目が覚めたときにはそこにいた。どこから来たのかわからない。自分が誰かもわからない。
辺り一面に木。ここが森の中だとそれだけでわかる。しかし、それ以外にはわかりそうもない。
いつまでもそこに立っているわけにもいかず、適当な方向へと歩き出す。とりあえずこの森から出ようと思ったのだ。
どれほど歩いただろうか?
辺りが暗くなってきて、これ以上歩むのは危険だと判断し、野宿をすることに決める。幸いにも木には果実が実っており、食料に困ることはなさそうだ。
寝ようと横になっていると、ガサガサと草木を揺らす音に目を覚ます。武器になりそうなものは持ち合わせていない。というか、目が覚めたときになにも持っていなかったのだ。
向こうもオレを獲物と捉えたのだろう。息を殺し、様子を伺っているのがわかる。いつ飛びかかられてもいいように、こちらも同じく息を殺して身構える。
痺れを切らしたのか、草むらの中から1匹の狼が飛び出してくる。冷静にしっかりと狼の動きを見て、鋭い牙で噛みつこうとしたところを回転してかわす。そのまま首を捕まえ、大地に叩きつける。
首を掴んだまま、暴れる狼が動かなくなるまで締め続ける。ようやく動きが止まったのを確認して、手を離す。それにしても、自分の動きに驚く。記憶がないだけで体が覚えているというやつだろうか?
石や木の枝を使い、狼の牙を抜く。その牙を刃物の代わりにし、狼を捌く。火を起こしその肉を焼いて食べる。
その後は眠れず、狼との戦闘。自分の記憶のことなどを考える。ふと月明かりに照らし出された左手に、黒い痣のようなものが見える。触れると何故か切ない気持ちになっていた。
風が音を鳴らしながら吹く。月明かりに翼を広げた鳥が見える。その光景に懐かしさと切なさを感じたいた。
翼を広げて風を鳴らしながら、天にも届くような羽を広げて飛ぶ2羽の鳥が奏でる声に。
それから3日ほど歩いただろうか?
ようやく森の出口へと差し掛かる。そこでようやく安堵することが出来た。夕暮れの中で見つけた一軒家。やっと誰かに会えると思えたから。
「こんばんは」
明かりの見えるその家へと歩み寄り、ノックしながら声をかける。木製の家。呼び鈴なども見当たらない。
「はい?」
扉が開かれ、金髪のおさげ髪の少女が顔を覗かせる。奥には父親らしき人物もこちらを伺っているのが見える。
「どうしたんだい? お客さんかな? キャロル」
奥の父親らしき人物がそう尋ねる。そう、オレは今の自分をどう説明したらいいのかを考えておらず、固まってしまっていた。それを見て嫌悪せず、優しく聞いてくれていた。