イリヤを救う為なんだ!   作:大いなる犠牲

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おかあさん

今回の聖杯戦争はどうにもキナ臭くて、調査するために街に降りたらあの子に出会った。

 

朝見たときは惨めで情けなくて……つい殺したくなるような顔をしていたから無視しちゃったんだけど、今の彼は少しだけ私に似ていた。だから、少しだけ興味をもって話し掛けたのだ。

 

 

――俺は、誰にも桜を奪われたくないッ!!

 

あぁ。と感嘆の息を漏らす。

 

「大切な人を守りたいって言うなら、私はシロウの味方だよ?」

 

壊れそうなぐらい思い詰めた彼の顔に両手を添える。

本当はキリツグとシロウには復讐してやろうって思っていたけど、キリツグはもう居ないし、シロウは苦しみは痛いほど理解出来る。

弱い自分が情けなくて大切な家族が壊れていくのを、ただ傍観することしか出来なかった私と、頼りのセイバーもいなければ魔術師として半人前の……だけど間桐桜を心の底から助けたいって願っているシロウ。

 

私たちは同じ苦しみから足掻いている。『あの子』はどうしようもなく壊れていて、《あの子》は絶対に死ぬ運命にあるのに……二人は絶望の中で足掻いているのだ。

 

だから特別に許してあげることにした。

 

「いってらっしゃい」

 

少年を見送り、少女は笑う。

 

「―――少しだけウルの様子を見てから戻りましょうか」

 

イリヤは鼻歌を歌いながら踵をかえした。

 

 

 

 

 

 

「おかあさま!」

 

「こらこら、お姉ちゃんでしょう?ダメだよウルエ」

 

玄関前に立ち、花色の笑みを浮かべながら飛びついてくる少女を抱き止めて、イリヤは嬉しそうに窘める。

 

「う……ん。ごめんなさいおねえちゃん」

 

私とお母様の区別がつかなくなったウル。何度も言い聞かせても《イリヤ()》という存在を認識出来ない可哀想な妹。

私をお母様だと認識しながら姉と呼ぶ彼女。

子が親に叱られたように項垂れるウルを優しく包みこんで頭を撫でた。

 

「ウルは良い子ね」

 

安心して身体を預けられたのか少しだけ重く感じる。12歳のウルは私よりも頭半個分小さい……とはいえ、成長の止まったこの肉体はこのまま寝落ちするのを支え続けられるほど頑丈に出来てはいない。

 

「ほら、このままだと冷えてしまうわ。家の中に入って温かい紅茶を淹れましょう」

 

「うん、わかった!」

 

促すようにウルの背中を押して、

それから少しだけその家に留まり完全に日が沈まぬ内にアインツベルンの別荘へと戻った。

 

ウルは悲しそうな顔をしていたが、お爺様との約束は夜二人が一緒にいること。それは禁じられている。

キャスターの魔術で拒絶できる簡単なギアスだけど、これは私にとって都合が良かった。

 

(だってこうでもしないと、私あの子から離れられないもの)

 

まったく、これではどっちが依存しているんだが分からない。

 

イリヤが吐いた白い息は夜空へと吸い込まれていった。

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