Betrayal Squadron   作:胡金音

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※注意!(始めにお読み下さい)
・この作品には原作のゲーム設定が崩壊しかねないオリジナル設定を大量に含みます。
・また、キャラクター崩壊も含みます。予めご了承下さい。
・後で「この作品を呼んだせいで【艦これ】が楽しめなくなった!」や「こんなの俺の嫁じゃねぇ!」等のクレームについて作者は責任を負いかねます。自己責任でお願いします。
・少しでも皆様の暇つぶしになれば作者は幸せです。

[追記]サブタイトル変更しました



二話 間宮来航

 重厚な色合いの机で一人の将校が書類に向かっていた。太っている、とは言い切れないものふくよかな印象を受ける彼の額には薄らと汗が滲んでいる。大きく頑丈な造りの窓からは南国らしく色合い豊かな屋根が並んでいる景色を映し、痛いぐらいの日差しが差し込んでいた。この時代では高価なエアコンが日差しに対抗しているものの効果は薄く、部屋の空気は蒸していた。将校が一息吐こうとペンを置いた時、部屋の扉がノックされた。

「富山(とみやま)連隊長、55号大隊の金沢少将がお越しです」

案内の係が来訪者を知らせた。

将校は一息吐く代わりに溜息を吐いて入室を許可した。

「また君か」

「はっ。55号大隊司令、金沢護人(かねさわもりと)です。お願いがあってまいりました」

短く刈上げた髪に黒縁の眼鏡を掛けた将校が姿を現した。

 

 

 トラック泊地本部はチューク環礁東部にある夏島に構えられている。夏島は泊地本部を中心に日本人街を形成しており、日本語で書かれた看板や軽便鉄道まで見る事が出来た。

「・・・・・。ですから何度も申し上げている通り、彼女達は輸送艦護衛に必要な能力は十分に・・・・・・」

3週間前、連隊長からの指令封書を受け取った翌日以来、金沢は時間が許す限り本部の泊地長を訪ねていた。

「君の言うことは理解出来るがこれは大本営の決定なのだ。君がどうこう言って変わるものではない」

「そこを泊地長からも大本営に訴えて下されば、決定が覆る事も考えられるではありませんか!」

「しかしだな・・・・・・」

3週間ほぼ毎日、哨戒の水上機に便乗してやってくる金沢に富山は辟易していた。

「・・・・・・、睦月型の彼女達に至ってはまだ3年も経っていないのですよ!」

そして富山はいつもと同じ台詞を言ってしまう。

「君の言い分は分かったから今日は一旦帰れ」

いつもこの一言でもう一悶着起こしてしまうのだった。富山はあわてて付け足す。

「今日は君の所の空母が遠征から帰還する日だろう。一月ぶりなのだし基地で出迎えてやりたまえ。長期遠征の労いだと言って給糧隊のトラック来航を延期までさせたのだから」

「・・・分かりました。この件はよくご考慮の上でお返事をお願い致します」

今日は運良く金沢配下の軽空母が遠征から帰還することもあり、金沢があっさり引き下がったことに富山は安堵した。

「また来ます。失礼しました」

一礼して金沢は退室した。

(・・・もう来るなっ!)

 

 

 夏島から東に10km程の場所にトラック泊地の外縁たるチューク環礁はある。ぐるりと泊地を囲う環礁は所々途切れていて、船舶はそこを水道として港と外海を行き来していた。

「やっと到着ね~。ああ、長かった」

「一ヶ月ぶりね。あ、お姉!水偵が飛んでるっ」

「そうね、うちの提督が乗ってたりして。さ、基地はもう目と鼻の先よ。行きましょう」

ちょうど金沢が春島に帰る途中、2人の軽空母が水道の一つを通過して行った。

 

 

 太陽が真上を過ぎる頃、一機の水上機が波を掻き分けて着水した。

「少将、到着致しました」

「ありがとう。いつもすみませんね」

春島の桟橋に到着した零式水上偵察機は金沢を下ろして直ぐに傾斜路から引き上げられ西に向かって運ばれて行った。春島西部に拠点を構える54号大隊は多数の航空機を保有する航空隊で泊地近辺の哨戒から前線の航空支援まで幅広く担当しており、金沢が乗ってきた水上機とそのパイロットもそこに所属している。

「明日の朝の哨戒にも同行させて貰えますか?」

「一介の操縦士が少将とも在ろう方のお願いを無碍に出来る訳ないじゃないですか。それに金沢少将は断ってもいらっしゃいます」

「そうですね。では明日もお願いします。司令によろしくお伝え下さい」

「・・・はい、了解しました」

苦笑いで答えたパイロットに別れを告げ金沢は司令部に向かった。

 

 

 「提督!お疲れ様です、今日は早かったんですね」

司令部に戻る途中、金沢は艤装を装備した赤城に声を掛けられた。赤城の隣では同じ姿の加賀が軽く会釈していた。

「今日は千歳と千代田が帰ってきますからね。2人共午前の訓練はご苦労様でした。空母は簡単な発艦訓練でも一々海に出ないといけないから大変ですね」

「まあ・・・私たちの艦載機は海上で運用する前提で造られていますから。・・・陸で飛ばしては山に艦載機が刺さってしまいます」

「ははっ。そうでした」

加賀の返答に金沢は笑って相槌を打った。

「ところでお昼ご飯はもう食べられましたか?昼の休憩時間で加賀さんと外の食堂に食べに行こうって話していたんですが、提督もいらっしゃいませんか?」

「そうですね。ではご同伴に・・・」

「赤城さん、提督は最近夏島で外食続きですからたまには基地の食堂で食べた方が良いわ」

金沢が賛同しようとしたところに、加賀が声を被せた。

「・・・いや、そうですが、あまり加賀さんと食事を取る事もあまりありませんし、たまには・・・」

金沢が慌てて説得を試みる。

「ご自身の健康ぐらいご自身で維持して下さい」

「いいじゃない。たまには3人での外食も」

「赤城さんは提督に甘すぎます。さ、行きますよ。提督、失礼します」

「え・・・?ちょっと加賀さん!?あっ、提督!また後ほど・・・」

加賀に引っ張られて赤城は去っていった。赤城の援護の甲斐も無く一人取り残された金沢は基地内の食堂に向かった。

「はぁ・・・」

金沢が溜息を吐いて基地へ続く坂道に目を向ける。食堂に至る坂道は日差しを白く照り返していた。

 

 

トラック諸島では夏島に次いで発展している春島だが発展しているのは空港のある島の西部ばかりで、後から追加された55号大隊の使用する春島東港から休憩時間中に歩いて行ける食堂といえば1つしかない。それも現地の漁師が集まる集会場と言った場所で名前も決まっていないような店だが、基地の食堂では扱っていない料理や甘味目当ての艦娘や軍人達からは『外の食堂』として親しまれている。

「イラッシャイ!いつもどーりたくさん食べてけっ!」

常連客である赤城と加賀は、褐色の顔に満面の笑みを浮かべた店主兼、料理長兼、ウエイトレスの女性に歓迎された後、カウンターの席に着いて注文を済ませた。艤装は矢筒のみ外して壁に立て掛けた。胸当ては紐を緩めて前掛けはそのまま。

「もう。提督にも来て貰えば奢って貰えたかも知れないのに」

「・・・お財布だけが目当てじゃないでしょう?」

「さあ?どうかしら」

「まあ、いいわ。それより・・・」

加賀が顔だけ赤城に向けて言った。

「・・・いよいよね」

「ええ。間宮さんの分、お腹空けて置かないとね」

赤城も顔を向けて頷く。

「その件なのだけど・・・お願いがあるの・・・」

「なにかしら?」

そして加賀は赤城の目を見て言った。

「・・・例の二段アイス。半分貰えないかしら・・・」

 

 

「駄目です。」

ちょうどその頃、司令棟と寮の間に建つ基地の食堂では加古が金沢に泣き付いていた。

「提督ぅ・・・今月の給料半分で良いからさぁー・・・」

「そんなこと言っても駄目ですよ。あの件は喧嘩両成敗です」

金沢は加古を軽くあしらいながら今日の食事、焼き魚定食を盆に載せ空いている席を探す。加古は自分の配膳も受け取らずに金沢に付いて行った。

「・・・古鷹と青葉はアイスの引換券貰ってんじゃん」

「青葉はあの後の小破出撃手当、古鷹は復帰後にヲ級を沈めていますから。って2人を巻き込んでおいて何言ってるんですか」

「いえ、提督。私は大丈夫ですから・・・」

「そうですよ。加賀さん怒らせた原因は青葉にもあります」

近くの席で先に昼食を取っていた古鷹と青葉が加古の援護に入った。2人の了承を得てから金沢は青葉の隣、古鷹の斜め向かいに座った。食事を始める時の挨拶を済ませて料理に手を付ける。

「では2人に分けて貰って下さい」

「提督のケチ」

「ケチで結構です」

そう言って加古は自分の配膳を取りに行った。入れ違いに一人の将校がやって来た。

「加古!提督になんてことを!・・・いつもすみませんな、司令」

「構いませんよ。お疲れ様です、大佐」

「そこの席、いいですかな?」

「どうぞ」

古鷹、加古の直属の上官である栗崎(くりさき)が金沢の向かいに座り食事を取り出した。

「私からも注意はしとるんですが・・・最近あの娘にどう接すれば良いのか・・・」

「年頃の娘を持つ父親みたいですね」

「内地に16になる娘がおります」

「そうでしたか。・・・まあ、あれでも直ぐに古鷹や青葉を説得しない辺り、加古は反省していると思いますよ。」

「そうだと良いんですが・・・」

「ところで、先ほど内地に娘さんが居ると仰いましたが・・・」

「ああ、もう6年も会っておりません。手紙で元気にしている事は知っとるのですが・・・」

「・・・この戦争が終ったら内地勤務になるように人事部に掛けあっておきます」

「忝い」

そこへ食事を載せた盆を持った加古が戻ってきて青葉の左に座った。

「ねえ!古鷹、青葉!今日の雪ダルマアイスの話なんだけどさー・・・え?何?」

金沢が加古をジト目で見据え、栗崎が頭を抱えていた。

「あー。ほら、早く食べよう!」

「そうですよ!味噌汁冷めちゃいますよ!」

古鷹、青葉が2人の間で仲介に入ってその場は不発に終った。

 

 

昼休みも終る頃、金沢の執務室に2人の来客が居た。

「航空母艦千歳、遠征より帰還しました」

「同じく航空母艦千代田、帰還よ」

「2人とも遠方の航空支援、ご苦労様でした。無事で何よりです。大端(おおばた)提督への報告は済ませましたか?」

「はい」

「ええ」

ショートランド方面への航空支援に出撃していた2人が報告に来室していた。千歳型特有の箱型の艤装は今は基地の整備部で点検されている。そうでなくとも平時において任務中以外は艤装庫にしまっておく決まりだ。

「そうですか。何はともあれ間に合って良かった。今日は間宮の来航日です。2人にはこれを贈呈します。長期遠征の手当てだと思って酒保で使って下さい」

そういって金沢は封筒を渡した。中身は例のアイス券である。

「「ありがとうございます!」」

「酒保開始にはまだ時間がありますからそれまでは休んでいて下さい」

2人は敬礼をして退室した。

「さて、早く仕上げなければ」

そして金沢は机の引き出しから封筒を取り出した。封筒には『大本営 意見書』の文字。金沢は万年筆を走らせ始めた。

 

 

 昼下がりの気温が最も高くなる頃。未舗装の道は白い砂利で覆われ見ているだけで目が痛くなる。55号大隊基地の門番は大隊所属の陸戦隊員が持ち回りで担当していて、門の横にある円柱形のコンクリートに穴を開けたような見た目の門番詰所が番兵の職場になる。中には単純な造りの椅子が三つと上げ蓋の木箱が一つ。コンクリート製の詰所は通気性とは無縁な構造をしていたが、古臭い扇風機が空気をかき回していた。そして直射日光から番兵を守っていた。

今詰所では、同僚との賭けに負けて比較的涼しい夜勤から昼番交代させられた二等兵曹が第三ボタンまで戦闘服を肌蹴させて受付台に突っ伏していた。脇にある水筒には昼休みに入れた冷たい湧水が入っていたが1時間もしないうちに温くなっている。

 番兵がのろのろと起き上がって水筒を仰ぐついでに壁にかかっている粗末なカレンダーに目をやった。8月を示すカレンダーの今日の日付には素っ気無い鉛筆の文字で『間宮 14:00』と書いてある。暇なことに定評のあるこの職務にとって来訪者は一大イベントではあるが壁掛けの時計が指す時刻は来訪予定の30分程前を指していた。

(暇だ・・・)

いつもなら彼はこの時間を読書に充てているが、今日は肝心の本を寮においてきてしまった。もちろん勤務中の読書は規則違反である。

 番兵がもう一度台に突っ伏そうとして・・・受付から顔が覗いているのを見つけた。

「・・・なんだ、用か?」

「・・・暇そうだな」

「暇だからな・・・。えっと、皐月・・・だったか?」

「菊月だ」

「・・・悪い」

菊月は名前を間違えられても顔色一つ変えなかったが、番兵はばつが悪そうに目を逸らした。

「・・・で、どうした?」

「間宮を出迎えに来た」

「まだ30分前だぞ?」

「・・・知ってる」

「そうか」

「うむ」

折角現れた暇潰しだったが会話が続かない。

「そこ、暑くないか?」

「暑い」

「・・・入るか?」

菊月は頷くと長方形の穴が開いただけの入り口に回って来きた。

「・・・礼は言わぬ」

「・・・いや、言えよ」

 それから番兵は何度か菊月に話しかけたが何れも長くは続かなかった。

「間宮、楽しみなのか?」

「うむ」

「そうか・・・何買うんだ?」

「アイス」

「間宮の美味いよな」

「うむ」

「・・・」

間が持たずに水筒を仰いだせいで水筒が軽くなってきた。

「・・・あー、その話し方は流行ってるのか?」

「・・・・・・うるさい」

「・・・すまん」

静かになった時入り口の影から声が聞こえた。

 「あれ?望月、そんなところで何してるんですか?」

「あー、みか姉か・・・暑いから詰所に居ようかと思ったんだけどさー、入るタイミングがねー。あー、あっつー」

「日射病になりますよ?そんなこと言ってないで入れて貰いましょう・・・すみません、番兵さん。間宮さんが来るまで中で待たせて貰っても良いですか?あっ菊姉さんも居たんですか」

入り口から三日月と望月が現れた。

「おう、いいぞ」

「ん」

菊月が軽く手を上げて応えた。

「おー、助かるよー」

真っ先に望月が扇風機の前に陣取って空いている椅子が無くなった。

「ありがとうございます」

三日月がお礼を言った際、番兵は横目で菊月を見て、菊月はそっぽを向いた。三日月は望月の横に立っていた。

「あー・・・ここ座るか?」

「いえ、お構いなく」

三日月はにこやかに答えた。

「そうか・・・悪いな」

番兵はそう言って今度は暑さから水を飲んで水筒を空にした。

「お水なくなったんですか?汲んできますね」

「いやいいよ」

「いえ、中で待たせて貰ってるお礼です」

そういって三日月は番兵の水筒を片手に炎天下を駆けて行った。

「なあ、お前等も少しは見習ったらどうだ?」

三日月を見送った番兵が振り返ると、受付に突っ伏す菊月と望月がいた。

 

 

「あっ、姉さん達も来たんですか」

三日月が番兵の水筒に冷水を汲みに行く途中、坂を下ってくる睦月達と出会った。

「そうにゃのですー。それにしても今日は暑いねー」

「番兵さんに頼んだら詰所で扇風機に当たらせて貰えましたよ」

そして二言程話した姉妹達はそれぞれ目的地に向かった。

 

 

 まもなく給糧隊が到着しようかという頃、基地副指令で陸戦隊隊長でもある北間(きたま)大佐は金沢の代理として間宮を出迎えに来ていた。番兵が炎天下の詰所脇で座り込んでいた。手には少し結露した水筒を持っている。

「門番!そんなところで何をしている」

「はつ!申し訳ありません!隊長、それが・・・」

慌てて立ち上がった番兵は直立姿勢で敬礼して言いよどむ。

北間が詰所を覗くと扇風機の前で並んでまどろむ駆逐艦達が居た。

「なるほど・・・占領部隊は手強いか」

「はあ・・・」

苦笑いをしながら言った北間に番兵が情けない返事を返した。

「ほら!お前達、起きろ!給糧隊が来たぞ!」

北間が手を叩いて駆逐艦達を起こした。

門から続く道の先には甘味等の嗜好品を積んだ給糧隊の輸送車が見えていた。

 

 

「やっぱり赤城さんは提督の事・・・」

「わーっ!分かったってば、半分あげますから、その・・・皆には内緒ですよ!?」

大声で注目を集めた赤城が尻すぼみになりながら加賀に言った。

「ええ、もちろんです」

 司令棟1Fの講堂前の廊下では酒保が開くのを待つ艦娘や陸戦隊員が集まっていた。中には給糧隊を門まで出迎えに行った駆逐艦達も居た。廊下には給糧隊旗艦の間宮とその隊員が酒保の準備をしている講堂から菓子の甘い香りが漂っている。基地に帰った赤城と加賀は艤装を仕舞って弓道着姿で並んでいた。

 「まったく、加賀さんはおやつの事となると強引なんだから・・・」

「本当に赤城さんは提督の事が好・・・」

「加賀さんっ!」

加賀の言葉を止めたのは真っ赤になって口を開きかけていた赤城ではなく加古だった。

「あたしら仲間だよねー、アイス貰えないもんねー」

加古が加賀の肩を掴んで揺すりながら言った。後ろでは加古の行動にあたふたする古鷹もいた。

「私は、赤城さ、んに貰、いますか、ら・・・」

加賀がされるがままに揺らされながら言った。

「加賀さん、ごめんなさい!加古、やめなよ・・・」

古鷹が加古を加賀から引き剥がし始めた。

「だって~」

「ほら、私の一口あげるから・・・」

「・・・マジ?・・・よっしゃぁ!ラッキィ~」

加古が加賀の肩から手を放して両手でガッツポーズをした。

開放された加賀が少し着崩れた弓道着を正しながら言う。

「古鷹・・・あなたも大変ね」

加賀の一言に古鷹は苦笑いで返した。

 しばらく経ってブザーが鳴り放送が流れた。

[・・・給糧隊、酒保開け!]

扉が開け放たれ、艦娘や陸戦隊員が吸い込まれるように講堂に入って行った。

「ほら、加賀さん!開きましたよっ」

そう言って赤城は楽しそうに扉に向かって行った。

「ええ・・・」

少し遅れて加賀も歩き出す

「・・・赤城さんが幸せなら、私はそれで・・・」

加賀の零した声は講堂に向かう人々の楽しげな声に掻き消された。

 

 

 講堂で開かれた酒保は屋台形式で展開されており各々が軍票と商品を交換する仕組みになっている。会議用の机や椅子も引き出され、室内ではあるものちょっとした縁日と言った賑わいを見せていた。講堂の中央に集めて並べられた机と椅子の一角に赤城と加賀の姿はあった。

「加賀さん。噂の雪達磨アイスの半分ですよ」

赤城が約束通り対面に座る加賀にアイスを差し出した。赤城の隣には2人で買い漁った羊羹やカステラ、饅頭が積み上げられている。コーヒー豆の缶まであった。

「ありがとう・・・」

赤城から口型に少し溶け達磨の胴体だけになったアイスを受け取った加賀は、アイスを見つめたまま固まった。

「・・・加賀さん、どうかした?」

「あっ・・・いえ、なんでもないわ」

そう言って加賀はアイスの溶けた部分を舌先で少し掬った。

 

 

 書類書きに一区切りをつけた金沢はその様子を講堂の廊下側の壁に寄りかかって見ていた。

「提督の片思いの相手は誰かしら?」

突然の声に我に返った金沢が目を遣ると鳳翔がいたずらっぽく笑っていた。

「鳳翔さんは誰だと思いますか?」

にっ、と笑って金沢が尋ね返した。

「ふふっ、艦娘との色恋沙汰は軍規違反ですよ?まあ、その話はさておき。給糧隊の方への差し入れにさっきそこで採ってきたのですが、少し如何ですか?」

そう言った鳳翔の手には輪切りのパイナップルを数枚載せた小皿が載せられていた。

「ありがとうございます。本国から随分離れた島ですが切り立てのパイナップルが食べられるのは嬉しいですね」

金沢はパイナップルを一切れ摘まんで言った。

「そうですね」

「コーヒー豆とパイナップルが簡単に手に入るのは本当にありがたいです」

 金沢が食べ終わるのを待って鳳翔は話し始めた。

「・・・ところで、どこであんなに沢山の引換券を手にされたのですか?あの娘達の分が足りなかったとは言ってもそんなに手に入るものではありませんよね」

鳳翔が目で示した先にはアイスに集中する加賀と、古鷹のアイスに大口で噛り付いて頭が痛くなっている加古がいた。

「・・・。気づかれてましたか。最終的には娘達全員に配る予定だったんですが間に合いませんでした。引換券は本部の有志で行われている競りで。しかし2人には可哀想な事をしました」

「あら、それで夏島に通われていたのですか?」

「まあそれだけが理由ではありませんが・・・」

「資金も沢山掛かったでしょうに・・・」

「鳳翔さんの分も用意出来ればよかったのですが」

「私は睦月ちゃん達が一口ずつくれましたから大丈夫ですよ」

「そうでしたか」

「はい。・・・では私は給糧隊の方を手伝って来ますね」

「お疲れ様です」

そして鳳翔は酒保の賑わいの中に入って行った。

酒保の中心部に向かった鳳翔は給糧隊員の中から間宮を探した。そして割烹着姿で艤装を背負う彼女は直ぐに見つかった。

「間宮さん。お久しぶりね」

「あら~鳳翔さん。お元気でしたか~?」

ほんわかとした笑みを浮かべて間宮は振り向いた。

「はい。ちょっとお話があるのだけど、今良いかしら?」

 

 

「お姉!あれ買って!」

千代田が指した先には焼きたてのカステラがあった。

「千代田の軍票、まだあるんでしょ?」

「・・・もうほとんど無い・・・。ね?いいでしょ?」

「皐月ちゃん達が見てるわよ?」

「・・・っ!」

時間は瞬く間に過ぎていった。

 

 

 酒保が開かれている講堂の裏手、司令棟の北側の壁に面した空き地に鳳翔と間宮は来ていた。立ちはだかる木々が日光を遮り、5m以上ある窓の無い壁が場の空気を外界から切り離していた。

「・・・そう。そんな話が・・・」

鳳翔は顎に指を当てて呟いた。

「まあ、大本営は娘達を動揺させない為に『破棄処分』も『解体』で統一しているみたいだけれどね。要は新型艤装に換装できない娘に貴重な国防予算は使えないってとこかしら」

そう話す間宮の顔に酒保でのやわらかさは見られない。間宮は続けた。

「でも、これが事実なら・・・あなたも他人事では居られないわね」

そう言って間宮は司令棟の壁を仰いだ。鳳翔が何かに気づいて顔を上げた。

「まさか・・・じゃあ、あの時『解体』された娘達も・・・?」

「あくまで噂よ。今のところ」

「・・・間宮さん、『特務艦』として一つ頼まれてくれないかしら?」

「あら・・・な~に?」

 

 

 夕暮れ時、紅くなった空が木々の黒い影に切り取られていた。酒保が閉じられた講堂で給糧隊が撤収準備を進めていた。

「間宮隊長、撤収用意完了いたしました」

間宮が隊員から報告を受けた。

「ご苦労様~。じゃあ行きましょうか」

「・・・隊長、少しお疲れですか?」

「あら?そう見えた?」

「はい。少し、ですが」

「大丈夫よ~。でも、ちょっとだけ疲れが溜まってるのかも。今日は早めに休むわ~」

伸びをしながら間宮は給糧隊の輸送車に向かった。

(まったく、噂の真偽を確かめろ。だなんて相変わらず簡単に言ってくれるわ。旧友がいるのも大変ね~。・・・しょうがない、出来る範囲でやりますか)

やがて給糧隊の一行は基地の人々に見送られて春島を後にした。

 

 

 酒保が開かれた日の夜、夕食後のまだ早い時間に金沢はいつも通り執務室で一日の報告書を書いていた。この報告書は翌朝、伝令文の封書や私信を運んだ後の連絡便で本部へ運ばれる。

「提督、まだいらっしゃいますか?」

ドアの向こうでノックの音と声が聞こえた。

「いますよ。どうぞ」

その声を聞いて赤城は執務室に入った。

「お疲れ様です、提督。これ今日の酒保で買ったんですが一緒に飲みませんか?」

赤城は持っていた袋からコーヒー豆の缶を取り出した。

「いいですね。もう少しで書き終わるので少し待ってください」

「じゃあ、お湯の用意をして来ますね」

本棚からポットを取り出して赤城は給湯室に向かった。

 

 

  赤城が執務室に戻ると書類を片付けた金沢がコーヒー豆の缶を手に取っていた。

「ベトナム産のコーヒー豆ですか・・・」

「はい、いつも南洋群島の物ですからたまには良いかと思って」

「そうですね。本来ベトナムコーヒーは決まった淹れ方がありますが・・・専用の器具も無いですしいつもの方法で淹れてしまいますか」

 金沢が濾紙をセットしカップに熱湯を注ぐと香ばしい香りが湯気と共に立ち昇った。

 

 

「ん、美味い」

「良かった」

淹れたてのコーヒーを一口飲んで金沢が言い、赤城が微笑んで其れに倣った。

赤城はソファーで、金沢は執務机の椅子をソファーの近くまで運んで座っている。

資料が片付けられた執務机ではポットから立つ湯気が、窓から入る心地良い風に流れていた。

「・・・コーヒーを飲む約束、随分遅くなってしまいましたね」

「・・・憶えて頂けていたんですか?」

赤城は努めて冷静に言った。

「優秀な秘書との約束を忘れたりしませんよ」

「・・・忘れられていると思ってた」

膝の上辺りで手に持つカップに視線を落として赤城は呟いた。彼女の表情は前髪に隠れ執務椅子に座る金沢からは見えない。

「・・・本当に憶えていましたよ?」

「分かっています。あれからほとんど毎日、本部と基地を往復されていたのだから仕方ありませんよ」

赤城が顔を上げて言った。それから、ふと真面目な顔になって赤城は続けた。

「提督、何かあったんですか?」

「・・・会議が立て込んでいるだけです」

「本当に?外泊しないといけないほど?」

「酒の付き合いもありますから・・・」

「でも私が秘書に就任してから2年間、こんなこと一度も無かったじゃな・・・」

その時、ドアを叩く音が鳴って赤城は話を止めた。

「どうぞ」

「失礼します、本部より電報が届きました」

そういって当直の事務員が電報を届けに来た。

「では、私はこれで・・・」

事務員が退室して赤城が追及を再開しようと口を開き、金沢がそれを手で制した。

「なっ、まだ話は・・・」

「至急、加賀を呼んで来て下さい」

強引に言い切られ赤城が押し黙る。

「・・・電報には何と?」

「・・・『土佐』が沈んだそうです」

 

Continue>>>【三話 赤城と天城】

 




(注釈!:諸事情によりサブタイトルを変更させて頂きました。変更前のサブタイトルは4話のサブタイトルになっている【加賀と土佐】でした。)

2話書くぞー!
あれ?これ結構長くなるな。
うーん、せめて土佐さん登場させないと・・・。
予告しちゃったしなー、がんばろ。
・・・せめて名前だけでも・・・。
やば・・・。
・・・・・・キタ━━━(゚∀゚)━━━!!


 ・・・ごめんなさい。作者の胡金音です。慣れない予告なんてしたらこの様です。タイトル詐欺もいいところ。
 言い訳をさせて頂くと引越しでしばらくネット使えなくなる前に更新したかったんです。全国の土佐ファンの皆様、本当にごめんなさい。次回こそ登場させて頂きます。土佐さんごめんね。

 さて、そんな【Betrayal Squadron】ですが前回なんと閲覧数400越え(2014/3/28現在)を頂きました。作者ビックリです!初投稿なのに!!しかもお気に入りに登録してくれた方までいらっしゃって感激です!!!(2014/3/28現在)余程の事が無い限りは完結させたいと思っておりますので次回の方も・・・2話で初めましての方は前回の方もよろしくお願いしますm(--)m
 もう四日で四月ですね。新年度なので投稿ペースは落ちますが三週間に一回のペースを目標に執筆したいと思っています。いや、やっぱり一月に一回・・・。が、がんばります!


《懲りずに予告!(っぽいもの)》
基地に届いた電報。前回サブタイトルになったのに一回しか名前も出てこなかった彼女の正体とは?そして明かされる40年前の事件。そもそも作者は天城を登場させられるのか。
次回!【Betrayal Squadron-三話 赤城と天城】

今、赤城が自らの過去を語る・・・


2014/3/28                                胡金音
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