こがね は とりあえず こまったら ―――(ダッシュ) で ごまかそう と している !
※話の展開上、今回からしばらくの間、艦娘のキャラ崩壊が特に酷いです。予めご了承下さい。
「・・・本当に良いのですね?」
「ええ・・・致し方ありません」
「そう。事を起こす以上は全力でぶつかるわよ」
新提督着任の日の朝が来た。換気の為に開かれた執務室の窓からは基地に設けられた食堂の賑わいが喧騒となって小さく聞こえている。今日この基地を去る彼と入れ替わりに着任する提督の到着まで数時間を切っていた。“艦娘との不適当な交際”を理由に降格となった基地司令、金沢准将は腕時計から顔を上げると机の上に纏められた始末書の束を手帳や数冊の本と一緒に黒い光沢を放つ革の抱鞄――ブリーフケースに詰めた。机の上には1封の封筒が残された。
「さて・・・後はこれを誰かに託して・・・」
そう独り言ちた金沢の顔には疲労の色が浮かんでいた。
封筒を空になった引き出しに仕舞うと、金沢は廊下に出て用具箱の雑巾をきつく絞って帰ってきた。くつろぐ事を殆ど考えていない執務室だが、数少ない私物も取り払った今は備え付けの家具と基地所有の書籍ぐらいしか残されていない。雑巾の通り道を邪魔する物が無い部屋で金沢は順調に拭き掃除を始めた。休憩用にと、給湯室から持ち出したカップや茶葉を仕舞っていた棚に取り掛かり、溝に溜まった埃を拭き取ろうと引き戸を開く。
「・・・・・・」
金沢は目に留めたコーヒー豆の缶を手に取ると“ベトナム産 検疫済”と印刷されたシールが貼られたままのそれをいつでも発てるように用意した抱鞄の隙間に詰め込んだ。
「おはよう御座います、基地司令」
金沢が掃除一通り終えた頃、いつものように加賀が執務室を訪れた。
「ああ、おはようござ・・・」
顔を向けて加賀の姿を見た金沢は雑巾を持つ手が止めた。
「・・・加賀さん、その格好は一体どう言うつもりですか?」
加賀はまるで出撃準備が出来たと報告に来たかのように艤装を装備して弓まで携えていた。
「私の顔に何か付いていて?」
明らかにとぼけた様子で加賀が言った。
「・・・その艤装はどういうつもりですか?」
金沢が繰り返し尋ねる。
「何かおかしい事でも?基地司令を見送るのですから艦娘が艤装に身を包むのは当然の事でしょう?」
「先日支給した正装があるでしょう。そちらに着替えて来てください」
「あれは儀礼用の物です。外部からの指揮官ならともかく、司令を見送るにはこちらが適当かと」
「せめて武装は解除して来て下さい」
「もう間に合いません。今頃全員に装備が行き渡っている頃でしょう」
「・・・しかし、」
「女の身支度には時間が掛かります。誰にも見送られずに出発するおつもり・・・?」
加賀は丁寧ながら、有無を言わさぬ口調でそう答えた。
郵便物の有無を伝えに来た加賀が部屋を出た後、金沢はやってきた睦月達の自主訓練で洋上へ出たいという要望に許可を出した。
やがて基地を去る時間が迫り、金沢が加賀の言動に不安を抱きつつも鞄を手に基地の入り口に着くと、そこは現指揮官に対する惜別と次の指揮官に対する期待と不安が入り混じって独特の雰囲気に包まれて――――居なかった。基地に所属する艦娘が門へと続く道沿いに一列に並んでいて一見、見送りの体勢になってはいる。しかし加賀を先頭に並んだ艦娘達の姿はただ見送るにしては重装備で表情も硬い。続く指揮官も見送るだけ、といった様子ではなかった。あまり評判が良くない憲兵が門外から物珍しそうにこちらを窺っている。その向こうでは彼らが乗ってきたであろう飛行艇が桟橋に浮いていた。
「基地司令。これは貴方の差し金ですか?」
階級順に並んでいて金沢に一番近い位置に居た三ツ屋が尋ねる。
「まさか。この後に実線訓練の予定でもあるんですか?」
「いえ。そんな予定はありませんが・・・。今、駆逐艦隊が洋上訓練に出ているくらいです」
金沢の誰にとも無しに向けた問いかけに、この場に居て基地に残る中では一番階級の高い栗崎が代表して答えた。
「そうですか?まあ、とにかく・・・あなた方にはお世話になりました。まだ北間大佐は出張中ですが帰って来られましたらよろしくお伝え下さい」
金沢は短く別れを告げる。
「あ、それと大端中佐。ちょっと・・・」
それから金沢は門外で彼の出発を待っている憲兵に横目をやりながら大端に手招きして耳打ちした。
「この後、僕の机の引き出しに入っている手紙を読んで下さい。後任の方に見つかる前に・・・恥ずかしながら僕の力では及ばなかった。後は頼みます」
「は・・・?」
大端が意味を理解できずに発した一言を金沢は了承の意と取って大端から距離を置いた。
「金沢准将!本部で次期基地司令が引き継ぎをお待ちです。お急ぎ下さい」
憲兵の粗野な声が門外から入れた横槍に金沢は一旦すると艦娘が並ぶ沿道に身体を向けた。
「それでは・・・皆さんもお世話になりました」
金沢は手前から順に顔を見て先頭の加賀で視線を止めた。
「お元気で」
その言葉を最後に金沢は後任の司令官が待つ本部へと向う。加賀の前を過ぎ番兵の敬礼に見送られて金沢は基地の外へ足を踏み出した。
金沢の背中を見送っていた大端が加賀へ視線を送った。それに気付いた鳳翔が不安げに眉根を寄せる。加賀は金沢の視界から外れたと同時に艤装を持ち上げる。
銃声が基地に鳴り響いた。
話は5日前に遡る。
「提案?」
「ええ。・・・脱走なんてせずにここで立て篭もってはどうかしら?」
訝しげな表情の大端に対して加賀はしれっと言った。
「はい・・・?」
鳳翔が突飛な提案に呆気に取られている。加賀は続けた。
「艦娘の待遇改善を求めて離反しましょう」
「・・・何か考えがあるのね。聞かせてくれる?」
大端が顔を向けて訊ねた。
「鳳翔さんは間も無く艤装の耐用年数を迎える艦娘が処分されないように基地から連れ出したいのですよね?」
「ええ」
加賀は自分の考えを話す前に鳳翔に確認を取った。
「ですが専門の技師による体内艤装の保守が無ければ艦娘は長くは生きられません」
鳳翔の返答に加賀は事実を突きつける。
「それは覚悟の上です。でも、艦娘という制約の中で外の世界を、戦いしか知らずにあの子達が処分されるのは・・・もう、耐えれません」
鳳翔は即座に言い返したが後半は尻すぼみになった。
「そこで離反です。泊地を封鎖して全艦娘の不老化を、最低でも無理な艦娘運用の撤廃を軍から引き出します」
「封鎖なんてどうするの?」
大端が身を乗り出して話に割り込む。
「この基地や泊地の艦娘に協力を仰ぎます」
「そんな・・・関係の無い娘達まで巻き込む訳には参りません」
難色を示した鳳翔に加賀は答える。
「人知れず同胞が処分されていたと知ったら艦娘も他人事ではいられないはずです。・・・まあ、睦月さん達は未だ精神的にも幼いですから席を外してもらう事も考えますが」
鳳翔は今一つ納得していない様子だったが加賀は説明を続ける。
「・・・まず、5日後の基地司令の出発で出来る隙を狙って基地を占拠します。本来であれば基地司令の引継ぎ中は北間副司令が代理を務めますが大佐は陸戦隊の指揮で不在です。この間は書類上、金沢“准将”が引き継ぎ終了までこの基地の最高責任者という事になりますが基地で連絡を執れない以上、泊地本部に離反を知られるまでの時間を稼げます」
「ずいぶん急ね。用意は間に合うの?それに基地司令の護衛に憲兵が就く事を考えていないんじゃない?」
加賀はまず前者の疑問に答えた。
「今後、戦線が拡大して主力艦隊がこの泊地を拠点にした場合、決起は困難になります。戦況が落ち着くまで待っていては処分が決行されるかも知れません」
そして後者にも。
「それに私達艦娘からすれば憲兵など物の数では無いかと・・・」
「少々の手荒な事は想定内、という事ね」
大端はやや引きつった苦笑いで言った。
「私達はともかく、生身の提督方はどうするのですか?」
当の提督が苦笑いで済まそうとしているのを見かねて鳳翔が説明を求める。
「銃撃戦になったら早急に基地の内部に避難していただきます」
「基地司令は?基地を出る途中で私達と憲兵の間に居てもおかしくありません。もし銃撃戦にでもなったら・・・」
おや、と言った風に加賀が意外そうな顔をしたのを見て鳳翔は話を止めた。
「部下の艦娘を見捨てた基地司令なんて気にしなくても良いじゃないですか」
「・・・・・・」
加賀の言葉に鳳翔は絶句した。
「あー・・・仮に立てこもるとして食料は陸戦隊の備蓄分があるから良いとして弾薬や燃料はどうするの?」
しばらくして大端が気まずそうに声をあげた。
「普段の備蓄量を考えると戦闘になったら数日分しかないわ」
「今ならフ島攻略作戦用に運び込まれた資材があります」
提案の内容を長々と話し終えた加賀はそう言って話を纏めた。
この後、金沢が彼女らの企みに気付いているかも知れない事を加賀は話し大端は―――。
銃声が基地に鳴り響いた。
白い制服に赤い染みが広がり始める。加賀が向けた対空機銃は金沢に近づいた憲兵の足元に向けられて数発分の空薬莢が地面に転がっていた。放たれた銃弾のうち1発は金沢の脛の肉を抉って、残りは地面にめり込んで地表を数センチ押し上げている。自らの体重を支えきれずに上体を傾けて金沢が膝を付いた。鞄が地面に落ちてぱたりと倒れた。
「何のつもりだっ!!」
慌てて数歩下がった憲兵が吼える。
「金沢司令、“合図”が遅いので独断で撃たせて頂きました」
加賀の一言に憲兵の怒りの矛先が数歩前で呻きを堪える金沢に移った。
「・・・そうですか。何事も無く出発出来るとは思ってはいませんでしたが、最初からそのつもりで・・・」
金沢は俯いたまま小声で呟いた。目の前で憲兵が機銃を構える音が聞こえた。金沢は大きく息を吸った。
「総員、砲塔構えっ!!加賀っ、機銃の撃ち方を忘れたかっ!」
その場の全員に聞こえる大声で叫んだ。まるで示し合わせていたかの様にその場に居る、加害外の艦娘が各々の兵装を手に身構えた。驚きで目を見開いている加賀を背に金沢は自分達に機銃を向ける憲兵達に続けた。
「彼女達は深海棲艦を相手にする事を想定した訓練を日々行っています。そんな豆鉄砲でうちの艦隊が破れるとでも思って居るんですか?」
「貴様・・・何をしているのか分かって居るのか?」
憲兵が苦い表情で金沢を睨む。金沢は低い位置から睨み返す。
「・・・勿論です。我々55号大隊は皇国軍を離反します」
憲兵隊が実に不満気に撤退して行く。その姿が飛行艇の中に消えてようやく加賀は警戒を解いた。膝立ちになった金沢がよろけたのでそれまで茫然と事のあらましを見ていた番兵が駆け寄った。事情を知る者は緊張した面持ちで、事情を知らない者は起こった事を反芻し、それでも信じられないといった様子で固唾を呑んだ。金沢はそんな彼らに見送られながら番兵に支えられて来た道を引き返した。
「・・・なんて迷惑なの!?」
一昨日の晩の事。千代田は酷く憤慨しながら姉の背中を追った。消灯前の自由時間を寮でのんびりと過ごしていた千歳姉妹に大端が召集令をかけたのはつい先ほどの事だ。集合場所は鳳翔の生活部屋。
「そんな事言わないの。たまには鳳翔さんと飲むお酒も良いじゃない」
「提督もお姉も普段から呑み過ぎなのよ!・・・鳳翔さんも提督に毒されちゃったのかしら」
大端が就寝前に千歳に声をかける時は決まって酒盛りになる。職業柄、この基地に着任する前から飲酒する事はいくらでもあったが・・・。
「千代田も一緒に飲めば良いじゃない」
「うっ・・・だってお姉のペースに合わせると次の日が・・・」
場が盛り上がると翌日の予定に関係無く無理な量を飲ませる者も多く、その度に一眠りですっきり酔いの醒めた千歳が2日酔いの千代田を介抱していた。
「そんなに飲まなきゃ良いじゃない」
「そうじゃなくてぇー」
千歳はもちろんの事、大端もどんなに酔っても無理強いをする事は無いので飲み過ぎで体調を崩す事は無くなったが今度は別の問題が出てきた。
「2人共盛り上がり過ぎなんだよー、付いて行けない!」
千代田に酔っ払い2人の相手は困難だったようだ。
「提督も無理に来なくて良いって言ってくれてるわよ」
「そうだけど・・・」
そんな事を話していると2人は鳳翔の部屋の前に着いた。
「まあ、今日は鳳翔さんが話し相手になってくれるわよ。・・・お邪魔します!」
千歳は妹を宥めながらノックをして戸を開いた。
「2人共いらっしゃい」
「これで揃ったかしら」
はたして2人を出迎えたのは鳳翔と大端だけでは無かった。
「ずいぶん遅かったわね」
そう言った加賀を始め、青葉、古鷹、加古・・・睦月達駆逐艦艦娘を除いた55号大隊の艦娘が揃っていた。
「あら?皆さんお揃いで・・・」
「提督、今日はお酒呑まないの?」
きょとんとしている千歳に変わって千代田が大端に尋ねた。
「それは・・・またいつかね」
大端はどこか誤魔化すように答えた。
「さて・・・今から重要な話をします」
寮で一番大きいとはいえ嘗て無い人数が揃い手狭になった部屋で加賀は一拍して注目を集めた。
「今まで隠していましたが基地司令から許可が下りたのでお話します。皆さん・・・今までに艦娘が秘密裏に処分されるといった噂を聞いた事はありませんか?」
今から数十分前、離反を実行する決意をした鳳翔と共に加賀の計画を細部まで聞いていた大端は加賀が平然と語る話を内心どん引きしながら聞いていた。
要約すると計画の冒頭はこうなる。金沢が基地を去る際に本土までの護衛を命じられた憲兵隊が基地に来るので彼らの前で加賀が大隊の離反を宣言する。ここで金沢は制圧に取り掛かるであろう憲兵隊に連行されるか銃撃戦に巻き込まれる事が予想されるが、彼については一先ず置いておく。最高司令官不在の基地を占拠した後に泊地本部へ無線通信で金沢の名の基に基地の占拠を宣言、及び艦娘処分に関する情報の公開と予定されている処分の中止を要求する。“必要であれば”今後対外戦争で重要な役割を担う事になる泊地を占拠し、大本営が戦争継続の為に要求を飲まざるを得ない状況を作り出す。
なお金沢に関しては連行された場合、何も知らない彼の言い分が通ったとしても部下の離反を許した事の責任を追及される事になり基地への影響力は無くなる。銃撃戦に巻き込まれた場合・・・丸腰の金沢がどうなるかは言うまでも無い。
そして離反するにあたった戦力をどうするかというと・・・。
「艦娘処分の命を下す長官に逆らう為に抗う決断をされた基地司令は今日まで私、鳳翔さん、大端提督と協力して水面下で離反の用意を進めてきました。今まで話さなかったのは万が一、離反の決行前に情報が漏れて皆さんに危害が及ばないようにする為です。・・・皆さん、どうか力を貸して下さい!」
普段なら決して長話をする事の無い加賀の弁舌に大端は人知れず鼻で溜息を吐いた。
「えっとー、もしかして夏島の様子を調べて欲しいって言うのはこの準備の一環だったんですか?」
しばらくして青葉が遠慮がちに手を挙げて鳳翔に尋ねた。鳳翔は困った風な笑顔で応える。
「ああ、それで・・・」
大端が呟いた。
「あのー。この事、私たちの提督には・・・?」
青葉に続いて古鷹がおずおずと声を上げた。
「・・・栗崎大佐や三ツ屋少佐には知らせていないわ。実は栗崎さんとは個人的な接点が無くてね」
「そう、ですか・・・」
「もし、貴女達が話したいのなら止めはしないけれどね」
「えっ?いいの?」
加古がぱっと顔を上げる。
「本音を言うと嫌よ」
大端は苦笑いと共に答えた。
「あの人はこういう事には反対するだろうから、でも私は口止めしようとは思わない。良く考えて身内の事は身内で決めなさい」
他にも幾つか質問が挙がった後に加賀はまとめに入った。
「直ぐに返答は求めません。決行は明後日です。それまでに皆さんの考えを・・・私か鳳翔さん、大端提督に聞かせて下さい」
その台詞を最後にその集まりは解散となった。
基地の門は閉ざされ、最低限の基地の護衛として僅かに残っていた陸戦隊員により厳戒態勢の警備が布かれた。その門から続く道の突き当たり、金沢は基地の中心となる建物の一角に設けられた医務室の丸椅子に座って簡単な応急処置を受けていた。
無骨だが清潔感のある棚に薬品や傷口を保護する為の布がぎっしり詰められており、そこから取り出された消毒液の瓶は机の上で血を拭いた布に囲まれていた。Yシャツの袖を巻くって慣れない手付きで金沢の手当てをしている事務員が額の汗を拭う。本来ならここに居る基地の軍医は陸戦隊と共に攻略戦に向っている。基地を去ったはずの金沢が負傷して帰ってきたことに余程慌てたのか戸はきちんと閉められずに半開きになっていた。
「ありがとう、取りあえずこれで大丈夫です」
「しかし、一度ちゃんとした所で治療されたほうが・・・泊地本部には軍医が残っているはずです、今から派遣してもらいましょう」
「いえ、それより装艦部の加賀を呼んで頂けますか?急ぎ、話さねばいけない事があります」
事情を知らない事務員の提案をそっち除けにして金沢は頼む。
「・・・その必要は無いわ」
いつの間にか艤装をつけたままの加賀が医務室の入り口に立っていた。何が起こっているのか分からずに呆然とする事務員に金沢はもう一度声を掛けた。
「では、少し席を外していただけますか?それと・・・本部には何も連絡しないように」
「えっ!?しかしあの傷は・・・」
事務員は止血したばかりの足の銃傷を見て言った。
「構いません。後で自分で連絡しますから余計なことはしないように」
「・・・承知しました」
金沢に釘を刺された事務員は一礼すると納得しない表情を浮かべながら医務室の外に出た。
事務員の姿が戸に消えて、入れ替わりに入った加賀が金沢の正面に立って見下ろした。金沢はおもむろに口を開く。
「貴女方の艤装による装甲は海上でなければ稼働しないのは知っていますよね?運良く憲兵隊に艦娘の艤装に詳しい者が居なくて、あんなハッタリが通じたから良かったものの・・・加賀さん、何故あんな事を?」
「何故?」
加賀は眼光を鋭くして言った。
「それは貴方が一番お分かりでしょう?」
「・・・何の事ですか?」
「赤城さんが最期に送った電文に、貴方はなんて言ったの?」
金沢は加賀の問いかけに表情を硬くした。
「・・・知っていたのですか。だからと言って、これでは誰も」
「ふざけないで!赤城さんの気持ちをあんな風に踏み躙っておいて!」
加賀は首を振って激昂した自分を落ち着かせた。
「・・・司令こそ、どうしてあんな事を言ったのかしら?」
「・・・・・・」
金沢は黙り込んで視線を逸らせる。
「・・・まあいいでしょう。とにかく今後しばらくは私の監視下に居ていただきます」
加賀は険しい表情のまま伝えた。
「あの、一つお願いして良いですか?」
「貴方ね・・・自分の立場が分かっていて?私はここで貴方の口を封じる事も出来るのだけれど」
追求を逃れた途端、顔を上げて言った金沢に加賀は呆れた様子を見せた。金沢は加賀の言葉を無視して言った。
「このまま本当に私が首謀者であるかの様な体で皆さんに会わせて下さい。それに・・・どうするにしても加賀さんは僕の口を封じる事は出来ない」
「・・・は!?」
加賀の反応に金沢は一瞬だけ満足したような表情を浮かべたが直ぐに淡々とした様子で話し始めた。
「僕が皆さんの前で無実を訴える事が心配なら加賀さんも一緒にどうぞ。・・・加賀さんはわざわざ憲兵隊の居るあの場で事を起こしました。つまり本部には確実に僕が起こした反乱だと思わせたかったのではないですか?基地からの電文で離反を宣言したのでは誰が打電したのか分かったものではありませんからね」
ここで一度言葉を話を区切ると金沢は加賀の表情を見やった。
「さらに言うとその時の貴女の台詞と皆さんが僕の指示に従った事から察するにこの反逆の首謀者は僕という事になっています。つまり何か皆さんが賛同出来る目標があって僕はそのトップに担ぎ上げられた。この離反は貴女の私怨だけで起こっているとは考えにくいです。僕の口を封じてしまうと―――首謀者が一度も顔を出さ無い事になり皆さんに怪しまれますよ?離反前からの流れで加賀さんが秘書艦という事にしておけば日中行動を共にしても怪しまれませんから“監視”出来ますし、加賀さんが吐いた嘘を見抜かれる事も無い。一石二鳥です」
「・・・・・・」
今度は加賀が黙り込んで静かに金沢を睨む。それに構わず金沢は話し続けた。
「離反の本当の理由は教えて頂けないようですが、加賀さんの事ですから余程の事があったのでしょう。話によっては・・・」
金沢はそう言いかけて口を噤んだ。ドアの向こう、廊下から2人分の足音が近付いて医務室の前で止まった。
「金沢准将はこちらか?」
「はい。ですが今は・・・少佐?・・・お待ち下さいっ!」
引き止める事務員の声を無視して医務室の戸を開いたのは三ツ屋だった。
「司令、どういう事ですか!?」
医務室に入り金沢の姿を見つけるなり大声を出した。その後ろでは三ツ屋を追って来たらしい栗崎が複雑な表情で会釈をした。
「・・・大都長官から話を聞いたときはまさかと思いましたが、赤城の次は加賀ですか?」
「冗談じゃありません」
声を張らなくても会話の出来る距離で立ち止まった三ツ屋に加賀は即座に言い返した。
「基地司令というのはいいご身分の様ですね・・・。ですが今言いたいのはそのことではありません、何故あのような事をされたのですか!軍において上に逆らう事がどういう事か貴方は分かっておられるのか!?」
「承知の上です。そういう少佐こそ分かっているんですか、これは上官の決定ですよ?」
珍しく嫌味に聞こえる言い回しで金沢は言った。
「そんな決定に従える筈が無い!」
「でしたら基地を離れる方の為に船を用意するので本部の富山中将に指示を仰いで下さい」
あっさりと金沢は言った。
「・・・このような事になり非常に残念です」
まだ言い残す事があるような、かつあまり残念そうに見えない表情で三ツ屋はそう言い残して医務室を去って行った。それを見送って金沢は会話の様子を見ていた栗崎にも話しかけた。
「栗崎大佐も。彼に同行して本部へ向かって下さい」
「しかし・・・私はこれでも2人の艦娘を配下に持つ提督です。自ら言う事でも無いかも知れませんが、私は彼女等に信頼されていると自負しております。信頼を得ているうちはその期待に応えるべきであると考えます」
静かになった医務室に少ししゃがれた栗崎の声はよく聞こえた。
「内地の娘さんの事が気懸かりでしょう。無理に付き合う事はありません」
少し驚いた様子を見せた栗崎だったが直ぐにどこか表情を暗くして言った。
「・・・あの子らの提督になったのは娘が産まれた後の事です。ですが職業柄、実の娘と過ごした時間よりもあの子らと過ごした時間の方が圧倒的に長い。私にとっては古鷹も加古も実の娘のようなものです。情が移ってしまったんでしょうな、こんな事を言っては三行半を書かれても仕方ありませんが・・・娘には妻が付いております。娘とあの子ら、どちらかを選ぶような事は出来ません・・・」
「・・・そうですか。船の出港は2000(フタマルマルマル)、ゆっくり考える時間はあります」
金沢はそれ以上は何も言わなかった。
「・・・・・・失礼します」
彼が一礼して部屋を出た後。
「痛っ・・・」
ずっと隣に控えていた加賀が金沢の足をつま先で小突いた。呆れた様子で金沢に話しかける。
「司令。あなた、本当に首謀者になる気なんてあるの?」
「・・・この件に殆どの人員は直接関係しません」
金沢は両手で足を庇いながら言った。
「事務の方も本部に送りましょう。巻き込むのは最低限にしなくては」
加賀は少し意表を突かれた様子で黙った。金沢が何も言わない加賀を見上げた。
「・・・甘いわね」
「そうかもしれませんね」
ばっさりと切り捨てるような加賀の言葉に金沢は自嘲気味にそう答えた。
金沢が医務室で応急処置を受けている頃。無人になった彼の執務室を訪れる人影があった。その人物は金沢が持っていた鞄を机に置くと椅子の側に回って引き出しを開けた。
「この封筒・・・か」
引き出しを開けた人物。大端は封を開けて中身の便箋を手に取った。鳳翔を始め事情を知っている艦娘には基地防衛のローテ組みを任せており、結局事情を知らされていない睦月達駆逐艦娘は洋上訓練から無事帰投して休憩中なので誰かがこの執務室を訪れる事は考えにくい。空になった封筒を机の上に投げ捨てて数枚に渡って書かれた文章を読み始めた。
「ちょっと、これは・・・」
一分とかからずに手紙を読み終えた大端は少し表情を強張らせて独り言ちた。
「鳳翔さん、加賀さん。私達とんでもない勘違いをしてたみたいよ・・・」
>>>To be contemew【14話 娘と娘】
本家様のイベントやっててこういう轟沈ネタは書き辛かったです。うっかり大破進軍して轟沈出さないかひやひやでした。どうも筆者は胡金音です。だって今回のイベント舞台がトラックなんやもん。あ、このマップ、ネットで調べたのと同じだ、とか。
それはそうとイベント中に建造してたら胡金音艦隊に衣笠さんが来てくれました。
『はーいっ!衣笠さんの登場よ!』
・・・うん、なんかごめん。この作品での扱い酷くてごめん。画面の前ですっごく気まずかったです。
さて、今回は読者様にお知らせがあります。現在、毎月29日+aのペースで更新している本作、えーと“べっつりゃる。すくゎっどなんとか”(※Betrayal Squadron)ですが4月から筆者が無駄に忙しくなるので3月29日の更新以降は更新間隔が広がる事が予想されます。楽しみにして下さる方がいらっしゃいましたらすみません。どのぐらいの更新ペースになるかは4月になってみないと分からないのですが、隔月更新にする、1話あたりの文章量を減らす、等の形に切り替えて続けていこうと思っています。ご意見等頂けると参考になり非常に助かります。
以上、真面目な後書きでした(当社比)。