イリヤを救う為なんだ! 作:大いなる犠牲
―――アインツベルン城
あれから十年が経った。
第四次聖杯戦争は表向きにはアインツベルン家の勝利となったが、キリツグが私とウルを裏切ったせいで小聖杯は破壊され、アインツベルンの悲願は叶わなかった。
『……ねぇ、おねえちゃん。パパやママはまだかえってこないの?』
例外として六十年周期の聖杯戦争が十年後に開催される。
その事を知ったお爺様は私を最高の器として仕上げる為に、ウルに壊れてもいいなんて…激痛が伴う調整を強要した。
私では失敗が出来ないからと、逆に言えば失敗する前提で嬉々として行う調整だ。素体の兆候をみるためと……麻酔なんてものはないし、まだ二歳になったばかりのウルは喉が枯れるほど泣き叫んだ。
『やめて!ウルがウルが死んじゃう!』
日に日にやつれて、キラキラと輝かせていた瞳に暗くどんよりとしたモノを落としていくウル。私は唯一の肉親が一歩、一歩と死の路線に歩を進めていく地獄のような光景に堪えられず、何度もお爺様に直談判した。その度に決まってお爺様は―――
『全て、衛宮切嗣のせいだ』
そう言って私とウルに言い聞かせる。
お母様が死んだのも、ウルが苦しんでいるのも全部キリツグのせい。
――ギリッ
私の中で何かが変わっていったのはその頃からだ。
「……■■■■■■」
バーサーカー、真名をヘラクレス。ギリシャ神話の大英雄を術式の上にウルは詠唱を開始する。
本当なら、マスター権を得たウルにはイリヤの召喚したヘラクレスに比肩する触媒が用意される筈だった。
だが、アハト翁の手違いでそれは用意に間に合わず、遺憾ながらウルエは触媒のない英霊召喚を行うことになってしまった……が、それは嘘だとイリヤは確信している。
彼はウルが小聖杯として機能することを恐れて、万が一にも彼女がサーヴァントを取り込まないように最弱のクラスであるアサシンを召喚させようとしているのだ。
「大丈夫だよ、ウル」
イリヤは祈るように両手を組み合わせる。
アヴァロンがキリツグにある以上、セイバークラスはあの騎士王で間違いない。
アサシンなんて、マスター殺しぐらいしか出来ない雑魚サーヴァントじゃ、どれだけウルが上手に立ち回っても直ぐに敗退してしまう。私がずっと側に居られれば良かったのだけれど、ウルがマスターとして参加する条件に最低限の接触を除き、イリヤとの不可侵の契約を結ばされていた。
中立にある教会は信用に値しない。そして早期にサーヴァントを失ったウルがどうなってしまうかは想像に難くなかった。
つまり、アハト翁はウルを最初っから使い捨てるつもりだった。
(…そんなことさせないんだから)
サーヴァントを触媒として使うなんて前代未聞だけれど、ウルの召喚にはバーサーカーを使う事にした。
ギリシャの大英雄かつ半人半神。
その血脈に流れる全知全能の血筋を思えば、少なくともアサシンよりも百倍マシな英雄が召喚される筈である。
「――天秤の守り手よ」
ウルの詠唱と共に魔力の突風が吹き荒れてバーサーカーとは別の霊基が浮かび上がる。
「―――サーヴァント、キャスター。召喚に応じ参上いたしました。」
イリヤが恐る恐る目を開けた先には菫色のローブを肩にかける妙齢の女性が膝をうっていた。
「へ、ヘラクレスどうして貴方がここに!!!?」
顔を上げた彼女はウルの背後に佇むバーサーカーを見て悲鳴を上げ、難なくその真名を言い当てたことからバーサーカーに生前に縁あった者に違いないと、イリヤは神話からキャスタークラスとして召喚される英雄を思い浮かべ、その真名に心当たりがあったのか、やって良かったと喜んだ。
「……これで、パパに会いにいける」
そんな言葉を聞かなかった振りをして。