イリヤを救う為なんだ!   作:大いなる犠牲

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教会にて

「衛宮切嗣……ヤツは初めからあったモノを切り捨て、私には初めから、切り捨てられるモノがなかった。

 

ウルエ・フォン・アインツベルン、彼女は善悪の区別もないまま得る筈だったものを奪われ、偽りの愛に縛り付けられた。

 

確かに肉親というだけあってあの男と娘の在り方は似ている。

―――しかし、ウルエはヤツよりも私に近しい」

 

新都にある教会。

礼衣服に十字架を掲げた一人の神父は神の偶像に目をやり瞳を閉じる。

 

「その枷から解き放たれた時、目覚めるのは『極悪人()』か『幸せモノ(あの男)』か……見極めなければならない」

 

礼拝堂をコツコツと歩く音。

 

「―――そうか、お前が動いてくれるのか」

 

 

「興が乗った。あれを人かホムンクルスのどちらと見なすか……(オレ)自ら裁定を下してやろう」

 

金色の影が揺らめき、男が振り返った時そこには何もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「目覚めたかね、少年?」

 

朧気な視界に映る男の姿。

走馬灯のように直前までの記憶が遡り、ハッとなって衛宮士郎は肉体を起こし左右を見渡した。

 

「遠坂、イリヤ!」

 

共にいた仲間達の名を叫び、ゴツンと重々しい拳が振り下ろされる。

 

「イッッッ!!?」

 

「施術はどうやら失敗したようだな。目覚めてすぐに女の名を叫び散らすとは脳に重大な障害を抱えたやもしれぬ」

 

真っ白になった視界が白と黒に点滅する。

 

「やめさない!シロウは怪我人なんだから!」

 

「……い……りや?」

 

イリヤは大柄な男に掴みかかり、状況は分からないがイリヤが生きていたことに安心を覚える。

 

「何がどうなってんだ」

 

無意識に、感覚のない左手を右手で抑えながら衛宮士郎は呟いた。

 

 

 

 

 

「……そうか、この左手はアーチャーの」

 

数分後。イリヤの城で謎の影と変容したセイバーに襲われ、重傷を負った俺たちは比較的軽度であった遠坂に運ばれ教会で治療を受けたのだと聖杯戦争の監督役である言峰綺礼から説明を受けた。

 

そして、この浅黒く変色した左手はアーチャーのものを移植し限定的に受肉した英霊の一部であることも。

 

「一度使えば貴様はアーチャーの腕に侵食され、やがて食い破られるだろう」

 

「分かってる……これを使うつもりはない」

 

この左手に巻かれた赤い布は封印だ。

これを解いて魔術回路を起動すれば、アーチャーの魔術回路と接続し、理論上は同じ力が使えるようになるらしい。しかし人間が半精霊化した英霊の力に耐えられる訳もなく、一度でも使えば俺の身体は内側から溢れでる力を抑えきれずに破裂すると脅しつけられ、イリヤからは絶対にそれを使うなと念を押された。

 

「――これで、残るサーヴァントはアサシンとライダー、それにキャスターか」

 

臓硯とあの影を倒すため、イリヤを頼ろうとしていた士郎達は振り出しに戻ったことになる。

 

「キャスター、そう言えば全く動きを見せていない陣営が一つあったわ」

 

「……味方なのか?」

 

「さぁ、でも敵の敵は味方と言うし上手く利用できれば」

 

「ダメよ、絶対に」

 

少女――イリヤスフィールは胸に手を当て悲しそうな感情を表面に浮かべながら、現状の関係に罅を入れる鋭い言葉を放った。

 

「シロウ、貴方には協力させる事はできない。凛、どうしてもキャスターの助力を得たいのならシロウとの同盟を切りなさい」

 

「へぇ、その様子だと何か知ってるようね」

 

どうもアインツベルンのマスターはキャスターのマスターと繋がりがあるらしい。

 

「良いわよ。どんな理由があるかは分からないけど、これ以上衛宮君と同盟を組んでいるメリットはないし、今は藁にもすがりたい思いなの」

 

「ッちょっと待て!それじゃあッ!」

 

淡々と進められる駆け引き。そこに躊躇う余地などなく、衛宮士郎は切り裂くように声を上げた。

 

「――衛宮君。同盟を解消してなんだけど、別に私はサーヴァントを失った貴方にどうこうしようとは思わない。貴方が桜の為に動くと言うのなら止める気はないし勝手にすればいいと思う」

 

この聖杯戦争は何かがおかしい。

英霊を飲み込むあの泥に謎の影。その背後で暗躍していると思わしき間桐臓硯。

彼には悪いが、これでも冬木の管理者としての立場上、役に立ちそうにない駒を抱えて立ち止まっている訳にはいかなかった。

 

「…………」

 

イリヤは一度だけ士郎に視線を送り、凛へ向き直る。

 

「夜明けにキャスターのマスターと会わせてあげる」

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