イリヤを救う為なんだ! 作:大いなる犠牲
「……あの影は何なのか、それは貴方達ほどのマスターが令呪を失っているのを見るに知っているとみていいのかしら?」
ウルに纏わり付いていた黒い粘液の除去とそれに魔力を吸い取られて魔力欠乏による極度の消耗状態だったウルはひとまず絶対安静ということで寝かしつけられた。
疲れたようにソファーに腰掛けるキャスターの言葉にほっと息を吐く私は思わず感謝の言葉を告げていた。
「先ずは礼を言うわキャスター。
あれは英霊が触れてはいけないもの。貴方がウルの救護を優先させていなければきっと飲み込まれていたから」
「……飲み込む?
つまり、英霊の天敵と言うわけね。
対魔力を持つ三騎士じゃあるまいに、私の魔術を次々に無効化するものだから、どんな厄介なものかと思ったけどマスターの安全を優先して正解だったわ」
イリヤにはあれが自分と性質が同じ――つまり聖杯から生まれたものであることを感じ取っていた。
アインツベルンの聖杯として初代からの記憶を引き継ぐイリヤは、恐らくの原因である『アンリマユ』三次聖杯戦争でアインツベルンの失策が招いた聖杯の汚染が関係していることも把握している。
問題は何故それが聖杯から溢れだして英霊を回収するような真似をしているかということだが、それは間桐臓硯が裏で手を引いているのだろうと言うのが凛と二人で導き出した推論だ。
――余談だが、教会からそのままウルの下へと来たイリヤは間桐桜の異常性を理解しつつ、影との関連性を結びつけられずにいる。
「で、私とマスターに協力を申し込みたいようだけど、貴方は兎も角として、どこの馬の骨ともしれない小娘を信用しろと?」
「凛は役に立つわ」
「魔術師では英霊に勝てないのよ。
貴方はマスターの家族なのだからこの家に匿ってあげなくもないけど、セイバーを相手にじゃじゃ馬娘を抱えている余裕なんてないわ」
キャスターは何故自分が頼られているか説明されずとも理解している。
英霊に対抗できるのは英霊だけ。
ヘラクレスがセイバーに破れ、アーチャーが影に討たれた今、残されたサーヴァントはキャスターとライダー、アサシンのみ。
その内、二つは間桐のサーヴァントだ。
ならば頼られるのが自分であるのは自明の理であり、影から溢れ出て、黒で染め上げたように真っ黒になってしまったセイバーをどうにかしてほしいというのが真意であることも気付いている。
「分かってるわよ。でも冬木の管理者として、はいそうですかと大人しくしている訳にはいかないの」
「…いつの時代にもいるものね。動きたくなくても動かないといけない立場の人間って」
哀れむように此方を見るキャスター。
「貴方のやり方に口を出すつもりはないわ、でもこれだけ多くの犠牲者が私の管理する街から出てる。
間桐臓硯には今回の件についてしっかり責任を取らせないと他の魔術師に示しがつかない」
凛は嫌々やっている訳ではないのだと毅然として言葉を返した。
「なら、聖杯戦争の参加権を放棄するというのかしら?
貴方の令呪を貰えるのなら考えてもいいけど」
「交換条件というわけね。良いわ、貰って」
キャスターは凛が残した令呪を自分に移す。
抵抗しても無駄だしギアスを結んでもキャスターに掛かればものの数秒で解除させてしまうことを知ってか、驚くほどあっさりと令呪を放棄してしまった。
「キャスター。貴方の役割はあくまでもウルの身の安全を守ることよ。聖杯戦争の後のことを考えているなら遠坂凛に顔を売っておいて損はないと思うわ」
流石にここまでして『はいありがとう。騙されたほうが悪いのよオホホホ』とキャスターが凛を追い返すとは思えなかったが、一応凛のフォローをいれておく。
「そう。別に私のやり方では庇いながら戦うなんて状況は稀でしょうし、いいでしょう。」
どうにか納得して貰い、私たちは打倒セイバー・間桐臓硯に向けて動き出した。