Betrayal Squadron   作:胡金音

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R-12Gぐらいの欠損描写注意!アイスモナカ食べたい!


十二話 すれ違い

 「各艦娘に告ぐ。我軍の上陸部隊が敵泊地本部の制圧に成功した。台港より航空隊が到着し次第本作戦における連合艦隊の任務は終了とする」

赤城が急遽参加することになったフ島攻略作戦はそんな無線連絡と共にあっさりと終結を告げた。

「赤城、聞いたか?」

赤城が艦載機を収納していると近くで手持ち無沙汰になっていた長門が声をかけに来た。

「ええ、連合艦隊まで組んで来た割にはあっけなかったわ」

「ああ・・・向こうの艦娘を見かける事も無かったから結局私も上陸支援に参加していたよ」

戦争相手とはいえ同じ立場の艦娘を手に掛けずに済んだものの啖呵を切った手前、長門は気まずそうに言った。

「お互いになんだか拍子抜けね」

未だ島の内陸からは時折発砲音が聞こえている。司令部陥落の報が届いていない合衆国部隊との交戦が続いているのだろうか。プロペラ音が聞こえ2人が空を見上げると艦娘部隊を収容すべく、トラックから連合艦隊を乗せて来た飛行艇が着水しようとしていた。

 

 

 日没前、行きと同じく5機の飛行艇は艦娘達を乗せて離水した。ただし本土から派遣された艦娘はそのまま本来の持ち場に帰投する事になっている。と言う訳で、長門と別れた赤城は同じくトラック泊地所属の吹雪、白雪、そして攻略した泊地で接収した資材に同乗して南に向っていた。吹雪、白雪は作戦の疲れから出発後早々に眠ってしまい、最後まで起きていた赤城も窓から見える真っ暗な海を眺めているうちに眠りに着いた。

 「なんだ・・・?」

「ん?あれは・・・棲艦だ。進路上に敵機っ、棲艦機多数接近!」

「この辺りの制海権は取っているんじゃなかったのか!」

「会敵!散開しますっ・・・、2番機がやられました!司令部との通信断絶・・・状況が届いたか確認できません!」

「増援は?」

「この場所だと早くとも2時間内外です!」

「直衛機は何をやってるんだ・・・!」

 翌明朝、泊地まで行程の3分の1といったところで赤城は操縦室に続く扉越しの騒動と急旋回による重力、続いて始まった機銃音に目を覚ました。

「どうしてこんなに沢山の棲艦機が急に・・・」

既に目覚めていたらしい白雪の言葉に赤城は反射的に窓の外を窺う。航空機特有の狭い窓から見えるだけで近くの棲艦機の数は3機。飛行艇が旋回を続ける中、遠くには十数機程の棲艦機が向っているのがちらりと見えた。対する護衛の烈風は全部で15機。窓から見えない位置を飛ぶ棲艦機も居る事を考えると全体数で圧倒的に不利な事は想像に難くない。彼女の視線の先で飛行艇が煙を上げ始めた。

「駄目・・・これじゃもたない」

赤城は状況を認識すると直ぐに行動に移った。

「あ・・・赤城さん!?」

いつの間にか起きて顔を青くしていた吹雪の声を振り切って赤城は機体前方の扉の向こう、操縦室に乗り込んだ。

 赤城の予想通り、操縦室の大きな窓からは1機の烈風が3機の棲艦機を相手に奮闘しているのが見えた。烈風は性能では勝っているが鈍足の飛行艇を護衛しながら戦っている為戦況は芳しくない。

「機長さん!私が予備の落下傘で降りて棲艦機を叩きます!その間に離脱してください!」

「ああ?」

赤城の提案に飛行服を着た中尉は一瞬迷惑そうに振り返り、直ぐに正面に向き直る。

「・・・馬鹿を言うな!今降りたら敵の良い的だ」

中尉は操縦幹を握って棲艦機の銃撃に備えながら言った。

「しかし、この数の差では全滅も時間の問題です!」

「機内からの迎撃は出来ないのか!?」

「私の艤装は航空機で使う事を想定していません!最悪、艦載機がこの機体にめり込みます」

「では海の娘は大人しくしていろ!俺の一存では・・・つかまれっ!」

 左方向から曳光弾の雨が一列に近付いて来るのに気付いた中尉が叫び、そのまま操縦幹を思い切り捻って銃撃を避けようとする。しかし銃撃が一旦止んだ隙に機体後方の機銃手から主翼の端が欠けたとの通信が入った。

「・・・そんな事、言ってる場合ですか!?状況を見てください!」

手摺に掴まって回避の間なんとかその場に踏みとどまった赤城が激昂する。

「・・・分かった、もう好きにしろっ!」

中尉はそう赤城に伝えると部下にこの事を司令機へ連絡するように命じた。

 

 

 操縦室を出た赤城は元居た座席の脇を通り過ぎると、そのまま座席の後ろに固定されている自身の艤装を用意し始めた。

「赤城さんっ、本気ですか!?」

操縦室での一連の話を聞いていたらしい吹雪が赤城の後を追って来て言った。その後ろでは白雪も心配そうに見守っている。

「ええ、他に方法は思いつかないわ」

赤城は手早く艤装を装着しながら言った。

「じゃあ私も行きます!」

「駄目よ。それより白雪さんと降下中の援護をお願い、対空機銃ぐらいなら反動で機体が壊れる事も無いから。今からする事は降下中が1番危険なの」

「・・・分かりました」

吹雪は素直に赤城の言葉に従った。

「お気をつけて・・・」

「ありがとう。・・・あまり身を乗り出して落ちない様にね」

白雪の言葉にそう応え、艤装を用意し終えた赤城は2人の頭を軽く撫でると乗降口の引き戸を開けて機外に身を投げ出した。

 

 

 「げっ、ほんとに降りやがった・・・」

操縦室では傾けた機体の窓から下方で開いた赤城の落下傘を中尉が見つけていた。落下傘から曳光弾が光って飛んでいく。上空からは傘の影になって見えないが赤城は対空機銃を使って寄って来る棲艦機を追い払っていた。それでも彼女を射程内に納めた棲艦機には飛行艇後方からの射撃が襲い掛かり攻撃を妨害している。中尉が窓を開けて射線を辿ると吹雪と白雪が片手で登場口の手摺に掴まって棲艦機を狙っていた。

「・・・無茶しやがる」

「機長!司令機より各機火急速やかに戦闘空域を離脱せよと指示が下りました!」

「了解・・・当機は全速力でこの空域を離脱する。機銃手は敵機の追従を許すなっ!」

中尉はスロットルを押し込んで機首をトラック諸島へ向けた。

 

 

 数分間の降下の末、赤城は海上に着水した。海水を感知した艤装が直ぐに起動して赤城の身体を守り始める。

「痛っ・・・さすがに空戦中の降下は無理があったか」

降下中ずっと撃ち続けていた為、機銃が熱を帯びている。銃身を海水で冷やそうと前かがみになった際、赤城は少し呻き声を上げた。押さえた脇腹に血が滲んでいたが艤装の効果で出血は既に収まり始めていた。

「それにしてもあの艦影は・・・」

 降下中に凄艦機を放ち続ける母艦の姿を確認していた赤城は銃身を冷やすと直ぐに立ち直り矢筒に手を伸ばす、がその前に上空での爆音に宙を仰いだ。赤城の鋭い視力が黒煙の中に翼端だけになった緑色の機体を捕らえる。艦娘の艦載機は人工知能による半自動操縦で飛ぶが、地面や海面に降りる為に降下地点が動いて微調整する事が出来ない陸上機や飛行艇等は人間が乗り込んで操縦する事になる。飛行艇の空路を護衛する為にトラックの滑走路から飛び立った烈風の落下傘は開かなかった。

 一瞬、赤城の指が矢筒の流星と烈風の間で迷う。赤城が深海凄艦の方へ視線を戻すと正面から彼女に向って急降下する棲艦機の群れが目に入った。

「・・・こっち」

赤城は3本まとめて艦載機を抜き取ると2本を中指から小指で挟んで1本を射た。残りも続けざま弓に構えて射る、その間数秒。3本の矢は9機の烈風になって迫り来る棲艦機を次々に爆ぜさせる。数機の棲艦機が墜ちる直前に落とした魚雷はあさっての方向に走っていった。烈風は1機も欠ける事無く曲芸の様な急上昇を見せて上空で戦域を離脱する飛行艇とその直衛機にしつこく纏わり付く棲艦機に向って行った。

「加賀さんも提督も居ないのだからしっかりしないと」

赤城は自分に言い聞かせながら次の手を打つ。赤城の放った流星は一直線に対峙する小柄な深海凄艦に向う。無邪気な笑みを顔に浮かべのその相手は自分に向ってくる攻撃機を落とすべくさらに棲艦機を展開させた。

 

 

 赤城と深海棲艦の海戦はまさに消耗戦の様を成していた。棲艦機の攻撃は激しく、最初の流星を放った赤城はさらに9機を飛行艇護衛の増援に向かわせた。そして残りの烈風すべてを自身の護衛に当たらせている。それでも時折迎撃し損ねた棲艦機が雷撃や爆撃を仕掛けて来るのをかわしながら赤城は流星を深海棲艦のもとに送り込み続けているが、未だ艦載機の発艦を止める程の被害を与える事は叶わなかった。そして赤城が背中に伸ばした指は矢筒に残った最後の羽に触れる。

「くっ」

歯軋りしつつ残った流星を温存する事にした赤城は矢をそのままに数十メートル後退した。

「・・・また?」

魚雷や爆弾で狙ってくる艦載機に気を配りながらも赤城は深海棲艦の動きに疑問を抱いていた。深海棲艦は赤城が後退した距離よりも数メートル長めに詰める。赤城が海上に降下した時と比べて両者の距離はかなり縮まっていた。

 遠距離攻撃を基本とする空母同士が戦闘になった時は互いに距離を保ちながら艦載機で戦うのがこの世界では定石で相手の空母が近距離にいると互いに戦いにくいだけになる。近距離戦が得意な駆逐艦や軽巡洋艦が随伴しているなら話は別だがその姿は見当たらない。同じく近距離戦が得意な潜水艦を連れているのなら赤城が棲艦機の攻撃を避けている間にいくらでも攻撃の機会はあったはずだ。そして深海棲艦の動き以前に赤城が今まで相手にした棲艦の空母とは外見が異なり過ぎていた。

 赤城が深海棲艦の考えを読めずにいると、棲艦はその隙を突いて一気に赤城に接近した。それに応じて赤城は再び距離をおこうとする。脚部艤装が呻りを上げて波を掻くが間合いの縮まった一瞬は、相手を純粋な空母だと思い込んでいた赤城の意表を突くには十分な時間だった。けたたましく嗤う深海棲艦の砲口から5本の魚雷が飛び出す。

「なっ!?」

駆逐艦娘なら初めての実射訓練で魚雷の的があるような近距離から放たれた雷撃に対して赤城は身を翻す。しかし対艦娘用に作られた魚雷の信管が脚部艤装を掠めていく。一瞬の間を空けて魚雷は炸裂した。

 

 

 数十分後、そこには海面に仰向けになって浮く赤城の姿があった。周囲に深海棲艦の姿は見えない。

「くっ・・・これじゃ、もう帰れないわね」

意識を取り戻した赤城は自身の足元も見て呟いた。その視線の先では脛から先が千切れていた。

 艦娘は一定以上の出欠を伴う傷を負うと体内の艤装が作動し痛覚が遮断されるようになっている。少しでも長く戦闘に集中させる為だ。しかし今の赤城には残った流星に深海棲艦を追撃させる事はおろか、いつの間にか艦載機諸共いなくなった深海棲艦を探す事もままならなかった。

「ああ、こんな事になるなら・・・。あの時無理にでも伝えておくんだった・・・」

赤城は震える指でゆっくりと、艤装の通信機から55号基地の金沢に電文を打ち始めた。

 しかしこの電文は後に金沢よりも先に大都に届けられる事となる。

 

 

 

 「やっぱり・・・ここの最中は最高ねっ!サックサクの皮の吸い付くような食感とこの特製粒あん!」

まずは一つ、最中を食べ終えて赤城は満面の笑顔を見せた。

「小豆の粒の変わりに入ってるパイナップルの欠片を噛んだ時に出てくる果汁とあんこの意外な組み合わせが良いのよ。パイナップルの欠片が大きかったり入れすぎたら果汁の酸味があんこの甘みを駄目にしちゃうの。一度、食堂の設備を借りて作ってみたけど・・・」

 演習での夏島出張中、赤城と加賀は市街地のある喫茶店を訪れていた。

「赤城さんはまたそんなに注文して・・・」

向かいの席に座った赤城の姿が半分見えない程に大皿いっぱいに積み上げられた最中の山

を見て加賀は呟いた。

「・・・半分頂きます」

そう言って加賀は最中の山に手を伸ばす。

「むむん・・・!」

加賀の手が最中に触れる寸前、最中でいっぱいの口の変わりに伸びて来た赤城の手が講義した。

 「どれだけ食い意地張ってるんですか・・・」

加賀は呆れた表情を見せたが直ぐに少し笑って言った。

「冗談よ、今日は赤城さんの大尉昇進祝いなのだから・・・思う存分食べて下さい」

それから店員を呼ぶと加賀は言った。

「すみません・・・これと同じものをもう一皿お願いします」

「は?・・・これと同じ量をですか?南国最中の特盛りを?取り分け用の小皿ではなく?・・・はあ、畏まりました」

店員は何度か確認すると伝票を書き換えて厨房に注文を伝えに向った。

「まーた、加賀さんもそんなに注文して」

赤城が楽しそうな声で言い返す。加賀はそんな赤城に向き直ろうとして・・・

 布団の上で目を覚ました。

 

 

 夕べ障子を閉め忘れた窓から青紫の空が覗いていた。加賀は日の出前の暗闇に慣れきった目を右隣に向ける。いつもならそこに居る筈の彼女は居ない。しばらくの間、加賀は何も無い畳の上を見つめていた。

 昨夜、消灯後。加賀は昼間の騒ぎが嘘だったかのように静まり返った指揮室を訪れた。窓の形に切り取られた月明かりがぼんやりと照らす誰も居ない指揮室の段を上っていくと、大都が破り捨てた打電用紙だった紙屑はそのまま放置されていた。加賀はそれらを一つ残らず拾い上げると手近な机に広げて並べ直す。打電用紙は元の形になって打ち込まれた点と線が再び一直線に並んだ。

 

“カネサワモリトサマズットオシタイシテイマシタ”

 

「そう・・・赤城さんは・・・最期に提督へ想いを打ち明けたのね」

加賀は用紙を愛おしそうに撫でながら語りかけた。皺になった紙の一欠けらが指に押さえられて言葉に応えるかのように小さく跳ねた。

 やがて、彼女はそっと電文をまとめて懐に仕舞うとその場を後にした。

 

 

 秘書艦代理になってからというもの始業前には金沢の執務室に赴くのが加賀の日課になっていた。しかし一昨日赤城からの電文が届いて以来、部屋の主は泊地本部で大都長官率いる派遣指揮団に取り調べや身辺調査を受けているとかで一度も帰ってきていない。本来の上司である北間大佐は未だ攻略先から帰っておらず代理の上司も居ない今の彼女の仕事といえば朝、金沢宛の郵便物が届いていれば彼の執務机に置いて周囲を簡単に掃除をする程度になっており、日中は自主的に事務部や整備部の仕事を手伝っていた。起床した加賀は身支度を済ませ朝食を取るといつもの様に郵便物の確認に向っていた。

「・・・・・・まったく、どうなってるんですか?この基地は!司令官は不祥事を起こすし、艦娘は指揮中に怒鳴り込んでくるし」

加賀が廊下を歩いているとある一室からそんな声が彼女の耳に入った。そこは大都長官が連れて来た部下がトラックに滞在する間の控え室としてあてがわれた部屋だ。

「それにしも見に覚えの無い事、ですか。酷いものですね」

「全く相手の艦娘も可哀想になぁ。最期の間際に送った告白をあんな風に言われるなんて思わなかったろうに・・・まあ司令官は金持ちの一人息子だから仕方ないとして、艦娘の方は姉妹が居なくなった矢先に長年の相棒まで失って荒れてたのかもな・・・」

「そういえばここの加賀って先月事故で沈んだ土佐の姉でしたっけ?」

加賀は眉間に皺を寄せてその場をその場を後にしようとした。

「ああ。土佐っていえばこの間妙な話を聞いたんだけどな」

「なんですか?」

が、妙な話という言葉が気になって立ち止まる。

「土佐が沈んだ事故って軍が仕組んだって話でよ。使わない艦娘の維持費と解体費を削って新造艦に回す為に使える艤装だけ取っ払って沈めたんだと」

「はぁ?・・・それどこで聞いたんですか?」

「横須賀で整備員が話してた」

「何かの聞き間違いじゃないですか?そんな事より早く本国に戻りたいですよ、いくらジメジメしてないとは言っても本土の暑さ方がまだ・・・・・・」

話の内容が変わったところで加賀は改めて歩みを進めた。結局、通信士達の噂話の続きは眉間の皺を深くしただけの様だった。

 

 

 55号基地には連絡用の掲示板が食堂や寮の玄関など数箇所設置されているが、その中のひとつは事務室前の廊下に掛けられている。そこには赤城が昨日の深海棲艦に寄る奇襲で戦没した事も掲示されていた。その隣には木製の棚。棚の枠にはそれぞれ基地に勤める職員の名前を書いた札が釘で付けられていて、基地に届く配達物は毎朝一番若い事務員によってここで各職員宛に仕分けされる。

「あっ、加賀さん」

加賀が金沢宛の郵便物が届いていない事を確認していると大端に呼び止められた。

「・・・何ですか?」

「ちょっと話があるんだけど、今から鳳翔さんのとこまで来てもらえないかしら?」

 

 

 大端に連れられて加賀が鳳翔の部屋に着くと鳳翔は申し訳なさそうに迎え入れた。

「私に何か・・・?」

「ごめんなさい、こんな時に。どうしても聞いておきたい事があったの」

加賀は小さく首を横に振る。

「いえ、私は構いません。・・・何かしている方が気が紛れて楽なのは土佐の時に学びましたから」

「・・・そう」

「・・・じゃあ、早速だけど本題に入りましょう。」

そのまま話を止めてしまった鳳翔にかわって大端は加賀に問いかける。

「単刀直入に聞くわ。今回の作戦前に本部で少将と長官の秘書が話していた事、もっと詳しく話してくれない?」

 加賀は改めて、以前大端に話したように長官秘書の正体は話さずに“表向きの事実”だけを告げた。

「んー、やっぱりそれだけ?でもあんな人目の付かないところで話し込むなんて何かあると思うのだけど?」

「いえ、私は基地司令が長官の秘書の方と話しているのを見ただけなので詳しい事は・・・」

「・・・加賀さん、何か隠している事があるなら教えてくれないかしら?」

「私は何も・・・」

ここまで聞かれる事に淡々と答えていた加賀だったが少しずつ怪訝そうな顔色を見せ始める。聞き手に徹していた鳳翔は意を決して口を開いた。

 「加賀さん、今までに貴女の周りで艦娘が不自然に沈没したり、事故死したりする事は無かったかしら?」

「鳳翔さんっ・・・!」

加賀より先に話の意図を察した大端が鳳翔を咎めた。鳳翔は静かに首を横に振る。

「・・・何故そんな事を?」

鳳翔は、艦娘が奇襲や事故と偽って不当に処分されていた事、もう直ぐ睦月達がその対象になる恐れがある事。それを阻止しようと動いているが、次回の演習が処分の舞台になる可能性があり時間が無く少しでも情報が欲しい事を話した。そして万一の時は鳳翔が睦月達を連れて基地から逃げ出すつもりでいる事も。

 「確かに・・・この基地に来るまでに同じ鎮守府所属の艦娘が奇襲や事故で沈む事は何度かありましたし、ついさっきもそんな噂話を耳にしたところです。しかしどれも憶測に過ぎないのでは?」

「つい最近、この基地でもあったんです。艦娘の処分が」

「・・・貴女達がここに来る少し前、私の部下に出撃指令が出たの」

鳳翔に促されて話を引き継いだ大端は続けた。

「当時、私が受け持ってたのは睦月型駆逐艦娘・・・今居る子達が貴女と一緒に来る前に居た睦月達でね。作戦担当指揮官は当時の基地司令だったから私が指揮を執る事は無かったのだけれど、輸送艦2、3隻を護衛するだけの筈が棲艦の奇襲だとかで全滅。その時は辛かったけれど、なんだかんだ言っても戦闘職だもの。そういう事もあるわ。」

「・・・その奇襲がいわゆる処分だった、と?」

「そのようね。ちなみに今の基地司令は実習として当時の基地司令直属で働いていて実質ここの責任者だったから、この事を知っていても何らおかしくは無いわ」

「・・・そんな事が」

加賀は顎に手を当てて考え込む。

「ええ。加賀さんがここに来る前の話ですけどね」

 「なるほど・・・それで・・・」

「どうかした?」

「・・・赤城さんが攻略に出発する前、睦月型艦娘の正装だけ先に用意されていたのが話題になった事があったんです」

「ああ。そういえばあの子達のお古がそのままだったわね・・・」

「・・・この事、赤城さんにも話したんですか?」

加賀はふと2人に訊ねた。

「ん?」

「え?」

鳳翔と大端が顔を見合わせる。

「提督は話されました?」

「ううん、鳳翔さんは?」

「いえ、私からは・・・」

「・・・他に話しそうな方は?」

「そもそもこの件を知っている人間が殆ど居ないわ」

訝しげに尋ねる加賀に大端が答えた。

「・・・赤城さんが何か言っていたの?」

鳳翔に尋ねられて加賀は出撃直前に飛行場で赤城と話した内容を伝えた。

「分かっちゃった事、前の子達が置いていった・・・ね。確かにこの事とも取れなくはないけど・・・」

「では・・・赤城さんはどこでこの事を?」

加賀の問いかけに答える者は居ない。始業時刻が迫って、この日は結論の出ないままお開きになった。

 

 

 鳳翔の部屋を後にした加賀が主の居ない部屋の掃除をするつもりで金沢の執務室に来ると、そこには2日ぶりに自身の席に戻ってきた金沢の姿があった。

「・・・お疲れ様です」

加賀は少し眉を上げて意外そうに言った。金沢が疲れた顔で笑みを向ける。

「毎日連絡物を届けてくれていたんですか?」

「秘書代理ですので・・・今日は何も届いていませんでした」

「そうですか、ありがとうございます」

「提督、お話があります」

加賀はおもむろに金沢の前に立つ。

「なんですか?」

「赤城さんの決別電報の件です」

「ああ。昨日まで散々尋問されましたよ。艦娘に色目を使って風紀を乱していたのか、って。お陰で大変な事になりました・・・要件は?」

「・・・赤城さんの気持ちを聞いてどうお考えになって?」

憮然とした面持ちで加賀は尋ねた。

「・・・彼女は優秀な秘書艦であり、掛替えの無い友人でした。彼女の想いには薄々気付いていましたがその気持ちは変わりません。」

「知っていた・・・?」

「はい」

「・・・いつ、から・・・?」

加賀は言葉に詰りながらなんとかそれだけの言葉を発した。

「いつだったか、噂になっていたのを話題にした時と出発直前の態度で。いくら僕でも気付きますよ」

その直後、加賀は金沢の胸倉を掴んでいた。

「・・・どうして!赤城さんの気持ちが分かっていたのならっ・・・どうして、赤城さんが面倒事を引き起こしたみたいな言い方・・・」

「すべき事がありました。しかし、あの電文で・・・すべて水の泡になってしまった!」

金沢は加賀から目を背けて言い放った。そして胸倉を掴む加賀の手を制服の襟から引き離させる。

「・・・すみません、ここ数日で溜まっている仕事があります。加賀さんは暫く休んでいてください」

金沢は強い口調で告げると加賀に背を向けて執務の準備し始めた。

「このままでは赤城さんが、あまりにも・・・。基地司令・・・見損ないました」

「もう用が済んだのなら出て行って貰えますか?」

声色を荒げて金沢は言った。

「・・・失礼します」

加賀は俯いて部屋を後にした。

 

 

 加賀が下唇を噛んで部屋を後にして直ぐ、金沢は左拳で思い切り執務机を叩いた。

「くそっ・・・彼女に当たってどうするんだ・・・。早く何か手を打たないと・・・」

 

 

 派遣指揮団の通信士達が撤収準備をする廊下を宛ても無く重い足取りで進む加賀にある仮説が浮かんだ。その足で事務室前へ向い廊下の掲示板に目的の物を見つける。

「まさか・・・だとしたら赤城さんは・・・」

 

 

 その翌日、事務室前を始めとした連絡板に金沢の身辺調査の結果と辞令が新たに掲示された。内容は艦娘と不適当な関係を持ったとして降格及び左遷を告げていた。金沢は後任の司令官が到着し次第、対深海棲艦の前線へ異動する事となった。

 後任の基地司令が乗る飛行機は今日撤収した指揮団と入れ違いに、5日後到着する。

 

 

 「鳳翔さん、前の事でお話があるのですが・・・大端提督にもご一緒していただけますか?」

加賀が鳳翔にそう声を掛けたのは金沢の左遷が発表されてから2日後、金沢が基地を去る3日前の夕食後の事だった。加賀の申し出を承諾した鳳翔は残業で夕食が未だだった大端に声を掛け、彼女と共に寮の部屋で大端を待っていた。

 30分後、2人が待つ部屋に来た大端は開口一番こう言った。

「加賀さん、貴女まさか基地司令に話したりしてないわよね?」

「ご心配なく。今日は一つ提案に来ました。」

「提案?」

「ええ。・・・脱走なんてせずにここで立て篭もってはどうかしら?」

 

 

 「・・・今ならフ島攻略作戦用に運び込まれた資材が残っています」

提案の内容を長々と話し終えた加賀はそう言って話を纏めた。

「それでも精々ひと月・・・いえ、艦娘の決起なんて前例が無いから分からないわね。仮にそこまで上手くいったとしていつまでここに立て篭もるつもり?」

大端は冷静に尋ねた。

「戦時の今だからこそ泊地での反抗は短期でも交渉材料になるのではないかしら?この方法ならば失敗しても混乱に乗じた脱出の機会はあります」

「でも、だからと言ってそんな事・・・」

提案に戸惑う鳳翔を手で制して加賀は言った。

「それに・・・もしかすると提督と鳳翔さんと提督が何か企んでいる事に基地司令はもう気付いているかも知れません」

「・・・何ですって!?」

大端が声を荒げる。

「実は・・・例の長官秘書の方は海軍情報部員で基地司令にこの基地の内部調査がある事を事前に漏らしていたそうなんです」

「憲兵隊や情報部員が将官の護身を受け持つ事があるのは知っていたけれど・・・」

鳳翔が少し驚いて言葉を零した。

「・・・その内部調査は少将が受けていた事情聴取の事じゃないの?」

「事情聴取は赤城さんの件で急遽行われた事かと・・・。長官秘書の調査対象が基地司令なのだとしたら当の調査対象に情報を零して得られる利益が無いですし、長官秘書に情報を零して基地司令を擁護するような接点があるとしたら情報部はそのような人選をしないと思います。あえて基地司令に近い人物を起用し情報を零す事で基地の調査をしやすくした、といった事は考えられるのではないでしょうか。基地司令は詳しい調査内容までは聞いていないと仰っていましたが、調査対象が鳳翔さんや大端提督であるなら艦娘である私のからの情報漏洩を恐れた基地司令が話の一部を伝えて重要な部分で嘘をついたと考えれば自然です。実態までは掴めていないにしてもこの基地で何か企んでいる、くらいまでは知っていてもおかしくありません」

 

 

 数分後、大端は随分重くなった口を開いた。

「・・・私は加賀さんの案に賛成よ」

「提督!?」

鳳翔がその内容に驚いて声を挙げる。

「基地司令が5年前の処分の件を知っていて従っていた、そして今この事に気付いているのなら泊地から脱出する時に何等かの形で妨害してくるでしょうし、本国に通報されたら海岸への接近も難しくなるんじゃないかしら?」

「でも・・・」

「鳳翔さん。脱出出来たとしても、このまま処分が通例になってしまったら人知れず艦娘が沈められ続ける事になります。それは鳳翔さんも望んでいないはずです」

それに処分の件は殆ど知られていないのですよね?」

加賀が2人に確認する。

「・・・ええ、私が知る限り佐官や艦娘には極秘扱いみたいです」

鳳翔が狼狽しながら答えた。加賀は話を続ける。

「・・・赤城さんが口封じの為に沈められたのだとしたら既に私達も危険です」

「どういう事ですか!?」

鳳翔は顔を青くして言った。

「赤城さんは基地司令の秘書艦でした。私達と違い、何かの拍子に司令が隠しているであろう処分に関する資料を目にしてしまう事は考えられます。」

「待ってください!司令は青葉さんの為に目上の司令官にも意見される様な方です。たしかに基地司令に話は通っていると見て良さそうとは言いましたが・・・基地司令がそこまでされるとは思えません!」

鳳翔は言い返したがその言葉に応えたのは大端だった。

「・・・衣笠の件ね。でも少将は指示しただけで実際に52号まで出向いていたのは私や栗崎さんよ。・・・あまり考えたくは無いけど、今となっては処分の件で本部に何度も出向く間、私達の目を外に向けておきたかったとも考えられるわ」

「では提督は衣笠さんの沈没にも基地司令が関わっていたと仰られるのですか?」

「そこまでは言って居ないわ。第一、衣笠の時は何人もの艦娘が深海棲艦に沈められるところを見ているじゃない」

大端はいなす様に答える。

「奇襲で沈んだとしか知らされていない・・・赤城と違って不自然な事があれば誰かが気付くはずよ」

途中、彼女は加賀の様子を横目で窺いつつも最期まで言い切った。

 「それで、鳳翔さんはどうされますか?」

加賀は全く表情を変えずに尋ねた。

「少し・・・少し考えさせて下さい」

鳳翔は額を押さえて言った。

「分かりました。では・・・基地司令がここを去る前日までに決めて下さい。準備の事を考えるとそれ以上は待てません」

 

 

 そして5日後・・・。

 

 

>>>To be contemew【13話 彼女の報復】

 




 今回かなりの量の伏線を回収しましたが・・・伏線を張り忘れたのに回収だけしたとか、回収し忘れていないか心配になっています。どうも、筆者の胡金音です。
「それにしても早速変更したな。サブタイトル」(※前回の後書き参照)
おやADさん。今回は登場早いね。ぶっちゃけ本編はまだ書いてる途中なのにサブタイトルだけ付けるなんて胡金音には早かったんよ。
「早かったと言いつつちゃっかり本編の最後に例の一文書いてるじゃねーか」
1話を書いていた頃に予定していた展開を何度もがらっと変更しつつ書いているこの作品ですが、ここは殆ど変わっていないシーンなので展開に変更は無いと思います。だからサブタイトルの変更も多分ないかなーって・・・。
「言ったな?」
お、ぉぅ。
「声が小さいな!?」
まあ、今回のサブタイトルは割と分かり安いし?2話みたいに、サブタイトル回収のところまで話し進まなくてもどっかで言い争わせれば良いし?
「こら、ヤメロ。・・・って、ん?最近サブタイトルちゃんと回収してた?」
あー、最近は抽象的なサブタイトルが続いたからねー。
「八話辺りから?」
うん、九話以外はそう。ちなみに八話の“波まに”は流されてく感じ。
「感じ?・・・じゃあ十話は?」
そう、今思えばあれが“キッカケ”だったのだ。しかし私がその事に気づくのはもう少し後の事だった。的な。
「十一話。これは似たようなタイトルの有名漫画があったな・・・パクった?」
そう、今思えばあれが“始まりの第一歩”だったのだ。しかし私がその事に気づくのはもう少し後の事・・・。
「同じじゃねーか!!」
パクってないし。
「全く・・・適当にサブタイトルつけやがって。今に読者に愛想付かされるぞ?」
失踪とかはせずに頑張るので最終話までゆっくりしていってね♪
「やれやれ・・・それでは次回、【13話 彼女の復讐】もしよろしければ気長にお待ち頂けると幸いです」
復讐じゃなくて報復な。
「ぐっ・・・」


>>>To be contemew【13話の後書き】
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