イリヤを救う為なんだ!   作:大いなる犠牲

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過去にあったもの

「……おねえちゃん」

 

窓枠に肘を当て物憂げに景色を眺める。

 

聖杯戦争が始まってから早四日。各々の陣営が動きを見せる中、未だ沈黙を保ち続けるウルエ達キャスター陣営。

元々、キャスタークラスで召喚される英雄は魔術師として逸話を残した者が多く……その前例に漏れなくして召喚されたのは純正たる魔術師にして完全な後衛タイプの英霊だった。

 

高次元の存在となった英雄は英霊となる際、世界からの後押しを受けて、後天的に才を授かる者もいるという話だが少なくとも英霊となった彼女に近接戦の心得は全くないらしい。

 

姉の使役するバーサーカーの石剣に魔術的な強化を施して以来、この拠点にある工房に籠ってひたすらに防衛を固めていた。

それに不服を申し立てるほど、ウルも魔術師として新参ではない。この家はごく一般の家屋を偽造しているが、その中身は全くの別物。いや、別世界と言っていい。

 

ジャパン人はよく物の大きさを東京ドームで例えるらしいが、その1/2個分の広さと言えば、その凄さが分かるだろう。

 

「……はぁ」

 

しかし、ハッキリ言って退屈していた。

姉にも会えず、父親の捜索すら行えない。この街に来た目的の半分以上を父親との再会という感情で占めていた彼女にとって、それはアハト翁の“調整”にも匹敵する精神的な苦痛であった。

 

(……抜け出そうかな)

 

彼女は考える。別に姉に近づかなければ出禁という訳でもない。

仮にも戦争中、自身のサーヴァントは近接戦不向きであるから、もしもの時を考えて自制的していたが……よくよく考えれば工房に引きずり込むのが目的ならば少しぐらい他の陣営に仕掛けても許されるだろう。

 

「キャスター、今夜にね。少しだけ出歩いてもいいかな?」

 

「……まぁ、貴方の年齢を鑑みればそろそろ限界だと思っていたわ」

 

キャスターは疲れたようにいう。

 

「私もこの島国の霊地に興味があったから……そうね新都のオペラハウス跡地、あの場所ならば問題ないでしょう」

 

 

―――夜

 

隠蔽・防御礼装をこれでもかとウルエに纏わせて、適当なタクシーを暗示でちょろまかした彼女は新都の街に降り立った。

 

「……流石にここにキリツグもいないか」

 

「悪霊の数が尋常じゃない……なに、ここ?」

 

落胆するウルエと恨み辛みを抱えた迷える魂が立ち込めるその場所に眉を歪めるキャスター。

 

ここは前回の聖杯戦争にて小聖杯を受肉させた霊地ということに伝えではなっているが、万能の願望器の降臨場所としてはあまりにも空気が淀んでいた。

これではまるで、戦場や処刑場にでもいる気分だ。

 

キャスターが聖杯に疑心を抱くのも無理はない。

直感スキルこそ持たない彼女であるが、四次聖杯戦争と同時期に起きた冬木の大火災という災害の情報を掴んだ時から薄々、嫌な予感を覚えていた。

 

「マスター、悪いけど夜遊びはもう終わりよ」

 

一抹の不安。急いで工房へ戻らねばと踵を返したキャスターは視界に納める。

 

「――ッゥ!?」

 

ウルエの横に立つ黒い影法師を。

 


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