「ノイズ、全て殲滅を致しました」
『こちらでも確認した。 ご苦労だったな翼』
立花響が「ソウキ」と名乗る男を助けたその晩、リディアン音楽院からそう離れていない山中にて、爆発により発生した炎により煌々と赤く照らされながら、機械めいたスーツを身に纏う青色の長い髪の少女がそう告げる。
「司令。 今日奏は?」
『彼女も別地区に現れたノイズと戦闘中だ』
「でしたら直ぐに支援に行かせてください」
『不要だ。 こっちも、もうすぐ決着が着く」
「ですが・・・」
『お前の気持ちは分かる。だが心配するな、ノイズの量も少ないし、今の彼女でも問題ないと俺が判断した。 君はこのまま本部には戻らず学院の寮に戻りたまえ」
「・・・・・・承知しました。 風鳴翼は準待機に入ります」
通信が切れた同時に少女が身に纏っていたスーツは一瞬輝くと瞬時に学院の制服姿へと変わる。
そして、学生寮へと帰還するために踵を返す。
「・・・・・・奏。 何時になったらあなたに会えるの?」
届けたい相手の耳に届くことも無く、寂しそうに吐いた言葉は夜風と共に流れていった。
彼女にとって奏という少女は共に【ツヴァイウィング】というアイドルユニットを組む仕事仲間であり、戦場を駆け抜ける戦友であり、何より異なる二つの舞台へと臆病な自分を引っ張ってくれる大切な相棒であった。
だが、2年前のあのライブが二人の関係性を大きく変えた。
奏が一方的に芸能界を引退したことにより行動を供にする時間は激減。
ノイズとの戦闘も本部の意向によりメインは翼、奏は広範囲、同時出現に備えての予備選力として運用すると決めたことにより、もう一年も直接会うことが出来ずにいたのだ。
彼女は知らない。
それは偶然ではないということを。
そして念願の再開が明日叶うのだということを・・・・・・
「はぁっ!はぁっ・・・!はぁっ・・・・・・! シェルターから離れちゃったッ!」
日が暮れ始め、夕日が景色を橙色に染め上げる道を立花響は必死に走っていた。
憧れである風鳴翼の新譜を購入するべく放課後に街へ来てみれば、そこはノイズに襲われ、あたり一面に人だったものが溢れる地獄と化していた。
彼女一人だった場合はこれほど必死に逃げる必要はなく、既にシェルターに入れたはずであった。
しかし彼女は幼い女の子背負っていた。
その子はあの街で母と逸れ助けを求めていたところ響に見つけられ、こうして背負われてきたのだ。
だが彼女は普通の女子高生、特別な訓練を受けた訳ではない。
そんな子に長いこと女児を背負い続けて走り続けることが出来るはずもなく次第に体力は消耗し、遂には躓いてしまい地面に倒れてしまう。
肩で息をし、必死に呼吸を整える。
倒れた体勢のまま遠くを見やれば半透明に揺らめくノイズの大群がゆっくりと、だが確実に自分たちを追ってきている光景が目に入った。
ノイズ。
それは異形のモノ。
半透明のその体は通常兵器を透過して寄せ付けず、逆にノイズが人間に触れれば、人間をたちまちに炭へと変えてしまうというワンサイドゲームにしかならない不条理な存在である。
人類ではノイズに太刀打ちできない。
それが現代日本における公式見解であり、赤信号は渡ってはいけないと同列で教わる常識でもある。
唯一の対応策は速やかに指定のシェルターに避難、遭遇した場合は一定時間逃げ続け、自壊するのを待つ、ただそれだけの怪物。
ゆっくりと迫りくるノイズに彼女の心にあきらめの気持ちが滲み出る。
『生きることをあきらめるな』
突如脳裏にあの日の光景が、あの言葉がよみがえる。
それだけで心の炉に火が灯り、再度少女を連れて逃げようとする。
しかし、その判断は少し遅かった。
ノイズとの距離を確認しようと振り向くとノイズが数匹飛び掛かってきており、数秒もしないうちに触れてしまうほどの距離まで迫っていた。
これが別世界、天羽奏が死亡していた世界ならばもう少しだけ早くあの言葉を思い出し行動に移せただろう。
しかし、天羽奏は生存している。
この言葉が遺言かどうか、捉え方は彼女の自由だがその差が明確な違いを生み出す。
今にも触れてしまいそうなほどに近づいてきたノイズ。
絶体絶命の彼女を救ったのは浅葱色の鳥、黄赤色の獅子、鈍色の蛇だった。
3匹の機械の動物たちはノイズに食らいつき、切り裂いてノイズを塵に変えていった。
「お嬢ちゃん大丈夫か? ・・・って、立花ちゃんじゃないか?」
「・・・え? たしか、ソウキさんですよね? なんで?」
「説明は後で。 見たことの無い魔化魍だけどここは僕に任せて二人は逃げなさい」
「だ、ダメですよッ! 相手はノイズですよ? 一緒に逃げましょうッ!?」
「大丈夫! これでもバッチリ鍛えているから!」
するとソウキは右腰にぶら下げていた二つ折りのナニカを手に持ち、手首のスナップを効かせて軽く振ることで一本の音叉へと変形させる。
その音叉はまるで二本角の鬼の顔の様に見えた。
ソウキはその音叉を左手首に打ち付ける。
すると『キイィィィィィン……』と今まで聞いたことの無いような澄んだ純音が鳴り響く。
そしてそれを額にかざすとなんとソウキの全身が紫色の炎に包まれた。
「ソウキさんッ!!?」
余りにも突然の出来事に驚いてしまう響。
一方そのころ、ノイズの出現を感知したまでは良いが位置特定に手間取っていた特異災害対策機動部二課にも動きがあった。
「司令ッ! 突如アウフヴァッヘン波形に似たエネルギーを感知ッ! 同時にノイズの位置を特定ッ! 謎のエネルギーと同じ個所ですッ!」
「すぐに翼を出動させるッ! 最短ルートを割りだ・・」
「司令ッ! 奏ちゃんからの緊急通信。 自分が出るから邪魔するなとのことですッ!」
「・・・翼、準備だ。 ただし命令あるまで出撃は許可しない」
「司令ッ!」
「命令だ」
(何故だ。 何故一緒に戦わせてくれないの・・・。 奏・・・)
「そ、ソウキさん?」
何分経ったのだろうか? いや、実際には数秒も経ていないのだがそれだけ長く感じられるほどの衝撃だった。
謎多き青年が突如目の前で発火したのだから仕方ないと言えば仕方がない。
しかも青年はその事に驚きも恐怖せず、まるで精神統一でもしているかの様に静かに、静かに佇んでいるのだ。
身に纏っていた衣服は燃えてなくなり筋肉質の体が顕わになるが、なおも炎の勢いはより強くなる。
そして炎が完全に青年を包み込むほど強く燃え滾り人影だけとなったその時、青年は音叉を持った右手を大きく振り払うと炎はたちまちに消えた。
しかし炎から出てきたのは青年ではなかった。
そこには身長2メートル、肌は艶のある黒色、紅い腕、目鼻は無く歌舞伎の隈取のような顔、なにより特徴的な銀色の2本の角を持つ異形が立っていた。
その姿はまるで・・・
「お、鬼ッ!?」
うろたえる響。
それに対し異形はゆっくりと振り返り、優しく語りかけた。
「鬼だよ。 でも良い鬼さ」
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