シスタは今戦場を俯瞰から見ていた。ヴェルグリンドが本気で暴れたらさてさて今の僕に止められるかどうか。さてとそろそろ準備をしよう。空間から刀を出し腰に下げる。
「シスタのその姿久々かも。なんだかんだで抜刀はほとんど使わなかったから」
「まぁ確かに。けど相手はヴェルグリンドだからな」
「んーあの人ならシスタの方が強いと思うけどなぁ」
「それには私も賛成ですわ。シスタ様出られてはいかがですか?」
「まぁあいつらにもいい経験になるでしょ」
シスタはそういいビアンカとフローラの意見を聞き流す。2人はその姿にふと疑問を感じる。シスタが警戒しているのはヴェルグリンドではないのではないか。別の何かを警戒しているように見える。それほど態度と警戒するレベルがあっていない。
何か警戒に値するものがあるのだろうか?2人のそんな予感は戦いがかなり進んでから当たることになった。
戦闘が始まってからヴェルグリンドは一歩たりとも動かずに3人の原初の攻撃を凌いでいる。普通の人間であれば全身全霊で避けるような攻撃。それをヴェルグリンドは手だけで全て防いでいる。
「ここまで舐められると悔しいわね」
「確かにな。ヴェルグリンド様は一歩も動いていないぞ」
「次はボクの毒だね」
ウルティマは手に毒を生成してヴェルグリンドに攻撃を仕掛ける。それも防がれるのだが今までとは様子が違う。防いだ瞬間にヴェルグリンドの顔色が変わる。
「これはなかなかに厄介な毒ね」
「そうでしょ。あのゼギオンですらこの毒を喰らって動きが鈍ってたからね」
「けれど」
ヴェルグリンドは並列存在を出してから毒を喰らった方の並列存在を消す。すると毒は綺麗に消えていた。
「ウル、あの毒でどんどん攻撃してちょうだい。おそらく並列存在が何かを喰らってから消えると本体の魔素量が減るわ」
「りょーかい。ならどんどん行くよ」
ヴェルグリンドは自身の認識を誤っていた。原初などおまけにすぎない。自身の手札という点でシスタを手に入れることさえできればあとはどうでも良かったのだ。しかしその認識は誤りであることに気づく。目の前の3人も侮ることなどできない強者の者たちなのだ。
「あなたたちを侮っていたことは謝るわ。その上で帝国に服従しないかしら?」
「「「断る!」」」
「そうなら本気で服従したくなるように全力で相手をすることにしましょう」
ヴェルグリンドが魔素を限界まで高めていく。それは並の人間なら立っていることですら不可能なほどの高まりだ。
しかし3人は倒すべき相手の姿をはっきりと見据えて武器を構える。
その時だった。空中に黒より黒い魔法陣が出現したのは。それに初めに気づいたのはウルティマだ。
「なにあれ?」
「ヴェルグリンド様が呼んだ新たな援軍でしょうか?」
その言葉にヴェルグリンドの後ろに出現した魔法陣を見る。あんなもの自身ですら知らない。しかし見ているとまるで兄上と対峙した時のような恐怖を覚える。
「なにかしらあれ」
「ヴェルグリンド様ですら知らないとは」
そしてそこから1人の人間が出現する。出現したのは確かに人間なのだが4人は恐ろしく戦慄を覚える。あれはどうにかなる相手ではない。4人が飛び掛かるまでそう時間はかからなかった。
僕は4人の戦いを見ながら自身の警戒を高めていく。そしてそれは起こったのだった。魔法陣から1人の女が出現する。しかしその纏っている重圧は他のやつとは比べ物にならない。あれは化け物だ。
「来たか」
その女はまるで戦場の状況がわかったかのようにゆっくり動き出す。それに呼応するようにあの4人が動き出したのだ。
嫌な予感がしたがこんなところで当たるとは想定だったのですぐに行動する。そして間に入るように移動するとそこに剣が振り下ろされる。認識できる速だったので刀で受け止めた。二つの刀がぶつかる音は戦場中に響く。
「あら、防がれるなんて想定以上だわ」
「馬鹿が。防いてなんていねーよ」
その言葉と同時にシスタの肩に切り傷が入る。それは深くもないが決して浅くもない傷だ。
「「シスタ様!」」
「我が君」
「お前ら早く逃げろ。戦争は終わりだ。こいつの狙いはヴェルグリンド、お前だ」
「あらあら、気づかれていたのね。そう私の目的はそこにいる竜種ヴェルグリンドなのよ」
「なるほどね。竜種を集める理由は他所に攻め込むためだ」
「御名答。あなた私の部下にならないかしら?」
「そこまで考えてるなんてあの方が仰った通りね。あなたは消すしかないみたいね」
「なら始めから部下になんかしようとするな」
「ふふ、私気に入ったものは必ず手に入れるタチなの」
それ以上の問答はなく2人は斬り合う。ヴェルグリンドから見ても2人の技術にそれほど差はないように見える。片方が斬りつけるとその瞬間にやり返している。しかし体の傷は別だった。シスタの体には目に見える数が増えていく。それに比べて相手の傷はすぐに回復していく。
「んーこのままじゃ勝負がつきそうにないね。そろそろ本気の一端を見せようかな」
「は、言ってろ」
それに反応するように女の目の色が変わる。片目だけだが輝くように光を放つ。それはシスタにとって最悪の光となるのだが今この時はまだ知ることはなかった。