「「「「・・・・・・・・・」」」」
タイヤがアスファルトを蹴りつける音だけが車内に流れていた。
二課が所有する黒塗りのリムジンの後方座席に向かい合わせで座る奏、翼、響とソウキは一言も喋らず、気まずい雰囲気のままいずこへと運ばれていた。
しかしその気まずさは沈黙に対してではない。
この沈黙はちょっと前に発生したとあるハプニングによる結果でしかなかった。
奏が割り込んできた後から数分後、戦場となった工場敷地は見事な手際で封鎖され、あと処理が行われていた。
ノイズだったものは巨大な掃除機で吸い取られ、工場関係者だろうか? けが人を運ぶ救急車も数台出入りし現場は忙しなくも秩序の取れた行動がとれていたことは誰の目から見ても明らかだった。
もちろん、響が命がけで助けた女の子も駆けつけた男性隊員のジャケットを羽織りながら暖かい飲み物を啜ってにこやかな表情を浮かべていた。
そんな様子を満足げに見つめる響に、顔だけ人間に戻ったソウキが話しかけてくる。
「女の子、守れてよかったね。 お疲れ様」
「あ・・・、ソウキさん」
「君の勇気ある行動、尊敬するよ。 よく頑張ったね」
「えっと、その・・・えへへ。 ありがとうございます。 あ、ソウキさんッ! ソウキさんも助けてくれて、ありがとうございますッ!」
人助けを趣味と公言する彼女ではあったが助けた人から直接言われることはあっても第三者から褒められる経験はあまりなかった。
それも年上の男性の知り合い自体が希少な彼女にとってその言葉はとてもくすぐったいものであった。
「いやいや、大したことしてないよ。 自分に出来ることをしたまでさ」
対してソウキの反応は平坦であった。 まるで戦うことが当たり前であるかのようなその物言いにかねてから気になっていた疑問を響は投げかけようとする。
「あ、あのッ! ソウキさんって一体・・・」
「あのぉ・・・」
「へ?」
「うん?」
二人に話しかけてきたのは紺色の制服に身を包み、両手に湯気が立ち昇っている紙コップを持った若く、紅い口紅が印象的な女性だった。
「あったかいものどうぞ」
「あったかいものどうも」
「すみません、いただきます」
時期は4月、すっかり冬の寒さは引いたが流石に夜はまだまだ肌寒い季節である。
素敵な笑顔と厚意が伝わるその気遣いに二人はあったかい飲み物を受け取り軽く啜る。
するとホッとしたからかなのか、ソウキの隣に居た響は突如淡く光りだし、未だ身に着けたままの機械ぽいスーツから一瞬で学生服の姿に変化する。
そのことに驚く二人。
驚きのあまりソウキは固まり、響は紙コップを落とし、よろめきながら後ろに倒れそうになる。
そんな響を後ろから抱き留めたのは神妙な顔持ちの翼であった。
「あ、ありがとうございますッ! 実は・・翼さんに助けられたのは・・・これで2回目なんです!」
「・・・2回目?」
翼と響がやり取りをしている間、ソウキは静かに距離を取っていた。
いくら彼が強かろうと、いきなり切りかかってくる人間に不信感を覚えるのは当然であり、その鋭い目つきには少々苦手意識を持っていた。
「おい。 どこへ行くつもりだ?」
そんな彼を呼び止めたのは翼からの攻撃を防いでくれたバイクの女性だった。
ヘルメット着用していた時の第一印象に違わなかったがそのヘアースタイルと目つきがどこかアンバランスにソウキは感じられた。
(勿体ない・・・)
不謹慎にも髪型をちゃんと整え、すこし荒れた肌を化粧で整えば化けるのにと考えていた。
「・・・なに人の顔見て黙りこんでんだ?」
「あ、いや・・なんでもない。 それよりもさっきは助けてくれてありがとう。 お蔭で助かった」
「気にすんな。 元々あんたには用があったんだ。 悪いが、あたしらの本部まで来てもらう。 文句は言わせないぜ」
そういうといつの間にか彼の周りは大量の黒服にサングラスの男たちに囲まれていた。
そしてその中には頑丈そうな手錠に嵌められていた響の姿もあった。
「・・・確認したいんだが、あの子の安全は保証して貰えるんだよな?」
「ああ。 あたしらは別に非合法な組織じゃない。 そんな非人道的なことはしねーよ。 あたしが保証してやる。 まだ文句あるか?」
「・・・いや、信用しよう。 どっちらにせよ、俺も君に聞きたいことが出来たんだ」
「ではとりあえず、早くその姿を解除して貰えませんか?」
「・・・・・・・え゛」
後ろから翼が手錠を持って近づいてくる。
そのことは別に構わなかった。 しかし彼女の台詞を聞いてソウキは重大なことを思い出したのであった。
「えっとあ~と。 その、このままじゃあダメでしょうか?」
「ダメに決まっています。 戦闘形態を維持した者を本部に連れて行くわけにはいきません」
「それはその通りなんですがね・・・・」
「なにか不都合でも? なら無理やり切り剝がしましょうか?」
「待って!待って! 俺死んじゃうよ!? これ脱げないから!?」
「詭弁をッ! あなたが一瞬でその姿になったのは分かっていますッ! やっぱり怪しい・・・ッ! かくなるうえは実力で・・・」
「分かった! 分かったから! ・・・・立花ちゃん、目を瞑っててくれない? なにがあっても目を開けないでね?」
「えっと、はい、分かりました?」
訳も分からず目を瞑る響。
閉じた瞼も貫くほど強烈な光が感じられたがそれでも言いつけを守り、目を瞑り続けた。
しかし・・・
「「・・・・・キャーーーーッ!!!!!!??」」
翼と奏の、そして他にも周りにいた女性の悲鳴が聞こえ、何事かと思わず目を開いてしまった。
何が起こったか説明する前に説明をしておこう。
これは不幸な事件であった。
2種類のまったく異なるシステムという名の常識がぶつかり合ったが為に起こった不幸である。
戦姫たちが身に纏うスーツ、シンフォギアシステムはそのスーツを身に纏う際、着用していた衣類は自動的に格納され解除の際には自動的に元通りになる親切、いや、乙女が使用する物としては最低限の機能が組み込まれている。
一方、鬼の場合はスーツを身に纏うのではなく、自身の体を変化させたものである。つまり、衣類ではなく鬼そのもの肉体であり、有り体に言えば裸である。 そして、変身の際に発生する膨大なエネルギーにより身に着けていた衣類は消滅してしまい、新たな衣服に着替えなければならない。
だが彼は緊急事態とは言えそのことをすっかり忘れていたのだ。
予備の服は遥か静岡に置いてきたバイクと共に置き去りの状態である。
そのため、姫の方は自分たちの常識に当てはめて鬼に同様の武装解除を要求してしまい、鬼は後先考えず、孤立無援の状態であることも考慮せずに変身したのが事件の真相であった。
その結果が・・・、青い顔しながら大事なところを隠し、ベルト以外は全裸の変態的な格好をしたソウキと、耳まで真っ赤にして顔を手で覆っていた2人の姫たちの姿があった。
・・・ほどなくして、3人目の姫がその仲間になったのは言うまでもない。
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