かべているのが見えた。

 

「……ねえ、おじいちゃん」

 

「なんだ?」

 

「私がここに来たのはおじいちゃんが心臓発作を起こしたからって聞いた。おじいちゃんがGBNに来たのは私の様子を見に来るためだって聞いた。でも、お互いにその詳しい事情を知らない。私はおじいちゃんには聞きたいことがあるけれど、おじいちゃんも私に聞きたいことがあるんだよね」

 

「……そうだな。私もお前の父さんのことで話さなければならないことがある。色々とややこしいから一瞬でこう、パッとすませれたらいいんだがなぁ」

 

「あははっ、気持ちはわかるけどそんなのニュータイプじゃないと無理だよ。私もおじいちゃんもアムロ・レイじゃない。ニュータイプなんかじゃない、どこまでいってもオールドタイプだから。人がそんなに便利になれるわけないよ」

 

 おじいちゃんがポカンとした表情を浮かべていた。どうしてだろう。

 

「……てっきり父親からもらったという理由だけでSDの初代ガンダムを使っているのだと思っていた。レイナも機動戦士ガンダムが好きなのは知らなかったよ」

 

「ほら、そういうところだよ……! その辺含めて色々と話し合おうよ、おじいちゃん」

 

 私たちは相手のことを感じて瞬時に理解することができるニュータイプではない。けれど、こうして話し合うことでお互いを少しずつ理解していくことは出来るから。ニュータイプみたいに早くなくても、ゆっくりでも誰かに歩み寄ることは、できる。

 

 

「始めに、私は数年前から心臓が弱っていて感情が昂ると心臓に負荷がかかって発作を起こすようになった。感情を制御すれば日常生活を送る分には問題なかったから、心配させないために妻と息子にしか教えていなかった。今回の一件でお前の母さんには心配かけたよ」

 

「本当にね。気持ちはわからなくもないけど今度からそう言うことはちゃんと言った方がいいよ」

 

「わかった、そうしよう。発作は薬で抑えることができたからリスクを少なく見積もっていたのも悪かったな……そうだ、これにはある問題があるんだが何かわかるか?」

 

「えーっと……あ、わかった。GBNのプレイ中に薬が飲めないこと?」

 

「そういうことだ。ミッション中に一時的なログアウトを認めないモードが多いことと感情が昂る場面はその余裕もないバトル中ということもあってかつての私はGBNの引退を余儀なくされた」

 

「……引退したのってリアルでの事情だったんだ。ガンプラがうまく動かせなかったことってロンメルさんは言ってたけど心配して損しちゃったかな」

 

「それも理由の一つだ。肉体的にGBNをプレイできなくなり、精神的にガンダムをうまく動かせないこと。この二つが噛み合って私はGBNを引退したのだがそれは間違いだったのかもしれんな……続けられないことはわかっていた。だが、もう少しやり方があったんじゃないかと思うよ」

 

 おじいちゃんはそう言うと私が知らない昔の話を始めた。お父さんに勧められてGBNを始めたこと。その時お父さんがレアアバターやガンプラを用意してくれたこと。ガンダムをうまく動かすために使える物は何でも使ったこと。その過程でAMBAC機動を洗練させたこと。ロンメルさんから聞いていた話と照らし合わせながらおじいちゃんがGBNで何をしてきたのかを改めて理解して。

 

 同時にお父さんがおじいちゃんにお願いしていたことや、そのためにいろいろしていたことを聞いた。当時の私が覚えていた父さんの悩む姿がちょうどおじいちゃんがスランプになった時期だったり、ジムを作っていたタイミングがおじいちゃんが乗り換えを決意した時期だったりと。私の朧げな記憶も嚙合わせることでその精度は増していき、話題はお父さんの夢へと移る。

 

「RX-78が、初代ガンダムが強いっていうことを世界に見せつけてやってくれ」

 

 純正の初代ガンダムが強くないことを認めたくなかったお父さんの子供のわがままみたいな願い。それを叶えるためにおじいちゃんはGBNをやっていたということを聞かされた。

 

「……そっか」

 

「レイナ?」

 

「……私もね、お父さんのその夢をかなえたいって思ってGBNをやってたんだ」

 

 腰につけた小さなポーチを開いて、GBNでの私の相棒であるSDガンダムを取り出す。このポーチはお父さんが作ってくれた私のSDガンダム専用のポーチなのだ。

 

 

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 ずっと昔──恐らく、おじいちゃんがGBNを引退した直後。お父さんが酷く酔っぱらっていたことがあった。と言ってもお父さんは酔うと静かになってボーっとどこかを見つめてるくらいしか変わらないんだけど。その日はその表情がどこか悲しそうに見えた。

 

「……どうしたの、お父さん?」

 

「ん? あー……大したことないよ、レイナ。ごめん、そこの紙やすり取ってくれない?」

 

「600番? 1000番?」

 

 頷いた父さんを見て、棚から紙やすりを持っていく。手元を覗き込むと初代ガンダムのプラモデルがあってその仕上げをしていた。相変わらずガンダム愛に呆れながら紙やすりを手渡す。

 

「お父さん凄くガンダム好きだよね」

 

「……うん。好きだよ。好きなんだけど……好きだからこそ、かなぁ」

 

「……お父さーん? 大丈夫?」

 

「うん。好きだ、本当に好きなんだよ……」

 

 今日の酔い方はめちゃくちゃひどいやつだ。全然会話が通じない。呆れて部屋に帰ろうとしたその時、父さんがある言葉をつぶやいた。

 

「なのにどうしてGBNではダメなんだろうなぁ……」

 

 GBN。最近はやりのゲームでクラスの男子が遊んでいるという話を聞いた記憶がある。ガンプラはもっぱら作るのが専門だった私もちょっとは興味があったけどお小遣いは大抵ガンプラに突っ込む私は、GBNを遊ぶために必要な「ダイバーギア」を買えなかった。堪え性がないもので。

 

「ガンダムってGBNでは弱いの? 初代だからZやユニコーンには負けるとは思ってたけど」

 

「……いや、性能上は作品内で古い機体でも性能は一緒だよ。ただ純正だとどうしても勝ち目が薄いと言うか、いまいち決め手に欠けると言うか……ねぇ?」

 

「ねぇ、って言われても。私GBNやったことないからわからないよ」

 

「……GBNってね。ゲーム内でいろんなパーツのデータが手に入るんだよ。高機動バックパックや大型ブレード、ビームシールドとか。そういうパーツをお店で成型してガンプラを強化できるのが魅力なのはわかってるんだよ。でもねぇ……そういう改造したガンダムのカッコいいところ見てもさ、燃えないんだよ。わかるかいレイナ」

 

「えー、あー、まー……なんとなく?」

 

「だからさ、純正のガンダムのプロポーションを崩さない範囲でギリギリまで改造したんだよ。それをGBNがうまい人に渡したんだけど、それでも上位ランカーに勝てなかったんだよね……」

 

 作業台に張り付けていた写真を父さんは見せてきた。古いHGのガンダムの写真で、墨入れやつや消し、合わせ目消しなど様々なディテールアップが完璧に仕上げられていた。

 

「……じゃあ改造すれば?」

 

「それじゃあ僕の見たいガンダムじゃないんだよ! 誰が翼生えてたりGNドライブ付けた初代ガンダムを見たいと思うんだよ、ええ!? 僕は見たくないね!!」

 

「お父さんめんどくさくない!? そういう改造もありと言えばありでしょ!?」

 

「ふふふふ!! ……それはね、よーくわかってるんだよ。作った人の思いがこもってるいいキットだったし、ガンダムを強化するのはそういう方向性もありだし実際強いんだよ……」

 

 酔っぱらった人はテンションが変な風になるとは聞いたことがあったけどここまでとは。めんどくさい通り越して気持ち悪いレベル。お母さんが夜勤なのが惜しまれる。早く帰ってきて……! 

 

「ふっつうのね、初代ガンダムがね……上位ランカーとかにバーン、って勝てばさ。普通の初代ガンダムも強いんだーってことがキット伝わるんじゃないかなーって思うんだよ……それが僕にはできないんだよ……そんなのできないのは、知ってんだよう。ああ、僕って本当にめんどくさい!」

 

「ほ、本当にめんどくさいなぁ……じゃあさ、こういうのはどうなの?」

 

 棚に飾られていたガンプラを見て閃く。涙流してぐしゃぐしゃのお父さんに私はそれを手に取って見せた。それは私が初めて作った思い出のSDガンダム。お父さんが一番うまく作れたと言っているガンダムの隣に置いていたそれをお父さんは疑問符を浮かべながら見つめていた。

 

「これはSDガンダムっていうガンプラだけど、元にしてるのは初代ガンダムでしょ? これの純正が上位ランカーに勝つっていうのはお父さん的にはどうなの?」

 

「あー……あー……?」

 

「それにさ、初代ガンダムってアニメやガンプラで結構デザイン違うの見てるよ。横浜の歩くガンダムも結構違うの知ってるし。あんな感じで強そうな初代ガンダム探して、それのガンプラが上位ランカーに勝つとかありじゃないかな、どう?」

 

「……ありか? あり? ……ありよりのありだな! いや、待てよ!?」

 

 お父さんはやすりがけしていたガンプラを放り投げ──あ、ちゃんと置いた。それくらいのスピードで手早く片付けてパソコンに向かって何やら調べ始めた。

 

「ありがとう、レイナ。いいアイデアがひらめいたよ。ちょっと父さん調べものするからしばらく集中させてほしい」

 

「あー、うん。元気になってくれてよかったよ」

 

 お父さんの剣幕に飲まれて自分の部屋へと帰った。その手には思わず持ってきてしまったSDガンダム。久しぶりに手に取ったそれに問いかけるように呟く。

 

「GBN、かぁ……ねえ、君となら上位ランカーに勝てたりするかな?」

 

 ガンダムは答えてくれない。けれど、私の中でGBNへの興味が湧いてきたのは事実だった。この子と一緒に私が上位ランカーに勝てたらお父さんも喜んでくれるかな。

 

「……よーし、ちょっとばかりやってみますか」

 

 パーツをバラして切り跡処理をもう一回やり直そう。部屋のストックに難しくて貼るのを断念したHGガンダム用のマーキングシールがあったはずだから流用してみるのも悪くない。この子は、ガンダムはもっともっと強くなれる余地はあるはず。やれることをやってみるんだ。

 

 

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「その翌日ディテールアップしたSDガンダムを見てお父さんは笑って、私はちょうどぴったりサイズの緩衝材入りのポーチを作ってきたお父さんに驚愕した。あそこまで来るとちょっと怖い」

 

「あいつ本当にモデラ―としての腕前は高いからな……」

 

 酔っぱらった時の荒れ具合と微笑ましいエピソードに苦笑しつつ、レイナは話を進めた。

 

「とにかくこれが私がGBNを始めたきっかけでその目的だった。お父さんが亡くなったのを聞いた私はそれを叶えてあげられなかったことが悔しくて仕方なかった。せめてお父さんの葬式が終わるまでに何とかできないか必死に頑張っていたんだけど……正直なところ、もう気付いてたんだ」

 

 ──私にはそんなことは無理だって。

 

「私にはバトルのセンスはそんなにないし、いくら頑張ってもこのSDガンダムじゃ限界があるってことはわかってた。分かってたけどどうしても諦められなかった」

 

 悲しそうに語っていたレイナは私を見ると小さく笑みを浮かべた。

 

「でも、同じ夢を追いかけてたおじいちゃんがいるって聞いて少し諦めが付けられた気がするんだよ。心臓が悪くて倒れちゃったけど、こうしてGBNを少しでも遊べるってことはおじいちゃんもGBNに戻ることができるってことなんだよね?」

 

「……ああ。体調は落ち着いているし上手く薬の飲むタイミングと合わせればそれなりの時間はプレイできることは確認済みだ。それに、息子の友人から息子が最後に作っていたガンプラも譲り受けた。これならばやれると確信している」

 

 棚にしまっていたポーチを取り出す。レイナが持っていたものと似たデザインのそれの中には薬を飲んで眠る前にアンシェから譲り受けた『ガンダムR』が入っている。それを見たレイナは目を輝かせて手に取ろうとするが──

 

「あれ?」

 

 首を傾げた。それもそのはず、手に取ったガンダムはゴム人形のように力なくだらんと手足をぶら下げたのだ。渡してくれたアンシェからも言われたが自立することすらできないのである。

 

「こ、こんなガンプラで大丈夫なの?」

 

「一応未完成とは聞いている。これから完成に向けて最後の仕上げをするらしい。それが終わったらGBNで力を貸してくれないか?」

 

「……うん、任せて。ここからどんな改造するのか気になるけれど、もうこんな時間か……私、そろそろ帰るよ。明日ロンメルさんに会うつもりだけど、どう伝えようか?」

 

「大佐には……全部話しても構わない。よろしく言っておいてくれ」

 

「わかった。じゃあまたね、おじいちゃん。次はGBNか現実のどっちかわからないけどね」

 

 

 レイナは笑みを浮かべると病室から出た。そのまま母親と帰っていく姿と入れ替わりにフード姿の青年『アンシェ』が病室に入ってくる。

 

 

「全く、話が長いぜジジィ」

 

「すまんな。レイナとああして話すのはこれが初めてだったものでな」

 

「アムロ・レイとテム・レイかよ。どんだけ関係冷え込んでんだ」

 

「返す言葉もない……救急車を呼んでくれて助かった。息子と友人とは聞いていたが、私の住所まで知っていたとはな。あいつが話していたのか?」

 

「まあな、リアルであった時に連絡先として紹介された。つーか俺が本名名乗りたくなくて「あいつのビルダー仲間だ」って言ったらそれだけで信頼したあいつの嫁さんどうなってんだ?」

 

「夫が良くも悪くもぶっ飛んだ男だ。そういうことに慣れているのだろう」

 

「ぶっちゃけ諦めてるような気がするけどな……まあいい、本題に入るぞ」

 

 アンシェはガンダムRを手に取る。ガンダムは力なくだらんと垂れ下がったままだった。足も、手も、首も。全てが少し揺らしただけで揺れる程に関節が緩かった。

 

「こいつはお前の息子がお前のためだけに作ったガンプラだ。他の誰かに乗りこなすことはできねぇよ。見ての通りスラスターの数がオリジン版モチーフだからかなり多い。一個一個の精度も高いから最高速度は結構高いところまで行くはずだ」

 

「その分操縦が大変そうだな。AMBAC機動の技術を見直す必要がありそうだ」

 

「そいつはテメェの仕事だ、頑張りな。それと関節を保持できるギリギリまで摩耗させて可動性をとにかく高めているし、フレームも改修して元々広い可動域をさらに広げた。これ以上に動けるガンプラはないぜ」

 

「だが、ここまで緩いと不安だな……GBNで認証できるのか?」

 

「その問題の解決策もあいつは生み出した。データを渡したとはいえまさか一晩でやるとは思わなかったがな。間違いなくお前の息子は天才だぜ」

 

 ガンダムRを棚に乗せるとスマホを取り出して操作した。すると、ガンダムの瞳が突然輝き関節がレイナが持った途端に曲がるほど緩んでいたのに、ガンダムが立ち上がった。

 

「ま、まさか……フレームが動くのか、このガンダム?」

 

「半分正解、半分外れだ。あんた、GPDって聞いたことはあるか」

 

「GPD……すまない、聞いたことがない」

 

「そうかよ。GPDっていうのはガンプラを使ってやるバトルのことだが、GBNみたいなデータ上でバトルはやらねぇ。GPDは実際にガンプラを動かすバトルだ。お前の息子はその技術を組み込んで関節が緩すぎる問題を改善した。パイロットの挙動に合わせて関節の硬度をある程度コントロールできるようになってんだよ」

 

「……なるほど。さしずめガンプラ版マグネット・コーティングと言ったところか?」

 

「そいつに近いな。関節の抵抗を極限まで減らしているから性能的には近い。使った技術の名前もプラネット・コーティングだからなおさら近いかもしれん」

 

 専用のアプリもあいつが作成してある、と言って彼は私の端末にアプリをダウンロードし始めた。その間に一つ疑問を聞くことにした。

 

「なあ、アンシェ。一つ聞きたいことがある」

 

「なんだ」

 

「どうしてそこまでしてくれるんだ? 息子の友達とはいえここまでしてくれる理由がわからない」

 

「……そうだな、テメェには言うべきだったな」

 

 アンシェはポケットから小さなビニール袋を取り出した。その中には一見するとただの小さなシールのようなものが入っていたが、ただのシールではない、と勘が言っていた。ガンプラを作ったことがなくても、GBNで多くのガンプラを見てきたからか。

 

「こいつは『ブレイクデカール』。ガンプラの性能を不法に引き上げるツールさ。襲われたお前がよく知ってるだろ」

 

「なっ!? あの不正ツール!?」

 

「そうだ。俺はこいつを作ってバラまいてる。所謂テメェらみたいな正規プレイヤーから見たら悪の黒幕ってやつだろよ」

 

「……息子は、それを知ってお前に接触したのか、アンシェ」

 

「ああ。ブレイクデカールを見たお前の息子はどんな技術で作られたのを想像し、考察してGPDの技術の応用であるところまでたどり着いた。そしてGBNで俺を見つけ出してこう言ったんだ。「作りたいガンプラがあるが、GPDの技術が必要だ」とな」

 

 バカ息子め! ここが病院でなければ、私が健康であれば怒鳴り散らしていたところだ。

 

「その上で俺の共犯者になった。まぁ、運営に通報しないくらいしかあいつは協力してないから安心しな。それにあいつとの条件にこんなものがある。「完成したガンダムにお前が負けたらブレイクデカールを封印しろ」ってな。全く理不尽な男だぜあいつは」

 

「……それで、どうしたんだ」

 

「その条件を呑んだ……そんなに意外か? 俺は依頼を受ける時あいつからあんたの記録映像を見せてもらって興味がわいた。あんたが全力を出せるガンダムと戦ってみたくなったのさ。だからこうしてあいつの遺志を継いでガンダムRを完成させたってわけさ」

 

「っ……作ってくれたことには礼を言う。だが──」

 

「バトルの時は容赦しねぇってか? そいつは当然だ。おたがいに本気でぶつかり合えなきゃ俺が求めてるバトルじゃねぇ。全力で俺を止めてみろよ、ジジィ。だけどよ──」

 

 

 そんな体で持つのかよ。下手すりゃ後一週間で死ぬんだろ? 

 

 

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 ・

 

 ・

 

 

 翌日。GBNの世界でレイナはロンメルさんに会ってハジメさん、もといおじいちゃんから聞いた話をロンメルさんに伝えていた。全て聞き終えると、ロンメルさんは大きく頭を下げた。

 

「すまない。本当に助かった、レイナ君。改めて礼を言わせてくれ」

 

「い、いえいえ! 私もロンメルさんに色々お話聞かせてもらえたおかげでおじいちゃんと仲良くなれそうな気がしてますし、結果オーライですよ」

 

「そう言ってもらえると助かる。しかし彼がガンダムにこだわる理由がそれだったとは。その上で彼の息子が最後に作り上げたガンダムでGBNに戻ってくるかもしれないのか。楽しみだな」

 

「はい。ちょっぴり不安ですけどやっぱり私もガンダムが好きですから。どんなガンダムになるのか楽しみにしてます」

 

「きっと素晴らしいガンダムになるよ、彼と共に戦っていた私が保証する。ところでレイナ君、彼が復帰したら私とバトルしないかと伝えてくれないか? 彼の実力を久しぶりに見ておきたい」

 

「わかりました。きっとおじいちゃんも喜んでくれますよ」

 

「頼んだ。それに彼の息子の願いである『初代ガンダムの強さを見せつける』のであれば、私はきっといい相手になるんじゃないかと我ながら思っていてね。どうだろうか」

 

「なるほど、いいんじゃないでしょうか……って、そこまで考えてくれてたんですか!?」

 

「ハッハッハ。彼のデビュー戦ともいえる星一号作戦でいい勝負を彼と繰り広げた私は言うならばファン一号だからね。これくらいはしてあげたいじゃないか。最も、手は抜かないけどね」

 

 智将ロンメルさんVSおじいちゃんかぁ。凄い戦いになりそうだと期待しながら注文していたハンバーガーにかぶりつく。うーん、味が薄い。もうちょっと再現頑張ってよGBN。

 

「……ところで、話はそれだけかい?」

 

「ふぁい?」

 

「君の目はそのハンバーガーの味以外にも悩みがあると言っているよ」

 

 ドキリ、として思わずハンバーガーがのどに詰まる。水で流し込み深呼吸して息を整えると、ロンメルさんに問いかけた。

 

「わかりますか」

 

「うちのフォースは結構な大所帯だからね。新人の育成を目的とした下部フォースの結成も考えているくらいだ。君みたいな新人も何度か見たことがある」

 

「流石ですね、ロンメルさん……私、これからどうすればいいのかで悩んでいるんです」

 

「先程の話を聞いた限りだとお父さんの夢のために戦っていたんだったね」

 

「はい。ですけどおじいちゃんがそれを叶えてくれそうなのを見て、ちょっぴり心に来ちゃいまして。私はそんなに強くないからそれが正しいことなのはわかっているんですよ。わかっているんですけど、どこか不完全燃焼で……なにかわたしにもできることがないかなって悩んでます」

 

「ふむ、そういうことか……よし、私にいい考えがある!」

 

 なんかその台詞聞くと自爆しそうな気がするんですが!不安ながらも私はロンメルさんのアイデアを聞いた私は、それに同意することにした。次は私が動かなければ。一旦GBNをログアウトした私はおじいちゃんへ連絡を入れた――

 

 

 

 時は流れて翌日の早朝。私は行きつけのガンダムベースを再び訪れていた。

 

「こんにちは」

 

「あら、レイナちゃん。今日もGBN?」

 

「いえ、今日は制作スペースを借りようかと。そこである人と待ち合わせする予定なんです」

 

「待ち合わせ……ああ、アズマ君?」

 

「絶 対 に 違 い ま す」

 

 なんであいつと一緒にガンプラ作らなきゃならないんですか。あいつ一応私のライバル。店員さんにからかわれながらも制作スペースに向かう。開店直後のそこにはまだ誰もいなくて静かで、準備をするのにはちょうど良かった。ポーチから愛機のSDガンダムを取り出し、バッグからとあるガンプラを取り出す。箱にはメッセージカードが付きっぱなしだった。

 

『誕生日おめでとう――レイナ』

 

 お父さんの秘密の積みプラ隠し棚の奥に隠されていたガンプラ。お父さんが迎えることがなかった誕生日プレゼントとして買っておいてくれたそれを今日は完成させるのだ。

 

「力を貸してよ、父さん……なんてね」

 

 パッケージアートに見惚れながらテキパキと持ってきた道具とランナー、説明書を広げる。もちろん他人の邪魔にならないように最小限のスペースで。そして、ニッパーを手に取った時――

 

「あ、あのっ!アオツキ・レイナさん……ですよね」

 

 テーブル越しに声をかけられた。顔を上げてその人の顔を見た私は笑みを浮かべた。

 

「……驚きました。GBNでの印象そのままなんですね」

 

「それはこっちのセリフよ、あ、です」

 

「あはは、向こうでの喋り方抜けてませんね。来てくれてありがとうございます――師匠」

 

「こ、こっちではその呼び方はやめて。私、フジサワです。フジサワ・アヤ」

 

「なるほど。ではこれからアーヤさんって呼びましょうか」

 

「どうして伸ばしたの!?」

 

 その方が可愛いかなって。ダメ? ダメかー。アヤメさんでいい、と言われました。

 

 フジサワ・アヤさん。もとい、アヤメさん。GBNでは忍者姿でクールかつカッコいい彼女はこちらの世界だと優しいお姉さんみたいな雰囲気だ。それでも印象はGBNと変わらないから不思議。

 

 今回のガンプラ制作にあたってお父さんみたいな頼れるビルダーの助けが欲しかったけれど、私にはそんなつてはない。あっても同じ学校のガンプラ友達くらいだから申し訳ないけど技術力不足。一応アズマのやつはそれくらいの技術あるのは知ってるけどライバルだから以下略。

 

 困った私はおじいちゃんに頼んで、お父さんが最後に作ったガンダムを持っていたというビルダーを紹介してもらおうとしたけど、肝心のビルダーに会うことすら断られた。困っているとそのビルダーが「知り合いを一人そっちに向かわせてやる」と連絡してきた。

 

「全く……本当に変わらないね、レイナ……さん」

 

「レイナでいいですよ。アヤメさん。こうして会うのもどれくらいでしょうか」

 

「二年か、それくらいだったはず。あなたに会えて私少し安心してるわ」

 

 それがまさか昔同じフォースだったアヤメさんとは思わなかったけど。あの日以来全くあってなかったから、リアルとはいえこうして再開できたのは嬉しかった。改めてニッパーを握りなおしていると、アヤメさんは私の顔をじっと見つめていた。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

「えーっと、そのー……怒って、ないの?」

 

 アヤメさんが申し訳なさそうに聞いてきた。心当たりはある。『あのこと』だ。

 

「どうして? 何を? って、これ最近言ったような。とにかく、アヤメさんは私にとってずっと師匠なんです、怒る理由なんてどこにもありませんよ。むしろ怒られるべきは逃げ出した私ですから。アヤメさんに怒られる覚悟はあります。気にしているのならやっぱり――」

 

「違う、そうじゃない!」

 

 バン、と机をたたいて詰めよってきた。アヤメさんは必死に否定する。

 

「あなたは悪くないの、私が――」

 

 

 ――私が、あなたを守れなかったのが悪いの!!

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 GBNを始めたばかりの私はとにかくバトルが下手だった。お父さんは時々自分にはバトルのセンスがないと自虐してたことがあったけどそれがどうも私にも遺伝しちゃったみたいで。私がアヤメさんに出会った時もちょうど苦戦中、というか瀕死で。

 

「いや、やだ、ひいっ、来ないで……!」

 

 ぼろぼろになったガンダムに1/144サイズのザクがヒートホークを突き立てようとしていた。ガンダムだからザク程度楽勝!なんて考えてた私を後悔してた。巨人に小人が殺されそうになって、コクピットの中で涙を流しながら震えてたその時。私は出会った。 

 

「変異抜刀――アヤメ斬り!!」

 

 3体の小人――見知らぬSDガンダムが私のガンダムの上を飛び越えて、ザクへと襲い掛かる。手にした刀でザクをバラバラにすると、残骸を全て遠くへと蹴り飛ばした。そして――

 

「滅ッ!」

 

 SDガンダムのパイロットの叫び声と同時に、ザクが爆発した。あのガンダムは私を爆発から守ってくれたのか。そして3体のSDガンダムは1体のSDガンダムになった。

 

「分身の、術……?忍者の、SDガンダム!?」

 

 ユニコーンガンダムモチーフのSD?騎士っぽいけどやってることは忍者?そういえばよく見るとサイコフレームが忍者の鎖帷子みたいな――

 

『そこのダイバー、大丈夫?』

 

「っ!は、はいっ!」

 

 助けてくれたガンプラに見とれていると、操縦している忍者姿のダイバーが声をかけてくれた。

 

『こんなところに敵がいるだなんておかしいと思ったわ……もっとも、私も人のことは言えないけれど。腕は動かせる? 近くのハンガーまで運んであげるから頑張って』

 

「ありがとうございます!あの、お姉さんは一体……!?」

 

『お、お姉さん? 別にそう呼ばなくていいから。私はアヤメ。『Le Chat Noir』のアヤメよ、ガンダムのパイロットさん。ガンプラの作りこみもいいけど、コスプレもなかなかじゃない』

 

「ふえっ!」

 

『どうかした?』

 

「い、いえ、なんでも……お父さん以外に褒められたの、初めてだ」

 

 これがきっかけで私はアヤメさんに惚れた。私は女だから言葉の綾ってやつかな?これがきっかけで初代ガンダムの強さを見せつけるという目標に、新たな目標を付け加えた。アヤメさんみたいに強くてかっこいいダイバーになるっていう目標を書き足したんだ。

 

「と、いうわけで弟子にしてもらえませんか、師匠!」

 

『師匠? 別にいいけれど……あなたフォースに入ってないみたいだし、よかったらうちのフォースに来る? SDガンダムオンリーのフォースだからきっと参考になるはずよ』

 

「お気持ちはありがたいんですが……私まだEランクでして」

 

『修理終わったらすぐにミッションに行くわよ。今日中にDランクまで上げてあげる』

 

「今日中ですか!?スパルタですね師匠!?」

 

『……不味かったかしら』

 

「いえ、望むところです!ありがとうございます、師匠!」

 

 こうして私とアヤメさんの奇妙な師弟関係が始まると同時に。

 

「アヤメが助けたダイバー、か。昔俺たちがアヤメを助けたのを思い出すよ」

 

「あ、助けてくれた時の人のことを言えないってそういう……」

 

「コージー、それを言わないで!」

 

「ははっ、ごめんごめん。では改めて、フォース『Le Chat Noir』リーダーのコージーだ。これからよろしくな、レイナ」

 

「はいっ!これから『ルシャノワール』のお世話になります!」

 

「……ちょっと発音が変ね。もしかして英語苦手なの?」

 

「あはは……ごめんなさい師匠、5段階評価で2です」

 

「バトルの腕だけじゃなくそっちも磨きなさい。ある程度なら私も教えてあげるから」

 

「師匠が先生になった!?」

 

 ……まあ、奇妙なスタートになったけれどアヤメさんと同じフォースに入った。SDガンダムオンリーのフォースだったから戦闘での立ち回りやテクニックはアヤメさんを始めとしてフォースの仲間皆から指導してもらえた。おかげでポンコツだった私の腕前も大分上がった。

 

 コアブースターを支援機として立ち回らせる戦法も師匠の提案で考えて、フォースの皆に頼んで行った模擬戦で磨き上げた戦法なのだ。コアブースターを作るコツも師匠が教えてくれた。

 

 同時に『ルシャノワール』全体の力もメキメキと上がった。初期メンバーの集めたパーツで組み上げた強力なオリジナルSDガンダム『絆ガンダム』やアヤメさんの『RX-零丸』を始めとしたみんなの力もあって一時期はランキング30位台まで上り詰めたけれど……そこが限界だった。

 

 リアルタイプがいないことによる戦術面での限界、磨き上げた戦術を徹底的に研究されたことによって他フォースが手ごわくなったこともあって私たちは連戦連敗を重ね、フォース内の雰囲気が悪化していった。その時槍玉に挙げられたのは……私だった。

 

「お前のガンプラなんで改造しないんだよ?」

 

「ブースターを追加しない、アーマーを追加しない、武装を追加しない。やれることいっぱいあるだろうによ。それがガンプラだろ」

 

「もしかしてお前さぁ……やる気、ねぇのかよ。俺たちが必死にやってるのにそれをあざ笑ってんのかよ、答えろやレイナァ!!」

 

 お父さんの願いをかなえるためにも私のガンダムは改造するわけにはいかない。コアブースターもギリギリ妥協して取り入れた物でもあったから、これ以上は無理だった。これが原因で私の実力はフォース最低なんじゃないかという声も出てきてしまい、フォースの雰囲気は更に悪化。

 

「気にしないで、レイナ。あなたの実力は皆知ってる。ガンプラを改造しないのも何かこだわりがあるからなんでしょう?」

 

「大丈夫、また勝てるようになったらそんな意見なくなるはずさ」

 

 師匠やコージーさんはそう言って励ましてくれたけれど。私は自分を助けてくれた人々に私への批判が向くのが怖かった。怖くて、怖くて、どうしようにもなくて……

 

「待って、レイナ!あなたが責任を感じる必要なんてない!あなたがいてくれたから勝てた試合だっていくらでもあるのよ!私は大丈夫だから!あなたを守るためなら私は――!」

 

 引き止めてくれた師匠の手を振り払い。私は思わず頬を叩いた。叩いてしまった。

 

「――あっ」

 

 救いを求めるかのように呟かれた言葉はどちらが発した物だったのだろう。それがどちらものであったとしても、私と師匠の関係がこじれたのはこれがきっかけだった。

 

「……お世話になりました!さよなら、師匠!!」

 

 こうして私はルシャノワールから逃げ出した。師匠――アヤメさんとの繋がりも、切れた。

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 あの日から少なくない時間が流れ、メンバーの脱退が止まらなかったルシャノワールは解散。アヤメさんを始めとしたフォースメンバーの行方もわからなくなった。

 私にルシャノワールの皆には合わせる顔がないのは承知だ。でも、私はアヤメさんが来ると聞いて覚悟を決めた。

 

 もう、これ以上――

 

「アヤメさん、いえ、師匠」

 

 止まっていられない。前に進まないと、いけないんだ。

 

「あ、頭を上げて!私はあなたにそんなことされるような人間じゃない!」

 

「いいえ。ルシャノワールが崩壊したのは私がガンプラを改造しなかったのが原因の一つ。私はもっとルシャノワールの力になれたはずなのに、それをしなかったのは事実です」

 

「レイナ……」

 

「失礼なお願いなのはわかっています。もう一度だけ、私の力になってもらえませんか、師匠」

 

 昨日一日かけて私が考えてきたそれを記したノートを師匠に見せる。困惑しながらも受け取ってくれた師匠はノートの中身を見ていく。一ページ、一ページ、一ページ。ページをめくる速度が少しずつ上がっていき、全部読んだアヤメさんは驚愕を瞳に宿していた。

 

「レイナ、これってあなたのガンダムの改造案じゃない……!」

 

「はい。六日後、私のフォース『V作戦実験小隊』は『第七機甲師団』とフォース戦を行います」

 

「第七機甲師団!?あのランキング第二位のフォースと……冗談、じゃないのよね」

 

 慎重そうに聞いてきた師匠の問いに頷く。

 

 ロンメルさんのアイデア、それはハジメさんVSロンメルさんの舞台をフォース戦にするというアイデアだった。ただのバトルでも知名度は上がるかもしれないが、フォース戦で第七機甲師団の名を持ち出した方がもっと知名度が上がるはずだとロンメルさんは考えた。

 その分難易度は上がるけれどリターンも大きいし、私が戦場でおじいちゃんを助けることができる。おじいちゃんの力になることができる。これが私にできることだ。これを聞いた私のフォースメンバーも実力差は承知の上であの『第七機甲師団』と戦えると聞いて乗り気になってくれた。だから私もみんなの力になるために決断したのだ。

 

「私がガンダムを改造しなかったのは私にとって大切な人の願いだったからなんです。だけど、その願いを継いでくれる人が現れた。だから私はもっと先へ進む決断をしました。

 あの時はできなかったけれど、今度はちゃんと仲間の力になりたい。だから――」

 

 この子を、ガンダムを改造する。改造してもっと高いところへと行けるだけの力を加える。

 

「……あなたの気持ちはわかる。だけどあなたのSDガンダムは古いしこんな改造ができるかどうか私にもわからないわよ。万全を期すなら別のガンダムをモデルにした方がいい」

 

「覚悟の上です。古いキットであることは承知ですし別のキットを改造した方がいいのはわかっています。でも、このガンダムは大切な人からもらって最初に作った私だけのガンダムであり――」

 

 ルシャノワールの皆と共にいた思い出が詰まったガンダム。だから最後までこの子と一緒に戦いたい。この世界のどこかにいるルシャノワールの皆にSDガンダムの強さを見せてあげたいから。

 

「――っ!」

 

「お願いします、師匠。この子の改造は私の技術力じゃ難しい。私にできることならなんだってしますしルシャノワールの皆のところにいって土下座だってします。だから――」

 

 その先を言おうとしたとき、師匠は私の口に人差し指を当てた。それは、熱くなりすぎた私を止めるためにしていたいつものしぐさ。戸惑っていると、師匠は私が広げた機材を片付け始めた。

 

「……ここじゃ作業に時間がかかりすぎるし完成する前に閉店するわ。私の家かあなたの家でやりましょう。ただ、私の家は結構遠いのよ。あなたの家に作業台と道具はあるのよね?」

 

「は、はい!」

 

「ならそっちでやりましょうか。行くわよ、弟子」

 

 小さく笑みを浮かべて私の先を行くアヤさんの姿はかつて私が憧れた師匠そのものだった。

 

 

「ねえ、レイナ。改造した後のガンプラの名前は決めてあるの?」

 

「決めてあります師匠。かつての思いと願いが込められたガンダムを作り変えるんじゃない。もっともっと広い世界へと飛翔させるための力を加えるのがコンセプト。だから、名前は――」

 

 

 プラスガンダム。

 

 

 かつて道をたがえた二人が同じガンプラを完成させるために集う。だが、これは闇の中へと歩むことを決めた少女を救えたわけではない。師匠が闇の中を歩んでいるということを弟子は知らなかったし、気付けなかった。しかし、その心にわずかでも光を差し込ませたことは事実である。




 ガンプラ紹介
・RX-78-R ガンダムR(本作オリジナル)
 高い可動域を誇るリアルグレードをベースに可動軸を追加、オリジン版ガンダムを元にスラスターを各部に追加したことで高い機動性と運動力を手にしたが、関節を意図的に摩耗させたため、自立すら不可能という欠点がある。
 この欠点を解決するためにGPDの技術が必要であったが、技術解析の時間が足りなかったため、やむを得ずアンシェの手を借りた。

・絆ガンダム
 原作に登場した『Le Chat Noir』の絆を象徴したガンダム。正式名称は「騎士コマンドランダーボイジャー大将軍」、「ガンダムX-30」と色々と設定はあるのだがキット化されていない模様。
 余談だが初登場した時と再登場した時でディテールに大きな違いがある。十中八九それまで持っていたビルダーが改修したのだろう。

・SDBD RX-零丸
 原作の中心キャラである『アヤメ』のガンプラで、SDのユニコーンガンダムが原型機……と言っていいのか。
 というのも、原型機で言うユニコーンモード、デストロイモードだけでなく1/144キットサイズへの変形ギミックを持つとんでもキットだから。それ以外でも原作での描写も考察するとギミックの凄さがトップクラス。
 下手をするとビルドシリーズ通して一番作りこまれたガンプラかもしれない。アヤメ=サンすごい。

・RX-78+ プラスガンダム
 レイナが考案したSDガンダムの強化形態。詳細は次回。


 物語はついに終局を迎える。息子のため、かつての友のため。思いの行く先は違えど同じ目的を達成すべくハジメとレイナは第七機甲師団との戦いへ挑む。戦いを見守る人々と、それを駆る二人の思いを乗せて――

 『ガンダムは伊達じゃない』

 次回『翔べ!ガンダム』

 君は、生き延びることができるか。
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