Betrayal Squadron   作:胡金音

4 / 22
※注意!(始めにお読み下さい)
・この作品には原作のゲーム設定が崩壊しかねないオリジナル設定を山ほど含みます。
・また、キャラクター崩壊も含みます。予めご了承下さい。
・後で「この作品を呼んだせいで【艦これ】が楽しめなくなった!」や「こんなの俺の嫁じゃねぇ!」等のクレームについて作者は責任を負いかねます。自己責任でお願いします。
・作者は弓道未経験者なので加賀さんや赤城さんの弓の構え方やカメラワークが間違っているかも知れませんが予めご了承ください。あれ?弓道って艦載機を飛ばす武道だっけ・・・?でも2人が着てるのは弓道着って言っちゃったし・・・。
・少しでも皆様の暇つぶしになれば作者は幸せです。



四話 加賀と土佐

 気が付くと、カーテンさえ閉めていない窓からは星空を背景に木々の影をくっきりと映し出していた。涙が出なくなってからもぼーっと文机に凭れ掛かっていたらいつの間にか眠っていたようだ。枕代わりになっていた腕は痺れて指先の感覚ははっきりしない。それでもたっぷりと睡眠を取った頭は嫌でも冴えて来て、今更ながら土佐が沈んだ訳を提督から聞いていない事に気付いた。一瞬、聞きに行こうかとかとも思ったが体を動かす気力はまだ無く突っ伏したままで居る。熱を持った瞼は明日になっても腫れたままかも知れない・・・そういえば、眠りに落ちる前に赤城さんが言っていたあの時とは何時の事だったのだろう。

 

 

 夜が更けてきた頃。司令棟の一番大きな執務室で金沢(かねさわ)少将と赤城は並んでソファーに腰を掛けていた。2人が持つカップに入ったコーヒーはとっくに冷めている。赤城は気にする様子もなく一口コーヒーを啜って話を続けた。

 「揺れが収まって直ぐに救助活動は始まりました。瓦礫の下から姉が見つけ出された時にはまだ少し意識はあったそうですが、情けない事に私は足が竦んでその場から動けずにいて・・・。姉が軍医の元に担ぎ込まれてやっと駆けつける始末でした。でも、その時にはもう・・・」

「すみません。辛い事を話させてしまって」

「いえ、私が話し始めた事ですから。・・・その後、姉は艦娘としては解体され代わりに加賀さんが空母になりました。土佐さんは標的艦として呉に異動されたのであまり会う機会は無かったんですけれど、横須賀にいらっしゃる度に加賀さんと一緒に食事に行ったりしました。姉の話ばかりになってしまいましたね。すみません、お役に立てず」

 「いえ。しかし・・・そんな事があったなんて一度も聞いた事がありませんでした」

「無理もありませんよ。昔の事ですし、当時は艦娘の存在を公表される前でしたが報道に嗅ぎ付けられていて、軍に対する批判も大きくて私達の事は極秘でしたから。この事は一部の人間しか知りません」

「そうでしたか・・・。ちょっと失礼」

 執務机の上にある電話が鳴って金沢が受話器を取った。

「・・・そうですか。・・・はい、ちょっと待って下さい。赤城さん、鳳翔さんに頼んで加賀さんの様子を見て貰っていたんですが、まだ落ち込んでいるそうです。今日は何処で寝ますか?鳳翔さんは遠慮しなくて良いとの事ですが」

「そうですか。・・・じゃあ加賀さんに一言掛けてから決めても良いですか?」

 

 

 暗い部屋の中で加賀は力無く文机に寄りかかっていた。加賀は赤城の言うあの時とは何時の事だったか思い出そうとしていた。

(ずっと前・・・。たしか、まだ横須賀に居た頃だっただろうか)

 

 

 地震で無事だった病棟のこの階層は個室のみで構成されており、重要人物または機密保持者のみが収容される。加賀はその一室に入渠していた。国に4人しか居ない空母艦娘の処置を施された加賀はもちろん後者である。個室は短い廊下を含めてL字型になっている。部屋に入って左手に専用の御手洗が用意されているが現在水道は止まっていて鍵が掛けられている。

 加賀はベッドに横になって土佐に取り替えて貰ったばかりの頭の包帯に触れた。

「あれ、ずれてた?」

新品の包帯や消毒液を小型の箱に仕舞いながら土佐は尋ねた。

「・・・大丈夫、ありがとう」

加賀は少し微笑んで言った。土佐は手際良く片付け終えるとベッド脇の棚を開けて箱を押し込んだ。

「覚えてる?小さい頃、姉さんはかくれんぼの度にこういう狭い所に潜り込んでたよね」

「・・・そう?」

 あの地震から3日後、天城に庇われた加賀はドックに担ぎ込まれてからずっとこの部屋で怪我の療養に努めていた。致命的な怪我こそ無かったが、両腕と切ったこめかみに包帯を巻いている。妹の土佐は予定通りに標的艦として呉に異動する事が決まっていたが出発ぎりぎりまで看病すると言って付きっ切りで加賀の病室に居た。

 しばらくして閉められた引き戸がノックされた。警備が手薄になっている今は機密保持の為にどの部屋も表札の枠は空のままでだ。そうでなくとも艦娘の入渠する個室に来る来訪者など限られる。

「はい、どちら様ですか?」

土佐が戸を開けに向いながら尋ねた。返ってきた声と名前は2人も何度か話した事がある、赤城姉妹の指揮官の声だった。入室した将校の軍服はここ数日の慌しさからか、手入れされずにしわになっている。将校は部下の艦娘が付いて来ていない事に気付き一度部屋を出た。そして間も無く赤城が姿を現した。

 

 

 「あ・・・赤城、さん・・・」

ベッドの上で身を起こした加賀が話しかけようとしたが赤城に睨まれて加賀は黙って俯いた。赤城は入り口の近くに、将校はベッドの隣、窓側の丸椅子に座っている土佐の向かいに立った。

「椅子、よかったら・・・」

土佐が立ち上がって部屋の隅で重ねられていた丸椅子を2人分持ってきた。

「ああ、すまんな」

将校が礼を言って受け取った。

「赤城さんもどうぞ」

「いえ。わたしは長居するつもり、有りませんから」

「あ・・・でも・・・」

きっぱりと断られて土佐は少し当惑した後、大人しく下がった。

 気まずい空気の中、見舞いに来た相手に話しかける機会を失っていた将校が口を開いた。

「怪我の様子はどうだ?」

「・・・だいぶ、良くなりました」

加賀が短く答えた。

「そうか。それはよかった」

 再び沈黙に包まれた病室で将校が困っていた時、病室の戸が叩かれ20歳ほどの若い整備兵が一人やってきた。彼の着ているツナギは非常時とは言え面会を許した軍医の感覚を疑うほど埃と泥まみれだった。廊下に足跡が残っている。

「失礼しま・・・あつ、お取り込み中でしたか・・・?」

そして自分よりも遥かに階級が高い将校が居る事に驚いて敬礼する。額にも泥が付いた。

「いや、構わん。どうした?」

「はっ、赤城准尉がこちらにいると伺って参りました」

不意に加賀が土佐の弓道着の袖を引っ張った。

「・・・ね、土佐。誰?」

壁が死角になって新たな来訪者の姿が見えない加賀が小声で尋ねた。

「ほら、あま・・・じゃなくて・・・」

「・・・?誰?」

「えっと・・・」

加賀と土佐が話している間に整備兵と将校の会話も進んでいった。

 「・・・ある方から赤城准尉に伝言を頼まれておりまして」

「そうか、では私は退場した方が良いな。赤城、彼の用が済んだら私の執務室に来るように」

「え?いえ、話ができればそれで・・・」

「いや、気を使うな」

将校は整備兵を軽く受け流してそそくさと居心地の悪くなった部屋から退室した。入り口に居た武久が慌てて道を譲り入り口近くの赤城に並んだ。加賀と土佐が佇まいを正してその場で見送った。

 「・・・復旧作業、お疲れ様」

「ありがとう、やっと休憩が貰えたよ。でも直ぐに戻れって言われてて・・・。今良い?」

「うん?」

「天城さんの事なんけど・・・」

 部屋のベッドは敷居に跨っている整備兵からはベットの上の人間は足しか見えない。赤城に続きを促され整備兵はすこし声を潜めて赤城に話す。来訪者の正体を判別しようと耳を済ませていた加賀が会話を聞いていた事など彼には知る由も無かった。

「早めに伝えておきたいし、次の休憩はいつになるか分からないから伝えとくね。天城さんが救助された時・・・最期に赤城ちゃんに伝言を頼まれてて・・・。『私が居なくてもしっかりして、あなたは強い子だから』って伝えてって・・・」

赤城が俯いて震えて出したのに気がついて整備兵は話すのを止めた。話を聞いた加賀が青褪めていた。

 「大丈夫・・・?」

「・・・のっ・・・いだ。・・・あんたのせいでっ、お姉ちゃんはっ・・・!」

「えっ・・・」

赤城が狭い室内をベッドに向って駆け、そして加賀の頬を引っ叩いた。

「やめてっ・・・」

土佐が加賀を庇った。

「あんだがっ・・・!」

赤城が2発目を振り被ったところで呆然としていた整備兵が慌てて赤城を押さえに掛かった。赤城はそれを振り解いて病室から駆け出して行った。

 「待ってっ・・・!」

整備兵が赤城を追いかけて、病室には加賀と土佐が残された。

しばらくの間、加賀はベットの上で背を丸くしたまま土佐に支えられていた。加賀の頬を伝って落ちた雫がシーツに染みを作っていった。

 

 

 「加賀さん?大丈夫?」

戸が軽く叩かれて鳳翔の声がした。電気を点けていない部屋で加賀は我に返る。鳳翔が部屋に入ってくる様子がないので、加賀は出来るだけいつもの声で返事をした。

「・・・ごめんなさい。もう少しの間、放って置いて貰えますか・・・」

丸一日、ほとんど何も口にしていない喉から酷い声がした。

「・・・分かったわ。・・・なにかあったらいつでも言ってね」

 少しの間があって鳳翔が遠ざかっていく足音が聞こえた。そして加賀は思い出した。

(ああ、あの後改めて赤城さんとちゃんと話した時か。・・・あの時の赤城さんも、姉妹を亡くしてこんな気持ちになったのだろうか・・・)

加賀は再び記憶をなぞり出した。

 

 

 震災から3年が経った。国防の要であり地域の復興対策本部も置かれた横須賀鎮守府は、周辺の町よりも一足早く震災前の水準で活動していた。

 「正規空母の加賀さんですね!?佐世保との演習の結果、見ましたよ!1人で戦艦2人を行動不能にしたって凄いじゃないですか!」

数回に渡り改造を受けた加賀は、当初こそ練度、艤装共に使い物にならなかったものの、2年間の訓練の末、空母として申し分の無い艦娘に成長していた。そして今日、正式に艦娘に就任する。

 「あ、ありがとう・・・」

新しく制定された弓道着を着て歩いているだけで、見ず知らずの整備兵に声をかけられた加賀はなんとかそれだけ返した。周りに居た水兵も加賀に気付いて視線を向ける。注目も集めていたことに気が付いた加賀は、すぐにその場を後にして新しく建てられた煉瓦造りの建物に向った。

 

 

 震災の影響を受け、強度の高い鉄筋コンクリート建築が多く造られる中、横須賀鎮守府に新しく立てられた建物の多くは、従来の雰囲気を残そうと赤煉瓦で表面を飾られた。加賀が向ったのもその1つで、まだ新築の匂いが残る綺麗な会議室でロの字型に並べられた机の席に座っていた。加賀の他には赤城、駆逐艦が数名と数人の将校。もまなくして将官が入室して上座に座った。

 

 

 「諸君は今日付けで横須賀海軍女学校を卒業することになる」

上座に当たる席には胸に光る沢山の勲章が、それと嘗ては引き締まった腹筋だったであろうお肉が緩くなってきている壮年の将官が両手を机の上に置き話していた。

「・・・とは言っても今ここに居る諸君の配属先はこの鎮守府である。生活に大きな変化は無いだろう。しかし今日からはいつ何時、実戦に出撃するとも知れ無い。諸君には一層多くの努力を、護国の戦乙女とならんことを期待する。以上」

 将官の話が終わり、将官の斜め前に居た佐官が立ち上がった。

「では、さっそくだが作戦会議を始めたいと思う。本日未明、九十九里浜沖東約1080海里の地点で深海凄艦数隻の出没が確認された。諸君にはこれを迎え撃ってもらう・・・・・・」

突然の出撃命令に数人の艦娘が戸惑う中、正面の壁に海図が張り出され佐官によって作戦の詳細が説明された。

 

 

 「加賀、待ちなさい」

作戦会議が終わり退室しようとした加賀を将官が引き止めた。

「なんでしょうか?」

「明後日、君の妹が横須賀に寄航する事になった」

「土佐が・・・?本当ですかっ!?」

「ああ。君には教えておくが・・・一応は機密事項だから他言無用だ」

加賀の表情の変化に驚いて将官が釘を刺した。

 「・・・分かりました」

それから将官は表情を和らげて言った。

「土佐にいい話が出来るように明日は戦果を挙げて来なさい」

「了解です」

加賀は敬礼を沿えて応えた。

 加賀が会議室から出て行った後、将官は作戦の資料を片付けていた佐官に話しかけた。

「大佐。君の編成だから問題は無いと思うが・・・。加賀は時折集中が途切れると言っていたな?旗艦に起用して良かったのか?」

「はい。ご存知の通り、加賀は演習で連日連勝で、先日は佐世保の実戦経験のある戦艦2隻を大破に追いやりました。この波に乗らない手は無いでしょう。彼女の自信にも繋がる筈です」

佐官は自信満々に答えた。

 「そうか・・・では明日は頼んだぞ。間違っても初陣で娘を沈めんようにな」

将官は佐官に見送られて会議室を後にした。

 

 

 翌日。加賀は僚艦5人を率いて太平洋を東に向っていた。発見された深海凄艦は重巡と軽空母、その僚艦である駆逐艦数隻。本土に向っている事も確認された為、深海凄艦が進軍を止めない場合は本土近海でこれを迎撃、ひいては殲滅する事となった。現在、加賀達はその迎撃地点に向っている。

 「三日月、そろそろ来るんじゃないかしら?」

焦げ茶色の髪を肩の辺りで切りそろえた菊月が、隣の明るい茶色の髪を持つ少女に話しかけた。僚艦の駆逐艦娘に支給された服は黒のセーラー服。

「そうね~」

「緊張するなぁ・・・」

「あれだけ訓練したんだから大丈夫だよ」

波打った黒髪を背中に垂らした弥生が、色素の薄い髪を2つに纏めた卯月を励ます。

 「皆さん、そろそろ会敵が予想されます。おしゃべりは止めて周囲の警戒を。赤城さんは索て・・・」

「分かってます。その位一々指図されなくても出来ます」

最後まで言い終わる前に言い返された加賀は口を噤んで自らの索敵機を矢筒から取り出した。

 

 

 加賀、赤城が索敵機を飛ばし、艦隊は静かに臨戦態勢に入った。風の音と時折大きな波が海面を叩く音以外は何の音もしなかった。

 (やっぱり私と居る時は赤城さん機嫌悪いな・・・。当たり前か。あの時私があんな所でうずくまっていなかったら天城さんは何事も無く艦娘になっていたのだから。この作戦だって旗艦は天城さんだったのだろう。姉の席に他人が我が物顔で座っているのだから不機嫌にもなるか・・・。上層部もせめて土佐を空母にしてくれたらよかったのに。あの子ならもっと上手く・・・)

 

 

 「ちょっと!あなた何してるのよ!?ねえってば」

赤城に正面から肩を掴まれて加賀は我に返った。前方の空では赤城の青灰色の零戦が銀色のカブトガニのような深海凄艦の艦載機に追われていた。

「あっ・・・え?」

「奇襲っ!索敵を潜られたの!それと敵に空母の増援!合計で3隻!一隻は正規空母!司令部に連絡済、増援待ち!」

状況を把握していない加賀に赤城が捲し立てた。それを聞いて加賀は慌てて自分の零戦を増援に向わせた。

 「あなた達は落ち着いて防空弾幕を張って!」

旗艦に代わって駆逐艦に指示を出しつつ赤城自身も飛行甲板の裏に装備した機銃を構え、零戦で落としきれなかった敵機を追い払う。

 そして加賀が最後の戦闘機を飛ばし終え、機銃のマガジンを装着する為に視界を手元に移した。

「加賀さん!正面、魚雷!」

菊月の声に反応して加賀が顔を上げると深海凄艦の艦載機と真ん丸の鉄球が縦に並んでいるのが見えた。機銃の準備の間、加賀は敵の攻撃をかわす為に航行速度を上げていた。急には曲がれない。気付くのが遅すぎた。

「くっ・・・なんであなたが旗艦なのよっ」

加賀が覚悟を決めた時、横から赤城が体当たりで加賀を射線から押し出した。そして、すぐに加賀の目の前で水柱が上がり、銀色のカブトガニが頭上を飛び去った。

 

 

 「話は分かった、後で報告書に纏めなさい。処分はそれを基に判断する」

初陣の日の夕方、加賀は作戦の責任者である佐官に事のあらましを説明しに来ていた。

 今日の戦闘は赤城が加賀を庇って間も無く、零戦が制空権を確保し加賀の艦攻、艦爆による空襲で増援が来る前に深海凄艦を追い払うことには成功した。しかし当初の目的である撃破には及ばなかった為、後日別艦隊による残党狩りが行われることになった。そして加賀を庇った赤城は足回りの艤装を破壊され航行不能となり駆逐艦に曳航されて帰還。現在、艤装の修理及び、足の怪我の手当てを行っている。

 「大佐、そろそろ長官がお呼びになられたお時間です」

執務机の横に控えていた人間の女性秘書が佐官に伝えた。

「よし。俺も今から用があるから今日はここまでだ。お前は赤城の見舞いにでも行ってやれ。お前達の仲が悪いのは知っているが・・・同じ艦隊に配属された以上ずっとこのままで居る訳にはいかないだろう?」

「・・・分かりました。失礼します」

加賀は佐官に一礼した後、部屋を後にした。

 

 

 ドックは大きく分けて2つある。艦娘用と艤装用だ。加賀は艦娘用のドックに来ていた。艦娘と言えど高められた治癒力と施された幾つかの処置以外は人間と同様である為、艦娘用のドックは一般の病院と同じような造りをしている。年々増加する艦娘に対応する為に一昨年建てられた。階段を上がり赤城が治療を受けている階に着くと夕日に照らされて赤く染まった廊下に出た。受付で赤城が治療を受けていると教えられた部屋の前で、加賀が逡巡していると戸を開けたままの部屋から会話が聞こえて来た。

 「いっ・・・武さん、もうちょっと優しく・・・」

「痛いのは生きてる証拠だよ。大人しくして」

「くっ。・・・痛い痛いっ!右はともかく左はもっと丁寧に扱ってってば!」

「十分にそっと巻いてるよ・・・はい、終了」

「うぅ・・・ありがとう。それにしても久しぶりに会ったら軍医になってるとは」

「治療は出来るけど正式な軍医ではないよ。艦娘と艤装を同時に診れる人材が必要なんだってさ」

「ふーん。・・・ところで、あの震災の前日の事って覚えてる?」

「・・・どうしたの?急に」

 「お姉ちゃんが武さんに言った、昨日はありがとうって何の事だったのかなーってずっと気になってて・・・あ、言いたくなかったら言わなくて良いんだけど・・・」

「いや、別にいいよ。あの時の天城さん、自分が空母になってやって行けるのか結構悩んでたみたいでね」

「あー。飛び道具よりも格闘技のほうが似合いそうだもんね」

「まあ、そうだね」

天城と仲が良さそうだったあの整備兵が苦笑いをしながら答える声が聞こえた。

「それで何て言われたの?」

 「あー、その事について相談されたんだけど・・・絶対に赤城には内緒にしてって言われてるから、何て答えたかだけでも良い?」

「えぇ・・・。まあ良いけど」

「だったらその度に俺が修理する。整備も完璧にするから何度でも壊して生きて帰って来い」

「・・・ふっ、何それ」

「今、鼻で笑った?」

「・・・笑ってないよ」

「その間は何?」

「・・・」

 

 

 徐々に薄暗くなっていく廊下で加賀は完全に部屋に入る機会を逃していた。

(大佐には見舞いに行くように言われたがもう寮に戻ってしまおうか)

部屋からは冗談っぽく言い争う整備兵と赤城の声が聞こえていた。

(よし、見舞いは明日にしよう)

入り口の脇で壁に背を預けていた加賀は足を踏み出した。中の2人に悟られない様に部屋の前を通らずに来た道につま先を向ける。

 「・・・武さん、お姉ちゃんの事好きだったでしょ?」

一頻り言い争った後、ふと赤城が整備兵に尋ねた。加賀が歩みを止めた。

「え・・・いつから気付いてた?」

「最初から。傍から見てたら丸分かりよ」

「そんなに?」

「そりゃ、あんなに・・・・・・」

加賀は再び歩き出して2人の会話も直ぐに聴こえなくなった。

 

 

 違う。天城さんは私のせいで死んだんだ・・・。赤城さんはずっと姉の仇と一緒に居たんだ。赤城さんから・・・あの整備兵からも大切な人を奪って、私は生きてきたんだ。だから私は決めたのに。それなのに、またこうやって・・・・・・。

 

 

 少しだけ開いた戸の隙間からうっすらと明るい廊下が見えていた。飾り気の無い木製の枠を持つ硝子が嵌められていない窓からは淡い光が差していた。低い位置から見える風景は春の霞みがかった空が見えるばかりで外の様子は見えない。荒々しい足音が聞こえて少女は慌てて引戸を閉めた。昨夜の点呼で姿を確認できなかった加賀の捜索は夜を徹して行われていた。

 どれほど時間が経ったのか、断続的に暗闇に響く足音は聞こえなくなっていた。静かになった暗闇に先程よりも軽く静かな足音が聞こえて来る。その足音は戸の向こう側で止まり少女が息を忍ばせる。そして鋭い音と共に引戸が引かれて光が差し込んできた。少女が身を竦ませる。急に明るくなった物置の中に頭の横で括られた髪型と青い弓道着が照らし出された。

「・・・姉さん」

光の中で声がした。明るさに慣れてきた彼女の目に映ったのは、背中まである黒髪を首筋で1つに纏めた10代半ばに見える大人しそうな少女だった。

「土佐ぁ・・・」

瞳を潤ませて顔を上げる彼女から力強さは全く感じられない。

 そして土佐と呼ばれた少女はやれやれと言った風に溜息を一つ吐いた。

「・・・久しぶりに横須賀に着いたと思ったら、姉さんは行方不明だって言うし。・・・なにがあったの?」

加賀はゆっくりと今までの事を土佐に話した。

 あの日天城が身代わりになったと知ってずっと自分が生きていて良いのか悩んでいた事、赤城との人間関係が上手くいっていない事、赤城に認めて貰えるように自分なりに頑張っていたこと、だけど自分がしっかりしていなかった所為で赤城に怪我を負わせてしまった事、自分は赤城だけでなくあの整備兵からも大切な人を奪っていた事。

「・・・赤城さんにも、整備兵さんにも。もう誰にも会えない、どんな顔で会えば良いのか、分からない・・・」

そう言ったきり、加賀は抱え込んだ膝に顔を埋めた。そんな姉を見下ろしていた土佐が屈んで頭の高さを加賀に合わせた。

 「姉さん。赤城さんとあの整備兵に会いに行こう」

「無理・・・あんな話聞いた後なのに・・・」

「じゃあ赤城さんだけでもいいから」

「・・・嫌」

「じゃぁ・・・もし、赤城さんから拒絶されるような事になったら、艦娘なんて辞めて一緒にここじゃない何処かに逃げちゃおう?大丈夫、私の方が横須賀の外は知ってるでしょ?」

「・・・」

「ほら行くよ」

土佐が加賀の手を取って立ち上がると、加賀は逆らう事無く土佐に従った。

 

 

 「なんだ、居たの。なんだか騒がしいし、初陣であんな失敗して逃げ出したのかと思ってた」

戸を開けた土佐に促され赤城の入渠先に入った加賀は早々に手痛い一撃を喰らった。

「・・・っ」

加賀は思わず踵を返して戸に向かって駆け出し・・・外から土佐に戸を閉められた。結局、数歩だけ歩いてその場に立ち尽くす。

「何しに来たのよ」

ベッドの中央で足を伸ばして座ったまま、赤城は相変わらずの強い口調で言った。

「・・・怪我。大丈夫?」

加賀は恐る恐る目線だけ赤城に向けて言った。

「これ?・・・ええ、お陰様で絶好調ですよ。そんな事言いに来た訳?」

2、3拍あって今度は顔だけ赤城に向けた。

「・・・私。天城さんに。赤城さんにも、認められるように頑張ります。・・・天城さんに、あの時・・・庇って良かったって。思って貰える様に・・・だから、あの・・・」

普段から小さめの声が更に小さくなり最後は尻すぼみになって話すのを止めてしまった。

 しばらくの間、考え込む様に黙っていた赤城がベッドから降りて、包帯を巻いた左足を引き摺りながら加賀に近づいた。再び顔を出口に向けてしまった加賀の顔を右から覗き込もうとする。加賀は肩を強張らせて赤城の視線を避けた。

「ねぇ加賀」

赤城は加賀の服を引っ張って無理やり向かい合わした。

「そういう事は!体は正面向けて目を見て、大声で言いなさいよっ!大体あなたは元から声が小さいのよ!それから私も庇ったじゃな・・・・・・」

戸の向こうで土佐が立ち去る気配がした。赤城はしばらくの間、加賀に対する不満をまくし立てた。加賀は目を白黒させて赤城の話しを聞いた。

「・・・・・・って言うか怪我人を立たせないでよ!」

最後にそう言うと赤城は足を引き摺ったまま踵を返してベッドに向かった。

「・・・さっき絶好調だって言ったじゃないですか」

加賀がそう言いながら赤城の左に立って脇を支えた。

「うるさいっ!それより・・・私の怪我が治ったらあの凄艦、倒しにに行くわよ」

「・・・はいっ」

 

 

 「加賀さん?」

加賀が座ったまま振り向くと明るい廊下を背に人影が立っていた。

「ノックしたら返事ぐらいして下さいよ」

「・・・赤城さん、ごめんなさい。あの時頑張るって言ったのに・・・」

赤城はしばらくの間、はて?と考え込んだ後、加賀にやさしく微笑んだ。

「それで泣いてたんですか?・・・良いんです、綺麗な顔が台無しですよ」

加賀が黙って目を逸らした。

「・・・今は土佐さんの為に、加賀さんが悲しんであげて下さい」

加賀の頬を雫が伝って顎から床に落ちた。赤城は屈んでそっと加賀を抱き寄せた。

 

 

 翌早朝、金沢はいつもの軍服を着て制帽も被り、封筒を脇に抱えて司令棟を出た。閉じられていない封筒の口からは別の書類用の封筒が入っていた。そのまま真っ直ぐ、正門に向って歩いていると射撃場の近くに手ぬぐいで汗を拭う加賀を見つけた。

 「・・・もう良いんですか?」

「ええ。ご迷惑をおかけしました」

「気にしないで下さい。・・・いつもこの時間から自主練を?」

「はい。昨日は休んでしまいましたが・・・。提督は今からお出かけですか?」

「ちょっと本部に用がありまして。泊り掛けになりそうなので明日までの事は皆さんに伝えておきました。緊急の用があれば北間大佐にお願いします。それから・・・。いや、以上です」

「・・・分かりました。お気を付けて」

 金沢は加賀とすれ違って出発した。加賀は寮に向う。幾ばくも進まないうちに加賀は金沢に呼び止めた。

「・・・何か?」

加賀が振り返り自分を見ていた金沢と目が合うと、金沢は搾り出すように言った。

「・・・部屋に1人で、篭るぐらいなら僕のところに来なさい。肩を貸す位の事は出来ます」

そのまま返事を待たずに金沢は歩き出した。加賀は少しの間の後、その背中に返事を返した。

「・・・      、    」

その返事は金沢の耳には届かなかった。

 

 

 40年程前。横須賀鎮守府のある佐官が自分の執務室での書類仕事の途中で、煙草とライターを取り出そうとポケットに手を伸ばした時。ノックも無しに乱暴に、良く言えば元気良く扉が開いた。

 「提督!赤城、復活しました!負けっぱなしは嫌です!」

「赤城、ノックしろと何度言えば・・・いや、俺達は追撃しない」

「・・・何故ですか、大佐」

ノックしていた分遅れて加賀が入室して言った。

「やかましい、今は中佐だ」

「大佐!特訓もばっちりです!」

「中佐だ。嫌味か」

「どうして追撃しないんですか?」

 「・・・赤城が治療受けて加賀が行方不明になってる間に別艦隊が追撃、及び殲滅に成功した」

「「・・・」」

 騒ぐ赤城と落ち込む加賀を帰して、佐官は改めて煙草に火を点けた。

「やれやれ、随分と仲良くなっちゃって。俺の降格も無駄ではなかったかな?」

佐官が吐いた煙草の煙が天井に届く前に空気に溶け込んだ。

 

 

Continue>>>【五話 古兵の疑心】

 




※この後書きは深夜テンションで書かれております予めご了承の上、読む前にお気に入り登録をクリック&プラウザバック!!!



 言ったよ?知らないよ?【Betrayal Squadron】四話 加賀と土佐。今回は過去回ということでキャラ崩壊率高め、一部を除きモブだけどオリキャラ率も高め、えっと・・・いかがだったでしょうか・・・?オリキャラに関しては他の方の艦これ二次創作読んでると元から多いですね。これからさらに増える予定ですし。これ二次創作か?オリジナルと艦これのクロスオーバーの間違いじゃね?って言うくらい増し増しです。キャラ崩壊に関しては・・・お察しください。あ、でも睦月型ちゃん達の髪形がおかしいのは今後の伏線ですよ?キャラ崩壊かも知れませんがキャラ崩壊ではありませんよ?
 個人的には書いていて加賀姉妹は作者と違って小声でも「サ」行の発音が綺麗そうだなーと思いました。また、過去回前半に当たる3話「赤城と天城」の設定であれをこうしとけばよかったぁぁぁー!それをああすれば書きやすかったぁぁぁ・・・などと頭を抱えました。どうでもいいですね。シチュレーションも使い回してますし、精進が足りませんね。あ、でも武久はほとんど自分そのままで書きやすかったです。違うのは女の子とご縁が無い事ぐらいですねー。けっ。・・・ええ、精進が足りませんね。

 それにしても副題変えまでやったのに土佐さんの出番が少ない気が・・・そして赤城さんと武さんのターンが長い!危うく副題が赤城さんと武久さんになるところだった(嘘)
 赤城さんの登場回数が多いのは仕様です。これでもだいぶ減らしました。加賀さん好きが高じクールな加賀さんを書きたくて書き始めたこの作品ですが書いてるうちに赤城さんの事が加賀さんより好きになってきちゃったからしょうがないね。でも最後の赤城さんの台詞を間違って「・・・良いんです~悲しんであげて下さい」で「~あげて食うださい」ってタイプしてました。赤城さん、あのシーンでそりゃ無いよ。・・・あっ、痛い。加賀さん、止めて。ごめんなさい、はい。私のミスです。蹴らないで。(いっぱい食べる君が好き~)
 そして作者が赤城さんに浮気した影響を加賀さんが思いっきり被っています。振り返るとダンボール被ったり、アイスのお零れ貰ったり、引き篭もったり、戦闘で足引っ張ったり、人の会話盗み聞きし・・・加賀さん艦載機は止めてください、本当に止めてください。私は人間です、ホントごめんなさい。って、あれ?1話から加賀さんのイメージどんどん壊してる?(決して加賀さんが嫌いなわけでは・・・かっこいい加賀さんはたぶん8話くらいで・・・)

 さて、今後の更新について1月1話でやっていけそうなので毎月29日更新にしようと思います。実は今月ギリギリだったから難癖付けて更新日延ばそうなんて考えてませんよ?肉の日ですよ肉の日。ね?覚えやすいでしょ?いっぱい食べる君が好き~。

 最期に、本作では史実ネタは中途半端に採用、創作と史実ネタが混在してます。その上たまに史実を間違って覚てるので、どこが史実でどこが創作なのか作者自身よく分かってなかったり。へ~そういう事があったんだ~とかって言いふらしたら恥じ描きますよ。創作を史実ネタっぽく書いてたりしますがこの作品の中だけの話。This isパラレルワールド。特に階級に対する役職とか、兼任できる役職とか。統率権の範囲とか。あと建物に関しても、それと戦術とかも。全部作者の趣味、捏造、萌えでやってます。ちょっと詳しい方が読んだら「ちょっ・・・これじゃ・・・ありえねぇwぷぷぷっ」とか思われる事と存じます。

 とうとうこんな最深部まで読んでしまう提督が現れたか・・・面白い。生きて四天王の残りの3人に会えると思うなっ・・・!
 次回!【五話 古兵の疑心】お楽しみにっ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。