・この作品には原作のゲーム設定が崩壊しかねないオリジナル設定を山ほど含みます。
・また、キャラクター崩壊も含みます。予めご了承下さい。
・後で「この作品を呼んだせいで【艦これ】が楽しめなくなった!」や「こんなの俺の嫁じゃねぇ!」等のクレームについて作者は責任を負いかねます。自己責任でお願いします。
・少しでも皆様の暇つぶしになれば作者は幸せです。
[追記]
脱字の訂正をしました。赤城さん、入渠し忘れててごめんね。
土佐さんの口調を変更しました。どこかで聞いたことあるなーと思ってたら、某お面艦娘さんそのままだったんです。
少しだけ開いた戸の隙間からうっすらと明るい廊下が見えていた。飾り気の無い木製の枠を持つ硝子が嵌められていない窓からは淡い光が差していた。低い位置から見える風景は春の霞みがかった空が見えるばかりで外の様子は見えない。荒々しい足音が聞こえて少女は慌てて引戸を閉めた。真っ暗になった空間に重なった足音が響く。
「ったく、何所に行ったんだ。こんな事なりかねないから俺はあいつを代替にするのに反対だったんだ」
「今更言っても仕方ないだろう。とにかく今は彼女を探すことが先決だ」
足音と共に声が聞こえて直ぐに離れていった。
どれほど時間が経っただろうか。あれから断続的に騒々しい足音が暗い空間に響いた。やがて静かになった暗闇に先程よりも軽く静かな足音が聞こえてきた。その足音は戸の向こう側で止まり少女が息を忍ばせる。そして鋭い音と共に引戸が引かれて光が差し込んできた。少女が身を竦ませる。急に明るくなった物置の中に頭の横で括られた髪型と青い弓道着が照らし出された。
「・・・姉さん」
光の中で声がした。明るさに慣れてきた彼女の目に映ったのは、背中まである黒髪を首筋で1つに纏めた10代半ばに見える大人しそうな少女だった。
「土佐ぁ・・・」
瞳を潤ませて顔を上げる彼女から力強さは全く感じられない。
そして土佐と呼ばれた少女は・・・・・・。
夏の朝は早い。といっても北緯7度のトラック諸島は一年を通して夏のようなものであまり季節は感じられない。しかし早朝の心地よさは本土のそれと変わらず執務室には開け放たれたドアから気持ちの良い風が吹いていた。執務机の向こうでは一人の将校が座っている。肘を机に立て組んだ指に額を乗せて俯いていた。部屋の外から足音が聞こえてきて将校が顔を上げた。
「加賀さんの様子はどうでしたか?」
この部屋の主である金沢(かねさわ)少将は入室した赤城に尋ねた。今の服装は金沢と揃いの白い軍服。赤城は黙ったまま俯き気味に首を振る。
昨夜、土佐沈没の電報を受けた金沢はその場で一緒にコーヒーを飲んでいた赤城に加賀を呼んでもらい内容を伝えた。
「・・・そうですか」
加賀はそれだけ言うと黙って退室した。そのままコーヒー休憩もお開きになり、寮で加賀と同室である赤城が部屋に入ろうとドアを押したところ・・・ドアは開かなかった。隣室の鳳翔から加賀が自室に駆け込むのを見たと聞いて、心配する鳳翔に電報の事を話した赤城は鳳翔の意見でそのまま彼女の部屋に泊まる事になった。そして今朝、赤城から報告を受けた金沢はもう一度加賀の様子を見てくるように指示して、今に至る。
「では今日の出撃は無理かもしれませんね。赤城さん、念のため艤装の用意をしておいて下さい。服装は・・・戦闘に影響が出なければなんでもかまいません」
2着あるいつもの弓道着の内、1着は洗濯中、もう一着は加賀が出てこない部屋に置いたままの為、赤城は基地で唯一の女性指揮官である大端(おおばた)中佐の軍服を着ている。女性用の軍服はズボンとスカートの2種類設定されているが赤城が借りたのはズボンの方だった。
「分かりました。では失礼します」
赤城が退室するのを見届けてから金沢は机の一番上の引き出しを開いて中の封筒が納まっているのを確認した。『大本営 意見書』と書かれたそれは少しだけ昨日よりも厚みが増したように見える。
「急いだ方が良いかもしれませんね・・・」
金沢はきちんと引き出しを閉めて執務室を後にした。
執務室のある司令棟から見て食堂を挟んだ向こう側に艦娘達が暮らす女子寮は建てられている。そしてその最深部、渡り廊下を通って行くと一番遠くになる場所に女子寮のラウンジはあった。ソファーが向かい合って2つ、その間に膝の高さのテーブル、壁際に急須と茶葉、それにちょっとした菓子が置かれた机が在る。
「大端中佐、やっぱりここでしたか」
青い弓道着に身を包んだ赤城がやってきてソファーで寛ぐ先客に声をかけた。
「あら、赤城さん。制服駄目だったー?」
そう言って顔を上げた大端の手には自分用の湯飲みが握られている。
「いえ、今日出撃することになったのでさすがにお借りした軍服で行く訳には・・・。加賀さんの服が洗濯してあったので借りました。軍服は明日洗濯してお返しします。ありがとうございました」
「了解。それより司令の反応はどうだった?」
にやりとしながら大端が赤城に尋ねる。
「いえ特には。誰に借りたかは聞かれましたけど・・・」
赤城は向かいのソファーに座りながら答えた。
「そっかー、やっぱ軍服だもんねー。せめてスカートの方がよかったんじゃない?あの堅物を落とすならそれくらいはしないと」
「提督の前であのスカートは・・・」
「赤城さんいつもスカートじゃない」
「こんなに短くありませんよ!」
そう言った赤城の前では大端がかなり短いスカートを履き足を組んでいて、かなり際どい所まで腿が見えていた。ちなみに大端はそのスカートを履く時は足を組むなと金沢に釘を刺されている。
「そう?でも普段からあれだけ足出してるんだから、いっその事チラッとパンテ・・・」
「提督は真面目な人ですから・・・」
「ごめん、ごめん。分かったからそんな顔しないでよ。それにしても着る服が無いから貸してくれなんて・・・何かあった?」
「実は・・・」
赤城は昨夜の電報の事、それから加賀が閉じ篭っている事を大端に話した。
「そうだったの。・・・えっと、からかってごめんね?」
「はぁ・・・いいですよ。中佐と話していたら、なんだかちょっと元気になりました」
赤城は盛大な溜息と共に言った。
「よしよし。じゃあそろそろ食堂に行きましょ。今日出撃するかもしれないのに朝食もまだなんでしょ?早くしないと食べ損ねるわよ?」
大端は立ち上がって赤城の頭を撫でながら朝食に誘った。
「・・・はい!今日も食べますよ!」
赤城は立ち上がってドアに向かう。
「そ。その意気よ」
大端は小さく笑って、赤城を追った。静かになったラウンジのテーブルには大端の湯飲みが残された。
朝食後、赤城は加賀の朝食を持って寮の自室の前にいた。
「加賀さん!朝ご飯持って来ました。提督も心配していらっしゃいましたよ」
赤城はドアを叩くが返事は無い。
「入りますよ」
赤城は朝食後に事務室で借りた予備の鍵を使って部屋に入った。
部屋は入り口で履物を脱ぐタイプの和室で5枚の畳が敷かれている。入って直ぐ左手に下駄箱、その奥には押し入れがある。加賀は窓際に2つ並んだ文机の1つにうつ伏せに凭れ掛かって腕に顔を半分埋めていた。
「加賀さん?」
赤城が部屋に上がり顔を覗き込もうと膝を付くと、加賀は赤城とは反対の方向に顔を向けた。赤城が加賀の隣に座って窓辺に青い袴の弓道着が2着並んだ。
「・・・あの時も加賀さんはそうやって顔を見せてくれませんでしたね・・・」
加賀は何も言わなかった。
「・・・朝ご飯。ちゃんと食べてくださいね」
赤城は少しの間、加賀が話さないかと待ったが彼女が話すことは無かった。赤城は自分の赤い袴を箪笥から取り出すとを部屋を後にした。
朝食を取って執務室に帰る途中、金沢は司令棟の廊下で名前を呼ばれて振り返った。
そこに居たのは引き締まった細身に丸刈りの将校、青葉の上官である三ツ屋(みつや)少佐だった。これから出撃する艦隊に青葉は参加している。
「司令、今日の出撃の事で一つ確認したい事が。昨夜の指令書では旗艦は加賀ではありませんでしたか?」
三ツ屋は一枚の紙を突き出して言った。毎朝配布している各艦娘の予定が記された指令書だった。三ツ屋が手に持つ指令書には任務内容の欄に、『旗艦 赤城 の護衛』と記されている。
「そうですね、何か不都合が?」
「急な変更はやめて下さいとお願いしました。それに綿密に指示された本部からの指示は無視されるのですか?司令は艦娘に甘すぎます」
「臨機応変な対応は必要です。僕だって些細な理由で急な変更は認めませんよ」
「1ヵ月前から決まっていた本隊の航空支援に臨機応変な対応が必要ですか。では些細ではない問題があったのならば本部に報告すべきかと存じます」
「加賀から赤城への変更程度の内容は、わざわざ報告する内容ではないと判断しただけです。時に些細な報告は指揮を鈍らせます」
「・・・今日の作戦の旗艦は赤城で間違い無いのですね?」
「そうです。その書類は正確です」
「分かりました。とにかく、混乱を避ける為にも不要な変更はお控え下さい」
三ツ屋が立ち去って金沢は今日の任務をこなす為、執務室に向った。
その日の夜。帰還した赤城は金沢の執務室で帰還の報告を済ませていた。出発前に自分の服に着替えたので今はいつもの赤い袴の弓道着を着ている。胸当てと前掛けは外している。
「急な出撃にも関わらず優秀な戦果です。お疲れ様でした。夕食は置いて貰っていますが・・・今からどうしますか?」
金沢は赤城が脚に作った傷を見て尋ねた。
「食事でお願いします」
そう答えた赤城は今日の出撃で艤装を小破させており、早速整備班が修理に取り掛かっている。
「分かりました。では夕食を食べたら必ず入渠するように」
「了解です。あの・・・小破なら小型船用ドックでも良い・・・なんてことは無いですよね」
「無いですね。ちゃんと大型船用ドックで休んでください」
「分かりました。それと加賀さんの様子は・・・」
「昼食と夕食は鳳翔さんに運んで貰いました・・・が、結局昨日から何も食べていないようです」
金沢が沈痛な面持ちで言った。
「そうですか・・・」
「・・・」
重い空気に包まれた執務室で先に口を開いたのは金沢だった。
「・・・赤城さんは土佐さんに会ったことがありますか?」
「はい。顔を知っている程度ですけど・・・横須賀の女学校に居た頃に何度か会った事はあります」
「どんな人でしたか?」
「そうですね・・・。無口な加賀さんを引っ張る妹さん、といった感じの人でしたよ。3人で食事に行った事があるんですけど・・・」
「ちょっとすみません。たしか赤城さんにも姉妹はいましたよね?」
金沢が違和感に気付いて赤城の話を止めた。
「はい、私は天城型2番艦ですから1番艦の姉が・・・」
「お姉さんは一緒じゃなかったんですか?」
艦娘は基本的に姉妹艦揃って同じ基地に配置される。それは育成期間である女学校でも例外ではない。
「・・・そうですね。では土佐さんの話と一緒に・・・姉の話もしますね」
赤城はほんの少し哀しげな笑顔で言った。
「お願いします。・・・あ、疲れていたら今ではなくても良いですよ」
「じゃあお言葉に甘えて、夕食の後でも良いですか?もうお腹が空いて・・・」
「もちろんです。食後のコーヒーを用意して待っています」
金沢は頷いて机の上の基地内電話で主計科に夕食の準備を依頼し、赤城は食堂に向かった。
「赤城が帰還したので取って置いて頂いてた・・・はい、お願いします」
お腹を空かせた赤城が少しでも早く夕食の依頼を終えた金沢は受話器を置いた。そしてもう一度、今度は別の場所へ電話を掛けた。数回の呼び鈴の後に目的の相手が受話器を取った。
「こんばんは、鳳翔さん。夜に申し訳ないのですがもう一仕事お願いしても良いですか?」
夜が更け始めてきた頃。夕食と入渠から戻って来て金沢の執務室でソファーに座る赤城の手には昨日と同じコーヒーカップが握られていた。中には淹れたてのコーヒーが入っていた。
「さて・・・どこからお話しましょうか・・・」
自分の分のコーヒーを注いでいた金沢が隣に座ってから赤城は話し始めた。
「・・・もう40年以上前の話です」
「赤城さん、今幾つでしたか?」
赤城の前置きをさっそく金沢が止めた。
「・・・酷いですよ。まさか『不老化』の事をご存知無いなんて事はありませんよね?」
「もちろん。細胞を活性化させ老化を極限まで抑える技術の事です。必要とする高度な技術と甚大な代償の為に一般国民には広まっていませんが、殆どの艦娘には施されていますね。赤城さんが落ち込んでいる様だったので冗談のつもりだったんですが・・・慣れない事をするものじゃ無いですね。失礼しました」
「もう、提督ったら。じゃあ続けますね。私がまだ戦艦の教育隊に居た頃の話です・・・・・・」
神奈川県横須賀市に所在する鎮守府。7世紀前の近代海軍発祥以来ずっと太平洋戦力の要となって日本を守り続けて来た横須賀鎮守府には当時導入され始めた人型艦船、通称『艦娘』を育成する育成機関の一つが設置されていた。この艦娘の開発は非常に困難を極めた。導入より数年前、英国からの技術導入の成果もあり軍は女性型に限り実用段階まで漕ぎ着けたが、男性型は未だ動物実験の域を突破出来ずにいた。
横須賀の海岸線から内陸までを埋め尽くす色も材料もバラバラな建物郡の中に赤煉瓦の建物が集まっている場所があった。赤煉瓦で建てられた長方形の建物は海岸線に沿って走る通路に並んで整然と、潮風から陸側の建物を守るように建っている。赤煉瓦の建物と建物の間で数人の人間が集まっていた。
一番海側の集団の中心にいる冬服の将校が回りに居る赤い袴の武道着姿の2人に話す。
「これより対艦戦演習を始める。今回の相手は高い砲撃能力を持っているが、諸君の速力を持ってすれば勝利は困難では無いだろう。頑張って来なさい」
「「はいっ!」」
激励された2人は敬礼で将校に応えた。1人は肩までの黒髪に芯の強そうな10代半ばの少女、もう1人は背中までの長い黒髪に明るそうな10代前半の少女。将校は2人が敬礼を終えるのを見届けてから踵を返して立ち去った。
「じゃあ行くか・・・っ」
「うんっ」
指を頭あの上で組んで伸びをしながら歩き出した髪が短い方の少女を、髪が長い方の少女が追いかけた。
向った先ではすでに先程とは別の将校と、青い袴の武道着に身を包んだ彼女等と歳が近そうな艦娘が2人待っていた。将校は赤い袴の2人が立ち止まるのを待って、2人を青い袴の2人に紹介した。
「本日の演習相手、天城と赤城だ。こちらは加賀と土佐」
将校が手を後ろで組んだまま左右に顔を向けて紹介した。赤い袴の天城と赤城が会釈して、後に紹介された青い袴の加賀と土佐が返した。
「今日はお手柔らかに」
1つに纏めた長い髪を左肩から体の前に下げた方の青袴の少女が大人しそうな顔でゆったりと微笑んで言った。
「演習だからと言って気を抜くな!これは実戦を想定した演習である!各自艤装を整備部に取りに行き作戦開始地点に移動!30分後に始める!」
「「はっ!」」「「はいっ!」」
そう言うと将校は演習を観測する為に指揮所に向かい、艦娘達は敬礼で見送った。将校が建物に入ってすぐ、赤城が口を開いた。
「あなたが加賀さんね?噂は聞いています。随分お強いそうですね。でも今日勝つのは私です!」
強気な顔で土佐に向ってそう言った。
「あら。私は土佐よ?」
「・・・あの・・・えっと・・・。加賀は・・・私です」
ずっと黙っていた青い袴にサイドテールの少女が土佐の斜め後ろで俯き気味に小声で言った。そして赤城に目線を向けられて土佐の後ろに隠れた。
「え?噂の戦艦加賀がそんな弱気そうな訳・・・」
「そう。こっちが姉さんで、私が土佐」
「え・・・なにあれ、情けない!」
赤城は土佐の後ろに隠れる加賀を見て思わず大声を出した。土佐の後ろで加賀が小さくなった。
「そういう事を口に出すんじゃない」
今まで聞いているだけだった天城が赤城の頭を軽く叩いて言った。
「叩く事無いじゃない!」
「まあまあ、2人共今から紅白戦なんだから喧嘩しないで。ほら、姉さんも元気出して・・・」
土佐の仲介で何とかその場は収まり4人は整備部に向った。
赤煉瓦の建物郡の端、『整備部』と書かれた建物には他の赤煉瓦には見られない大きな鉄の引き戸が嵌め込まれていた。また、窓は高い位置に灯り取りの窓があるだけ。4人が到着したその建物の中には、中央に椅子を据えた頑丈そうなコの字型の台が6つ並べられていた。そして軍艦の主砲をそのまま小さくした様な物を4本の腕の先に取り付け背負えるようにした物が3つの台乗せられている。ちょうどその4つ目を若い整備兵が台車で運んで来て数人掛りで台に乗せた。整備兵の1人が折り畳みの椅子に座って監視していた上官に声を報告に向かう。
「訓練弾の装填及び艤装取り付け用意、完了しました!」
「よし、お前ら。ちょうど娘さん方もお出でなすった。10分で取り付けな!いつもの事だが妙な真似はするなよ!」
報告を受けた上官は椅子の脇に寝かせてあった角材を杖の様に体の前に立てて声を張り上げた。作業の邪魔にならないように入り口近くの壁際に避けていた4人は現場監督が取り付けの指示をしたのを聞いてそれぞれの艤装が用意された席に向った。
最低限の事務的な会話をしたのみで少女達の艤装の取り付けていた整備兵達は、自分の持ち場の仕事を終えると直ぐに台から離れた。そして場所に整列して遠巻きに同僚の仕事が終るのを待った。天城の席で1人最後まで艤装の調整をしていた若い整備兵が去り際に小声で短く彼女に何かささやいた。その後、彼は現場監督に報告に向かい、取り付け完了が宣言されたところで4人は艤装を難なく担いで入ってきた引き戸から建物の外にでた。
加賀、土佐と別れて演習の開始地点に向かう途中、赤城は天城に話しかけた。
「さっき何を話してたの?」
「ん?・・・ああ、いつもの整備兵?頑張って、だって」
天城は嬉しそうに妹に話した。
「・・・・・・その演習で加賀さん、土佐さんと始めて出会いました」
「やっぱりお姉さんも一緒だったんですね。ですが現在までの艦娘の資料に天城型の天城という名は見た事がありません。彼女はどうされたんですか?」
赤城がコーヒーを一口啜ってから答えた。
「これからお話します。その数ヶ月後・・・・・・」
赤煉瓦の建物郡とコンクリートで固められた海岸の間に設けられた道を天城と赤城はいつも通りの赤い袴姿で歩いていた。太陽はやや東寄りで行き交う人々に踏み固められた土を暖かく照らしていた。
「お姉ちゃん、もう大丈夫?」
「ああ、ごめん。心配かけた。もう大丈夫、これ以上艦種変更ぐらいでへこんでられないわ」
赤城と加賀が初めて会った演習から数週間が経ったが、その間に世界情勢は大きく変わっていた。詳しい内容は彼女達に知らされていなかったが、軍縮条約の影響で彼女等は艦種が変わり、天城姉妹は空母艦娘になっていた。
「よかった。・・・それにしても1回ぐらい勝ちたかったな」
条約締結までに演習で加賀、土佐と戦う事は何度かあったものの、赤城、天城は一度も勝つことは無かった
「火力で負けてた以上『殴り合い』になったら負けるでしょ。赤城は正面から戦いすぎ」
「そんなこと・・・無いわっ!」
「今の間はなに?」
「それは・・・ほら・・・」
天城が言った『殴り合い』は互いに捨て身で主砲を打ち合う状況の事を指す。実際に数週間前の初演習から最後の合同演習となった水雷戦隊の艦娘を含む紅白戦に至るまで多少の違いは有れど、赤城が加賀の作戦に嵌り正面からの殴り合いになった。それを天城が援護している間に土佐が一気に留めを仕掛ける、といった構図が毎回観られた。戦艦加賀は模擬戦になると別人のように果敢に戦った。しかし今の軍縮条約下では加賀は訓練艦、土佐は標的艦になっている。
2人が話しながら歩いていると脇の建物から1人、作業着のツナギを着た整備兵が出てきて天城と赤城に気付いた。
「天城さんっ!赤城ちゃんも、こんにちは」
「あっ、武ちゃん!元気?」
「武久(たけひさ)、昨日はありがとう。今から昼飯?」
赤城と加賀が出会ったあの日、唯一天城に話しかけた整備兵だった。
各国の軍備強化による軋轢を防ぐ目的であった軍縮条約ではあったが、大火力艦の数を抑制した条約は小型艦や対象外の空母の数を増やす事になった。よって各基地に配備される艦娘の数が急増した結果、一般兵、整備兵と艦娘間の壁は徐々に薄くなり以前のような気まずさは無くなった。一部では名前で呼び合う仲に成る程に。
「元気だよ。・・・うん、どう致しまして。うん、今食堂に行くとこ」
「じゃあ3人で食べよう」
「ねえ、昨日何があったの?」
変になった武久の返事に気付いた赤城が武久に尋ねた。
「あー、後で天城さんに聞いて」
武久は視線を避ける様に手短に答えた。
「何があったの?」
「別にぃー」
直ぐに赤城は質問をぶつけたが、天城は取り合う事無く流した。赤城はそれぞれの表情を見て少し考えた後、意味有りげな笑みを浮かべた。
3人は赤煉瓦の建物郡を抜けて大きな木造の建物の裏にやって来た。横張りの板で覆われた3階建ては見る者に学校を想像させる。実際に建物には座学用の教室、教官室、資料室等、艦娘の教育設備の大半が収められており、2階と3階は艦娘用の寮になっている。当初は数人の艦娘が使用するだけで空き部屋だらけだったこの建物もこの数週間で随分と賑やかになった。
寮兼学び舎の角を曲がり建物の入口を過ぎると食堂は目と鼻の先だ。昼食前の喧騒の中、道を3人が進んで行く。ちょうど3人が入口を通りすぎる時、それは突然襲いかかった。
遠くから響くような低い音に喧騒が収まり3人は足を止めた。辺りでも同じ様に足を止め水兵や作業着の整備兵が周りを見渡していた。中には敵の奇襲を警戒して空に目を凝らす者も居る。やがてその音は地面が震えだすと徐々に地鳴りに変わっていった。建物の窓が次々に割れて道に降り注ぐ。壁を形成していた板は弾けて地上で大きな音を立てた。むき出しになった柱は音を立てて傾いていた。喧騒が悲鳴に変わる中、とっさに道に屈み込んで居た赤城が顔を上げると先程までそこに居た天城の姿は無かった。赤城は慌てて彼女の姿を探す。天城の姿は直ぐに見つかった。大きな揺れの中を建物の入り口に向って、ガラス片で切傷を作りながら転がり込む様に駆ける背中をツナギ姿の整備兵が追いかけようとしてよろける。天城の背を目で追った赤城が建物の玄関で頭を抱えてしゃがみ込む青い袴の少女を見つけた時、少女の頭上で梁が横に動いた。そして入り口の枠がひしゃげて崩れた。天城と青い袴の少女が赤城の視界から消えた。
Continue>>>【四話 加賀と土佐】
こんにちは。作者の胡金音です。こんなあとがきまで読んで頂きありがとうございます。引越し、無事完了しました。棚を丸々1棹忘れて来たのでダンボールが片付きません。家具コインを貯めて何か買おうと思います。嘘です。連休中に取りに行きます。
まず、2014年4月28日までに1話2話を読んで下さった方はお気づきだと思いますが・・・2話の間宮回が予定より長くなったのに、3話でシーンを付け足したりした結果・・・土佐回が4話まで持ち越してしまいました。さすがに不味いので2話のサブタイトル変えようと思います。ごめんなさい。どう考えても「加賀と土佐」は次回に使うべきでした。2話は「間宮来航」に変更します。ややこしい事してごめんなさい。1話を書いてた時はもっとサクサク進むつもりだったんです。
さて前回の後書きで一月に一回のペースで更新すると書きましたが・・・セーフですね。ちょうど今4月28日23:04です。あと一時間遅かったら嘘吐きとしてブログが荒れるところでした。危ない、危ない。まあ、ブログなんてしてませんが。あ、土佐さんはちゃんと登場させましたよ?天城さんも。
そして、この【Betrayal Squadron】シリーズ、累計閲覧数1000回を頂きました。ありがとうございます!この話を書くまで自分が書いた物を読んで貰えるのは、せいぜい部活で書いた旅行記70部が最大だったので4桁とか想像が出来ません!なんて貧しい想像力だ。
こんな作者が書いてる作品ですが最後までお付き合いいただけると幸いです。では次回、こんどこそ加賀と土佐が中心になるであろう【四話 加賀と土佐】の後書きでお会いしましょう!}|ω・)ノシ
2014/4/28 胡金音
[追記]
艦これ1周年おめでとう!