ペプシマン。それはヒーロー。ペプシを求める人の為、日夜走り続けペプシを届ける。彼にかかればいかなる障害であろうとも、彼の走りを完全に遮ることはできない。
そんなペプシマンは今日も走っていた。ペプシを求める人々の元へ。車や鉄筋をジャンプで避け、看板をスライディングでかわして走り続ける。時折避けきれずに挽かれたり看板が顔面に命中してもめげずに走り続けるペプシマン。だが、今日の彼は大きなミスを犯してしまった。
道路に空いた巨大な大穴。本来ならば横を走るべきなのだが、急ぐあまりに彼はジャンプダッシュで飛び越えようとした。僅かな距離であったが、飛び越えることができず、彼はそのまま暗く深い穴の中へと落下していった。「あーーーー」と言う叫びと共に。
この日、ペプシマンはこの世界より姿を消した。
「う……う~ん」
気が付くと、ペプシマンは地面の上にうつ伏せに寝転がっていた。慌てて起き上がって辺りを見渡してみると、そこは鬱蒼とした森の中であった。風で木の葉が揺れ、小鳥のさえずりが聞こえる。
「ここはいったい……? 私はペプシティにいたはずだが……」
目の前の光景に困惑するペプシマン。だが、徐に後ろを振り返ると、その先を見据える。
「この先に……ペプシを求める人が居る!」
ここがどこなのか関係ない。重要なのはここにペプシを求める人が居る。ならば彼はそれに答えて走り出す。それが彼の使命なのだから。
彼は森の中を走り抜ける。途中で木の根っこに引っ掛かってこけようとも。避けようとしてジャンプしたら木の枝に顔面を強打して蹲ろうとも。地面から露出した岩を踏んで痛みに悶えようとも。彼は走り続ける。ペプシを届けるために。
「暑いんだぜー」
「暑いわねー」
その日、麗夢と魔理沙は博麗神社の縁側で横になっていた。元々は魔理沙が遊びに来たのだが、この暑さでやる気を無くしたのである。
「あー、暑いー。なんか冷たいものでも飲みたいわね……」
「香森のところで飲んだやつが恋しいんだぜ……」
「あの缶ジュース? とかってやつだっけ。美味しいの?」
霊夢の問いに、魔理沙は寝ころびながらも深く頷く。
「あのシュワーってなるのは病みつきになるんだぜ……。あー、ペプシ飲みたいんだぜー」
そういって両手を上へと伸ばす魔理沙。その時鳥居のほうから何やら物音が聞こえてくる。
「ん……? なんなんだぜ?」
聞き慣れぬ音に訝しみ、魔理沙は鳥居のほうへと視線を向ける。すると、石畳のほうから何やら砂埃が立っていた。
「ん? 誰か走ってきた……んだ……ぜ……?」
石畳を駆け上ってきた存在を見て、魔理沙は言葉を失った。そこにいたのは上半身の左半分と下半身が青色、上半身の右側と頭部は銀色。胸元には魔理沙が以前飲んだペプシコーラの缶に描かれていたマークがついている、のっぺらぼう……ペプシマンだったのだ。
「魔理沙ー、どうかした……の……?」
魔理沙の様子に不信を抱いた霊夢もそちらを向き、言葉を失う。
そんな二人をよそにペプシマンは砂埃を上げながら二人の元に走りよると、どこからともなくペプシ缶を取り出し、徐に飲みだした。
「「は?」」
突然の行動に呆ける二人をよそに、ペプシマンは一気にペプシコーラを飲み干すと、徐に右手を突き出し、口を開くと。
「プシャーーー」
と叫び、そして再びどこからか取り出したペプシ缶を二人に差し出した。
「さぁ、これを飲みたまえ」
そう言われ、取りあえずペプシ缶を受け取る二人。
「え……と。ねぇ魔理沙。これってあんたが前に飲んでたやつなの?」
「うん、同じやつなんだぜ。確かここを引っ張って……」
そう呟きながら、魔理沙はペプシ缶を開ける。すると、そこからは炭酸の弾ける涼しげな音と共に、ペプシの甘い匂いが漂ってくる。それを見て、霊夢も同じように空ける。
「じゃぁ、頂くんだぜ」
そういって、魔理沙は二口、三口、ペプシコーラを喉に流し込む。そしておもむろに口を離すと。「プハー」大きく息を吐いた。
「あーっ。美味いんだぜー。霊夢、お前も飲んでみるんだぜ」
魔理沙に促され、霊夢も恐る恐る口を付ける。
「ん……ケホッ。何よこれ。なんか弾けるような……」
「この飲み物はそれがいいんだぜ。一口、一気に喉に流し込んでみるんだぜ」
そう言われ、霊夢は恐る恐る一気に喉に流し込んだ。すると、炭酸の弾ける感覚が喉を通り、一気に体内へと滑り落ちていく。
「ケホッ……うん、確かに悪くはないわね……」
「だろ?」
「うむ、喜んでいただけて何よりだ」
ペプシコーラを飲む二人を見て、ペプシマンも満足そうに頷く。
「あー……で、あんた誰よ?」
霊夢の言葉に、ペプシマンは「プシャーーー」と言った時と同じポーズをとる。
「私の名前はペプシマン。ペプシコーラを求める人にペプシコーラを渡すのが私の使命……。ところでお嬢さん方。ここは一体どこなのだろうか? 私はペプシティを走っていたはずなんだが……」
ペプシマンの自己紹介に二人は顔を見合わす。
「どこって……ここは幻想郷の博麗神社よ。そんなのも知らないって事は……あんた、外の世界から迷い込んだのね」
「幻想郷? 外の世界? 一体どういうことなんだ?」
困惑するペプシマンに、霊夢は幻想郷と外の世界との事を教える。最初は懐疑的なペプシマンであったが、二人が空を飛んだり魔法を使ったりするのを目の当たりにして流石に信じざるを得なくなった。
「うむ……にわかには信じられないが、少なくともここがペプシティから遠く離れた場所であるというのは理解できた」
「そう。それなら飲み物のお礼もあるし、紫に言って、外の世界に帰れるようにしてあげるわ」
霊夢の言葉にペプシマンは「ありがたい」と言いかけて口をつぐむ。
(この世界……彼女たちの言うことが正しいのであればペプシを販売どころか製造すらしていないんだろう……ならば、この世界にペプシを広めることが私の役割でないのか?)
「? 何よ、どうかしたの?」
黙り込んだペプシマンに、霊夢が怪訝な視線を送る。
「霊夢さん、魔理沙さん。私はまだ帰るわけにはいかない。二人の話を聞いた限りだと、この世界にはペプシが存在しないに等しい。ならば、この世界にペプシを広めることが私の使命なのだ」
そこまで言うと、ペプシマンは二人から目を離し、鳥居のほうへと視線を向けた。
「聞こえる……どうやら他にもペプシを求める人も居るようだ。ならば、私は行かなければならない。では、また会おう」
そう言い残しペプシマンは再び砂埃を上げて走り出していった。
「……なんだったのかしらね、あれ?」
「まぁ、これからはペプシが飲めるみたいだし、いいんじゃないか?」
「まぁね……でも」
霊夢は半分ほど飲んだペプシの缶に視線を送る。
「これ、どうやって処分すればいいのよ? 燃えなさそうだし……」
「それは……私も知らないんだぜ」