「流行り病……ですか?」
街から戻ったイザークさんの話では、今街では流行り病に困っている人が多いそうだ。
「そうなんだ。だからこれを使って薬を作ってみようと思うんだ。2人共手伝ってくれるかな?」
イザークさんが言いながら見せてくるのは深山にて採取される『仙草』も呼ばれる薬草『アルニム』。
「もちろん」
キャロルと顔を見合わせて頷く。それを見てイザークさんも嬉しそうだ。
さすが。と言うべきなのか、イザークさんは簡単に治療薬を完成させる。オレやキャロルがした手伝いなんて物を運ぶくらいで、ほとんど1人で完成させていた。
「これで街の人も元気になるね」
無邪気な笑顔でキャロルが言う。その笑顔にオレもイザークさんも釣られて笑顔になる。
「ああ明日早速これを持って行ってみるよ。だから、また留守番をお願いするよ」
「ええ。わかっています」
オレの答えに満足したのかそれ以上はなにも言わず、薬を小分けしたりしている。
「もう遅いから、休もう?」
キャロルに言われ、イザークさんの邪魔にもなると思ったオレとキャロルはそれぞれ部屋に戻り休むことにした。
風が鳴り、外は雪の音が響いていた。隣の部屋からキャロルの歌が聞こえる。聖母のように優しく、闇夜を切りさくような調べ奏でる小夜曲。未来を照らすような歌が。
キャロルの歌を子守唄代わりにオレは眠りにつく。この優しい歌声を、眩しい笑顔を守ると心に誓って。
「それじゃあ行ってくるよ」
朝食を終え、イザークさんを見送るといつもの作業に取り掛かる。洗濯に掃除。終わればキャロルと錬金術の勉強。もうこれが日課となっていた。
その日は少しだけ集中出来ないでいた。イザークさんが調合したとは言え、万能薬ではない。当然救えない人も出てくるだろう。そのとき、イザークさんがショックを受けないか。それが心配だった。キャロルのこともだ。キャロルはイザークさん以上にショックを受けそうでもある。優しいこの親子がそれを辛く思うことが、たまらなく嫌だ。
「そのとき、オレはこの親子の支えになれるのだろうか?」
キャロルの頭を撫でながら小さく呟く。
「ヒカル! 子供扱いしないで!」
頭を撫でられたキャロルが、手を振り払いながら言う。頬を膨らませているから拗ねているのだろう。
「悪かった。お詫びに今日の昼はキャロルの食べたいものを作るよ」
「そんなことで騙されると思わないでよ」
そう言いながらも、食べたい物をリクエストしてくるキャロルに心が和む。そこで手を止めてオレはキャロルのリクエストに応えるための準備に入ることにした。