ガンダムは伊達じゃない   作:あおい安室

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この時間に投稿されることを予想できたあなたはきっとダイバー。
GBNの世界への往復切符を進呈します。


GUNDAM RISING/See you at GBN

 支援機同士による戦いはV作戦実験小隊側が苦戦を強いられていた。ジムガードカスタムを駆るサキはガンキャノンとガンタンクを一瞬で仕留めたヅダに対応し、狙撃手として単独行動していたライトは別動隊として活動しているであろうサザビーを捜索している。

 二人のダイバーとしての技量は低いものではない。互いにガチ勢と呼ばれるプレイスタイルではないが、GBN歴は長く並みのダイバー程度ならあしらえる技量があったのは確かだ。

 

「嘘ッ、まだ武装持ってたの!?」

 

 それでも太刀打ちできないほどに相手が手ごわい。ライトはサザビーをまだ発見できず、サキはヅダに苦戦していた。腰部に装着していたザクマシンガンだけでなく、イフリートシュナイドのキットから転用したヒート・ダートと呼ばれるクナイ状の武器を何度か投げられている。ガードカスタムの特徴である強靭なシールドがなければ持たなかっただろう。

 

『へへへっ、ゴーストファイターの戦いは変幻自在ってか!』

 

「うわぁ、普段なら称賛してたけどこういう時はむかつく!」

 

 原作では宇宙戦しかしていなかったが、その高い機動性はGBNであれば各部の調整をすることでヅダの高い機動力を地上でも発揮することが可能なのだ。まるでホバー移動するかのように高速で地表をかけながらヅダが本人の言葉通り変幻自在の機動力でガードカスタムを翻弄する。

 サキのガードカスタムは対応しようとするが、機体が隠れるほどの巨大な盾が重すぎてヅダとは相性が悪いのだ。ガードしながらのシールドガトリングで削るつもりだったが……仕方ない! 思い切って盾を捨てて打って出ようとしたのをヅダは逃さない。

 

『もらった!』

 

 ビルの上からガードが落ちたその瞬間をザクマシンガンで射撃する。が、既にガードカスタムはそこにいない。レーダーの反応を確認すると──真下!? 

 

「ハロー♪」

 

 かわいらしい挨拶と共に、ガードカスタムが真下から飛翔してきた。そして、腕に装備したビームダガーがそのまま発光。ビームの刃で殴りつけるかのようにぶん殴る。ヅダが素早くバックステップで回避したことによってビームダガーはわずかに装甲を焼くだけに終わる。

 が、これでいい。これでうまくいくかどうかはわからないし作戦を練る時間はなかったからぶっつけ本番だが──あいつなら。あの人ならきっとやってくれるはず。

 

 その想い通り、ヅダのバックパックのノズルがビームに貫かれた。

 

『なあっ!?』「やったぁ、愛してるライトォ!」

 

 頼れる伴侶であり仲間であり相棒。そんな彼が駆るスナイパーカスタムがこのタイミングを待っていた。狙撃機で別行動している彼がビルの上にいる機体を狙わないのは考えにくい。となればよほど忙しくて狙撃する余裕がないか、あるいはターゲットが『狙える位置』にいない。

 ならばターゲットを動かしてやればアクションを起こしてくれるはず。ライトというダイバーはそういうやつなのだ。それをわかっているからこそ。

 

「ロック解除、いけぇ!」

 

 共に戦うことが、できるのだ! 反対側の腕をスイング、その勢いで腕部に収納されたビームダガーが投げられてヅダに直撃する。さぁ、後は機体をブーストさせてヅダに激突。掴んだまま。

 

「下へ参りまーす! あなたを殺すのは私じゃない、重力よ!!」

 

『このロリババァえげつねぇっ!!』

 

 カチンときたので地表へたたきつける道中に胸部ガトリングを叩き込む。頭部と胸部をズタズタにされながらヅダは地表へ墜落。大した距離ではなかったけれど、傷ついた背面から二機分の質量で落下したことで機体に深刻な損傷を与えるのには十分だった。

 

「いい腕だったわよ。女をイラつかせなかったら60点ってとこかしら」

 

『赤点ギリギリの採点じゃねーの……!』

 

「伸びしろが多いって思いなさいな」

 

 ヅダからビームダガーを引き抜き、マウントしていたビームスプレーガンを空いている手に持たせる。これほどの挙動ができたのはこのガンプラを前線仕様として機動性をチューンしていたことと、シールドを捨てたから。某ガンダムゲームでもシールドを捨てたガードカスタムは異常に速かったりする。サキが周囲に敵影がないことを確認していると、近くで突如大爆発が起きて高層ビルが崩れるのが見えた。なんだか嫌な予感がして通信を開く。

 

「こちらサキ、一機撃墜。状況は?」

 

『こちらライト……あー、ごめん。狙撃してたらサザビーにビル崩されて機体をやられた。ロンメル隊ってそこまでするとはね……サザビーのダイバーは結構なやり手だよ』

 

「今晩禁酒」

 

『鬼かい!?』

 

 あなたの優しい妻です。

 

「ハジメさんとレイナちゃんの様子は何か見えた?」

 

『下敷きになる前だと結構な激戦繰り広げてた。レイナちゃんは多分アズマと。ハジメさんはロンメルさんと副官のクルトさん相手で、どちらも互角に戦ってたかな』

 

「なるほどねぇ……」

 

 となると。サキの懸念を示すかのようにガシン、とMSの足音が聞こえた。ビーム・ショット・ライフルを構えたグリーンのサザビーがこちらを待ち構えている。

 

『つまりこの勝負がある意味大局を決めると言うわけさ、お嬢さん?』

 

「同意見。どっちかが支援に駆け付けるだけで戦況ひっくり返ると見た。悪いけどあの子たちの邪魔はさせないよ。子供を守る大人の意地って奴さね」

 

『片割れは老人と聞いたがね。まあいい──』

 

 

 一曲付き合ってもらおうか、レディ? 

 

 生憎と私には夫がいるんだよ、別の女を誘いな!! 

 

 

 二機のガンダムがそれぞれの宿敵との戦場から離れた場所で、二機のガンプラが激突する。

 

 ジムスナイパーカスタム、撃墜。

 第七機甲師団、残り4機。V作戦実験小隊、残り3機。

 

 

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 戦場は移る。白いガンダムと、赤い頭部のグリモアと黒いギラドーガの戦場へ。

 

『大佐、支援します! 今のうちに後退を!!』

 

『すまないクルト!』

 

「……ふむ」

 

 彼らの戦場は第七機甲師団のスタート地点。それ故にロンメルが駆るグリモアレッドベレーは罠を仕掛けることと副官であるクルトが操縦するギラドーガとの連携により本来であれば有利なのは第七機甲師団側であった。それにも関わらずハジメのガンダムは逆に追い込んでいる。

 

 その理由は高い運動性と機動力を誇るガンダムRが市街地と相性が良すぎたから。空に地表に左右にと縦横無尽に駆け巡りながらビルを遮蔽物として扱うハジメは一機でありながら二機で行う連携攻撃に対処、並びに反撃を行うことがたやすい。加えて彼は元第七機甲師団メンバーである。ある程度彼らが仕掛ける罠の場所や仕組みの定石を理解している。それどころか、罠を利用できる。

 

『罠の爆発でビルが崩されているか、ルート変更の必要があるな……! ネズミ捕りに追い込んだはずが、こちらがネズミになっていたとは。ええい、らしくないな』

 

「いい戦法は時を経ても変わることはない。そういったのはあなただ、大佐!」

 

『懐かしい言葉だな……だがっ!!』

 

 袋小路に閉じ込めたと思ったハジメはビームサーベルを引き抜いて切りかかる。レッドベレーも応じるように跳躍。ビームサーベルをナイフで受け止めると足に仕込まれたクローで襲い掛かる! 

 

「ちいっ!」

 

 咄嗟に操縦桿を引きガンダムを後退させる。それで生まれた僅かな隙を突ける手が、ロンメルにはある。クルトのギラドーガが、いる。

 

『いただきます!』

 

 がら空きの背部めがけてギラドーガのシュツルム・ファウストが迫る。ハジメはそれを回避しようとするも一発しかかわせず被弾する。その間にギラドーガとレッドベレーは同時に退却して体勢を立て直す。それを──ハジメは許さない。逃さない。ガンダムの肩部スラスターが火を噴き、高速でビームライフルの狙いをギラドーガに向ける、だけではない。

 

「このガンダムならばやれるはずだ!」

 

 放たれたビームがギラドーガに命中した。だが、彼が狙ったのはギラドーガの『関節部』。彼の息子が作りこんだことによってビームライフルの威力は並みのガンプラのそれを上回る。ギラドーガの間接を見事に焼き切り、切り離された左足が地面に落ち機体はバランスを崩す。すかさずビームライフルを連射してギラドーガに致命的なダメージを与え──爆散した。

 

『──お見事です、ハジメ』

 

『ああ、そうだなクルト……さらにできるようになったな、ハジメ!』

 

「あの日から止まっていた時計が動き出したんだ、大佐! もっと本気で来なければ私は、ガンダムは落とせないぞ!」

 

『言ってくれる!』

 

 グリモアレッドベレーが散開する。それを追いかけようとした時、コクピット内でアラームが鳴る。戦闘前にセットしたそれは薬が効き目を発揮してきたことを示している。感情を高ぶらせても心臓に問題はないということであり、慣らし運転の終わりを告げていた。

 

「……行くぞ、ガンダム! ここからが本番だ!!」

 

 ガンダムの二対の瞳が輝き、逃げた二人を追いかけようと跳躍する。いくつものスラスターから放たれた光を見た物にはそれが流れ星のように見えたことだろう。もっとも、現時点ではそれを眺められたのは許可をもらっていくつかのポイントに展開しているウィークリーGBNの取材班と、もう一つの戦場で戦っている一人の少女だけである。

 

 GBNの自動中継機能は彼らの戦いではなく、少女の戦いを映していた。この時、ハジメのガンダムの姿をダイバーたちは見ていなかった。

 

 ギラドーガクルト機、撃墜。

 第七機甲師団、残り3機。V作戦実験小隊、残り3機。

 

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 パーフェクトプラスガンダムには原型機譲りの高性能な装備がある。その中の一つがセンサーアイ。広範囲の索敵を可能とするそれはハジメのガンダムの姿をとらえていた。

 

「おじいちゃんやるなぁ……私もどうにかしないといけないってのに」

 

 機雷の中に一発だけ仕込んでおいた特殊煙幕機雷を使って一時的に退却。偶然見つけた崩壊したスタジアム内でガンダムのチェックを行っていた。このドーム、まさかガルマのガウからホワイトベースが隠れてたやつ? あれは地球に在った奴だからコロニー内にないはずだけど、時々GBNの再現って適当というか作品ごちゃまぜだからなぁ……

 

 今行っているチェックはコンソールをいじって被害箇所を確認、それに応じてエネルギー配分をやり直しているだけであり、ガンダムの耐久力が回復するわけではない。だがそれがこのパーフェクトプラスガンダムには必要なのだ。

 

「……やっぱり不味かったか」

 

 目元を覆うレイナ。コンソールに表示されているエネルギー残量が想定よりも少ないのだ。パーフェクトプラスガンダムは致命的な欠陥がある。多数の武装と装備、Gキャリアーという支援機、パーフェクトガンダムのアーマー、そして合体機構。それらを兼ね備えた結果燃費が最悪で、先生からも明らかに直した方がいいポイントであると指摘されていた。

 

「俺のコアガンダムは状況に応じてアーマーを変えることは想定してるけど、全部のアーマーを持ち込むのはエネルギーを分配するGBNのシステム的に現実的じゃない。君のプラスガンダムの場合持ち込むアーマーはそれ一つにした方がいいけど……ごめん、それでも厳しいかもしれない」

 

 合体分離ギミックを持つ機体はそれに応じてエネルギーを分配し、機能ごとにエネルギーの量を調整する。が、パーフェクトプラスガンダムはその機能があまりにも多すぎた。ギリギリまでエネルギー分配を調整していたが燃費が悪い問題は解決できず、ついにそれが表面化した。フルパワーでの戦闘をしていては間違いなくガンダムはザクにエネルギー切れで敗北する。

 

「キャノンパーツはパージしたけれど他部位も調整し直せば少しは長く持つはず。ウォータータンクエネルギーカット、タンクパージ。センサーアイも索敵範囲短縮。ロンメルさんとクルトさんの攻撃を警戒してたけど向こうに夢中みたいだし問題なし。ビームサーベルも通常バックパック入れたら多すぎる……いや、保留で。これで……よし、なんとかはなるはず。再起動!」

 

 プラスガンダムの瞳に光がともる。激しい攻撃で肩アーマーは吹き飛び、残った装甲も傷だらけでひびも入っているけれど何とか動いてくれる。私とアヤメさんが魂を込めて作ったんだ。そう簡単にやられはしない。

 

『見つけたぜ……ガンダムゥ!!』

 

 オープンチャンネルの叫び声が聞こえた。操縦桿を握り直感でドームの天井をハンドビームガンで撃ち抜く。数秒後、反撃のビームと共にドームを突き破って肩を焦がしたザクが現れる。予想はしてたけど10門のビームの回避は間に合わない……!! 衝撃に耐えながらアズマのザクを見据えた。

 

「なんかさぁ、しつこさ増してないアズマァ? 嫌われるよ?」

 

『俺は才能もテクニックもねえからな。しつこく追いかけることしか能ねぇの』

 

「それで才能がないとかむかつく!」

 

『逆切れかよ!』

 

 ハンドビームガンで再び狙い撃つ。アズマはそれを身をかがめながらここまでの戦いでザクもかなり傷ついており、私が放ったその一撃が背部に命中するとゲルググの肩が吹き飛びザクの速度が落ちた。このタイミングならば。シールド裏に備え付けられたビームサーベルを全て引き抜く! 

 

「もらったぁーっ!」

 

『負けるかっての!』

 

 ジオングの腕の先が輝く。ビーム射撃……いや、ビームサーベル!? 

 

「くうっ!!」『こ、のぉっ!!』

 

 ガンダムが握る3本のビームサーベルと、5本指のビームサーベルが交差して……押される! 片手握りと備え付けの指じゃ保持力も威力もダンチだ! 

 

「がん、ばって、ガンダムっ! そもそもジオングにそんなギミックあった!?」

 

『ない、はずだ! 俺が付けたに決まってんだろ! ガンプラは自由だ、原作にはなかったどんな武器や装備だって思いと作りこみがあれば生み出せる! それが──GBNなんだよっ!!』

 

 ビームサーベルが払いのけられて機体が隙を晒す。その瞬間体が嫌な気配を感じ取った。ザクが小さくステップする姿がやけにスローモーションに見えて──咄嗟にコンソールのボタンを押す。ザクは大きく足を振り上げていた。その足の裏を初めて見て、絶句した。スラスターを囲むように穴が空いていて、そこから鋭い爪が射出され、先程パージした胸部アーマーを貫いていた。

 

「ズゴックの……爪!? あんたズゴックのパーツミキシングできなかったって言わなかった!?」

 

『おいおい何言ってんだ。敵に秘密兵器晒す奴がどこにいるっての。ザクフォースコメット改めてフィフスコメットをよろしくな!』

 

「あんたこの戦い終わったらぶん殴る! リアルでもGBNでもまっすぐ行ってストレートで殴る!」

 

『怖い怖い。さーて、続き行こうかぁ!』

 

 爪を引っ込ませたザクが格闘選手のファインティングポーズのように構える。この距離だと射撃武器よりも先にビームサーベルが刺さる。退却に使えそうな装備は機雷しかなく、残弾は一発。予備のビームサーベルは追加バックパックを排除しないと使えない……! そんな余裕は……

 

「……ある?」

 

 あることに気付く。もしかして、もしかしたら、そうじゃないか。予測にしか過ぎないが、この方法をやってみる価値があると思えた。機雷の時限自爆スイッチを入れて半壊したシールドを投げ付ける。ザクはそれを払いのけるが、機雷が爆発してわずかにひるむ。

 

「今だ! 翔べ、ガンダム!!」

 

 脚部、並びにバックパックのスラスターの出力を一気に引き上げてドームを突き破ってガンダムは空へ上る。アズマがついてこないなら逃げる、ついてくるのなら──

 

『逃がすか!』

 

 もっと、高くガンダムを翔ばす!! 半壊したスラスターでふらつきながらもついてきたザクの姿にニヤリと笑いながら、センサーアイの角度を調整し左目にサイトスコープを展開、ハンドビームガンの照準を調整しながらザクから目を外さない。

 

『クッソォ……!!』

 

 アズマは苦しそうな声と共に腕部を射出する。ビームを撃てばいいのに、撃たない。残弾がないんだ。あいつは射撃武装を腕ビームしか使っていなくて、ここ数分は使うべき場所で使わなかったから私も反撃に転じて逃げることができた! だけど、こちらも残弾は心もとない。

 

 一発も外すなよ、私は──ガンダムのパイロットなのだから。

 

「──ワン」

 

 息をするように、一射。向かってきた腕を1つ落とす。

 

「──ツー」

 

 語り合うように、一射。肩部を狙い的確に当てる。背部には当てるな。

 

「──スリー」

 

 抑え込むように、一射。頭部へ当たる。破壊できなかったがこれでいい。

 

「──」

 

 さぁ、決める時だ。絶対に外すな。背部に狂いなく当てろ、残りを全て! 

 

「フォー、ファイブ!!」

 

 二連射したビームが背部へ吸い込まれるように突き刺さり、半壊したスラスターを完全に吹き飛ばす。ハンドビームガンの残弾は尽き、ザクが推進力を大幅に失った。そして飛び上がった私たちはコロニーの中心部付近にいる。自転することで重力を得るコロニーは、中心部がほぼ無重力であり機体の挙動が少しおかしくなることがある──それを師匠から昔聞いたことがある。

 

「──ねえ、アズマ。あんたって結構情熱的だよね」

 

『は、はぁ!? こんな時に何を言ってやがる!?』

 

「ふふふっ、そうだよね。私もそう思う」

 

 あなたは結構熱い男。自分のことを馬鹿って言ってるけれどそれは感情的過ぎるだけで──あ、やっぱり馬鹿だ、うん。残弾なしで追いかけるとか何考えてんの、それを仕向けたのは私だけども。無重力帯を突っ切り間もなく私たちの機体に重力がかかり始める。その縁で、仕掛ける。

 

「ロールッ!!」

 

 推力はこちらの方が上だけど一瞬でも気を抜けば追いつかれる。そんな状態で私は足を曲げて機体を一回転させる。ザクはそれを見逃すことなく残された武装であるビームサーベルを展開。機体がすれ違うタイミングで背中のバックパックを切り裂く──それが狙い。

 操縦桿を握りながらコンソールに素早く手を伸ばしボタンをタップ。傷つき爆発寸前のバックパックを切り離し、爆破させてガンダムの体で爆風を受ける。持って、私のガンダムッ!! 

 

『正気かよ!?』

 

「狂気でもなきゃ勝てない!!」

 

 ザクが私よりも先に落ちていく。爆風を受けたガンダムが追加脚部と元々のバックパックのスラスターで無理やり追いつく。後数メートル。残った頭部バルカンを斉射。ザクがビームサーベルを再び展開する。役立たずのハンドビームガンと延長した腕部で無理やり受け止めながら突き進む。焼け爛れたそれをパージして元々の腕の長さに戻ると、バックパックのビームサーベルを引き抜く。その過程でザクのビームサーベルがガンダムの角を焼き切ったけれど。

 

「──こう近づけば」

 

『……四方からの攻撃、どころかもう手も足も出ねぇな』

 

 ガンダムとザクが見つめあうほどの距離になる。普通のガンプラなら精々バルカンを撃つ程度だけど、手足が短いSDガンダムならば懐へ切り込むことは出来る。

 

「じゃあね、アズマ。嫌いじゃなかったよ。あなたみたいな人、意外と好みかもね」

 

『……んんっ!? ちょっと待てレイナお前』

 

「冗談に決まってるでしょ」

 

『だよなぁ……お前ってそういう女だし』

 

 あなたが私の何をわかってるのさ。からかいの言葉と共にコクピットをサーベルで焼き切り、瞳が消えたザクが重力にひかれて落ちていく。ザクはコロニーの河、ミラー部へと墜落して大きな穴をあけると宇宙空間へと放り出されて消えていった。

 

「さて、問題は残りのエネルギー量でどうするかだけれど。安全に墜落できたらいいなぁ」

 

 HUDで表示されたエネルギー残量は本当に僅かで少し前から警告を鳴らしていた。もう私のガンダムに出来ることは何もない。スラスターを一吹き二吹きすればガンダムは機能停止する。

 

「後はおじいちゃんに任せるかな──ねえ、お父さん、ルシャノワールの皆、見てるかな?」

 

 私のガンダム、伊達じゃないでしょ? 

 

 誰からの返答も聞こえない当然の結果に笑みを浮かべながら、ガンダムはザクに追従するように落下していく。酷使した脚部スラスターを吹かしながらなんとか都市部へ着陸できたのはガンダムとレイナ最後の意地か。こうして一つの戦いに終止符が打たれた。

 

 ザクフォースコメット(修正フィフスコメット)撃墜。プラスガンダム活動停止。

 第七機甲師団、残り2機。V作戦実験小隊、残り2機。

 

 それを観戦していた忍者姿のダイバーは、「お疲れ様、レイナ」と小さく呟いた。

 

 

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「あのガンダムいい動きしてましたね。SDガンダム方面のスカウトの手広げます?」

 

 とあるフォースネストの一室。第七機甲師団VSV作戦実験小隊の中継を見ていた青年が一緒に見ていた女性に提案する。

 

「いえ、あのSDガンダムはいい動きをしていましたが相手のダイバーがガンダムのダイバーも言っていた通り情熱的、感情的な節があった。冷静な判断ができるのならついて行かずに警戒しつつ隊長であるロンメル機の援護に向かうべきです。そうですよね、隊長」

 

 隊長と呼ばれた金髪の青年は苦笑しつつ肯定する。

 

「そうだね、エミリア。戦術としてはそれが正しいだろうし、射撃武器が使えないのならあのザクが空中に躍り出たのは失策だろう。だけど彼らには因縁があったみたいだからそれを優先する気持ちもわからなくはない、かな。だけどこれで違和感が確信に変わったよ」

 

 金髪の青年ダイバーの名はクジョウ・キョウヤ。輝かしい功績からチャンピオンと呼ばれる彼は自らのフォースの副隊長を務めている女性、エミリアと同じく副隊長の青年、カルナに中継を見ないかと声をかけたのだ。

 

「今回のフォース戦はロンメル隊長から興味があれば見てほしいと言われていたのは話したね」

 

「ええ。第七機甲師団のメンバーもそれとなく宣伝してるみたいでうちのメンバーからも「副隊長はこの噂を知ってますか」って報告が何件も来ましたし。慕われるのも考え物です」

 

「メンバーと隊長の仲がいいって考えましょうよ。それでこのフォース戦は楽しみにしてましたし、支援部隊に切り込んだヅダやさっきのSDガンダムみたいに面白い機体や上手いダイバーはいましたけど……確かに俺も違和感っぽいのは感じてるんですがうまく言葉にならないんですよね」

 

「気持ちはわかる。私もここまで見てようやく確信したからね。この違和感を一言で言うと、ロンメル隊らしくないんだ」

 

 ロンメル隊らしくない。ここまでの展開を切り抜いた画像と共に彼は解説する。最初に映し出したのはガンキャノンやザメルといった支援機。

 

「序盤戦でお互いの支援部隊が砲撃を繰り広げる展開。これは基本的なセオリーだから間違ってないけれど、お互いに精度が甘いのは気になったかな」

 

「ウィークリーGBNの解説によるとロンメル隊のメンバーには新人を配置しているとのことでしたね。いい方は悪いですが弱小フォースであるV作戦実験小隊へのハンデということでした。V作戦実験小隊にも新人級の実力のダイバーがいるとは聞きましたが……」

 

「エミリアの推測通りどちらも新人が支援部隊に配置されていたんだろうね。V作戦実験小隊の支援機でいい動きをしていたのはジムスナイパーカスタムだけだったけど、ロンメル隊側はこの狙撃をうまくかわしたりダメージを最小限に抑えていた。ここまではロンメル隊らしい」

 

 問題は次だ。ミラーを超えてロンメル隊のエリアに切り込む二機のガンダムの画像を映す。

 

「最初にこのマントを纏っていたロールアウトカラーのガンダム。彼のマニューバは噂のア・バオア・クーの亡霊と似ていながらも洗練されている箇所があった。本人と見ていいだろうし、彼が攻撃を突破できたのは当然だと思う。ただその後のSDガンダムが問題なんだ」

 

「……あっ! そうか、俺わかりました! 少し後ですけど、SDガンダムの支援機がミラーを普通に渡り切ったのは支援部隊の練度不足か射角のどちらかだと推測できる。だけど……」

 

 一番おかしいのはその前にSDガンダムが宇宙を経由していること! 

 

「そこだ。コロニー戦では外側からの攻撃も警戒する必要があるから、フラッグ戦では当然だし殲滅戦でも余裕がない場合を除いて宇宙に一機配備するか宇宙に出られないようにゲートを偵察させておくかのどちらかだ。ロンメル隊なら前者と思うんだが、その様子がない」

 

 SDガンダムの画像を拡大するが損傷を負った様子がない。その後、ロンメル隊側の機体は全部コロニー内で姿を現した。宇宙には一機も配備していなかったのだ。

 

「一応ロンメル隊長のグリモアには偵察機があるからそれを使って宇宙を監視している可能性を考えていた。この時の違和感はまだ小さな物だったんだが、ギラドーガの撃墜で確信した」

 

「ギラドーガですか? 確かロンメル隊の副官、クルトのギラドーガですよね。ア・バオア・クーの亡霊でも彼ならば一瞬で無力化されることは無いとは思っていましたが……」

 

「そう、彼はロンメル隊の副官を務めるダイバーだ。いくらア・バオア・クーの亡霊とはいえそう簡単に落とせるとは思えない」

 

 キョウヤの懸念は正しく、後に開催される第14回ガンプラフォーストーナメント決勝戦においてクルトはキョウヤが駆るガンダムAGE2マグナムのファンネル攻撃をシールドや肩アーマーでいなし切ったほどのダイバーなのだ。実力差がいくらあったとしても一瞬で落とすのは難しすぎる。

 

 その時、バトルにも動きがあった。ハジメのガンダムがロンメル隊が仕掛けていた罠を射撃して大爆発を起こしたのだ。それによって倒壊するビルからグリモアレッドベレーが逃れようとしてガンダムがビームサーベルを構えて襲い掛かり──グリモアを一刀両断した。

 

 グリモアレッドベレー撃墜。第七機甲師団、残り1機。

 

 そして、時同じくして。

 

「いいダンスだった。機会があればまた付き合ってほしいものだ」

 

『に、二度とごめんだよ……集中力が持たないっての!』

 

 ジムガードカスタム撃墜。V作戦実験小隊、残り1機。

 

 生き残ったのはアムロ・レイ最初の乗機であるガンダムと、シャア・アズナブル最後の乗機であるサザビー。この状況こそ、智将ロンメルが目指していた最後の戦いの形であった。

 

 

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『罠をここまで利用するとはね。流石元ロンメル隊員だ……いい勝負だったよハジメ。その腕の錆落としと機体の完熟は済んだかね?』

 

 撃破されたグリモアレッドベレーの問いかけにハジメは背を向けて答える。

 

「ああ、終わったよ大佐。最後のリングはどこか教えてもらえるか?」

 

『決まっているじゃないか。宇宙だよ。行きたまえ──ガンダム』

 

 ガンダムのスラスターを吹かせ、近くのゲートへと向かう。到着するとすぐにドアロックを掴んで手首を回転させて解除。開かれたゲートをくぐっていき、ガンダムは星の海を泳ぎ始めた。

 

「──来るっ!」

 

 センサーの警告音が鳴る。警告音から着弾までわずかな時間しかなかったがこのガンダムならば回避できる。すかさず頭部バルカンを放ち攻撃してきた遠隔誘導ビーム砲台「ファンネル」を撃ち落とす。深い緑に塗装されたそれは宇宙の闇に紛れて見えにくかったがそこまで衰えていない。

 

「私にはアムロのように見えないが……意地がある!!」

 

 ビームが放たれる前に撃ち落とすのは難しい。レーダーの反応が鈍いことから対レーダー用の塗料か装備を使っているであろうファンネルへの対処は撃たせてからの反撃しかない。

 

 ──あの人ならば!! 

 

「そこっ!」

 

 カメラを向けることなくあらぬ方向へビームライフルを発射する。その一瞬でファンネルの動きが鈍り機体を移動させる隙ができた。ビームライフルを発射した方向へ機体を飛ばすと、シールドでビームを受け止めたであろうサザビーがいた。ビームサーベルを抜いて切りかかる。

 

「覚悟!」

 

『舐めるな!』

 

 サザビーが腕を小さく降り、腕に内蔵していたビームサーベルを構える。おたがいのビームサーベルを交差させながら私たちは会話を交わす。

 

「まさか替え玉を使ってくるとはな──ロンメル!」

 

『最初から気付かれるとは思っていなかったがね!』

 

 サザビーのダイバーはいい体つきをした男性だったが、その見た目が光となって剥がれ落ち、見慣れた軍服姿のフェレット『ロンメル』へと変わった。中継を通してそれを見たダイバーは皆驚いていたが、唯一クジョウ・キョウヤだけは「やはりね」と小さく口にして笑ったそうな。

 

 白いガンダムとグリーンのサザビー。ハジメとロンメル。最後の決戦が始まった。

 

 

 ハジメは第七機甲師団のテリトリーに踏み込んだ時から違和感を覚えていたのだ。やけに罠の配置が読みやすく追撃も手ぬるい。元々ロンメル隊だったから慣れているせいかと考えたが、間違いなくグリモアレッドベレーとギラドーガは手を抜いており、その戦い方には覚えがあった。新人ダイバーの教導時の戦い方であり、その時察した。

 

「ロンメルは私の実力を全盛期の時代まで戻そうとしている」

 

 と。ならば目の前のグリモアレッドベレーとギラドーガは別人の可能性がある。グリモアレッドベレーには副官としてロンメルの癖を知っているクルトが乗り込み、ギラドーガには近い実力を持つという中堅のダイバーが搭乗しているのでは。だからハジメはグリモアレッドベレーを操っているロンメルを「大佐」と呼んだ。戦う前に呼び捨てで呼び合ったというのに。

 

 グリモアレッドベレーのロンメルはそれに対して反応を示さなかった。確定である。

 

 

「しかしまさかグリモアレッドベレーを使わないとは、思わなかった!」

 

 ファンネルの攻撃を悟ったガンダムが一時離れてビームライフルを構えなおす。

 

『グリモアレッドベレーはいいガンプラだが、君のAMBACが全力を出せる宇宙で戦うのには役不足でね! ふと思いついて作っていたこのサザビーを使うことにしたのさ!』

 

 ガンダムはファンネルの猛攻をシールドと細かい機動でかわしていく。サザビーがそこにビームショットライフルで追撃を加える。

 

「ぐうっ、だがいいガンプラだな! 私の記憶のサザビーよりも小さいぞ! 軽量化モデルか!?」

 

 僅かにかすってガンダムにダメージが入る。それにひるむことなくビームライフルを放ち、ファンネルを落とす。

 

『原型機のサザビーではスラスターこそ多いがデカすぎてやりあうのには向いていなくてね! さしずめサザビーグリーンアーミーといったところか!』

 

 隙を見てガンダムがサザビーへビームライフルを放つ。サザビーもガンダムと同様に小さく肩部スラスターを吹かせて回避する。どちらもガンプラの性能とダイバーの実力が拮抗していた。

 

「……これだ、ああ、これだ!」『……ああ、君もそうだろう!』

 

 お互いに並んでいる。共に同じ高みにいる。それを実感した二人が鏡合わせのように手にしたビームライフルを、ビームショットライフルを放つ。互いのビームがぶつかって発生した爆風を物ともせず二機はビームサーベルを引き抜き切り結ぶ。そして、叫びあう。

 

「あの日、互いが手にしていなかった力[ガンプラ]を!!」

 

『あの日、互いが手にしていた力[バトルセンス]を!!』

 

「『こうして全てをぶつけ合える時を待っていた!!』」

 

 ガンダムの二対の瞳が、サザビーの一つの瞳が、ダイバーの思いに答えるかのように輝く。互いの思いとガンプラの力の拮抗はどちらもビームサーベルが耐え切れず小さな爆発を起こしたことで途絶える。二人のダイバーは舌打ちしながら上へ、下へと別れて大きく軌道を取る。

 

「『決着を付けるにはあそこでは厳しい』」

 

 そう判断した二機は付近のデブリ帯へと突入する。何もない宇宙空間では地の利を生かしにくく互いに同じレベルで消耗し続けるだけ。フィールドを生かしながらの戦いで、勝敗を決する。

 

 同じ思いを抱いたガンプラが隕石群をものともせず突っ込んでいく中──

 

 

 ガンダムの関節が、スパークを起こす。バランスを崩したガンダムがきりもみ軌道で隕石へ追突を繰り返し、動きを止めた。その瞳に光はなく、まるで死んでいるかのようだった。

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

「──クソが! やはり俺が書き換えるべきだったか!!」

 

 廃墟のバーでアンシェは荒々しく拳をカウンターにたたきつけた。ガンダムが突如機能停止したのを中継で見た誰もが戸惑い、ダイバーであるハジメすらうろたえている光景が中継されていた。唯一怒りを示していたのはアンシェのみで彼に忍者姿のダイバー、アヤメは慌てて問いかける。

 

「ガンダムが突然壊れた……!? いったい何が起きたの!?」

 

「ガンダムに使ったGP、ブレイクデカールがエラーを吐いた。推測だがそうとしか思えねぇ!」

 

「ブレイクデカール!? どうしてそんなものを使ったの!?」

 

 GPDの技術と言いかけて情報が漏れることを防ぐためにアンシェは言い直し回答を続ける。

 

「俺が使ったんじゃねぇ! あいつの息子がブレイクデカールを限りなく安全化して、カバーをかけて関節を調整する形でブレイクデカールの技術を使ったんだ。そいつには不正な部分は何一つねぇことは俺が保証するが、時間がなくてプログラムを完全に精査しきれなかったんだよ!」

 

「なっ……じゃあそのブレイクデカールを壊れて関節が制御できなくなったガンプラが機能停止したということ!?」

 

「そういうことだ……十中八九これまでの機動にブレイクデカールが対応しきれなかったんだ。あいつの実力を見誤ったのと仕上げを怠った俺のミスだ、畜生!」

 

 アンシェは後悔していた。ハジメの頼みを受け入れて彼のガンダムと自分のガンプラをGPDで戦わせるという約束の日を今日からずらしていたが、それがなければエラーを吐くことに気が付けたかもしれない。GBNのプレイヤーである彼が憎む存在の一部であることは確かだが、今は自らがガンプラを仕上げきれなかったことへビルダーとしてのプライドが怒りを掻き立てていた。

 

「クソ、立てよ! 立ってくれ!!」

 

 アンシェが怒りと共に叫ぶも、映像の中のガンダムは微動だにしない。

 

「……まだ、立てるはずでしょう?」

 

 アヤメが不安げに呟いても、ガンダムは何も変わらなかった。

 

 

 

 それはハジメも同じだった。

 

「……やはり、私はガンダムに乗れる器ではなかったということなのか?」

 

 かつての思い出が蘇る。HG、HGREVIVE、旧キット。全てのガンダムが伝えてきた抵抗感がこのガンダムからはなかった。ついに私を受け入れてくれるガンダムと出会えたというのに。

 

 

 

 動かないガンダムを見た。

 

「立ち上がって!」

 

 彼と共に戦ったV作戦実験小隊の仲間が『ここまで来たんだ、勝ってくれ』と声をかける。

 

 

 

 今は抵抗感がないどころか操縦桿の動きにガンダムが答えない。どれほど動かそうとも、何も言わない。何も反応を返してくれることは、ない。

 

「頼む、ガンダム……!!」

 

 このままでは終わってしまう、だから。ハジメは願っている。それにガンダムは答えない。

 

 

 

 動かないガンダムを見た。

 

「こんなところで終わるな、立ち上がれ!」

 

 彼と戦った第七機甲師団の人々が『ロンメル隊長を失望させるな』と声をかける。

 

 

 

 コンソールをいじる。反応こそするもガンダムを動かすきっかけはない。

 

「動け、動けよ……!!」

 

 必死にコンソールのメニューへと目を通す。何か、何かないのか。

 

 

 

 動かないガンダムを見た。

 

「あの日を繰り返すわけにはいかないでしょ、立って!!」

 

 彼の古い友人が『もう二度と彼にこの世界を去ってほしくない』と声をかける。

 

 

 

 操縦パネルに握りこぶしを叩きつける。

 

「くそぉぉぉっっ! どうしてこうなるんだ!?」

 

 ハジメの悲痛な叫びがコクピットに響く。

 

 

 

 動かないガンダムを見た。

 

「レイナが頑張ったんだよ、立ち上がって!」

 

 レイナと共に歩んだLe Chat Noirの誰かが『レイナのために』と声をかける。

 

 

 

 操縦桿をガチャガチャと動かす。わずかでも動いてくれと。

 

「動け、動いてくれ!!」

 

 膝一つ、指一本でもいい。どこか動いてくれ、と。

 

 

 

 動かないガンダムを見た。

 

「ガンダムはその程度じゃない、立つんだ!」

 

「君はまだ行けるはずだよ、立ち上がって!」

 

 レイナのガンダムの完成に関わったダイバーと少女が『ガンダムはまだいける』と声をかける。

 

 

 

 ヘルメットを脱ぎ捨てて涙をぬぐう。

 

「ちくしょう、ここまでなのか……!?」

 

 私のために多くの人が動いてくれたというのに、ここで終わるのか? 

 

 

 

 動かないガンダムを見た。

 

「立てるはずなのに……どうしてなの!?」

 

「こっちが聞きたいっすよそれは! 立て、立てよ!!」

 

「あなたもガンダムもその程度じゃないはずだ、立ち上がれ!!」

 

 彼のガンダムを知る強者たちが『そんなものじゃないはずだ』と声をかける。

 

 

 

 動かないガンダムを見た。

 

「これ配信エラー起きてんじゃないの!?」

 

 声をかける。

 

「いや、俺の映像も一緒だ、どうなってんだ!?」

 

 声をかける。

 

「あのダイバーが手を抜くはずがない……!」

 

 声をかける。

 

「誰か運営に連絡しろ、あのガンダムにエラーが起きてる!」

 

 声をかける。

 

「もうやってる、クソ、どうなってんだよ!!」

 

 声をかける。

 

 ソロプレイヤー、フォースの一人、ビルダーの一人、現実の中継で見ている者。ハジメのガンダムの動かない姿を見た誰もが願う。『立ち上がれ、ガンダム』と。

 

 

 

「──立ち上がれ」

 

 エネルギー切れで動かないガンダムの中から一人の少女が、同じ夢を追いかけた者が願う。

 

「──立ち上がれ」

 

 動かないガンダムを発見した緑の機体を操る一人の男性が、競い合う時を夢見た者が願う。

 

 

 

 人々の願う声を偶然聞いたのか。

 

「──立ち上がれ」

 

 見えるはずのない光を大地から見つめるかのように、人々の『好き』から生まれた少女が願う。

 

 

 

 ハジメは握る。動くかどうかもわからないガンダムの操縦桿を。

 

「ガンダムを愛する思いから生まれたこのガンダムは伊達じゃないはずだ、そうだろう!?」

 

 これが最後になっても構わない、この一回だけでも構わない、だから──

 

 

「立ち上がれ、ガンダム!!」『GUNDAM RISING!』

 

 

 ハジメの声が、人々の思いが集い、奇跡を起こす。

 システムが告げられた言葉とその言葉の意味を知っている。

 

『GUNDAM RISING』。それは『ガンダム大地に立つ!!』の英語訳タイトル。

 

 機動戦士ガンダム第一話のタイトルを冠したその言葉と共にどこかからT型の金属片が飛んでくる姿をロンメルは見た。

 

『サイコフレーム?』

 

 アムロとシャアの最後の戦いを描いた作品に出てきたそれは緑色の粒子をハジメのガンダムにまとわりつかせると飛び去って消えていく。その粒子がガンダムに定着すると、装甲の色を変えていく。白い胸部を青く染め、赤いインテークを黄色く染め、銀色の脚部を白く染め──

 

 瞬く間にハジメのガンダムの姿は『アムロのガンダム』へと姿を変えた。

 

 三色トリコロールの人々が見知った姿になったガンダムは鋭く瞳を輝かせる。誰が見ても復活したガンダムの姿に喜びの言葉を上げるダイバー達の声援に答えるかのように、飛翔した。

 

「──いくぞ、ロンメル!」

 

 その声は『アムロ・レイ』だった。通信に移る彼のノーマルスーツは青から白へと変色していたが、彼は『ハジメ』だとロンメルにはわかる。

 

『なるほど、変声機能を切ったな!』

 

「偶然だ! だが、このガンダムにはこの声がふさわしいだろう!」

 

『同感だな! 行け、ファンネル!』

 

 生き残ったファンネルを突撃させる。デブリに紛れ込ませ宇宙を駆けるファンネルがガンダムの死角を狙う。だが、それが──落とされると、ロンメルは確信していた。

 

「──見えるっ!!」

 

 ハジメには見えていた。見えなかったはずのファンネルの軌道が、今なら見える。デブリから顔を覗かせた瞬間にビームライフルを一射。頭上から狙うそれにバルカンを命中させて落とし、背後へと迫ったファンネルをビームサーベルを引き抜いて落とす。

 

 間違いない、アムロ・レイの挙動だ。しかし、それらの挙動を細かくスラスターを吹かし四肢を振ることでさらに高速化させているハジメにロンメルは驚きと歓喜の声を上げる。

 

 

『GUNDAM RISING』。それはハジメが手にした『必殺技』である。必殺技とは、Cランク以上のダイバーが使用できる高威力の固有技であり。人々の『立ち上がれ、ガンダム』という思いと、ガンプラとダイバーに込められた「RX-78 ガンダムへの思い」が構築した必殺技。

 ゲインアーマーと呼ばれる機体性能の向上や特性を変化させるユニットが組み込まれた装甲のデータをインストールすることで『アムロのガンダム』を顕現させる必殺技。

 これによって性能が調整されることで間接の異常が上書きされ、ガンダムが復活したのだ。

 

 

 その仕組みを詳しく理解していないし、余裕もなかったがハジメとロンメルが抱く思いは同じ。

 

「アムロのガンダムを操縦している」『アムロのガンダムを相手している』

 

「『だからこそ、負けるわけにはいかない!』」

 

 撃墜されていくファンネルに紛れてシールド裏のミサイルを放つ。対処しきれないガンダムはシールドを投げつける。幾多のダメージを負いながらも修復されたわけでもないそれはついに破壊され、辺りにミサイルの爆風を広げる。煙幕としての性質を持たせていたのだ。

 サザビーが煙幕の中へと飛び込む。それはガンダムも同じく。煙幕越しに交差した二機は煙幕を脱出すると互いに振り向き手にした銃を放つ。

 

『ちいっ!!』

 

 ガンダムの放ったビームがサザビーのビームショットライフルをに直撃、破壊して射撃手段を奪う。ガンダムはサザビーのビームを回避するが、そこに回転しているビームサーベルが迫る。撃ち込む直前に投げた、ロンメルの策だった。

 

「くうっ!!」

 

 咄嗟に左腕でかばうも、シールドはもうない。ビームサーベルによって左腕が焼かれて使い物にならなくなる。つながっているだけの腕をどうした物かと悩んだその一瞬にサザビーが突っ込む! 

 

『戦いとは二手三手先を読み、それを行えてこそだ!』

 

 その手には追加装備していたのであろうナイフが握られていた。グリモアレッドベレーにも搭載されているそれの威力を知っているハジメは近寄らせまいとビームライフルを打ち込む。サザビーの片足をもぎ取るも知った事かとロンメルは機体を進ませ、ナイフを突き出す。

 

「っ、ここで落とされるわけにはいかないっ!!」

 

 焼け爛れた左腕で無理やりナイフの軌道をそらす。勢いそのままにサザビーとガンダムはぶつかり合い、その反動で互いの武器を手放してしまい、丸腰となって顔を合わせる構図になる。

 

『この距離ならば逃れようもあるまい! 落ちろ、ガンダム!!』

 

「メガ粒子砲かっ!」

 

 サザビーの腹部が輝く。ガンダムのコクピットを貫かんとする腹部メガ粒子砲を回避しようと胸部スラスターの火を入れるが、サザビーのチャージの方が速かった。

 

 まだだ、終われない……! ハジメが抱いた思いを同じく抱いている者がいた。

 

『ハジメさん、下から突っ込ませる!!』

 

『何っ!?』

 

 同じ夢を描いたレイナが残した最後の切り札。パーフェクトガンダムのアーマーを輸送していた非武装支援機『Gキャリアー』。ガンダムはエネルギー切れでも支援機にはまだエネルギーが残っていたのだ。彼女はそれを加速させて割り込ませる。サザビーに対処手段は、ない。

 

『まだまだっ……でやぁぁぁあ!!』

 

 サザビーとガンダムが割り込まれたGキャリアーによって引きはがされる。チャージしたメガ粒子砲は射線がズレながらも、Gキャリアー、そしてガンダムの頭部を吹き飛ばした。Gキャリアーの爆発で二機は姿勢を崩しながら距離を離されていく。

 

「レイナ……! その想いは受け取ったぞ!」

 

 頭部が吹き飛んだことで視界が不明瞭になり不利な状況ではあったが彼女の意図を受け取ったハジメは最後の行動を起こす。

 

『ええい、まだ終わらんよ!』

 

 ビームショットライフル、ファンネル、ミサイル、ビームサーベルを失ったサザビーに残された兵器は腹部のメガ粒子砲のみ。これに対してガンダムの武装はもはやビームサーベル一本のみ。奴が近づく前に狙い撃てばロンメルの勝利。接近を許せばハジメの勝利。メガ粒子砲のチャージを進めながらロンメルはガンダムを捜索し──見つけた! 

 

 ふらついているガンダムに狙いを定め、チャージが完了したメガ粒子砲を放つ。

 

 その時、ロンメルの意図を外れた行動をガンダムが起こした。ビームサーベルしか持たないはずのガンダムがビームを発射する。ライフルを失くしたガンダムにそんなこと、できるはずが──

 

 困惑のうちにメガ粒子砲がガンダムに突き刺さり、爆発を起こす。ガンダムが撃墜されたと同時にロンメルのサザビーの頭部、コクピットが貫かれる。腹部メガ粒子砲使用時に相手にコクピットを向けなければならない構造が仇となったのだ。

 

「──何故ガンダムがビームを撃てたんだ……」

 

『あはは、それは私の作戦だよ』

 

 Gキャリアーの残骸を通してハジメの孫というレイナの通信とつながった。

 

『私のガンダムはパーフェクトガンダムになれるんだけど、そうなると一個オリジナルのガンダムには余計なパーツがあるよね?』

 

「余計なパーツ……そうか、ビームライフルか!」 

 

『そういうこと。私のガンダムには持てないからGキャリアーに搭載させて、撃墜直前にパージしたの。SDのライフルが他のキットで使えるのは確認済み。受け取れるかは賭けだったけど……』

 

 ハジメなら、やってくれる。

 

『……あれ、被った』

 

「君と同じくらいに私も彼を信頼してるって事さ。しかし、相打ちとは……決着はつかずか」

 

『実はもう一個作戦があったり。おじいちゃんのガンダムって──』

 

 レイナが何かを口ずさんだが、その時ロンメルは機体の外を映す光景に目を疑った。青と赤の鉄塊がガンダムの爆発で吹き飛ばされて接近してきた。それは変形し、戦闘機となる。

 

 FF-X7、コア・ファイター。ガンダムの脱出カプセル。

 

 コクピットに座る一人の男がサムズアップする姿を、ロンメルは見た。

 

『リアルグレードが原型だから、コアファイター入ってたり。その分エネルギー分配で出力が落ちるっていう問題もあったけど、おじいちゃんそういうところこだわるしね』

 

 ロンメルは笑った。そこまでするのか、という彼のガンダムへ向ける愛と、熱意に。彼が賞賛の拍手を始めた頃、システムの音声が戦いの終止符を告げる──

 

 

 BATTLE END! 

 

 サザビー、コクピット大破により撃墜。ガンダム、脱出カプセル健在。

 第七機甲師団、残り0機。V作戦実験小隊、残り1機。

 

 

 WINNER V作戦実験小隊! 

 

 

 

 ハジメとロンメル。二人の実力は互角だったこととハジメの必殺技の覚醒がなければロンメルが勝っていたという意見もある。が、その意見にロンメルはこう返している。

「確かにそうだろうね。だけどあの時彼が抱いていたガンダムへの思いは少なくとも私よりも上だったんだ。もっとも、次は負けるつもりはないさ」と。

 この戦いの後、初代ガンダムを用いたダイバーの伝説的な試合としてGBNで長く語り継がれることとなり、第七機甲師団とV作戦実験小隊の間にアライアンスが結ばれた……

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 数日後。

 

「いくら素晴らしいバトルを行ったとはいえ、うちはエンジョイ系フォース。ガチ勢に目を付けられたらたまったもんじゃないよ。だからロンメルさんがアライアンスを結んでくれたことで「『第七機甲師団』に手を出す気かね? ん?」って感じで回りのフォースをけん制してくれたんだ」

 

 本当あの人には頭が上がらないよ。すごくいい人だね。レイナはハジメに報告するが、彼は何も答えない。病院のベッドで寝たきりの彼は、何も答えない。その様子を見て悲しそうに笑ったレイナは傍の棚に飾られたガンダムトレーラーに乗るガンダムRを小さくなでた。

 

「じゃあ、おじいちゃんのことよろしくね、ガンダム」

 

 病室を出ると赤黒いパーカーの目つきの悪い青年が待っていた。父親の友人であるという彼は名前を相変わらず教えてくれないけれど、時々病室前で出会うことがある。

 

「ジジィの容態はどうだった」

 

「相変わらず意識が戻らないって。体の調子は良くなったはずだから意識が目覚めるのを待ってるんだけど……」

 

「ダメか。ちっ、変に待たせやがる」

 

 どうやらおじいちゃんとバトルの約束をしていたらしく、第七機甲師団とのバトルの直後意識を失ったおじいちゃんに対して頻繁にイラついている。気持ちはわからなくもない。

 

 

 おじいちゃんの容態は予想以上に深刻で、あの日の時点で心臓は凄く弱っていた。それでも薬で何とか持たせていたけれどバトルが終わると同時に気力が切れてバタン。病院の方ですぐに治療を行ってなんとか容態を持たせることが成功した。医者曰く生きることへの執念を感じたとか。

 

 意識が戻り次第今度は心臓の手術を行わせる、とはユミおばあちゃんの弁。どうやらおじいちゃんの心臓を治す方法が見つかったらしい。それを受けたらもう薬いらずでGBNを楽しむことができるとか。「老い先少ない人生だけど、最後まで楽しませてやりたいじゃないか」そう言ったお祖母ちゃんはすごく楽しそうだった。

 

 なんでもおじいちゃんのガンダムを普通の色からあの白と銀色のカラーに塗りなおす作業を手伝っていたりと結構今回の一件に関わっていたそうで。パーカーの人曰く結構上手だったとか。

 

 

「目覚めたらすぐに連絡しろ。じゃあな」

 

 ぶっきらぼうな言葉と共に病院前で別れると、私はバスに乗り込み、暇つぶしにウィークリーGBNの今週号を読んでみる。

 

 中身は第七機甲師団VSV作戦実験小隊の記事が盛りだくさんで、私へのインタビューやプラスガンダムの紹介コーナーもあったりとなんだか恥ずかしい。おじいちゃんはリアルの都合でしばらくログインできなくなったから、インタビューは中止で彼について迫るコーナーが設けられている。

 ……いろんな人がコメントしてるんだけど、おじいちゃん大丈夫なのかな。あのシャフリアールや、武闘系フォース百鬼の人も少し解説コメント出してるし。百鬼は普通に相手にするのが大変そうだし、シャフリアールに関してはガンプラ作ってないから怒られそうな気がする。GBN復帰したら私が大なり小なり庇ってあげないといけないのかな……はあ、気が重いけど頑張ろう。

 

 ページをめくると初代ガンダムの特集コーナーがあった。私やおじいちゃんのガンダムが大活躍したことを受けて急遽制作されたコーナーで、初代ガンダムの強みや弱み、グレードやバージョン別キットに特徴がまとめられ、最後はガンダムRをバックにした一文で締めくくられている。

 

「どんなガンプラでも愛と思いを込めて強くなることはあれど、弱くなることはない。あのガンダムがそうであったように、『ガンダムは伊達じゃない』から」

 

 ふふっ、と小さく笑った。私だけでなく、おじいちゃんとお父さんが全力をかけて体現した思いの結果だから。これでちょっとは初代ガンダムの評価や人気が上がったらいいなぁ。幸せな想像をしていると、ダイバーギアに通信が入った。画面に表示されたのはロンメルさん。

 

『やあ、レイナ君。元気かな?』

 

「はい、元気ですよ。おじいちゃんの容態ですよね? 今日も相変わらずです」

 

『そうか……すまないね。あのバトルの感想を言いあうことなく別れたものだからどうしても気になって仕方ないんだ。実はキョウヤも同じ考えで、つい先ほども容態を聞かれたよ』

 

「気持ちはわかりますよ……ってキョウヤ? あのチャンピオンですか?」

 

『ああ。昔彼の噂を追っていたことがあるそうで色々と話したいことがあるそうだ』

 

 おじいちゃんの交友関係本当にどうなってるんだろう。

 

『ああそうだ。君に連絡を入れたのは別件でね。つい先ほど変わったダイバーと出会ったんだが、私に君宛の伝言を頼んできたんだ。『あなたの先生が「いいバトルだったよ」って褒めてたよ。それにあの子も「もっともっと一緒に翔ぼう」って言ってた』とね。何かわかるか?』

 

 先生を知ってて、あの子って言い回しをするのはイヴさんかな。あの人本当に変わってるけどいい人だと思う。ガンプラをあの子って呼んだ時はびっくりしたけれど改造や手入れのアドバイスをたくさんしてくれたから。いつか先生込みでお礼しなくちゃね。

 

『わかるようなら何よりだ。ところでアズマ君とはどうかね?』

 

「……渋々ですけど付き合ってますよ」

 

 あのバトルの翌日。学校で出会った彼を約束通り殴ったら告白された。何考えてるのかさっぱりだけど周囲の目がいろいろと厳しかったからお試し期間ってことで少しだけ付き合っている。一緒にガンプラ作ったりGBNやるくらいの関係だけど。あまり変わってないけど彼は満足そうだ。

 

『そうかそうか。何か困ったことがあったら』

 

「人の恋愛事情に首突っ込むと馬に蹴られるか老けますよ」

 

『ふ、老けっ!?』

 

 思いっきり噂好きのおばさんおじさんみたいです。

 

『うむむ、やはり計画を進めるか……気を付けよう。ああ、そうだ。君の最寄のガンダムベースに私からハジメへの贈り物を発送したんだ。余裕がある時に受け取りに行ってくれないかな』

 

「わかりました、今日行ってきます。それじゃ、またGBNで」

 

 通信が終わる。バスがガンダムベース付近に到着したので降りると、ガンダムベースへと向かう。ふと、ベース前に展示された投信だユニコーンガンダムを見上げながら、まぶしい日差しに手を伸ばす。

 

「……きれいな空だなぁ」

 

 イヴさんからの伝言を思い出してポーチからプラスガンダムを取り出す。「あの子は「もっともっと一緒に翔ぼう」って言ってた」と。今日みたいな綺麗な空を一緒に翔んでみたい。この子と一緒ならどこまでも強くなれる。今日も明日も明後日も、いつまでも。

 

「これからもよろしくね、プラスガンダム」

 

 私はこの子と一緒に歩んでいこう。この子と共に戦う私を見た誰かが「初代ガンダムってかっこいい」って思ってくれるように。GBNの世界を目いっぱい楽しむんだ。

 

 

 新たな誓いを胸に秘め、レイナは歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 これで「ガンダムは伊達じゃない」と叫んだ二人のダイバーの物語は一旦幕を閉じる。

 

 幕を閉じるが、終わったわけじゃない。

 

 ハジメもいつの日か目覚めてGBNへ再び舞い戻る日が来るだろう。レイナの縁からビルドダイバーズに協力し、第二次有志連合戦で再びロンメルと雌雄を決するのかもしれない。

 レイナは先生と呼んでいるダイバーが傷を負い、それでも前に進み続けようともがきあがく姿を助けようとするのかもしれない。様々な形で彼らの物語は続いて行くのだろう。

 

 だが、今回のクリエイト・ミッション『ビルドダイバーズ・チャレンジ』で語るには時間が足りなさすぎる。それほどに彼らの物語は続いて行くのだから。

 

 最後にこの言葉を送ることで物語の締めとしたい。

 

『ガンプラを愛する者たちの物語は、続く。』と。

 




「『シーユーアットジービーエヌ』?」

 ガンダムベースでレイナが店員から受け取ったのは、写真立て。ガンダムがア・バオア・クーを背に戦う写真に描かれた文字を読み上げたレイナは首をかしげる。

「またね、GBNってこと? 意味としては最悪なんじゃ……」

 店員が噴き出した。英語苦手で悪かったな! 私はどうせルシャノワールも正確に言えませんよ! 

「こういうのってグッドバイじゃないの? ねえ、君はわかる?」

 近くにいた学生服姿のメガネの男の子に問いかけてみる。苦笑しながら教えてくれた。

「Good Byeだと尚更意味が悪いんじゃないかなぁ。確かサヨナラって意味だし。この辺の話って最近の英語のテストでやったよねリッくん」

 メガネっ子の友達らしい恋茶髪の男の子が答える

「うん。むしろこの場合はいい意味だと思いますよ。『See you at GBN!』」

 GBNでまた会いましょう、って意味だから。

「なるほど! うんうん、そういうことかぁ。ありがとう少年! おじいちゃん喜びそうだよ」

「その写真おじいちゃんへの贈り物なんですか? 変わってますね」

「おじいちゃん今入院しててGBNが出来ないんだ。それで大切な人がまた会いましょうってメッセージを送ってくれたんだよ」

「へえー、いい話ですね。そのおじいちゃんってGBN上手いんですか?」

「もちろん! 自慢のおじいちゃんだからね。退院したら紹介してあげようか?」

「お願いします! 俺とユッキーは今日が初GBNですから助かりますよ」

「初GBNなんだ、頑張ってね! ところでユッキーっていうのはメガネっ子の君のダイバーネーム?」

「あはは、あだ名ですけどそれにしようかと。リッくんはどうするんだっけ」

「そのままリクでいいかなーって。お姉さんはどんなダイバーネームなんですか?」

 実名でやるみたいだけど、バレると不味いんじゃ……って指摘しようとしたけど私も人のこと言えなかった。「レイナだよ、よろしく」と返す。

「今日は病院に写真とお土産にエントリーグレードガンダムを持って行くから一緒に出来ないけれど、向こうで会ったらよろしくね。こういうのもシーユーアットジービーエヌかな?」

「あはは、そうですね。ナナミお姉さん、ダイバーギアの準備ってそろそろ終わりました?」

「バッチリ準備完了だよ。それじゃあ筐体の方に行こうか!」

 店員さんに引き連れられて二人の少年が筐体が置いてある部屋へ向かっていく。その背中を見送ろうとして、私はふと閃いて声をかける。

「リクくん、ユッキーくん!」


「Welcome to GBN!ようこそ、GBNへ!楽しんできてね!」


 上手く英語を言えたことに安堵していると、二人はにっこり笑って手にしたダブルオーとジムスリーのカスタマイズガンプラを掲げた。私もそれに答えてプラスガンダムを掲げる。




 ハジメとレイナの物語は幕を閉じる。が、ビルドダイバーズの物語はこれから始まるのだ。

 ガンプラを愛する者たちの物語は、続く。
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