イリヤを救う為なんだ! 作:大いなる犠牲
暗がりの路地裏。
藤色の髪をした女に向けて剣や槍を覗かせる黄金の波紋。
「醜悪極まったな。
幕切れだ。
それを背後に展開する男の名をギルガメッシュ。
四次聖杯戦争の裏の勝者であり、受肉して現代に生きる英霊だ。
「…………」
女はまるで夢でも見ているかのように恍惚とした笑みを浮かべていた。
ギルガメッシュは不快そうに眉を歪め、そして黄金の波紋に命じて剣や槍を高速で打ち出す。
最後の言葉をくれてやる気などなかった。
もとより裁定を終えているこの女に時間を取る意味はない。
これは、偶然出会った故の些事。ついでだ。
鮮血が舞う。
―――先輩と桜を観たかったな。
今さらそんな事を言っても無駄だってのは分かっている。
この子の腹を満たす為に、
何度も、何度も、影を伸ばして、
数えきれないほどの命を奪った。
金髪の人が放った剣と槍に切り裂かれて内臓はグチャグチャだし、心臓の鼓動は刻々と小さくなっていく……………
…………あれ?
先輩の家で寝ていたのにどうして裸足で外に出ているんだろう。
「フン……死に損なったか…」
新々と降る白い雪が血で真っ赤に染まり、体の感覚は徐々に薄れていく……最悪だ。どうにも助かりそうにないらしい。
料理だってお洗濯だって覚えて、先輩と一緒に生きるんだって決意したのに
「まだ……死にたく……なぃな」
熱い滴が頬を伝い、私の意識は薄れていく。
『――起きて!』
……なんだ?
目を開けた時、傷だらけの桜が如何にも残忍そうな顔つきをした男に見下され怯えていた。
体は動かない。視線も動かせずただ見ている事しか出来ない。まるで意識だけ別の何処かに飛ばされているようだった。
何処かの路地裏、袋小路と思わしき場所で男は腕を上げ瞬間、薄暗かった空間を黄金に染めるほどの光が吹き出す。
ッゥ!?
頭の中を謎と困惑で埋め尽くす。
怯える桜とその元凶と思われる男を見ていたら、男の背後から無数の波紋が浮かび上がり、剣や槍を覗かせるのだ。驚いて当然…これに驚かないのは余程肝の座った奴だけだろう。
「……」
桜は、腰が抜けてしまったのか尻餅をついて僅かに後ずさる。
その武器は桜に向け放たれた。あれ程の速度…ただでさえ魔力が足りないと弱っていた桜は一たまりもない。
『避けろ!』
動かせない体で俺は叫んだ。
けれど、その声は届かないのか桜や男が反応した様子はない。
クソ、何やってんだ俺は。桜を助けないと!
無理やりにでも動こうとしたけどやはり駄目だった。
約束したんだ一緒に、桜を観ようって。
歯軋りして、唇を噛み締める。
セイバーが消えて、凛やイリヤとは袂を別った。
あの男に、俺は桜を守ると誓った。
だが自分は見ていることしか出来ない。
この身は好きな人一人守ることが出来ないのかと、悔しさに涙が溢れた。
『ならその左腕を使って唱えなさい、その言葉を。願いなさない彼女の幸せを!』
その時、知らない誰かの声がした。
左腕が熱い。ドクンドクンとまるで感覚のなかったそれが今では焼けるように熱を帯びている。
――これを使えば桜が助かるのか。
『大丈夫、今の貴方なら使える』
医学に精通した神父と自分なんかより優れた魔術師の二人がこれを使えば死ぬと言った。
けど、この声は問題ないと言うのか。
…いや、
――桜は助かるんだな!
『うん。貴方が願うなら私は貴方の望む力を与えることができる!』
言質は取った。ならば俺が迷う必要はない。
その瞬間理解し難い力が爆発する。
全身の血液が沸騰したように熱を帯び、動かせないように体を固定していた鎖のような枷がぶっ壊れたような錯覚を覚える。
「――
たとえこの身が滅びようと、桜を助けることなら惜しくないと俺は吼え、そして赤い封印を引きちぎった。
桜は薄れ行く意識の中、混濁する『この子』の力と意思が増大するのを感じる。
――ダメ。これ以上誰かを傷つけるなんて。
桜は朦朧としながらも必死に抵抗するが、本能で理解してしまう。これを止めるのは無理だと。目の前の餌を喰らい尽くすことしか考えていないこれを自分は止められない。
男はすでに私が虫の息だと思っているのか、追撃してくる様子はなかった。
むしろ私の死んで行く様を暢気に眺めているようだった。
――どうせ私を殺すなら、ちゃんと殺して欲しかった。
この子は私のぐちゃぐちゃになった体を取り繕う。体が独りでにバタンバタンと打ち上げられた魚のように跳ねて、桜はあぁもう無理だと諦め『この子』に体を任せた。
……しかし、その力が桜の外側に溢れる事はなかった。
「よく頑張ったな」
ぽすんと軽い衝撃が頭の上で弾けた。
恐る恐る目を開けると、あの冷たい目をした男ではない…とても温かな目をした――赤い外套を纏うバンダナを巻いた青年が頭を撫でている。
「ァ……」
じんわりとした青年の体温が頭部から伝い、感覚が舞い戻ったような気がした。
本当はそんなことはありえないのだけれど、お爺様に植えられた
極度の緊張と死を間近に高まった感情。桜の体力はついに限界を迎えて急速な眠気が襲う。
「せん……ぱい」
微睡む意識の中、桜は撫でる青年の腕を掴んだ。
そして、「助けて」
「あぁ、後は俺に任せろ」
少女を優しく地面に寝かせ……振り返るバンダナの青年。
「貴様は何者だ?」
「衛宮士郎…英霊の、紛い物だ」
ウルの起源は聖杯。
士郎の装いは美遊兄イメージです。