ガンダムビルドダイバーズRe:RISE ロスト・エデン 作:パンダ焼き
『残念ながら、息子さんの右手はもう……』
『そ、そんな、先生。どうにかならないんですか!?』
『リハビリをすれば、ある程度は動くかもしれませんがもう前のように動かすのは難しいでしょう』
なんで、こうなってしまったのだろうか? 病室のベッドでアマタ・ハジメは自身の右腕に巻かれた痛々しい包帯に目を向ける。指先を動かそうとして、動かない。左手でつねって見ても何も感じない。まるで自分の右腕に何か異物が張り付いた奇妙な感覚。
『せ、先生……』
ハジメは顔をゆっくり上げながら、聞きたくない言葉を質問してしまう。答えてほしくない、言ってほしくない。でも口が勝手に動く。
『GPDはもう出来ないんですか?』
先生は目を少し逸らし、辛い表情を作りながらゆっくりと頷いた。
その事実にアマタ・ハジメは嗚咽を殺しながらシーツを握りしめた。だが、右手は動かずただ包帯が涙で汚れるだけだった。
それから5年後。GBN(ガンダムバトル・ネクサスオンライン)はVer.1.78への大型アップデートをした。プレイ中のダイバーに感覚のフィードバックが追加されより臨場感を味わえる本物の世界へと近づいたのだ。ハジメは片腕でダイバーギアを装着してディスクの上に自身のガンプラを置く。そのガンプラはまるで自分の写し身というべきか、そのガンプラには右腕がなかった。片腕の愛機を眺めながら、動かない右手を左手で操縦桿を握らせた。
「行こうか。GBNへ」
そしてハジメの意識はゆっくりと電子の海に潜った。ディメンション世界へ活動するための身体へと変わっていく。黒いインナーの上にザフトの赤服を連想させる赤色のジャケットを着込んで、左手に誰もが憧れる指抜きグローブを右肩には青いバンダナを巻いた姿になって降りたつ。
目の前に広がるのは、自分と同じように自身の理想な姿に変えて、この世界にやってきた数多のダイバー達だ。彼らもまたガンプラの為にこの世界にやってきた。相変わらずこの人数には圧巻される。通行の邪魔にならない様に端の方に移動して、メニュー画面を広げる。フレンド欄を開き彼が来ていることを確認。よし、ログインしている。
「やぁ、時間通りじゃないか。ハジメ」
「うわっ」
後ろから声を掛けられ、驚き声。後ろを振り向くと目当てのフレンドがクスクスと笑っていた。
「すまない。驚かせたかな?」
「……もう、驚いたよ」
綺麗な金髪に青い瞳の美形な顔に白と青を基調とした軍服を着こんでいた自分と同じくらいの年頃の少年。ダイバー名はユーリ。このGBNで初めてフレンドになった付き合いのあるダイバーだ。
「ハハハ、それで今日はどのミッションに行くんだい?」
「実はこの、ミッションを受けようかと思って」
ハジメはユーリに受けるミッションの概要欄を見せた。
「ふむ、これは探し物クエストかな?」
「内容はビクエスト島のどこかに隠されているカリブ海洋研究所から新兵器を回収するクエストなんだけど……」
「ビクエスト島ってことはGレコだったかな確か……」
「でも、ランダムマップでミッションごとに研究所の場所が変わって厄介なんだよね。しかも……これを見て」
「なるほど、これは多人数のサバイバル系かゆっくり探索していたら他のダイバーに取られてしまうかもしれないな」
「だからさ。力を貸してくれない?」
ハジメの頼みにユーリは髪をかき上げながら答えた。
「勿論さ。これぐらいなお安い御用だからね」
「ありがとうユーリ! 助かるよ」
2人はミッション受けるために受付ロビーへと向かう。その道中にユーリはハジメに話を振る。
「そういえば、この前ガンプラを改修するって言っていたけど、無事に出来たのかい?」
「勿論。だから来たんだからね」
「それは楽しみだ。どんなふうに改修されたのか楽しみに待っているよ」
「期待にこたえられように頑張──」
「よう! 片腕と貴族コンビじゃねーか」
ハジメの声がかき消されぐらい大きな声が横から飛んできた。
赤に染めた髪に右目には黒い眼帯、黒のロングコートから覗くのは少しボロいシャツとズボン見れが誰もがカリブ海の海賊を連想するだろう。そして右胸のポケットにはCランクのフォース《トレジャー・ヴァイキング》のマークが刺繍されていた。《トレジャー・ヴァイキング》は30人規模のフォースであるが、他のフォースと比べて少々変わったことをしている。それはGBNで手に入るガンプラのデータや所有権が見とれられるフォースネストの取引だ。通常はGBN内で設定されたミッションをクリアして初めて手に入るが、彼らはその報酬データを自身で使わずにこの世界の仮想通過ビルドコインと交換して他のプレイヤーに譲渡している。いわゆるジャンク屋のような者たちである。自分たちに声を掛けてきたこの男《トレジャー・ヴァイキング》のメンバーの一人ノアだ。
「どうだい? 俺様達のフォースに入る気なったか?」
「残念ながら、NOだね」
「右に同じく」
やっぱりかー! 大げさなリアクションを取りながらノアは残念そうに続ける。
「こうも、断られると悲しいなぁ…俺様は結構お前たちのこと気に入っているんだぜ?」
「僕もハジメも別にやりたいことがあるかね」
ユーリが肩をすくめながら評価してくるのは悪い気はしないけどねと付け加える。
「悪いノア。俺達そろそろミッションに行くから」
「それは、悪いことをしたな。俺も仲間とミッションにいくんだわ。もし同じミッションだったら恨みっこなしってことでな。じゃあな」
ノアはそういって去っていく。ハジメ達は過去にサバイバル系のミッションで彼と何度か交戦したことがあり、どうやらその際に気に入ったようでこうして自分たちのフォースへ何度か勧誘をしてくるのだ。その度に彼らは断っているのだが。
受付ロビーにたどり着いて、ハジメ達はミッションを受けつけを済まそうとする。だがその時横から声を掛けられた。
「アナタ、そのミッションを受けるの?」
「え?」
今日はヤケに声を掛けられるな…と思いつつ振り返る。白桃を思わせるおろした髪に青石が埋め込まれているのかと思わせる二つの大きな瞳。白いゴシックなドレスを着込んだ彼女は西洋人形と見間違えてしまう。もしかしたらそう見えるようにキャラメイクしたかもしれない。勿論ハジメはそんなダイバーとは知り合いではない。
ユーリと顔を合わせてから、目の前の少女を見る。
「そうだけど?」
「だったら、お願い私も連れて行ってくれない?」
目の前の少女は祈るように手を重ねてお願いしてきた。
「私、このミッションに行ってみたいの。邪魔はしないから」
「それは、自分のガンプラで行けば…」
グイッと下から少女の顔が迫り、たじろぐ時ハジメ。腕を組み、顎にて当てて見るユーリ。
「ハジメ。もしかしたら、彼女はガンプラを持っていないのではないかい?」
ユーリの言うとりGBNにやってくる人は何もガンプラバトルだけを目的でやってきたわけではない。オンラインゲームだからこそのガンダム作品を通じてチャットでコミュニケーションや情報収集などを目的にしているだっている。それほどこのGBNの世界は多くの人を魅了する世界なのだ。目の前の少女ももしかしたらそれを目的にやってきたかもしれない。
どうするんだい? とユーリが目配せをしてくる。勿論連れていく理由もないので断っても良いだろう。う~んと左手で頭を掻いてからハジメは、
「いいよ。でも観光は出来ないけど良いかな?」
「本当! ありがとう」
パッと明るくなった少女は、ハジメの”右手”をとる。右手から通じてくる温かな体温に違和感がハジメの体内に巡り冷や汗をかいてしまう。ハジメはそっと左手で少女の手を優しく払う。
「本当に良かったのかい?ハジメ」
「まぁ、ゲスト扱いにして乗せたら操縦等の干渉はされないから良いかなって」
「フフフ、邪魔はしないようにするわ。あっ、いけない。大切ことを忘れていたわ。初めまして、私の名前はアトス。あなたたちは?」
「俺はハジメ。こっちがフレンドのユーリ」
「よろしくアトスさん」
「ハジメ、ユーリね。改めてよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げるアトス。
「それじゃ、話がついたところで行こうではないか」
「そうだな」
3人は共にミッション参加の認証を押した。
ミッション前にダイバーしてやることは自分が操縦するガンプラの確認だ。格納庫に移動したハジメ達は動作確認、不具合がないか確認をする。
「すごい、こんな風になっているのね」
一緒に移動してきたアトスは格納庫を物珍しそうにキョロキョロしていた。
「おや、格納庫も始めいてかい?」
「えぇ…広いわ……」
「だったら、これを見たらをもっと驚くかもな」
ハジメ達がハンガーの操作盤に触れると青と白の2体のガンプラが現れた。
「すごい、この子達がが2人のガンプラなの?」
「そうだね。白いガンプラは僕のガンプラ《ガンダムフラウロスガヴァレリスト》長いから《星霧》って呼んでいるけどね」
鉄血のオルフェンズの作品に出てくるガンダムフレームの一体。悪魔の名前を持つ機体であり、作中では数少ない砲撃と特化の機体である。カラーリングは白をベースとなっており原点回帰というところである。しかしバックパックは大きなガトリング二つ取り付け、腰にはロングバレルキャノンとビームハンドガンを装備していた。また、本家比べて、装甲を追加して、両踵部にローラーユニットが追加されていた。頭部を含め所々デザインも変更されており、傭兵が扱い機体にしては上品なデザインであり、騎士が扱いには少し野蛮な武装をしたまるで矛盾したガンプラだ。
「相変わらずユーリのガンプラはダイバーと比べて真逆のガンプラだよな」
「よく言われるよ」
すごいと言ってアトスはユーリのガンプラから隣のガンプラへと目を移す。
「このガンプラ腕が…」
アトスは驚いてハジメの方を振り返る。
「そう、これがオレのガンプラ《テュールインパルス》。驚いたでしょ」
機動戦士ガンダムSEED DESTINYの主人公機であるインパルスをベースに顔や細部の変更、カラーリングは原作より同様の青色と白がベースだ。左腕には盾とビームライフルを組み合わせたシールドライフルを装着。バックパックにはスラスターと左右に二種類の武器が装備されていた。片方は全身が赤色の巨大な頭を持った大型レンチと黒色の大型ビーム砲。そして何より目が行くのは、右腕が”ない”ことだ。
ユーリは興味深そうに《テュールインパルス》を見ていった。
「ほう、改修したって言っていたから、ようやく右腕を付けたとのかと思ったらバックパックを改修したんだね。デスティニーガンダム…いやデスティニーインパルスのバックパックがベースかい?」
「アイディアはそうだけど、バックパック自体は今までのミッションの報酬と自作で作ったんだ。思ったより時間は掛かったけど、このGBNで使うガンプラだ」
「そうか、ならまたしばらくはノア君にもあのあだ名で呼ばれそうだね」
《トレジャー・ヴァイキング》のノアが呼んでいた片腕とはハジメの使うガンプラの事だ。先ほど呼ばれていたことを思い出し苦笑するハジメ。
しかしアトスは不思議そうにジッと《テュールインパルス》を見ていた。もしかしたら片腕がないガンプラに何か不安を感じているのかなと思ったハジメは少女に声を掛ける。
「もしあれだったら、ユーリの方に乗る? アッチの方が”色々”と景色を眺めるならいいかもよ」
「そんなことないわ。この子からは色んな可能性を感じる。私それを見てみたいわ」
「可能性…? アトスさんは…面白い感性を持っているみたいだね」
アトスの発言に怪訝そうな顔を作るユーリ。ハジメは少し驚いた顔をする。
「確かにこのGBNでやってみたい事をつぎ込んだガンプラだけど…よくわかったね」
「だって、この子がそういっているから、だからハジメ私をあなたのガンプラに乗せて」
「うん。じゃ、せっかくだから一緒に見ていてくれ、俺の《テュールインパルス》を」
「盛り上がっている所、すまないがそろそろ時間だよ、ハジメ」
ユーリが時計を確認して、ハジメに伝え《星霧》へと搭乗していく。
「俺達も行こうかアトス」
「ええ」
アトスはハジメの右腕に捕まる。それを確認して、ハジメもアトスと一緒に《テュールインパルス》へ登場した。
操縦席に立って、右手でゆっくりと操縦桿を握らせた後に、左手で右肩のバンダナを外して、操縦桿を握っている右手に巻き付ける。
「ハジメ、これは?」
「あ…なんていうか、こうしておかないと操縦桿をしっかりと握れないんだ。気にしないで…と言っても難しいかも知れないけど」
「そう…分かった」
頷くアトスを見てハジメは左手でしっかりと操縦桿を握る。ミッション開始のアラームがなり《テュールインパルス》はカタパルトデッキへと移動される。カタパルトデッキの天井から釣り下がる信号機のような3つのランプが赤く光り出し、全てのランプが光ったら緑色のへと変わる。出撃のの時間だ。
アトスは邪魔にならないように、ハジメの肩を掴む。それを確認してハジメはお決まりの台詞を言った。
「ハジメ。テュールインパルス行きます」
急加速する《テュールインパルス》はカタパルトから射出され大空へ飛んだ。