ペプシマンとにとりが修理に着手して数日が経過した。そしてその結果……自動販売機は完全に修理された。
「いやー、良い出来だよ。頑張ったかいがあるねー」
そう言って、修理された自動販売機を見て、にとりは会心の笑みを浮かべる。
「なんとまぁ……本当にできるとは……これが河童の科学力なのか」
ペプシマンの視界に映る物。それはまごうことなき、彼がよく知っている自動販売機であった。ただ、自動販売機の側面には本来ないはずのハンドルのようなものが設置されている。
「元の金属だと重すぎるから、私の作った合金で軽量化に成功。更に脇のハンドルを回せば一日分の充電を賄える。いやー、流石私、いい仕事をしたよ」
腰に手をやり、胸を張るにとり。ペプシマンもそれに大きく頷く。
「これが普及すれば、この幻想郷にペプシを普及する大きな一歩になるな」
その光景を想像し、胸の躍るペプシマン。だが、にとりは首を横に振った。
「いやー、流石にこれの量産をするには材料がないよ……材料買おうと思ったら先立つものがねぇ……。あんたはお金ある?」
「む……私もこの世界のお金は持っていないな……ふむ」
しばらく考え込むペプシマン。だが、しばらくして考えが思いついたのか、徐に頷いた。
「にとりさん。ならば、この自販機の売り上げで資金調達をする事にしよう」
「おー、それはいい考えだね……って、ヒーローがお金をとってもいいの?」
「もちろん、本来ならば私はお金は受け取らないのだが……。ペプシコーラは元々ペプシ社の商品だ。私が無料でペプシコーラを渡すのは商品のPR活動を兼ねているからでもあるし、何よりこの先私はいずれ幻想郷を去らねばならない。そうなる前にペプシコーラの量産及び普及、販売の維持を考えればどうやっても先立つものがなくてはならない」
ペプシマンの言葉ににとりは二、三回頷く。
「なるほどねぇ。ヒーローにとっても世知辛い世の中なんだねぇ。よし分かった。お金が入ったら、それに応じて自販機。そしてペプシコーラの量産も手を貸そうじゃないか」
「おお、本当かにとりさん」
「うん、だからしっかり稼いでくれよ」
にとりはそういうと、親指を立てて、良い笑顔でペプシマンを見つめる。
「もちろんだ……。さて、そうなるとこれをどこに設置すべきかだな」
「人里には置けないの?」
「うむ……人里のほうにはまだ行った事がなくてね。最初はまず知っている場所に置いておきたいが……博麗神社ならどうだろう」
ペプシマンの言葉に、にとりは微妙な表情を浮かべる。
「ああ、あそこならまぁ、人も妖怪も来る可能性があるし、悪くないけど。でも、霊夢ってがめついから絶対にショバ代とか要求されるよ?」
「いや、場所を借りて、自販機の管理もしてもらうのだ、ある程度お金を払うのは外の世界でも変わらないよ。……とはいえ、どうやって博麗神社に持っていくか……」
周りは深い森。更にはルーミアと言うペプシマンにとって謎の妖怪まで居るありさまである。自販機のような重く巨大なものをどうやって運ぶつもりなのか。
「やはり背負って走るしかないか」
ペプシマンの口から出た言葉に、にとりはため息をついた。
「ここから博麗神社までどれだけあると思ってるのさ。それにルーミアとかに襲われたら、あんたはともかく自販機が壊れるでしょ……。ちょっと待ってて」
そう言うと、にとりは倉庫の中に入っていき、しばらくして両手で何かを抱えて出てきた。
「はい、これ」
「これは……マントと……ベルト?」
ペプシマンが受け取ったのは片方は赤いマント。もう片方は革で作られたベルトだった。
「それは紅魔館の魔法使いと協力して作った試作品でね。取りあえずマントのほうを身に着けてジャンプしてみて」
「む……? よくはわからないが……」
首をかしげながらもペプシマンはマントを身に着け、ジャンプしてみる。すると、そのままペプシマンは地面に着くことなく、そのまま宙を浮いていた。
「おお! これはまさか……空を飛ぶことができるのか!」
「そう! 魔法と科学で作られた作品さ! ……ただ、それはまだ未完成品で、30分ぐらいしか空を飛ぶことはできないんだ。その後は一日魔力のチャージをしないといけないんだ。で、もう一つのほうなんだけどね」
にとりはベルトを腰に巻き付けると、ゆっくりと片足を上げ、そして段差を踏むように足を宙で止めたと思うと、もう片方の足を上げ……宙で止まっている片足を同じ高さで静止した。
「おお!?」
その光景に驚くペプシマンを見て、にとりは満足そうな笑みを浮かべる。
「ふっふっふっ。これも空を移動するための機械さ。……と言ってもそのマントみたいに飛ぶんじゃなくて、簡単に言うと見えない足場を作るって所かなぁ。でもね、その足場を維持し続けるには自分が足場をイメージし続けないといけないから、気を抜くと」
そこまで言った所でにとりは宙から地面に着地した。
「こんな風に足場が消えて落ちちゃうんだ。でも、イメージし続ければずっと維持できるから集中力さえあれば問題ないよ。それに落ちたとしてもマントで飛べば助かるし、あんたの腕力なら、自販機落としてもなんとか地上まで無事に降ろせるでしょ」
「もちろんだ。だが……少し練習はしておきたいな、貸してもらえるか」
「はい、どうぞ」
にとりからベルトを借りたペプシマンは装着すると、早速外に出て、そのまま恐る恐る宙に一歩を踏み出し、そのまま二歩、三歩と宙を歩いていく。
「お、おお……これは凄い! 素晴らしいぞ!」
歓喜に震えるペプシマンを見て、にとりは満足げに頷く。
「どうやら満足してもらえてるみたいだね。いやいや、そこまで喜んでもらえると私も作った甲斐が……ってあれ?」
にとりが気づいた時にはペプシマンは既に十メートル程の高さの宙を走っていた。
「これなら……これならもうイノシシに吹き飛ばされたり車に引かれたり、謎のバイクに襲われることもない……素晴らしいぞー!」
感極まった様子で宙をジャンプするペプシマン。だが、その時に集中が崩れたのだろう。ペプシマンの体はそのまま宙を落ちていく。
「アーーーーー!」
マントを起動する事すら忘れ、絶叫と共に地面に落ちていくペプシマンに、にとりは深くため息をついたのだった。