「中佐、54号基地の司令官をお連れ致しました」
小皺が出来始めているがまだまだ髪は黒い、普通にしていれば人が良さそうだが今はしかめっ面をした男が基地司令室に居る大端に呼ばれて陸戦隊員に連れられてきたのは日が高くなってからだった。
「・・・ひと月はもつ様に、分量は任せるわ。・・・では後はよろしく」
大端は卓上の通話機を置くと広げていたファイルを閉じて顔を上げた。陸戦隊員に答える。
「そう、ご苦労様。持ち場に戻って良いわよ」
「はっ、しかし仮にも戦闘状態にあった部隊の指揮官を前に護衛も無しと言うのは・・・」
「心配してくれてありがとう。でも護身用の武器は持っているし身体検査も済ませたでしょ?人出が足りてないのに私に人員を割く事は出来ないわ」
そう言って大端は腰の辺り、Yシャツの裾越しに拳銃のホルスターを軽く叩いて見せた。
陸戦隊員が部屋を後にし、54号基地の司令官は口を開いた。
「君は確か・・・大端中佐、だったな?」
「はい、憶えていただけた様で光栄です」
「何が目的だ」
大端の愛想笑いににこりともせずに54号基地司令の男は尋ねる。
「まあ、私共にも色々と事情はあるもので・・・。それより聞きたい事があったので足を運んでいただいたのですがお答えしていただけますね?」
男は険しい表情を向けたまま答えなかったが大端は気にせず尋ねた。
「正直なところ、飛行場襲撃に関してはここまで思惑通りに事が進むとは思いませんでした。本部からは何か情報は無かったのですか?」
「・・・・・・」
「それと今後の54号基地の方々の食事に関してですが、備蓄の食糧はこちらで管理させていただこうと思っています。ですがお答えしていただけない事にはその手配が出来ません」
大端は口を閉ざしたままの男を見てそう付け足した。
「・・・航空機は船舶より足が速い。相手が国でも棲艦だろうとここから前線までは目と鼻の先だ。いつ前線に送られるとも知れない兵を内輪揉めで動揺させるのは得策では無い。あれだけ陸上兵力に差があれば鎮圧も時間の問題だと思ったが・・・とんだ誤算だったな」
「なる程、ではもう一つ。艦娘に関する機密で何かご存知の事があれば話して下さい」
「艦娘に関する機密?何故、兵学校から航空一筋の私がそんな物を知っていると思う?」
しかめっ面に疑問を浮かべながら男は大端に問いかけた。
「・・・そうですか、参考になります。お答えいただきありがとうございました。ちょうど司令がいらっしゃる前に部下に指示を出しましたので、貴方の基地では食事の準備を進めている頃合いだと思います。基地に戻って食事になさって下さい」
しれっと大端が言い放った言葉を男が理解するまで一瞬の間が空いた。
「・・・もう一度尋ねるが、君たちの目的は一体何なんだ?」
「事情はいろいろ、ですよ。人間のみで構成されるあなた方の部隊に協力していただく覚えはありません」
そう言って大端は54号基地の司令官を送る陸戦隊員を呼ぶ為に通話機を手に取った。
「では・・・昨晩、僕が倒れている間に本部艦隊を撃破したんですね?」
医務室の寝台で上体を起した金沢は自身を見下ろす大端へ確認した。
「撃破はしていません。不利になった本国が一時的にこちらの要求を飲んだだけです。それより――次は司令の番です。どうして艦娘の待遇改善を私達に隠して長官と交渉しようとしていたんです?それも結局は手紙なんて回りくどいやり方で私に教えるなんて」
「・・・ここまで巻き込んでしまってはもう誤魔化す訳には行きませんね」
金沢は手紙に書いた事、以前赤城に話した自分の過去を話した。そして。
「怖かったのです。彼女達が処分される事を知っていながら何もしなかったと責められるのが。それでも彼女達との約束を反故にする事は出来なかった」
呆れて言葉が出ない大端とこれ以上の弁解をしない金沢、先に痺れを切らしたのはやはり大端だった。
「この甘ったれ」
「基地司令なんてペーパーテストだけで就任するものではありませんね」
歯に衣着せずに言い放った大端に対して金沢は自嘲した。
「それでこれからの話ですが・・・分かっていますよね。もう後戻りは出来ません。どうします?離反軍の一員に加わるか、このまま軟禁されながら本国の助けを待つか」
「それでは・・・」
トラック泊地から本国に向けて艦娘の決起を呼びかける電文が発信されたこの日は後に、トラック泊地反乱事件としてこの世界の海軍史に名前を刻む事になる。その名前から分かる様に彼らの計画は失敗に終わり、そしてまた彼らにとっての本国も引き摺られるように敗戦への道を辿った。占領下の本国でこの事件の調査報告書が発見されるのはまた別の話である。
>>>Not completed
打ち切り未完です。万が一続きを気にしていた方がいらっしゃいましたら、ご期待に応える事が出来ずごめんなさい。