墜落し、頭部が完全に地面に埋め込まれたペプシマンを引っ張り出し、にとりはまず数時間、ペプシマンに宙を歩く訓練をさせた。流石に自動販売機をあの高さから落とされるわけにはいかない。
そして何とか集中力を維持できるようになったペプシマンは、にとりお手製のもっとも大きく、頑丈な台車を借りると、それに自動販売機を載せ、宙を歩きだした。
最初は緩やかな坂を上がっていくイメージ。そしてペプシマンの位置が森の木々よりも上になった頃に平面な道を思い浮かべる。これにより、ペプシマンは森の木々の上を無事に台車を押しながら歩くことに成功した。
勿論、傍から見ればシュールこの上ない光景なのだが、当事者であるペプシマンは必死であった。気を抜けば自動販売機もろとも、ペプシマンは地上に真っ逆さま。マントの力で持ち直す事が出来るとはいえ、頻繁に下に落ちていては30分などあっという間に使い切ってしまうだろう。更に、ルーミアのような妖怪に襲われてはひとたまりもない。
(早く……早くせねば……)
焦る気持ちを抑え、必死に足元に道があると意識を集中するペプシマン。その甲斐もあって、遠目に博麗神社が見える所まで無事に歩くことができた。だがその時、一陣の風と共に、背中に黒い翼を生やした少女が彼の目の前に現れた。
「あやや。ちょっとすみません。取材させていただいてもよろしいですか?」
取材。それ自体はペプシマンは今まで何度も応じてるし、人前に出ることは彼にとって苦痛でもなんでもない。普段の彼ならば喜んで応じていただろう、だが。
「……取材……です……か……」
長時間意識を集中させ続け、今もそれを持続しなければいけない彼に、普段通りの反応をするだけの余裕はなくどうしても反応が鈍くなってしまっている。
「はい。最近幻想郷のあちこちで謎の妖怪がペプシと言う飲み物を配り走っているという話を聞きまして。貴方がその妖怪なんでしょうか?」
「違い……ます……私はペプシ……マン……妖怪では……」
まずいつも通り妖怪でないと伝えようとするペプシマン。だが、言葉を出すたびに集中力が切れそうになっている。
「あやや。どうかされましたか? 気分が優れないのですか?」
そんなペプシマンの様子を見て、更に少女が話しかけてくる。
「いえ……そう言うわけでは……」
「では、取材に答えて頂きたいので、取りあえずこっちを向いてください」
そう言って、少女は強引にペプシマンの顔を己のほうに向けさせる。
「ちょ……アッ……」
その瞬間、ペプシマンの集中力は途切れ、そのまま自動販売機と台車と共に地上へと落下していく。
「アーーーー!」
声を上げながら落ちていくペプシマン。だが、すぐに自動販売機と台車の事を思い出し、マントを起動させて自動販売機を抱え上げようとする。
「ぬ……。お、重……い……」
当然ながら、自動販売機は重く、にとり特製仕様の為に軽い素材を使っているが、その重量は100kgにもなる。いかにヒーローたるペプシマンであっても、今の状況で抱えあげられるものではなかった。
「こん……じょおおおお!」
力を振り絞り、なんとか自動販売機の落下を阻止するペプシマン。そのまま少しずつ地面に降りていき、ゆっくりと自動販売機を地面に下した。
「あやや。大丈夫ですか?」
そこに先ほどの少女が空から降りてくる。
「な……なんとか……あ、台車台車」
慌ててペプシマンが探すと、すぐ近くに傷一つなく地面に転がっている台車の姿があった。
「ふむ……流石にとりさんの台車……なんともないな」
「あやや。これはにとりさんのでしたか……。それで、取材に応じてもらえますね?」
マイペースに聞いてくる少女の態度に、もとの世界でのマスコミのそれと同じ物を感じたペプシマンは、取りあえず自動販売機を運ぶよりも先に取材に応じることにした。また邪魔されてはたまらない。
「うむ、構わないが……その前に貴方の名前を教えてもらえるか?」
「あや、これは失礼しました。私は射命丸文。この幻想郷で新聞を発行している天狗です」
天狗と言う新しい妖怪の種族の名前に、なぜ自分はこうも妖怪に会うのか。と疑問に思いながらも、ペプシマンは聞かれるがままに元の世界での素性、この幻想郷での目的、そしてこの自動販売機について話す。
「ふーむ、なるほど。中々面白いですね……。それで、この自動販売機を博麗神社に運ぶと」
「うむ。だが、こうやって下に降りてしまったのでは、運び終えるまでにもう少々時間がかかりそうだ」
そう呟くと、ペプシマンは自動販売機を台車に載せようと抱え込む。
「あ、待ってください。落としたのは私のせいですし、私が運びますよ」
「む……いや、しかし、その体では……」
文の言葉にペプシマンは改めて文の姿を見てみる。明らかに華奢な少女であり、とても力仕事が得意なタイプには見えない。そんな彼女が手伝うと言って、簡単に手伝えるほど自動販売機は軽くない。
「大丈夫ですよ。さ、行きますよ」
そう言うと、彼女はどこからか団扇を取り出すと、それを自動販売機に向かって仰ぎ始める。すると、自動販売機の下から強烈な風が吹きあがりだしたと思うと、徐々に自動販売機が空に浮かび始める。
「おお!?」
その光景に驚くペプシマンを尻目に、自動販売機はどんどん上へと昇っていく。
「それでは、このまま博麗神社へと運びますよ」
「あ、ああ。慎重に頼む」
多少心配であったペプシマンであったが、文は順調に自動販売機を運んでいく。そして20分ほどして無事に博麗神社までたどり着いた。
「……なんか珍しい組み合わせね。あんた達、いつのまに知り合ったの?」
博麗神社に到着した二人を、ちょうど掃除をしていた霊夢が迎える。
「つい先ほどそこで取材させていただきまして。実は、この後は霊夢さんと合わせて取材させていただきたいのですが」
自動販売機を慎重に地面に下しながら、文が答える。
「取材? ペプシマンに関する事なら本人に聞けばいいじゃない」
「いや、霊夢さんにお願いしたい事があるんだ、実は……」
首をかしげる霊夢に、台車を自動販売機の隣に置いてから、ペプシマンは事情を説明した。
「ふーん……それで、どれくらい私にお金は入ってくるの?」
「うむ……当分は私の生活費やにとりさんへの投資もあるし、一月毎に売り上げの三割でどうだろうか?」
ペプシマンの提示した条件に、霊夢は顔をしかめる。
「安いわねぇ。充電とか管理とかも私にやらせるんでしょ? もっと出しなさいよ」
「む……しかし、自動販売機が量産できなければ収入は増やせないし、私が飢え死にしては元もこうも……」
「生活ならここですればいいじゃない」
「は……?」
霊夢の言葉にペプシマンは一瞬言葉を失う。
「あんたがここで生活したらペプシの補充もできるし、充電もできるし、いいじゃない。家事を手伝ってくれるなら家賃も安くするわよ。食費は絶対に出してもらうけど」
「いやしかし、一人暮らしの女性のお宅に男が泊まるというのは……」
「……あんた、男だったの?」
「え、あなた人間なんですか?」
霊夢と文が頭の上に疑問符を浮かべる。
「いや、確かに私は人間ではないが……男ではあるんだぞ」
「別にいいわよ。悪い奴じゃなさそうだし。なによりお金を得るためなら男でも気にならないわ」
「いや、そういう問題ではないのでは?」
「私が気にしないって言ってるんだから良いでしょ。さ、客室の掃除しなくちゃ」
戸惑うペプシマンを尻目に、霊夢は神社の中へと入っていく。
「あやや。霊夢さんは一度言い出すと聞かないですからねぇ。諦めたほうがいいと思いますよ」
「は……はぁ……」
未だ困惑しているのか、文の言葉にもペプシマンは曖昧な返事を返す。
「ただ……注意してくださいね」
そう言ってペプシマンの肩に手を置く文。そこでやっとペプシマンも文の言葉に意識を向ける。
「彼女の事を慕っている妖怪ってけっこう居るんですよ。おまけに、それが鬼とか吸血鬼とか幻想郷の中でも相当強い方々ですから、うまく霊夢さんに取り入っておかないと危ない目に遭いますよ?」
その言葉にペプシマンは恐る恐る、文に問いかける。
「……ところで、ルーミアやにとりさんは妖怪としては……?」
「あの二人ですか? ルーミアははっきり言えば妖怪の中では弱い分類ですし、にとり……正確には河童ですけど、これも鬼とかに比べたら格下ですね」
その言葉に、心なしかペプシマンの顔が青ざめていくように、文には見えた。
「ほら、あんた達も手伝いなさいよ」
神社に戻っていた霊夢が二人に声をかける。
「あ、はい。お手伝いしますね」
「う、うむ。わかった」
霊夢に促され、二人も神社の中に入っていったのであった。