イリヤを救う為なんだ! 作:大いなる犠牲
……が、出来上がったのはやはりアイリスフィールに遠く及ばない失敗作であり、破棄するのも勿体ないのでそれにイリヤとウルエの教育係を命じた。
そのホムンクルスの名をセラという。
それはアイリスフィール様が四次聖杯戦争へと赴かれたばかりの話。
まだ我々アインツベルンが此度の勝利を確信し、ウルエ様が調整の対象にされていなかった頃のことです。
「うぃーたべちゃうぞー」
「きゃー!」
ドタドタと城内を走り回るイリヤお嬢様とウルエお嬢様。
「おやめなさい!」
まだ八歳と二歳のお二人はお転婆が服を着ているようなものでした。
ウルエお嬢様はイリヤお嬢様に比べて落ち着いているようなイメージでしたが、それは好いている衛宮切嗣が素っ気ない態度をしていれば構ってくれるからと打算的な行動だったらしく、衛宮切嗣とアイリ様が城を離れてからの彼女達は朝早く起きては夜遅くまで騒ぎ立て、またよく怪我をして泣かれる困った方々でした。
ある時には階段から転げ落ちるようなこともあり、とても肝を冷やされた記憶があります。
「いいですか。お二人はアインツベルンという由緒正しき貴族の生まれ、故に節度ある態度を心掛け、決して廊下を走ってなどいけません」
「だって、お姉ちゃんが追いかけるんだもん!」
「ウルが逃げるから仕方ないの!」
鋳型から鋳造された私は初めから大人モデルのホムンクルスでしたので、ウルエお嬢様とさして年齢に差はありませんでしたが、精神的にすでに成熟していました。
ですが、どうしてでしょうか。
あの無邪気な二人の前だと震える拳を抑えられないときがあります。アインツベルンのメイドならば感情を表に出すべきではないことは分かっているのですが、あの二人の前だとそれも難しいのです。
「……セラ」
「またですか」
手のかかるウルエお嬢様とイリヤお嬢様。
そんな彼女達ですが、寝る頃になるとそのお転婆さも鳴りを潜め、イリヤお嬢様はスヤスヤと、ウルエお嬢様はお一人で眠ることが出来ないからと私に添い寝を求めます。
アイリ様の劣化品とはいえ同じ鋳型から鋳造された私はあの方と瓜二つであるから、幼いウルエお嬢様は時折見間違えてしまうことがあります。
少し前まで乳飲み子だったウルエお嬢様に親離れを済ませるにはあまりにも早すぎたのです。
それでも姉であるイリヤお嬢様の前では見栄を張って親を恋しがる素振りをみせないのは微笑ましいと申しましょうか。
「…お母様」
その反動からかウルエお嬢様は私の背中に顔を寄せて毎晩のように声を殺して涙を流します。
私はどうやって慰めればいいのやらと手を右往左往させて……そして結局は触れることが出来ずに寝たふりをするのです。
アイリ様の変わりだなんて自分には務まる筈もございませんから。
「衛宮切嗣は我らアインツベルンを裏切った。
十年後の五次聖杯戦争に向けて、二人を聖杯の依り代として調整する」
悪夢の始まりでした。
ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン……アハト翁はある日前触れもなくそう言い放つと、イリヤお嬢様と仲良く遊んでいたウルエお嬢様を引っ張って自らの工房に縛りつけると――強引に彼女の魔術回路を開いたのです。
魔術師にとって、魔術回路を開くと言うのは一世一大の大事です。何せ死を覚悟するほど慎重にならねばならないものなのですら本人の意思は勿論のこと、精神や肉体がある程度成熟し、万が一を考えて補佐役をつけます。
ですが、アハト翁は彼女の回路に無理やり魔力を流し込んで開かせました。
それは未通の女の穴にいきなり腕を差し込むようなものです。
「アアアアアアアアア!!!!!!!!!」
「やめて!ウルが死んじゃう!」
顔を蒼白にさせた私は泣きながらウルエお嬢様に歩み寄ろうとするイリヤお嬢様を押し止めるだけで精一杯でした。
いつもなら窘めるその口も壊れてしまったかのように「そん……あ、うえっ」うわ言を呟くだけです。
「これは、正規品であるイリヤスフィールの完成度を高める為の練習台でしかない」
これほどの苦痛も大義の為ならば仕方ない。
そう飲み込もうとした私の心を打ち砕くようにアハト翁は言いました。
「最悪死んでも構わない」
この光景がまだ地獄の門前に過ぎないとわかった頃、ウルエお嬢様が私に添い寝をねだる事はなくなっていました。
ウルの誕生によりセラが生まれる時期が早まっています。